公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.6
第7巻 p.603-646（DK070078k） ページ画像
明治12年7月14日（1879年）
是日会社創立証書及定款ノ認可ヲ東京府知事ニ申請ス。同月三十日許可セラル。依テ東京海上保険会社ト称シ資本金六十万円ヲ以テ日本橋区南茅場町二十三番地ニ本社ヲ置キ、八月一日開業ス。栄一、岩崎弥太郎ト共ニ相談役ト為ル。
東京海上保険会社報告 第一季明治一三年二月（DK070078k-0001）
第7巻 p.603 ページ画像
東京海上保険会社報告 第一季明治一三年二月
本社創立顛末
○上略因テ翌十二年一月ヲ以テ発起人一同第一国立銀行ノ楼上ニ集会シ、更ニ渋沢栄一氏ヲ以テ総理代人トシ創立ノ事務ヲ弁理セシム、爾来家屋ヲ南茅場町廿三番地ニ購ヒ、資本ノ額ヲ六拾万円ト定メ概ネ其五分ノ四ハ発起人ヨリ拠集シ、残リ五分ノ一ヲ各地ノ商估ヨリ募集シ其他専ラ開業ノ用意ヲナシテ条例頒布ノ時ヲ竢受ケタリ、然レトモ条例ノ急ニ頒布アルヘキ模様ナキヲ以テ同年六月発起人一同集会シ、条例ノ発布ヲ竢タズシテ開業スルコトヲ議決シ、仮ニ発起人ノ中ヨリ投票ヲ以テ蜂須賀茂韶、伊達宗城、柏村信、二橋元長、寺西成器ノ五氏ヲ選ンテ取締役トシ、而シテ其中ヨリ蜂須賀茂韶氏ヲ選ンテ頭取トナス、然レトモ当社ノ業タル我国ニ在テハ新創ニ係ルヲ以テ或ハ蹉躓アランコトヲ恐レ、渋沢栄一、岩崎弥太郎ノ両氏ニ就キ当社ノ相談人タランコトヲ依頼シタルニ、両人トモ異議ナク之ヲ承諾シタリ、是ヨリシテ右ノ諸人ハ連日集会シ、創立証書及ヒ定款ノ草案ヲ作リ、之ヲ発起人ノ衆議ニ附シテ其決ヲ受ケ、同七月右創立証書及ヒ定款ヲ以テ東京府ヘ開業ノ儀ヲ願出、速カニ其許可ヲ得タリ、依テ明治十二年八月一日ヲ以テ開業ノ式ヲ行ヒ、始メテ海上貨物保険ノ業務ニ就キタリ、是即チ当東京海上保険会社創立ノ顛末ナリ
東京海上火災保険株式会社所蔵書類（DK070078k-0002）
第7巻 p.603-604 ページ画像
東京海上火災保険株式会社所蔵書類
海上保険会社創立証書並定款御認可願
- 第7巻 p.604 -ページ画像
昨年九月中九条道孝以下弐拾六名之者共連名ニテ海上保険会社創立之儀相願候処、御許可相成候ニ付、爾来私共願意ヲ履行シ、夫々創立ノ手続相整、即チ創立証書ニ記載有之通、新株主ヲ各地方ニ募リ、資本金ノ高ヲ六拾万円ト相定候上、株主一同ノ評議ヲ以テ、仮ニ創立証書並定款取極申候ニ付御認可被下置度候、尤モ追テ条例御頒布ノ節ハ、其成規ニ照シ、更正ヲ加ヘ可申候、依テ別冊上呈、此段奉願候也
明治十二年七月十四日
株主総代
蜂須賀茂韶(印)
東京府知事 楠本正隆殿
（全文朱書）
第壱千六百七十七号
書面願之趣聞届候事
明治十二年七月三十日
東京府知事 楠本正隆印
東京海上保険会社創立証書並定款（DK070078k-0003）
第7巻 p.604-614 ページ画像
東京海上保険会社創立証書並定款
（東京海上火災保険株式会社所蔵）
創立証書
明治 年 月 日大日本政府ニ於テ制定シタル保険条例ヲ遵奉シ、保険会社ヲ設立スル為メ其株主等協議ノ上決定スル所ノ創立証書左ノ如シ
第一条 当会社ハ東京海上保険会社ト称スヘシ
第二条 当会社ノ本店ハ東京ニ設置スヘシ
第三条 当会社設立ノ目的ハ碇泊及ヒ航海ノ大小諸風帆船及ヒ諸滊船ニ積載スル貨物、商品、貨幣、地金、船賃等ノ保険ヲ為スニアリトス
第四条 当会社ノ責任ハ株高限タルヘシ
第五条 当会社ノ資本金ハ六拾万円ニシテ之ヲ六千株ニ分割シ一株ヲ百円ト定ムヘシ
第六条 当会社株主ノ姓名住所並ニ其引受ケタル株式ハ左ノ如シ
東京海上保険会社株主姓名表
金額 株数 住所 姓名
金拾壱万円 千百株 東京府下 岩崎弥太郎
金八万弐千八百円 八百弐拾八株 同 蜂須賀茂韶
金四万千円 四百拾株 同 毛利元徳
金弐万八千円 弐百八拾株 同 徳川慶勝
金弐万五千円 弐百五拾株 同 松平頼聡
金弐万円 弐百株 同 池田章政
金壱万円 百株 同 山内豊範
金壱万円 百株 同 二橋元長
金壱万円 百株 同 荘田平五郎
金九千円 九拾株 同 柏村信
金八千円 八拾株 同 井伊直憲
金六千円 六拾株 同 池田輝知
- 第7巻 p.605 -ページ画像
金六千円 六拾株 同 松平慶永
金六千円 六拾株 同 松平茂照《（松平茂昭）》
金五千八百円 五拾八株 同 前田利嗣
金五千円 五拾株 同 伊達宗城
金五千円 五拾株 同 伊達宗徳
金五千円 五拾株 同 久松勝成
金五千円 五拾株 司 久松定謨
金五千円 五拾株 同 河崎真胤
金五千円 五拾株 同 勝部静男
金五千円 五拾株 同 吉田忠己
金五千円 五拾株 同 前野久米
金五千円 五拾株 同 北川亥之作
金五千円 五拾株 同 寺西成器
金四千九百円 四拾九株 同 小倉穀豊
金四千円 四拾株 同 池田茂政
金四千円 四拾株 同 亀井玆監
金三千九百円 三拾九株 同 日野春草
金三千六百円 三拾六株 同 西園寺公成
金三千三百円 三拾三株 同 山本栄
金三千三百円 三拾三株 同 池内久親
金三千円 三拾株 同 井上
金三千円 三拾株 同 杉山勤
金三千円 三拾株 同 金田師行
金三千円 三拾株 同 渋沢栄一
金三千円 三拾株 同 三井物産会社
金三千円 三拾株 同 三井銀行
金三千円 三拾株 同 広業商会
○中略
合計六拾万円 六千株 二百三人
右ノ証拠トシテ私共姓名ヲ記シ調印致候也
明治十二年七月十四日
岩崎弥太郎
外二〇二名連名略
創立定款
明治 年 月 日、大日本政府ニ於テ制定シタル保険条例ヲ遵奉シ当保険会社ヲ創立スル為メ其株主等協議ノ上決定スル所ノ定款左ノ如シ
総則
第一条 以下条款ハ都テ会社ノ規則ニシテ後条ニ掲載スル所ノ手続ヲ履ムニ非サレハ、之レヲ廃停シ或ハ変更増訂スルコトヲ得ス
第二条 会社ハ新株ヲ発行シテ以テ其資本ノ金高ヲ増シ、或ハ資本ノ分割法ヲ改メテ更ニ在来ノ株金ヲ増シ或ハ有限責任ヲ改メテ保証有限責任或ハ無限責任トシ或ハ本店設置ノ地ヲ変シテ他ヘ移ス等ノコトニ就テハ、創立証書ノ条款ヲ改正スルコトヲ得ヘシト雖モ其他ハ創立証書ノ条款ヲ変更スルヲ得サルヘシ
- 第7巻 p.606 -ページ画像
