デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治29年3月17日（1896年）

是ヨリ先、第一国立銀行外十二行ノ連名ヲ以テ国立銀行満期後措置ノ件ニ付大蔵大臣ニ稟請ス。是日国立銀行営業満期処分法案ノ成立ヲ祝シ、同法成立ニ尽力セシ貴衆両院議員ヲ紅葉館ニ招請シテ祝宴ヲ開ク。

銀行通信録　　第一一八号・第二一―二六頁〔明治二八年九月一〇日〕
　　　　○国立銀行営業満期措置ニ付請願
国立銀行営業満期後ノ措置及其発行紙幣消却方法ニ付テハ多年来国立銀行者ノ憂慮スル処タリシカ、頃日第一国立銀行外十二行ノ頭取協議ノ上、営業満期ノ国立銀行ハ私立銀行トシテ安全ニ業務ノ継続ヲ得、併セテ其発行紙幣未消却ノ分モ相当ノ処置ヲ以テ整理セラルヽノ法案ヲ具セラレ、本年ノ帝国議会ニ於テ劈頭第一ニ議決セラルヽ様、御措置有之度段大蔵大臣ヘ稟請シ、尚全国同業者ヘ右事情ヲ照知スヘキコトニ決定シ、即チ本月六日発表シタル書面ハ左ノ如シ
　　　　大蔵大臣閣下ヘ請願書写
　国立銀行営業満期後ノ措置及其発行紙幣消却方法ニ付テハ私共夙ニ之ヲ憂慮シテ去ル明治二十三年以来屡々閣下ニ陳情セシ事モ有之候処、我政府ニ於テモ昨二十七年ノ臨時帝国議会及通常帝国議会ヘ其処分法案御提出相成候得共、成立ヲ視ルニ至ラサリシハ私共深ク之ヲ遺憾トスル所ニ有之候、然ルニ国立銀行ノ営業期限ハ条例ノ規定ニヨリ早キモノハ来ル二十九年ヨリ、遅キモノモ三十二年迄ニ全国百三十有余ノ銀行悉ク満期ト相成、各自其方法ヲ講シテ善後ノ計ヲ
 - 第6巻 p.398 -ページ画像 
立サルヲ得サルモノニシテ、実ニ現世紀経済上ノ一大関節トモ云フヘク、此時ニ当リ苟モ其処分宜キヲ得スシテ意外ノ蹉跌ヲ見ルカ如キコトアラハ、独リ其銀行ノ不幸ナルノミナラス、施テ国家ノ金融機関ニ一ノ恐慌ヲ惹起スノ虞ナシトセス、況ヤ戦勝後殊ニ多事多望ナル経済社会ニ対シテハ尤モ以テ注意ヲ要スヘキ事ト奉存候、就テハ此際閣下充分ニ御審案相成、営業満期ノ国立銀行ハ私立銀行トシテ安全ニ業務ヲ継続スルヲ得、且其発行紙幣未消却ノ分モ相当ノ処置ヲ以テ整理シ得ラルヽノ法案ヲ具セラレ、本年ノ帝国議会ニ於テ劈頭第一ニ議決セラルヽ様御措置有之度候、万一ニモ此時季ヲ失フトキハ、全国各銀行ハ満期ノ際拠ルヘキノ法律ナクシテ各窮途ニ彷徨スルノ不幸ニ陥ルノミナラス、或ハ経済社会ニ一大激変ヲ生センモ亦知ルヘカラサル事ト奉存候、何卒事情御洞察ノ上至急適当ノ御施設被成下度、此段請願仕候也
　　明治廿八年九月六日
　　　　　　第一国立銀行頭取　　　　渋沢栄一印
　　　　　　第二国立銀行頭取　　　　原善三郎印
　　　　　　第三国立銀行頭取　　　　安田善四郎印
　　　　　　第五国立銀行頭取　　　　有村国彦印
　　　　　　第二十国立銀行頭取　　　穂積重穎印
　　　　　　第二十七国立銀行頭取　　渡辺治右衛門印
　　　　　　第三十国立銀行頭取　　　深川亮蔵印
　　　　　　第七十四国立銀行頭取　　大谷嘉兵衛印
　　　　　　第八十四国立銀行頭取　　中沢彦吉印
　　　　　　第九十五国立銀行頭取　　小林近一印
　　　　　　第百国立銀行頭取　　　　高田小次郎印
　　　　　　第百十二国立銀行頭取　　田中平八印
　　　　　　第百十九国立銀行頭取　　豊川良平印
　大蔵大臣　子爵　渡辺国武殿
　　　　各国立銀行ヘ照会書
