デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治24年9月15日（1891年）

民事訴訟法第六十三条代理人ノ件ヲ審議ス。又調査委員ノ起草ニ係ル貯蓄銀行条例修正案ヲ審議ニ附ス。同修正案ニ就テハ爾来屡次協議ノ上十二月二日大蔵大臣ニ上申シタルモ採用サレザリキ。

明治二十四年委員決議綴込　　　　　　　（東京銀行集会所所蔵）
　　明治二十四年九月十日　　　　　　　　　　　　　　書記長(印)
　委員長栄一印
 - 第6巻 p.278 -ページ画像 
　委員(印)(印)(印)(印)
昨九日調査委員会相開キ、貯蓄銀行条例修正案別紙ノ通議了相成候ニ付、別ニ御異議モ無之候ハヽ、来ル十五日定式会議之議案トシテ提出致度此段御廻議申上候也

集会録事　　自明治二十四年一月至明治二十五年十二月　　（東京銀行集会所所蔵）
　　　　○第百十五回同盟銀行定式会議録事
　　　　　　　　　　　　栄一印　(印)
明治二十四年九月十五日、同盟銀行第百十五回定式会議ヲ開キ来会スルモノ委員長首メ総テ二十五名、又客員トシテ日本銀行筆頭書記山本達雄氏来会セラル、委員長渋沢栄一氏ハ会長席ニ着キ、会議ニ先タチ報告スルコト左ノ如シ
○中略
会長ハ一議案ヲ提出シテ曰ク、民事訴訟法第六十三条ニ「原告若クハ被告自ラ訴訟ヲ為サヽルトキハ弁護士ヲ以テ訴訟代理人トシテ之ヲ為ス云々」トアリテ、地方裁判所以上ノ裁判ニ向ヒ起訴スルトキハ本人出廷スルニアラサレハ弁護士ニ委任セザルベカラザルコトニ規定セラレタリ、然ルニ商法第五十一条第二項ニ「使用人カ主人ノ為メ訴訟ヲ為シ又ハ云々」トアリテ、商業主人ノ都合ニ依リ特ニ委任スル時ハ、使用人ヲシテ出廷セシムルコトハ敢テ妨ケナキカ如クナルヲ以テ、此ニ疑団ヲ生スルヨリ之ヲ或ル法律家ニ詢問セシニ、商法第五十一条第二項立法ノ精神ハ畢竟、民事訴訟法第六十三条ニ従ヒ之ヲ為スヘシトノコトヲ規定シタルモノナレハ、区裁判所ノ外ハ使用人ヲ出廷セシムルコトハ能ハサルナリ、尤代理人ニ関スル件ハ民事訴訟法第四十五条及商法第百四十一条ニ規定シアレトモ又近時或ル華族ノ訴件ニ於テ総代理人ヲ本人ト看做シテ判決セラレタル類例モアレハ其事情ニヨリテハ強チ能ハサルニモアラサルヘキ歟云々、是レ一問答ニ過キサレトモ今後法理上ニ於テ種々疑問ノ生スヘキハ免ルヘカラサルノ事ナルヲ以テ、相当ナル法律家ヲ当集会所顧問ニ備ヘ、疑問有ルニ当リ委員会又ハ同盟会議ニ参与セシメ若クハ文書ヲ以テ質問スル等都テ時宜ニ応シ而シテ其報酬ハ半季間約ソ七十円ヨリ百円迄ト為シ、若シ臨時重要ノ事件ヲ托スルコトアルトキハ別ニ相当ノ謝儀ヲ為スヘシト雖ヘトモ、当所ヨリ訴件ノ生スルカ如キ事万ナキ者ト云ヲ得ヘシ、右ニ付少シク立入タル如クナリシカ其顧問ニ於テ小子意中ノ人ハ即チ岡村輝彦氏ナルヲ以テ、先ツ人ヲシテ私カニ其意ヲ問ヒシニ敢テ異議ナキノミナラス却テ我団体ニ望ヲ嘱スルモノヽ如シ、請フ各位ノ意見ヲ聴カント、各位皆同氏ニ嘱托スルコトニ同意ヲ表シテ而シテ本年下半季間ノ報酬ハ予備費ノ内ヨリ支出スヘキ事ニ議決セリ
