デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
1節 銀行
1款 第一国立銀行 株式会社第一銀行
■綱文

第4巻 p.620-630(DK040067k) ページ画像

明治36年7月27日(1903年)

是日株主総会ヲ開クニ当リ、従来ノ慣習ヲ改メ、予メ貸借対照表・損益計算書・利益金分配等ノ諸計数ヲ株主ニ通知スルコトヽナス。


■資料

竜門雑誌 第一八二号・第三五―三七頁〔明治三六年七月〕 ○第一銀行半期決算総会通知法の改正(DK040067k-0001)
第4巻 p.620-622 ページ画像

竜門雑誌 第一八二号・第三五―三七頁〔明治三六年七月〕
○第一銀行半期決算総会通知法の改正 先年株式会社の総会招集の場合に於て株主に向ひ発すべき通知状に関し商法第百五十六条に「通知には総会の目的及総会に於て決議すべき事項を記載することを要す」とある此条文の解釈を異にし、同条の趣旨は従来多くの株式会社が慣用せる如く単に「第何期営業報告の件」「第何期利益分配の件」と云ふか如き記載のみを以て足れりとせず更に計数上の内容をも同時に記載して通知するを要すとの議論を生じ、遂に大審院の判決迄見るに至りたるが、今回第一銀行にては右法律上の解釈は暫く別問題とし、既に欧米に於ては銀行会社自ら自己の信用を保持し基礎の鞏固を計るがため予め通知状に資産負債の計算損益勘定利益分配等の計数を記載して総会前に予め会社営業の状況利益の消長を悉知せしむるの方法を採り之を商習慣として皆実行し居れるのみならず、之を会社及株主の利便より考ふるも会社は株主をして総会に先ち計算上の詳細を知らしめ予め会社営業の状況に就き考慮を為さしむるの余日を与ふるは会社事業に対する株主の留意を愈々深からしめ基礎を鞏固にする所以に外ならず、而して之がため別段弊害の生すべき筈なく双方の便宜を益々増大せしむるに在るを以て、従来の通知方法を全然改正し、本月廿七日に開会さるゝ総会に対する通知として左の如き通知状を発せり、此ことたる従来の通知法を全然変更し新例を示すものにて他の銀行会社の摸範とも称すべき者なれば、参考の為通知状全部を左に掲ぐ
 拝啓本月廿七日(月曜日)午後一時より東京市日本橋区坂本町東京銀行集会所に於て左記の目的及事項に付株主総会相開き候間御出席相成度、営業報告、株主姓名表相添、此段御通知申上候也
  明治三十六年七月    東京市日本橋区兜町
               株式会社第一銀行
                 頭取 渋沢栄一
  総会の目的及事項
    半期決算書類の承認及利益金分配の件
一、明治三十六年一月一日より同六月三十日に至る第十四期決算書類
 - 第4巻 p.621 -ページ画像 
の承認
一、右御承認の上は別紙貸借対照表、損益計算書及利益金勘定に依り当半季利益金を役員賞与行員恩給基金積立金配当金及後半期繰込金の各項に分配するの決議
    監査役選挙の件
一、監査役日下義雄は任期満了に付其改撰を為し同須藤時一郎は本年四月十五日死去に付其補欠選挙を為す事
   株式会社第一銀行第十四期自明治卅六年一月一日至同年六月卅日営業報告
本期間に於ける金融は昨年以来経済界の不振に伴ひ緩慢を極め資金の需要起らず預金頻りに増加し貸出日歩低落し十分の利益を収むる能はざりしと雖も、幸に例年の如く九歩の配当を為すを得るに至れるは亦以て相当の結果を得たるものと云ふべし
一、二月二日韓国京城出張所を支店と改め三月二日韓国鎮南浦及群山の両地に出張所を開設せり
一、監査役須藤時一郎君大阪支店支配人長谷川一彦君は多年当銀行の為め勤労せられたるか一朝病を以て四月中卒去せられたるは痛嘆の至りに堪へす、因て当銀行は哀悼の情を表し且其功労に酬ゆるか為め金員を各遺族に贈与せり、而して須藤監査役の補欠選挙は当季総会に於て為すべきことを株主各位に通知し、大阪支店支配人は取締役熊谷辰太郎君に任命せり
    株式会社第一銀行第十四期(明治三十六年六月三十日)
    貸借対照表

