デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治24年11月28日（1891年）

是ヨリ先十一月二十五日、川田日本銀行総裁栄一ヲ初メ園田孝吉・安田善次郎・中上川彦次郎・山中隣之助等銀行業者ヲ招キテ私設鉄道買収ノ事ヲ諮リタリシガ、是日本集会所ニ於テ同盟銀行臨時会議ヲ開キ、栄一会長トナリテ該件ニ付キ東京商業会議所ニ建議スベキコトヲ決議シ、同月三十日建議ス。

東京経済雑誌　　第六百号・第八〇〇―八〇一頁〔明治二四年一一月二八日〕
川田日本銀行総裁は去る廿五日《（二四年一一月）》、渋沢栄一、安田善次郎、園田孝吉、
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中上川彦次郎、山中隣之助等の諸氏を日本銀行に招き、私設鉄道買上の事に関して協議を為せしが、其の趣旨は左の如くなりしと云ふ
　今日諸君の御枉車を願ひたるは他事に非ず、現時経済社会の有様に付て将来の為に聊か杞憂に堪へざるの一事ありと愚考すれば、敢て諸君の高慮を煩はさんと欲するなり、御承知の如く我邦は十数年来鉄道其他の諸会社陸続として世上に興起し、株式市場一時隆盛を極めしも、随て投機冒険の業大に行はれ、諸会社の株券市場に流溢を来して、遂に俄然下落の勢を生し、其底止する所を知らさりしかば経済社会は殆ど恐慌の状を呈し、日本銀行に向て救済を望むこと切なりし、拙者も之が為めには実に痛心焦慮に堪へず、乃ち昨年春末に於て渋沢、安田等の諸君を浪華に煩はして、御協議をも致したる事なりき、然るに此下落せし諸株券中に就て、鉄道株券は最も重要の者なれば、先つ之を救済するは国家経済の為めに極て必要なるを信じ、遂に之を担保品に加へて金融市場の利便を図りしに、其効用空しからずして株式の低落も漸く其歩を止め、金融逼迫の歎声も逐次に消散に帰したり、去れとも諸鉄道会社の有様を見れば、幾多の小会社は各自に分立して統一を欠くが為めに、利害得失相救ふの術無くして、成功も速かならす、利益も浅少にして、殆と維持に苦むもの無きに非ず、故に鉄道に関しては他の国家問題の本旨は暫く之を措き、単に経済上より之を論するとも拙者は之を政府に買上る歟或は之を合併する事の頗る得策なるを信ずる者なりしが世上にも亦自ら其意見を同くする人少なからさる為めにや、本年に至り鉄道買上論は頻りに世人の筆舌に発露し来り、政府中にも亦之を主張せらるゝものゝ如く、為めに経済社会に其影響を及し、鉄道株券は漸次其価格を回復し、良々実業社会の気力を挽回せんとせり、然るに若し今日に於て更に俄然株券大下落の事起らば、本邦の経済社会は果して如何なる惨状を来すべき歟、殆んど憂慮に堪へざるものあり、現今帝国議会の開設に際して此鉄道買上案は、果して政府より之を呈出さるべきや否やを審かにせずと雖も、或は之あらんと仮定せんに、之に対する議員諸子の意見は果して如何ならん、若し多数の賛成を得ば則ち可なるも、断然之を非決するに於ては或は容易ならざる変動を実業社会に及ぼすなるべし、議員諸子は固より社会百般の事物には概ね熟