デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
1節 銀行
6款 択善会・東京銀行集会所
■綱文

第6巻 p.544-547(DK060151k) ページ画像

明治35年8月16日(1902年)

株式会社帝国商業銀行、株主定時総会ヲ開クニ当リ、株主ニ通知スベキ事項ノ程度ヲ一定スルノ件ニ付キ建議ス。即チ臨時総会ヲ招集シ右ニ付キ協議セシモ、本件ノ調査ハ役員ニ一任スルコトトナレリ。


■資料

銀行通信録 第二〇三号・第四四五―四四七頁〔明治三五年九月一五日〕 東京銀行集会所組合銀行臨時総会(DK060151k-0001)
第6巻 p.544-547 ページ画像

銀行通信録 第二〇三号・第四四五―四四七頁〔明治三五年九月一五日〕
  ○東京銀行集会所組合銀行臨時総会
明治三十五年八月二十五日(月曜日)午後五時より株式会社帝国商業銀行提出に係る「株主定時総会を開くに当り株主に通知すべき事項の程度を一定するの件」に付組合銀行臨時総会を開く、出席銀行四十一会員四十六名にして議案の全文左の如し
 第一二〇号
 拝啓陳者別紙法律経済新聞所載の通り日本勧業銀行商法違反事件に対する大審院の決定有之候に就ては株主総会の決議に付すべき通知事項は解決せられ従来の慣行を一変せざるを得ざること判明致候得共程度に至りては尚ほ不明に有之候へば当組合銀行に於て研究の上適当の御措置相成様致度存候間別紙の通建議書提出致候に付可然御取計被下度此段及御依頼候也
  明治三十五年八月十六日
               株式会社帝国商業銀行
    東京銀行集会所 御中
      建議書
 - 第6巻 p.545 -ページ画像 
 株主定時総会を開くに当り株主に通知すへき事項の程度を一定すること、若し解釈上実際の運用に不便なるときは商法第百五十六条の改正を其筋へ建議すること
     理由
 商法第百五十六条第二項には総会の目的及総会に於て決議すべき事項を通知すべきことを命せり、而して第百五十八条に於て定時総会は取締役が提出したる書類及監査役の報告書を調査し併せて利益の配当を決議すへきことを規定し、更に第百九十条に於て取締役は財産目録、貸借対照表、損益計算書並に準備金又は利益の配当に関する議案を監査役に提出すべきことを規定せるを以て、通知すべき事項の範囲は明かなるも其程度は此等法文の解釈と実際の運用とにより多少の差異あるを免れす
 従来株式組織の会社銀行は概ね「第何期営業報告書、貸借対照表、損益計算書、財産目録の承認及利益金分配の件」として其の梗概を株主に通知し、詳細の事項を記載したる報告書、若くは考課状は早くも総会当日に於て株主に配付し来れり、是れ商法第百九十条に依り、報告書若くは考課状は総会の定日より一週間前に監査役に提出すべく、株主に対する通知は第百五十六条に依り会日より二週間前に発すべきものとせる法律の精神に基く自然の順序にして而かも我商法の解釈上敢て違法の処置と認めざりき、蓋し商法は目的と事項とは必す之を通知すべきことを命せるも、必ずしも各別に記載すべきことを強要するものに非ず、又其内容の精粗繁簡を問ふものに非ず、而して前掲の通知は其目的を示すと同時に其事項を明かにするものなればなり
 然るに大審院は日本勧業銀行の抗告に対し、右の如き記載を以て商法の明文に違背せるものとし曰「商法第百五十六条は株主をして総会の目的及其総会に於て評決せらるべき事項如何を了知することを得せしめ、其決議権を行ふに付十分の準備を為さしむる規定なるを以て、会社か株主に為す総会の通知は其総会の議事日程たる事項如何を了解することを得せしむるに足る記載あることを要す、故に右の如き記載は如何なる計算に由て如何なる割合の利益配当となるべきや其計算は果して相当なるや否や等を知るに由なし」と
 右裁判の当否は暫く之を措き、一たび此の如き決定ありたる以上は従来の慣行を一変せざるを得ず、左りとて報告書若くは考課状を二週間以前に各株主へ発送するは実際上不便尠からざるを以て此際当組合銀行は便宜と法律とを斟酌し、相当の程度を研究し、其程度にして尚不便なるときは進て商法第百五十六条の改正を其筋に建議あらんことを希望し、玆に本建議を提出せる所以なり
右及建議候也
 明治三十五年八月十六日
          株式会社帝国商業銀行
               取締役会長 馬越恭平
  東京銀行集会所
 - 第6巻 p.546 -ページ画像 
   会長 男爵 渋沢栄一殿
     ○大審院抗告決定参照
 明治三十五年ク第百五十四号
   決定正本
    抗告人  東京市芝区三田豊岡町六十七番地
              日本勧業銀行総裁
                     高橋新吉
              右訴訟代理人 弁護士
                     三好退蔵
