デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
1節 銀行
6款 択善会・東京銀行集会所
■綱文

第6巻 p.620-628(DK060165k) ページ画像

明治39年2月13日(1906年)

政府ハ臨時事件費支弁ニ関スル法律ヲ公布シ、国債弐億円ヲ募集セントス。

栄一是日、大蔵大臣官舎ニ於ケル協議会ニ出席ス。

西園寺総理大臣他各大臣等出席シ、京阪其他ノ各銀行者来会栄一席上謝辞ヲ為ス。尋イデ数次ノ会議ヲ重ネテ三月三日当組合銀行ハ応募額ヲ確定ス。


■資料

渋沢栄一 日記 明治三九年(DK060165k-0001)
第6巻 p.620 ページ画像

渋沢栄一 日記 明治三九年
二月十三日 晴 風ナシ          起床九時就蓐十一時
○上略午後五時大蔵大臣官舎ニ抵ル公債募集ニ関スル協議会ニ出席ス、西園寺総理大臣其他各大臣出席、井上伯・松尾総裁・高橋副総裁及京阪其他ノ各銀行者来会ス、食卓上一場ノ謝辞ヲ為シ、食後高橋氏ヨリ英国其ノ他国々ニ於ル金融事情及公債ノ気配等ニ関シ演説アリ、夜十時半王子別荘ニ帰宿ス
二月十四日 晴 風寒シ          起床七時就蓐午前二時
○上略 四時半三井集会所ニ抵リ、日本銀行総裁ノ招宴ニ出席シ、昨夜来大蔵大臣邸ニ於テ協議アリシ公債募集方法及其発行価格等ニ関シ来会セシ東京・大阪・京都・名古屋・横浜等ノ同業者ト種々ノ討議ヲ為ス井上伯モ来会シ周旋甚タ勉ム、高橋副総裁ヨリ海外ノ事情陳述セラレ甲論乙駁協議整理シカタキモ夜一時過ニ至リ漸ク一致シテ一同散会ス
三月三日
正午銀行倶楽部ニ抵リテ午飧ス○中略畢テ集会所ニ於テ募債ニ関スル申込ノ事ヲ同業者一同ト協議ス


中外商業新報 第七二五五号〔明治三九年二月一四日〕 蔵相邸の銀行家招待会(DK060165k-0002)
第6巻 p.620-621 ページ画像

中外商業新報 第七二五五号〔明治三九年二月一四日〕
    蔵相邸の銀行家招待会
内債募集に関する銀行家の招待会は予定の如く十三日午後六時より大蔵大臣官邸に於て開かれぬ、当日の来会者は井上伯を始め
(政府)西園寺総理、加藤外務、原内務、寺内陸軍、斎藤海軍、松田司法、松岡農商務、山形逓信、石渡□記官長
(東京)渋沢男爵、園田孝吉、豊川良平、安田善次郎、松尾臣善、池田謙三、原六郎(相馬永胤氏代理)、添田寿一、馬越恭平、佐々木勇之助、早川千吉郎、高橋新吉、志村源太郎、高橋是清
(横浜)大谷嘉兵衛、左右田金作、原富太郎
(京都)田中源太郎
 - 第6巻 p.621 -ページ画像 
(大阪)野元驍、島村久、志立鉄次郎、小山健三、岩下清周
(名古屋)伊藤次郎右衛門、岡谷惣助、滝兵右衛門、神野金之助、関戸守彦
(主人側)阪谷大蔵大臣、若槻次官、荒井桜井二局長、神野書記官、森秘書官
にして席定まるや先つ阪谷蔵相及西園寺総理の挨拶あり、右終て食事に移り、食卓に於て再ひ阪谷大蔵及西園寺総理の演説あり、次て井上伯亦た一場の演説を試みられ、後ち渋沢男及豊川良平氏の答辞あり、食後昨日新に帰朝せる高橋日本銀行副総裁の海外に於ける経済上の談話あり、右終て散会せるは十時頃なりき、尚右に付当日来会せる銀行家諸氏は本日会合協議する所ある筈なり


銀行通信録 第四一巻第二四五号・第三九六―四〇一頁〔明治三九年三月一五日〕 臨時事件公債募集(DK060165k-0003)
第6巻 p.621-627 ページ画像