次ニ調査委員ノ起草ニ係ル貯蓄銀行条例修正案ヲ提出シ、先ツ大体議ヲ定メ、後逐条審議ニ移ルヘキ旨ヲ告ケ、書記長ヲシテ之ヲ朗読セシメ、又其説明ハ調査委員ノ一人タル池田謙三氏ニ嘱セリ
　山中隣之助氏ハ説明ニ先タチ調査委員ニ望ンテ曰ク、本条例第八条ニハ銀行ニシテ貯蓄銀行ヲ兼業スルヲ得ル如クナレドモ、国立銀行ニハ之ヲ許スノ明文無シ、国立銀行モ亦資本ヲ分チ、若クハ別段積
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立金ヲ以テ兼業スルヲ得ルヲ要スルニ付、右等ノ事モ併セテ説明セラレンコトヲ請フ
　池田謙三氏曰ク、本条例ハ疾クニ修正スヘキ筈ナリシカ、追々延引ニ及ヒ頃日調査委員会ニ於テ此修正ヲ脱稿シタリ、爰ニ其修正シタル大要ヲ挙クレハ現条例ニハ資金ノ運転区域甚タ狭ク、殆ント其質物アラサル如クナルヲ以テ地金銀ノ一項ヲ加ヘ尚又大蔵大臣ノ認可ヲ得ルニ於テハ相当ノ物品ヲ質ト為シ以テ其運用区域ヲ拡メ、及ヒ現在ノ銀行ニシテ貯蓄銀行ヲ兼営スルコトヲ得ヘキトニアリ、今山中氏ノ望マルヽ国立銀行ノ事ハ未タ確タル意見ヲ有セサルニ付、本日各位ノ意見ヲ聴クヘシト予期セシ所也
　佐々木勇之助氏曰、国立銀行モ亦第八条ノ銀行ニシテノ文字中ニ含蓄スル者ノ如ク思惟スレトモ尚確答スルヲ難シトス
　安藤浩氏曰、銀行ニシテ貯蓄銀行ヲ兼ヌルトキハ、誠ニ百万円ノ銀行ニシテ十万円ノ貯蓄銀行ヲ営ムトセハ其銀行ハ九拾万円ノ資本トナルヘキ者ナルヤ
　池田謙三氏曰、否百万円ノ銀行ニシテ其中十万円ヲ貯蓄事業ノ資金ト為シ、其計算及帳簿ヲ別ニ為ス迄ニシテ、百万円ヲ九十万円ト為スモノニアラサルナリ
　山本達雄氏曰、然ラハ貯蓄銀行ヲ兼業スルハ銀行一部ノ仕事トシテ成シ得ヘキ意味ナルヤ、果シテ然ラハ其貯蓄銀行ニシテ一朝不幸ノ破産ヲナス場合ニハ、其取締役ハ勿論産ヲ挙ケテ之ヲ出スハ当然ナリト雖、尚夫ニテ足ラサルトキハ其銀行ニ迄及ホスヘキヤ
　池田謙三氏曰、夫迄及ホサヾル積ナリ、貯蓄銀行ノ資本ト取締役ノ財産ニ限ルノ意ナリ
会長曰、一二箇条ニ異議アリト雖、大体上異議ナキカ如クナレハ、是ヨリ逐条審議ニ移ルヘシトシテ原案ヲ朗読セシム
第一条
第二条
第三条
第四条
第五条
　皆異議ナシ
第六条
　山中隣之助氏曰「疑フヘキ理由ノ存セサル者二名以上ノ裏書」云々トアルトキハ、其手形ヲ割引センカ為メ裏書人一人ナル場合ニ当リ殊更他ニ一人ノ裏書人ヲ作ルカ如キ事ナシトセサレハ寧ロ「者二名以上ノ裏書アル」迄ノ十字ヲ刪除シテハ如何
　池田謙三氏曰、此条ハ原文ニシテ修正セサリシ者ナリ、各位ノ意見ニヨリテハ刪除スルモ可ナリ
　三輪信次郎氏曰、夫レカ為メ作リ手形ヲ為スモノアルヘシト雖、其種ノ手形ハ疑ヒアルモノトシテ割引セサレハ可ナリ
　佐々木慎思郎氏曰、二人以上アルハ最モ確実ナル事ヲ含味スル迄ノモノナレハ、之ヲ存スルモ妨ケナカルベシ
　池田謙三氏曰、敢テ原文ヲ存スルヲ望ム
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　山本達雄氏曰、此但書ハ大蔵大臣ノ認可ヲ得ルトキハ地方ノ情況ニヨリ質物ヲ増加スルヲ得ル、仮令ハ上州ニ於テハ生糸ヲ質ト為スノ類ナルヤ
