デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治24年6月15日（1891年）

是ヨリ先、銀行条例及ビ貯蓄銀行条例発布サレシモ商法ノ施行延期ニ伴ヒ施行延期トナル。即チ右条例ノ重要性ニ鑑ミ調査委員ヲ選ビテ之ガ調査ニ当ラセシガ、是日調査委員ノ起草ニ係ル銀行条例修正案ヲ審議ニ附シ、六月二十四日ヲ以テ右ヲ大蔵大臣ニ上申セシモ願意採用サレズ。ヨツテ後銀行条例改正法律案ヲ第三議会ニ提出セシモ終ニ否決サレタリ。

集会録事　　自明治二十四年一月至明治二十五年十二月　（東京銀行集会所所蔵）
　　　　○第百十一回定式会議録事　○明治二四年三月一六日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　栄一印　(印)
次ニ会長○渋沢栄一ハ昨二十三年八月、法律第七十二号及第七十三号ヲ以テ発布セラレタル銀行条例及貯蓄銀行条例ハ、其条項中敢テ難字又ハ解釈ニ苦シムモノナシト雖トモ、将来我々銀行者ハ此ノ条例ニ支配セ
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ラルヘキ事ニテ、実ニ重要ノモノナリト思惟シタリシカ、昨年ハ商法講究ノ挙アリテ爰ニ及ハサリシカ今ヤ幸ニシテ施行延期トナリタレハ、此際之ヲ講究シテ其利害得失ヲ調査スルノ時ヲ得タリ、元来我々国立銀行ハ特別ノ条例アリト雖トモ、明治三十年内外ヲ期シテ皆此七十二号ノ法律ニ拠ラサルヘカラサルモノナレハ、該条例ノ完備ナルト否ラサルトハ同業者一般ノ安危ニ係ルノミナラス国家経済ノ消長ニ関スルコト亦以テ尠シトセサレハ、充分ニ講究シ置キタシ
肥田景之助氏曰、同条例ヲ考究スヘキハ甚タ必要ノ事ナレハ、委員ヲ選ヒ調査センコトヲ望ム
山中隣之助氏曰、銀行条例ヲ改正スルニ付テハ修正ヲ要スヘキ箇条多多アルヘシト雖、中ニモ資本金額ノ最低度ノ箇条ヲ設クルハ甚タ必要ノ事ナラント考フ、仮ヘハ壱万若クハ二万ノ小資本ヲ以テ銀行営業ヲ為スモノ、一朝破産スルトキハ啻ニ株主ノ損害ヲ被ムルノミナラス、他ノ確実ナル銀行ニモ影響ヲ及ホシ、其損害ヲ受クル実ニ小少ニアラサレハ、資本ニ制裁ヲ加ヘ以テ小銀行ノ設立ヲ予防スルニアリ、而シテ貯蓄銀行第八条ノ如キモ又其改正ヲ要スヘキモノ、一ニシテ、立法者ハ何ノ必要アリテ斯ノ如キ条項ヲ設ケシヤ、小子ハ寧ロ斯ノ如キ条項ノナキノ優レルニ若カスト考フ、其他改正ヲ要スヘキ箇条アルヘシト信スレハ調査委員ヲ設ケ、充分取調ノ上該条例ヲ改正シ、以テ政府ヘ内願シ、政府ヨリ法律案トシテ議会ヘ提出スルカ、若クハ議員ヨリ建議案トシテ提出スルカ、両者其一ヲ選ヒ、此両条例ヲ改正セラレンコトヲ熱望ス
佐々木慎思郎氏曰、法律ヲ以テ小銀行ノ設立ニ制裁ヲ加フルハ甚タ必要ノ事ナリ、然ラサレハ確実ナル銀行ノ名義ヲ傷ケ、併セテ其信用ニ関スルコト小少ニアラザレハ其辺ノ制裁モ加ヘタシ
佐々木勇之助氏曰、小銀行設立ニ制裁ヲ加フルハ甚タ賛成ナリト雖、果シテ法律ヲ以テ之ヲ制裁シ得ヘキヤ否ヤ
肥田景之助氏曰、兎ニ角調査委員ヲ選ヒ取調ニ従事シ其調査出来ノ上討議シテ然ルヘシ、而シテ其委員ハ会長ヨリ指名選挙アランコトヲ望ム
会長曰、然ラハ、証書文例取調委員ナル佐々木勇之助・三輪信次郎・佐々木慎思郎・池田謙三・三村君平ノ五氏及常委員ヲ併セテ取調ヘニ従事シテハ如何ト云ニ、一同々意ヲ表シ之ニ決セリ、尤取調上若シ法律家ヲ顧問ニ要スルカ如キ場合ニ於テハ、委員ノ見込ヲ以テ別途経費ヲ支出スルヘキコト之アルヘシト云ニ皆異議ナシ
　　　　○第百十二回定式集会録事　○明治二四年五月二一日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　栄一印　(印)
次ニ会長○渋沢栄一ハ調査委員ノ起草ニ係ル銀行条例修正案ヲ提シ、且ツ本月十五日常委員会ニ於テ審議討論ノ摸様ヲ告ケ、尚委員中ニ於テ意見ノ条項及其十六日本件ニ付田尻銀行局長ニ面シ、今回我同盟銀行カ本条例ノ修正ヲ必要トスル理由ヲ述ヘ、併セテ此修正案ニ就キ意見ヲ問ヒシニ大体ニ於テハ甚タ同意ナリト雖、第三条ノ如ク資本ニ制限ヲ置クハ商法ニ対シ其権衡ヲ失スルニ似タリ、故ニ只職権上ニ於テハ不同意ト云ハサルヲ得サルナリ、而シテ該修正案確定ノ上ハ説明書ヲ添
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ヘ大蔵大臣ヘ差出シタル方可然、若シ不幸ニシテ大蔵大臣カ之ヲ容レサルカ如キ場合ニ至ラハ更ニ同盟銀行ヨリ帝国議会ヘ建議スルモ敢テ差支ナシトノ事ナリ、右ノ次第ニ付充分協議アランコトヲ望ム
三村君平氏曰、本日豊川出席ノ筈ナリシカ、事故アリテ欠席ニ付、小子ヨリ申述ン、抑此条例ハ将来我々銀行者ニ取リ至大至重ノ関係ヲ有スルヲ以テ大ニ熟慮深考ヲ要セサルベカラザルハ今更喋々ヲ要セサル所ナリ、然ルニ此修正案ヲ各行ヘ配付為セシヨリ未タ一二日ニ過キズシテ充分考案ヲナスノ時日アラザレハ今一二週間若クハ来月ノ例会迄猶予アランコトヲ望ム
