デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治27年8月23日（1894年）

是日関東銀行会臨時会議ヲ開キ、軍事公債募集ノ儀ニツキ協議ス。栄一同銀行会会長トシテ斡旋・尽力ス。

銀行通信録　　第一〇六号・第三七―四六頁〔明治二七年九月一〇日〕
○関東銀行臨時会議要略　八月二十三日午後一時ヨリ東京銀行集会所ニ於テ関東銀行臨時会同ヲ開キ、来会シタル銀行ハ総テ四十六行、其人員四十八名、又事故アリテ欠席シタルモノ十一行ナリ、当日大坂九州、中国四国、名古屋及奥羽北海同盟銀行幹事諸氏ハ傍聴トシテ臨席セリ、其協議ノ要領左ノ如シ
　　　　　　　　当日出席者（但着席順）
　　　　　　　　　横浜第二国立銀行　　頭取　　　　　　原善三郎
　　　　　　　　　同　　　　　　　　　東京支店支配人　早川録造
　　　　　　　　　東京第一国立銀行　　頭取　　　　　　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　○外四九名氏名略
又事故アリテ欠席シタルモノ左ノ如シ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　○一一行名略
幹事第一国立銀行頭取渋沢栄一氏ハ会長席ニ付、今回勅令第百四十四号ヲ以テ軍事公債募集ヲ公布セラレタルニヨリ、本月十八日渡辺大蔵大臣ハ本会幹事ヲ招集シ、同公債応募ノ件ニ付懇篤諭示セラレタルヲ以テ、特ニ臨時会同ヲ開キ、諸君ノ来会ヲ煩シタル所以ナリ
抑モ今回募集セラルヽ軍事公債ノ必要ナル所以ハ、既ニ各員ニ配送シタル渡辺大蔵大臣ノ諭示ニ依リ明瞭ナレハ、又爰ニ聱セスト雖、凡ソ国民タルモノハ振テ此挙ニ応スヘキハ勿論、殊ニ我々銀行者ハ営業上適切ノ関係ヲ有スレハ、充分力ヲ尽シテ之ニ応セサルヘカラス、然レトモ又一方ニハ目下金融緊縮ノ際、数月ヲ出テスシテ三千万円ノ金額ヲ市場ヨリ吸収スルカ如キコトアラハ、実ニ容易ナラサル激変ヲ生スヘキヲ以テ、夫等ノ辺モ充分熟慮ヲ請ヒタル上、各自引受ノ応募額ヲ取極メタシト皆云、該公債募集ノ趣旨ハ大臣ノ演説書ニテ之ヲ了セルヲ以テ、力ノ能フ限リ其募集ニ応スヘキハ勿論、取引先資産家等ヘモ充分勧誘スヘシト雖、其金融ニ関シテハ会長ヨリ注意ノ如ク、他ニ其財源ヲ得ルニアラサレハ之レニ応スルノ途ナキヲ以テ、幹事銀行ニ托シ、日本銀行ノ方針ヲ問ヒ、然ル後今一会ヲ開カンコトヲ望ミタルヲ以テ、幹事ハ之ヲ諾シ、速ニ同行ノ意見ヲ尋ネ、明後二十五日午後四時更ニ会同スヘキコトヲ約シ同四時退会セリ
 - 第7巻 p.161 -ページ画像 
