デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

1章 金融
2節 手形
3款 全国手形交換所聯合会
■綱文

第7巻 p.507-516(DK070066k) ページ画像

明治41年8月14日(1908年)

是ヨリ先、国債及租税納期ニ関スル各地手形交換所聯合調査委員会ニ出席セシガ、是日其決定ニ係ル国債及租税納期ニ関スル建議案ヲ同会々長豊川良平ヨリ内閣総理大臣兼大蔵大臣侯爵桂太郎ニ提出ス。


■資料

銀行通信録 第四五巻第二七二号・第八三八頁〔明治四一年六月一五日〕 全国交換所聯合調査委員会(DK070066k-0001)
第7巻 p.507-508 ページ画像

銀行通信録 第四五巻第二七二号・第八三八頁〔明治四一年六月一五日〕
    ○全国交換所聯合調査委員会
国債及租税納期に関する全国交換所聯合調査委員会は五月○明治四一年十六日午後二時より、東京銀行集会所に於て開会せられたり、出席者は東京・大阪・京都・横浜の各交換所調査委員二十名にして其氏名左の如し
    東京
 男爵渋沢栄一  豊川良平    池田謙三   池田成彬
 串田万歳    阪田実     松尾吉士   清水虎吉
 山口荘吉    佐々木勇之助
    大阪
 小山健三    町田忠治    志立鉄次郎  坂野兼通
 池田経三郎   小塚正一郎
    京都
 金塚仙四郎   江村忠之助
    横浜
 山川勇木    間島弟彦
 - 第7巻 p.508 -ページ画像 
斯くて、東京交換所委員長豊川良平氏議長席に着き、先づ東京に於ける国債調査の経過を報告し、次で各地交換所委員よりも夫々右に関する報告あり、夫より一同協議の末、結局一面は国力増進の程度及国債償還に関する諸般の景況を調査し、一面は専門家に依頼して諸外国の実例を調査すると同時に、左の五項を標準として調査を進行し、六月下旬を期して再び聯合委員会を開き、国債整理方針を決定発表することに決したり
 第一 現在の減債基金の外、増税に依らずして更に国債を償還すること
 第二 今後当分新に国債を発行せざること
 第三 現在の未募集公債は打切ること
 第四 償還の方法
 第五 年々償還の時期
右終て、更に租税納期改正に関する今後の調査方針に付種々協議する所あり、午後六時閉会の上、一同銀行倶楽部晩餐会に臨みたり


銀行通信録 第四六巻第二七四号・第一八八―一九一頁〔明治四一年八月一五日〕 全国交換所聯合調査委員会(DK070066k-0002)
第7巻 p.508-513 ページ画像

銀行通信録 第四六巻第二七四号・第一八八―一九一頁〔明治四一年八月一五日〕
    ○全国交換所聯合調査委員会
国債及租税納期に関する第二回全国交換所聯合調査委員会は八月三日午後二時より、東京銀行集会所に於て開会せられたり、出席者は東京・大阪・京都・横浜・神戸・名古屋の各交換所調査委員二十五名にして其氏名左の如し
    東京