　佐々木勇之助氏曰、夫程迄ニ至ラストモ株券ノ中ニモ国債証券、地方債証券ノ如ク随分確実ナルモノアルカ故ニ其等ヲ取ルノ謂ヒナリ
　山本達雄氏曰、若夫レ一地方限リ質物ヲ許可スルトキハ貯蓄預ケヲ為ス者ハ一々其銀行ノ質物及其営業振リヲ知ラサルヘカラサルカ如キ不都合有ルニ至ラン
　山中隣之助氏曰、苟モ法律トシテ発布ニナリシモノヲ、大蔵大臣ノ手心ニ依リ、一地方限リ之ヲ許スカ如キハ実際為シ難キコトナラン
　山本達雄氏曰、仮ニ大蔵大臣カ之ヲ許ストスルトキハ一応便利ナリト雖、又一方ニハ夫カ為メ銀行者自ラ不都合ヲ感スル事アルノミナラス法律ノ力ヲ薄弱ナラシムルニ至ラン
会長曰、行政官タル大蔵大臣カ法律ニ対スル処分ハ実際如何アラント考フレハ是等モ法律家ニ質シテ後決意スルヲ要スト、然レトモ預金運用上ヨリ見レハ此但書有ルヲ便利トスルノ説多数ヲ占メ、遂ニ修正案ニ決セリ
第七条異議ナシ
第八条異議ナシ
第九条
　山中隣之助氏曰、前説ノ如ク百万円ノ銀行ニシテ十万円ヲ以テ貯蓄銀行ヲ兼業スル時ハ、其銀行ハ到底九十万円ノ資本トナラサルヘカラス、調査委員ノ云フ如クナレハ一ノ資本ヲ二重ニ使用スル嫌アリ又其取締役選挙法ハ何ヲ標準トスヘキヤ
　池田謙三氏曰、取締役ハ現在銀行ニテ選挙シタルモノヲ以テ兼任スルナリ
　佐々木勇之助氏曰、百万円ノ銀行カ資本金ノ内十万円ヲ分割シテ貯蓄銀行ノ資金ト為シ、以テ其銀行ハ九十万円ノ資本トナルニ至テハ是レ兼業ニアラスシテ純然タル独立ナリ
　池田謙三氏曰、銀行ノ資本ハ矢張百万円ニシテ其兼業ニ属スル貯蓄銀行ノ計算及帳簿ヲ殊別スルニ止マリ、必其資本ヲ減少スルニ非ラサルナリ
　山中隣之助氏曰、資本ヲ分ツニモ拘ハラス依然百万円ト称スルトキハ万一其銀行ニシテ破産スル場合ニ当リテハ債権者ハ貯蓄銀行ノ資産迄ニ及ホシ得ヘキヤ
会長曰、是等ノ事ハ所謂法理上ノ問題ニシテ其解釈ニ窮スレハ宜シク之ヲ法律家ニ問フヘシト、衆皆同意セリ、而シテ第十条ヨリ第十二条迄ハ皆此第九条ニ関係ノ箇条ナレハ、第九条ノ修正ニヨリテ存廃シ、此ニ審議スルノ効用ナキ者トシ第十三条第十四条ハ異議ナシ
　池田謙三氏曰、国立銀行ニシテ兼業シ得ルヤ否ハ一ノ疑問ニ属スレハ第十三条ノ次ヘ「国立銀行ニシテ貯蓄銀行ノ事業ヲ兼業セントスルトキハ、第八条ヨリ第十二条迄ノ規則ニ従フベシ」トノ一ケ条ヲ加ヘテハ如何
　山本達雄氏曰、銀行条例ニ此条例ハ日本銀行横浜正金銀行国立銀行
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ニ適用セストアルヲ以テ見レハ、国立銀行ニシテ貯蓄銀行ヲ兼業スルハ其特殊ノ条例ニ牴触スルノ嫌ナキヤ
会長曰、然リ、国立銀行ニ適用セスト云フ以上ハ此貯蓄銀行条例第八条ノ銀行ト云フ内ニ含有スルヤ否ヤ、是等モ亦法律上ノ見解有ルヘキニ付、併セテ質疑ヲ経テ次会ヲ俟チ確定スヘシト、衆皆同意セリ
○中略
　追録