同二十五日午後四時ヨリ引続キ会同ヲ開キ、渋沢栄一氏会長席ニ着キ一昨二十三日協議ニ基キ幹事三名日本銀行ニ赴キ、三野村、与倉両理事（川田総裁病気ニ付）ニ面会、同行ノ意見ヲ叩キタルニ、該公債ニ対スルノ融通ハ充分ノ便利ヲ与フル考ナリ、但シ其利子ヲ低減シ、又ハ将来ノ利率ヲ確定スルカ如キハ、到底為シ能ハサル所ナリト答ヘラレタリ、就テハ各自ノ応募額ヲ申出ラレテハ如何、元来幹事銀行カ特ニ本会ヲ招集シタルハ、蓋シ銀行者ハ営業上自ツカラ世人ノ注意モ厚ク、随テ其応募額ノ多寡ハ又他方ノ標準トモ成ルヘケレハ、可成其引受高ノ多カランヲ望ムト陳ヘシニ、即時確答シタルハ四十一行ニシテ其応募額二千〇〇一万円ノ多額ニ達シタリ、尚当日不参ノ向ヘハ本会決議ノ要領ヲ通知シ、追テ引受高ヲ申込マシムル事トナセリ
爰ニ於テ会長ハ斯ノ如ク充分ナル結果ヲ得タルハ御同様満足ナル旨ヲ陳ヘ、且今後金融上ニ付テモ、互ニ経済社会ノ秩序ヲ保チ、其安寧ヲ守ラサルヘカラスト、本月十五日東京同盟銀行カ申合セタル方針ヲ述ヘ、本会ニ於テモ亦其方針ニ拠ラレンコトヲ望ム旨ヲ告ケ、同六時閉会セリ

　　　　○大蔵大臣演説筆記
本日関東各銀行ノ代表者タル各位ノ出頭ヲ促シタルハ、昨日書面ヲ以テ相達シタル如ク今般軍事公債募集ノ挙アルニ付、本大臣微衷ノ在ル所ヲ同盟各銀行ニ通知セラレンコトヲ望ムカ為メナリ
抑今般日清開戦ノ事タル我帝国ハ実ニ万止ムヲ得サルニ起ツ、彼我正邪曲直ノ在ル所ハ宣戦ノ　詔勅炳焉タルコト日月ノ如シ、今又玆ニ喋喋スルヲ待タスト云トモ、其結果ノ如何ハ将来我国ノ東洋ニ於ル地位ニ関シ、外交上、貿易上ニ及ホス所ノ利害実ニ最大至重ナル者有ツテ存スルハ決シテ疑フ可ラス
然ルニ方今ノ軍事タル全ク昔日ト其趣ヲ異ニシ、其費用ヲ要スル又旧来ノ比ニ非ス、全局勝敗ノ数往々軍費ノ充実セルト否サルトニ因ツテ分ルヽ者アリト云フモ敢テ誣言ニ非ルヲ信ス、今回政府カ勅令第百四十四号ヲ以テ軍事公債五千万円募集ノ議ヲ決定シタルモ亦此意ニ外ナラス
今ヤ我国民一般ノ公憤ハ日ニ其高度ヲ加ヘ、献金恤兵其他各般ノ義挙四方ニ起リ、一国人心ノ結合一致敵愾ノ気鬱然トシテ勃興セルコト今日ノ如クナルハ、開国已来殆ンド未曾有ノ情況ナリト言ツテ不可ナカルヘシ、此時ニ当リ軍事公債募集ノ挙アリ、其必要ニシテ止ム可ラサルハ前陳ノ如シト云トモ、本大臣カ敢テ高利ヲ以テ応募者ヲ促スコトナク、平常ノ利率ト売価トヲ以テ一時ニ巨額ノ国債ヲ募集スルノ決心ヲ為シタルハ、全ク忠君愛国ノ心ニ富ム所ノ国民ノ至誠ニ信依シ、且今強テ高利低価ノ公債ヲ発行スルコトアラハ、或ハ痛ク株式其他ノ市場ヲ攪乱スルコトアランヲ慮リタル微意ニ外ナラス
目下日清ノ戦争漸ク将ニ闌ナラントス、海陸ノ捷報頻リニ至ルト云トモ、全局ノ大勝ヲ得此一大問題ノ局ヲ結フハ前途尚甚タ近シト断言スルコト能ハス、苟クモ将来我帝国ノ東洋ニ於ケル地位ヲ重ンシ、外交上貿易上ノ利益ヲ全フセンコトヲ慮ル者ハ、力ヲ軍資供給ノ一途ニ用
 - 第7巻 p.162 -ページ画像 
ヒ、在外陸海軍人ヲシテ内顧ノ憂ナカラシメンコトヲ期スルハ、其朝ニ在ルト野ニ在ルトヲ論セス、吾人宜シク尽スヘキノ本分ナリトス
