デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
1節 銀行
7款 金融関係諸団体 2. 関東銀行会
■綱文

第7巻 p.170-176(DK070028k) ページ画像

明治30年3月28日(1897年)

是日例会ヲ開キ、栄一会長トシテ「鎖店銀行発行紙幣引換期限延期ノ件ニ付キ大蔵大臣ヘノ稟請案」ヲ審議ノ上可決ス。


■資料

銀行通信録 第一三七号・第九五―一〇〇頁〔明治三〇年四月一〇日〕 関東銀行会定式会議録事(DK070028k-0001)
第7巻 p.170-175 ページ画像

銀行通信録  第一三七号・第九五―一〇〇頁〔明治三〇年四月一〇日〕
    ○関東銀行会定式会議録事
三月二十七日午後一時より東京市内山下町帝国ホテルに於て、関東銀行会第五回定式会議を開き、来会したるもの四十五行、其人員六十四名なり
      当日出席者
   東京第一銀行       頭取         渋沢栄一
   同            取締役兼支配人    佐々木勇之助
   横浜第二銀行       支配人        山県量次
   東京第三銀行       頭取         安田善四郎
   同            支配人        長谷川千蔵
   新潟新潟銀行       東京支店支配人    本間金弥
   東京肥後銀行       支配人        神谷吉積
   山梨第十銀行       東京支店支配人    小沢安胤
   同            同計算方       山本正
   富山第十二国立銀行    頭取         中田清兵衛
   同            東京支店支配人    吉田耕三
   東京第十五国立銀行    支配人        福住英勇
   同            副支配人       久野昌一
   同            同          清水宜輝
   長野第十九銀行      東京支店支配人心得  内藤尚
   同            同副支配人      堀田金四郎
   東京第二十国立銀行    頭取         穂積重穎
   同            取締役兼支配人    佐々木慎思郎
   東京第二十七国立銀行   取締役兼支配人    安藤三男
   同            取締役兼副支配人   日向野善太郎
   東京第三十国立銀行    取締役兼支配人    原代九郎
   静岡第三十五国立銀行   頭取         気賀半十郎
   同            取締役        板倉甫十郎
   同            東京支店支配人    井上好雄
   八王子第三十六国立銀行  副頭取        吉田忠右衛門
   前橋第三十九国立銀行   取締役東京支店主管  長尾三十郎
   館林第四十国立銀行    頭取         南条新六郎
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   同            取締役        笠原円蔵
   同            東京支店支配人    根岸盛太郎
   栃木第四十一国立銀行   東京支店支配人    奥田卯三郎
   東京第四十五国立銀行   支配人        山中安吉
   土浦第五十国立銀行    頭取         一色範疇
   同            取締役兼支配人    古谷道章
   水戸第六十二国立銀行   頭取         妹尾万寿吉
   長野第六十三国立銀行   頭取         小出八郎右衛門
   長岡第六十九国立銀行   頭取         岸宇吉
   横浜第七十四国立銀行   頭取         大谷嘉兵衛
   同            副支配人       大島成渡
   八王子第七十八国立銀行  取締役        大野宗兵衛
   同            東京支店支配人    松尾謹次
   東京第八十二国立銀行   支配人        山中清兵衛
   東京第八十四国立銀行   頭取         中沢彦吉
   川越第八十五国立銀行   支配人        前野真太郎
   東京八十九銀行      頭取         岩下敏之
   同            取締役兼支配人    森一馬
   千葉第九十八国立銀行   頭取         近藤勘助
   水戸第百四国立銀行    頭取         佐藤奉
   東京第百十二国立銀行   取締役兼支配人    池上伴造
   東京第百十九国立銀行   頭取         豊川良平
   同            支配人        三村君平
   古河第百二十国立銀行   頭取         河副亀次
   二俣第百三十八国立銀行  取締役兼支配人    伊藤友五郎
   高田第百三十九国立銀行  頭取         上野貞輝
   横浜正金銀行       取締役兼支配人    高橋是清
   同            副支配人       山川勇木
   東京三井銀行       支配人        波多野承五郎
   東京安田銀行       支配人        若菜福朗