　本日第一議案ニ係ル法律顧問傭聘ノ件、議決ヲ得ルヨリ、渋沢委員長ハ其十九日岡村輝彦氏ヲ訪ヒ、銀行営業上ニ渉ル法律若クハ諸証書文例等ニ係リ疑義有ル時ハ、同盟銀行会議又ハ委員ノ会議ニ同氏出席シテ顧問ニ当ランコトヲ請ヒ、且ツ其報酬ノ如キハ事件ノ繁閑ニ依ルヘシト雖、半季間凡金七十円ヨリ一百円位ヲ贈付スヘキ事ヲモ打明ケ、談話セシニ岡村氏ハ我同盟ノ団体タル実業者ニ接スルノ満足ヲ述ヘ、報酬如何ニ至テハ聊介意セサル旨ヲ答ヘテ速ニ承諾セラレタリシ

銀行通信録　第七一号・第七―一二頁〔明治二四年一〇月二八日〕
　　　　○録事
明治廿四年九月二十五日、午後四時ヨリ委員会ヲ開キ、渋沢委員長・西邑・安田・山中三委員及調査委員諸氏来会セリ、是日ハ今回法律顧問ニ嘱托シタル岡村輝彦氏ノ臨席ヲ乞ヒ、去ル十五日同盟銀行会議ニ於テ疑義ヲ論シタル民事訴訟法第六十三条代理人ノ件及貯蓄銀行条例修正案等ニ就キ質義《（疑）》ヲ問答シタル要略左ノ如シ
問　民事訴訟法第六十三条ニ代理人ノ件ヲ規定シ、地方裁判所以上ニハ本人出廷スルニアラサレハ弁護士ヲ以テ訴訟代理人ト為スヘシトアリ、然ルニ商法第五十一条第二項ニハ「使用人カ主人ノ為メニ訴訟ヲ為シ、又ハ裁判所ニ出テ或ル行為ヲナスハ特別ノ委任ヲ受ケタルトキニ限ル」トアリテ特ニ委任スルトキハ使用人ヲシテ出廷セシムルモ妨ケナキカ如ク思惟セラル、孰レニ適従スヘキヤ
答　之ヲ判別スルニハ先ツ第一ニ法律施行ノ前後ヲ区別シテ考定セサルヘカラス、今日ノ場合ニテハ訴訟法ハ既ニ本年一月ヨリ実施セラレタレトモ、商法ハ二十六年一月迄延期セラレ、施行未然ノモノナレハ現今ニ在リテハ専ラ訴訟法第六十三条ヲ遵守シ、本人出廷スルコト能ハサル場合ニハ、必ス弁護士ニ委嘱セサル可ラスト断言スヘキナリ、然シ商法第五十一条第二項ハ充分有力ノモノナレハ、該法実施ノ日ニ至ラハ之レニ依リテ業務ノ一部ヲ負担スル使用人ニ其主人ヨリ代理委員ヲ与フレハ何レノ裁判所ヘ出廷セシムルモ決シテ妨ケナカルヘシ、尤モ支店ニ起ル訴件ナレハ其支店主タルモノハ即チ訴訟法第六十三条ノ所謂本人ナレハ、其本店主人ヨリ特ニ委任ヲ受クルニ及ハサルハ勿論ノコトナリ、先頃八王子通運会社支店ニ起リタル訴件ノ如キ、余カ担当シテ実験シタル所ノ一例ナリ
問　頃日甲某カ所有スル或ル株券ニ委任状ヲ付帯シテ乙某ニ融通ノ為メ貸与ヘタルニ、乙某ハ之ヲ抵当トシテ丙某ヨリ金円ヲ借入レタリシニ、其後乙ハ返金ノ資力ヲ失ヒタルヲ以テ、丙ハ其付帯ノ委任
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状ニ依リ自身ノ所有ニ移シタリ、故ニ甲某ハ直ニ丙某ニ対シテ株券還付ノ訴ヲ起シ、始審及控訴共ニ勝利トナリ、該株券ハ将ニ甲ノ手ニ復セントセリ、蓋此委任状ニハ代理者ノ姓名及年月日ヲ定メテ記入セサルカ故ニ完全ノ委任状ト認メ難シト云、尤聞ク所ニ拠レハ此訴件ハ種々入込タル事情アルヲ以テ一般ノ標準タルヤ否ヲ詳カニセス、若シ之ヲ適法ノ裁判トスルトキハ我々銀行者カ現ニ取扱フ処ノ貸付金抵当割引担保品ノ如キハ皆其委任状ト同様ナルヲ以テ其迷惑実ニ浅少ナラス、之ニ対スルノ意見ハ如何