銀行通信録 第四一巻第二四五号・第三九六―四〇一頁〔明治三九年三月一五日〕
    ○臨時事件公債募集
前号に掲げたる臨時事件費支弁に関する法律案は二月一日衆議院を通過し越て七日貴族院を通過して裁可となり、同十二日法律第一号を以て公布せられ而して同法律第一条に規定せられたる臨時事件費支弁の為、政府が一時借入金を為し、特別会計に属する資金を繰替使用し及公債を募集し得べき金額三億六千三百万円の内行賞に充用する一億五千万円を除き、実際市場より募集することを要する二億円の公債を此際発行することゝなれり(前号二一一頁参照)
之に先ちて昨年十二月二十日大蔵省告示第五百八十四号を以て第四回国庫債券一億円の償還を本年三月乃至五月に行ふことゝなり、又本年一月二十二日大蔵省告示第十一号を以て第五回国庫債券一億円の償還を同年五月乃至八月に行ふことゝなりしが、其償還金額左の如し

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              第四回国庫債券       第五回国庫債券         合計                      円             円             円 明治三十九年三月    四〇、〇〇〇・〇〇〇             ―    四〇、〇〇〇・〇〇〇 同     四月    四〇、〇〇〇・〇〇〇             ―    四〇、〇〇〇・〇〇〇 同     五月    二〇、〇〇〇・〇〇〇    一〇、〇〇〇・〇〇〇    三〇、〇〇〇・〇〇〇 同     六月             ―    三二、〇〇〇・〇〇〇    三二、〇〇〇・〇〇〇 同     七月             ―    二三、〇〇〇・〇〇〇    二三、〇〇〇・〇〇〇 同     八月             ―    三五、〇〇〇・〇〇〇    三五、〇〇〇・〇〇〇 合計         一〇〇、〇〇〇・〇〇〇   一〇〇、〇〇〇・〇〇〇   二〇〇、〇〇〇・〇〇〇 



