デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治31年7月24日（1898年）

経済界ノ反動猶改ラズ、金融ノ渋滞愈甚シキモ、着着改善ノ実ヲ挙ゲ営業ヲ拡張ス。是日株主総会ヲ開キ、兵庫・伏見各出張所ノ開設其他ニ伴フ定款変更及ビ本店新築費予算ヲ議決ス。栄一議長トシテ議事ヲ司宰ス。

株式会社第一銀行第四期臨時株主総会決議録〔明治三一年七月〕
明治三十一年七月二十四日午後一時ヨリ第四期株主定式総会及株主臨時総会ヲ東京銀行集会所ニ開ク、株主総数千四百弐拾弐名、此株数九万株ノ内、出席者百八拾六名、此株数弐万七千参百参拾五株、委任状ヲ以テ代理ヲ委托シタルモノ六百四拾参名、此株数参万八千八百七拾六株、合計株主八百弐拾九名、此株数六万六千弐拾壱株ナリ
右出席株主ハ午後三時議席ニ就キ、頭取ヨリ明治三十一年上期営業ノ景況ヲ報告シ、同期貸借対照表、財産目録、損益表ハ株主各位ニ配付シタル営業報告書ニ添付シ置キタルニ付、其承認ヲ得タキ旨ヲ告ケ、
一同異議ナキ旨ヲ述フ、依テ左ノ如ク利益分配案ヲ提出シタルニ満場一致原案ノ通可決ス
一金参拾弐万四千六百弐拾八円参銭　　　当期利益金
一金六万弐拾六円八拾八銭　　　　　　　前期繰越金
　合計金参拾八万四千六百五拾四円九拾壱銭
　　内
　金弐万五千九百七拾円　　　　　　　　役員賞与金
　金五万円　　　　　　　　　　　　　　積立金
　金弐万円　　　　　　　　　　　　　　新築費積立金
　金弐拾万弐千五百円　　　　　　　　　配当金百円ニ付四円五十銭年九分
 - 第4巻 p.556 -ページ画像 
　金八万六千百八拾四円九拾壱銭　　　　後季繰越金
右終ツテ臨時総会ヲ開キ、左ノ議題ニ依リ定款変更及新築費予算ノ件ヲ議シタルニ、満場異議ナク悉ク原案ノ通可決ス
一定款第三条中本店ノ場所ヲ左ノ通改正スルコト
　東京市日本橋区兜町二番地
理由　本店家屋改築中同町二番地ヘ仮営業所ヲ設ケ移転シタルニ付、定款第三条ヲ右ノ通改正セントス
一定款第三条中四日市支店ノ場所ヲ左ノ通改正スルコト
　四日市市浜町九拾五番屋敷
理由　同地市制実施ノ為メ、同店ノ戸籍番、右ノ通訂正セラレタルニ付、之ヲ改正セントス
一定款第三条ノ末文「置ク」ヲ「置キ」ニ改メ、左ノ字句ヲ追加スルコト
　出張所ヲ同国京城羅洞、神戸市兵庫鍛冶屋町及山城国紀伊郡伏見町ニ設ク
理由　右ハ従来仁川・神戸・京都三支店ノ行員ヲ派出シテ其事務ヲ取扱ハシメタルモ、近来同地トノ取引追々増加シタルニ付、今回更ニ出張所ヲ設置セントス
一定款第三十五条ヲ左ノ通リ改正スルコト
当銀行ノ損益計算ハ総益金ヨリ諸仕払利息諸経費其他損失及役員賞与金等ヲ引去リ、其残額ヲ純益金トシ、左ノ割合ニ従ヒ積立金ヲ控除シ其残金ヲ株主ニ配当スベシ、但計算ノ都合ニ依リ後期ヘ繰越金ヲナスコトヲ得
一純益金百分ノ十以上　積立金
理由　従前ノ定款ニテハ役員賞与金ヲ純益金ノ内ヨリ引去ルコトニ定メアレトモ、純益金ナルモノハ総益金ノ内ヨリ一切ノ諸費ヲ引去リタルモノナレハ、定款第三十五条ヲ右ノ如ク変更セントス、但シ役員賞与金ハ従前ノ通総益金ノ内ヨリ諸支払利息諸経費其他損失金ヲ引去リタル残額ノ百分ノ八トス
一本店ノ新築費予算決定ノコト
理由　本店家屋改築ノ事ハ予テ第一期株主総会ニ於テ決議シタルヲ以テ、其後製図設計ニ従事シ略其費用ノ概算ヲ得タルニ付、新築費ノ予算額ヲ参拾万円以内ニ決定セントス
右終ツテ現任監査役須藤時一郎、日下義雄両者任期満了ニ付其改選ヲナスヘキ旨ヲ告ゲタルニ、出席株主中岩出惣兵衛、梅謙次郎ノ両氏投票ヲ省略シテ監査役両名トモ重任セラレンコトヲ希望スル旨発言シ、満場異議ナク右ノ動議ヲ賛成シタルニ依リ、監査役両名再任スルコトニ決シタリ
右之通決議候処相違無之候也
　　明治三十一年七月二十五日
　　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　　　　頭取　　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　　　　　　　　取締役　西園寺公成
　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　三井八郎次郎
 - 第4巻 p.557 -ページ画像 
　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　佐々木勇之助
　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　熊谷辰太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　監査役　須藤時一郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　日下義雄