答　委任状ニ商業委任・通常委任ノ区別アリ、其商業委任トハ公債証書又ハ株券等ノ如キモノニ付帯スルモノナリ、是等売買ノ頻繁ナルモノニハ取引上便利ノ為メ殊ニ注意シテ姓名年月日ヲ記入セサル委任状ヲ用ユルハ旧来ノ慣例ナレハ、適当ノ手続ヲ経テ受取タルモノニハ決シテ危険ノ憂アルコトナシ
問　貯蓄銀行条例第八条銀行ニシテ、貯蓄銀行ノ事業ヲ営マントスルトキハ云々トアリ、此銀行トハ国立・私立ヲ問ハス銀行ノ名称有ルモノハ総テ包含スルモノナルヤ、或ハ昨年八月法律第七十二号ヲ以テ公布セラレタル銀行条例ニ規定シタル銀行ヲ特指スル者ナルヤノ疑義アリ、法文ノ解釈ハ如何
答　銀行ノ名称ヲ用ユルモノハ、其国立タリ私立タルヲ論セス銀行業務ヲ営ムモノハ皆此第八条ニ拠ルヘキハ当然ナリ
問　同条例修正案第九条、銀行ニシテ貯蓄銀行ノ事業ヲ兼業スルトキハ其資本金ノ内ヨリ三万円以上ヲ分チ云々トアリ、其之ヲ分ツハ即貯蓄預リ金仕払保証ノ意ヲ以テ普通営業資本金ト区別スルモノナレハ、畢竟本店銀行ノ資本減少スル者ニハアラサルカ、或ハ資本ヲ分チ云々トイヘハ、例ヘハ百万円ノ銀行カ十万円ヲ分割シテ貯蓄銀行ヲ営ムトキハ、即本店資本ハ九十万円トナルヘシトノ説アリ、法理上ノ見解如何
答　貯蓄銀行ナルモノト普通銀行ナルモノトノ性質ヲ研究スルハ第一ノ要点ニシテ、其本原定マレハ分流自ツカラ明ナルヘシ、而シテ其性質タル全ク別種ノモノナルヘシト思惟スレハ、勢ヒ双方各独立ノ株式会社ト為サヽル可カラス、然ラサレハ同一ノ資本ヲ以テ貯蓄銀行ヲ営ムヲ許ストノ条項ヲ設クルヲ要ス、去リナカラ渋沢氏所説ノ如ク現在ノ銀行ニシテ兼業スルノ果シテ国家経済上便益ナルモノトセハ、条例ニ修正スルヲ要セス、別ニ現在銀行業務ノ一部トシテ貯蓄預リノ取扱ヲ為シ得ヘキ考案ヲ立ツルヲ可ナリトス
是ニ於テ銀行条例中ニ貯蓄預リ業ヲ兼営スヘキ法文ノ立案ヲ亦同氏ニ托シ、而シテ他日更ニ一会ヲ催シ、且田尻・加藤両氏ノ意見ヲモ聞クヘキ為メ委員長ヨリ其会ヘ出席ヲ請求スヘキコトニ決シ、午後九時退会セリ

集会録事　　自明治二十四年一月至明治二十五年十二月　（東京銀行集会所所蔵）
　　　　○第百十六回定式会議録事
明治二十四年十月十五日、同盟銀行第百十六回定式会議ヲ開キ委員西邑虎四郎氏ヲ首メ総員二十七名来会シ、又客員トシテ日本銀行筆頭書
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記山本達雄氏来会セラレタリ
委員西邑虎四郎氏ハ各位ニ告クルニ本日ハ委員長病気欠席ニ付、二三報道ノ件及銅貨処分諮問ニ対スル件等ハ書記長山中譲三氏ヨリ報道セシムヘキ旨ヲ以テシ、乃チ其報道スル所左ノ如シ
三井銀行総長三井高保氏、同理事中上川彦次郎氏自今会員トシテ当会議ヘ出席スヘキ旨通知アリテ本日出席シタル事、又横浜正金銀行支配人小泉信吉氏、同行副支配人山川勇木氏、第一国立銀行支配人熊谷辰太郎氏、第三十九国立銀行東京支店主管牧斎太郎氏、第百四十七国立銀行東京支店支配入宮之原軍吉氏等モ亦本日出席ニ付、之レヲ披露セリ