之に由て之を見れば一方に於て二億円の公債を償還し、他の一方に於て二億円の公債を募集するものにして、全体上より見るときは恰も借替の姿となるものなり
斯の如く今回の臨時事件公債は借替の姿なるのみならず目下貨幣市場は緩漫の景況なるを以て政府は此機に乗じて其募集を決行せんとし、前記臨時事件費支弁に関する法律案の両院を通過するや東京、大阪、京都及名古屋各市の重立ちたる銀行家を召集して内議を試むることゝなれり、是に於て大阪に於ては同月八日、名古屋に於ては同月九日東京に於ては同月十日を以て重立ちたる銀行家間に協議行はれ、越て十二日に至りては法律も公布となりしのみならず各地銀行家も大抵上京し京阪の銀行家は相会して協議を重ぬるありしが、東京を始め各銀行家の問題は(一)一時に二億円を募集すべきや将た之を二回に分割すべきや(二)償還年限(三)利率及発行価格等にして特に其主なるも
 - 第6巻 p.622 -ページ画像 
のは利率及発行価格なりしが、政府の内定と聞えし五分、九十五には容易に応ずべき色なかりしが如し
阪谷大蔵大臣が各地銀行家を其官邸に召集したるは、二月十三日午後六時なりしが当日の出席者左の如し
    東京
 松尾臣善 高橋是清 高橋新吉 志村源太郎 原六郎 三崎亀之助(欠) 添田寿一 渋沢栄一 豊川良平 園田孝吉 安田善次郎 早川千吉郎 馬越恭平 池田謙三 佐々木勇之助
  原六郎氏は相馬永胤氏の代理として出席せるものなり
    横浜
 大谷嘉兵衛 原富太郎 左右田金作
    大阪
 藤田伝三郎(欠) 野元驍 島村久 志立鉄次郎 小山健三 岩下清周 町田忠次(欠) 外山修造(欠)
    京都
 田中源太郎
    名古屋
 伊藤次郎右衛門 岡谷惣助 滝兵右衛門 神野金之助 関戸守彦
当日は西園寺総理大臣以下各大臣及井上伯(松方伯は欠席)出席し、先づ阪谷大蔵大臣より左の挨拶ありたり
 今回勅裁を経たる臨時事件費支弁に関する法律に依て募集せんとする公債は軍事費の不足及陸海軍の行賞等に充当せんとするものにして、即ち戦時より継続せる必要の経費なり、戦争は既に終結したるも出征軍隊は未だ引揚を了せず、財政に取りては尚殆んど戦時の状態に在りと言ふも差支なきなり、而して臨時事件費支弁の為に要する金額は三億六千三百万円にして内行賞費一億五千万円は市場大蔵省預金部に於て引受け、直に公債を交付することゝし、残り二億円を内地の一般市場より募集せんとする計画なれば、諸君は此際戦時中と同様応募に尽力されんことを望む、但し政府としては戦時同様との故を以て募集の条件、其他に就き諸君を強制せんとするの趣旨に非らず、全く胸襟を披きて協議し、円満に其目的を達せんことを望むものなり
右終りて西園寺総理大臣の挨拶あり、夫より晩餐の饗応ありて卓上阪谷大蔵大臣及井上伯の演説あり、之に対して渋沢、豊川両氏の挨拶ありしが、其主旨は今回の公債募集に対しては銀行家に於ても尽力を惜まざるべきも其募集条件其他に対しては当局者とも十分協議を遂げたしと云ふにあり、夫より別室に於て日本銀行副総裁高橋是清氏の海外市場の近況に関する演説あり、条件其他の協議は翌日に譲り当局者も之を表示せずして当日は散会せり
翌十四日は午後五時より松尾日本銀行総裁の案内にて有楽町三井集会所に会合あり、会談凡そ七時間に亘り十二時に至りて散会せしが、此会合に於て募集条件の決定を見るに至れり、其大要左の如し
 一募集総額    金二億円
 一発行価格    金九十五円以上
 - 第6巻 p.623 -ページ画像 
 一利率      年五分
 一償還期限    明治三十九年より三十箇年内(但五箇年据置)
 一払込      三月より八月迄六回に分つ
 一募集金に対しては割払なるに拘らず、本年六月及十二月に於て半箇年分の利子を仕払ふ
 一四月に於て全額払込を為す者には額面百円に付金八十銭の割合にて割引をなす
 一第四回及第五回国庫債券を以て払込の現金に代用することを得、此場合に於ては左の例規あり
  一最低価格申込者中、優先に募入せらるゝ事
  二該国庫債券を申込の際取扱銀行に預托すれば保証金を要せざる事
  三銀行に預托したる国庫債券の償還元利金が払込金に超過したる差額は前項割引金額と共に四月に於て現金を以て支払はるゝ事
斯の如く協議決定せるを以て政府は又地方長官を召集し、二月二十日大蔵大臣及総理大臣より該公債募集に対し尽力すべき旨を訓示せり
臨時事件公債規程は、二月二十日官報号外を以て公示せられたり、其規程左の如し

