デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治12年10月13日（1879年）

是ヨリ先、栄一海上保険会社役員益田克徳ヲ衆ニ紹介シ、同氏ヲシテ同社創立ノ主旨ヲ陳述セシム。是日栄一海上保険ヲ拡充シ自他ノ営業ヲ安全ナラシムルコトノ緊要ナルヲ述ベ、衆亦之ニ賛同ス。

東京経済雑誌　第九号・第三〇八―三一一頁〔明治一二年八月三〇日〕
　　　　○択善会第廿五回録事
八月十八日、択善会第二十四回《（五）》ノ会同ヲ木挽町商法会議所ノ議場ニ於テ開設ス、此日出席ノ会員ハ本会幹事第一国立銀行渋沢栄一・西園寺公成、同第十五国立銀行肥田昭作・三輪振次郎、同三井銀行三野村利助・高野栄二郎、第三銀行安田善次郎・稲生豊次郎、第四同辻金五郎第五同和田中太・林甚左衛門、第六同杉本正徳・平尾東三、第十同市川好三・小野金六、第十四同川瀬清直・加藤典経、第十八同代理第一
 - 第5巻 p.628 -ページ画像 
銀行大沢正道、第二十同杉山勧・川杉義方、第二十二同堀内正善、第廿七同安藤利助・山口三男、第三十三同岩橋静彦、第四十四同奥村正雄・橋本善右衛門、第六十同関岡孝治・上田明哲、第七十四同上郷幸八・高桑覚二、第九十五同山本誠三郎・福田敏脩、第百同原六郎・宮部久・第百十三同古山数馬・鈴木重恒、第百十九同村瀬十駕・堤正峯第十二銀行ヨリ本日加盟トシテ出席シタル寺西成器、北川亥之作以上三十九名、此外経済雑誌社田口卯吉、海上保険会社益田克徳、津田束等出席ス、右ノ諸氏ハ午後五時下ニ議場ニ上リ各設ケノ席ニ着セリ
○中略
第五次、渋沢君ハ本日出席セシ海上保険会社ノ役員益田克徳君ヲ紹介シ、同氏ヨリ本会ノ諸氏ニ該社創立ノ旨ヲ陳述センコトヲ乞フ、乃チ其陳述ノ大略ニ云、此保険会社ハ其方法経画トモニ大ニ渋沢君ノ尽力セラルヽ所ニシテ、将来トモニ深ク同氏ニ信依スル所ナリ、蓋同氏カ保険ノ事業ヲ倡シハ今日ニアラスシテ此業ノナカルヘカラサルヲ痛論スルコト日アリ、而シテ這回同氏ハ旧鉄道組合ノ原資四十万円余ヲ以テ本社ヲ創立センコトヲ慫慂セリ、是ヨリ先キ三菱会社モ亦此業ヲ一手ニ開設スルノ目的アリシヲ以テ、同氏ハ又之ヲ説キ、旧鉄道ノ資本ト三菱会社ノ一分資本ヲ合併ノ議ニ決シ、又他ノ商人ニ説テ数名加入シ共計六十万円ノ資本ニテ本社ヲ設立スルニ至リ、衆議ヲ以テ役員ヲ撰定シ、本月一日ヨリ実地営業ニ従事セリ、抑保険ノ業ハ商業上欠クヘカラサル一大要務タリ、彼ノ英米ノ如キ富強ナルハ実ニ商業貿易ノ盛ンナルニ由レリ、商業貿易ノ盛ンナルハ航海運輸ノ盛ンナルニ由レリ、而シテ航海ニ於ル覆没アリ、火災アリ、衝突アリ、敵国ノ掠奪アリ、海賊アリ、其危険決シテ免カルモノニアラス、サレバ此危険ノ念除カザル間ハ世ノ財主ハ安シテ其資本ヲ航海貿易ニ放下スルニ至ラザルベシ、英米ノ商業ニシテ今日ノ隆運ヲ見ル所以ノモノハ、偏ニ此危険ヲ除クノ術行ハルヽカ為ニ資本ト営力トヲシテ十分ニ此商業ニ現ハサシメタルニ因ルナリ
斯ク海上ノ危険ヲ担保スト云フトキハ如何ニモ奇怪千万ナル商社ノ如ク思ハルベシト雖トモ、深ク其性質ヲ考フレバ決シテ恠ムニ足ラズ、蓋シ海上保険会社ト雖トモ決シテ沈没破損ノ数ヲ減スルノ力ナシ、唯タ其蒙ムル所ノ損害ヲ衆庶ノ頭上ニ分担セシメテ、其災ヲ薄クスルモノナリ、譬ヘバ日本海ヲ往来スル船舶ノ総価格一千万円ニシテ、其内年々平均一万円ノ沈没アリトセバ、海上保険会社ハ其危険ヲ定メテ千分ノ一ト為ス、而シテ其請負フ所ノ船価ノ千分ノ一ト別ニ会社ヲ維持スルノ手数料トヲ要求スルコトナリ、故ニ請負フ所ノ船舶ノ価格百万円ナレバ、必ス一千円ノ保険料アリテ、常ニ其沈没ヲ償フニ足ルノ資金アルコトナリ、此道理アルヲ以保険ノ商業ハ太タ確実ニシテ更ニ奇怪ナル所ナク、又危険ナル所ナシ、而シテ此業実ニ銀行ニ大関係アリ蓋シ銀行ノ如キハ世人ノ信用ヲ得ルヲ勉ムルニ付キ、其資本ヲ用フル所常ニ確実ナラザルベカラザルハ諸君ノ明知セラルヽ所ナリ、然レトモ彼ノ荷為替ノ如キハ如何ナルモノゾ、諸君ノ之ニ向テ貨幣ヲ許ルサルヽハ畢竟其人ニ信用ナクシテ貨物ヲ抵当ニセラルヽノ意ナラン、而シテ其荷物ハ如何ナル船舶ニ積込マルヽカ、諸君能ク船舶ノ堅牢脆弱
 - 第5巻 p.629 -ページ画像 
ヲ識別セラルヽカ、諸君能ク船将ノ巧拙ヲ熟知セラルヽカ、若シ一朝覆没ノ災アラバ頼ム所ノ貨物ハ復タ頼ム能ハズシテ、而シテ残ス所ハ唯タ信用ナキ名宛人ト振出人トノミ、諸君ノ保険ナキ荷為替ヲ許ルサルヽハ豈ニ危険ノ業ニアラズヤ、又逆為替割引ノ類ト雖モ畢竟名宛人ノ之ヲ払フヲ諾スル所以ノモノハ、其貨物ヲ受取ルニ源因スルモノナレバ其保険ナキモノハ、容易ニ信スベカラザルベシ、故ニ商賈銀行及ヒ保険会社ハ自ラ鼎立シ相待テ初メテ確実ナルモノナリ、切ニ望ム諸君ノ深ク之ニ注意セラレンコトヲ
現今保険ノ商社外人ノ営ムモノナキニアラズ、然レトモ其約定書皆洋語ヲ用ヒ、容易ニ瞭解スベキニアラズ、弊社ノ如キハ勉メテ平易ノ語ヲ用ヒテ証書ヲ作リ、簡便ト下直トヲ旨トシテ、荷主ノ御便益ヲ計レリ、且ツ難破沈没等ノ事アルニ当リテ往々故障ヲ申立テヽ其損害ヲ償ハザルモノアリト雖モ、弊社ニ於テハ一切此ノ如キ事ナシ、但シ事ノ将来ノ約定ニ関スルモノニ至リテハ自ラ適用ノ科語アルヲ以テ勢之ヲ用ヒザルヲ得ズ、サレバ若シ御不審ノ廉アラバ幣社其弁明ヲ為スヲ懈ラザルベシ、切ニ望ム諸君ノ親懇ヲ弊社ニ辱フセラレンコトヲ
果シテ然ラバ日本ノ航海是ヨリ危険ヲ除キテ其商業大ニ面目ヲ改ムルニ至ランコト更ニ疑ヲ容レザルナリ