次ニ前議ニ係ル法律顧問招聘ノ件ハ委員長ヨリ法学博士岡村輝彦氏ヘ嘱托ヲ為シ、承諾セラレタル事
貯蓄銀行条例修正案ハ去月二十五日、及本月十二日委員会ヲ開キ岡村博士ノ出席ヲモ求メ、十分審議セシカ尚再応取調ヲ為シ、他日熟議ニ付スヘキ事
民事訴訟法第六十三条代理人ノ件モ亦岡村博士ヘ質問セシカ、商法第五十一条第二項モ有力ノ法文ニシテ、該法実施ノ上ハ使用人ニ委任シテ出廷セシムルルコト差支ナカルヘシト雖施行未然ノ法律ナレハ現今ニ在リテハ必ス民事訴訟法第六十三条ノ明文ニ拠ラサルヘカラサルナリトノ意見ナリシ事
　　　　○第百十七回定式会議録事
明治二十四年十一月十六日、同盟銀行第百十七回定式会議ヲ開キ、渋沢委員長安田委員山中委員ヲ首メ来会スルモノ二十七名ナリ
渋沢委員長ハ会長席ニ着キ、議事ニ先タチ報告シテ曰ク、本月十三日第十五国立銀行ニ向ヒ不正ノ当座小切手ヲ以テ当坐預ケ金ヲ為シ金六百円ヲ騙取シタル者アリシ趣、同行ヨリ通知アリシヲ以テ乃チ其顛末ヲ詳述シテ自今小切手ニテ受取ルヘキ際ハ厚ク注意スヘキコトヲ警戒シ、又大阪同盟銀行総代田中・松本両氏ヨリ曾テ協議ヲ経タル銀行紙幣消却方法ニ係リ、今回加藤監査局長ヘ書面ヲ差出シタルヲ以テ去月二十三日其謄本ヲ送致セラレタリシ事、及爾後同局長ヘ面晤シタル大意ヲ報道セリ
次ニ甞テ米国第三銀行ニ寄寓シ、彼国銀行実務ニ従事シタル文学士土子金四郎氏ヲ聘シテ其談話ヲ聴聞センコトヲ議シ、皆同意ナルヲ以テ之ニ関スル費用ハ一時集会所ヨリ立替置キ、追テ聴聞者ニ割合、之ヲ徴収スヘキコトト為シ、而シテ其人員ハ一行凡五名ト予定シ、其人員ヲ集会所ヘ通知スヘキ事ニ議決セリ
次ニ会長ハ第一議案即貯蓄銀行条例再修正案ノ会議ニ移ルヘキコトヲ告ケテ曰ク、前ニ本条例修正案ヲ提出シテ会議ニ付セシカ、其不完全ナルヲ以テ再校ヲ要シ、並ニ岡村博士ニ諮詢スル等調査委員諸氏ノ費心ヲ経テ玆ニ其脱稿ヲ得、本日之ヲ提出スルニ至リシナリト、衆乃チ之ヲ議シ其大躰ノ如キハ敢テ異議有ルニアラサレトモ、第三条貯蓄預金払戻シノ保証トシテ預リ金総高ノ三分一ヨリ少ナカラサル金額ヲ供託所ヘ預ケ入ルヽコトハ反テ現条例ヨリモ厳重ニ過クルノ感アリ、蓋現条例ニ拠ルハ資本金ノ半額ヲ供託所ヘ預ケ入ルレハ仮令幾十万円ノ
 - 第6巻 p.284 -ページ画像 
預リ金アルモ随意タルヘキモノナルニ、此修正案ハ預リ金ノ増加スルニ従ヒ其三分一ヲ供託所ヘ預ケ入レサルヘカラサルノミナラズ、又預金払戻ノ準備ヲモ備フヘキヲ以テ、仮令其運転区域ハ現条例ヨリ寛大ナルモ当事者ニ於テハ反テ不利ナキヲ保チ難キニ因リ、寧ロ現条例ヲ存シテ此修正案ヲ廃棄スヘシト云ノ議ヲ生シ、又一方ハ其資金運転区域ノ如キハ現条例ノ定ムル所甚タ狭隘ナレトモ、此修正案ニハ其等ノ制限ヲ置カスシテ大ニ優ル処アレハ原案ノ如ク修正スヘキコトヲ望ミ種々討議ノ後、竟ニ多数ヲ以テ原案ニ可決セシニヨリ、之ヲ大蔵大臣ヘ進達シ、速ニ修正セラレンコトヲ請ヒ、併テ前ニ提出セシ銀行条例修正案ノ処理如何ヲモ聴クヘキ事ニ議決セリ

明治二十四年委員決議綴込　　　　　　　（東京銀行集会所所蔵）
　　明治二十四年十一月二十日　　　　　　書記長