通せらるなるべしと雖も、中には今日の経済社会の現状には深く審かならざる人無しとも云ふべからざれば、万一にも現時の実況を熟察せずして漫然之を看過し、或は党派上の関係等より転々に之を非決するか如き事に至ては甚た歎すへきなり、但し議員諸子にして充分に我邦実業社会の現状を熟悉せし上にて、道理上実際上より其利害を明晰して之を非決する以上は固より論すへき事無けれ共、斯の如き重要問題に対して万一にも充分に其実状を詳悉せすして、之を論議するが如き事あらは惜むべきの至と謂はさるへからず、東京には商業会議所其他実業社会屈指家の集会所も少なからざるに、空く之を袖手傍観して我経済社会の実状を明白に議員諸子の脳裏に照映せしめて之を参考の資に供せしめざるは、頗る社会に対して不親切の感無かるべき乎、偖て我代議士諸君に於て現場の
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経済社会を顧ゑりみざるとなれば是非もなき次第なれとも、百思千考して窃に自ら安せざるものあれば、聊か諸君を煩はして尊意如何を伺はんと欲す云々
来会の諸氏は何れも川田氏の意見に同意を表し、尚ほ同業者とも熟議を遂けて大に為す所あるべき旨を答へたりと云ふ

集会録事　　自明治二十四年一月至明治二十五年十二月　　（東京銀行集会所所蔵）
　　　　○鉄道買上ニ関スル同盟銀行臨時会録事　(印)
明治二十四年十一月二十八日、同盟銀行臨時会議ヲ開キ、渋沢委員長及西邑・安田・山中ノ委員ヲ首メ来会スルモノ三十四名ナリ、是日日本銀行ヨリ客員トシテ三野村理事、山本筆頭書記来会セラレタリ
渋沢委員長ハ会長席ニ着キ、本日臨時開会ヲ要シタルハ去ル二十五日川田日本銀行総裁ヨリ園田・安田・中上川・山中及小子等ノ諸氏ヲ招キ民有鉄道買上ノ事ニ関シ協議アリシニ由ル、其要旨ハ昨年来鉄道買上論朝野ノ間ニ起リ、又本年ハ政府ヨリ帝国議会ヘ提出スルヤノ趣ナリ、然レトモ若シ議会ニ於テ否決スルカ如キ事アラハ将来経済社会ニ危慮ナキ能ハサルヲ以テ今日ニ当リ之ヲ予防スルハ当然ノ務メナルヘシトシテ、其予防方法ヲ協議セラレ皆同意ヲ表シタルニ因リ、更ニ諸氏ト協議ヲ経、我同盟銀行ヨリ東京商業会議所ヘ建議スヘキ文案ヲ起シ、同盟銀行臨時会議ヲ開キ之ヲ決議スヘキ為メ本日特ニ諸君ヲ招集シタル所以也
而シテ其文案ハ鉄道ノ要用、沿革、現時ノ状況並ニ将来ニ期スル処ヲ叙シ、即チ国家的観念ヲ以テ立言セシト雖、又一方ニハ鉄道買上ヨリ経済社会ニ及ホス所ノモノヲ以テ立論スヘシト云フノ説アリ、此等モ各員ノ協議ヲ要スト告ケ之ヲ朗読セシメタリ
　山本達雄氏曰、別段廉立チ総裁ノ意見トシテ述フルニハアラサレトモ、総裁ノ意思ハ凡社会ハ各専門ヲ以テ成立シタル方頗ル強力ノモノナレハ、此鉄道買上ノ如キモ国家的トシテ立案スルヨリ、寧ロ鉄道買上ヨリ銀行者ニ影響スル所ヲ述ヘタル方可然トノ意見ナリシ
会長曰、先ツ大体此建議ヲ為スヘキヤ否ヤ、果シテ為スヘキコトトセハ当集会所ヨリ出スカ、又ハ東京商業会議所ヘ托スルカノ大体議ヲ定ムヘシト、衆皆大体ニ異議ナキヲ表シ、商業会議所ヲ経テ帝国議会ヘ建議センコトヲ希望セリ