   東京川崎銀行       支配人        安藤浩
   第五銀行東京支店     取締役兼東京支店長  小森政隆
   第十三国立銀行東京支店  支配人        芦田順三郎
   第三十二国立銀行東京支店 取締役兼東京支店主任 山中隣之助
   第七十七国立銀行東京支店 支配人        成沢武之
   第百十三国立銀行     取締役兼支配人    鈴木重恒
   信濃銀行東京支店     支配人        小川昌夫
又当日事故ありて欠席したるものは左の如し
               松本第十四国立銀行 ○外一〇行行名略
幹事第一銀行頭取渋沢栄一氏は会長席に着き、本会は客年十一月開会の筈なりしか、止を得さる差支を生し流会せしか、本年は差向協議を要する件もありたれは少しく其時期を繰上け開会したる所以なりと陳へて、昨年度経費決算を報告し、且前年の例に準し、書記手当支給を協議したるに、一同異議なきに付右経費の補充を併せ、組合銀行一行
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に付金五十銭つゝ支出すへきことに決せり
次に本会規程修正案を提出し、其理由を陳て曰く、本会は従来毎年四月十月開会すへき規程なれとも、之を定期とする時は格別の要件なきも其期に至れは必す開会せさる可らすして、徒に時日を費し遂に飲食に流れ、自然出席者の減少を来すことなしとせされは、自今開会の季節を定めす時宜に応し毎年一回之を開くことゝし、且会議に提出すへき要件調査等の為め従来の幹事三行にては不足を感するに付、之れを七行となすにありと説明して之れを協議に付せしに、総て原案の通決定せしか、山中隣之助氏の注意により更に第二十二条第四項へ「書記手当及旅費」の一項を追加し、引続改正規程第四条に依り投票を以て幹事銀行の改撰を行ひたるに左の七行当選せり
         第一銀行        第三銀行
         第十五国立銀行     第百国立銀行
         第百十九国立銀行    横浜正金銀行
         三井銀行
次に昨年九州銀行同盟会の照会に係る鎖店銀行紙幣引換年限延期の件に付、大蔵大臣への稟請案を議したるに、更に異議なく原案に決定したるに付、会長は爰に閉会を告ぐ(午後三時四十分)
夫より一同撮影の後銀行集会所同盟銀行者と共に、来賓総理大臣兼大蔵大臣松方伯爵、日本銀行総裁岩崎男爵、大蔵省第三課長添田寿一君日本銀行理事三野村利助君、薄井佳久君、山本達雄君、監事森村市左衛門君、内田耕作君、同営業局長鶴原定吉君、貴族院議員渡辺甚吉君衆議院議員田中市兵衛君、松本重太郎君、小坂善之助君、須藤時一郎君、天野伊左衛門君、中村弥六君、岡田良一郎君、小倉良則君、田辺久蔵君、松田源五郎君等を迎へ落語講談の余興を演して懇親会を開けり、是日来会したるもの主客併せて九十一名なり、宴酣にして渋沢栄一氏は本会を代表して、本日松方大蔵大臣、岩崎日本銀行総裁並貴衆両院の銀行者又は大蔵省、日本銀行等に従事せらるゝ諸君の尊臨を得て、共に此一堂に会したるは実に本会一同の光栄とする処なりと謝し尋て関東銀行会並銀行集会所同盟銀行成立以来の歴由を叙し、結局同業者協同一致の必要なる旨を述へ、夫より来賓添田寿一君は銀行営業上に関して左の希望を演述せられ、又中村弥六君の挨拶ありて主客共に歓を罄し午後九時下散会せり、当日銀行集会所同盟銀行の資格を以て懇親会に出席したる者は左の如し(但関東銀行会へ加入せさるもの)
      帝国商業銀行   取締役会長   原六郎
      同        支配人     伊東祐之
      東海銀行     頭取      吉田幸作
      同        取締役兼支配人 早川松之助
      中井銀行     支配人     菅沼慶蔵
      加島銀行東京支店 取締役     田口寛
      同        計算方     長瀬次郎
      掛川銀行東京支店 支配人     田辺庄九郎
      東京銀行     支配人     草刈隆一
    添田寿一君演説筆記
 - 第7巻 p.173 -ページ画像 
諸君、私は唯今何か御話を申せと云ふことで、実は総理大臣からの御言葉もごさいますので、是は背く訳に参りませぬですから、極く簡略に申上けますが、予て私は此銀行のことに幾分か御縁がございますので、少しく念頭に浮んで居ることもございまするから、今日丁度皆様御集りの好時機でございます故に、其の二三の点を責塞きに申上けまして御考を煩すことに致したいと思ふのでございます、それは何かと申しますれば、どうか此銀行をしてもう少し一般公衆との連絡を付けたいと云ふ希望でございまして、是は詰まり銀行家ばかりの責と申訳ではございませぬ、もう少し我国一般人民の貯蓄心が進みまして、金銭は我家に置くよりは銀行に托した方が便利で安全で且有益であると云ふことを覚りまして、益々此貯蓄と云ふことを務めるやうになりますと云ふことは、是は他の点から奨励して参らなければなりませぬが亦幾分か銀行に従事の御方の御働きで之を奨励して行くことも出来ないではごさいませぬ、故に成るべく此点には便宜を御与へ下さいまして、詰まり公債の抵当と云ふやうなことばかりでなしに、所謂真正の銀行業即ち預金で金融の運転を便にせらるゝと云ふことに段々御着眼を願ひましたならば、独り銀行家の御利益であるのみならず、それでこそ始めて我