図表を画像で表示貸借対照表

     資産                     負債                    円                       円  定期貸      三、四〇七、六一五・七六   定期預金     七、六〇五、五二七・六七  通知貸        五〇〇、〇〇〇・〇〇   当座預金    一三、九五八、六三六・〇六  当座勘定貸越   二、一〇三、四七六・六八   特別当座預金   五、五二七、二四四・六七  割引手形    二〇、六〇二、六七八・六五   諸預金      一、六五五、五〇一・二二  荷為替手形      五六二、三七四・四二   仕払送金為替手形    三七、九九七・九三  国債及地方債証券 二、九二八、〇七三・五〇   紙幣消却残借用金    六〇、〇〇〇・〇〇  株券及社債券     八四八、三三二・〇〇   銀行券流通高     五八〇、三一八・〇〇  他店へ貸     一、二二五、八一三・〇九   他店より借    一、〇〇八、一八一・七一  営業用地所建物    八一六、四四二・〇二   資本金      五、〇〇〇、〇〇〇・〇〇  営業用什器       三五、四七七・六〇   積立金      一、二〇〇、〇〇〇・〇〇  新築費         一八、二〇八・五〇   支払未済配当金        九六三・二一  地金銀        一二九、二四六・〇〇   前半期繰越金     一二二、〇七五・四五  預け金        二六一、四九二・八八   当半期純益金     二八六、五八〇・三八  金銀有高     三、六〇三、七九五・二〇   合計     三七、〇四三、〇二六・三〇   合計     三七、〇四三、〇二六・三〇 



     株式会社第一銀行第十四期(明治三十六年六月三十日)
    損益計算書

図表を画像で表示損益計算書

     利益                      損失                   円                        円  割引料       七二〇、二一八・九一   利息        四〇五、一一一・四五  手数料        四一、六八五・五六   給料         八六、三四五・二四  公債及社債利息   一三六、六六二・二九   旅費         一〇、〇七二・一五  公債的籤益       四、五四三・七五   諸税         二八、六六四・七六  交換打歩          一五六・九〇   営繕費         五、五三〇・〇三  雑益          五、〇二三・八二   雑費         七四、〇八二・二七  以下p.622 ページ画像   前半期繰越金    一二二、〇七五・四五   雑損         一一、九〇四・九五                         当半季純益金    四〇八、六五五・八三   合計     一、〇三〇、三六六・六八   合計     一、〇三〇、三六六・六八 



右貸借対照表及損益計算書其他総会に提出する書類は調査を遂け其正確なるを保証候也 監査役 日下義雄
    当半期利益金分配
一金二十八万六千五百八十円三十八銭   当半季純益金
一金十二万二千七十五円四十五銭     前半季繰越金
 合計金四十万八千六百五十五円八十三銭
  内
 金八千五百九十七円          役員賞与及行員恩給基金
 金五万円               積立金
 金二十二万五千円           配当金一株に付金二円廿五銭即年九分の割
 金十二万五千五十八円八十三銭     後半期繰込金