安藤浩氏モ亦三村氏ニ同意ヲ表シ、猶予ヲ望メリ
池田謙三氏曰、然ラハ本日ハ協議ニ止メ確定ハ次会ニ延ハス如何
会長曰、然ラハ今ヨリ凡ソ二週間ヲ熟考ノ時間ト為シ、是ヨリ逐条ノ討議ニ移ルヘシ、就テハ三輪氏ニ於テ説明ノ労ヲ取ラレンコトヲ請ヒ、同氏之ヲ諾セリ
（第一条）三輪氏曰、本案中ニ「又ハ諸預リ及貸付ヲ併セ為ス者ハ何等ノ名称ヲ用ユルニ拘ハラス」トアルヲ「又ハ諸預リ及貸付ヲ併セ為ス者ヲ銀行トス」ト修正セシハ他ノ名称ヲ以テ類似ノ営業ヲ為サンコトヲ防カンカ為メナリ」（異議ナシ）
（第二条）本条ハ新タニ加ヘシモノニシテ銀行事業ノ本分ヲ明ニシタル迄ナリ（異議ナシ）
（第三条）会長曰、本条ノ但書五万人ハ未ダ確定セシモノニアラザレハ充分熟議アリタシ
佐々木勇之助氏曰、五万人トナサハ現時五万以上ノ地ハ僅々指ヲ屈スルニ過キザレハ寧ロ区域ヲ縮少シテ弐万人位ト為サハ如何、仮ヘハ四日市・上田ノ如キ繁栄ノ地ニ於テモ五万円ノ資本ヲ以テ之ヲ設立スルコトヲ得ルノミナラス、商法ニ於テ資本金ノ半額ヲ以テ営業ヲ為スコトヲ得ル故ニ之ヲ弐万人ト為サハ如何
山本達雄氏曰、本条ノ如クセハ支店ニ制限ヲ置クヲ要スルナリ然ラサレバ五万円ノ資本ヲ以テ人口五万以下ノ地ニ本店ヲ設置シ而シテ其支店ヲ五万人以上ノ地ニ設ケ本店同様ノ営業ヲ為スモノナシトセズ
三輪氏曰、支店ハ本店ト同視スルコトナケレハ敢テ妨ケナカラン
山本達雄氏曰、然リト雖、銀行ノ仕事即チ権利義務ヲ有スル上ハ仮令支店ト雖営業ヲ確固ニシ、世人ノ信用ヲ得ルニ於テハ敢テ本店ト大差ナシ、加之ナラス資本ノ多寡ハ信用ニ関セサレバナリ
　会長曰、本案ハ熟考ノ上再議シタル方可然ナリ、皆同意ヲ表ス
　（欄外鉛筆）支店ノコトモ再考ノ筈ナリ
会長曰、五万人以下ニテハ其制限甚タ広キニ過クレハ、弐万五千人以下ト修正シテハ如何、衆皆同意ヲ表シ之ニ決セリ
（第四条）三輪氏曰、本案ハ原文ニヨルトキハ株式会社横浜銀行ト云フカ如キ其称呼冗長ニシテ或ハ二個ノ名称ノ如ク聞ユルヲ以テ、本条ノ如ク修正シタルナリ（異議ナシ）
第五条、第六条、第七条ハ原文ノ儘ナレハ説明ノ限リニアラス
（第八条）本条ハ原文ニハ「資本金高ノ十分一」云々トアルヲ「資本金及積立金高ノ十分一」トナシ又「貸付又ハ割引」トアルヲ「又ハ
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割引」ノ四字ヲ削レリ、其理由ハ資本金ノ十分ノ一ト云フトキハ実際差支ヲ生スルカ如キコトナシトセサレバ積立金モ其内ニ加ヘ幾分其余裕ヲ与ヘシナリ、又割引ノ如キハ再割引ノ法アリテ転輾スルモノナレバ之レカ制裁ヲ為スニ苦シム、故ニ本条中之ヲ削除セシナリ
山本達雄氏曰、資本ト積立トハ自ラ其性質ヲ異ニセリ、抑モ積立金ヲ為ス所以ノモノハ不時ノ損失ニ充テンカ為メ、利益ヲ割キ積立ヲ為スモノナリ、然ルニ其積立金ヲ資本ノ中ニ加ヘ、共ニ之ヲ貸付ルトキハ始メヨリ積立ヲ為サスシテ寧ロ之ヲ配当スルニ如カス、何ントナレバ万一損失ヲ為セシ場合ニハ積立金モ共ニ損失ヲ蒙ラサルベカラス、故ニ寧ロ貸付金ノ制限ヲ資本金ノ五分ノ一位ト修正スル方妥当ナルベシ
三村君平氏曰、本条ハ委員会ノ節屡々削除センコトヲ望ミタレトモ、其説容レラレス、本日ニ至リシナリト雖、本条ハ頗ル其営業区域狭小ニシテ他日其営業盛大ニ至リシ場合ニ於テ、資本額ノ何倍モ預リ金ヲ為ストキハ其資本金ノ為メニ預リ金アルニモ拘ハラス之ヲ拒絶スルノ不都合ヲ見ルニ至ルベケレバ、切ニ本案ヲ削除セラレンコトヲ望ム
会長曰、本条ハ種々意見ヲ異ニスルヲ以テ尚篤ト熟考ノ上再議ニ付スベシト、皆同意ヲ陳ヘ之ニ決セリ
第九条　三輪氏曰、本条ハ第一条第二条ノ外ニ尚余業トシテ危険ノ業ヲ為サンコトヲ恐レ、老婆心ヨリ之ヲ設ケシナリ（異議ナシ）
第十条　会長曰、本条ハ委員ニ於テモ種々意見アリタルモノニシテ「銀行役員ハ其銀行ヨリ借金ヲ為シ、又ハ借金ヲナス者ノ為メニ」云々ト修正スベシトノ議アリシト雖、余リ厳ニ失スルノ嫌アレハ其儘トナシ、本会議ニ於テ篤ト協議スヘシト云フ旨ヲ告ケシカ、尚熟考ノ上再議スヘキ事ニ決セリ、而シテ本条中「証人又ハ請人」トアルヲ「保証人」ト修正セリ
第十一条　三輪氏曰、本条ハ現今ノ慣習ニ拠リ、原文ニ十時トアルヲ九時トナシ、四時ヲ三時ト修正シタル迄ナリ（異議ナシ）
第十二条　第十三条、第十四条ハ原文ノ儘ナレハ説明ノ限リニアラス
第十五条　本条ハ第九条ノ制限アルニ由ルナリ
山本達雄氏曰、第十条ノ罰則アラザルカ如クナレバ、第十五条ヘ之ヲ加ヘテハ如何
会長曰、然リ然ラハ「銀行ニ於テ第九条・第十条ノ規定ニ違反シタルトキハ」云々ト修正スベシト、皆同意ヲ表シ之ニ決セリ
第十六条、第十七条ハ原文ノ儘ナレハ説明ノ限リニアラズ