本大臣ハ忠勇義胆ニ富メル我国民ノ必スヤ蹶起シテ募集ニ応シ日ナラスシテ応募額ノ大ニ其総額ニ超過スルニ至ラシムルヲ以テ其本意トセラルヽヲ信シテ疑ハスト云トモ、今ヤ宇内列国ノ眼光ハ皆一斉ニ我帝国ニ両ツテ注射セラル、此時ニ当リテハ一挙一動ノ微ト云トモ大ニ注意セサル可ラス、況ヤ戦時国債応募多寡ノ如キハ国民愛国心ノ厚薄ヲ測定スルノ標準タルニ於テオヤ、本大臣局ニ財務ニ当ル敢テ黙々ニ付スル能ハス、本日各位ノ出頭ヲ促シ腹蔵ナク徴衷ノ在ル所ヲ吐露シ、各位カ此意ヲ同盟各銀行ニ致シ、各銀行ハ其取引アル資産家財産家トモ謀リ、共同一致一大好結果ヲ奏シ、今ヤ日清戦争ノ将ニ闌ナラントスルニ際シ、全局ノ勝算ヲ一着機先ニ占領セラレンコトヲ望ム
全国銀行同盟各団体ニ向ツテモ、幹事者ノ出京ヲ促シ置タリ、着京ノ上ハ本大臣ヨリ懇談スル所アルヘク各位モ亦相倶ニ商議セラルヽ所アランコトヲ希フ
（日本新聞月旦子本日ノ関東銀行会ヲ評シテ曰、戎馬ノ事ト牙籌ノ事其性質ノ懸隔スル啻ニ三千里ニ非ラザルナリ、而シテ同ク是レ国民ナリ、乃チ義勇奉公ノ事各其道ヲ異ニスルモ、帰スル所ハ自ラ一ナラザルヲ得ズ、血ヲ以テ公ニ奉スルト資ヲ以テ国ニ尽スト、何ゾ軽重アランヤ、関東同盟銀行家ノ如キハ名実共ニ通暁スト謂フ可シ）

銀行通信録　　第一〇七号・第三五頁〔明治二七年一〇月一〇日〕
○軍事公債第一回募集ノ結果　本年八月大蔵省告示第三十二号軍事公債第一回募集額三千万円ニ対シ、応募総額ハ七千七百万二千六百五十円ニシテ、募集額ニ超過スルコト四千七百万二千六百五十円ナリ、仍テ右応募額ノ内価格以上申込額千百六十二万七千八百五十円、価格申込千八百三十七万二千百五十円、合計三千万円ヲ以テ募入トセリ

青淵先生伝初稿　　第九章下・第六九―七五頁〔大正八―一二年〕
　　　　日清戦役と先生の軍事公債募集の周旋
明治二十六七年に亘りては金融緩慢を極め、信用取引発達し、新設会社の勃興する者多く、商工業一般に殷盛なりしが、二十七年五六月の交より、帝国は清国と葛藤を生じ、八月一日、遂に宜戦の詔勅発布せられたれば、世上警戒の声高く、事業中止せられて、金融頓に壅塞せり。此時に当り政府は戦費支弁の為に軍事公債募集の議を決し、八月十六日軍事公債条例を公布すると共に、同月第一回三千万円、同年十二月第二回五千万円の公債の募集を広告せり。我が国にありて一時に三千万円の公債を募集せしは之を始とすれば、政府は之を憂慮し、内閣総理大臣伊藤博文・大蔵大臣渡辺国武は、交々先生の努力周旋を依頼せしが、特に渡辺は八月十八日先生及び外二名を大蔵省に招き、同盟各銀行協力一致して募集の好果を奏せんことを懇請せり。蓋し先生等は関東同盟銀行の幹事なるが故なり。先生固より銀行者として国恩に報ずるは此秋にありと考へたれば、即座に之を承諾し、周旋頗る力む。第一回の募集に予想外の好結果を得たるは、国民至誠の致す所な
 - 第7巻 p.163 -ページ画像 
りとはいへ、先生勧誘の力に負ふ所尠しとせず。此時先生の応募申込額は三十万円にして、此外第一銀行の手にて七十万円を申込ましめたりといふ。而して第二回募集の時には、先生会々癌腫を病み、手術治療中にて自ら奔走すること能はざりしかば、第一国立銀行支配人佐々木勇之助を病床に迎へて指示する所あり。戦役畢りて後、論功行賞の際渡辺国武の子爵を授けらるゝや、書を先生に寄せて、是れ実に先生の賜なりといへるは、蓋し実際の衷情なりけん。