竜門雑誌 第一八三号・第三八―三九頁〔明治三六年八月〕 ○第一銀行総会(DK040067k-0002)
第4巻 p.622-623 ページ画像

竜門雑誌 第一八三号・第三八―三九頁〔明治三六年八月〕
○第一銀行総会 同行にては予定の如く去七月二十七日午後一時より東京銀行集会所に定時総会を開き、頭取たる青淵先生会長席に着き挨拶の後、同行の営業状況及経済界の現況に就き、左の如き演説を為せり
 本行第十四回の定時総会を開くに当り本行営業の概況と経済界一般の現況とに関し聊か卑見を開陳し株主諸君の清聴を煩さんとす
 本行営業の大要は既に総会の通知と共に諸君の手許に呈し置きたれば其概況は知了せられたりと信ず、従来本行の決算は総会間際に於て諸君に報告する所ありしが、此ことに関しては一切の計算を総会の通知と共に諸君に知らしめ、而して後総会席上に於て配当案の決議を請ふを以て法律の命ずる所又当行の取扱上将に執るべきの順序なりと信じたれば、即ち本期よりは従前の慣習を改め予め諸計算を諸君に逓送することゝ為せり
 本年上半季の経済界に対する概況を述ふれば、外国貿易は続いて好況を呈し輸出一億二千五百万円輸入一億六千六百万円合計二億九千百万円にして差引輸入の超過は四千三十万円に及び昨年上半季に比すれば輸出入共に増加し合計に於て四千八百万円を増進せり、而して輸出の増加せるは綿糸、生糸、銅、茶、石炭等を主とし、特に綿糸は前年に比し五百四十万円を増加したり、唯昨年米穀の不作なりしがため其結果輸出に於て三百万円を減じ輸入に於て三千三百万円を増加したるは聊か喜ぶべき現象にはあらざるも是れ畢竟天災の結果已むを得ざることにして、此の一事を除きては我外国貿易は大躰上其進歩良好の状態にありと云ふを得べきなり、而して又本行の営業上特別の関係を有する朝鮮と我国との貿易は年と共に増進し昨年に於ては大約輸出一千万円輸入八百万円にして之を五年前に比すれば双方とも倍数を増加し、更に本年上半季には輸出入合計千六十万円に至り昨年上半季に比し四百三十万円を増加したり又以て発達の跡顕著なるを知るに足るべし、次に金融界の状勢を述ぶれは日本銀
 - 第4巻 p.623 -ページ画像 
行兌換券は昨年末に於て二億三千万円なりしが本年に入りて漸次縮少し二億円台を昇降し遂に一億九千万円に下れり、之と同時に金利は全国各地とも低落し日本銀行の如き三月に入りて更に金利引下を行ひたるも資金の需要は依然として惹起せられざりき、唯此際金融界に聊か注目を惹くの状態を示せるは各会社の社債募集多きを加へたるの一事なり、上半季間に社債の募集せられたるもの主たるものにて一千六百余万円に及びたり、然れども是れ金融緩慢の結果従来の社債若くは借入金を振替へたるもの多く従つて之れが為め殆ど金融界に繁忙を呈するが如きことなかりき
 次に本行営業成績の大要を陳述すれば、各本支店を併せ預金は二千八百万円貸出金は二千七百万円に登り前年上半季に比し預金百万円貸出金三十万円を増加せり、之を第一期(即ち国立銀行より私立銀行となりたる時)に比すれば、預金千二百万円貸出金千四百万円を増加し殆と二倍の増進を見るに至れり
 又昨年韓国に於て発行したる本行銀行券は発行以来漸次好況に向ひつゝあり、唯一時韓国民の誤解を来したるため本年二月不意の取付に遇ひたるも安全に支払を為したるを以て却て南部に於ては流通高を増加し季末には六十万円余の流通を見たり、蓋し本銀行券の発行に関しては右の如く誤解等より本行に取り迷惑を感する場合ありしも政府に於ても深く注意を為し又本行支店に勤務せる者も綿密なる注意を施し居れば別に故障を見ることなく特に準備等も十分に備へ置けるを以て今後何等の憂ふべきことなきを信ず、従つて将来同券を韓国市場の流通紙幣たらしむるは期して待つべきを信じて疑はざるなり云々
右終るや引続き先生より本年上半季諸報告の承認を求め満場異議なく之れを可決し、次て利益金分配案の承認を求めたるに是亦異議なく原案を可決し、引続き臨時総会に移り、監査役日下義雄氏の任期満了改選、前監査役故須藤時一郎氏の補欠選挙を行ひ、満場異議なく渋沢頭取の指名を希望したれば、同頭取は日下義雄氏は重任、須藤氏の補欠には土岐僙氏を推選したき旨を告げ満場異議なく之を是認し、之にて当日の総会を終り、午後二時三十分散会せり