右ニテ本会ノ協議ヲ決了シ、追テ本案確定ノ上ハ既成ノ銀行モ何年ノ後此条例ニ従フベシトノ附則ヲ設クルノ必要ナルコトヲ討議シ、該条例発布ノ日ヨリ二ケ年位ヲ期シ之ニ拠ラシムル方可然シトノ説ニ一同同意ヲ表シ、且ツ本案熟考ノ時間ハ今ヨリ凡二週間トシテ其間三輪氏ニ於テ本案ノ説明書ヲ起草セラレンコトヲ要求シ、其承諾ヲ得テ十時下退会セリ
　　　　第百十二回同盟銀行定式会議出席人名
　　　　　　　　第一銀行　　渋沢栄一　○外二五名氏名略
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　　　　○第百十三回定式集会録事
　　　　　　　　　　　　　　　　栄一印　(印)
明治二十四年六月十五日、午後第五時ヨリ同盟銀行第百十三回定式会議ヲ開キ、来会者ハ委員長渋沢栄一氏委員西邑虎四郎氏山中隣之助氏ヲ首メ総員二十四名ナリ
委員長渋沢栄一氏ハ会長席ニ着キ、議事ニ先タチ報告シテ曰ク、曩ニ露国皇太子殿下御遭難ノ砌、我同盟銀行ヨリ御慰問ニ対シ御満足ニ思召ス旨在京都西郷内務大臣ヨリ電報アリシ趣ヲ以テ、蜂須賀東京府知事ヨリ伝達アリ、又鹿児島第百四十七国立銀行東京支店支配人心得四本助七氏解任ニ付、宮之原軍吉氏ヘ任命アリシ旨同行ヨリ通知アリ、又久次米銀行東京支店業務整理ノ為、本月一日ヨリ休業セシ旨ハ已ニ通知シタリシト雖、尚又今般同支店副支配人今井彦四郎氏、都合ニヨリ退任、更ニ谷遷氏東京支店支配人ニ任命シタル旨通知アリシ旨報道セリ
夫ヨリ前会ノ協議ニ係ル銀行条例修正案ノ二読会ヲ開クヘキ旨ヲ告ケ且本案中第三条外二三ノ条項ニ於テ反対ノ意見モアリシニ付、去ル五日委員会ニ於テ種々熟議ヲ尽セシト雖詰リ原案ニテ敢テ差支ナカルベシトノ説多数ナルヲ以テ只第九条第十条第十五条ヲ刪除シテ最前十七ケ条ノモノヲ十四条ト為シタル迄ナリ、而シテ此三ケ条ヲ削リタル理由ヲ述フレハ第九条ニ於テ地所其他ノ物件売買ヲ禁止シタルハ已ニ第一条及第二条ニ於テ銀行ノ業務ヲ明ニ規定シアレハ、所謂贅文ニ属スルヲ以テ之ヲ削リ、又第十条ニ於テ銀行役員タルモノハ其銀行ヨリ借金ヲ為スモノヽ為メニ保証人ト為ルコトヲ禁スルカ如キハ法文トシテハ余リ密ニ失スルノ嫌アレハ、是等ノ事ハ定款ニ規定シテ差支ナカルベシトノコトニテ之ヲ刪リ、又十五条ハ第九条ノ罰則ニシテ已ニ同条ヲ削リタル上ハ之ヲ置クノ必要ナキヨリ之ヲ削除セリ、就テハ之ヨリ三輪氏ノ起草ニ係ル説明書ト併セテ本条ノ逐条審議ヲ為スヘシト告ク
　　　　銀行条例修正案並ニ其説明
第一条　公ニ開キタル店舗ニ於テ営業トシテ証券ノ割引ヲ為シ、又ハ為換事業ヲ為シ、又ハ諸預リ及貸付ヲ併セ為ス者ヲ銀行トス
　（説明）本条ハ現条例ノ第一条ニシテ、其中「ハ何等ノ名称ヲ用ヰルニ拘ラス総テ」ノ十六字ヲ削リ更ニ「ヲ」ノ一字ヲ加ヘタリ、蓋此条文アルトキハ現行ノ銀行ト同一ノ業ヲ営ム者、其商号中銀行ナル文字ヲ加ヘサルモ妨ケナシト雖トモ、多年ノ慣習ハ世人ノ脳裡ニ銀行ノ称呼アルモノハ如何ナル営業ヲ為ス者ナルヤノ観念ヲ付着セサルヲ以テ、銀行ノ名称ナキ者ハ銀行ト同一ノ業ヲ営ミ居ルヤ否ヤニ惑ハシメ、従ヒテ種々ノ行違ヲ生スヘシ、依テ修正案ハ本条ニ於テ此十六字ヲ削リ、又第四条ニ於テ「銀行ノ商号ニハ必ス銀行ナル文字ヲ付スベシ」ト明言シ、本条ノ営業ヲ為ス者ハ総テ銀行ナル名称ヲ付セシメ、以テ営業ト商号トヲ符合セシムルニ在リ（異議ナシ）
第二条　銀行ハ前条ニ掲クル所ノ外諸債券、外国貨幣並金銀ノ地金ヲ売買シ、及保護預リ又ハ両換ヲ為スコトヲ得
　（説明）新ニ本条ヲ設ケタルハ、現条例ハ銀行ノ業務必ス第一条
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ニ定ムル所ノ者ニ限ルヤ否ヤ範囲確定セス、若シ第一条ノ定ムル所ニ限ルトキハ業務狭隘ニ失シテ収益鮮少ナラン、又苟クモ法律規則ニ反セサレハ何等ノ業務ニ従事スルモ妨ナシトセハ、氾濫ニ流レテ弊害アラン、依テ修正案ハ銀行ノ本業ヲ第一条ニ規定シ、其副業ヲ第二条ニ規定シ、右二条外ノ業務ヲ為ス可ラザルモノトセリ
　　此第二条ノ業務ハ現今国立私立銀行ノ実際ヲ国立銀行条例ニ掲クル所ノ業目ニ参酌シテ定メタリ、但国立銀行条例ニ「公債証書」トアルヲ「諸債券」ト改メ、其範囲ヲ広メタリ、蓋債券ハ概ネ収益一定ノ者ナレハ、株券ニ比シ相場ノ変動少キヲ以テ之カ売買ニ従事スルモ危険ノ憂鮮ナケレバナリ、又同条例ニ金銀銅トアルヲ金銀ノミニ限レルハ銅ノ地金ハ価廉ニシテ相場ノ変動甚シク、寧普通商品ト見做スニ由リテナリ（異議ナシ）
第三条　銀行ノ資本金額ハ弐拾万円ヲ下ル可カラス、然レトモ人口十万未満ノ地ニ於テハ拾万円以上、人口弐万五千未満ノ地ニ於テハ五万円以上ノ資本金ヲ以テ創立スルコトヲ得
　（説明）新ニ本条ヲ設ケテ資本金額ニ制限ヲ加ヘタル所以ハ、凡ソ銀行ハ理財上ノ機関ニシテ金融ノ円滑ヲ目的トシ、其責任重大ナルモノナリ、然ルニ僅少ノ資本ヲ以テ相争フテ銀行ヲ設立シ、貪利ノ弊、冒険不信ノ所業ニ陥リ、乍チ起リ乍チ倒ルヽ時ハ其影響ハ延テ一般銀行ノ信用ニ及ヒ、国家ノ経済ヲ攪乱スルノ恐アルヲ以テ、修正案ハ之カ資本金ニ制限ヲ加ヘ軽々銀行ヲ設立スルノ企図ヲ防クニ在リ、但其程度ハ従来ノ実験ニ由リ又国立銀行条例ヲ参酌セリ
