デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
2節 手形
2款 東京手形交換所
■綱文

第7巻 p.231-233(DK070036k) ページ画像

明治11年8月14日(1878年)

栄一夙ニ小切手及手形取引ノ旺ントナルベキヲ洞察シ、既ニ第一国立銀行ニ於テハ割引手形ニ付請願ヲ為シ、或ハ同業者・商人ニ其使用ヲ奨ムル等之ガ唱道ニ努メ来リシガ、是日択善会会同ニ於テ小切手裏書様式ノ議案ヲ発シ、其支払保証ノ方法ヲ設ケ、以テ小切手授受ノ安全ヲ謀リ、又翌年八月不渡手形処分方法ヲ議定スル等、小切手及手形ノ流通拡伸ヲ主導ス。


■資料

銀行集会 理財新報 第五号〔明治一一年九月九日〕 銀行集会第十四回録事(DK070036k-0001)
第7巻 p.231 ページ画像

銀行集会 理財新報 第五号〔明治一一年九月九日〕
    ○銀行集会第十四回録事
一 八月十四日第三十二国立銀行(大坂)ハ銀行集会第十四回ノ盟主ト為リ築地精養軒ニ於テ会同ヲ設ケ、
○中略
一 又同氏○渋沢栄一ハ前会ノ議ニ基キ、各銀行当座預リ金小切手ノ裏書法ノ議案書ヲ発シテ之ヲ説明シ、而シテ当今其流用法ヲ促スノ形勢ナルヲ以テ本案其式様ヲ試設シ、衆議シテ之ヲ決定センコトヲ要ス


銀行集会 理財新報 第六号〔明治一一年一〇月七日〕 銀行集会第十五回録事(DK070036k-0002)
第7巻 p.231 ページ画像

銀行集会 理財新報 第六号〔明治一一年一〇月七日〕
    ○銀行集会第十五回録事
一銀行集会第十五回ノ盟主第三十三国立銀行ハ九月九日第十五国立銀行ノ楼上ニ於テ会同ヲ設ケ、
○中略
一渋沢栄一ハ前会ノ決議ニ由テ当座預リ金小切手裏書式様ノ議案ヲ発シ衆議ヲ問フ、○中略 衆亦異議ナクシテ本案ノ如ク決定ス、而シテ之ヲ大蔵省ニ稟報スベキヲ以テ其案文ハ尚第一国立銀行ヨリ回議ヲ発シ、決議ヲ経テ上申スベキコトニ決定セリ


青淵先生伝初稿 第九章下・第一一―一二頁(DK070036k-0003)
第7巻 p.231-232 ページ画像

青淵先生伝初稿 第九章下・第一一―一二頁
    手形取引の奨励
是より先に、先生は手形取引の便利を主張し之を誘導するに力めたりといへども、当時商家の多くは現金取引に泥みて小切手の使用法を知らず、明治十年五月大蔵省に請願して割引手形の取引を開始したれども容易に弘まらず、先生之を憾み、先づ小切手を安全に流通せしめ、漸次手形取引の端を開かんとし、其頃大蔵省紙幣寮御用係たりし、田口卯吉に託して手形の方法書を作らしめ、之を銀行の得意先に配付し
 - 第7巻 p.232 -ページ画像 
商業上手形取引の便利を知らしめ、之を勧誘したること一再に止まらず。