 豊川良平    男爵渋沢栄一  池田謙三   佐々木勇之助
 清水虎吉    成瀬正恭    山口荘吉   串田万蔵
 池田成彬    加納友之介   坂田実
    大阪
 小山健三    町田忠治    志立鉄次郎  松方正雄
 池田経三郎   坂野兼通    小塚正一郎  西園寺亀次郎
    京都
 仙田重邦
    横浜
 森謙吾     間島弟彦
    神戸
 木村久寿弥太
    名古屋
 上遠野富之助  矢田績
斯くて、東京交換所委員長豊川良平氏議長席に着き、先つ「租税納期に関する件」を議に附し、委員六名を挙げて調査を托することゝなり次に「国債に関する件」を議に付し、直ちに之を可決確定、午後六時一旦散会の上、翌四日午前八時半より更に会議を開き「租税納期に関する件」を可決確定し、同十時三十分無事閉会せり、左に項を分て会議の経過を詳記すべし
   一、国債に関する件
 - 第7巻 p.509 -ページ画像 
国債に関する件に付各地交換所より提出せられたる原案左の如し
    東京案
 明治三十七八年戦役以来急激に増加したる内外国債の整理を為すは帝国財界の基礎を確立するに於て最も緊要とする所なり、然りと雖ども、国債整理の事たる、素と財政の整理と相俟ちて始めて効果を収むべく、制度如何に美なりと雖も其実之に伴はざれは遂に徒法に帰すべきは、泰西各国の実例明に之を証する所なり、故に政府は宜しく鋭意財政を整理し、信を内外に収め、有利の条件を以て国債を整理するを期図せざるべからず、而して其時期に達するまでは左の事項を実行し、一は以て国債に関する内外の信用を高ふし、価格の回復を計り、一は以て財政と経済との調和に資し、産業の発展を利するは実に目下の急務なりと認む
 一、公債財源に依る新計画は之を見合はす事
 二、官営事業を拡張し又は新に計画する為めに公債を発行せざる事
 三、既に帝国議会の協賛を経たる公債財源の経費は、政費を節約して之に充て、公債を発行せざる事
 四、未募集公債は総て之を切棄つる事
 五、増税に依らずして財政の許す限り公債の償還を行ふ事
  但し其額は毎年五千万円を下らざるものとし、現実に之を償還する事
 六、今後数年間に償還期限の到来すべき公債は逐次抽籤に依り之を償還する事
   但し有利の条件を以て借換を為すことを得る場合は此限りにあらず
 七、国債の整理を監視する為め特別の機関を設くる事
   但し此機関は会計検査院長、貴衆両院議員及民間より任命したる委員を以て組織する事
    大阪案
 現在の国債額を適度まで償還して商工業の資本を裕にし、且つ公債の市価を推持せしむるは、国家の急務にして、内外の信用を厚うする所以なりと信ずるを以て、左の各項を実行せられんことを望む
 一、政府は毎年七千万円を下らざる額を償還せらるべきこと
 一、右の償還資金は歳出を節約したる全額を充当するものとす
 一、未募集公債は之を打切り、公債整理の実を挙ぐるまでは生産的と不生産的とを論ぜず、特に公債を発行せざること
 一、国債償還の方法は当分抽籤に依ること
    京都案
一、将来の財政に於ては公債を以て歳入を補塡する事を避け、生産的事業に要するものゝ外、公債を募集せざる事を期す
   但生産的事業と雖も、財政の整理稍成るまでは公債を財源とする新計画又は拡張を見合す事
 二、既定の財政計画に基く未募集公債は総て打切と為す事
 三、国有鉄道に対しては適当なる制限の下に独立会計を設け、鉄道に関する公債の処理を為さしむる事
 - 第7巻 p.510 -ページ画像 
 四、公債償還に就ては今より一定の方針を立て、永久に之を遂行せん事を要す、而して其方法としては現行の整理基金制を廃し、歩合償還法を採用する事
 五、今後数年間は特に歳出を節約して公債償還に努め、毎年公債現在額(鉄道公債を除く)に対する百分の三を最低度として、成る可く多額の償還を実行する事
 六、公債償還を為すには成る可く抽籤法に拠る事
 七、将来有利なる条件を以て公債の借換を為し得べき機会ある毎に努めて之を実行する事
 八、公債償還の為めに新税を起し又は単に税率を増加する事を避け進んで税制の整理を断行する事
    横浜案