株式会社第一銀行第十四期定時総会決議録〔明治三六年七月〕(DK040067k-0003)
第4巻 p.623-624 ページ画像

株式会社第一銀行第十四期定時総会決議録〔明治三六年七月〕
明治参拾六年七月廿七日午後一時ヨリ株式定時総会ヲ東京銀行集会所ニ開ク、株主総数千五百六拾七名此株数拾万株ノ内、出席株主百五拾弐名此株数壱万七千七百参拾八株、委任状ヲ以テ代理ヲ委托シタル者拾四名此株数六千参百五拾四株、合計株主百六拾六名此株数弐万四千九拾弐株ナリ
右出席株主ハ午後二時十分議席ニ就キ、頭取ヨリ、従来株主各位ニ配付シタル営業報告書ハ当期ヨリ之ヲ廃シ、総会前ニ於テ貸借対照表・損益計算書・利益金分配案ヲ添ヘテ招集ノ通知ヲ為スコトニ改メタルコトヲ述ヘ、夫ヨリ本年上半季営業ノ景況ヲ報告シ、玆ニ提出シタル同期貸借対照表・財産目録及損益計算書ノ承認ヲ得タキ旨ヲ告ケ、一同異議ナキ旨ヲ述フ、依テ左ノ如ク分配案ヲ提議シタルニ満場一致原
 - 第4巻 p.624 -ページ画像 
按ノ通リ可決セリ
一金弐拾八万六千五百八拾円参拾八銭   当半季利益金
一金拾弐万弐千七拾五円四拾五銭     前半季繰越金
 合計金四拾万八千六百五拾五円八拾参銭
  内
 金八千五百九拾七円          役員賞与及恩給基金
 金五万円               積立金
 金弐拾弐万五千円           配当金壱株ニ付金弐円弐拾五銭即年九分ノ割
 金拾弐万五千五拾八円八拾参銭     後半季繰込金
右終テ監査役日下義雄氏ノ任期満了、及故須藤時一郎氏補欠ノ為メ二名ノ監査役ヲ選挙スヘキ旨ヲ告ケタルニ、出席株主浜政弘氏投票ヲ省略シテ一名ハ日下義雄氏ニ重任ヲ請ヒ、一名ハ頭取ノ指名ニ一任シタキ旨ヲ述ヘ、満場異議ナク右ノ動議ヲ賛成シタルニ依リ、頭取ハ故須藤時一郎氏ノ補欠トシテ土岐僙氏ヲ指名シ、株主一同ノ承諾ヲ得、日下土岐両氏トモ上任ヲ承諾シタリ、右終テ二時三十分散会セリ
右之通リ決議候処相違無之候也
 明治参拾六年七月廿七日
              株式会社第一銀行
                頭取   渋沢栄一
                取締役  西園寺公成
                同    三井八郎次郎
                同    佐々木勇之助
                同    熊谷辰太郎
                監査役  日下義雄
                同    土岐僙


