デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治27年6月5日（1894年）

国立銀行処分法案ハ議会ニ於テ議了ニ至ラズ是日全国国立銀行交渉委員会開カレ、十ケ年延期説ニ決シ陳情委員及国立銀行延期趣意書起草委員ヲ撰定ス。栄一延期ハ自説ニ反スルモ衆議ニ従ヒ該両委員ニ撰バレ其任ヲ果セリ。

国立銀行営業延期始末　　第三二―三六丁　　（渋沢子爵家所蔵）
廿七、全国々立銀行交渉委員会ノ決議　六月五日全国国立銀行交渉委員会ヲ東京ニ開キ、延期年限ハ或ハ一期間（二十箇年）或ハ十箇年、或ハ紙幣消却完了ノ年数ニ従フヘシトノ諸説アリシト雖トモ、結局現行ノ消却法ニ依リ満期後十箇年延長スルコトト定メ、尚之ニ関スル精確ナル計算ヲ参照スヘキハ最必要ノコトナレハ、其調査ヲ第十五国立銀行ニ托シテ当日ハ散会シタリ、翌六日第十五国立銀行ノ調査ニ係ル計算書ニ依リ論議セシニ、或ハ曩ニ九州同盟銀行会ニ於テ決議シタル計算法（廿三）利多ケレハ之ニ由ルヘシト主張シ、或ハ私立銀行トシテ継続営業スルハ其蓋延期ニ優ルトイヒ、種々ノ説アリシカ営業年限ヲ延期スルハ独リ自已計算上ノ得失而已ニアラスシテ、国家経済ノ秩序ニ関スヘケレハ、断然延期ニ決スヘシトノ説多数ニテ之ニ決定シ、次ニ九州同盟銀行会ノ決議並ニ第十五国立銀行ノ調査ニ係ル両種計算書ノ優劣論ニ移リシニ、甲ハ修理上至当ナルカ如ク、且利益多シト雖トモ、条例第百十二条ノ改正ヲ要シ、事頗ル繁雑ニ渉ルヲ以テ乙ニ拠ルヘキコトニ確定シタリ、翌七日会同協議ノ後チ延期請願運動ノ順序方法ヲ決議シタリ、又延期請願ノ止ム可カラサル事情ヲ大蔵省及日本銀行ヘ具陳スルカ為メニ七名ノ陳情委員ト、其旨趣ヲ明ニシテ天下ノ輿論ヲ喚起センカ為メニ起草委員三名トヲ選定ス、尋テ両委員共ニ其任務ヲ果セリ其委員人名並趣意書ヲ左ニ掲ク
　　　陳情委員
　　　　関東銀行会
 - 第6巻 p.368 -ページ画像 
　　　　　第一国立銀行　　　　頭取　　　渋沢栄一
　　　　同
　　　　　第十五国立銀行　　　支配人　　山本貞成
　　　　九州銀行同盟会
　　　　　第百三十五国立銀行　頭取　　　上羽勝衛
　　　　奥羽北海同盟銀行
　　　　　第七十七国立銀行　　頭取　　　遠藤敬止
　　　　関西同盟銀行
　　　　　第四十二国立銀行　　取締役　　金沢仁兵衛
　　　　中国四国同盟銀行
　　　　　第八十国立銀行　　　頭取　　　安田幸正
　　　　名古屋同盟銀行
　　　　　第百三十四国立銀行　副頭取　　山内正義
　　　起草委員
　　　　関東銀行会
　　　　　第一国立銀行　　　　頭取　　　渋沢栄一
　　　　九州銀行同盟会
　　　　　第十八国立銀行　　　頭取　　　松田源五郎
　　　　関東銀行会
　　　　　第十五国立銀行　　　副支配人　三輪信次郎

明治財政史　　第一三巻・第五三七―五四五頁
是ヨリ先キ国立銀行業者ハ紙幣銷却ノ違算ヨリ営業年限ヲ延長シテ銷却ノ期ヲ緩ウシ、以テ年来ノ願望ヲ達セントシ、東京同盟銀行率先シテ全国各地ノ国立銀行ヲ勧誘シ、関東関西九州四国奥羽及ヒ北海道ノ六団体ヲ糾合シ、遂ニ明治二十七年六月ヲ以テ国立銀行延期趣意書ヲ発表シタリ、今参照ノ為メ之ヲ左ニ掲ク