　委員長
　委員
　　本月十六日、同盟銀行定式会議ニ於テ議決相成候貯蓄銀行条例修正案大蔵大臣ニ御進達可相成ニ付、上申案並右説明書案共御廻議申上候也
　　　　大蔵大臣ヘ上申書案
明治二十三年八月二十三日、法律第七十二号ヲ以テ御公布相成候貯蓄銀行条例ハ専ラ貯蓄預リ金ノ業務ヲ営ムモノヲシテ其責任ヲ重クシ、預ケ人ノ安寧鞏固ヲ保タシムルノ御趣旨ト奉存候得共、従来民間ニテ貯蓄預リノ事業ヲ営ミ候ハ、多ク国立及私立ノ銀行ニ於テ預リ金ノ一部トシテ極メテ簡易ノ手続ヲ以テ取扱居候為メ一般ニ便益ヲ覚ヘ、漸次発発《（マヽ）》致候議ニ有之候、故ニ該条例第八条ヲ以テ銀行ニシテ貯蓄銀行ノ事業ヲ兼営セシメラルヽノ規定ヲ設ケラレ候モ、実際ノ事情御酌量ノ上御考定相成候議ト奉存候、然ルモ事実上ニ於テ之レヲ考究スレハ取締役責任ノ異ナル等、彼此矛盾セシ場合不少候ニ付、終ニ兼営ノ事ハ難出来哉ニ相見ヘ、国家経済上ヨリ観察仕候モ頗ル不便不利益ノ儀ト奉存候、就テハ該条例第三条ヨリ第六条迄ニ御規定相成候取締役連帯無限責任、及資本入金ノ半額預入及資金運転区域並ニ其制限等ハ悉ク之ヲ廃止シ、其代リトシテ、別紙修正案第三条ノ如ク貯蓄預リ金総高ノ内三分一ニ相当スル金額ヲ国債証券、又ハ地方債証券ニテ供託所ニ預入レシメ、以テ臨時不慮ノ節払戻準備ニ充ツルノ制ニ御改正相成従前ノ国立及私立ノ銀行ニモ兼業セシメラレ候様相成候ハヽ、一般人民貯蓄ノ念慮モ益々発達致シ、理財上ノ秩序モ亦以テ整理可致儀ト奉存候
右ハ先般来同盟銀行再三熟議ノ末別帋修正案ヲ起草致候ニ付、説明書相添奉呈仕候間、速ニ御修正相成候様御処理被成下度、此段奉悃請候也
　　　　　　　　　　　　　　東京銀行集会所
　　年　月　日　　　　　　　　　　委員長　渋沢栄一
　　　大蔵大臣宛
　　　　○
 - 第6巻 p.285 -ページ画像 
第一条
　（説明）本条ハ現条例ノ第一条ニシテ別ニ修正ノ意見ナシ
第二条
　（説明）本条ハ現条例ノ第二条ニシテ別ニ修正ノ意見ナシ
第三条
　（新）本条ヲ設ケタル理由ハ、現条例第三条取締役連帯無限ノ責任同第四条資本入金ノ半額ヲ供託所ヘ預ケ入ノ事、同第五条・第六条ニ資金運転ノ区域及制限等ノ箇条ヲ刪除シタルニヨリ、其代リトシテ預リ金総高ノ三分一ヲ供託所ヘ預ケ入、以テ充分其責任ヲ鞏固ナラシメ、而シテ其残リ資金ヲ運転スルノ区域ハ現条例ノ如ク国債証券及地方債証券トノミ限ラス、地金銀其他確実ノ物品ニ対シ広ク運用シテ自他ノ便利ヲ計リタルモノナリ
第四条
　（説明）本条ハ現条例ノ第七条ニシテ別ニ修正ノ竟見ナシ
第五条
　（説明）本条ハ現条例ノ第八条ニシテ別ニ修正ノ意見ナシ
第六条
　（説明）本条ハ現条例第九条ニシテ貯蓄銀行ノ下ニ又ハ貯蓄銀行ノ業務ヲ兼業スル銀行ノ十六字ヲ加ヘ、兼業者モ亦同様責任アルコトヲ明ニシタルナリ
第七条
　（説明）本条ハ現条例ノ第十条ニシテ、別ニ修正ノ意見ナシ

銀行通信録　第七二号・第四―六頁〔明治二四年一一月二八日〕
　　　　当日議案
第一議案
　　　　貯蓄銀行条例再修正案