国の生産が進み我国の事業が発達して所謂国家全体の利益となるであらうと思ひますから、此点は一般公衆も務めなければなりませぬが、銀行家諸君も出来得る丈けの御尽力を煩したいと云ふ予て希望を有つて居るのでございます、それから公衆に対しまする上に於て今一つ余程銀行家諸君の責任の大なることを御考を願ひたいのは此国の経済の方向を動かすと云ふことは、銀行家の腕次第でございます、即ち各種の生産事業を発達せしめ総て有益なる事業を益々奨励し有害なるものは抑へて行くと云ふ所の、即ち其善悪良否の取捨を銀行家にして戴くならば、始めて真正の事業が発達して、有害なる事業が幾分か抑制せらるゝと云ふ有力なる働きがあるのでございます、此点は銀行家の有力なる権力でございますから、之を濫用せられす利用せられて、我国の事業をして益々有益にして生産的の方向を執ることに御導き下さることを偏に願ふ訳であります、それから銀行と銀行の関係でございまするが、是は唯今渋沢君からも述べられました通り、成るべく同業者の間の一致協同を御図りになりまして、今日の如く一堂に会せらるゝと云ふことは、頗る賀すへきことであると思ひますので益々御互の間の関係を親密になさることを祈る訳でございますが、玆に一つ特別に御注目を煩したいのは銀行は即ち信用機関である、此信用と云ふものは即ち読んで字の如く信用でございまするから、信用と云ふことは余程徳義上の制裁と云ふものに基いて居るので、同業者間の徳義の制裁と云ふものが強力でございまするならば是に越したる制裁はないのでございまして、法律とか規則とか何とか云ふよりは、此同業者の間の輿論に背くとか、同輩の排斥する所となると云ふことほど人間に苦しいことはございませぬから、銀行家諸君が其銀行家の徳義と云ふ制裁を御設けになりまして、此制裁を以て同業家間の不徳義を御責め下さると云ふことになりましたならば、所謂信用の源泉と云ふものが益々清くなると云ふ利益があらうと思ひますから、どうして
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も此同業者間の御交りを益々親密になさることを謹んで祈る訳であります、それから幸に皆様の御骨折に依りまして我国の幣制の基礎も固まりました以上は、私の従来有つて居る希望で、渋沢君抔には屡々申上けましたのでありますが、我国内ばかりと言はずにどうか海外に我銀行の領分を拡め下さると云ふことを願ふのでございます、是迄は少しく無理であつたかも知れぬと云ふのは、通貨の差等のあつた為めでございますが、今日其事の去りました以上は羽翼を海外に張られ、海外の銀行と脈絡を付けると云ふ御奮発を願はなければ、商権回復と云ふことを声高く申されても、それに伴ふ金融機関が発達致さなければ余程困難でございます、故に是れは我国の外国貿易発達の為めにも亦随分利益のあることでございますから、皆様が大に御奮発あらんことを頻りに祈るのであります、それから銀行の立法と云ふやうなことはもう大概国立銀行の処分も済み、勧業農工銀行も出来、御負けに台湾銀行も出来まして、是で銀行の立法と云ふものは殆と尽きて居りますから、此金融機関は法律行政でいぢくり廻さぬが宜いと云ふ考でございます、故にもう別段法律めいたことは要りませぬ、既に在る所の法律制度を十分に行ふと云ふことで沢山でございませうと思ひます、唯た少しく性の悪るい人に向つては嫌やなこともせねばなりませぬ、此頃九州の或銀行に向つては余程厳重な処分を致しました、是等は止むを得ませぬが、真正に信用の機関たる職務を尽さるゝ方に向つては御世話を申上けたいと云ふ考でございます、兎に角是迄の如く法律で頭から冠されましては甚た当を得ませぬから、是から銀行家諸君は種々自家の必要なる立法のことを御持出しになりますやうにありたいと思ふのであります、それに就きましても今夕の如く皆様が一堂に会せられて、互に意思を闘はし互に御考を交通せらるゝと云ふことでなくては其事も行はれませぬのでありますが故に、成るべく今夕の如き会はどうか屡御開きになりますやうに、喜びの余り甚た失礼なことを申上けましたのでござます          (完)
    鎖店銀行発行紙幣引換年限延期の件に付大蔵大臣へ稟請案
営業満期又は満期前私立銀行となり業務を継続致候国立銀行より発行の紙幣は、昨二十九年三月法律第八号を以て其通用期限を明治三十二年十二月九日迄とせられ、而して此引換期限は通用期限翌日より起算して満五年と規定せられ候、然るに鎖店銀行(大坂第百二十六、須賀川第百八、大坂第二十六、東京第三十三)発行の紙幣引換期限は、去る明治二十七年五月大蔵省令第九号を以て更に明治三十二年十二月三十一日迄と御令達有之候処、右銀行紙幣は其形状種類紙質に至るまて同一様に有之候為め、其区別を為し候には一葉毎に其発行店を精査し始めて之を鑑別し得る次第に有之候得共、頻繁なる取引に際し如此手数を要し候は啻に煩雑に渉り候のみならず、取扱上自然渋滞を来し到底難行届事柄に有之且又小民の文字を解せさるものに至りては之を識別すること能はさるより、遂に不測の損失を蒙るやも難計候に付、何卒右鎖店銀行紙幣引換期限をして今一層延期せられ、業務を継続致候国立銀行発行紙幣引換期限と同一に相成候様御措置被成下度、此段稟
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請仕候也
  明治三十年 月 日       関東銀行会幹事銀行連名
   大蔵大臣宛