 大蔵省令第八号 (省令ハ「明治大正財政史」第十一巻ニ依ル)
 臨時事件公債規程左ノ通之ヲ定ム
  明治三十九年二月二十日 大蔵大臣 法学博士 阪谷芳郎
   臨時事件公債規程
 第一条 政府ハ明治三十九年法律第一号ニ依リ、臨時事件公債二億円ヲ募集ス
 第二条 臨時事件公債ノ利率ハ一箇年百分ノ五トス
 第三条 臨時事件公債ノ証券ハ大日本帝国政府五分利公債証書トス
 第四条 臨時事件公債ノ元金ハ明治三十九年ヨリ五箇年据置キ、其ノ翌年ヨリ向二十五箇年以内ニ償還スルモノトス
 第五条 臨時事件公債ノ利子ハ毎年六月及十二月ニ於テ仕払フモノトス
 第六条 臨時事件公債ノ発行価格ハ証券額面百円ニ付其ノ最低ヲ九十五円トス
 第七条 臨時事件公債ノ応募申込期間ハ明治三十九年三月八日ヨリ同月二十日マテトス、但シ取扱銀行ハ応募者ノ便宜ニヨリ三月八日前ト雖モ申込ヲ受クルコトヲ得
 第八条 応募者ハ応募高応募価格及住所氏名ヲ詳記シタル申込書ニ申込高百円ニ付金五円ノ保証金ヲ添ヘ日本銀行本支店其ノ他日本銀行ノ定ムル申込所ニ申込ムヘシ、但シ保証金ニハ利子ヲ付セス前項ノ応募価格ニハ十銭位ニ満タサル端数ヲ付スルコトヲ得ス
 第九条 臨時事件公債ノ応募高、需要額ヲ超過スルトキハ其ノ価格ノ高キモノヨリ順次之ヲ採リ、需要額ニ満ツルニ至リテ止ム、其ノ価格同シキモノハ申込ノ高ニ割合ヒ減少シ割当高五十円ニ満タサルモノハ之ヲ除キ、更ニ之ヲ五十円以上ノ分ニ配当ス
 - 第6巻 p.624 -ページ画像 
 第十条 申込ハ明治三十九年三月三十一日マテニ確定スルモノトス前項確定ノ上ハ其ノ旨ヲ申込人ニ通知スヘシ
 第十一条 前条第二項ノ規定ニ依リ、募入決定ノ通知ヲ受ケタル者ハ左ノ区別ニ依リ払込ヲ為スヘシ、但シ第一期払込ハ保証金ヲ以テ之ニ充ツ
  第一期 明治三十九年三月三十一日 金五円 (証券額面百円に付)
  第二期 同年四月十六日ヨリ同月二十五日マデ 金十五円(同上)
  第三期 同年五月十六日ヨリ同月二十五日マデ 金二十円(同上)
  第四期 同年六月十六日ヨリ同月二十五日マデ 金十五円(同上)
  第五期 同年七月十六日ヨリ同月二十五日マデ 金二十円(同上)
  第六期 同年八月十六日ヨリ同月二十五日マデ 金二十円(同上)
  最低発行価格以上ノ申込ヲ為シタル者ハ、第二期払込ト共ニ其ノ差額ヲ払込ムヘシ
 第十二条 応募者ノ都合ニ由リ後ノ一期、若ハ数期分ヲ前期ニ繰上ゲ、払込ヲ為スコトヲ得
  第二期ニ於テ全部ノ払込ヲ完了シタル者ニハ証券額面百円ニ付金八十銭ノ割合ニ依リ割引ヲ為スモノトス
 第十三条 第四回及第五回国庫債券ハ臨時事件公債応募払込ノ現金ニ代用スルコトヲ得
  前項ノ代用価格ハ其ノ額面金額ニ償還期限ノ月マテニ属スル利子ノ未払金額ヲ加ヘタルモノニ依ル
 第十四条 第四回及第五回国庫債券ヲ以テ臨時事件公債応募払込ノ現金ニ代用セントスル者ハ、応募申込ノ際其ノ債券ノ額面金額ヲ予告シ、若ハ該債券ヲ取扱銀行ニ預托シ置クコトヲ得
  前項ノ規定ニ依リ国庫債券ヲ預托スル場合ニ於テハ保証金ヲ納ムルコトヲ要セス
 第十五条 国庫債券代用ノ予告ヲ為シ、若ハ国庫債券ヲ預托シタル者ノ応募高ハ第九条ノ規定ニ依リ、割合減少ヲ為ス場合ニ於テ優先ニ募入セラルルモノトス
 第十六条 国庫債券代用ノ予告ヲ為シタル者ハ代用債券ノ償還期限ニ拘ラス第二期ニ於テ其ノ代用債券ヲ取扱銀行ニ提供スヘシ
  予告ヲ為シタル者ノ保証金ハ第十一条第一項但書ノ規定ニ依ラス其ノ代用債券ノ提供アリタルトキ之ヲ還付ス
 第十七条 前条ニ依リ提供シタル国庫債券又ハ預托シタル国庫債券ハ其ノ償還期限ニ拘ラス第二期ニ於テ現金ノ払込ニ代用納付シタルモノト看做ス
 第十八条 予告若ハ預托ヲ為ササリシ国庫債券ハ其ノ償還期限以後ニ非サレハ代用納付スルコトヲ得ス
 第十九条 国庫債券代用価格ノ金額カ払込ムヘキ現金ノ額ヲ超過スルトキハ、償還期限ニ拘ラス其ノ払込ノ時ニ於テ該超過額ニ相当スル現金ヲ払戻スヘシ