株式会社第一銀行第四期営業報告書　〔明治三一年上期〕
　　　　営業景況
本季間全国商工業ノ情態ハ戦勝余勢ノ結果トシテ続々興起シタル諸会社ノ資本ヲ要スルト、外国米ノ輸入非常ノ巨数ナルトヲ以テ、金融漸次緊蹙ニ赴キ、経済界ノ風雲時トシテ穏ナラサルノ観アリシカ、幸ニ劇変ナキヲ得タリ、而シテ其市場巨擘ナル貨物ノ消長及ヒ聚散ノ景況ハ左ノ如シ
生糸ハ前季ニ於テ非常ノ盛業ヲ占メ、多数ノ輸出ヲ為シ、其残留及ヒ本季ノ入荷モ甚タ多カラサルヲ以テ市場概シテ好価ヲ持シ、通計二万四千九百八拾五梱ノ輸出ヲ為シ、其残留ハ二千八百四拾二梱ニ過キス、紡績糸ハ季初ニ於テ銷售盛ナリシト倶ニ価格モ亦増進セシカ、四五月ノ交ヨリ次第ニ下落シ、販路随テ壅塞セリ、蓋シ現今鍾数ハ無慮一百万本ニシテ、昨年ヨリ大約三割ヲ増加シ、清国ヘノ輸出モ随テ増進セシカ落価以来各工場トモ製糸漸次停滞スルノ跡アリ、木綿織物ハ紡績糸ニ伴ツテ消長シ殊ニ記スベキモノナシ、絹織物ハ輸出ニ盛ニシテ内地需用ハ不活溌ナリシ、米穀ハ次第ニ高価ヲ占メ四五月ノ交ヲ其極度ト為シ、外国米ト相互出入スルノ観アリ、公債証書ハ米穀ト反対ニシテ逐月低落シ、四五月ノ交ニ於テ稍回復セシモ其売買ノ数ハ常ニ稀少ニシテ見ルベキモノナシ
金融ノ繁閑ハ各地商工業ノ情態ニ随ヒ固ヨリ小異同アルヲ免カレストイヘトモ、其大勢ハ季初ヨリ二三月ノ交マテハ甚タシキ繁忙ヲ告ケサリシカ爾後漸次緊急ニ赴キ利息モ随テ逓加シ、五月以後ニ至リテ稍々平静ナルヲ得タリ
商工業ノ景況、金融ノ情態此ノ如キヲ以テ銀行ノ営業ハ一方多少警戒スル所アルト倶ニ、一方ハ大ニ流通ニ勉メサルヘカラサルヲ以テ当銀行ハ大ニ資本ノ操縦ニ注意シ、其措置宜シキヲ得テ利益ハ前年上季ヨリモ優超セシカ、公債証書価格補充ノ為メ六万三千八百余円ヲ支消シタルヲ以テ、利益配当案トシテ提出スル所ハ却テ其額ヲ減少セリ、則各店ノ情況ヲ略叙スルコト左ノ如シ　○下略
　　　　処務要件
○上略
一五月十五日本店改築ニ付兜町二番地仮営業所ヘ移転ス
一同月東京市公債第三回募集額百万円募集ノ取扱ヲ三井銀行及ヒ第三銀行ト共ニ引受ル事ヲ承諾ス
○下略

