デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
1節 銀行
6款 択善会・東京銀行集会所
■綱文

第6巻 p.435-438(DK060130k) ページ画像

明治31年10月15日(1898年)

是ヨリ先、民法第三百四十九条外二条修正ノ件ニ付キ日本銀行ヨリ照会アリシヲ以テ、委員ヲ選定シ之ガ調査ニ当ラシム。是日委員ノ報告書ニ基キ協議セル結果、法典調査会ニ意見書ヲ提出スベキコトヲ決議ス。


■資料

集会録事 自明治二十六年一月(DK060130k-0001)
第6巻 p.435-436 ページ画像

集会録事 自明治二十六年一月  (東京銀行集会所所蔵)
 - 第6巻 p.436 -ページ画像 
    ○第百八十四回定式集会録事
明治三十一年九月十五日午後五時ヨリ組合銀行第百八十四回定式集会ヲ開キ、来会者五十二名ナリ
○中略
次ニ民法第三百四十九条、同第三百六十四条、同第三百六十五条質権設定ニ関スル件ニ付、日本銀行植村俊平氏ヨリ書記長山中譲三氏ニ注意アリシヲ以テ、同氏ヨリ岡村法律顧問ニ質問シ、植村氏ノ意見書ヲ併セ諸君ノ一覧ニ供シ有シカ、本件ハ目下急要ナル法律上ノ問題ニシテ、其関係広ク咄嗟ノ間議了スル能サレハ特ニ委員ヲ設ケ、至急其利害ヲ調査シテハ如何ト告ケシニ、皆同意ヲ表シ、会長ヨリ委員五名ヲ指名セラレンヲコト望ミタルヲ以テ、会長ハ左ノ五氏ヲ指名シテ之ヲ嘱托セリ、且又前議会ヘ政府ヨリ提出シタル印紙税法案中修正ヲ要スル件ヲモ併テ此委員ニ付托スヘキコトニ決セリ
 調査委員人名
  山口荘吉君  安藤浩君  橋本正彰君  河井辰太郎君
  松尾謙次君《(松尾謹次)》


銀行通信録 第一五六号・第一六二六―一六二九頁〔明治三一年一一月一五日〕 第百八十五回定式集会録事(DK060130k-0002)
第6巻 p.436-438 ページ画像