 第二十条 臨時事件公債ノ明治三十九年六月及十二月渡ノ利子ハ証券額面百円ニ付金二円五十銭ノ割合ヲ以テ之ヲ支払フモノトス、但シ明治三十九年六月渡ノ利子ハ第三期マテノ払込ヲ了リタル後
 - 第6巻 p.625 -ページ画像 
ニ非サレハ之ガ支払ヲ為サズ
 第二十一条 臨時事件公債ノ払込ヲ延滞シタル者アルトキハ払込期限ノ翌日ヨリ現払込ノ日マテ金百円ニ付日歩金四銭ノ割合ヲ以テ利子ヲ徴スヘシ
  払込期限後三箇月ヲ過キ尚払込ヲ為ササルトキハ応募ノ申込ヲ無効トシ、既ニ払込ミタル金額ハ之ヲ没収ス
 第二十二条 国庫債券代用ノ予告ヲ為シタル者カ其ノ予告ニ従ヒ、代用債券ノ提供ヲ為ササルトキハ応募ノ申込ヲ無効トシ、保証金ハ之ヲ没収ス
 第二十三条 第四回及第五回国庫債券ノ代用ニ関スル前各条ノ規定ハ其ノ仮債券ニ之ヲ適用ス、但シ代用ノ仮債券ハ之ヲ無記名本債券ト看做シテ取扱フモノトス
 第二十四条 代用ノ予告ヲ為シ、若ハ取扱銀行ニ預托シタル記名国庫債券ニ付テハ記名書換及所管店転換ノ取扱ヲ為ササルモノトス但シ相続、遺贈及強制執行ニ因リ記名書換ヲ要スルモノハ此ノ限ニ在ラス
 第二十五条 臨時事件公債ノ応募者第二期ノ払込ヲ了シタルトキハ記名ノ仮証書ヲ交付シ、全額払込ノ上之ト引換ニ本証書ヲ交付ス
 第二十六条 臨時事件公債ノ仮証書ハ売買譲与シ及質ト為スコトヲ得
  前項ノ取扱ニ関シテハ明治二十七年大蔵省令第十七号ヲ準用ス、但シ応募者カ払込ヲ為スニ当リ供託又ハ質入等ノ事故ニ因リ仮証書ヲ呈示スルコト能ハサル場合ニ於テ其ノ旨ヲ証明スルトキハ同令第三条ニ依リ其ノ払込ヲ仮証書ニ記入スル代リニ之ニ対シテ仮ニ領収証書ヲ発スルコトアルヘシ
 第二十七条 第二十一条第二項ノ規定ニ依リ無効ト為リタル仮証書ヲ所持スル者ハ、速ニ之ヲ日本銀行本支店又ハ代理店ニ返還スヘシ
 第二十八条 仮証書ヲ紛失シ又ハ滅失シタル者ハ二名以上ノ保証人ヲ立テ其ノ事実ヲ日本銀行本支店又ハ代理店ニ証明シ、代仮証書ヲ請求スルコトヲ得
  前項ノ請求アリタル後原仮証書ヲ発見シタル者ハ速ニ其ノ旨ヲ日本銀行本支店又ハ代理店ニ届出スヘシ、此ノ場合ニ於テ既ニ代仮証書ノ交付ヲ了リタルトキハ、原仮証書ヲ返還セシム、其ノ交付手続中ニ係ルモノモ時宜ニ由リ、返還セシムルコトアルヘシ
 第二十九条 臨時事件公債ニ関スル取扱順序ハ本令ニ規定シタルモノノ外明治十九年大蔵省令第三十号整理公債取扱順序ニ準拠ス
右規定に関する其筋の解説書左の如し
 今回大蔵省より発布せる臨時事件公債規程ハ、曩の国庫債券の発行規程とは大に其趣を異にする所あり、第一初年の利子は払込の遅速如何に拘らず(し)て全年分金五円を六月、十二月の両度に折半して之を仕払ひ、其第二期に於て全部の払込を完了する者に対しては額面百円に付金八十銭を以て払込金の割引を為すの定めなれば、第二期に於て払込完了の者は全く五分八厘の利子を受くることとなり
 - 第6巻 p.626 -ページ画像 
尚之に額面高と発行価格との差五円を三十箇年に平分したるものを加へ、単に三十九年一箇年分の利廻歩合を求むれば六分二厘八毛となるべし、第二には第四、五回国庫債券を以て応募払込の現金に代用することを得るの便法あり、尤も其方法は稍々複雑に渉るを以て左に事項を分ち、聊か之が解説を為さんに、先づ其方法には(甲)予告代用(乙)預托代用(丙)随時代用の三種あり
 (甲)予告代用は応募申込の際其代用すべき債券の額面の金額を予告し置くものにして(乙)預托代用は其際該債券を取扱銀行に預け置くものとす、甲の場合には規定通り保証金を納めざるを得ざるも乙の場合に於ては之を納むるに及ばざるなり
 予告及預托代用に関する要件を示せば左の如し
 (一)代用価格 国庫債券の額面金額に償還期限の月までに属する利子の未払金額を加へたるものを以て代用価格とするの定めなれば、第四回分百円券に就きて之を云はゞ三月償還のものは百一円五十銭、四月のものは百二円、五月のものは百二円五十銭、第五回分百円券五月償還のものは百一円、六月のものは百一円五十銭、七月のものは百二円、八月のものは百二円五十銭となるべし、若し第四回分にして三十八年十二月以前、第五回分にして三十九年三月以前の利子未払に係るものあるときは尚其額だけ増加すべし