三村君平氏曰、本条例ヲ修正セシ主眼ハ、一ニ此条ニ存スト云フモ不可ナキカ如クナルニモ係ハラス本条ノ削除ヲ望ム所以ハ前会ニ於テ已ニ陳述セシト雖、大資本ノ銀行ナルヲ以テ強チ確実ナリト云フ能ハサルノミナラズ、小資本ノ銀行ヲ禁スルコトアラハ所謂高利貸如キ者輩出シテ理財上其弊害決シテ小銀行ノ比ニアラサルベシ、加之ナラズ主務省、若クハ議会ニ於テ果シテ本条ヲ容ルヽヤ否ヤ、甚タ覚束ナキカ如ク考フレハ寧本条ヲ削除セラレンコトヲ望ム
山中隣之助氏曰ク、三村氏ノ説ハ至極御尤ノ事ナリト雖現今私立銀行ノ情勢ヨリ之ヲ考ル時ハ、本条ハ又最モ必要ノモノニシテ果シテ大蔵省若クハ議会ニ於テ行レ得ヘキヤ否ヤハ期シ難シト雖、其弊害ヲ予防セント欲セハ是非之ヲ存セサルヘカラスト考フ
池田謙三氏曰、資本ニ制限ヲ加フルハ尚第一条及第二条ニ銀行ノ業務ヲ検束スルト同様ニシテ、若シ資本ニ制限ヲ設クルノ必要ナクハ銀行ノ事業ニ検束ヲ加フルノ必要モ亦ナキニ至ラン、故ニ本条ハ第一条、第二条ノ権衡上ヨリモ之ヲ存スルノ必要アルナリ
三輪信次郎氏曰ク、元来本条ヲ設クルハ甚タ好マシカラサル事ナリト雖、今日小銀行ノ弊害ノアル点ヨリ之ヲ見レハ勢ヒ本条ヲ設クルノ止ムヘカラサルヲ知ルニ足ルヘシ、加之ナラス固ト此銀行ノ業務ハ他ノ事業ト自ラ品位同シカラス、既ニ其品位同シカラサレハ其資本ニ制限ヲ加フルハ又止ムベカラサルナリ、蓋シ本条ノ精神ハ小銀行
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ノ設立ヲ妨害スルニアラスシテ其弊ヲ匡正スルニアレハ、今日ノ小銀行ニシテ果シテ其弊ナキニ至ラハ又本条ノ必要アラサルナリ
三村君平氏曰ク、前ニモ言フ如ク、大資本ノ銀行ナルヲ以テ強チ確実ナリト認ムヘカラサルノミナラス果シテ本条ヲ以テ能ク其弊ヲ防クヲ得ヘキヤ、然リト雖、小子ハ強テ之ヲ削ルヲ好マサレバ多数ノ意見ニヨリ前説ヲ取消シ、進テ之ヲ賛成スヘシ
会長曰ク、大資本ナルヲ以テ強チ確実ナリト認メ能ハサルベシト雖、現今ノ如ク一雨毎ニ設立スル小銀行ノ比較上ヨリ之ヲ見レハ、必ス小銀行ニ倒産多クシテ大銀行ニ破産少ナキハ争フヘカラサル事実ナリ、故ニ原案ノ如クナシ置カハ如何ト皆同意ヲ表シ原案ノ如ク可決セリ
第四条　銀行ノ商号ニハ必ス銀行ナル文字ヲ付スヘシ、若シ其組織会社ナルトキハ其種類ニ従ヒ尚合名、合資、株式ナル文字ヲ加フヘシ但商法第七十五条・第百三十九条・第百七十三条中ニ掲クル会社ナル文字ハ之ヲ付スルヲ要セス
　（説明）新ニ本条ヲ設ケタルハ、已ニ第一条ノ説明ニ於テ述ヘシ如ク、銀行ノ商号ヲ一定シ、種々ノ名称ヲ付セサラシムルニ在リ、又已ニ其商号ニ銀行ナル文字ヲ付シ、且其組織会社ナルトキハ、各其種類ニ従ヒ合名、合資、及ヒ株式ナル文字ヲ加フルニ於テハ、商法ノ規定セル所ノ会社ナル文字ハ之ヲ省クヲ可トス、否ラサレハ其名称複雑シ称呼甚不便ナリ（異議ナシ）
第五条　銀行ノ事業ヲ営マントスル者ハ其資本金額ヲ定メ、地方長官ヲ経由シテ大蔵大臣ノ認可ヲ受クベシ
　（説明）本条ハ現条例ノ第二条ニシテ、別ニ修正ノ意見ナシ（異議ナシ）
第六条　銀行ハ毎半箇年営業ノ報告書ヲ製シ、地方長官ヲ経由シテ大蔵大臣ニ送付スヘシ
　（説明）本条ハ現条例ノ第三条ニシテ、別ニ修正ノ意見ナシ（異議ナシ）
第七条　銀行ハ毎半箇年財産目録、貸借対照表ヲ製シ、新聞紙其他ノ方法ヲ以テ之ヲ公告ス可シ
　（説明）本条ハ現条例ノ第四条ニシテ、別ニ修正ノ意見ナシ（異議ナシ）
第八条　銀行ハ一人又ハ一会社ニ対シ資本金及ヒ積立金高ノ十分ノ一ヲ超過スル金額ヲ貸付ノ為メニ使用スルコトヲ得ス
　資本金総額ノ払込ヲ了ラサル銀行ニ於テハ、一人又ハ一会社ニ対シ其払込金及ヒ積立金高ノ十分ノ一ヲ超過スル金額ヲ貸付ノ為メニ使用スルコトヲ得ス
　（説明）本条ハ現条例ノ第五条ニシテ、第一項中「資本金」ノ下第二項中「其払込」ノ下ニ各「及積立金」ノ四字ヲ加ヘ、又二項共ニ「貸付」ノ下「又ハ割引」ノ四字ヲ削リタリ
　　「積立金」ノ文字ヲ加ヘタルハ積立金ハ積立タル資本金ニシテ其効用株金ヨリ成立スル資本金ト毫モ差異アル無シ、故ニ本条ノ場合ニハ当然之ヲ合算スヘキ者ト信ス