銀行通信録  第一五六号・第一六二六―一六二九頁〔明治三一年一一月一五日〕
    ○第百八十五回定式集会録事
東京銀行集会所組合銀行第百八十五回定式集会は去る十月十五日午後五時より東京銀行集会所に於て開会し、来会者卅六名にして会長渋沢栄一氏会長席に着き、協議に先ち十五銀行常務取締役山本直成氏今般辞職に付退会の事、三井銀行副支配人日比翁助氏三井呉服店へ転任に付退会其後任者高山長幸氏自今会員として出席の事、帝国商業銀行副支配人大谷登喜雄、同地田虎男両氏自今会員として出席の事、加島銀行東京支店より取締役田口寛氏は辞任、支店支配人長瀬次郎氏は解雇に付自今同支店支配人白神与七氏会員として出席の事、久次米銀行より首藤徤輔氏を支配人に任用したる事、第百十二国立銀行は営業満期に付九月十九日より株式会社第百十二銀行と改称したる事、又銀行通信係編輯主任として今般戸田宇八氏を雇聘したる事を報道し、次に前回に於て調査委員へ付托したる民法第三百四十九条外二条修正の件に付、調査委員の報告書を朗読せしめ協議する所ありしが、其第三百四十九条流質処分に関しては委員の修正二案ありしも、其第一案に拠り「随意契約に効力を有せしむる事を希望すること」と為し、又第三百六十四条の修正及第三百六十五条の刪除は委員報告の通是認することとなりしか、会長は此修正希望を達せんとする順序として、法典調査会委員に会見して其意向を打合すことは如何と注意し、一同之に同意を表し、其紹介を会長に委托せり
右協議の結果法典調査会に左の書面を提出せり
 東京銀行集会所組合銀行は民法第三百四十九条外二条に関し修正意見を有するを以て其議決の要点を陳述し、御採用あらんことを奉請願候、尚書面にて尽さゞる処は口頭を以て詳細申述度候間、御調査御集会の節当所委員の出席を許され御聞取あらんことを併て奉願候
  明治三十一年十一月 日
 - 第6巻 p.437 -ページ画像 
            東京銀行集会所会長 渋沢栄一
     法典調査会 御中
    民法第三百四十九条外二条修正意見
一民法第三百四十九条は質取主か借用証書又は返済期前の別約を以て流れ質を約し、若くは法律に定めたる方法に依らすして、質物を処分することを禁したるものなれは、当時一般に行はるゝ処の借用金証書文中、適宜売却又は勝手に売却云々の約文は、恰も違法の契約にして、啻に其一部分か無効たるのみならす債権全部に影響を及ほすの危険なき能はすとの一説も亦謂れなきに非さるなり、何となれは従前質物処分に関する法律の制定なき場合に於て、債権者か所謂適宜勝手に非道の処分を為し、債務者の不利益に帰すること往々之れありしを以て、畢竟債権者の専横を抑へんか為め、本条の如き規定の必要を生するに至りしならんか、然れども今や既に質物の処分に関しては現行商法第三百七十一条、第三百七十二条、第三百七十三条に規定のあるありて、商事質に関しては該方法に従はさるへからさること勿論にして、適宜売却と云ふは即ち法律上規定の範囲内に於て適宜処分するの意味なりと解釈するに於ては更に危険の虞なきものと信す、然れども第十三議会には彼の商法修正案は必す提出せらるへしと聞知せり、而して其修正案に依れは商事質の条項は全然刪除しあるを以て、該修正案成立せんか、商事質権の条項は消滅して一定の習慣あるものゝ外は一般法即ち民法に拠らさるへからさることゝなるへし、然るときは競売に附するの一途あるのみ、元来競売法たる、公平は即ち公平なるへしと雖も、商事質の如き偶々多数の物件を一時に競売に付するの場合に於ては、竟に市場に劇変を来し、質権者をして機敏の処置を為さしむる能はす、却て双互の不利益に帰すること多かるへし、果して然らは偶々徳義なき債権者の専横を抑へんか為に一般の不便を来すに至りては頗る遺憾と謂はさるを得す、故に従前の如く随意契約に効力を有せしめ、本条を全然刪除せられんことを希望す
 然りと雖も民法は大法典にして、確定の今日に於ては容易に修正し難き事情あるときは已むを得さる次第なるを以て、本条の如きも現行商法第三百七十一条、第三百七十二条、第三百七十三条の如く特種の事情ある商事質に関しては現行法同様商法修正案に特別の規定を設けられ、商事質に関する便益を与へられんことを希望す、是商法修正の真意に協ふものならんと信す
一民法第三百六十四条に記名の債権を質物となす場合には第三債務者に質権を通知するに非れは完全なる質権の効力を生せす、尤も記名株式には之を適用せすとありしも、此の如くなる時は記名公債の如きは国庫に通知せさるへからすして、遠隔の地方にありては其不便は勿論、之か為幾多の煩雑を惹起すのみならす、記名債権を以ての融通は殆と杜絶するに至るへけれは、本条第二項に左の如く修正を加へられんことを希望す
  前項の規定は記名の国債証券、地方債証券、社債券及株式には之を適用せす
 - 第6巻 p.438 -ページ画像 
一民法第三百六十五条に記名の社債券を質物となす場合には、其会社の台帳に質入の旨を登記するにあらされは第三者に対して効力なきことを規定せり、而して現今の社債券は悉く記名式なれは前条記名債券と均しく手続の煩累を免れさる為、社債券は終に担保として融通の円滑を欠くに至るへし、故に記名の株式に対し特例を設けあるか如く、前条第二項修正案の通り社債券を挿入し、本条を刪除せられん事を希望す
    参照
  民法第三百四十九条 質権設定者は設定行為又は債務の弁済期前の契約を以て、質権者に弁済として質物の所有権を取得せしめ、其他法律に定めたる方法に依らすして質物を処分せむことを約することを得す
  同第三百六十四条 指名債券を以て質権の目的と為したるときは第四百六十七条の規定に従ひ、第三債務者に質権の設定を通知し又は第三債務者か之を承諾するに非されは、之を以て第三債務者其他の第三者に対抗することを得す
  前項の規定は記名の株式には之を適用せす
  同第三百六十五条 記名の社債を以て質権の目的となしたるときは、社債の譲渡に関する規定に従ひ、会社の帳簿に質権の設定を記入するに非されは、之を以て会社其他の第三者に対抗することを得す
  ○第百八十五回定式会議録事中「民法第三百四十九条外二条修正ノ件」ニ関スル記述ハ「集会録事(明治二十六年一月)」中ノモノヨリ「銀行通信録」ニ掲載ノモノ詳細ナルヲ以テ之ヲ採リタリ。


集会録事 自明治二十六年一月(DK060130k-0003)
第6巻 p.438 ページ画像

集会録事 自明治二十六年一月  (東京銀行集会所所蔵)
    ○第百八十七回定式集会録事○明治三一年一二月一五日
副会長豊川良平氏会長席ニ着キ会議ニ先タチ○中略民法中修正ノ件ニ付法典調査会ヘ交渉ノ顛末○中略ヲ報告