 (二)優先募入 国庫債券代用の予告を為し、若し該債券を預托したる者の応募高は応募総額超過の為め同一申込価格に就きて割合せ減少を行はるゝ場合に於て優先に募入せらるゝべし、例へば先づ価格以上の申込を採り、次に最低発行価格の申込額に就き或る割合を以て減少すべき場合均しく最低価格申込者中甲は全部国庫債券を以て代用すべきことを予告し、又は之を預托し、乙及丙は予告若くは預托を為さゞるときは乙及丙の応募高は減少せらるべしと雖も甲は一も減少せられずして募入となるが如し
 (三)代用の時期 予告を為したる者は其代用債券の償還期限が三月なるも四月なるも乃至八月なるにもせよ総て第二期即ち四月十六日より二十五日までの間に於て一時に之を提供すべく、而して其提供したる債券及預托したる債券は第二期に於て代用納付したる者と看做して取扱はるゝものなり、又予告者が代用納付を為したるときは保証金は還付せらるゝ筈なり
 (四)超過額払戻 国庫債券の代用価格の金額が払込むべき現金の額を超過するときは、代用債券の償還期限に拘はらず其払込の時超過額丈は現金を以て払戻さるべきものにして、即ち予告代用に在りては払込金の代用として債券を提供したる時(即ち第二期)又預托代用に在りては第二期に於て払戻さるゝことゝなる
 (五)失効の規定 予告代用に在りては第二期に於て其代用債券を提供せざるときは直に申込を無効とし保証金を没収せらるべし
 (六)仮債券の代用 曩に本債券との引換期限を設け、其期限までに引換ふることを得ざりし第四、五回国庫仮債券は紛失、滅失及償還に関しては無記名本債券と見做して取扱ふことゝ定められたるに伴ひ、該仮債券は代用納付に付ても亦無記名本債券と見做して取扱
 - 第6巻 p.627 -ページ画像 
はるゝものなり
 (七)代用債券に対する拘束 代用の予告を為し若くは預托したる国庫債券が記名なるときは相続等の場合を除く外記名の書換及び所管取扱店の転換を停止せらるべし
 (八)利廻歩合 予告代用及預托代用に依る三十九年一箇年分の利廻歩合は全部三月償還のものを以て代用したる者に在りては募入高百円に付債券額面高は九十三円五十九銭六厘の割合(応募価格九十五円)となり、此債券の利子一円四十銭四厘(即ち此利子を額面高に加へて九十五円となる)之に公債の利子五円、割引の八十銭及価格の差金五円を三十箇年に平分したる額十六銭七厘を併算し、其高七円三十七銭一厘となる、之を払込金額九十五円に対比し其の歩合を求むれば七分七厘六毛となる、是れ即ち三十九年一箇年分の利廻歩合なり、此方法にて算出すれば四月償還のものに在りては八分二厘四毛、五月の分は八分七厘二毛、六月の分は九分一厘九毛、七月の分は九分六厘六毛、八月の分は一割一厘三毛となる頗る割合よき利子を得ることゝなるなり
 (丙)右の外応募者は予告も為さず予托をも為さずして随時国庫債券を以て払込現金に代用することを得べし、此場合には優先募入権なきは言を俟たず、而して代用価格超過額払戻及仮債券の代用は予告代用及預托代用に同じ
 (一)代用の時期 何れの期に於て幾何の額面高を代用納付するも全く応募者の随意なり、只玆に注意を要するは其代用に供する国庫債券は已に償還期限に達したるもの、又は償還期限を経過したるものに限ること是れなり
 (二)利廻歩合 随時代用のものゝ利廻歩合は其の代用の時期及代用債券額の多寡に由り、一様ならざるあり
又本公債の取扱銀行手数料は応募申込高に対し、万分の六、募入割払金(国庫債券代用払込を含む、但し第一期割払金及価格以上の分は之を除く)に対し千分の十なり
又本公債の利子は明治三十八年二月法律第十九号に依り所得税を免除せらるべし
又本公債の月割払込高と第四、五回国庫債券償還金額とを対此すれば左の如し