                     長島鷲太郎
右抗告人は明治三十五年五月十日東京控訴院か与へたる商法違反及ひ日本勧業銀行法違反事件の決定に対し告抗の申立を為したるに依り、検事古賀廉造の意見を聞き決定すること左の如し
   決定
本件抗告は之を棄却す
   理由
 抗告理由の第一は原裁判所抗告人か明治三十四年一月二十四日通常総会を招集するに当り、単に第七期諸計算書並に利益金配当に関する件に付決議を求むる旨を通知し、而して又其臨時総会を招集するに当り「故副総裁片山遠平君に功労金贈与の件」に付決議を求むる旨を通知したるのみにて、計算書の内容利益配当金若くは功労金の数額を明示せさりしは総会の目的を通知したるに止まり、所謂総会に於て決議すへき事項を通知せさるものなるを以て商法第百五十六条の規定に背反し、従て同法第二百六十一条に該当し過料の制裁を受くべきものなりと決定せられたるも、商法第五十六条第二項は必ずしも総会の目的及ひ総会に於て決議す可き事項を各別に記載す可きことを強要するにあらされは、苟くも第百五十六条第一項通知書の記載により総会か何の為めに招集せられ而して其総会に於て如何なる事項の決議せらるへきやを知るを得は毫も商法の規定に違反するものにあらす、且記載の詳密なると簡約なるとは固より其問はさる所なり、本件「諸計算書並に利益金配当に関する件」に付き決議する為め通常総会を招集すと云ふは、之れ総会の目的を示し並に其決議すへき事項をも明示したるものなり、又「片山遠平君に功労金贈与の件」に付決議を求むる為め臨時総会を招集すと云ふ、之れ亦其総会を招集するの目的と共に、其総会に於て決議すへき事項の何たるやを明示したるものなり、利益配当金の数額又は功労金の金額等其数字的明示を欠くが為めに総会招集の目的を通知したるに止まり決議す可き事項の記載を欠くと謂ふが如きは畢竟法文の字句に拘泥したるの議論なり、若し夫れ取締役選挙の為め総会を招集すと云ふか如き何を以て目的と做し、何を以て決議事項と認むへき乎、原判決定の如くせば到底其範囲分界を定むる能はさるへし、仮りに本案通知の如き単に目的を通知したるに止まり事項の通知を欠く者と為さん乎、斯の如き通知方法は商法実施以来全国一般商事会社の慣用に
 - 第6巻 p.547 -ページ画像 
して今日に於ては最早一の商習慣と認むへく、若し此通知方法にして商法に違反するものとせは全国無数の商事会社は一として抗告人と同一の制裁を蒙らさるものなきに至るへしと云ふに在り
 商法第百五十六条第二項は株主にして総会の目的及ひ其総会に於て議決せらるへき事項如何を了知することを得せしめ、其決議権を行ふに付十分の準備を為さしむる規程なるを以て会社か株主に為す総会の通知は其議事日程たるべき事項如何を了解することを得せしむるに足る記載あることを要す、今抗告人の発したるものなりと云ふ通常総会に関する通知には「第七期計算書並に利益金配当に関する件」とありて第七期計算及ひ利益金配当に関する件の議事と為るへきことを推知せしむることを得べしと雖も、如何なる計算に因りて如何なる割合の利益配当と為るへきや、其計算は果して相当なるや否等総会の決議に付すべき事項に至りては之を知るに由なきものなるを以て、右商法の規定に違背すること瞭然たり、何となれば斯る通知に依るも株主は決議を為さゝるへからさるものとせんには、議事の何たるを研究する遑なかりし株主にして遽かに評決の数に加はらしむることを強要したると異る所なく、決議事項を予知せしめんとする立法の趣旨を貫徹することを得されはなり、又其臨時総会の招集に付き発したりと云ふ通知を見るに「故副総裁片山遠平君に功労金贈与の件」とあるを以て其功労に報する為金円を贈与することを議決する目的の総会なることを推知し得るも、贈与せんとする金額は果して若干なるやを知らしむることなく、株主か決議すへき事項の表示を為すに足らさるか故に此通知も亦違法なりとす、而して抗告代理人か右見解を不当なりとして引用する例示の場合に於ても新に選任すると再選を為すと決議事項異ることなきに非らす、又慣習は法律に規定したる事項に付ては其効力を有するものに非さることは法例第二条及ひ商法第一条に依り明なるを以て、本案通知の如き違法の通知に因り総会を開きたる幾多の実例ありとするも、商法第百五十六条第二項の規定を除外せしむる効力を有することなし(中略)
 以上説明する如く抗告人は商法第百五十六条第二項及第百七十二条第四号の規定に関する違反者なるを以て、原院か同法第二百六十一条第二号及第九号を適用し、各違反に付き抗告人を五円の過料に処すべきものと決定したるは相当なりとす
会長男爵渋沢栄一君不在中に付き、副会長豊川良平君議長席に着き臨時総会開会の旨を告け、夫れより本案提出銀行島甲子二君の説明あり
第百銀行池田謙三君の発議にて本件の審査を役員に一任することに決し、右にて議事を終り午後六時閉会せり