 日露戦役後我邦国債の増加したるもの、内国債に於て五億九千六百万円、外国債に於て十億六千八百万円、合計十六億六千四百万円の巨額に上る、而して其一部分は内地に消費せられて再び商工業界に復帰したる者あるべしと雖、其大部分は不生産的消費として或は各方面に固定せられ、或は海外に放散せられたるは疑を容れず、斯の如き急激なる公債の増加と不生産的消費とは相待て、一面公債価格の激落を来し、一面我邦生産資金を減少して商工業の発達を沮止するに至りしは歴々事実の示す所なり、而して政府の歳計予算に徴するに、将来尚年々多額の募債を以て歳計の均衡を保たんとするものの如く、既に帝国議会の協賛を経たる未募集公債額は四十一年度以後四十八年度に至る八箇年間に於て二億七千万円にして、之に国有鉄道買収公債四億数千万円を加ふれば、其額正に七億円に垂んとす、而して既発公債の毎年償還額は僅に国債整理基金に拠る三千八百万円(四十一年度予算)に過ぎず、斯の如くんば帝国産業界の前途も亦実に寒心に堪へざるなり、而して産業界の萎靡衰頽は勢ひ国家財源の涸渇を来すを以て、一朝有事の秋に当り噬臍の悔ある可きは識者を待て後知らざるなり、故に当交換所は、他日低利を以て公債を整理し得る状態に達する迄政府に於て左の事項を実行せられんことを希望す
 一、新に内外市場に於て公債(未募集公債を含む)を募集せざる事
   但低利借換の場合は此限りにあらず
 二、毎年少くも五千万円を下らざる程度に於て公債を償還する事
 三、前二項に帰因する歳入の欠陥は、政費節減並に不生産的継続事業の繰延に由て之を補塡する事
右の諸案は其趣意大同小異なるを以て、便宜の為め東京案を議題となし審議の末、左の如く修正可決せり
 一、第三項中「公債財源の経費」とあるを「公債財源に依る経費」と改む
 一、第五項中「毎年五千万円」とあるを「毎年六千万円」と改む
 一、第七項中「国債の整理を監視する為め」とあるを「国債の整理を監視せしむる為め」と改む
 一、其他は総て原案の通り
 - 第7巻 p.511 -ページ画像 
即ち、議案中最も重大の関係ある公債償還の最低限は、東京・横浜の二案には五千万円とあり、大阪案には七千万円とありて、之に就ては多少の議論を生ぜしも、結果両者を折衷して六千万円とすることに確定せり
  二、租税納期に関する件
租税納期に関する件に付、各地交換所より提出せられたる原案左の如し
    大阪案
 一、酒造税第四期を四月に繰下ぐる事
   理由
 現行租税法中酒造税の納期を見るに、其第四期は恰も醸造漸く終を告げ運転資本最も欠乏せるの時に当り、啻に第三納税期と連続せる而已ならず、製酒は尚ほ貯蔵中に属して未だ放売の遑あらざるに先ち巨額の税金を完納せざるべからざることゝなり、当業者の痛苦を感ずること頗る大なりとす、其結果動もすれば税金調達のために濫売の已むを得ざるに至り、一般取引の関係を攪乱し、酒価の低落を来たし、当業者をして滞納破産の窮境に陥らしむること亦実に稀なりとせず、斯の如きは徒に斯業の発達を阻碍するの甚しきものにして、独り納税者の忍びざる所なるのみならず、又国家徴税権の安固を計る所以にあらず、更に之を一般金融市場より見るも、現今国税納期の三月に於てするもの、酒造税の外、田租(第五期)あり、所得税(第四期)あり、其他総額約三千六七百万円に達す、啻に此等巨額の資金を一時に国庫に吸収せらるゝのみならず、当月末は国庫金検査の施行に際するを以て、例年此時期に於て著しく金融を緊縮するを常とす、是れ酒造税第四期を四月に繰下げられんことを希望する所以なり、若し夫れ会計年度を跨るの点よりして国庫の出納上一時の不便は之を免れざるべしと雖も、畢竟是れ初一年度の煩累たるに止まり、連年循環相接ぐに及んでは毫も懸念するの要なかるべし
    神戸案
 一、酒造税第四期の納税期三月を改正して四月となし、又第一期七月を改正して八月と為し、第二期十月を改正して十一月と為す事
    理由
 一、当業者の立場よりして之を観れば、第三期二月を三月、第四期三月を五月に改正せられん事最も便利とする所なり、何となれば、第三期二月は新酒仕込資金支払の後を承け手元逼迫の季節なるに、第四回積出の分代金未だ悉く回収に至らず、加之旧節季取引に際し融通困難なり、又第四期三月は最後積出に係る蔵残酒代金と前々売掛滞金を集収する予定なるも、是亦回収意の如くならず、殊に東京酒問屋側に於ては一年末勘定仕切を四月末に至らざれば清算せず、第三期分納税に因みたる後と云ひ、旁々一層の逼塞を極め、全部借入金に依りて納入せざるべからざることありと云ふにあり、此他第一・第二両納期改正の希望も同様の理由に外ならず、当交換所は此希望を斟酌し、他経済の状況を考へ、前顕改正を建議する所以なり
 - 第7巻 p.512 -ページ画像 