第一銀行五十年史稿 巻五・第二三―二八頁(DK040067k-0004)
第4巻 p.624-625 ページ画像

第一銀行五十年史稿 巻五・第二三―二八頁
    第二節 行務の改善及其発達
明治二十九年本行が其組織を改めて新に営業を開始するや、之に伴ひて定款を改正すると共に、また諸内規をも改正制定せる事多かりき。定款は便宜之を前章に掲載せしが、三十二年新商法の実施せらるゝに及び、修正の必要起りたれば、七月三日の臨時総会の決議を経て再び之を改正し、三十八年韓国中央金融機関の任に就くや、五月三日○二十日ノ誤カの総主総会《(株)》に於て三たび定款を改正せり。諸内規に於ては、二十九年九月に申合規則・慰労金給与規則・役員身元引受証書及誓約書の様式、十月に役員積立金規則・海外在勤手当及旅費支給表、三十五年四月支店会規則・旅費支給規則等を制定又は改正せり、而して二十九年九月○五月ノ誤カ制定の定款に始めて監査役の職掌を規定して、「監査役は当銀行の業務を監視し、諸計算書及利益金分配案等を検査し、必要と認むるときは総会を招集することを得」となし、同時制定の申合規則にも「監査役は法律及定款に拠り、当銀行の業務を監視し、諸計算を検査す、監査役中より一名を選びて常務監査役とす、常務監査役は日常の行務を監査す」となせり、此時其任に就きたるは須藤時一郎・日下義雄なりき。本行は嘗て国立銀行たりし時、早く業務監査の必要を
 - 第4巻 p.625 -ページ画像 
感じ、取締役の互選を以て監督を置きたるが、株主の選挙せる監査役は実に玆に始まれり。
更に営業上の施設を考ふるに、明治二十九年十月担保諸証券取扱準則を制定し、諸貸出金の担保として受取るべき有価証券取扱の標準を設け、又本支店を通じて担保に充つべき株券を限定せしが、三十年十月新に通知預の制を設け、其証書式を定め、十一月東京銀行集会所の決議に基きて諸勘定厘位以下切捨の計算に改定せり、また三十一年五月には市外当座勘定取引約定書の書式を、九月には為替取引約定書の書式を改めて従来の不備を補ひ、三十五年七月更に半季決算書類調製の方法を釐革し、正確と明諒とを期せるなど、皆本行努力の一斑を示すものなり。かくて三十六年に及びて、株主総会開催の通知状に一大変革を加へたり、抑々株式会社の総会召集の際、株主に発する通知状につきては、商法第百五十六条に「通知には総会の目的及び総会に於て決議すべき事項を記載することを要す」と規定せるがゆゑに、従来各株式会社はたヾ単に「第何期営業報告の件第何期利益金分配の件」など記せるのみ、いまだ嘗て其内容に触れず、然るに欧米諸国にては通知状に資産負債の計算、損益勘定、利益金分配等の計数を記載するの商習慣あり、又之を銀行会社及び株主の利便より考ふるも、銀行会社は株主をして総会の以前に計算上の詳細を知らしめ、以て予め考慮の時日を与へ、株主の注意を深くすると共に、銀行会社自らの信用を保持する所以にして、且之が為に弊害を生ずるの恐なきがゆゑに、本行は同年七月廿七日に開くべき総会の通知状に於て、始めて処務上の諸件並に貸借対照表・損益計算書・利益金分配等の計数をも記載せり、是れ総会通知状に一新例を開きたるものにして、亦他に模範を示せるものなり、爾来之に倣ふもの多し。又本行が株主を勧誘して其所有株券を預入せしめ、所謂保護預りを開始せるは、既に明治六年に在り、然れども其制いまだ備はらざりしに、本店改築の際、倫敦の金庫製造業として著名なるチヤツプ会社の別製に係る安全保護函を、行内の地下室に建設して、安全保護函貸与規定を設け、三十七年七月一日より有価証券金銀宝石其他貴重品の保護預りを開始せり、保護預りの制此に至りて完備せり。此年九月また特別当座預金残額五十円以下のものに対して、全然利子を附せざることを決定施行せり。
本行は満期継続の際、かねて日本銀行と締結せるコルレスポンデンスは、爾後も引つヾきて取引すべきことを約定書に規定調印せしが、其後三十八年十二月に至り、更に下ノ関支店との間に当座貸越約定を締結せり、また此前後において東京市公債・新潟県土木公債・神戸水道公債の募集取扱を為し、大蔵省証券五十万円をも引受け、更に日露戦役の起るに及びては、日本銀行の嘱託により、第一回乃至第五回の国庫債券の募集に力を致せり、三十三年四月には東宮御慶事奉祝会より八月には同気倶楽部より、共に募集金取扱の依頼を受けたり。
○下略



〔参考〕株式会社第一銀行第十五期営業報告〔明治三六年下期〕(DK040067k-0005)
第4巻 p.625-626 ページ画像

株式会社第一銀行第十五期営業報告〔明治三六年下期〕
 - 第4巻 p.626 -ページ画像 
    営業報告
本季間ニ於ケル商工業ハ前季ノ情勢ヲ受ケテ不振ヲ極メ、米穀ハ平年ニ比シテ豊作ナリシモ、日露問題久シキニ渉リテ解決セサルカ為メ経済界ハ一般ニ退縮シ、金融閑慢ニシテ金利随テ低落セリ、然レトモ当銀行ハ幸ニシテ営業ノ諸項増進シ資金ノ運用其宜シキヲ得タルヲ以テ利益金三十五万余円ヲ収ムルヲ得タリ