第三条 会社ハ時宜ニ応シ後条ニ記載スル手続ヲ以テ総会議ヲ開キ其特別決議ヲ経ルニ於テハ、創立条款中ニ掲クル処ノ諸条又ハ若干条ヲ変更シ或ハ之ヲ刪除或ハ増訂シテ以テ更ニ新規ノ規則ヲ設クルコトヲ得ヘシ、斯ノ如ク特別決議ヲ以テ改正シタル規則ハ創立定款中ニ掲載シタル元来ノ規則ト同一ノ効ヲ有スルモノニシテ、此改正規則モ亦此後ノ特別決議ニ由テ之ヲ変更改正スルコトヲ得ヘシ、然レトモ此改正規則ハ必ス創立証書ノ条款ニ基クコトヲ要ス
第四条 特別決議ハ総会議ノ招集ヲ為ストキ予メ議案ノ趣意ヲ報告シテ総会議ヲ約シ、開議ノ上其議案ハ特別決議ニ付スヘキヤ否ヲ議シ臨席ノ議員四分ノ三以上ノ同意ヲ得テ之レヲ特別決議ニ付スヘキニ決定セハ、則チ其日ヨリ起算シ十四日ヨリ少ナカラス一ケ月ヨリ多カラサル日数間ニ次会ヲ開クコトヲ報告シ、此会議ニ於テ臨席シタル議員ノ同意多数ヲ以テ確定スルモノトス
第五条 特別決議ヲ以テ変更刪除増訂シタル条款ハ都テ之ヲ定款中ニ追加編入シ其写ヲ刊刻シ望ニ応シ相当ノ代価ヲ以テ之ヲ頒布スヘシ
株式ノ事
第六条 凡ソ会社ノ株主タラント欲スル者其請願書ニ記名調印シテ之レヲ会社ノ本店ニ差出シ、其請願シタル株式ノ全部又ハ若干部ノ分配ヲ承諾セラルルトキハ、即チ此定款ニ遵ヒ株主タルコトヲ約諾シタル者ト認ムヘシ
第七条 数人ノ者若干株ノ共有主トナルトキハ、其内ノ人ハ何人ヲ論セス会社ト諸般ノ事務ヲ引合フ者ヲ以テ其共有主総代ト認ムヘシ、但シ株式売渡及譲渡ノ節ハ此例ニアラス
第八条 一会社ノ名ヲ以テ株式ヲ所有スルトキハ、其会社ノ重立タル社員若クハ現在ノ支配人ヲ以テ右株式ノ所有主ト認ムヘシ、但シ株式売渡及ヒ譲渡ヲ為ストキハ此限ニアラス
第九条 会社ノ株主タル者ハ其引受タル株式一箇ニ付株券一通ツヽヲ受領スルヲ得ヘシ、但シ此株券ヲ受ルニハ手数料ヲ払フニ及ハス
株式雛形
有限東京海上保険会社株券
殿儀
大日本政府ニ於テ制定施行シタル保険条例ヲ遵奉シ当東京海上保険会社ノ定款ヲ確守シ、明治十 年 月 日ヨリ我東京海上保険会社株式ノ内百円即チ一株ノ持主タルコト相違ナキ証拠トシテ、此株式券状ニ当会社ノ印章ヲ押捺シ之ヲ付与スル者也
此株式券状ヲ売却譲与セント欲セハ当会社ヘ持参ス可シ、当会社ニ於テハ至当ノ検査ヲ遂ケ此券状裏面ノ桁内ヘ頭取支配人記名調印ノ上之ヲ差戻ス可シ
明治 年 月 日
有限東京海上保険会社頭取
何某印
同支配人 何某印
第十条 右ノ株券磨耗スルカ或ハ紛失スルノ故ヲ以テ之レカ書替ヲ願ヒ出ルトキ、至当ノ事実ヲ証明スルニ於テハ相当ノ手数料ヲ受取リ
- 第7巻 p.607 -ページ画像
テ更ニ新規ノ株券ヲ渡スヘシ
第十一条 凡ソ株式ヲ所有スル本人ハ勿論之レヲ所有スヘキ権利アル者ハ、会社ノ規則中ニ掲クル所ノ手続ヲ履ムニ於テハ其株式ヲ売渡シ或ハ譲渡スコトヲ得ヘシ
第十二条 会社ハ株帳ヲ製シ株主ノ氏名、属籍、宿所、職業、株式ノ員数及ヒ其売渡譲渡ノ年月日ヲ登録シ、定款第二十八条ニ掲クル処ノ日時ヲ除クノ外営業時間中望ミニ応シテ之レヲ株主ノ検閲ニ供スヘシ
第十三条 株主其氏名ヲ変スルカ或ハ属籍、宿所等ヲ転スルトキハ、書面ヲ以テ其次第ヲ会社ニ届出ヘシ、若シ届ケ出サル者アレハ其届ケ出サル間ハ分配金ヲ受領スルコトヲ得サルヘシ
資本金及ヒ其増加ノ事
第十四条 会社ノ資本金ハ六十万円ニシテ之レヲ六千株ニ分割シ一株ヲ百円ト定ムヘシ
第十五条 会社ハ臨時総会議ヲ開キ其決議ヲ得ル時ハ新株ヲ発行シテ以テ資本ノ金高ヲ増加スルコトヲ得ヘシ、但シ資本ノ金高ヲ増加シ及ヒ之ヲ株式ニ分割スル方法並ニ其新株ヲ在来ノ株主ニ分配シ、或ハ之ヲ他ヘ売渡ス等ノ手続ハ都テ其臨時総会議ニ於テ決定スヘシ
第十六条 新株ヲ発行シテ増加シタル資本金ハ、元来ノ資本金ト同一ノ規則ヲ以テ之ヲ適用スヘシ
資本金運用ノ事
第十七条 資本金総額十分ノ九ハ日本政府ヨリ発行スル公債証書ヲ買入レ置キ、残リ十分ノ一ハ確実ナル銀行ヘ預金ト為シテ会社営業用ニ供ス可シ
株金割払及ヒ其没入ノ事
第十八条 総テ株式ノ分配ヲ会社ヘ請願シ其承諾ヲ得タル人ハ左ノ割合ヲ以テ株金ヲ取締役ヨリ指図スル方法ニ従フテ会社ヘ払込ム可シ
第一割払金（一株ニ付）五拾円ハ会社ノ承諾ヲ得タル月内ニ払込ム可シ
第二割払金（一株ニ付）二拾五円ハ第一割払ノ日ヨリ六十日間ニ払込ム可シ
第三割払金（一株ニ付）二拾五円ハ第二割払ノ日ヨリ六十日間ニ払込ム可シ
第十九条 会社ハ第三割払金ト引換ヘニ其株券ヲ渡ス可シ、若シ請願人右日限内ニ右ノ払込ヲ為サヽルトキハ、以前ノ割払金ヲ会社ニ没入シ其旨ヲ報告スヘシ
第二十条 右ノ如クシテ没入シタル割払金ヲ使用シ其株式ヲ他ヘ売渡スコトハ取締役ノ権内ニ任ス可シ
株式売渡及譲渡ノ事
第二十一条 株式売渡或ハ譲渡ヲ為スニハ左ノ文例ニ従フテ売渡或ハ譲渡証書ヲ製シ、売渡人買受人双方或ハ譲渡人譲受人双方共右証書ニ連署調印シ之レヲ会社ニ差出シテ其手数ヲ請フヘシ、但シ買受人或ハ譲受人ノ氏名ヲ株帳ニ登録セサル間ハ、売渡人或ハ譲渡人ヲ以テ右株式ノ所有主ト看做スヘシ
- 第7巻 p.608 -ページ画像
株式売買証書文例
有限東京海上保険会社株式ノ内第―号ノ株式在東京何某所持ノ分「代金――円ヲ以テ」今般在横浜何某ヘ売渡シ「或ハ譲渡」候処実正也然ル上ハ向後右買受人或ハ譲受人ハ勿論其遺産引受人後見人分産引受人ニ至ル迄都テ是迄売渡人「或ハ譲渡人」カ遵守セシ所ノ諸規則及ヒ約条ヲ堅ク可相守候仍テ証書如件
明治 年 月 日
売渡人（或ハ譲渡人）何某印
買受人（或ハ譲受人）何某印
証人 何某印
有限東京海上保険会社
御中
第二十二条 凡ソ株式ノ売渡或ハ譲渡ニ付キ直接間接ノ差別ナク会社ノ公益ヲ阻礙妨碍スルコトアルニ於テハ、会社ハ其登簿ヲ拒ムコトヲ得ヘシ
第二十三条 若シ会社ニ於テ株式売渡或ハ譲渡ノ登簿ヲ拒ム時ハ会社ノ取締役ハ其理由ヲ書面ニ記載シ其日ヨリ二日ノ内ニ之レヲ右売渡或ハ譲渡ヲ申立タル株主ニ送出スヘシ
第二十四条 会社ニ於テ株式売渡或ハ譲渡ノ登簿ヲ拒ミシ時、若シ其拒マレタル株主之レヲ不当トスルトキハ其報告ヲ会社ヨリ受ケタル日ヨリ三十日以内ナレハ何時ニテモ書面ヲ取締役ニ差出シ、総会議ノ招集ヲ請ヒ該事件ヲ討議セシムル事ヲ得ヘシ、但シ此会議ノ同論多数ニ拠テ定メラレタル決議ハ之レヲ最後ノモノトス