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　　「割引」ノ文字ヲ削リタルハ、元来手形ハ広ク流通シ始メテ其効用ノ全キモノナルニ、現条例ノ如ク之ヲ制限スルトキハ大ニ其流通ヲ妨クルノ実アルヲ恐ルヽカ故ナリ、蓋シ現条例第五条ノ精神ハ銀行ノ営業中責任最モ重大ナルハ、預金其他ノ債務ヲ軽捷ニ仕払フコトナルニ、万々一此仕払ヲ停止スルカ如キアラバ国家ノ経済ヲ紊乱シ、其災害ノ及フ所測ルベカラサル者アルヲ以テ、貸付割引ノ金額ヲ制限シテ資本ヲ一方ニ停滞セシメズ仕払ノ円滑ヲ期スルニ在ラン、然リト雖割引ハ貸付ト其性質同シカラズ、売買運転便利ナレハ縦令一人ノ裏書人ニ対シ幾多ノ手形ヲ割引スルトモ苟クモ仕払ノ資金ヲ欲スルトキハ随時他ニ就キ之ヲ再割引シ以テ仕払ノ元資ヲ集ムルコトヲ得ベシ、又手形ノ裏書人即チ売渡人ハ支払人支払ヲ拒ミタル時ヲ除クノ外自カラ之ヲ仕払ハズ実際ハ振出人又ハ名宛人之ヲ仕払フコトナレハ貸付ノ借主トハ其状態ヲ異ニセリ、況ンヤ銀行ニ於テ手形ヲ割引スルトキハ常ニ裏書人一人ヲ信用スルノミナラス、其仕払人ハ勿論他ノ裏書人ノ資産人物等ヲ確認シ、始メテ之ヲ引受クルモノナレハ随テ危険ノ虞鮮シ、之ニ反シテ貸付ハ借主確実ナレハ危険ノ憂無キハ同一ナルモ、其返済ハ期限ノ至ルヲ待タザルヲ得ス、又之ヲ他ニ売却譲与シテ仕払ノ準備ヲ為スコト容易ナラサルヲ以テ、期限内ハ資金ヲ固着スルト謂フ可シ、貸付ト割引トノ異同ハ大概此ノ如シ、是レ本条ニ於テ「割引」ノ二字ヲ削リタルノ理由ナリ（異議ナシ）
第九条　銀行ノ営業時間ハ午前九時ヨリ午後第三時マテトス、但営業ノ都合ニ依リ之ヲ増加スルコトヲ得
　（説明）本条ハ現条例ノ第六条ナリ、其中「十時」ヲ「九時」ニ「四時」ヲ「三時」ニ改メタルハ是レ旧来ノ慣習ニ依ル者ナリ（異議ナシ）
第十条　銀行ノ休日ハ大祭日、祝日、日曜日、及銀行営業地ニ行ハルル定例ノ休日トス、但止ヲ得サル事故アルトキハ地方長官ニ届出テ予メ新聞紙其他ノ方法ヲ以テ公告シタル上休業スルコトヲ得
　（説明）本条ハ現条例ノ第七条ニシテ、別ニ修正ノ意見ナシ（異議ナシ）
第十一条　大蔵大臣ハ何時タリトモ地方長官又ハ其他ノ官吏ニ命シテ銀行ノ業務ノ実況及財産ノ現況ヲ検査セシムルコトヲ得
　（説明）本条ハ現条例ノ第八条ニシテ別ニ修正ノ意見ナシ
第十二条　第五条ノ規定ニ違反シ、大蔵大臣ノ認可ヲ受ケスシテ銀行ノ事業ヲ営ミタル者ハ商法第二百五十六条ノ例ニ依テ処分ス
　（説明）本条ハ現条例ノ第九条ニシテ、別ニ修正ノ意見ナシ（異議ナシ）
第十三条　銀行ニ於テ第六条ノ報告、若クハ第七条ノ公告ヲ為サス、又ハ其報告中若クハ公告中ニ詐偽ノ陳述ヲ為シ若クハ事実ヲ隠蔽シタルトキハ商法第二百六十二条ノ例ニ依テ処分ス
第十一条ノ検査ヲ受ケルコトヲ拒ミタルトキハ商法第二百五十八条ノ例ニ依テ処分ス
 - 第6巻 p.271 -ページ画像 
　（説明）本条ハ現条例ノ第十条ニシテ、別ニ修正ノ意見無シ（異議ナシ）
第十四条　此条例ハ日本銀行、横浜正金銀行、国立銀行ニ適用セス
　（説明）本条ハ現条例ノ第十一条ニシテ、別ニ修正ノ意見ナシ（異議ナシ）
以上十四ケ条ハ本月五日委員会修正案ノ通ニテ確定シ、尚之レニ現在既設ノ銀行ハ此条例実施ノ当日ヨリ向二ケ年ノ後之ニ遵フベシトノ附則ヲ設ケ、而シテ此修正案ヲ提出スル手続書ハ委員長並ニ委員ニ於テ取調大蔵大臣ニ上申スヘキコトトナシ、而後大阪及九州同盟銀行ヘ参考ノ為メ右修正案ヲ添ヘ通牒スヘキ事ニ議決セリ
右会事竣リ、晩餐九時退会セリ
　　　　明治二十四年六月十五日第百十三回同盟銀行定式会議
　　　　出席人名
　　　　　　　　第壱銀行　　渋沢栄一　○外二三名氏名略

明治二十四年委員決議綴込　　　　　　　（東京銀行集会所所蔵）
　　明治二十四年六月十七日　　　　　　　書記長(印)
　委員長栄一印
　委員(印)(印)(印)(印)
　　本月十五日同盟銀行定式会議之議決ニ基キ銀行条例修正案附則及大蔵大臣ヘノ上申書案並大阪九州同盟銀行ヘ通牒案左ニ御廻議申上候、尤モ大蔵大臣ヘ上申書之義ハ委員長ヨリ一応銀行局長ヘ打合セノ上奉呈可致筈ニ御座候間、右様御含置可被下候也
　　　附則
第十五条　既設ノ銀行ハ本条例実施ノ日ヨリ弐ケ年内ニ第五条ノ手続ニヨリ大蔵大臣ノ認可ヲ受クヘシ
　　　　大蔵大臣ヘ上申書案
明治二十三年八月廿三日、法律第七十二号ヲ以テ御公布相成候銀行条例ハ、専ラ私立銀行ノ営業ヲ御規定相成候義ト奉存候ヘトモ、現今之国立銀行モ早晩営業満期ニ相成、其事業継続致候際ニハ是亦本条例ヲ遵奉可致筈ニ御座候間、頃日来同盟銀行ニ於テ本条例之利害得失ヲ講究致候処、其法文簡易ニ失シテ取締上或ハ不完全之廉無之トモ難申様奉存候ニ付、審案熟議之末更ニ別紙修正案ヲ起草シ、右説明書相添ヘ奉呈仕候間、速ニ御修正相成候様御処理被下度此段奉悃願候也
　　　　大阪及九州同盟会ヘ通知書案
一翰啓上仕候、陳は昨二十三年八月廿三日法律第七十弐号ヲ以テ御布相成候銀行条例ハ専ラ私立銀行之営業ヲ御規定相成候義ト存候ヘ共、現今之国立銀行モ早晩営業満期ニ相成、其事業ヲ継続致候際ニハ是亦本条例ヲ遵奉可致筈ニ御座候間、頃日来当地同盟銀行ニ於テ本条例之利害得失ヲ講究致候処、其法文簡易ニ失シテ取締上不完全之廉無之トモ難申様被布候ニ付、審案熟議之末更ニ別紙修正案ヲ起草シ、右説明書相添ヘ　月　日大蔵大臣ヘ上呈致シ、速ニ修正相成候様致度ト悃願致置候間、御参考ノ為メ右草案相添此段御通牒申上候也