図表を画像で表示--

        臨時事件公債払込高     国庫債券償還高                円             円 三月    一〇、〇〇〇、〇〇〇    四〇、〇〇〇、〇〇〇 四月    三〇、〇〇〇、〇〇〇    四〇、〇〇〇、〇〇〇 五月    四〇、〇〇〇、〇〇〇    三〇、〇〇〇、〇〇〇 六月    三〇、〇〇〇、〇〇〇    三二、〇〇〇、〇〇〇 七月    四〇、〇〇〇、〇〇〇    二三、〇〇〇、〇〇〇 八月    四〇、〇〇〇、〇〇〇    三五、〇〇〇、〇〇〇 合計   一九〇、〇〇〇、〇〇〇   二〇〇、〇〇〇、〇〇〇 




銀行通信録 第四一巻第二四五号・第四五五頁〔明治三九年三月一五日〕 組合銀行臨時事件公債応募高(DK060165k-0004)
第6巻 p.627-628 ページ画像

銀行通信録 第四一巻第二四五号・第四五五頁〔明治三九年三月一五日〕
    ○組合銀行臨時事件公債応募高
本年二月二十日大蔵省令第八号臨時事件公債規程に依り、当組合銀行
 - 第6巻 p.628 -ページ画像 
は本月三日協議の上同月六日まで左の如く応募額を確定せり
   株式会社十五銀行        一〇、〇〇〇、〇〇〇
   三菱合資会社銀行部        五、〇〇〇、〇〇〇
   横浜正金銀行           五、〇〇〇、〇〇〇
   合名会社三井銀行         五、〇〇〇、〇〇〇
   株式会社第一銀行         三、六〇〇、〇〇〇
   同 第三銀行           二、〇〇〇、〇〇〇
   合名会社安田銀行         二、〇〇〇、〇〇〇
   株式会社第百銀行         一、二〇〇、〇〇〇
   合名会社村井銀行         一、二〇〇、〇〇〇
   株式会社帝国商業銀行       一、〇〇〇、〇〇〇
   株式会社東京銀行         一、〇〇〇、〇〇〇
   同 第二銀行             七五〇、〇〇〇
   同 横浜七十四銀行          七五〇、〇〇〇
   合資会社川崎銀行           五〇〇、〇〇〇
   株式会社東海銀行           五〇〇、〇〇〇
   合名会社中井銀行           五〇〇、〇〇〇
   株式会社横浜銀行           五〇〇、〇〇〇
   同 二十銀行             三〇〇、〇〇〇
   株式会社二十七銀行          三〇〇、〇〇〇
   同 明治商業銀行           三〇〇、〇〇〇
   合資会社左右田銀行          三〇〇、〇〇〇
   合名会社森村銀行           三〇〇、〇〇〇
   株式会社八十四銀行          二五〇、〇〇〇
   同 肥後銀行             二五〇、〇〇〇
   同 浅草銀行             二〇〇、〇〇〇
   同 京橋銀行             一五〇、〇〇〇
   同 麹町銀行             一五〇、〇〇〇
   同 武総銀行             一五〇、〇〇〇
   合資会社田中銀行           一二〇、〇〇〇
   合名会社神木銀行           一二〇、〇〇〇
   株式会社三十銀行           一〇〇、〇〇〇
   同 商栄銀行             一〇〇、〇〇〇
   株式会社丁酉銀行           一〇〇、〇〇〇
   同 万世銀行             一〇〇、〇〇〇
   合資会社今村銀行           一〇〇、〇〇〇
   株式会社日本通商銀行          七〇、〇〇〇
    合計             四三、九六〇、〇〇〇