〔参考〕株式会社第一銀行第十五期株主総会決議録〔明治三七年一月〕(DK040067k-0006)
第4巻 p.626 ページ画像

株式会社第一銀行第十五期株主総会決議録〔明治三七年一月〕
    第拾五期株主定時総会決議録
明治参拾七年壱月弐拾八日午後一時ヨリ株主定時総会ヲ東京銀行集会所ニ開ク、株主総数千五百五拾弐名此株数拾万株ノ内、出席株主八拾九名此株数九千四百六拾株、委任状ヲ以テ代理ヲ委托シタル者五拾四名此株数壱万七千五百八拾参株、合計株主百四拾参名此株数弐万七千四拾参株ナリ
右出席株主ハ午後一時四十分議席ニ就キ、取締役西園寺公成ハ頭取渋沢栄一病気ニ付取締役佐々木勇之助代テ報告ヲ為スヘキ旨ヲ告ケ、同人ヨリ昨年下半季ニ於ケル営業ノ景況ヲ報告シ、玆ニ提出シタル同期貸借対照表・損益計算書及財産目録ノ承認ヲ得タキ旨ヲ告ケ、一同異議ナキ旨ヲ述ブ、依テ左ノ如ク利益金分配案ヲ提議シタルニ満場一致原案ノ通リ可決セリ
一金参拾五万弐千弐百弐拾円拾八銭    当半季利益金
一金拾弐万五千五拾八円八拾参銭     前半季繰越金
 合計金四拾七万七千弐百七拾九円壱銭
  内
 金壱万五百六拾円           役員賞与及行員恩給基金
 金拾万円               積立金
 金弐拾弐万五千円           配当金壱株ニ付金弐円弐拾五銭即年九分ノ割
 金拾四万壱千七百拾九円壱銭      後半季繰込金
右終テ午後一時五十分散会セリ
右ノ通リ決議候処相違無之候也
  明治三十七年壱月弐拾八日
              株式会社第一銀行
               取締役頭取 渋沢栄一
               取締役   西園寺公成
               同     三井八郎次郎
               同     佐々木勇之助
               同     熊谷辰太郎
               監査役   日下義雄
               同     土岐僙


〔参考〕株式会社第一銀行第十六期営業報告〔明治三七年上期〕(DK040067k-0007)
第4巻 p.626-627 ページ画像

株式会社第一銀行第十六期営業報告〔明治三七年上期〕
本季間ノ商況ハ前年ヨリ引続キ一般ニ銷沈シ二月ニ至リ 宣戦ヲ公布セラルヽニ及ヒ商工業者ハ一層警戒ヲ加ヘ金融甚タ緩慢トナレリ、此間政府ハ軍事費ノ為メニ増税ヲ行ヒ且内外ニ国債ヲ募集シ非常ノ好成
 - 第4巻 p.627 -ページ画像 
蹟ヲ挙ケラレシハ国家ノ為メ慶賀スルトコロナリ、此千古未曾有ノ時ニ際シ当銀行ハ韓国各地ニ支店出張所ヲ有スルヲ以テ、軍隊其他ノ為メニ為替送金等ノ用ヲ弁シ且中央金庫ノ事務ヲ代理シ、軍用手票引換ノ為メニハ特ニ平壌安東県ニ臨時出張員ヲ派出シ、而シテ内地本支店ニ於テハ資金ノ運用其宜ヲ得タルノ結果、金四拾万八千余円ノ純益ヲ収ムルニ至リタルハ株主各位ト共ニ満足スル所ナリ


〔参考〕株式会社第一銀行第十六期株主総会決議録〔明治三七年七月〕(DK040067k-0008)
第4巻 p.627 ページ画像

株式会社第一銀行第十六期株主総会決議録〔明治三七年七月〕
    第拾六期株主定時総会決議録
明治参拾七年七月弐拾八日午後一時ヨリ株主定時総会ヲ東京銀行集会所ニ開ク、株主総数千五百六拾壱名此株数拾万株ノ内、出席株主百五名此株数壱万千八百九拾八株、委任状ヲ以テ代理ヲ委托シタル者百弐拾参名此株数弐万千参百七拾五株、合計株主弐百弐拾八名此株数参万千弐百七拾参株ナリ
右出席株主ハ午後一時五十分議席ニ就キ、取締役西園寺公成ハ頭取渋沢栄一病気ニ付取締役佐々木勇之助代テ報告ヲ為スヘキ旨ヲ告ケ、同人ヨリ本年上半季ニ於ケル営業ノ景況ヲ報告シ、玆ニ提出シタル同期貸借対照表・損益計算書及財産目録ノ承認ヲ得タキ旨ヲ告ケ、一同異議ナキ旨ヲ述フ、依テ左ノ如ク利益金分配案ヲ提議シタルニ満場一致原按ノ通リ可決セリ
一金四拾万八千参拾六円六拾七銭     当半季利益金
一金拾四万千七百拾九円壱銭       前半季繰越金
 合計金五拾四万九千七百五拾五円六拾八銭
  内
 金壱万弐千弐百四拾円         役員賞与及行員恩給基金
 金拾五万円              積立金
 金弐拾弐万五千円           配当金壱株ニ付金弐円弐拾五銭即チ年九分ノ割
 金拾六万弐千五百拾五円六拾八銭    後半季繰込金
右終テ監査役日下義雄土岐僙ノ両氏任期満了ニ付其改選ヲナスヘキ旨ヲ告ケタルニ満場一致日下土岐両氏ノ重任ヲ請ヒ、右両氏トモ其上任ヲ承諾シタリ、右終テ二時散会セリ
右ノ通リ決議候処相違無之候也
  明治三十七年七月弐拾八日
              株式会社第一銀行
               取締役頭取 渋沢栄一
               取締役   西園寺公成
               同     三井八郎次郎
               同     佐々木勇之助
               同     熊谷辰太郎
               監査役   日下義雄
               同     土岐横[土岐僙]