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集会録事　自明治二十四年一月至明治二十五年十二月　（東京銀行集会所所蔵）
　　　　○第百十四回定式集会録事
　　　　　　　　　　　　　　　　　栄一印　(印)
明治廿四年七月十五日、同盟銀行第百十四回定式会議ヲ開キ来会スルモノ委員長渋沢栄一氏ヲ首メ総員二十一名ナリ
委員長渋沢栄一氏ハ会長席ニ着キ、会議ニ先タチ本年上半季当銀行集会所経費決算ヲ報告シ、次ニ前会ノ決議ニ係ル銀行条例修正請願書ハ六月二十四日松方大蔵大臣閣下ヘ奉呈シ、併セテ大坂及九州銀行同盟会ヘ右ノ趣ヲ通牒シタル事、又横浜正金銀行支配人小泉信吉、副支配人山川勇木ノ二氏自今会員トシテ当会議ヘ出席ノ段照会ニ付差支ナキ旨回答取計ノ事、及昨年十二月ヲ以テ終リシ商法質義会筆記疾ニ配布スヘキ筈ナリシカ、最初説明員本尾、長谷川両氏ノ校閲ヲ経テ印刷スヘキ都合ナリシヨリ遷延シタリト雖ヘトモ、固ヨリ之ヲ公ニ発売スヘキモノニアラサレバ右両氏ヘ打合ノ上先ツ筆記ノ儘印刷スヘキ事ト為シ、不日出来スヘケレバ入用ノ部数ヲ更ニ申出アランコトヲ報道セリ
次ニ本年下半季当銀行集会所収支予算案ヲ協議ニ付セシニ、大体ニ於テ異議ナカリシカ予備費百円ハ過少ニ失シ、追徴ヲナスカ如キ事ナシトセサレバ収入ノ部経費ノ項ニ於テ一行ノ出金高拾弐円八銭トアルヲ拾五円ト修正シ、其差額九拾九円弐拾八銭ヲ予備費ノ内ニ加フヘシトノ動議ニ多数ノ同意ヲ得テ之ニ決シ、午後七時下閉会、晩餐ヲ了シテ退散セリ
（別紙）

　　明治二十四年七月十五日第百十四回同盟銀行
　　　定式会議出席人名
　　　　　　　　第一銀行　　　渋沢栄一　○外二〇名氏名略
　　○収支予算案ノ各項目数字ノ合計ト合計数字ハ一致セザレ共原文ノ儘掲ゲタリ。
　　　　○第百十八回定式集会録事
　　　　　　　　　　　　　　　　栄一印　(印)
明治二十四年十二月十一日、午後三時ヨリ同盟銀行第百十八回定式会議ヲ開キ渋沢委員長・西邑・安田・山中委員ヲ首メ来会スル者二十九名ナリ、是日日本銀行ヨリ客員トシテ山本筆頭書記来会セラレタリ
渋沢委員長ハ会長席ニ着キ、定式会議ヲ本日ニ繰上シハ予テ大蔵大臣ヘ稟請シ置タル銀行条例修正案ニ対シ、本月二日加藤監査局長ヨリ口達ヲ以テ指令アリ、其要旨ハ本条例起草ノ当時ニアリシナラハ一廉ノ参考資料トスヘキモノナレトモ、既ニ発布ノ今日之ヲ改正スル程ノ必要ナシト云フニ在リ、就テハ第二期帝国議会開会中ナルヲ以テ、此際之レヲ請願スヘキカ、将タ実施ノ状況ヲ視テ後建議スヘキカ、若シ速ニ請願スルコトトセハ其方法順序ハ如何、是レ本日諸君ニ協議ヲ要スル所以ナリ
　佐々木慎思郎氏曰、実施ノ上又修正ヲ要スヘキコトナシトセサレトモ、折角出来シタルモノナレハ、議会ヘ出スコトトナサハ如何
　三輪信次郎氏曰、最初ヨリ修正ノ必要ヲ感シ、之ヲ修正シタルモノナレハ議会ヘ提出セラレタシ
　安田善次郎氏曰、先ツ此儘ニ為シ置キシ方可然、抑当同盟銀行ハ大凡国立銀行ナリ、故ニ其営業満期迄ハ未タ七八年モアレハ本条例実施ノ上深ク之ヲ研究シ、果シテ不都合アラハ其上議会ヘ提出スルモ未タ晩シトセサルヘシ
　三輪信次郎氏曰、安田氏ハ国立銀行ハ未タ七八年ノ営業年限アリト言ハルヽモ、国立銀行カ未来ニ服従スル法律ナルヲ以テ修正セシノミニアラス、抑此修正ノ主眼トスル所ノモノハ、資本ノ制限ヲ為シ小銀行ノ設立ヲ防止スルニアレハ、国立銀行ノ年限アルヲ以テ之カ延期ノ理由トナスハ少シク合点行カサルナリ
　池田謙三氏曰、今更斯ノ如キ議論ノアルハ実ニ怪訝ニ堪ヘサルナリ
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　元来主務省ヘ之ヲ差出ス始メヨリ政府案トシテ提出セラレサルハ予メ期スル所ニシテ、当時已ニ之ヲ議会ヘ提出スルノ覚悟ヲ以テ修正セシモノナレハ、早々提出セラレタシ
　山中隣之助氏曰、大蔵省ノ容レサルハ已ニ其当時之ヲ期スルモノニシテ、詰リ御支配役ナルヲ以テ之ヲ出セシニ過キサレハ免ニ角之ヲ議会ヘ出シ、良キ考案アラハ又来年之ヲ提出スルモ妨ケナケレハ、速ニ提出アランコトヲ望ム
会長曰、本案ヲ議会ニ提出スルヲ可トスル諸氏ハ起立ト云ニ起立者多数ナルヲ以テ提出スヘキコトニ可決セリ、而シテ其提出ノ手続ハ委員山中隣之助氏ニ托シ、同氏ノ意見トシテ建議スヘキコトニ議決セリ
会長曰、貯蓄銀行条例修正案ハ本月二日大蔵大臣ヘ進達シ置キタルカ未タ何等ノ指令アラサレトモ可成銀行条例ニ尋キ建議シタキ旨ヲ以テ督促シタルコトヲ告ケシニ、衆皆云フ、若シ銀行条例同様ノ指令ナルトキハ、別ニ臨時会ヲ開カス、今回同様ノ手続ヲ以テ建議アランコトヲ望ミ之ニ議決セリ
次ニ会長ハ先般来休業中ノ久次米銀行東京支店ハ其儘同盟ニ列スレトモ如何処分スヘキヤト衆議ニ問ヒシニ、已ニ近日開店ノ噂アレハ書記長ヨリ其事情ヲ尋ネタル上処分シタル方可然トノ事ニ決セリ