　佐々木慎思郎氏曰、大体上並ニ文案ニ至テモ敢テ異議ナケレハ、此儘建議センコトヲ希望ス
　肥田景之助氏曰、原案ノ如クニテ差支ナシト雖、総裁ノ意見モ亦尤モノ事ナレハ起草委員ヲ撰ヒ之ヲ修正シテハ如何
　佐々木慎思郎氏曰、原案ニテ尽シ居ルモノト考フレト、日本銀行ハ那辺迄修正ノ意ナリヤ
　山本達雄氏曰、只今述ヘシ如ク、右ハ敢テ総裁ノ意見トシテ云ヒシニアラス、唯御参考ニ供セシ迄ナレトモ起草委員ヲ選ムニ至ラハ此鉄道買上ノ成否ニヨリ実業者ニ影響スル所ノ例証ヲ示サントス、即一昨年来株券低落ヨリ尋テ金融ノ閉塞ヲ来シ、其極遂ニ日本銀行ニ於テ割引担保品ノ制ヲ設ケ漸ク一時ヲ弥縫シ、幸ニ株券ノ下落金融
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ノ恐惶ヲ免カレシメタリト雖、到底現今ノ鉄道ハ民度ニ適セサルヲ以テ万一之ヲ否決スルカ如キコトアラハ、実業社会ニ大変動ヲ来スヘシト云フカ如キコトヲ加ヘタシト云フニアリ
　三輪信次郎氏曰、若シ之ヲ否決シタルトキハ云々ト云フ総裁ノ意見ハ一応理ナキニアラサレハ、此原案五段目「二十三年ノ春………纔ニ一時ヲ弥縫スルヲ得ルト雖」ノ下ヘ今日ノ状態ニテ之ヲ捨テ置クトキハ到底鉄道延長ノ見込立タス、其極経済上ノ紊乱ヲ極メ其惨状云フヘカラサルニ至ラント云フカ如キ文字ヲ加ヘハ総裁ノ意モ達シ又此大体ニ関係ヲ及ホサヽレハ斯ノ如ク修正シテハ如何
会長曰、金融上ノコトノミヲ云フトキハ、論拠薄弱ナルノミナラス、己レノ利害ヲノミ専ラトシ、全体ノ得失ニ関セサルカ如ク聞ユルヲ以テ斯ク立論シタルナリ、若シ議会ニ於テ之ヲ否決シタル場合ニハ云々ト云フトキハ所謂我田ヘ水ヲ引クノ嫌ヲ免カレサルナリ
　山本達雄氏曰、総裁ノ意見ニ重キヲ置カルヽハ甚迷惑ノミナラス、今之ヲ入ルヽトキハ論旨ヲ弱ムルノ恐アリトナレハ前言ハ之ヲ取消スヘシ
　三輪信次郎氏曰、今山本君ノ取消アルモ是ヲ入ルヽハ敢テ全体ノ力ヲ減スルノ恐アラスト信スレハ、総裁ノ意見如何ニ関ハラス小子ハ之カ修正ヲ望ムモノナリ
　山中隣之助氏曰、修正スルノ差支ナカルヘケレハ、三輪氏ノ説ヲ用ヒ速ニ建議ノ手配ヲ定メタシ
会長曰、大体ニ異議ナキコトナレハ委員ヲ設ケ文字ノ修正ヲナスヘシト、乃チ多数ノ同意ヲ以テ修正委員ヲ設クヘキコトニ決セリ
　豊川良平氏曰、修正委員ハ会長ヨリ指令セラレタシ
即過半ノ同意者アリタルヲ以テ会長ヨリ三輪信次郎氏・佐々木慎思郎氏・三村君平氏ニ嘱托シ、皆之ヲ承諾セリ、而シテ此決議ノ次第ハ大阪同盟銀行ヘ通牒スヘキコトニ決シ、午後九時閉会ヲ告ケ、尋テ同夜修正委員会ヲ開キ委員及日本銀行客員等ト共ニ協議ヲ経左ノ如ク修正ヲ了シ十時下退散セリ（修正案ハ別ニ保存ス）《（朱書）》
　　　　当日出席者
　　　　　　　　　第一銀行　　　渋沢栄一　○他三三名氏名略

明治二十四年委員決議綴込　（東京銀行集会所所蔵）
　　明治二十四年十二月一日　書記長
　委員長
　委員
　　去ル廿八日同盟銀行臨時会議ノ議決ニ基キ、東京商業会議所ヘノ建議書ハ浄書之上本日同所ヘ差出申候ニ付、尚大阪同盟銀行集会所ヘノ通牒案御廻議申上候也