 二、他租税納期との関係 三月は一箇年中定期納税額の最多なる季節なり、即ち酒造税以外第五期地租を始め、所得税第四期、醤油税第三期及鉱業税あり、総額実に四千一百二十四万円に達す、之れに反し四月は定期納税皆無にして、唯麦酒税毎月割及取引所税を合せて僅かに三十万円に過ぎざるある而已、一箇年中納税最少額の季節なりとす、金融調和の上に於て当案の適宜たるを信ず
 三、貿易資金との関係 毎年十二月より翌年二月迄は棉花輸入の最盛季に属し、之が荷為換手形支払期限を概ね一覧後六十日目乃至九十日目と見る時は、二月・三月は正に其支払期節に相当するのみならず、米穀の入津亦三月を以て最とし、神戸・大阪に於ける資金の需要を喚起すること頻繁なりとす、尤も毎年春季より製糸及製茶資金の需要起るを常とすれども、四月にありては未だ其頻繁なるに至らず
 四、金融界一般の観察 之れを近数年間神戸・大阪両地に於ける手形交換高の増減に徴するも、例年三月は四月に比し遥に多額なるを見る、蓋し全国殆んど何れの地たるを問はず三月に於て引締まりたる金融の四月に入りて閑散となるは争ふべからざる事実たるなり、然るに三月は重税を徴収し、四月を無税月に等しからしむるが如きは、金融繁閑の状況を参酌したるものと云ふを得ざるなり
 五、歳入権衡の整理 政府歳入の権衡上より見るも、三月・四月に於ける現行納税額の偏重偏軽は決して其宜しきを得たるものと云ふべからず、故に三月に割きて四月に振替ゆるは収支の適合を得る上に於て寧ろ策の得たるものなるべきなり、唯此結果として、改正されたる年度の第四期は変じて現年度の歳入に属することゝなり、全く一期分の欠陥を見るに至るべきも、臨時に大蔵省証券を発行して之を補塡するか、若くは事業繰延其他機宜の方法を講ぜば、自ら之を補ふの策あるべし(神戸案は非常の長文なるを以て其要点を抜萃せり)
    名古屋案
 現行国税の納期中改正を加ふべき者一にして足らず、然り而して就中最も其急を覚る者を酒税の納期とす
 先年当業者の政府に議会に請願建議再三再四に及びたる、第四期三月を五月に変更して他は凡て現行法に倣ふ改正案は、独り当業者の利益となる可きのみならず、金融の上に与ふ影響も亦た悪しとせず真に簡にして要を得て甚だ賛す可き案たる知かりしと雖も、今日に於て再び之を唱ふるも政府は勿論議会と雖も到底其容る所とならざるは、当年に徴して察するに難しとせず
 近頃に於ては、当業者は更に庫出税を唱へつゝあるに似たり、庫出税亦た固より可ならざるに非ず、現行納期の下に於て一種の不当利得を占めつゝある所謂早造業者に対して、一般酒造業者の負担の公平を得る如き、或は納税の為めに酒価の下落を免る如き、若くは納税の苦痛を軽減する如き、共に庫出税が与ふる所の利益にして、採る可き点亦少からざるは真に当業者の説の如しと雖も、同時に徴税費の多額に達するの一事到底政府の意を動かす能はざるを奈何せん
 - 第7巻 p.513 -ページ画像 
 想ふに今日に於て採るべき改正の方案は唯だ夫れ左の一歟
    改正案            現行法
  第一期 七月  二分   第一期 七月  二分二厘
  第二期 九月  二分   第二期 十月  二分五厘
  第三期 十一月 二分   第三期 二月  二分五厘
  第四期 三月  二分   第四期 三月  二分五厘
  第五期 五月  二分
 今則ち本案に付て之を考ふるに、納期一期を加へて五期となり、従来毎月二分五厘を納付せざる可らざりしに新に五厘を減じて二分を納むれば可なる事となれば、納税者は勿論金融市場も現行法に比し其苦痛を減ずる甚しく、而して政府も改正の為に苦むは僅に初年に限り、唯だ第四期三月を五月に変更し他は凡て現行法に倣ふ案等に比すれば、苦痛を覚ふる亦た甚だ少きに似たり、之に依りて之を観るに、本案を以て現今採る可き改正案中唯一の者と目するも必ずしも当らざるに非る可きか
即ち租税納期に関する件は、三案共酒税の納期改正に限れるが、聯合会に於ては之を一括して委員に附托し、修正案を作らしむることゝなり、議長より左の諸氏を委員に指名せり
    東京 佐々木勇之助   大阪  池田経三郎
    京都 仙田重邦     横浜  間島弟彦
    神戸 木村久寿弥太   名古屋 矢田績
斯くて、委員会に於ては佐々木勇之助氏を委員長に推し、一同審議の末、大阪案を採用し、尚ほ参考として神戸案をも政府に送付することに決し、其旨本会に報告したるに、本会に於ても異議なく委員長報告の通り可決せり
次に以上二件に関する建議案の起草は総て東京交換所に嘱托し、建議案起草の上は直ちに之を各地交換所に送付し、其承認を求めたる上、全国交換所聯合会長の名を以て政府に建議することに決したり


