デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治12年1月13日（1879年）

木挽町商法会議所ニ於テ択善会第十九回ノ会同開カル。栄一出席シ「シチー・オフ・グラスゴー」銀行破産ノコトヲ演説ス。

東京経済雑誌　第一号・第一四―一八頁〔明治一二年一月二九日〕
　　　　○銀行集会第十九回録事
明治十二年一月十三日第百国立銀行盟主ト為リ択善会第十九回ノ会同ヲ東京木挽町商法会議所ノ議場ニ於テ開設ス、同行ヨリ原六郎・宮部久其他数名出席シ会員ニハ第十五国立銀行中村清行・三輸信次郎、第一同渋沢栄一・西園寺公成、第四十四同市原政樹・小松清一、第二同原善三郎・下田善次郎、第五同一井保・図師民嘉、第三同安田善次郎、第二十同川杉義方・寺田国道、第二十七同渡辺治右衛門・安藤利助、第三十同中村忠清、第七十四同上村幸八・加藤寒静、第六十同滝田勝、第三十三同高須退蔵・種田誠一、三井銀行三野村利助・今井友五郎、第十三同森二三・蘆田順三郎、第四同原田銀造・辻金五郎、第
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三十二同北川清七・上田吉輔、第六同杉本正徳、第十同市川好三・小野金六、第十八同代理店第一銀行役員津田束、傍記第一銀行役員大沢正道共ニ三十六名、此外傍聴（同盟外銀行役員）二名アリ
○中略
一　第一次、渋沢栄一ハ「シチー・オフ・グラスゴー」銀行破産ノ事ヲ演説スル為メニ先ツ衆位ニ告ケ曰ク、該銀行破産ノ報聞ハ諸君既ニ知ル所ニシテ、復タ小子カ報道スルヲ須ヒスト雖トモ、玆ニ又諸種ノ西報ヲ閲シテ該行計算ノ情際ヲ悉スヲ以テ、其凶問ヲ憚カラス、本年ノ新会タル今日ニ当リ、之ヲ報道セント欲スル者ハ、徒ラニ瓊詞ヲ綴テ虚美ヲ飾ルノ祝辞ヲ為スニ勝ルヘクシテ、且近来各地方ニ創立スル銀行諸子ノ為メニ転ハヌ先ノ杖ニ呈スル所以ナレハ諸位幸ニ恕セヨト言畢テ其文ヲ演説セリ（演説文甲号下ニ載ス）
○中略
　　　　○シチー・ヲフ・グラスゴー銀行破産ノ事（演説文甲号）
昨年中英国ノ理財上ニ発シタル一大事件ハシチー・ヲフ・グラスゴーグラスゴーハ蘇格蘭ノ大都会ナリ銀行ノ破産ノ事タリ、此破産ノ十月二日ニ起ルヤ之ニ次テ倫敦及ヒ他ノ地方ノ商社ノ破産スルモノ甚タ多シ、然ルニ銀行又ハ委托商社等《トラストコムパニー》ニ在テ破産ニ罹リシモノハ独リ殖民地委托商社《コロニヤルトラストコムパニー》ノミナリト云フ、此破産ハ何ノ情ニ源因スルヤ未タ之ヲ記スルモノヲ見スシテ詳ニ報道シ難シ、但タ英蘭銀行割引ノ最モ低キ割合ニ於テモ八月比ヨリ五銖ニ上リ、十月十四日ニハ六銖ニ上レリト云ヲ見レハ、既ニ英国ノ金融否塞ノ景況アリシコトヲ知ルヘシ、抑グラスゴー銀行ハ千八百五十七年ノ凶難ニ破産シタル六大銀行ノ一ニ居レリ、当時ノ負債ハ最初ニ六百万磅ト報告シ、次ニ千万磅ト報告シ、後老練ナル計算者ノ妥為スル所アルニ依テ其負債大ニ減少シ、而シテ稍々一ケ月ヲ経テ再ビ其営業ヲ開クヲ得タリ、爾来其紙幣漸ク流通シ、其事務モ次第ニ繁栄シ、竟ニ百三十三ノ支店ヲ布置スルニ至リ、蘇格蘭ノ銀行ニシテ其右ニ出ツルモノアルナシ、現ニ千八百七十八年五月十八日ノ「エコノミスト」新聞ニ公告スル所ヲ見レハ、其定期当座預リ金ノ高ハ四千百万（株金百万）磅以上ヲ越エ、貯蓄金ハ五十九万八千磅ニシテ、其資本金ノ六割ニ相当シ、割賦金ハ大約一割一分乃至一割二分、株券ノ価ハ破産ノ日迄モ猶二百三十五磅ヲ以テ之ヲ売買シ、而シテ当日午後閉店ノ際ニ垂シ縦容トシテ其営業ニ従事スルコト実ニ平日ノ如クナリシト云フ、故ニ其一モ他ノ厳酷ナル督促ヲ蒙リ、或ハ信憑ヲ地方ニ失フタルニ因ルニ非ラスト雖トモ、銀行社中ノ救援ヲ以テ復タ奈何トモス可ラストナスニ至テ融通ノ途頓ニ塞カリ終ニ破産スル所ナリト云
昨年十月廿六日ノ「エコノミスト」新聞ニ曰ク、シチー・ヲフ・グラスラゴー銀行検査ノ摸様ヲ聞クニ云フ、数年以前ヨリ其計算ヲ曖昧トナシテ株主ヲ欺キ及ヒ一切計算ハ凡テ仮数ヲ設ケテ之ヲ偽造スル者一ニシテ足ラス、貸附及ヒ割引ノ金ヲ小ニシ而シテ其抵当ナル公債証書其他ノ質物有高ヲ大ニシ銀行ニ所有スル公債証書及ヒ株券ノ価格ヲ虚増シ、滞貸タル数百万ノ貸附金ヲ差引、残高一覧表ニ於テ確実ナル貸金ノ項ニ編入スルノ類是ナリ、又検査官ノ報告ニ曰ク、余ハ去ル七月ノ一覧表ノ草案ヲ獲テ正ニ其取締役等カ株主ヲ欺カンカ為メニ改竄シ
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タル者ナルコトヲ証セリ、其一ニハ貸附金高ヲ偽称シテ百十二万六千磅ヲ実額ヨリ少ナクシ、其二ニハ銀行ノ所有スル諸証書株券ノ類ヲ九十二万六千磅実額ヨリ多クシ、其三ニハ金庫ニ蓄在セル準備金ヲ偽称シテ二十万磅ヲ現額ヨリ多シトナス、当座貸越及ヒ割引手形ヨリ生スル滞貸等確実ト記載スルモノハ十月一日ニ於テ七百三十三万五千三百五十八磅ト為シ、之ニ属スル抵当ハ左ノ如シ
　ニウヂーランド商社株券　　　　　　　　九〇四、九〇四磅
　他ノ商社ノ株券　　　　　　　　　　　　一二七、七三四
　遺伝スヘキ資産地面家屋ノ類ヲ云フ　　　四〇八、八七三
　生命請合状　　　　　　　　　　　　　　　八七、三四八
　貨物　　　　　　　　　　　　　　　　　　七一、七五〇
　船舶　　　　　　　　　　　　　　　　　　三八、六〇八
　為替手形及約束手形　　　　　　　　　　　九二、四九八
　雑品　　　　　　　　　　　　　　　　　　一一、五一九
　　合計　　　　　　　　　　　　　　一、七四三、二三四
是ヲ以テ滞貸ヨリ生スル損失ハ五百五十九万二千百二十四磅ト為ル、而シテ其借主ノ内殊ニ巨額ヲ借受ケタルモノ四社アリ、其情状左ノ如シ