拝啓仕候、陳者私設鉄道買上ノ件ニ付去月廿八日同盟銀行臨時会議ニ於テ別紙之通東京商業会議所ヘ建議スヘキ事ニ議決致、本日同所ヘ建議ニ及候ニ付、御参考迄ニ別紙相添此段御通牒申上候也
　　明治二十四年十二月一日
　　　　　　　　　　　　　　東京銀行集会所
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　委員長　渋沢栄一
　　　大阪同盟銀行集会所　御中

銀行通信録　　第七二号・第九―一三頁〔明治二四年一一月二八日〕
　　　　○政府民有鉄道ヲ収買シテ其延長貫通ヲ励図スヘキノ議
鉄道ノ増進ハ国家富強ノ要務タルコト更ニ喋々贅スルヲ待タスシテ明ナリ、故ニ欧米諸邦今日ノ現況ハ鉄道線路ノ延長ヲ以テ其国ノ富実ヲ略知スルニ至レリ、然ルニ鉄道ノ要ハ単ニ其線路ノ延長而已ニ有ラス能ク全国ノ要部ヲ貫通シテ交通運輸若クハ軍務ノ便利ヲ与フルヲ以テ始テ其公益ヲ全ウスル者ト云フヘキナリ
明治維新ノ際我政府ハ夙ニ此ニ見ルアリテ天下皆之ヲ疑惧シ誹議百出スルヲ避ケスシテ早ク已ニ京浜間ノ鉄道ヲ布設セラレ、尋テ神戸大津間敦賀大垣間等ノ線路ニ於テ着々其歩ヲ進メラルヽト雖、全国ノ広キ要所ノ多キ容易ニ其目的ヲ達スル能ハサルヲ以テ明治十四年ニ於テ日本鉄道会社ヘ特典ヲ付与シテ東京青森間ノ線路開通ノ事ヲ許可セラレシモ亦以テ其貫通ノ速カナランコトヲ謀レシ者ト云ヘシ
明治十五六年ノ交、鉄道事業ニ官設民有ノ二論派ヲ生シ、一時朝野ノ間ニ嘖々タリシト雖トモ、竟ニ其帰決スル処ヲ見ルニ至ラスシテ宛然官民駢進ノ状ヲ呈シタルハ当時朝野ノ企望スル所、全国要所ヘ早ク鉄道ヲ貫通セシメ其便益ヲ収ムルノ一意ニ出テタルヲ証スルニ足ルヘシ
爾来政府ニ於テハ中山道東海道等ノ鉄道ヲ布設セラレ、民間ニ於テモ鉄道会社ノ創設続々踵ヲ接シ、即今日ニ於テ其ノ会社ノ数十七ニ至リ其計画スル処ノ線路哩数一千七百七十二哩ノ長キニ達シタルハ既往二十年ノ昔ヲ回顧シテ実ニ長足ノ進歩ト云ヘキナリ
雖然凡物一方ニ偏スレハ必ス其度ヲ超過スルハ数ノ免ルヘカラサル者ニシテ、既ニ人心ノ帰嚮一ニ鉄道線路ノ延長ニ有ルヲ以テ其会社ヲ創立スルニ当リテモ各資力ヲ顧ルニ暇アラス、加之此際亦一種株券ニ狂奔スルノ風潮ニ乗シテ起業営業ノ予算精確ナラサル而已ナラス、其ノ株主ノ実力ニ於テモ引受ケタル株金払込ヲ充足スル能ハサル者多ク有ルヲ以テ一時狂奔シテ創立セシ処ノ各鉄道会社ハ頓ニ萎靡窮縮シテ進退ノ途ニ彷徨スルニ至レリ
明治廿二年ノ冬米価俄ニ騰貴シ、金融随テ逼迫シテ商況衰兆ヲ現ハセシヨリ、忽チ諸工業ニ影響シ殊ニ鉄道会社ノ如キハ其関係極メテ広キヲ以テ蒙ル処ノ余弊モ亦随テ重ク終ニ株金払込未済ノコトハ各会社相共ニ看テ常套ト為スニ至リ、其経済上ノ一問題ト為リテ明治廿三年ノ春、日本銀行ニ要請シテ割引手形ノ担保品ニ各鉄道会社ノ株券ヲ充用シ纔ニ一時ヲ弥縫スルヲ得ルト雖、能ク其始メ計画セシ所ノ目的ヲ達シテ全国ノ要部ニ鉄道ヲ貫通スルハ未タ何レノ年ヲ期シテ俟ツヘキヤヲ知ラサルノ歎アルヲ免レサリシナリ