銀行通信録 第四六巻第二七五号・第三三八―三三九頁〔明治四一年九月一五日〕 各地交換聯合会の建議(DK070066k-0003)
第7巻 p.513-515 ページ画像

銀行通信録 第四六巻第二七五号・第三三八―三三九頁〔明治四一年九月一五日〕
    ○各地交換聯合会の建議
国債及租税納期に関する各地交換所聯合調査委員会の状況は前号(一八八頁)に詳記せしが、同委員会の決定に係る建議案は其後各交換所に於て夫々可決承認の上、八月十四日聯合会々長豊川良平氏の名を以て其筋へ提出せり、建議案の全文左の如し
    国債に関する建議
 明治三十七八年戦役以来急激に増加したる内外国債の整理を為すは帝国財界の基礎を確立するに於て最も緊要とする所なり、然りと雖ども国債整理の事たる、素と財政の整理と相俟ちて始めて効果を収むべく制度如何に美なりと雖ども其実之に伴はざれば遂に徒法に帰すべきは泰西各国の実例明に之を証する所なり、故に政府は宜しく鋭意財政を整理し有利の条件を以て国債を整理するを期図せざるべからず、而して其時期に達するまでは左の事項を実行し、一は以て国債に関する内外の信用を厚うし価格の回復を計り、一は以て商工
 - 第7巻 p.514 -ページ画像 
業の資本を裕にし産業の発展を利するは実に目下の急務なりと認む
 一、公債財源に依る新計画は之を見合はす事
 二、官営事業を拡張し又は新に計画する為めに公債を発行せざる事
 三、既に帝国議会の協賛を経たる公債財源に依る経費は、政費を節約して之に充て、公債を発行せざる事
 四、未募集公債は総て之を切棄つる事
 五、増税に依らずして財政の許す限り公債の償還を行ふ事
   但し其額は毎年六千万円を下らざるものとし、現実に之を償還する事
 六、今後数年間に償還期限の到来すべき公債は逐次抽籤に依り之を償還する事
   但し有利の条件を以て借換を為すことを得る場合は此限りにあらず
 七、国債の整理に関し特別の監視機関を設くる事
   但し此機関は会計検査院長、貴衆両院議員、及民間より任命したる委員を以て組織する事
 右各地手形交換所聯合会の決議に依り及建議候也
  明治四十一年八月十四日
            各地手形交換所聯合会々長
                      豊川良平
内閣総理大臣 侯爵 桂太郎殿
               (各通)
大蔵大臣 侯爵 桂太郎殿
    租税納期に関する建議
 現行租税納期を見るに、毎年一月より三月に至るまでは各種租税の上納輻輳して巨額の資金を国庫に吸収し、特に近年増税の結果其金額著しく増加して貨幣市場に及ぼす影響頗る大なるものあり、就中金額の最も大にして影響の最も甚しきものを酒造税とす、即ち酒造税の一半は二・三両月連続するを以て、当業者に在りては恰も新酒仕込資金支払の後を承け且つ一方に於て製酒は尚貯蔵中に属して未だ販売の遑あらざるに先ち、巨額の税金を納入せざるべからざることゝなり当業者の痛苦を感ずること頗る大なりとす、其結果動もすれば税金調達のために濫売の已むを得ざるに至り、一般取引の関係を攪乱し、酒価の低落を来たし、当業者をして困難に陥らしむることなしとせず、又之を一般金融市場より見るも現今国税納期の三月に於てするもの、酒造税の外、田租(第五期)あり、所得税(第四期)あり、巨額の資金を一時に国庫に吸収せらるゝを以て、例年此期に於て著しく金融を緊縮するを常とす、依て酒造第四期を四月に繰下げられんことを望む、若し夫れ納期改正の結果は会計年度を跨ることゝなり、国庫の出納上一時の不便は之を免れざるべしと雖ども、畢竟是れ初一年度の煩累たるに止まり、連年循環相接ぐに及んでは毫も掛念するの要なかるべしと信ず
 右各地手形交換所聯合会の決議に依り及建議候也
  明治四十一年八月十四日
            各地手形交換所聯合会々長
 - 第7巻 p.515 -ページ画像 
                      豊川良平
 大蔵大臣 侯爵 桂太郎殿