第二十五条 株式ノ売渡或ハ譲渡ヲ為スニハ、先株主即チ売渡人或ハ譲渡人ハ其株券ヲ会社ニ持参シ其裏書ヲ請フヘシ、而シテ会社ニ於テ之レヲ承諾シ其売渡或ハ譲渡ノ登簿手数相済ム上ハ、之レヲ買受人或ハ譲受人ヘ与フヘシ
第二十六条 株式売渡或ハ譲渡証書ヲ株帳ニ登録スルトキハ、其株式買受人或ハ譲受人ハ既ニ会社ノ株主タルニヨリ、其所有ノ株式ニ応シタル特権及ヒ利益ヲ所有シ従テ其責任ヲ負担スヘシ
第二十七条 株式売渡或ハ譲渡ニ付テ株券ヲ渡ストキハ、其株式売渡人或ハ譲渡人ヨリ相当ノ手数料ヲ納メシムヘシ
第二十八条 毎季例式ノ総会議ヲ開ク日ヨリ前十四日間ハ株式売渡及ヒ譲渡ノ手数ヲ為サス
第二十九条 株主ノ死去分産等ニ由テ其株式所有ノ権ヲ譲リ受ケタル者、其事実ヲ証明スルニ於テハ之レヲ株主トシテ株帳ニ登録スルコトヲ得ヘシ
第三十条 幼弱白痴狂癲或ハ其他ノ事故ニ困テ一身上ノ事ヲ自ラ支配スルニ堪ヘ難キ者ノ所有スル株式ハ、裁判官若クハ地方官ノ命令又ハ法律上正当ナル後見人若クハ代権人ノ申出ニ非サレハ、其売渡或ハ譲渡シヲ許サス
第三十一条 会社ハ自カラ其株式ヲ買取ルコトヲ得ス
株式抛棄ノ事
第三十二条 凡ソ会社ノ株主タル者其責任ヲ免レント欲スルトキハ其
- 第7巻 p.609 -ページ画像
所有株式ヲ悉皆抛棄スルニ非サレハ之レヲ許サス
総会議ノ事
第三十三条 例式総会議ハ取締役ノ確定シタル日時場所ニ於テ、毎歳二月ト八月トニ之ヲ開クヘシ
第三十四条 会社ハ取締役ノ見込ニ従ヒ又ハ人員十名ニ下ラス、且ツ其所持ノ株数総株ノ五分一ニ下ラサル株主ノ求ニ応シ或ハ此定款第二十四条ニ掲クルカ如キ株主ノ請求ニ由テ、何時ニテモ臨時総会議ノ招集ヲナスコトヲ要ス
第三十五条 株主ヨリ臨時総会議ヲ要求スルトキハ、其目的ヲ記シタル要求書ヲ会社ノ本店ニ差出スヘシ
第三十六条 取締役ハ右ノ要求書ヲ受取ルトキハ直チニ臨時総会議ノ招集ニ着手スヘシ、若シ取締役ニ於テ右要求書ヲ受取タル日ヨリ十四日内ニ右招集ノ手続ニ着手セサルトキハ、右要求人等ハ勝手ニ総会議ノ招集ヲナスヲ得ヘシ、而シテ此会議ニ於テ議決セシ所ノ事ハ社中一統之ヲ確守スヘシ
議事章程ノ事
第三十七条 凡ソ会議ノ招集ヲナスニハ其取極メタル場所及日時ヲ報告書ニ記シ、若シ特別決議ヲ要スルノ事件ナレハ其大体ノ趣旨ヲ記載シ、集会ノ日ヨリ少ナクモ十四日前ニ後条ニ掲クル所ノ手続若クハ総会議ニ於テ定メタル其他ノ手続ヲ以テ、之レヲ株主一同ヘ頒布スヘシ、斯ノ如キ手数ヲ為ス上ハ仮令株主ノ中ニ右報告書ヲ受領セサル者アルモ、会議招集ノ手続ハ充分ニ尽シタルモノトナスヘシ
第三十八条 凡ソ例式総会議ニ於テハ利益金分配ノ事、並ニ諸計算表其他取締役ヨリ差出ス処ノ諸般ノ報告書類等ノ議案ヲ議決シ、其余ノ議案ハ総テ臨時総会議ヲ以テ議決スヘシ
第三十九条 凡ソ総会議ニ於テ事ヲ議スルニ当テハ、必ス株主ノ総員十分ノ五以上出席スルニ非サレハ何事ヲモ決定スルコトヲ得ス
但シ利益金分配ニ関スル事ハ此限ニアラス
第四十条 株主ノ要求ヲ以テ会議ノ招集ヲナシ、集会ノ刻限ヨリ一時間ヲ過キテ定員（即チ総株主十分ノ五）臨席セサルトキハ、其会議ヲ解散シ其議案ヲ廃案トナスヘシ、然レトモ取締役ノ見込ヲ以テ招集シタル場合ニ於テハ其会議ヲ延期シ、其日ヨリ一週間後ニ同場所同刻限ニ於テ再ヒ之レヲ開クヘシ、此会議ニ於テハ定員臨席セサルトモ出席ノ株主タケニテ決議ヲ取ルコトヲ得ヘシ
第四十一条 総会議ノ議長ハ取締役ノ中ヨリ之レヲ選挙スヘシ
第四十二条 若シ議長不在ナルカ或ハ集会刻限ヨリ十五分時間ヲ過キテ尚ホ之レニ臨席セサルトキハ、臨席ノ取締役或ハ株主中ヨリ一人ヲ選挙シテ仮リニ之レヲ議長ト為スヘシ
第四十三条 議長ハ会議ヲ延期シ会場ヲ転スル事ヲ得ヘシ、但シ延期会議ニ於テハ前会ニ決セサリシ事ノミヲ議シ、新案ヲ議スルコトヲ得ス
第四十四条 凡ソ総会議ニ於テ事ヲ決議スルニハ同論ノ多数ヲ以テ其決ヲ取ルヘシ、若シ異同相半ハスルトキハ議長其可否ヲ裁決スルノ権アリトス、但シ議長ハ同論ノ数ヲ知ルニ起立発声或ハ其他ノ法ヲ
- 第7巻 p.610 -ページ画像
用ヒ得ヘシト雖トモ二人以上投票ヲ望ム者アレハ更ニ投票ノ法ヲ行フヘシ、而シテ議長モ投票ヲ為スノ権アリトス
議事条件登簿ノ事
第四十五条 総会議ニ於テ議決シタル条件ハ都テ之レヲ議事要件録ニ登録シ、其会議ノ議長之レニ検印シ後日ノ確証トシテ会社ニ備ヘ置クヘシ
株主投票ノ事
第四十六条 株主ハ各々所持スル処ノ株数十株迄毎一株ニ一個宛ノ投票ヲナシ、十一株以上百株迄毎五株ニ一個宛ヲ増加シ百一株以上ハ毎十株ニ一個宛ヲ増加スヘシ、起立発声等モ亦之ニ準スヘシ
第四十七条 若シ株主幼弱ナルカ或ハ狂癲白痴ノ類ナルトキハ、後見人或ハ其他ノ正当ナル代理人ヲ以テ投票セシムルコトヲ得ヘシ
第四十八条 二人以上ノ者組合ニテ一株或ハ若干株ヲ所有スルトキハ其共有主ノ中何人ニテモ其総代トシテ投票スルコトヲ得ヘシ、又会社ノ名ヲ以テ所有スルトキハ、其重立タル社員或ハ現在ノ支配人ニ於テ投票スルコトヲ得ヘシ
第四十九条 若シ本人会議ニ出席ナシ能ハサルトキハ、名代人ヲ以テ投票ナサシムルコトヲ得ヘシト雖トモ、其名代人ハ必ス会社ノ株主ニ限ルヘシ
第五十条 名代人ヲ差出ストキハ会議ノ日迄ニ其委任状ヲ会社ノ本店ニ差出スヘシ、但シ其委任ノ期限ハ一ケ年ヨリ永キヲ得ス
第五十一条 名代人委任状ノ文例左ノ如シ
有限東京海上保険会社株主ノ内―個投票ノ件ヲ有スル何某今般何某ヲ以テ其名代人ト為シ、来ル明治 年 月 日ノ当会社例式総会議並ニ其延期会議（臨時総会議並ニ其延期会議）（来ル明治 年 月ヨリ一ケ年内ノ会議）ニ於テ発議投票為致候、仍テ委任状如件
明治 年 月 日 株主 何某印
名代人 何某印
証人 何某印
有限東京海上保険会社
御中
会社取締役ノ事
第五十二条 当会社ノ取締役ハ三人ヨリ少カラス七人ヨリ多カラサルヘシ
第五十三条 何人タリトモ三拾株以上ヲ所有スル株主ニ非サレハ取締役タルヲ得ヘカラス但シ開業ノ後第一次例式総会議ニ於テ撰任アル迄ハ発起人中ヨリ仮ニ取締役ヲ撰ムヘシ
第五十四条 取締役ハ会社ノ事務ヲ総理シ支配人以下役員ノ撰任及黜陟ヲ掌ルヘシ
第五十五条 取締役ハ定款中ニ掲クル処ノ権力ヲ有スルノ外定款中ニ漏レ総会議ノ決議ヲ要セサル事件ヲ適宜取扱フコトヲ得ヘシ、但シ会社ノ事務ヲ取扱フ為メニ別ニ営業規則ヲ設ケ、及ヒ之ヲ変更廃止スル等何レモ取締役同僚ノ衆議ヲ以テ之ヲ決定スルコトヲ得ヘシト雖トモ、右営業規則ハ必ス定款ノ旨趣ニ牴触セサルコトヲ要ス