抑鉄道ノ貫通ハ方今ノ急務ニシテ益其延長ヲ望マサルヘカラスト雖、退テ民間ノ富資集合運転ノ状態ヲ考フル時ハ更ニ進テ鉄道ノ延長ヲ計ルニ足ラサル而已ナラス、既設鉄道ノ資本ニ於テモ恐クハ一時騎虎ノ勢ニ乗シ商業上ニ運転流用スヘキ者ヲ固定資本ニ換移シタルノ失無キ能ハサルヘシ、是ニ於テ乎其弊害ノ波及スル所ハ商工百般ノ事業漸ク
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其財源ニ窮乏シテ活動ノ機能ヲ失ヒ次第ニ衰替ニ至ルヲ免レス是ヲ以テ一朝商況上ノ変動ニ遇フヤ忽チ金融逼迫ノ歎声ヲ聞クヲ免レサルハ蓋シ此資本固定ノ弊害与リテ力アルヘキナリ、然レハ則チ今日ニ当リ能ク其弊ヲ匡正セント欲セハ宜シク一方ハ其固定資本ヲ回収シテ商業上ノ資本ヲ増加シ、一方ハ前途ノ資本ヲ下シテ其延長貫通ノ目的ヲ達シ相待テ国家富強ノ計ヲ立テサルヘカラス
以上条陳スル所ハ我邦鉄道事業創始ヨリノ沿革提要ニシテ今此歴由ニ就キ将来ノ如何ヲ推察スルニ各会社ノ私力ヲ以テ全国ノ要所ニ鉄道ヲ貫通セシムルハ今日ニ在リテハ企及スヘカラサル事業ト云ハサルヲ得ス、果シテ然ラハ啻其貫通ノ便益ヲ収ムルヲ得サル而已ナラス現在工事未了ニシテ其目的ヲ達セサルモノハ其半成ノ利用ヲモ尽ス能ハス、巨額ノ資本半ハ泥土ニ委スルノ憾ヲ免レサルナリ、故ニ当銀行集会所ハ此際政府ニ於テ民有鉄道買上ケノ制ヲ設ケラレ、公債証書ヲ発行シテ其鉄道株券ヲ収買シ、尚不足ノ線路ハ継続或ハ延長シ又ハ新ニ之ヲ起工シ、要之其延長スヘキ者接続スヘキ者ハ必皆之ヲ貫通シテ其利用ヲ完全ナラシメ、其新設スヘキ者ハ能ク審案シテ国防或ハ経済上ノ衆益ヲ併有セシメ、自今以後数年ヲ期シテ当初ノ目的ニ達セラレム事ヲ企望ス、其収買ニ属スル方法及全国ニ布設スヘキ要部線路ノ見案ニ至テハ当路其人有ルヲ以テ敢テ此ニ贅言セス、偏ニ望ム国家経済ノ根理ニ注目セラレ併テ国防ノ要務ヲ速達スルノ実効ヲ収メラレンコトヲ
　　明治廿四年十一月　日　　　　　　　　　東京銀行集会所
　　　東京商業会議所会頭ヘ建議書案
別紙民有鉄道買上ノ儀ニ付当集会所ノ意見書何卒貴会議所ノ意見トシテ帝国議会ヘ請願相成候様仕度此段及建議候也
　　　　　　　　　　　　　　東京銀行集会所
　　明治廿四年十一月　《（三十）》日　　委員長　渋沢栄一
　　　　　東京商業会議所会頭　渋沢栄一殿
　　○右ノ銀行集会所建議ハ鉄道意見全集第九五―九九頁、及ビ東京経済雑誌第二四巻第六〇一号・明治二四年一二月五日・第八三七―八頁ニ同一ノモノアリ。
　　○右ノ建議ハ東京商業会議所ノ容ルヽトコロトナリ、同会議所ハ明治二十四年十二月二十二日同趣旨ヲ以テ貴衆両院ニ請願シタリ。第二編「東京商業会議所」明治二十四年十二月二十二日ノ項参照。

東京経済雑誌　　第六〇二号・第八七〇頁〔明治二四年一二月一二日〕
　　　　○大坂同盟銀行の請願
東京同盟銀行は過般私設鉄道買上の議を可決し、之を商業会議所の議に附せしにより、其意見書類を添へ、大坂同盟銀行に通知せしに、大坂にても去二日私設鉄道買上の議を可決し、之を上下両院に請願する為め、委員を撰み、委員会を開き請願書の草案等を確定し、上京委員は松本重太郎、金沢仁兵衛両氏当選せりとの報ありし由