〔参考〕竜門雑誌 ○第一九四号・第二八頁〔明治三七年七月〕 第一銀行の安全保護函(DK040067k-0009)
第4巻 p.627-628 ページ画像

竜門雑誌
  ○第一九四号・第二八頁〔明治三七年七月〕
 - 第4巻 p.628 -ページ画像 
○第一銀行の安全保護函 第一銀行にては今回有名なる倫敦の金庫製造業「チヤツプ」会社の別製に係る安全保護函を行内地下室に建設し本月一日より有価証券其他貴重品の保護預りを開始せり、其規定の要領左の如し
 一第一銀行の建築は堅固質実を旨としたる石造にして、安全保護函(セーフデポジツト)は特に厚層なる石壁と鉄扉にて構造したる地下室に建設せるを以て極めて堅牢なり
 一安全保護函は有名なる倫敦金庫製造業「チヤツプ」会社の別製に係り毎夜巡視に警戒せしむるを以て極て安全なり
 一安全保護函は相当の借函料を収めて銀行より之を貸渡すものにして、毎函二個の鍵を有し銀行にて立合を為し本人の外開閉することを得さる仕組なるを以て、貴重の物品を保管するには極めて安全なり
 一公債株券其他の有価証券は勿論契約書、諸証書、遺言書、宝玉、古金銀等貴重なる財産を保管するには至極便利なり
 一各会社の監査役か商法の規定に依り取締役より供託を受けたる株券を保管し又は各種契約の保証品等を供託する場合には至極便利なり
 一一ケ月乃至二ケ月と雖も得意先の紹介ある時は営業時間中何時にても貸渡すへきを以て当地滞留中の旅客にして貴重なる物件を保管せらるゝ場合には至極便利なり
 一安全保護函を装置せる庫中には換風器及電灯を設け扣へ室には卓子其他の用具を備へたるを以て、物品の点検其他の用務を弁せらるゝには至極便利なり
 一安全保護函の外当銀行の金庫に於て披封又は封緘の保護預を為し有価証券又は貴重品の保管を為すを以て其取扱を委托せんとする方は本店証券掛へ申込まるべし

〔参考〕竜門雑誌 ○第一九六号・第一―三頁〔明治三七年九月〕 第一銀行安全保護函 西脇長太郎(DK040067k-0010)
第4巻 p.628-630 ページ画像