- 第7巻 p.611 -ページ画像
第五十六条 左ノ件々ハ株主ノ許可ヲ待タス取締役ニ於テ適宜処分スルコトヲ得ヘシ
甲 会社ノ資本金ヲ創立証書並ニ定款ノ趣意ニ背カサル限リ便宜運転使用スル事
乙 会社ヨリ他ヲ相手取ルカ若クハ他ヨリ会社ヲ相手取リタル公事訴訟ノ原告或ハ被告トナリ、或ハ之レヲ勧解シ或ハ之レヲ仲裁ニ附シ或ハ之レヲ停止シ或ハ之レヲ願下クル事
丙 株式ヲ分配シ株式ノ売渡或ハ譲渡ヲ許諾シ若クハ拒絶スル事
丁 会社役員ノ職務給料ヲ定メ各地ニ支店ヲ設ケ或ハ各地ニアル確実ナル銀行若クハ商館ニ会社ノ代理ヲ委托シ、役員ヲ各地ヘ派出シ或ハ決算人評価人等ヲ傭入ル事
第五十七条 開業ノ際仮リニ撰挙シタル取締役ハ創立後第一次例式総会議ニ於テ一旦悉ク退任セシメ、更ニ投票ヲ以テ其定員ヲ撰挙シ及ヒ其給料ヲ定ムヘシ
第五十八条 毎年二月ノ例式総会議ニ於テ在来ノ取締役中ヨリ二名ツツヲ退任セシメ、更ニ投票ヲ以テ新取締役二名ヲ撰挙スヘシ
第五十九条 第一次例式総会議以後二年ノ間ハ二名ノ取締役ヲ解職スルニ必ス投票ヲ以テスヘシ、爾後ハ毎年先任ノ者ヨリ次第ニ二名ツツ解職スヘシ
第六十条 退任ノ順ニ当リタル取締役ト雖トモ猶新撰挙ニ当ルコトヲ得ヘシ
第六十一条 一会社或ハ数人ノ名ヲ以テ株式ヲ所有スルトキハ其内一名ツヽノ外ハ会社ノ取締役タルヲ得ス
第六十二条 取締役中不時ニ欠員ヲ生スルトキハ仮リニ取締役ニ於テ相当ノ人ヲ撰挙シ以テ其欠員ヲ補フヲ得ヘシト雖トモ、此撰挙ニ当リタル者ハ先任ノ在職期限ヲ越ヘテ其職ヲ保ツコトヲ得ス
第六十三条 凡ソ特別決議ヲ経ルトキハ在職期限中ト雖トモ、不時ニ取締役ノ職務ヲ放免スルコトヲ得ヘシ
第六十四条 左ニ掲クル処ノ者ハ取締役ノ職ヲ保ツコトヲ得ス
甲 所有株式三十株ニ下ル者
乙 破産スル者
内 狂癲或ハ其他ノ事故ニ因テ取締役ノ職務ヲ管理シ難キ者
第六十五条 社印ハ取締役ニ非サレハ之ヲ使用スルヲ得ス
第六十六条 総テ会社ヨリ発スル証書及ヒ文書類ニハ社印又ハ取締役ノ実印ヲ用ユ可シ
第六十七条 取締役ハ其本分ノ職務ヲ行フヨリ生シタル損失ハ、故意ノ所為ヨリ生スルニ非レハ其責ヲ担ハサルヘシ
第六十八条 取締役ハ其所有ノ株式三十株ヲ会社ニ預ケ、勤務中ハ之ヲ引出スコトヲ得ス
第六十九条 取締役ハ毎年上任ノ後同僚中ノ一人ヲ撰ンテ頭取トナシ取締役会議ノ会頭トナス可シ、但シ此撰挙ハ人員ノ多数ニ依ル可シ
利益金分配ノ事
第七十条 取締役ハ例式総会議ノ決議ヲ経テ会社ノ純益中ヨリ諸役員ノ賞与金並ニ積立金ヲ引去リ、其残額ヲ株主一同ヘ株高ニ応シテ分
- 第7巻 p.612 -ページ画像
配スヘシ
第七十一条 純益金十分ノ一ニ下ラサル金額ヲ以テ積立金トシテ蓄積シ、其金額資本金ノ半額ニ至ルトキハ別段総会議ニ於テ異議ヲ発スルニ非レハ爾後ハ積立金ヲ為サヽルヘシ
第七十二条 利益金分配ノ報告ヲ為シテヨリ一ケ年ヲ経テ之ヲ請求スル者ナキトキハ、取締役ニ於テ其分配金ヲ会社ニ没入スルコトヲ得ヘシ
第七十三条 分配金ニ付テハ会社ニ対シテ利子ヲ要求スルコトヲ得ス
計算ノ事
第七十四条 取締役ハ総テノ事件ニ付キ明細誠実ノ計算簿ヲ製シ、以テ之ヲ会社ニ備ヘ置クヘシ
第七十五条 総テ計算ノ諸簿冊ハ重複記入ノ法ニ従ツテ之レヲ登録シ会社ノ本店ニ備ヘ置クヘシ、而シテ此諸簿冊ハ総会議ニ於テ定ムル処ノ簿冊点検ノ日時ヲ除キ、営業時間中望ミニ応シテ之ヲ株主ノ点検ニ供スヘシ
第七十六条 会社ハ一年ヲ分テ二季トナシ一月ヨリ六月迄ヲ前季トシ七月ヨリ十二月迄ヲ後季トシ毎季其決算ヲ為スヘシ
第七十七条 取締役ハ毎季総会議ニ於テ、其前季ノ資産責任明細表及損益計算表ヲ報告ス可シ
第七十八条 資産責任明細表及損益計算表ハ之ヲ刊刷シ後条ニ掲ル処ノ手続ヲ以テ株主一同ヘ頒布スヘシ、而シテ右ノ総会議ニ於テ議定シタル後ハ過誤或ハ不正ノ事実ヲ証明スルニ非サレハ、右会議ニ欠席シタル者異論ヲ述フル能ハス
報告ノ事
第七十九条 会社ヨリ株主ヘ報告セントスルトキハ其報告書ヲ本人ヘ直達スルモ、廻状或ハ郵便ヲ以テ本人ノ宿所ヘ送達スルモ都テ会社ノ便宜ニ任スヘシ、但シ数人ノ者一株或ハ若干株ヲ共有スル場合ニ於テハ其共有主中株帳記名順第一ノ者（若共有主ヨリ申込アレハ其申込ノ人）ヘ交付スヘシ
第八十条 凡ソ裁判又ハ売渡若クハ譲渡等ニ由テ株式所有ノ権ヲ得ル者ハ、会社ヨリ先株主ヘ達シタル報告状及ヒ其他ノ書類ヲ悉皆引受ケ以テ其責ニ任スヘシ
第八十一条 報告ノ書類ヲ株主ヘ交附スルニ郵便ヲ以テ送達スルトキハ、地方ノ遠近ヲ見積リ大概其書信ノ達スヘキ日限ヲ以テ報告シタル日時ト見做スヘシ、而シテ一旦右書類ヲ送達セシコト相違ナキ旨ヲ証明スルニ於テハ報告ノ手順ハ既ニ尽セリト為スヘシ
第八十二条 会社ヨリ発スル処ノ呼出、報告、指図及其他営業上ノ事ヲ記載シタル諸文書類ハ、或ハ筆記シ或ハ刊刷シ或ハ一部ヲ筆記シテ一部ヲ刊刷スルトモ都テ会社ノ勝手タルヘシ
代理権委任ノ事
第八十三条 凡ソ会社ノ株主タル者定款ニ記名調印ヲ為シ或ハ株式ノ売渡又ハ譲渡ヲ為シ或ハ分配金ヲ受領シ其受領証ヲ出シ、其他総テ会社ニ係ル一切ノ事務ヲ取扱フニ代理人ヲ以テ為サシムルコトヲ得ヘシト雖トモ、代理人ヲ用フルトキハ必ス其委任状ヲ会社ノ本店ニ
- 第7巻 p.613 -ページ画像
差出スコトヲ要ス、若シ又其代理権ヲ解カントスルトキハ其旨ヲ本店ニ届出ヘシ、否ラサレハ会社ハ其委任状ノ代理人ヲ以テ正当ノ代理権ヲ有スルト者ト認ムヘシ
第八十四条 代理権委任状ハ本人並ニ代理人之ニ記名調印シ証人之ニ検印ヲナスヘシ、而シテ之ヲ製スルニハ必ス左ノ文例ニ法トルコトヲ要ス
代理権委任状文例
有限東京海上保険会社株主ノ内何某義今般何某ヲ以テ其代理人トナシ（創立証書定款ヘ記名調印）（諸会議ニ出席シテ発議及ヒ投票ヲ為シ）（株式ノ売渡或ハ譲渡ヲ為シ）（分配金及ヒ其他ノ金銀ヲ受領シ其受領証ヲ出ス）ノコトヲ為取扱候処実正也、然ル上ハ向後国法ニ従ヒ定款ノ権限ヲ守リテ右代理人ノ取扱ヒタル事件ハ委托本人ニ於テ一切其責ニ任スヘキモノナリ、委任状依而如件
明治 年 月 日
属籍宿所
委托本人 何某印
同
代理人 何某印
同
証人 何某印
有限東京海上保険会社