玆ニ抵当物件ヲ鑑定スルニ果シテ銀行ニ於テ先取スルノ権利アルヤ否殆ント期スヘカラスシテ恐クハ必ス借主ノ財産ヲ売捌クノ後代金ノ分配ヲ受クルニ過キサルヘシ、又其所有ノ米洲ノ鉄道及ヒ他方商社ノ株券ノ如キハ皆呼価ヲ以テ一覧表ニ於テ百零九万一千百七十五磅ト記載スト雖トモ現今ノ相庭ニ由テ算スレハ三十九万六千零六十九磅ニ相当スルモノトナスト
以上検査官ノ記スル所ニ因テ考フルニ、滞貸金ノ損失ノ外別ニ六十九万五千磅ノ不足アルコトヲ知ルヘシ、サレハ縦令他ノ勘定ニ於テ少許ノ余剰アリトスルモ不足ノ金高ハ六百十九万九百八十四磅ナルヲ奈何セン、而シテ百万磅ノ払込資本金ヨリ之ヲ減スレハ即チ五百十九万九百八十四磅真ノ損失ニ帰シ、株主等相寄テ之ヲ弁償セサルヘカラサルモノタレハ百磅ノ一株ヲ以テ五百磅ヲ徴収セサルヘカラス、噫又難イカナ