  ○第一九六号・第一―三頁〔明治三七年九月〕
  第一銀行安全保護函         西脇長太郎
   本編は西脇氏の談話を筆記せるものなり
堅牢なる保管設備を有する会社等に有価証券其他貴重品の特別保護を託することは夙に欧米に於て行はれしも、我国に於ては従来斯る設備もなければ斯る風習もなく、珍器名宝悉く之を個人々々に蔵せしかば時に水火の災あり時に盗難あり或は紛失し或は散逸して損耗を被むること尠なからず、然れとも若し之を特別保管の下に置き堅牢なる庫中に託せんには是等の災厄を免るゝのみならす自ら之を保管するの労費を省き得て頗る安全便利なるべきなり、従て我国に於ても昨今漸次此設備成り、曩に日本興業銀行は信託倉庫を設けられしが、我第一銀行に於ても亦其設備を為し、去る七月一日より特別保護預の制を設けて有価証券、金銀、宝石其他貴重品の保管を為すことゝせり
先づ第一銀行安全保護函構造の概要を述べんに、安全保護函の設置されたる場所は厚層なる石壁を有する地下室にして二重の鉄扉あり、第一の鉄扉を排すれば中に一室ありて卓子其他の用具を備へ以て物品の点撿其他の用便に供し、控室に隣して安全保護函を装置せる倉庫あり
 - 第4巻 p.629 -ページ画像 
第二の鉄扉を以て相通す、倉庫は無窓にして中に換風器と電灯の装置あり、庫中の一端に一大鉄函ありて五十六に小劃せられ其基脚は空虚にして湿潤を防き、又小区劃は各鉄扉を有し中に木製の内函を蔵む、内函は長二尺、幅一尺、深五寸許りにして外函の鉄扉には各二個の連絡鍵を有し二個の鍵を併用するに非ざれば開閉すること能はざる仕組にして其一個は銀行の手許に保存し何れの函にも之を用ひ得べきも借受主に於て保管すべき他の一個は各函各相異なり一を以て他の用に供すべからず、各々暗号番号を有し銀行の元帳に照すに非ざれば何れの函の鍵なるや容易に覚り得べからず、是れ安全保護函構造の大要なり而して銀行は毎夜巡視をして警戒懈ることなし
安全保護函に保管さるへき物品及其借函料の詳細は次に示す所の貸与規定に依り明なるべし、其規定左の如し
    安全保護函貸与規定《セーフデポジツト》
 一当銀行ハ得意先ノ申込又ハ其紹介ニ依リテ堅固ニ建設シタル安全保護函ヲ貸与スヘシ
 一安全保護函ハ毎函弐個ノ鍵ヲ有シ一個ハ当銀行ニ於テ所持シ他ノ一個ハ借受主ニ於テ保管セラルヘシ
 一安全保護函ノ番号ハ堅ク借受主ニ於テ秘シ置キ決シテ他人ニ洩スヘカラス
 一安全保護函ヲ開閉スルトキハ営業時間中必ズ借受主保管ノ鍵ヲ持参シ掛リ員ノ問ニ対シテ自身ノ借受タル函ノ番号ヲ答ヘ然ル後当銀行ノ主任者立合ノ上之ヲ開閉スヘシ
  但シ借受主ノ答ヘタル函ノ番号当方ノ元帳ニ符号セサルトキハ其函ヲ開クコトヲ得ス
 一安全保護函ノ中ニ保管セラルヽモノハ借受主ノ自由ナレトモ有価証券古金銀宝玉其他各種ノ証書類等変質変形ノ虞ナキモノニ限ルヘシ
  但シ都合ニ依リ当銀行ノ主任者開閉ノ際査閲スルコトアルヘシ
 一安全保護函ニ入レタル物品カ変質シ若クハ其作用ニ依リ他ニ損害ヲ及シタルトキハ之ヲ賠償セラルヘシ
 一天災地変其他非常避クヘカラサル災害ニ依リ函中ニ納メタル物品ニ損害ヲ及シタルトキハ当銀行ハ賠償ノ責ニ任セス
 一借函料ハ左ノ割合ニ依リ借受ノ際前払セラルヘシ
   六ケ月以下   一ケ月一個ニ付  壱円弐拾銭
   六ケ月間    一個ニ付     六円
   一ケ年間    同        拾円
  但借受又ハ返戻ノ月ハ総テ一ケ月ヲ以テ計算シ又タ期限内ニ解約セラルヽモ既収ノ借函料ハ返付セス
 一期限ニ至レハ借受主ハ其保管ノ鍵ヲ持参セラルヘシ若シ期限ヲ過クルモ鍵ヲ持参セラレサルトキハ借函料ヲ倍加スヘシ
 一借受主鍵ヲ紛失セラルヽトキハ開函スルコトヲ得サルヲ以テ鍵ハ大切ニ保管セラルヘシ万一紛失シタルトキハ速ニ届出ラルヘシ代リノ鍵ヲ渡ス迄ニ要スル費用ト損害ハ借受主ノ負担タルヘシ
 一当銀行ニ於テ修繕ノ為メ開函ヲ必要トシ其旨ヲ通知スルトキハ速
 - 第4巻 p.630 -ページ画像 
ニ鍵ヲ持参セラルヘシ
 一此規定ニ定メサルコトハ保護預リ規定ヲ準用スヘシ
    以上
即ち安全保護函は其名の示すが如く安全にして而も其借函料低廉なれば有価証券、諸証書其他貴重の財産を保管するには便利此上なきものと信ず
七月開始以来時日を経ること浅きと世人一般に之を熟知せざるとに依り未だ之を利用するもの多からず、且つ倉庫其他の設備に少なからざる費用を要するを以て今日の所にては中々営業としては引合ふべくもあらざるも漸次之を利用する者増加するに至らば相応の収益を見るを得べければ然る上は猶十分に之を拡張する心組なり