青淵先生六十年史　（再版）　第二巻・第六七七―六七八頁〔明治三三年六月〕
軍事公債ハ明治二十七八年戦役ノ為メ要セシ費用支弁ノ為メ募集セルモノナリ
日清戦争ノ起ルヤ、最モ急ヲ告クルハ軍資供給ニアリ、政府ハ初メ国庫剰余金ヲ以テ之ニ応シ、尋テ軍事公債ヲ募集シタリ、而シテ紙幣兌換制度ノ紊乱ニ至ラシメサルコトハ政府カ最モ苦慮セシ所ナリ
青淵先生ハ国家ノ大事傍観スヘキニアラスト為シ、福沢諭吉等ト共ニ報国会ヲ組織シ、大ニ献金ヲ募集シ、国家ノ為メニ尽ス所アラントセシカ、其事ノ中止スルヤ、総理大臣伊藤博文大蔵大臣渡辺国武等ノ請ニヨリ、頻リニ軍事公債ノ募集ニ奔走セリ、同公債第一回募集ノ好結果ヲ得タルハ先生ノ力与テ少ナカラス、先生ノ応募申込額ハ参拾万円ニシテ、外ニ第一国立銀行ノ手ニテ七拾万円ヲ申込マシメタリ、其第二回募集ノ時ハ先生癌腫ヲ病ミ、手術ヲ施シ、治療中ニシテ、医師家人ヲ戒メ先生ヲシテ人ニ接シ事ヲ聞クコトナカラシム、然レトモ先生尚ホ時ニ第一国立銀行支配人佐々木勇之助ヲ呼ヒ、病床ヨリ示授スル所アリ、当時大蔵省ノ人ハ曰ク、先生ノ癌腫ハ実ニ国家ノ為メニモ癌腫ナリト、後チ戦勝トナリ大蔵大臣渡辺国武ハ勲功ヲ以テ子爵ヲ授カル、国武書ヲ送リ、先生ニ謝シテ曰ク、是レ実ニ先生ノ賜ナリ

第一銀行五十年史稿　　　第四巻・第二九―三〇頁
明治二十七年八月政府が戦費支弁の為に第一回三千万円、同十二月第二回五千万円の公債を募集するや、此の如き巨額の公債を募集すること未曾有の事なれば、政府の憂慮大方ならず、内閣総理大臣伊藤博文大蔵大臣渡辺国武は交々我が頭取に努力周旋を懇請せしが、これ蓋し本行が関東同盟銀行の牛耳を執りて、最有力なる金融機関たるによるなり、かくて本行は大に力を致さんとし、同盟銀行と一致協同して熱心に其成立を助け、また日本銀行の代理店として、本支店出張所において募集の取扱に従へり、かくて前後二回の募集共に非常の好結果なりしは、国民の至誠に基けりとはいへ、本行の斡旋与りて力ありといふべし

明治財政史　　第八巻・第五六八―五七〇頁〔明治三七年一二月〕
八月十八日渡辺大蔵大臣カ関東同盟銀行幹事第一銀行頭取渋沢栄一、第十五銀行山本直成、第三銀行頭取安田善四郎代理長谷川千蔵ヲ大蔵省ニ招キ官房ニ於テ諭示セシ所左ノ如シ
　本日関東各銀行ノ代表者タル各位ノ出頭ヲ促シタルハ、昨日書面ヲ
 - 第7巻 p.164 -ページ画像 
以テ相達シタル如ク今般軍事公債募集ノ挙アルニ付、本大臣微衷ノ在ル所ヲ同盟各銀行ニ通知セラレンコトヲ望ムカ為メナリ
　抑々今般日清開戦ノ事タルヤ我帝国ハ実ニ万止ムヲ得サルニ起ツ、彼我正邪曲直ノ在ル所ハ宣戦ノ詔勅炳焉タルコト日月ノ如シ、今又玆ニ喋々スルヲ待タスト雖モ、其結果ノ如何ハ将来我国ノ東洋ニ於ケル地位ニ関シ、外交上貿易上ニ及ホス所ノ利害実ニ最大至重ナル者有ツテ存スルハ決シテ疑フ可ラス