　一翰啓上仕候、残暑難去候処貴行益御清適御坐可被成拝賀之至ニ候陳ハ国立銀行営業満期後ノ措置ニ付テハ御同様多年苦慮罷在、昨年中ハ種々御協議申上候事モ有之候得共、政府提出ノ処分案モ議会建議ノ延期案モ共ニ成立ニ至ラスシテ今日迄経過致候ハ頗ル残懐ノ次第ニ御坐候、然ルニ御承知ノ通リ国立銀行ノ営業期限ハ条例ニ規定有之、早キモノハ来ル二十九年ヨリ遅キモノモ三十二年迄ニ全国百三十有余ノ銀行ハ悉ク営業満期ト相成候筈ニ付、本年ニ於テ相当ノ法律制定不相成候ハヽ終ニ無法律ノ不幸ニ陥リ、御同様国立銀行者ハ共ニ窮途ニ彷徨致候様可相成、実ニ容易ナラサル時季ト存候間、此際拙生共申合別紙写ノ通リ大蔵大臣ヘ請願書差出候、就テハ貴行ニ於テモ御同意ニ候ハヽ同シク御請願相成候様仕度奉存候
　元来拙生共ハ国立銀行満期後ノ処分ニ付テハ、継続説又ハ延期論ト其一方ニ偏シ、強テ自説ヲ主張シテ他ヲ排斤致候意念ハ無之、只其期限ニ至リテ安全ニ業務ノ継続ヲ得、且未消却ノ紙幣整理方法ニ付テモ可成丈利便ヲ得候様致度、而シテ此企望ヲ達シ候ニハ全国々立銀行ノ協同一致ヲ要スル事ト相考ヘ、勉テ小異ヲ捨テ大同ニ従ヒ候心得ノ処、昨年ノ成行ハ不幸ニモ百事齟齬終ニ前陳ノ通ニ相成、今
 - 第6巻 p.399 -ページ画像 
日ニ於テハ最早一日モ猶予難仕時季ト相成候ニ付、不得止別紙ヲ以テ其筋ヘ請願シ、併テ全国各同業諸君ヘモ通牒シテ御賛成ヲ乞ヒ、共ニ御請願相成候様企望仕候儀ニ御座候
　継続法ト延期法トノ得失ニ付テハ昨年来世上種々ノ論説モ有之、拙生共ニ於テモ彼此詳細ニ比較仕候得共、格別ノ優劣ハ無之ト存候、只延期法ハ其紙幣ヲ尚数年間継続スル為メ、貨幣制度ノ完備ヲ欠キ候嫌無之ト難申、殊ニ一旦延期致候トモ其満期ノ時ニ至ラハ再ヒ継続ノ法律ヲ要シ候ハ今日モ同様ト存候、仮ニ拙生共ノ計算ニ誤謬有之、延期法ノ方大ニ利益有之トスルモ、今日ノ有様ニテハ其企望ヲ達シ候義ハ無覚束シテ一モ二モ共ニ失フノ恐有之候、旁以テ寧ロ継続法ニヨリ其営業ヲ引続キ未消却ノ紙幣引換ノ手続ニ於テ可成丈ノ利便ヲ得候ハヽ可然ト考定仕候儀ニ御坐候、何卒前段ノ趣旨御領意被下至急何分ノ御心配有之度、此段得御意候也
　　明治廿八年九月六日
　　　　　　　　　　第一国立銀行頭取　　　　渋沢栄一
　　　　　　　　　　第二国立銀行頭取　　　　原善三郎
　　　　　　　　　　第三国立銀行頭取　　　　安田善四郎
　　　　　　　　　　第五国立銀行頭取　　　　有村国彦
　　　　　　　　　　第二十国立銀行頭取　　　穂積重穎
　　　　　　　　　　第二十七国立銀行頭取　　渡辺治右衛門
　　　　　　　　　　第三十国立銀行頭取　　　深川亮蔵
　　　　　　　　　　第七十四国立銀行頭取　　大谷嘉兵衛
　　　　　　　　　　第八十四国立銀行頭取　　中沢彦吉
　　　　　　　　　　第九十五国立銀行頭取　　小林近一
　　　　　　　　　　第百国立銀行頭取　　　　高田小次郎
　　　　　　　　　　第百十二国立銀行頭取　　田中平八
　　　　　　　　　　第百十九国立銀行頭取　　豊川良平
　尚々本文請願ノ義ハ全国各銀行協同一致ノ意見ヲ表シ候為可成一斉ニ進達仕度ト存候得共、各地従来ノ団体ニ依リ候テモ中ニハ性質相異ノ銀行モ有之、殊ニ書面連署等ニ彼是ト手数ヲ要シ、却テ時日遷延ノ恐モ有之候ニ付、当地トテモ別段関東銀行会ヘハ提出セス、各自最寄ノ申合ヲ以テ夫々同一ノ請願ヲ為シ、全国御同業者ハ所謂期セスシテ相会スル方法ニ出候様仕度義ニ御坐候間、其辺モ御承引ノ上可然御取扱被下度候也

集会録事　自明治二六年一月　　（東京銀行集会所所蔵）
　　　　○第百五十四回定式会議録事