中外商業新報 第四五三二号〔明治三〇年三月二八日〕 関東銀行会の例会(DK070028k-0002)
第7巻 p.175 ページ画像

中外商業新報  第四五三二号〔明治三〇年三月二八日〕
    関東銀行会の例会
関東銀行会は予期の如く昨廿七日午後一時三十分より内山下町帝国ホテルに其例会を開けり、出席者百余名、渋沢栄一氏会長席に着き二三の報告ありて後本会規定の改正案を議定し次で左の稟議案を可決せり
    鎖店銀行発行紙幣引換期限延期の件に付大蔵大臣へ稟請案
 営業満期又は満期前私立銀行となり業務を継続致候国立銀行より発行の紙幣は、昨年三月法律第八号を以て其通用期限を明治卅二年十二月九日迄とせられ、而して此引換期限は通用期限翌日より起算して満五ケ年と規定せられ候、然るに鎖店銀行発行の紙幣引換期限は去る明治廿七年五月大蔵省令第九号を以て更に明治三十二年十二月三十一日迄と御令達有之候処、右銀行紙幣は其形状種類紙質に至るまで同一様に有之候為め、其区別を為し候には、一葉毎に其発行店を精査し始めて之を鑑別し得る次第に有之候得共、頻繁なる取引に際し、如此手数を要し候は啻に煩雑に渉り候のみならず取扱上自然渋滞を来し到底難行届事柄に有之、且又小民の文字を解せざるものに至りては之を識別すること能はざるより、遂に不測の損失を蒙るやも難計候に付、何卒右鎖店銀行紙幣引換期限をして今一層延期せられ、業務を継続致候国立銀行発行紙幣引換期限と同一に相成候様御措置被成下度、此段稟請仕候也
  明治三十年 月 日           関東銀行会幹事
   大蔵大臣宛
夫より本会規定中改正の結果として幹事銀行を選挙せしに、左の七行当選せり
 第一銀行・第三銀行・第十五銀行・第百銀行・第百十九銀行・三菱銀行・三井銀行
右終りて会員一同撮影の後宴席に移り、松方大蔵大臣及岩崎日本銀行総裁の演説ありて散会したる由なり
  ○中外商業新報ノ本記事ハ三菱銀行ヲ幹事銀行トセルモ(前掲銀行通信録ニヨレバ横浜正金銀行)コノマヽトス。


中外商業新報 第四五三三号〔明治三〇年三月三〇日〕 関東銀行会余聞(DK070028k-0003)
第7巻 p.175-176 ページ画像

中外商業新報  第四五三三号〔明治三〇年三月三〇日〕
    関東銀行会余聞
関東銀行春季大会の事に就ては、去廿八日の本紙に記載する所ありしが、同会に於ては松方大蔵大臣及岩崎日本銀行総裁の演説あるべき筈の処都合により見合となり、添田寿一氏同大臣の旨を受け一場の演説を為したるが、演説の大要は銀行の業務に就き銀行家は宜しく信用を以て取引先に臨むべく、殊に将来我経済界の境域を拡めんとするには益々其必要を認むとの事なりし由、当日の来賓は大蔵省の田尻次官、
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日本銀行の河上謹一氏及貴衆両院議員中数名の欠席者を除くの外悉く出席し、頗る盛会なりし由