　　　　　　国立銀行延期趣意書
　国立銀行条例第十二条中ノ営業年期「二十箇年」トアルヲ「三十箇年」ト修正シ、営業年限ヲ尚ホ十年間延盟スルコトヲ希望ス
　国立銀行条例ハ明治五年ノ制定ニ係リ、其第四条ニ曰ク、「銀行ハ此開業免状ヲ得タル日ヨリ、其社号ヲ以テ二十箇年ノ間営業ヲ取続クヘシ、二十箇年ヲ経タル後ニハ更ニ免許ヲ出願スヘシ」、尋テ同九年之カ改正アリ、其第十二条ニ云ク「此条例ヲ遵奉シテ創立スル銀行ハ鎖店其他ノ事故アルニ非ラサレハ、開業免状ヲ受ケシ日ヨリ二十箇年間其営業ヲ取続クコトヲ得ヘシ、右期限ヲ過キ尚ホ営業セント欲スルニ於テハ、其趣ヲ紙幣頭ニ申請シテ更ニ免許ヲ受クヘシ」、文辞各々異ナリト雖モ、共ニ国立銀行ノ営業年限ハ二十箇年ヲ一期ト定メ、期満チテ其営業継続ヲ出願スルトキハ之ヲ許可スルノ精神ナルヤ明ナリ、然ルニ明治十六年該条ヲ更改シテ曰ク、「此条例ヲ遵奉シテ創立スル銀行ハ、鎖店其他ノ事故アルニ非サレハ、開業免状ヲ受ケシ日ヨリ二十箇年ノ間其営業ヲ継続スルコトヲ得ヘシ、右期限後ハ更ニ私立銀行ノ資格ヲ以テ大蔵卿ノ許可ヲ受ケ、其営業ヲ継続スルコトヲ得ヘシ、然レトモ紙幣発行ノ特許ヲ有シ、国
 - 第6巻 p.369 -ページ画像 
立銀行ノ資格ヲ以テ営業ヲ継続スルヲ許サス」又第百十二条ヲ更改シ、以テ其発行紙幣銷却ノ方法ヲ定メラル、即チ各国立銀行紙幣引換ノコトハ一ニ日本銀行ニ負担セシメ、先ツ其紙幣引換準備金ヲ総テ日本銀行ニ託シテ公債証書ヲ買入レ、加フルニ紙幣銷却元資積立金トシテ、各銀行紙幣発行高ノ壱分二厘五毛ツヽヲ毎半季ノ利益金ヨリ割キテ、同シク日本銀行ニ託シ、是亦公債証書トナシ、此両種ノ公債証書ヨリ生スル利子ヲ以テ年々利子ノ銷却ヲ行ヒ、満期ノ際右積立金ノ元金ヲ以テ発行紙幣ノ残存スルモノヲ一時ニ銷却シ了リ其残金ハ準備金ヲ以テ買入レタル公債証書及ヒ其差益ニ併セテ各国立銀行ニ還付スルコトヽナシ、其計算（甲号）ヲ表示セラレタリ、蓋シ今日ノ国立銀行ハ概ネ明治九年政府カ金禄公債証書ヲ発行シテ華士族ノ禄制ニ代ヘラレタルニ当リ、之レカ保護ノ為メニ百万勧奨シテ創立セシメラレ、永ク紙幣発行ノ特許ヲ付与シ、期ノ満ツル毎ニ営業ノ継続ヲ予期セラレタルモノナリ、然ルニ国家財政ノ整理上已ムヲ得サルコトアリテ、十六年ノ条例改正ニヨリ、国立銀行ハ満期後営業継続ノ特典ヲ断絶シ、紙幣発行ノ既得権ヲ褫奪セラレ、其代償トシテ所謂第百十二条ニ於テ営業満期ト共ニ紙幣ヲ銷却シ了リ資本金ニ少シノ損失ヲ生セサル所ノ方法ヲ制定セラレタリト雖モ、爾来公債ノ市価騰貴セシニ乗シ、政府ハ整理公債ノ発行ヲ急施シ、其結果トシテ各国立銀行満期ノ日ニ於テ彼ノ計算書ニ比スレハ、七百余万円ノ損失ヲ蒙ムルヘキ事実ハ、今日ニ在リテ明白ナルニ至レリ、但公債価格ノ騰貴ハ自然ノ現象ナリトスルモ、厚利公債ヲ薄利公債ニ急変シタルコトハ、全ク人為ニ出テタルモノニシテ、国立銀行既得権ノ代償トシテ大蔵卿カ紙幣銷却ノ方法ヲ明示セラレタル当時「公債証書ノ当籤ハ毎年平均五十分ノ一ト見積リ、即チ五拾万円ヲ所持スレハ、年々壱万円ヲ当籤高トシテ計算ス」トノ公言ヲ単ニ政府ノ都合ニヨリ擅ニ変更セラレタルモノナリ、之レカ為メニ被ムレル各国立銀行ノ損失ハ、国家ノ徳義上当然之レヲ償フヘキ義務アルヘシ、依テ（乙号）計算書ニ拠リ今十箇年ノ延期ヲ国立銀行ニ許シ、紙幣ノ銷却ヲ十六年ノ予約ノ如ク終了セシムヘシ、是レ当業者カ延期ヲ希望シテ以テ已ム能ハサル所以ナリ