東京経済雑誌　第一三号・第四四五―四四八頁〔明治一二年一〇月三〇日〕
　　　　○択善会第廿六回録事
十月十三日、択善会第二十六回ノ会同ヲ木挽町ノ商法会議所ニ於テ開設セリ、会員ハ幹事第一銀行渋沢栄一・西園寺公成、同第十五銀行三輪振次郎・戸田欽堂、同三井銀行高野栄次郎、第二銀行下田善次郎、第三同安田善次郎、第四同辻金五郎、第五同加藤兵吉・城所武、第十同小野金六、第十二同北川亥之作、第十三同蘆田順三郎・森二三、第十四同大池源重・太田宗七郎、第十八・第二十三両行代理第一銀行大沢正道、第二十同杉山勧・川杉義方、第二十二同堀内正善、第二十七同大宮興・山口三男、第三十同鍋島平五郎・下村忠清、第三十二同平池玄四郎・北川清七、第三十三同川村伝衛・岩橋静彦、第四十四同山田又左・斎藤岑雄、第六十同島田英次郎、第百同原六郎、第百十三同串田孫三郎・古山数馬、第百十九同村瀬十駕、以上三十五名、第六・第七十四・第九十五・第百十八ノ四行ハ欠席ヲ告ケタリ、右全員ハ午後五時下ニ議場ニ上リ、各其席ニ着ケリ
初場、渋沢栄一ハ起テ衆ニ向ヒ、前月休会ヲ告ケテ本日開会スル次第ヲ報告セリ
○中略
第六次、渋沢君演説シテ曰ク、海上保際ノ事業ヲ拡充シテ自他ノ営業ヲ安全ナラシムルハ今日ノ急要且此同業上ニ在テ宜ク注意スヘキ者ナリ、而シテ其実効ヲ求ムルヤ凡ソ荷為替ノ請求ヲ得レハ務メテ保険ニ従ハシメ、且荷為替ノ打歩ニ差等ヲ設ケ、而シテ若シ情実ニ因リ保険ニ依ラサル者ハ其打歩ヲ収ムルニ高キヲ以テシ、保険ニ依ル者ハ低キヲ以テシテ之ヲ誘導スルヲ要ス、現ニ敝行ノ如キハ此方法ニ従テ漸次主顧ヲシテ保険ニ依ラシム、願クハ諸君共ニ力成シテ自他ノ営業ヲ堅
 - 第5巻 p.630 -ページ画像 
固ニセンコトヲト、安田善次郎君・原六郎君・辻金五郎君等各実験ヲ以テ其効益ヲ述ヘ、大ニ此説ヲ賛成セリ
右議事演説畢テ会散ス、時ニ九時下