株式会社第一銀行第五期営業報告書　〔明治三一年下期〕
　　　　処務要件
○上略
 - 第4巻 p.558 -ページ画像 
一同○七月廿七日定款ノ変更ヲ大蔵大臣及東京府知事ヘ開申ス
一八月二十六日伏見町中油掛一番戸ニ於テ出張所開設ニ付、同所区裁判所ノ登記ヲ経テ営業ニ従事ス
一九月一日神戸市兵庫鍛冶屋町五十一番邸ニ於テ出張所開設ニ付、神戸区裁判所ノ登記ヲ経テ営業ニ従事ス
一十月一日韓国政府ノ委托ニ依リ、釜山浦支店ヨリ全羅道木浦開港地ニ出張所ヲ開設シ、海関税ノ取扱ニ従事ス
○下略

株式会社第一銀行第五期臨時株主総会決議録〔明治三二年一月〕
明治三十二年一月二十二日午後一時ヨリ第五期株主定式総会及株主臨時総会ヲ東京銀行集会所ニ開ク、株主総数千四百六拾八名此株数九万株ノ内、出席者百九拾弐名此株数弐万六千五百五拾八株、委任状ヲ以テ代理ヲ委任シタルモノ六百拾名此株数参万四千四拾九株、合計株主八百弐名此株数六万六百七株ナリ
右出席株主ハ午後二時議席ニ就キ、頭取ヨリ明治三十一年下半季営業ノ景況ヲ報告シ、同期貸借対照表、財産目録、損益表ハ株主各位ニ配付シタル営業報告書ニ添付シ置キタルニ付其承認ヲ得タキ旨ヲ告ケ、一同異議ナキ旨ヲ述フ、依テ左ノ如ク利益金分配案ヲ提出シタルニ満場一致原案ノ通可決ス
一金参拾弐万弐百五拾八円五拾九銭　　　当期利益金
一金八万六千百八拾四円九拾壱銭　　　　前期繰越金
　合計金四拾万六千四百四拾参円五拾銭
　　内
　金拾万円　　　　　　　　　　　　　　積立金
　金弐万円　　　　　　　　　　　　　　新築費積立金
　金弐拾万弐千五百円　　　　　　　　　配当金百円ニ付四円五拾銭即年九分
　金八万参千九百四拾参円五拾銭　　　　後期繰越金
右終テ臨時総会ヲ開キ、予テ株主ヘ通知シタル議案ニ依リ定款変更ノ件ヲ議シタルニ満場異議ナク原案ノ通可決ス
一定款第三条中名古屋支店ノ場所ヲ左ノ通改正スルコト
　名古屋市伝馬町三丁目拾参番地
理由　同支店ハ従来名古屋市伝馬町四丁目百三十六番戸ニ設置ノ処、昨年来前記ノ場所ニ於テ営業所新築中ナリシカ、今回愈落成シタルニ付一月三十一日同処ヘ移転セントス
右之通決議候処相違無之候也
　　明治三十二年一月二十三日
　　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　　　　頭取　　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　　　　　　　　取締役　西園寺公成
　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　三井八郎次郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　佐々木勇之助
　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　熊谷辰太郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　監査役　須藤時一郎
 - 第4巻 p.559 -ページ画像 
　　　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　日下義雄