　且ツ夫レ全国ニ碁布セル百三十有余ノ国立銀行ハ、財政ヲ整理シタルノ功績既往ニ著明ナルノミナラス、現今実ニ我邦経済社会ノ主要機関ニシテ、一日モ欠ク可カラサルハ世ノ知ル所ナリ、然ルニ現行条例ニヨレハ、営業年限ノ満期已ニ迫リ、全国国立銀行ハ僅々三箇年間ニ或ハ解散シ、或ハ私立銀行ニ変更セサル可カラス、現時一小銀行ノ廃存ト雖モ、尚ホ金融社会ニ及ホス所ノ影響甚タ大ナルニ、若シ全国百三十有余ノ国立銀行カ三箇年間ノ短少ナル日子ニ於テ、其株主各々区々ノ意見ヲ執リ、或ハ解散論ヲ唱ヘ、或ハ薄弱ナル私立銀行ヲ分立スルノ説ヲ為シ、三府四十有余県普ク物論ノ渦中ニ陥ヰラハ、金融忽チ沮格シテ、其結果一大恐慌ヲ我経済社会ニ惹起スルヤ必セリ、論者或ハ謂ハン、経済ノ旧機関ハ速ニ改良スルヲ宜シトス、今一旦営業ノ延期ヲ為スモ、早晩満期ノ季節アリト、是レ未タ全国経済社会ノ実相ヲ熟察セサルノ説ノミ、我国貨財融通ノ程度
 - 第6巻 p.370 -ページ画像 
ハ尚ホ幼稚ニシテ、私立銀行ノ如キモ多クハ創立日浅ク資本亦多カラス、未タ以テ一般ノ信用ヲ繋クニ足ラス、独リ国立銀行ハ十数年来ノ経験ヲ積ミ、基礎既ニ固ク信用日ニ厚ク、経済社会唯一ノ重要機関タリ、而シテ前途殖産事業ノ発達ヲ助クヘキモノ貿易事業ノ拡張ヲ促スモノアリ、故ニ今後十数年間ノ事情ハ決シテ国立銀行ノ滅絶ヲ許サヽルナリ、是レ亦当業者カ延期ヲ希望シテ以テ已ム能ハサル所ナリ、論者又或ハ云ハン、国家ハ速カニ貨幣制度ヲ画一スルノ必要アリ、今日百三十有余ノ銀行ヨリ数種ノ紙幣ヲ発行スルトキハ市場金融ノ消長ニヨリ其発行高ヲ屈伸スルノ便宜ヲ欠ク、故ニ国立銀行ノ延期ハ許スヘカラスト、是レ迂論ノミ、現今全国ノ流通紙幣壱億五千万円中、明治三十年ニ至リ、僅々弐千万円ノ国立銀行紙幣ノ銷却ヲ尚ホ十年間延長シタレハトテ、幣制上何等ノ影響カ之アランヤ、斯ノ如クノ辞柄ヲ構ヘテ前陳国立銀行ノ損失ヲ顧ミス、又国家経済ノ危機ヲ慮ラサルハ、時務ヲ識ルモノニ非サルナリ、又或ハ曰ク、政府ハ曩ニ日本銀行ニ対シ、明治三十年マテハ年々国庫金取扱費用ヲ下付スルモ、同年以後ハ下付セサルノ命令アリ、然ラハ若シ国立銀行ヲ延期セハ日本銀行ハ国立銀行発行紙幣残存額タケ兌換券ノ発行ヲ得ス、又国庫金取扱手数料モ支給ヲ受クル能ハサルノ不幸ヲ見ント、蓋シ国立銀行ニシテ延期セハ、満期後直チニ国庫ノ歳入ヲ減少スヘキ銀行税金弐拾弐万円ハ、旧ニ依リ国庫ノ歳入タレハ之ヲ日本銀行ノ国庫金取扱手数料ニ充ツルヲ得ヘシ、且ツ発行紙幣ハ逐年銷却逓減スヘキヲ以テ、漸次兌換券ノ発行額ヲ増加スルコトヲ得レハ、決シテ大ナル不利ヲ日本銀行ニ与フルノ恐レナシ、之ヲ要スルニ国立銀行ノ延期ハ国庫ノ収支ニ影響少ナクシテ、唯々其謂レナキ損失ヲ免レシメ、併セテ経済機関ノ妙用ヲ全ウシ、国家ノ危機ヲ予防スルニ在ルノミ、敢テ大方諸君ノ明察ヲ乞フ
　　明治二十七年六月
　　　　　　　　　　　　　　　　　　全国国立銀行六団体委員