　然ルニ方今ノ軍事タル全ク昔日ト其趣ヲ異ニシ其費用ヲ要スル又旧来ノ比ニ非ス、全局勝敗ノ数往々軍費ノ充実セルト否ラサルトニ因ツテ分ルヽ者アリト云フモ敢テ誣言ニアラサルヲ信ス、今回政府カ勅令第百四十四号ヲ以テ軍事公債五千万円募集ノ議ヲ決定シタルモ亦此意ニ外ナラス
　今ヤ我国民一般ノ公憤ハ日ニ其高度ヲ加ヘ、献金恤兵其他各般ノ義挙四方ニ起リ、一国人心ノ結合一致敵愾ノ気鬱然トシテ勃興セルコト今日ノ如クナルハ、開国已来殆ント未曾有ノ情況ナリト言ツテ不可ナカルヘシ
　此時ニ当リ、軍事公債募集ノ挙アリ、其必要ニシテ止ムヘカラサルハ前陳ノ如シト雖モ、本大臣カ敢テ高利ヲ以テ応募者ヲ促スコトナク、平常ノ利率ト売価トヲ以テ一時ニ巨額ノ国債ヲ募集スルノ決心ヲ為シタルハ、全ク忠君愛国ノ心ニ富ム所ノ国民ノ至誠ニ信依シ、且今強テ高利低価ノ公債ヲ発行スルコトアラハ、或ハ痛ク株式其他ノ市場ヲ攪乱スルコトアランヲ慮リタル微意ニ外ナラス
　目下日清ノ戦争漸ク将ニ闌ナラントス、海陸ノ捷報頻リニ至ルト雖モ全局ノ大勝ヲ得、此大問題ノ局ヲ結フハ前途尚甚タ近シト断言スルコト能ハス、苟モ将来我帝国ノ東洋ニ於ケル地位ヲ重ンシ、外交上貿易上ノ利益ヲ全フセンコトヲ慮ル者ハ力ヲ軍事供給ノ一途ニ用ヒ、在外陸海軍人ヲシテ内顧ノ憂ナカラシメンコトヲ期スルハ、其朝ニ在ルト野ニ在ルトヲ論セス吾人宜シク尽スヘキノ本分ナリトス本大臣ハ、忠勇義胆ニ富メル我国民ノ必スヤ蹶起シテ募集ニ応シ、日ナラスシテ応募額ノ大ニ其総額ニ超過スルニ至ラシムルヲ以テ其本意トセラルヽヲ信シテ疑ハスト雖モ、今ヤ宇内列国ノ眼光ハ皆一斉ニ我帝国ニ向ツテ注射セラル、此時ニ当リテハ一挙一動ノ微ト雖モ大ニ注意セサルヘカラス、何ソ況ンヤ戦時国債募集多寡ノ如キハ国民愛国心ノ厚薄ヲ測定スルノ標準タルニ於テヲヤ、本大臣局ニ財務ニ当ル敢テ黙々ニ付スル能ハス、本日各位ノ出頭ヲ促シ腹蔵ナク微衷ノ在ル所ヲ吐露シ、各位カ此意ヲ同盟各銀行ニ致シ、各銀行ハ其取引アル資産家財産家トモ謀リ、共同一致一大好結果ヲ奏シ、今ヤ日清戦争ノ将ニ闌ナラントスルニ際シ、全局ノ勝算ヲ一著機先ニ占領セラレンコトヲ望ム
　全国銀行同盟各団体ニ向ツテモ幹事者ノ出京ヲ促シ置キタリ、著京ノ上ハ本大臣ヨリ懇談スル所アルヘク、各位モ亦相倶ニ商議セラルル所アランコトヲ希フ
而シテ期限ニ至リ応募申込ノ総額ハ、七千七百万弐千六百五拾円ニ達シ、募集予定額ニ比シテ、四千七百万弐千六百五拾円ノ超過トナレリ
 - 第7巻 p.165 -ページ画像 
仍テ応募額ノ内価格以上申込額千百六拾弐万七千八百五拾円、価格申込額千八百参拾七万弐千百五拾円、合計参千万円ヲ以テ募入トセリ、殊ニ本公債ノ応募価格ノ如キハ最モ高キモノ百四拾弐円四拾四銭ニ上リ、其他百弐拾五円、若クハ百弐拾円ノ高価アルニ至レリ、是レ此公債ノ募集ニ於ケル特色ニシテ他ニ其例ヲ見サル所ナリ