明治二十八年十月十五日午後四時ヨリ同盟銀行第百五十四回定式会議ヲ開キ会スルモノ総テ二十五名ナリ
渋沢委員長ハ会長席ニ就キ、去月六日第一銀行外十二行連署国立銀行満期後措置ノ件ニ付渡辺大蔵大臣ヘ請願書ヲ呈シ、併テ全国々立銀行ヘ照会ニ及ヒタル以来陸続賛同ノ回答ニ接シ、已ニ昨十四日迄ニ同大臣ヘ請願シタル者総テ八十一行ニ達シ、且昨年延期説ヲ主張セシ九州同盟銀行ノ大部分モ、今日ニ至リテハ到底継続ノ外途ナキヲ以テ亦之ニ賛同スヘキ旨、去ル九日現今出京中ナル上羽勝衛氏ヨリ前条十三行ニ対シテ回答アリシ等ノ事情ヲ報道セリ
 - 第6巻 p.400 -ページ画像 

銀行通信録　　第一二三号・第二三―二四頁〔明治二九年二月一〇日〕
○国立銀行営業満期処分法案ニ関スル意見書　国立銀行営業満期処分法案ノ件ニ付、昨二十八年九月中大蔵大臣ヘ請願シタル第一国立銀行外十数行ノ頭取ハ一月廿五日銀行集会所ニ会同シ、該法案ノ成立ヲ希望スルカ為メ貴衆両院議員ヘ意見書ヲ配付スヘキコトヲ決議セリ、其文案左ノ如シ
　　　　意見書
　国立銀行営業満期後ノ措置及其発行紙幣消却ノ方法ニ付テハ、我々銀行者ハ夙ニ之ヲ憂慮シテ、去ル明治廿三年以来屡々其筋ヘ陳情セシコトアリシモ、一昨年来両度ノ帝国議会ニ於テ継続延期両案共ニ成立ヲ見ルニ至ラサリシハ深ク遺憾トスル所ナリ、依テ我々ハ昨廿八年九月中特ニ請願書ヲ大蔵大臣ニ呈シ併セテ其旨趣ヲ全国同業者ニ通知シテ協議スル処アリシニ、総計百三十四ノ国立銀行中九十一銀行ハ悉ク我々ノ意見ニ賛同シテ同趣意ノ請願書ヲ大蔵大臣ニ呈シ其他ノ同業者ニ在リテモ多クハ同意ノ回答ヲ為セリ、畢竟我々銀行者ニ於テ右ノ如ク苦慮セシモ、国立銀行営業ノ期限ハ条例ノ規程ニ依リ早キモノハ本年九月、遅キモノモ明治三十二年迄ニハ都テ満期トナルヲ以テ各自其方法ヲ講シテ善後ノ計ヲ立テサルヲ得ス、此経済社界ノ一大関節ノ時ニ当リ、苟モ其処分宜キヲ得スシテ意外ノ蹉跌ヲ見ルカ如キコトアラハ、独リ其銀行ノ不幸ナルノミナラス施テ国家ノ金融機関ニ一ノ恐慌ヲ起スノ虞ナシトセス、而シテ其処分ノ方法モ我邦幣政ノ完備ヲ求ムルニ於テハ継続法ニ拠ラサル可ラサルヲ以テ前陳ノ如ク請願ニ及ヒタル所ナリ、願クハ此切迫ノ事情ヲ洞察セラレ前陳意見ノ趣旨ヲ諒悉アリテ継続案ヲ可決セラレンコトヲ依テ玆ニ愚意ヲ披陳シテ大方ノ賛襄ヲ仰ク
　　明治二十九年一月

集会録事　自明治二十六年一月　　（東京銀行集会所所蔵）
明治二十九年三月十七日午後四時半ヨリ第一外十二行ノ国立銀行頭取並安田善次郎氏今般国立銀行営業満期処分法案即継続法ノ成立シタルヲ祝シ、兼テ本法案ニ尽力セラレタル貴衆両院議員等十数名ヲ紅葉館ニ招請シテ一夕ノ宴会ヲ開キタリ、酒酣ニシテ由利子爵ハ起テ本日待遇ノ厚キヲ謝シ、且世ノ変遷ニ従ヒ銀行事業ノ発達シテ国家経済上ニ及シタル公益ノ著シキコトヲ述ヘ、尚爾今益隆盛ナランコトヲ祝セラレ渋沢栄一氏之レカ答辞ヲ述ヘ主客歓ヲ罄クシテ午後九時退会セリ
　但当日ノ人数ハ別紙ノ通リ
　　明治二十九年三月十七日紅葉館
　　宴会出席人名
　　　　　　　　　　　　来賓　　子爵　由利公正君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　小坂善之助君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　田中市兵衛君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　田辺久蔵君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　佐藤里治君
　　　　　　　　　　　　　　　亭主方　渋沢栄一君
 - 第6巻 p.401 -ページ画像 
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　原善三郎君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　長谷川千蔵君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　平田正之君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　佐々木慎思郎君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渡辺治右衛門君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大谷嘉兵衛君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中沢彦吉君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　小林近一君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　池田謙三君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　池上伴造君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　三村君平君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　安田善次郎君
　　　　　　　　　　　　　　　　次席　深川亮蔵君
右ノ外左ノ諸氏ヘ案内シタルモ病気其他ノ事故ニテ御断ニ付其料理ヲ贈ル
　　　　　　　　　　　　　　　　伯爵　正親町実正君
　　　　　　　　　　　　　　　　子爵　谷干城君
　　　　　　　　　　　　　　　　子爵　堀田正養君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　平山成信君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　森山茂君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　小幡篤次郎君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　木下広次君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　添田寿一君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　小室信夫君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渡辺甚吉君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　佐々木政又君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　新井毫君