（甲号）明治十六年大蔵省ニ於テ合同紙幣銷却法実施当初ニ示サレタル計算
　一　金千八百七拾参万千弐百六円四拾六銭九厘
　　　準備積立金及ヒ差益金ニテ買入タル公債利子
　一　金千参百七拾九万千五百拾五円参拾弐銭七厘
　　　積立金及ヒ差益金ニテ買入タル公債売却金
　　計金参千弐百五拾弐万弐千七百弐拾壱円七拾九銭六厘
　　　内引
　　金参千百八拾壱万弐千八百八拾円
　　　発行紙幣総高
　差引残
　　金七拾万九千八百四拾壱円七拾九銭六厘
　　　銷却過剰即チ積立金ノ持帰高
　一　金九百九拾四万千五百弐拾五円
　　　準備金公債銷却金
　一　金四拾壱万六千九百五拾五円弐拾六銭
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　　　準備金公債ノ当籖利益ニテ買入レタル公債売却金計金千百六万八千参百弐円五銭六厘
　　　　明治三十年各銀行持帰金
（乙号）銀行紙幣銷却計算書
　此計算ノ目的ハ明治三十年下半季迄ハ現行ノ紙幣銷却法ニ従ヒ、三十一年以後モ猶同銷却法ニヨリ、毎季壱分弐厘五毛ツヽ積立ヲ以テ発行紙幣ヲ全ク銷却シ尽スニ在リト雖モ、三十一年以後ニ係ル毎季ノ積立金元利、及ヒ明治十六年大蔵省ニ於テ明示サレタル持帰金ト其三十一年以後ノ利益ハ、素々紙幣銷却ニ充ツヘキ性質ノモノニ非ス、銀行ノ正当ニ享受スヘキモノナルヲ以テ、該金額ニ相応スル金額ヲ持帰リ得ル迄ノ期限ヲ標準トシテ算出シタルモノナリ、但明治二十六年下半季迄ハ日本銀行報告書ニ拠リ算出ス、又二十七年以後買入ヘキ公債証書ノ利子ハ凡テ四分五厘ト予定ス
　　　　第一　公債証書計算
　一　金九百九拾七万五千円
　　　準備金及ヒ差益公債明治四十年下半季在高
　一　金弐千参万九千弐百五拾五円
　　　積立金及差益公債同上
　　計金参千壱万四千弐百五拾五円
　　　　第二　発行紙幣計算
　一　金参千百六拾九万弐千八百八拾円
　　　発行紙幣受取高
　　　内
　　金弐千六百参拾六万七千弐百九拾五円
　　　明治十六年ヨリ四十年迄銷却高
　差引
　　金五百参拾弐万五千五百八拾五円　未銷却高
　　　　第三　持帰金計算
　一　金千百六万八千参百弐拾弐円五銭六厘
　　　大蔵省計算上各銀行持帰金
　一　金四百九拾八万七百四拾四円九拾弐銭五厘
　　　同上三十一年以後十年間四分五厘利子
　一　金七百八拾八万参千弐百弐拾円
　　　三十一年以後壱分弐厘五毛積立金
　一　金百八拾六万弐千四百八円七拾銭
　　　同上四分五厘利子
　　計金弐千五百七拾九万四千六百九拾五円六拾八銭壱厘
　　　　第四　以上ノ結果
　一　金参千壱万四千弐百五拾五円
　　　第一項準備及ヒ積立公債
　　　内
　　金五百参拾弐万五千五百八拾五円
　　　第二項未銷却発行紙幣
　差引
 - 第6巻 p.372 -ページ画像 
　　金弐千四百六拾八万八千六百七拾円
　　　明治四十年末各銀行持帰金
　　　之ヲ第三項持帰金ト対照シテ
　　金百拾万六千弐拾五円六拾八銭壱厘（朱書）　　　不足