青淵先生六十年史 第一巻・第五八五―五八六頁 〔明治二三年二月〕(DK070036k-0004)
第7巻 p.232 ページ画像

青淵先生六十年史 第一巻・第五八五―五八六頁〔明治二三年二月〕
    手形取引ノ奨励
明治十年択善会創立以来先生ハ常ニ手形取引ノ便利ヲ唱道シタルモ、当時商家ハ皆現金取引ノ方法ヲ墨守シ、小切手ノ使用法スラ猶之ヲ知ルモノ甚タ稀ニシテ、商業手形割引ノ如キハ容易ニ行ハルヘキ望ナカリシカハ、先生ハ先ツ小切手ヲシテ安全ニ流通セシメ、以テ漸次手形取引ノ端ヲ開カンコトヲ期シ、経済学者田口卯吉ニ命シ手形ノ方書ヲ作リ、之ヲ銀行得意先ニ配リ、又明治十一年八月択善会ニ於テ其仕払保証ノ方法ヲ協定シ、爾来商業上手形取引ノ有益ナルコトヲ勧誘シタルコト一再ナラサリシモ、現金取引ニ慣レタル商家ハ猶其利ヲ悟ルモノ少ナカリキ
明治十五年ニ至リ手形条例ノ公布アリ、商取引上大ニ手形ヲ保護スルノ法備ハリ従テ銀行者ノ勧誘ニヨリ手形取引ヲ試ミントスル者往々之アルニ至リシヲ以テ、先生ハ銀行集会所同盟ノ有志者ニ協議シテ同集会所内ニ手形取引所ヲ設ケ、商業手形売買ノ便ヲ開キ、尋テ均融会社ヲ起シ、倉庫会社貨物預証券ニヨリ大ニ商業手形割引ノ途ヲ開キ、又東京府下ニ重立チタル商業者ヲ招集シテ、経済学者田尻稲次郎ヲ聘シ共ニ手形取引ノ便且利ナル所以ヨリ其取扱上ノ順序方法ヲ諭シ、其割引料ノ如キモ勉メテ低廉ニスヘキ旨ヲ説キ、大ニ其奨励ニ尽力セリ、是ニ於テ漸ク其利ヲ悟リ商家中之ヲ試ムルモノアルニ至リシモ、暫クニシテ又旧態ニ復シ再ヒ現金取引ノ状トナリシカ、爾来経済界ノ発達ニ従ヒ其取引次第ニ頻繁ニ赴キ、自然現金取引ノ迂遠ヲ許サヽルノ勢トナリ、大ニ手形取引ノ発達ヲ見ルニ至リ、従テ明治二十年十二月東京銀行集会所有志ノ申合ニ依リ東京手形交換所ヲ設立シタリ、是レ今日東京交換所ノ起原ナリ
   ○明治一〇年五月第一国立銀行ヨリ割引手形ニ付請願及田口卯吉ヲシテ作成セシメタル手形ノ方書ハ後掲資料ニアリ。


第一銀行五十年史稿 巻三・第六五―六八頁(DK070036k-0005)
第7巻 p.232-233 ページ画像

第一銀行五十年史稿 巻三・第六五―六八頁
    手形取引の奨励
手形取引は本行が早くより奨励して、其至便を唱道したる所なれども本行創立の際は、商人等現金取引の旧習に慣れて、容易に新制に移らず、小切手の使用法さへ知るもの稀なる有様なりしかば、手形割引の方法に至りては、いつ行はるべしとも思はれず。よりて本行は、まづ小切手を安全に流通せしめたる後、漸次手形取引の端緒を開かんことを期し、経済学者田口卯吉に託して手形の雛形を作り、之を銀行の得意先に配付するなど、苦心する所ありしが、択善会の起るや、頭取渋沢栄一は、明治十一年八月の会合において、其仕払保証の方法を協定し、後又商業上手形取引の有益なるを世人に勧説せること屡々なりしかども、其利を悟るもの多からず。但し大阪地方のみは、江戸時代より手形の使用行はれたれば、本行首唱の下に、同十二年十二月大阪手
 - 第7巻 p.233 -ページ画像 
形交換所の開設を見るに至れること、既に述べたるが如し。
此時に際し、政府もまた此事に注意し明治十三四年の交、本行をはじめ東京府下の重なる銀行に対して手形の取引を慫慂し、且つ其発達の方法を考究せんことを以てせり。本行即ち卒先して、或は手形の効用を説きて商人間に其授受を奨励し、或は裁判上の疑義を判事玉乃世履に質して、流通の障礙なからしめんことを図り、また時の銀行課長岩崎小二郎に書を贈りて協議を重ぬるなど、尽力大方ならず、遂に十四年七月十二日に至り、同盟銀行と連署して、手形法規の制定を大蔵省に出願せしに、政府も所見を同じくし、十五年十二月為替手形・約束手形・条例を公布せり、本行の志是においてか達せりといふべし。かくて手形に関する巨細の法規漸く具はりたれば、本行は更に同盟銀行と謀り、始めて手形取引所を設け、手形売買の便を開き、尋でまた均融会社を起し、倉庫会社貨物預証券により、大に商業手形割引の途を開きたり。然れども手形の発達はなほ遅々たりしより、本行の提議に基き、府下の重なる商業者を招集して、経済学者田尻稲次郎を聘し、共に手形取引の便利なる所以より、其取扱上の順序方法を説き、割引料の如きも勉めて低廉にすべき旨を諭すなど、いたく尽力する所あり。
    東京手形交換所の設立
爾来其利を悟るもの漸く多く、経済界の形勢もまた迂遠なる現金取引を許るさゞることゝなりて、手形取引の著しき進歩を促したれば、本行は他の同盟銀行十五行と協議し、手形の交換を行ふべきことを定め紐育手形交換所の規定を参酌して、新に交換の方法を設け、明治二十年十二月一日、東京手形交換所を創立し、同盟の各銀行において支払ふべき手形・小切手の交換を開始せり、これ東京交換所の起原なりとす。
   ○本項ニツイテハ、尚本書第五巻、択善会明治一一年八月一四日(同巻第五三三頁)、同年一〇月七日(同巻第五四六、五四八、五五〇、五五二頁)同年一二月二日(同巻第五六二頁)参照。
   ○不渡手形処分方法ニツイテノ資料ハ第六巻第六三七頁、択善会明治一二年一〇月一三日ノ項ニ収ム。