株式会社第一銀行第五期営業報告書　〔明治三一年下期〕
　　　　営業景況
本季間全国商工業ノ情態ハ季初以来大ニ気勢ヲ減シ、已ニシテ又物価ノ低落ヲ予期シテ売買自カラ躊躇シ、九十月ノ交ヨリ微シク起色アリト雖、未タ十分ノ活気ヲ帯ヒス、要之沈静挙ラス裏足進マサルモノト概言スルヲ得ヘシ、而シテ市場ノ巨擘タル二三貨物ノ消長ヲ査スレハ左ノ如シ
生糸ハ入荷ノ数八万二千七百二梱ニシテ輸出合計五万九千八百梱余、内地ノ銷售六千梱余其残留二万二千七百二十九梱ト為ス、之ヲ昨年同季ニ比較スレハ入荷大略一割余ヲ減シテ輸出大略八分ノ二ヲ減シ、残留大略一倍ニ居ルモ亦以テ斯業中盛ノ結果ト称スルニ足レリ、紡績糸ハ前季以来銷售縮退シテ各工場製糸堆積ノ患アルカ為メニ、同業者ノ多数ハ其夜業ヲ廃シテ製造額ヲ減少セムト欲スルノ逆境ニ遭遇シ、季末清国輸出ノ途少シク通スルニ至ルモ、内地ノ需用ハ依然進マスシテ価格モ随テ低下ニ在リ、米穀ハ季初ニ於テハ前季ニ引続キ外国米ノ輸入多数ナリシカ已ニ豊収ノ兆ヲ卜シ、次テ新米漸次市ニ上ルニ方テ輸入米殆ト跡ヲ絶チ、価格ハ日ニ降リ其最高ノ時ニ比シテ大略四割余ノ低価ヲ顕ハセリ、公債証書ハ前季以来政府ノ収買多数ニシテ其価格ヲ保持セシカ、十月上旬収買ヲ止ムルニ及ヒ価格徐々低下ヲ示シ、後又小高低アルニ至レリ
金融ハ公債収買ト制限外兌換券発行ノ操縦トヲ以テ始終劇変ヲ生セスシテ経過セリ、今之ヲ大別スレハ則季初ハ前季ヨリ稍々緩ニシテ、銀行ノ諸預金ハ大ニ増殖シ、八月下旬ハ旧節季ニ際シテ少シク動揺シ、九月ハ納租及ヒ生糸ノ資金ヲ要スルカ為メニ小緊ニ属シ、十月ハ中央銀行利息ヲ引下タルモ尚緩舒ニ赴カス、十一月ハ少シク緩ニ属シ、十二月ハ再ヒ中央銀行ノ利息引下アリテ多少緩慢ニ属スル所アリ
以上述フル所ハ商工業ノ大要、金融界中心ノ概略ニシテ、各地方生産商業ノ情態ニ至テハ固ヨリ小差ナシトセス、而シテ当銀行本支店ノ営業諸項ハ得失一ナラス、消長各異ナリト雖其綜合ニ於テ幸ニ予算ヲ謬ラサルノミナラス、前年下季ノ結果ニ遜ラサルヲ得タリ、因テ各店ノ景況ヲ略叙スルコト左ノ如シ　○下略

渋沢栄一　日記　明治三二年
一月廿二日
午後一時銀行集会所ニ於テ第一銀行株主総会ヲ開ク、三時散会、浜町岡田屋ニ於テ行員二十有余人ト共ニ開宴ス

竜門雑誌　第一二三号・第四三―四四頁　〔明治三一年八月〕
　　　　第一銀行各地支店長会議
第一銀行各地支店支配人は去七月廿四日の総会並に支店長会議列席の為め上京したる由にて、支店長会議は総会結了後に於て開会し、本年
 - 第4巻 p.560 -ページ画像 
上半季間営業顛末の報告及下半季の営業に対する意見を諮問せられたりと云ふ、其招集に応じて上京したる人は左の諸氏なりといふ
　長谷川一彦（横浜支店支配人）　　　　　　田中元三郎（大阪神戸両支店代表）
　中川和一《（中川知一）》（京都支店支配人）　松井吉太郎（新潟支店支配人）
　湯浅徳次郎（名古屋支店支配人）　　　　　荒井栄蔵（四日市支店支配人）
　西脇長太郎（仁川支店支配人）
又大阪支店支配人熊谷辰太郎氏は病気の為め、神戸支店支配人藤井晋作氏は倉庫会社事件にて、其他釜山浦支店支配人尾高次郎、京城出張所主任佐々木清麿の両氏等は何れも今回は上京せられざりしと云ふ