次ニ会長ハ、第六国立銀行東京支店ハ本月一日本店ヲ東京ヘ移シタルト共ニ、同支店ヲ閉鎖セシ趣同本店ヨリ通知アリタレハ、従テ除名ニ帰シタルコトヲ報告セリ
委員山中隣之助氏ハ書記長以下賞与金並通信録材料取調員及法律顧問岡村博士ヘ下半季分報酬支出ノ旨ヲ報告シ、尋テ書記長及書記増給ノ件ヲ協議セシニ異議ナキヲ以テ之ヲ増給スヘキコトニ可決シ、午後六時閉会セリ
　　　　　　当日出席者
　　　　　　　　第一銀行　　　渋沢栄一　○外二八名氏名略
　　　外ニ客員トシテ
　　　　　　　　　　　日本銀行　　　　　　山本達雄
　　　　　　　　　　　大阪同盟銀行集会所　松本重太郎
　　　　　　　　　　　総代　　　　　　　　金沢仁兵衛
　　　　○第百二十二回同盟銀行定式会議録事○明治二五年五月一四日
次ニ会長○渋沢栄一ハ昨年会議ニ於テ可決シタル銀行条例改正案ハ山中隣之助氏ヲ経テ第二期帝国議会ヘ提出セシカ、議会解散ノ為メ其議ニ上ラサリシ、因テ爰ニ第三期ノ議会開会ニ際シ同業者ノ議員諸氏ニ謀リ再ヒ提出スヘキカ、又ハ十一月ノ開会ヲ俟ツテ提出スヘキヤヲ諮詢セシニ、速ニ提出スヘキノ説多数ニ及ヒ、且当期ニ於テ若シ提出スル能ハサルトキハ第四期ニ当リ委員長ノ独断ヲ以テ直ニ提出ノ手続ニ従フヘキコトヲ望ミ、遂ニ此説ニ帰決シ、而シテ委員長ヨリ同業者ノ議員ヘ協議シ其建議ヲ依頼スヘキコトニ議決セリ
　　　　○第百二十三回定式会議録事　○明治二五年六月一五日
　　　　　　　　　　　　　　　　栄一印　(印)
明治二十五年六月十五日、午後四時ヨリ同盟銀行定式会議ヲ開キ、渋沢委員長山中委員ヲ首メ、来会スルモノ二十三名ナリ、是日長崎第十
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八国立銀行頭取松田源五郎氏、日本銀行筆頭書記首藤諒氏臨席セラレタリ
渋沢委員長ハ会長席ニ着キ、会議ニ先タチ前会ノ議決ニ係ル銀行条例改正案ハ原善三郎・松田源五郎・肥田景之・中沢彦吉四氏ヨリ衆議院ヘ提出シ、去ル八日同院ノ議ニ上リ、松田源五郎氏等ノ尽力尠ナカラサリシガ、資本金制限ニ付反対者アリテ遂ニ否決シタル顛末ヲ報道シ而シテ本案ハ尚再案ノ上多少修正ヲ加ヘ、次会ニ提出ヲ要スヘキ理由ヲ陳述セリ、又第七十四国立銀行副頭取箕田長二郎氏去ル十一日病死セラレタル旨ヲ報道セリ
○中略
右会議中長崎第十八国立銀行頭取松田源五郎氏来会セラレタルニ付同氏ヘ更ニ銀行条例改正法律案提出及議事ノ模様ヲ報道アランコトヲ望ミシニ、同氏ノ報道スル所左ノ如シ
過般渋沢氏ヨリ御依頼ヲ受ケ銀行条例改正法律案ヲ衆議院ヘ提出セシニ、充分ノ討議モナクシテ否決セラレ、甚タ慚愧ニ堪ヘス、是一ニ提出者ノ尽力足ラサルニ依ルト雖当時憲法ノ解釈ニ付委員会開会中ニテ多数ノ議員ハ議席ニアラサリシト、其際法典延期断行ノ両論甚タ盛ナリシヲ以テ我々モ断行論者ナリト云フノ嫌アリシト、又此切迫ノ会期中提出ノ要ナシト云フカ如キ種々ノ事情湊合セシモノニシテ、之ヲ要スルニ時機ノ宜シカラサルモ亦否決セラレシ一原因ナラン、付テハ小生一己ノ考案ニテハ此儘之ヲ放棄セス、多少ノ修正ヲナシ次ノ議会ヘ提出セラレンコトヲ望ムナリ、蓋シ此改正案タル現在ノ条例ニ比シ大ニ優ル所アレハナリ、然リト雖熟々議会ノ趨向ヲ観ルニ、第三条資本金ノ制限ハ地方ノ小銀行ニ非常ノ迷惑ヲ与フルトノ理由ヲ以テ反対スルモノアレハ、本条ハ諸君ニ於テ御熟慮ヲ乞フ旨ヲ述ヘ、且該条例ニ付加藤監査局長ト談話ノ大要ヲ陳談シ、同八時閉会晩餐ノ後退散セリ
　　　　　　当日出席員
　　　　　　　　　第一国立銀行　渋沢栄一　○外二二名氏名略
　　　　○第百二十九回定式会議録事　○明治二五年一一月一五日
次ニ会長○渋沢栄一ハ前期帝国議会ニ提出セシ銀行条例修正案ハ第三条資本金ノ制限ニ於テ否決セラレタリト雖、尚本期議会ニ向テ再ヒ提出スヘキヤ、果シテ提出スルトセハ到底第三条ヲ修正セサルヘカラサレトモ、元来此修正ノ主眼ハ第三条ニアレハ、若シ本条ヲ修正削除スル時ハ其実本件ノ必要ナキカ如クナルヲ以テ、本期ハ姑ク之ヲ措クヘキヤ否ヲ議問ス、或ハ云第三条ヲ修正シテ以テ再ヒ提出スヘシト、或ハ云姑ク之ヲ措クヘシト、諸氏意見ヲ陳述セシカ到底本日ハ渋沢委員長ノ外委員皆欠席セシニ因リ、異日更ニ委員会ヲ開キ委員多数ノ意見ヲ以テ其可否ヲ決シ、若シ再提出ニ決セハ至急臨時会議ヲ開クヘキ事ニ議決セリ
右会事竣リ晩餐ノ後午後九時退散セリ
　　○明治二十六年十二月二十五日ノ項参照。

明治財政史　　第一二巻・第五九六―六〇四頁〔明治三八年二月一六日〕
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銀行条例已ニ発布セラルヽヤ京浜間ノ同盟銀行業者ハ東京銀行集会所ニ於テ大ニ条例ノ利害得失ヲ講究スル所アリ、而シテ其ノ結果別ニ修正案ヲ起草シ、明治二十四年六月二十四日委員長渋沢栄一ヨリ案ヲ付シテ条例ノ修正ヲ請願セリ、即チ左ノ如シ