〔参考〕東京交換所第二十七回事業成績報告 (自明治四一年一月至同年六月)(DK070066k-0004)
第7巻 p.515 ページ画像

東京交換所第二十七回事業成績報告 (自明治四一年一月至同年六月)
    会議要領
○中略
四月十六日 大阪外五ケ所手形交換所第六回ノ聯合会ヲ大阪ニ開キ、国債調査及租税納期改正外六件ヲ問題トシテ討議アリ、特ニ国債及租税納期改正ノ件ハ各交換所ニ於テ調査委員ヲ置キ講究ノ上、更ニ合同審議スヘキコトニ決セリ


〔参考〕銀行通信録 第四五巻第二七一号・第六九一頁〔明治四一年五月一五日〕 東京交換所組合銀行臨時集会(DK070066k-0005)
第7巻 p.515 ページ画像

銀行通信録 第四五巻第二七一号・第六九一頁〔明治四一年五月一五日〕
    ○東京交換所組合銀行臨時集会
明治四十一年四月二十四日午後五時より、東京銀行集会所に於て開会出席銀行二十八、会員三十一名にして、委員長豊川良平氏会長席に着き、過般大阪に於て開会せる第六回全国交換所聯合会決議の結果を報告し一同之を承認することに決し、次に同決議事項中租税納期改正の件及国債調査の件は常任委員三名の外に十名の調査委員を挙げて調査を附托することに決し、会長より左記十名を調査委員に指名せり
 佐々木勇之助(第一)清水虎吉(第三)成瀬正恭(十五)山口荘吉(二十)串田万蔵(三菱)池田成彬(三井)草刈隆一(東京)松尾吉士(正金)加納友之介(住友)坂田実(豊国)
尚国債調査の件は重大の問題なるを以て、東京帝国大学・早稲田大学・慶応義塾及専修学校の教授講師等に調査を依頼し、之が調査費用は幾何にても所要の金額を支出することゝし、其支出方法は常任委員に一任することに決し、最後に委員池田謙三氏より交換所聯合会の内容に付更に報告する所あり、右にて議事を終り、午後六時閉会せり


〔参考〕中外商業新報 第七九四九号〔明治四一年五月九日〕 国債調査委員会(DK070066k-0006)
第7巻 p.515-516 ページ画像

中外商業新報 第七九四九号〔明治四一年五月九日〕
    国債調査委員会
東京交換所の国債調査委員会は予て依頼せる専門学者を招き、八日正午より銀行集会所に於て之が打合会を開き、常務委員長豊川良平氏及同委員渋沢男・池田の二氏を始め主査委員坂田・加納・串田・松尾の四氏出席し、左の各専門学者列席の上
      東京帝国大学教授   法学博士 山崎覚次郎
      同          同    矢作栄蔵
      同          同    河津暹
      同          同    高野岩三郎
      慶応義塾大学部教授       堀江帰一
      早稲大学教授          田中穂積
      同               塩沢昌真
午餐を共にし、終つて豊川委員長より国債調査の趣意由来に関し一場の挨拶を述べ、次て渋沢男爵の本邦国債の沿革に付き詳細の演説あり
 - 第7巻 p.516 -ページ画像 
終て今後の調査に関し種々打合せを為し、午後四時散会したり


〔参考〕中外商業新報 第八〇〇四号〔明治四一年七月一〇日〕 国債調査委員会(DK070066k-0007)
第7巻 p.516 ページ画像

中外商業新報 第八〇〇四号〔明治四一年七月一〇日〕
    国債主査委員会
東京交換所の国債整理に関する主査委員会は九日正午東京銀行倶楽部に開会、午餐の後ち曩に調査を委ねたる学者諸氏より調査の結果を報告する所あり、尚ほ今後の調査方針に就き協議し、同四時散会せり、当日の来会者は豊川委員長・渋沢男・池田氏の常務委員及早川氏並に主査委員坂田・成瀬・加納・串田氏等外来賓として左の諸氏出席せり
 土方久徴(日銀)・山崎覚次郎・高野岩三郎・河津暹・矢作栄蔵(以上帝国大学)・田中穂積・塩沢昌真(以上早稲田)・堀江帰一・星野勉三(以上慶応)