御中
平穏鎖店ノ事
第八十五条 会社ハ其特別決議ヲ以テ決定スルニ於テハ平穏ニ鎖店スルコトヲ得ヘシ
第八十六条 平穏鎖店ハ鎖店議決ノ日ヲ以テ其初日トスヘシ
第八十七条 会社ハ鎖店ノ初日ヨリ鎖店ニ付テ必要ノ事務ヲ取扱フノ外一切営業上ノ事務ヲ停止シ、株式売渡及譲渡ノ手数ヲ拒ムヘシ
第八十八条 平穏鎖店ヲ為ス時ハ其次第ヲ二種以上ノ新聞紙ニ依テ公告スヘシ
第八十九条 会社ハ平穏鎖店ヲ為スト議決スルトキハ直チニ臨時総会議ヲ開キ、株主或ハ役員中ヨリ二名以上ノ適当ナル人ヲ撰挙シ之ヲ鎖店結算役ニ任シ、且其給料ヲ定ムヘシ
第九十条 結算役撰任ノ手数相済ムトキハ取締役ノ職務ヲ放ツヘシ
第九十一条 結算役ハ会社ノ所有財産ヲ収集シ之ヲ以テ鎖店入費ヲ払ヒ、而シテ各種ノ負債ヲ弁償シ其残余ノ金額ヲ株主ノ株高ニ応シテ配分スヘシ
第九十二条 鎖店ノ手数中結算役ハ便宜ニ従ヒ、総会議ノ招集ヲナスコトヲ得ヘシ
第九十三条 会社鎖店ノ事務落着スルトキハ結算役ハ直チニ其事務ノ手続並ニ財産ノ売却等ヲ記載シタル報告書ヲ製シ、然ル後総会議ノ招集ヲナシテ其検閲ヲ受クヘシ
仲裁ノ事
第九十四条 創立証書定款ノ趣意又ハ其文面ノ意味或ハ定款ニ遵テ履
- 第7巻 p.614 -ページ画像
行スル処ノ事件ニ付、会社ト株主或ハ其代理人若クハ分産引受人或ハ其後見人トノ間ニ意見ヲ異ニシ紛議ヲ生スルトキハ毎ニ之ヲ仲裁ニ附スヘシ
第九十五条 右ノ如ク仲裁ヲ仰クニ付キ双方ノ間ニ別段ノ約定アルニ非サレハ、一名ノ仲裁人ヲ会社ニテ撰挙シ一名ヲ相手ノ株主ニ於テ撰挙シ合シテ二名ノ仲裁人ニ其裁断ヲ托スヘシ、而シテ二名ノ仲裁人ハ又他ニ一名ヲ撰ミ置キ、若シ各意見ヲ異ニシテ一致セサルトキハ右ノ一名ニ其判定ヲ委スヘシ
第九十六条 相手方双方ノ内一方ノ相手ヨリ他ノ一方ヘ書面ヲ以テ仲裁人ヲ撰挙スヘキ旨ヲ懸合ニ及ヒタル後十日ヲ過キテ、尚ホ右書面ヲ受取リタル一方右撰挙ヲ為ササルトキニ其之レヲ懸合タル一方ニ於テ双方ノ仲裁人ヲ撰挙シ、其裁断ヲ受ルコトヲ得ヘシ
第九十七条 仲裁人ハ仲裁ヲ委托シタル双方ノ相手及ヒ其証人ヲ推問スルノ権アルヘシ
第九十八条 仲裁人ハ紛議ノ事件ニ付裁断ヲ為スヘキ旨ヲ双方ノ相手ヘ報告シ、双方共不在ナルモ或ハ一方ノ者不在ナルモ臨機之レヲ裁断スルノ権アルヘシ
第九十九条 仲裁人ハ紛議ノ事件ヲ委托セラレテヨリ三十日内ニ裁断シテ之ヲ書面ニ認メ、記名調印シテ之レヲ双方ノ相手ニ渡スヘシ、而シテ双方ノ相手ハ此裁断ニ異議セス都テ之レヲ履行スヘシ
第百条 仲裁ノ為メニ支消シタル諸入費ハ都テ仲裁人ノ差図ニ従テ之レヲ払フヘシ
右ノ条々発起人ノ衆議ヲ以テ相定候、其証拠トシテ私共一同姓名ヲ記シ調印致候也
明治十二年七月十四日
字義解釈
会社 当保険会社ヲ云フナリ
総会議 株主一同ノ会議ヲ云フ
例式総会議 毎季例日執行ノ総会議ヲ云フ
臨時総会議 臨時執行ノ総会議ヲ云フ
決議 総会議ニ於テ議員同意ノ多数ニヨリテ決セラレタルヲ云フ
譲渡 子孫、親族、朋友若シクハ其他ノ人ヘ株式ヲ譲与スルヲ云フ
回議録 第二類会社明治一一年ノ二（DK070078k-0004）
第7巻 p.614-615 ページ画像
回議録 第二類会社明治一一年ノ二 （東京府庁所蔵）
海上保険会社仮証書定款ノ儀ニ付伺
九条道孝外廿六名発起ニテ海上保険会社創立ノ儀兼テ願済ノ処近々開業ノ運ヒニ立至リ、就テハ条例御頒布ノ上創立証書等取調更ニ可願出筈ニ有之候得共、営業上之都合モ有之仮ニ証書定款取極、追テ条例御頒布之節成規ニ照シ改正致度趣ヲ以テ別紙之通願出、書面中敢テ不都合モ無之様被存候条願意御聞届相成度此段至急相伺候也○別紙願書略ス前掲ヲ見ヨ
明治十二年七月廿一日 東京府知事 楠本正隆
内務卿 伊藤博文殿
- 第7巻 p.615 -ページ画像
書面之趣聞届候事
明治十二年七月廿九日 内務卿 伊藤博文
海上保険会社開業御届
当海上保険会社ノ儀兼テ蒙御認許候定款ノ旨意ヲ以テ八月一日ヨリ営業仕候ニ付、別紙役員姓名会社位置書相添此段御届仕候也
明治十二年七月三十一日 東京海上保険会社取締役
二橋元長
東京府知事 楠本正隆殿
役員姓名
頭取 蜂須賀茂韶
取締役 伊達宗城
二橋元長
柏村信
寺西成器
会社位置
日本橋区南茅場町廿三番地
○東京海上保険会社ハ後明治二六年東京海上保険株式会社ト改メ、更ニ大正七年四月東京海上火災保険株式会社ト改称ス。
○栄一相談役就任ト共ニ総理代人解任。
〔参考〕東京海上保険会社報告 第一季明治一三年二月（DK070078k-0005）
第7巻 p.615-618 ページ画像
東京海上保険会社報告 第一季明治一三年二月
明治十二年八月一日ヨリ同十二月三十一日迄五ケ月間ニ当会社ニ於テ施行シタル業務ノ概要ヲ類集シ株主諸君ニ報告スルコト次ノ如シ
本務之部
役員ノ事
八月一日取締役会議ノ上役員ヲ選定スルコト左ノ如シ
支配人 益田克徳
書記方 津田束
簿記方 大村励
検査方 長尾一
計算方 倉西松次郎
雑務方 三浦藤兵衛
九月廿日蜂須賀茂韶氏、外務省御用掛拝命ニ付頭取ヲ辞退ス、依テ伊達宗城氏ヲ頭取トシ其補欠トシテ定款第六十二条ニ照シ、取締役ノ評議ヲ以テ更ニ井上高格ヲ仮取締役ニ撰任ス
代理店設置ノ事 ○函館・横浜・下ノ関・長崎・大阪・神戸・石ノ巻・新潟・伏木・四日市・境・八戸・石浜・釜山・上海・香港・小樽・土崎各代理店設置ノ件略ス。
船舶検査ノ事
船舶検査ノ事タル海上保険ノ業務ニ於テ欠クヘカラサルモノナルヲ以テ八月六日船舶検査ノ儀ヲ駅逓局ヘ請願シ、同八日ニ其許可ヲ得タルニ付、其翌九日社員二名駅逓局御雇英人ブラオン氏ニ伴ヒ、品川沖ヘ出張シ、当時碇泊ノ汽船東海丸、高砂丸、玄武丸、全済丸、風帆船桜
- 第7巻 p.616 -ページ画像
島丸、立田丸ノ六艘ノ検査ヲ受ク
此検査ヲ初メトシテ当一季間ニ検査ヲ受ケタル船数ハ汽船廿五艘、風帆船五拾弐艘ニシテ其内保険スルコトヲ得ルモノ汽船弐拾参艘、風帆船拾八艘ナリ、即チ検査シタル汽船ノ中ニテ航海ニ適当ナルモノハ百分ノ九十二ニ当リ、風帆船中航海ニ適当ナルモノハ僅ニ百分ノ三十四ニ過ギス、而シテ此航海不適当ノ風帆船中ニハ我国ノ構造ニアラザルモノ漸クハ艘ニ超ヘズト雖トモ、反テ航海適当ノ風帆船中ニハ我国ノ構造ニ係ルモノ僅ニ三艘ノミナリ、以テ我国構造ノ船舶ハ脆弱ニシテ航海ニ適当ナルモノ少キヲ知ルベシ、是皆造船ヲ注文スル者眼前出費ノ小ナルヲ愛シ、永遠ノ利ヲ図ラザルニ由ル、然レトモ又他ノ一方ヨリ之ヲ看レハ我国人ハ船舶ノ堅牢ナルト否トヲ判定シ、噸数船積等ヲ測量スルノ道ヲ知ラス、故ニ出費ノ小ナルヲノミ愛スルモ亦宜ナリ、今ヤ政府ニ於テ広ク船舶ノ検査ノ途ヲ開カレ人民ヲシテ其構造ノ善悪ヲ十分ニ知ラシムルニ於テハ、必スヤ巨額ノ財ヲ吝マズシテ堅牢ナル船舶ヲ注文スル者日ヲ追フテ多キニ至ルベシ