第一条　複利ノ方法ヲ以テ公衆ノ為ニ預金ノ事業ヲ営ム者ヲ貯蓄銀行トス
　銀行ニ於テ新ニ一口五円未満ノ金額ヲ定期預リ若クハ当座預リトシテ引受ルトキハ貯蓄銀行ノ業ヲ営ム者ト為シ此条例ニ依ラシム
第二条　資本金三万円以上ノ株式会社ニ非サレハ貯蓄銀行ノ業ヲ営ムコトヲ得ス
第三条　貯蓄銀行ハ貯蓄預金払戻シノ保証トシテ預リ金総高ノ三分一ヨリ少ナカラサル金額ヲ利付国債証券及地方債証券ニテ備ヘ置キ之ヲ供託所ヘ預ケ入ルヘシ
　本条ノ保証品ハ毎半季末日現在ノ預リ高ニ依リ増減スルモノトス然レトモ半季中其預リ金二倍ニ増シタルトキハ直ニ前項ニ依リ供託所ヘ預ケ入ルヘシ
　　但半額ニ減シタルトキハ本条ノ割合ニ準シ引出スコトヲ得
第四条　貯蓄銀行ニ於テ其定款ヲ変更セントスルトキハ地方長官ヲ経由シテ大蔵大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第五条　銀行ニシテ貯蓄銀行ノ事業ヲ営マントスルトキハ地方長官ヲ経由シテ大蔵大臣ノ認可ヲ受クヘシ
 - 第6巻 p.286 -ページ画像 
第六条　貯蓄銀行又ハ貯蓄銀行ノ業務ヲ兼業スル銀行ニシテ此条例ノ規定ニ違反シタルトキハ、其取締役ヲ五十円以上五百円以下ノ罰金ニ処ス、貯蓄銀行ニアラスシテ貯蓄銀行ノ業ヲ営ミタルトキハ、営業主又ハ会社ノ業務担当社員若クハ取締役ヲ前項ノ罰ニ処ス
第七条　此条例ニ特別ノ規定ヲ設ケサルモノハ総テ銀行条例ニ依ル
　　　　附則
第八条　既設ノ貯蓄銀行ハ本条例実施ノ日ヨリ二ケ年内ニ第五条ノ手続ニヨリ大蔵大臣ノ認可ヲ受クヘシ

集会録事　　自明治二十四年一月至明治二十五年十二月　（東京銀行集会所所蔵）
　　　　○第百十九回定式会議録事　栄一印　(印)
明治二十五年一月六日、午後四時ヨリ新年賀筵ヲ兼ネ同盟銀行第百十九回定式会議ヲ開キ、渋沢委員長・園田・安田・山中委員ヲ首メ来会スルモノ三十六名ナリ、是日客員トシテ日本銀行筆頭書記山本達雄氏来会セラレタリ
渋沢委員長ハ会長席ニ着キ、昨年十二月二日大蔵大臣ヘ稟請シタル貯蓄銀行条例修正案ハ、其二十二日加藤監査局長ヨリ口達ヲ以テ右稟請ハ其精神修正ニアラスシテ寧ロ廃止ヲ望ムモノト認定ス、元来貯蓄銀行ハ営業的ノモノニアラスシテ殆ト慈善ニ属スヘキモノナレハ、右稟請ハ条例ノ旨趣ニ戻ルヲ以テ採用難相成旨指令アリ、依テ委員並其取調ヲ托シタル調査委員諸氏ヘ右ノ趣ヲ内議セシカ、時恰モ年末ニ際スルヲ以テ暫ク見合セ置タル方可然トノ事ニ依リ今日迄猶予シ置キシカ既ニ議会モ解散セラレタルヲ以テ提出ノ時機ナキヲ告ケ、又銀行条例修正案ハ前会ノ議決ニ依リ山中隣之助氏ノ尽力ヲ以テ三十八名ノ賛成ヲ得、議会ヘ提出シ、其議案モ配布セラレシカ遂ニ解散ノ為メニ議場ニ上ラサリシ理由ヲ告ケ、又第百十三国立銀行取締役串田孫三郎氏辞職ニヨリ随テ本会々員ヲモ退キ、又前会ノ評議ニ係ル久次米銀行東京支店進退処分ノ件ハ其後書記長ヨリ該行重役ヘ内議ニ及ヒシニ、本年一月二十日頃迄ニ何分ノ回答ヲ為ストノ事ナリシ旨ヲ陳ヘ、夫ヨリ昨年下半季当集会所収支決算ヲ報告シ、尋テ本年上半季当集会所収支予算ヲ協議シテ原案ニ可決セリ