　　明治二十三年八月二十三日、法律第七十二号ヲ以テ御公布相成候銀行条例ハ専ラ私立銀行ノ営業ヲ御規定相成候儀ト奉存候得共、現今之国立銀行モ早晩営業満期ニ相成、其事業継続致候際ニハ是亦本条例ヲ遵奉可致筈ニ御座候間、頃日来同盟銀行ニ於テ本条例之利害得失ヲ講究致候処、其法文簡易ニ失シテ取締上或ハ不完全ノ廉無之トモ難申様奉存候ニ付、審案熟議之末更ニ別紙修正案ヲ起草シ、右説明書相添ヘ奉呈仕候間、速ニ御修正相成候様御処置被下度、此段奉悃願候也
　　明治二十四年六月二十四日　　東京銀行集会所
　　　　　　　　　　　　　　　　　　委員長　渋沢栄一
　　　　大蔵大臣　伯爵　松方正義殿

　　　銀行条例修正案並ニ其説明
（右銀行条例修正案並ニ其説明略ス）
大蔵省ニ於テハ以上ノ修正案ヲ詳細調査セシニ、銀行集会所員ノ意見ハ銀行条例ノ大体ヲ変更スルモノニアラスシテ独リ其一部ヲ修正セルニ止マリ、未タ以テ帝国議会ニ提出シテ之カ修正ヲ促スノ価値ヲ有スルモノニアラス、且ツ夫レ既定ノ銀行条例ハ実際ニ於テ何等銀行業者ノ障害トナルヘキ点ヲ認メサルニ依リ、該修正請願ハ終ニ之ヲ採用スルノ必要ナキモノトセラレタリ、而シテ同年九月二十二日監査局長加藤高明カ銀行集会所ノ修正案ニ対シ、松方大蔵大臣ニ建議シタル逐条理由書ハ当時ニ於ケル政府ノ意向ヲ窺フニ足ルモノアルヲ以テ、之ヲ左ニ掲ケン
　明治二十四年六月二十四日附ヲ以テ東京銀行集会所ヨリ銀行条例修正案、並ニ其説明書ヲ提出セリ、依テ聿ニ法律第七十二号銀行条例ハ果シテ修正ヲ施スヘキモノナル乎、将タ修正ヲ加ヘサルモ敢テ施行上ニ於テモ亦実業家ニ在テモ不便ヲ与フルノ虞ナキ乎ヲ案スルニ乃チ修正案ハ法律第七十二号銀行条例ノ大体ヲ変更スルモノニアラスシテ、唯々其一部一節ノ修正ニ止マリ、要スルニ大同小異タルニ過キス、故ニ修正案トシテ格別価値ヲ有スルモノニアラス、又仮リニ数歩ヲ譲リ修正案ハ総テ其当ヲ得タリトスルモ未タ以テ銀行条例ノ修正ヲ促スニ足ルノ価値ヲ有スルモノニアラス、故ニ今其当否ヲ論スルノ要ヲ見サルモ、尚ホ逐条ニ就テ聊カ概論セン
　　第一条　銀行ノ業ヲ営ムモノニ悉ク銀行ノ名称ヲ附センコトヲ修正案第一条、第四条ニ記載シタリ、近来銀行業ヲ営ムモノハ銀行ノ名称ヲ附セスシテ銀行業ヲ営ムモノ亦尠ナカラス、銀行業ハ一国ノ理財上ニ関係ヲ有スルヲ以テ、特ニ条例ヲ設ケテ之ヲ監督スト雖モ、固ヨリ普通ノ一事業ニシテ何人ニテモ経営スルコトヲ得ルモノナリ、且ツ銀行ノ名称ヲ附セサルカ為メニ種々ノ行違ヲ生スルノ理ナキニヨリ、本条修正ノ必要ヲ見ス
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　　第二条　銀行条例ノ第一条ハ銀行ナルモノヽ定義ヲ掲ケタルマテニシテ、業務ノ種類ヲ確定スルノ旨意ニアラス、又敢テ営業範囲ノ広狭ニ関係ヲ有セシムルノ精神ニアラス、是銀行ノ業務ハ慣習上自カラ一定ノ範囲アルカ故ニ、苟モ銀行業ヲ目的トスルモノハ特ニ修正案ノ一条ヲ設ケサルモ、本条ニ掲クル所ノ業務ヲナシ得ヘキハ論ヲ俟タサルナリ、又其目的ノ銀行業ニアル以上ハ特ニ明文ヲ掲ケテ他ノ業務ニ従事スルコトヲ禁セサルモ、氾濫ニ流ルヽノ虞之レナカルヘシ
　　第三条　銀行業ハ前ニ（第一条ノ部）述フル如ク普通ノ業務ナレハ決シテ其資本金額ニ制限ヲ加ヘ、之ヲ覊束スルノ理ナシ、殊ニ本邦今日ノ私立銀行ノ如キハ、却テ五万円以上ノモノ頗ル多シ、故ニ若シ斯ノ如キ制限ヲ置クハ一般営業ノ自由ヲ妨ケテ一国理財上ノ円滑ヲ欠クノ恐レアリ
　　第四条　銀行ノ商号ニ必ス銀行ナル文字ヲ付セシムルノ必要ナキ所以ハ、第一条ニ弁シタレハ此ニ贅セス
　　第八条　積立金ハ資本金ニ損失ヲ醸シタルノ際、之ヲ補塡スル為メニ積立ツルモノナレハ臨時変動スルヲ免レサルモノニシテ、固ヨリ資本金ト同視スヘキモノニアラス、大ニ其性質ヲ異ニセリ、況ンヤ銀行ノ為メニ決シテ好ムヘキコトニアラサルニ於テオヤ、又況ンヤ定期貸付ヲ主トスルノ今日ニ於テオヤ
　　　割引ハ正面ノ理論上ヨリスレハ貸付金ト性質ヲ異ニスルカ故ニ貸付金ト同一視スルハ穏当ヲ欠クノ嫌ナキニアラサレトモ、今日ノ実際ヨリ論スレハ割引ノ大半ハ貸付金ト同様ノモノニシテ弊害尠ナカラス、故ニ割引ト雖モ貸付ト同一ノ制限ヲ置クハ最モ実際ニ適シタルモノニシテ、今日修正スルノ必要ヲ見ス
　　第九条　東京大阪等ハ商賈ノ慣習上日々営業ノ時刻概ネ早シト雖モ、地方ハ概ネ晩シ、且ツ今日ノ実際ニ於テハ慣習上表面ハ午後三時トナスモ、実際ハ四時若クハ五時マテモ取引ヲナスモノ多シ、蓋シ一日ノ取引ハ午前ヨリハ寧ロ午後ニ繁ナルヲ常トスルニ由ルナラン、故ニ今法律ニ之ヲ四時ニ定ムルハ、却テ実際ニ適シタルモノニシテ、三時トナスハ却テ実際ニアラス
　　第十五条　既設銀行ニ二年ノ猶予ヲ与フル必要ヲ見ス
　以上陳弁スル所ニ依リ、別紙修正案ハ今日之ヲ採用スルノ必要ナキモノト思考ス