本店及各代理店営業景況ノ事
本店
八月一日開業ノ御届ヲ東京府及区役所ヘ出シ諸新聞紙ヲ以テ之ヲ広告ス
当日東京及ビ横浜ノ株主ヲ招キ開業ノ祝酒ヲ呈ス○中略
同月六日書面ヲ以テ各省使各局ヘ海上運送ノ御用物保険仰付ラレタキ儀ヲ出願ス
同月十九日向島八百松楼ニ懇親会ヲ開キ、当社ノ営業ニ関係アル内外ノ紳士ヲ招待ス
同月三十日保険取扱手続書ヲ作リ、東京及ビ各地ノ商店ヘ配附ス
九月四日各船主ノ便ヲ謀リ、何人ニ限ラス船舶ノ検査ヲ受ケンコトヲ欲スル者ハ当会社ヘ申込ニ於テハ、当社ハ其趣ヲ駅逓局ヘ出願シ検査ヲ受ケ証状ヲ得ル迄万端無手数料ニテ取扱フベキ事ヲ広告ス○中略
十二月十三日是迄外国人ノ貨物ハ一切保険セザル処、以来ハ我国人所有ノ船舶ニ積載スル外国人ノ貨物ハ全損ニ限リ保険スルコトヲ得ルニ改定ス○下略
保険料ノ事
保険料ハ船舶ノ種類船長ノ巧拙航路ノ長短時候ノ善悪等ニ拠テ定ムルモノナレバ到底一様ノ規則ヲ以テ定メ難シトス、故ニ各地共ニ其割合固ヨリ差異ナキ能ハス
八月一日ヨリ十二月三十一日マテ本店及ヒ各代理店ニ於テ収入シタル保険料及ビ保険金額合計左ノ如シ
月 件数 保険金額 保険料 平均割合
円 銭 円 銭 銭
八月 十件 四五、六〇〇・五〇〇 一七三・九五〇 三八・一
九月 六十五件 二四八、四四七・八〇〇 一、〇三〇・三三一 四一・五
十月 二百廿三件 五八四、八五九・七六〇 二、一〇〇・九七三 三五・九
十一月 三百六十五件 八三八、四一五・三八四 二、七七〇・七七三 三三
十二月 二百七十九件 一、二八三・八九四・一九三 三、七〇〇・八六七 二八・七
合計 八百四十二件 三、〇〇一、二一七・六三七 九、七七六・九〇四 三二・六
保険料割戻ノ事
- 第7巻 p.617 -ページ画像
此一季間当会社ハ倖ニシテ危険ヲ免レ一回モ損失ヲ蒙ラズト雖モ当季ハ会社創立ニ係ルヲ以テ入費ノ多キ平常ノ比ニアラス、故ニ当季ハ株主ヘ保険割戻ノ割合ヲ壱割ト定ム
資産責任ノ事
資産ノ部
一金四拾四万九千九百四拾七円 金禄公債額面五拾八万三千円
一金拾三万円 第一銀行ヘ約定預
一金四千三百〇九円三拾五銭四厘 家屋
一金七百四拾三円三拾四銭七厘 家財
一金弐千四百四拾四円拾九銭七厘 創業入費
一金七千〇拾四円四拾五銭七厘 各代理店ヘ貸越高
一金八百六拾壱円八拾七銭五厘 手元有金
一金弐万五千九百三拾壱円四拾壱銭八厘 第一銀行当座預
合計金六拾弐万千弐百五拾壱円六拾四銭八厘
責任ノ部
一金六拾万円 資本金
一金弐万千弐百五拾壱円六拾四銭八厘 純益金
合計金六拾弐万千弐百五拾壱円六拾四銭八厘
損益之事
益之部
一金九千七百七拾六円九銭四厘 本社及各代理店収入保険料
一金壱万千八百廿円 公債証書利子
一金三千三百八拾六円三拾八銭六厘 諸預金利子
一金七拾円五拾銭 蔵敷料
合計金弐万五千〇五拾三円七拾九銭
損之部
一金七百七拾六円五拾三銭弐厘 諸雑費
一金千五百〇弐円 月給
一金弐拾九円六拾九銭九厘 電報料
一金九円九拾壱銭四厘 印税
一金四拾壱円九拾五銭 地代
一金拾三円廿四銭 広告料
一金三百円 臨時費 米国前大統領グランド氏接待費トシテ同委員ヘ差出ス
一金四拾九円五拾五銭 交際費
一金拾八円 手数料 但シ公債買附ノ為メ
一金四拾九円五拾七銭五厘 周旋料
一金三百八拾壱円八拾七銭九厘 代理店手数料
一金四百〇弐円九拾九銭五厘 株主保険割戻シ金
一金弐百廿六円八拾銭八厘 家屋減価
一金弐万千弐百五拾壱円六拾四銭八厘 純益金
合計金弐万五千〇五拾三円七拾九銭
○中略
純益金決算左ノ如シ
一金四百七円三拾六銭五厘 創業費戻入金
- 第7巻 p.618 -ページ画像
一金千百拾三円四拾七銭九厘 賞与金
一金四千四百五拾三円九拾壱銭八厘 積立金
一金壱万五千円 配当金 壱株ニ付金弐円五拾銭
一金弐百七拾六円八拾八銭六厘 後季繰越金
合計金弐万千弐百五拾壱円六拾四銭八厘
明治十二年八月一日ヨリ十二月三十一日ニ至ル第壱季報告状右之通リ相違無之候也
明治十三年二月十三日
支配人 益田克徳
同 井上高格
同 寺西成器
同 二橋元長
同 柏村信
取締役 伊達宗城
株主
御中
〔参考〕東京日日新聞 第二二九五号〔明治一二年七月三一日〕 海上保険会社広告（DK070078k-0006）
第7巻 p.618 ページ画像
東京日日新聞 第二二九五号〔明治一二年七月三一日〕
海上保険会社広告
今般官許を蒙り八月一日より海上保険の商業相営候に付物品御運送被成候御方は多少に拘はらす其保険御申附被下度候但保険料の割合及其他詳細の事は本社へ御問合被下候はは直に御答可申候
一資本金 六十万円
一責任 有限即ち資本金及ひ非常予備金のある限りは負債を弁償す
一本社 東京日本橋区南茅場町二十三番地
明治十二年七月三十一日
東京海上保険会社
頭取 蜂須賀茂韶
取締役 伊達宗城
二橋元長
柏村信
寺西成器
○頭取蜂須賀茂韶ハ明治一二年九月二〇日外務省御用掛拝命ノタメ辞職、伊達宗城頭取トナリソノ補欠トシテ井上高格取締役ニ選ハル。
〔参考〕東京経済雑誌 第九号・第三〇八―三一一頁〔明治一二年八月三〇日〕 択善会第廿五回録事○明治一二年八月一八日開催（DK070078k-0007）
第7巻 p.618-620 ページ画像
東京経済雑誌 第九号・第三〇八―三一一頁〔明治一二年八月三〇日〕
○択善会第廿五回録事○明治一二年八月一八日開催
○中略
第五次渋沢君ハ本日出席セシ海上保険会社ノ役員益田克徳君ヲ紹介シ同氏ヨリ本会ノ諸氏ニ該社創立ノ旨ヲ陳述センコトヲ乞フ、乃チ其陳述ノ大略ニ云此保険会社ハ其方法経画トモニ大ニ渋沢君ノ尽力セラルル所ニシテ将来トモニ深ク同氏ニ信依スル所ナリ、蓋同氏カ保険ノ事業ヲ倡シハ今日ニアラスシテ此ノ業ノナカルヘカラサルヲ痛論スルコト日アリ、而シテ這回同氏ハ旧鉄道組合ノ原資四十万円余ヲ以テ本社