爾来国立銀行業者等荐リニ延期ノ輿論ヲ喚起シ、極力運動スル所アリシカ、其効果空シカラス、第八議会ノ開期ニ迫リテ烽烟大ニ挙リ、所謂継続論者ト相対シテ弁難攻撃最モ甚シク、遂ニ同年十二月議会開会ニ迨ヒテ、左ノ如キ延期意見書ハ貴族院議員浅野長勲・松浦詮ノ名ヲ以テ院ノ内外ニ配布セラルヽニ至レリ
　　　　営業満期国立銀行処分法案ニ対スル意見○略ス

東京商業会議所月報　　第二七号〔明治二七年一一月〕
　　　　国立銀行ノ沿革大要　（渋沢栄一君述）
○上略
然ルニ其後政府ヨリ愈々継続法案ヲ議会ヘ提出サルヽヤ、衆議院ハ之ヲ可決シタレトモ、貴族院ハ未タ之ヲ議スルニ至ラスシテ停会ヲ命セラレタリ、於是乎銀行者六団躰中ヨリ出京ノ委員ハ更ニ集会シテ其方針ニ就キ協議シタルニ、衆議ノ末遂ニ多数ヲ以テ延期説ニ決シ、大蔵省ニ向テハ次期ノ議会ニ延期案ヲ提出セラレタシ、若シ聴カレサルトキハ議会ニ向テ延期ノ請願ヲ為ス可キ旨ヲ陳上シ、又一方ニ於テハ日本銀行ニ向テ全国銀行者ノ輿論ハ延期説ニ決シタル旨ヲ陳情スルコトニ決シ、余モ其陳情委員ノ一人ニ選マレタリ、斯クテ先頃ノ各新聞紙ニモ掲載スルカ如ク、余モ他ノ委員ト同道ニテ当時川田日本銀行総裁ヲ訪ヒ、全国銀行者ノ意思ヲ代表シテ種々陳情スル所アリ、以テ延期説ニ就キ同意ヲ求メタルニ、同総裁ハ余カ先キニハ継続論ヲ唱ヘナカラ、今ハ之ニ反対ナル延期論ヲ唱フルハ、頗ル無定見ナリトテ、痛ク余ヲ攻撃セラレタレトモ、抑モ余カ一己トシテ継続論ヲ可トスルコトハ、今日ニ至ルマテ敢テ異ナルコトナク、唯今日延期論ヲ口ニスルモノハ、全国銀行団躰ノ希望ヲ代表スルニ外ナラスシテ、要スルニ同業者中区々ノ希望ヲ表白スルハ、同業者戮力協同ノ要旨ニ悖リ、終ニ営業上ノ不利益ナリト信シ、不得已己レノ説ヲ枉ケテ多数ノ説ニ従ヒタルカ故ナリ、但シ世間ニ於テハ各地団躰ハ延期ノ希望ヲ貫徹セン為メ次期ノ議会ニ選出サルヘキ議員ヲ買込ムト云フカ如キ風評ヲ為ス者アルヤニ聞ケトモ、斯ノ如キ不条理ノ運動ハ我々団躰ノ決シテ為スベキ事ニアラサルハ、余ノ断シテ保証スル処ナリ
以上陳述スル処ハ従来ノ沿革ニ就キ余ノ知リ得ル処ノ大要ナルカ、抑モ延期ト継続トハ国立銀行自身ニ取リテ何レカ利益ナルヤニ就テハ、近来ノ諸新聞紙上ニモ散見スルカ如ク、其計算ノ立テ方ニ依リ区々一定ナラザレドモ、余ノ見ル所ニ拠レハ縦令ヒ十年間延期スルモノトスルモ、継続法案ニ比較シテ凡ソ四十万円位ノ利益アルヘキ様ニ思ハルルガ故ニ、前ニ述ヘタル方案ノ如ク、日本銀行ヨリ無利足ニテ消却資金ヲ借入レ継続スルモノトセハ、其計算ハ二者殆ンド損益ナカルヘシ但シ第十五国立銀行ノ如キ資本多額ニシテ其取引高モ亦随テ多額ナル銀行ニテハ、運転資金ノ利足モ低下ナラサルヲ得サレハ、左マテノ利
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益ナカルヘキニ付、特ニ延期ヲ望ムノ事情アルベシト雖トモ、他ノ資本少キ銀行ニテハ、小口ノ取引多キヲ以テ或ハ継続ヲ望ムノ事情アルコトナラン、兎ニ角今日ノ処ニテハ其内部ニ立入リ、各個ノ意見ヲ叩クトキハ、余カ継続法案ヲ可トスルノ意見ト同説ノモノモ多カルヘシト信スレトモ、表面上ノ輿論ニ至リテハ先ツ延期説ニ一定シタリト云フテ可ナリ、猶ホ諸君ニ於テ御質問ノ廉モアラハ、余ノ知リ得ル限リハ敢テ答弁ノ労ヲ辞セサルヘシ