- 第7巻 p.619 -ページ画像
ヲ創立センコトヲ慫慂セリ、是ヨリ先キ三菱会社モ亦此業ヲ一手ニ開設スルノ目的アリシヲ以テ同氏ハ又之ヲ説キ、旧鉄道ノ資本ト三菱会社ノ一分資本ヲ合併ノ議ニ決シ、又他ノ商人ニ説テ数名加入シ共計六十万円ノ資本ニテ本社ヲ設立スルニ至リ、衆議ヲ以テ役員ヲ撰定シ本月一日ヨリ実地営業ニ従事セリ、抑保険ノ業ハ商業上欠クヘカラサル一大要務タリ、彼ノ英米ノ如キ富強ナルハ実ニ商業貿易ノ盛ンナルニ由レリ、商業貿易ノ盛ンナルハ航海運輸ノ盛ンナルニ由レリ、而シテ航海ニ於ル覆没アリ火災アリ衝突アリ敵国ノ掠奪アリ海賊アリ、其危険決シテ免カルモノニアラサレハ此危険ノ念除カザル間ハ世ノ財主ハ安ンシテ其資本ヲ航海貿易ニ放下スルニ至ラザルヘシ、英米ノ商業ニシテ全日ノ隆運ヲ見ル所以ノモノハ偏ニ此危険ヲ除クノ術行ハルヽカ為ニ資本ト労力トヲシテ十分ニ此商業ニ現ハサシメタルニ因ルナリ」斯ク海上ノ危険ヲ担保スト云フトキハ如何ニモ奇怪千万ナル商社ノ如ク思ハルベシト雖トモ、深ク其性質ヲ考フレバ決シテ怪ムニ足ラズ、蓋シ海上保険会社ト雖トモ決シテ沈没破損ノ数ヲ減スルノ力ナシ、唯タ其蒙ル所ノ損害ヲ衆庶ノ頭上ニ分担セシメテ其災ヲ薄クスルモノナリ、譬ヘバ日本海ヲ往来スル船舶ノ総価格一千万円ニシテ其内年々平均一万円ノ沈没アリトセバ、海上保険会社ハ其危険ヲ定メテ千分ノ一ト為ス、而シテ其請負フ所ノ船価ノ千分ノ一ト別ニ会社ヲ維持スルノ手数料トヲ要求スルコトナリ、故ニ請負フ所ノ船舶ノ価格百万円ナレバ必ス一千円ノ保険料アリテ常ニ其沈没ヲ償フニ足ルノ資金アルコトナリ、此道理アルヲ以テ保険ノ商業ハ太タ確実ニシテ更ニ奇怪ナル所ナク又危険ナル所ナシ、而シテ此業実ニ銀行ニ大関係アリ、蓋シ銀行ノ如キハ世人ノ信用ヲ得ルヲ勉ムルニ付キ其資本ヲ用フル所常ニ確実ナラザルベカラザルハ諸君ノ明知セラルヽ所ナリ、然レトモ彼ノ荷為替ノ如キハ如何ナルモノゾ、諸君ノ之ニ向テ貨幣ヲ許サルヽハ畢竟其人ニ信用ナクシテ貨物ヲ抵当ニセラルヽノ意ナラン、而シテ其荷物ハ如何ナル船舶ニ積込マルヽカ諸君能ク船舶ノ堅牢脆弱ヲ識別セラルヽカ諸君能ク船将ノ巧拙ヲ熟知セラルヽカ、若シ一朝覆没ノ災アラバ頼ム所ノ貨物ハ復タ頼ム能ハズシテ、而シテ残ス所ハ唯タ信用ナキ名宛人ト振出人トノミ諸君ノ保険ナキ荷為替ヲ許ルサルヽハ豈ニ危険ノ業ニアラズヤ、又逆為替割引ノ類ト雖トモ畢竟名宛人ノ之ヲ払フヲ諾スル所以ノモノハ、其貨物ヲ受取ルニ源因スルモノナレバ其保険ナキモノハ容易ニ信スベカラザルベシ、故ニ商売銀行及ビ保険会社ハ自ラ鼎立シ相待テ初メテ確実ナルモノナリ、切ニ望ム諸君ノ深ク之ニ注意セラレンコトヲ」現今保険ノ商社外人ノ営ムモノナキニアラズ、然レトモ其約定書皆洋語ヲ用ヒ容易ニ瞭解スベキニアラズ、弊社ノ如キハ勉メテ平易ノ語ヲ用ヒテ証書ヲ作リ簡便ト下直トヲ旨トシテ荷主ノ御便益ヲ計レリ、且ツ難破沈没等ノ事アルニ当リテ、往々故障ヲ申立テヽ其損害ヲ償ハザルモノアリト雖トモ、弊社ニ於テハ一切此ノ如キ事ナシ、但シ事ノ将来ノ約定ニ関スルモノニ至リテハ自ラ適用ノ科語アルヲ以テ勢之ヲ用ヒザルヲ得ズ、サレバ若シ御不審ノ廉アラバ弊社其弁明ヲ為スヲ懈ラザルベシ切ニ望ム諸君ノ親懇ヲ弊社ニ辱フセラレンコトヲ」果シテ然ラバ日本ノ航海是ヨリ危険ヲ除キテ其商業大ニ面目ヲ
- 第7巻 p.620 -ページ画像
改ムルニ至ランコト更ニ疑ヲ容レザルナリ
〔参考〕東京経済雑誌 第一三号・第四四五―四四八頁〔明治一二年一〇月三〇日〕 択善会第廿六回録事○明治一二年一〇月一三日開催（DK070078k-0008）
第7巻 p.620 ページ画像
東京経済雑誌 第一三号・第四四五―四四八頁〔明治一二年一〇月三〇日〕
○択善会第廿六回録事○明治一二年一〇月一三日開催
○中略
第六次渋沢君演説シテ曰ク、海上保険ノ事業ヲ拡充シテ自他ノ営業ヲ安全ナラシムルハ今日ノ急要且此同業上ニ在テ宜ク注意スヘキ者ナリ而シテ其実効ヲ求ムルヤ凡ソ荷為替ノ請求ヲ得レハ務メテ保険ニ従ハシメ、且荷為替ノ打歩ニ差等ヲ設ケ而シテ若シ情実ニ因リ保険ニ依ラサル者ハ其打歩ヲ収ムルニ高キヲ以テシ保険ニ依ル者ハ低キヲ以テシテ之ヲ誘導スルヲ要ス、現ニ敝行ノ如キハ此方法ニ従テ漸次主顧ヲシテ保険ニ依ラシム、願クハ諸君共ニ力成シテ自他ノ営業ヲ堅固ニセンコトヲト、安田善次郎君・原六郎君・辻金五郎君等各実験ヲ以テ其効益ヲ述ヘ大ニ此説ヲ賛成セリ、右議事演説畢テ会散ス時ニ九時下
〔参考〕東京経済新報[東海経済新報] 第六号〔明治一三年一〇月一五日〕 【左の一篇は去る九月廿七日…】（DK070078k-0009）
第7巻 p.620-621 ページ画像
東京経済新報[東海経済新報] 第六号〔明治一三年一〇月一五日〕
左の一篇は去る九月廿七日夕、横浜富貴楼に於て保険会社取締柏村信、二橋元長、支配人益田克徳の三氏に代りて三井物産会社元締兼横浜支店長鳥越恭平氏《（馬越恭平）》が同港の諸商を饗応し、席上演説されし趣意なりとて聞きし儘此に録す
今日当楼に於て諸君の抂駕を煩はしたる趣意は、予て案内書に詳記致すべきの所却て冗長に亘り諸君の為に貴重の時間を妨げんことを恐れ故と其理由を述べざりし故或は御不審の方も有るべし、依て本港代理店主任人なる拙者が本店取締及支配人に代り玆に数語を演じて諸君の清耳を仮らん
抑も維新以来商業の道、日に月に進歩し海に汽船の便あり陸に汽車、郵便、伝信の利有て此道の助けをなす尠からずと雖も、独り貴重の貨物を運搬するに方り最も要用なる海上保険の制無きを憂ひ、華族諸君と民間二三の有志者と相謀り、昨十二年秋を以て此社を創立し三府五港を始めとし、苟も汽船風船の泊するを得る所皆代理店を置て以て保険の事を理せしむ、本港は即ち不束なる弊社其委托を受ると雖も元と経験なき事業なれば偏へに其任に堪へざるを懼れ、因て顧ふに諸君は我邦商業社会に於て実際に錬熟せらるゝ既に久し、本社の永続及隆昌は実に諸君の愛顧を得て始めて期する得べし、又諸君は幾多の苦辛を忍んで斯る財産を蓄積せらるゝも、若し海路覆没の憂ひを防ぐ可き道無《（く）》んば一旦不測の禍あらんも実に是れ量り難し、今此両者の便利を謀るは本港代理店の義務なりと、是を以て前に本港の商紳小野光景、木村利右衛門、中村惣兵衛の三氏に就て此事情を吐露せしに三氏直ちに之を領承して即日同業の諸名を誘導せられ、諸氏の中復た一人の不同意無く務めて我代理店の為に図られ、就中二三の銀行に於ては保険なき貨物は為替の取扱ひを為さず、三菱商会にては保険ある貨物は更に特別の注意を加ふる等、間接の保護至らざるは無く遂に本年一月より六月まで本港保険料六千八百有余円を得るに至れり、此事早く大阪、名古屋、函館新潟の諸港に伝播し今日に至つては適ま適ま保険を附せ
- 第7巻 p.621 -ページ画像
ざる貨物を扱ふは商賈の恥づる所と為れりと云ふ、則ち本年七月第二期の会計は初め創立の際見込みたる所に超へ、実に意外の盛昌を来たせしも職として諸君が率先保護の功に由らざるは無し、好意謝する所を知らず是いさゝか玆に此宴を開き諸君の臨席を乞ひし趣意なり、請ふ鄙蕪の饗膳に対して為に歓を尽くされんことを
〔参考〕（第一国立銀行） 半委実際考課状 [（第一国立銀行） 半季実際考課状] 第一二回〔明治一二年七月〕（DK070078k-0010）
第7巻 p.621 ページ画像
（第一国立銀行） 半委実際考課状[半季実際考課状] 第一二回〔明治一二年七月〕
一海上保険ノ事業ハ今日ノ急務トナシ、而シテ未タ之ヲ本邦ニ開設セサル者ナレハ、当銀行ハ明治十年五月ニ於テ之カ方法ヲ略定シテ其端緒ヲ挙行セリ、而シテ本年有志者連合シテ海上保険会社ヲ東京ニ創立スルノ挙アルニ至ル、因テ当行ハ該社ノ開業ヲ待ツテ受合ノ業ヲ廃停スヘキ筈ナリ、而シテ其創立ヨリ本年迄ノ取扱ニ於テ聊モ危険ニ係リ損失ナキヲ以テ、其収入シタル所ノ受合料ハ右廃止ノ日ヲ待テ利益金ニ加フルヲ得ヘシ
〔参考〕（第一国立銀行） 半季実際考課状 第一三回〔明治一三年一月〕（DK070078k-0011）
第7巻 p.621 ページ画像
（第一国立銀行） 半季実際考課状 第一三回〔明治一三年一月〕
一海上受合営業ノ始末ハ前回報道スル所載セテ考課状ニ在リ、後其会社ヲ東京ニ創立スルニ因リ当銀行ハ本年八月限リ同営業ヲ廃停シ、之ヲ大蔵省ニ上申シ、並ニ諸新聞紙ニ於テ報告セリ、而シテ前季マテ積立ツル所ノ該営業利益金三千弐百拾七円四拾三銭三厘、及ヒ当季ノ利益三百五拾四円六拾六銭共計三千五百七拾弐円九銭八厘ハ当季ノ利益ニ編入セリ
〔参考〕東京日日新聞 第二三〇九号〔明治一二年八月一六日〕 【今般海上保険会社創立…】（DK070078k-0012）
第7巻 p.621 ページ画像
東京日日新聞 第二三〇九号〔明治一二年八月一六日〕
今般海上保険会社創立相成候に付ては、明治十年五月中広告せし当銀行荷為替物品海上受合の事務は本期限り廃停致し候間、向後荷為替物品へ保険のことは右海上保険会社へ御来議有之度候、此段公告致し候也
明治十二年八月
東京第一国立銀行
〔参考〕中外物価新報 第一六四号〔明治一二年一月二五日〕 聞保険会社設立（DK070078k-0013）
第7巻 p.621-623 ページ画像
中外物価新報 第一六四号〔明治一二年一月二五日〕
聞保険会社設立
吾輩ハ去る明治十年八月中我が新報第三十七八号を以海上受合の商売上緊要なることを論述し、之れが創立を企望せしと雖も、其事の重大にして莫大の資本を要すると、内地商人の保険に馴れざるより之に依頼するもの即ち、得意の少きとを以て仮令遽かに之を創立するも、得失相ひ償ふに至る迄ハ余程の年月を経過せざれバ能ハざるゆへ、其間維持耐忍するの有力者にあらざるよりハ容易に為す能ハざるを憂慮せしが、近日聞く所に拠れバ嘗て華族が横浜東京間の鉄道を払下げんと年賦を以政府へ差出し金五十万円程有しを転用し、是に尚集合金十万円程を合し六十万円の資本金として保険会社創立の事を出願せしに、未だ免許状下付の順序に至らざれ共其願旨許容ありしと主管の局にてハ現に欧米に行ハるゝ法を斟酌して方今専ら条例を調査中の由、是れ
- 第7巻 p.622 -ページ画像
商売上の一大美挙にして我輩商賈の慶賀して措く能ハざる所なり、然り而して此起業者ハ前に陳する如く内地の商人の未だ事に馴れざるを以て当分ハ依頼するもの甚だ少く、巨大の資本に対し、不引合なること等ハ固より算測中に在るべく、敢て吾輩の喋々を要せずと雖も吾輩の業起者諸君に望む所ハ未だ保険の何物たるを知らざる商人を得意為すべき事業なれバ、務めて之を慫慂し其信用を得其便利を知らしむべし、之を知らしむるの途敢て難きに非ず、第一に保険料の割合に在り今横浜に在る保険会社にても十を以て数ふべし、若し是等の会社より高価なるときハ決して慫慂する所以にあらず、仮令最下に出さるも必ず同等の割合に止るべし、第二ハ可及的其規則を簡単にして万一災害あるに当らバ公平に之が弁償を為し、保険の利益あることを商人に実試せしむるにあり、欧米無数の保険会社を観るに其規則を詳密にして其を証書の裏面に印刷し、遭害の際言を巧みしにて其詳密なる規則に牽強附会し、弁償を拒み不得止裁判を仰くに至れバ或ハ控訴上告等に手間取、結局弁償を取り得るも其間数月若しくハ数年を経過し、代言代書其他の諸雑費を計算して終に得失不相償に至るもの往々ありて為めに信用を失ふに至る、是れ畢竟一時の損失を恐れて全体の利得む失ふものにして当任者ハ大に注意せざるべからざる処なり、若し創立の会社にして最初より是等の所為に倣ひ、法律規則に暗らき商人を敵手として事あるの際言を左右にし、其時々弁償を免れんと欲せバ以往に於て此事業は繁昌ならしむるの希望を自棄するものと云ふべし
又吾輩商人ハ従前保険等の事に慣れざるを以て敢て其効用を知るもの少く、時に保険を附せさるを得さることあれバ其費用を無益視して可成之を避んとするの情あり、畢竟従前商賈の経営する所を観るに十万円の身代にして一万円の商事を営み、一万円の身代の者ハ一二千円の売買を為すを以て或ハ不時の災書に遭ふも一時に身代を滅却する迄に至らず、唯一部分の損失に止りしと雖も、方今の商賈ハ復た昔日の営業に異なり、一万円の身代なれバ十万円の商事を営み十万円の身代なれバ百万円の駈引を為さゝるべからず、現に追々之れを為すものあり、是れ固より物産の有無を交換する商賈の為すべき事にして決して投機冒険者流を云ふにあらず、爰に商人あり年々業務に励精して一万円の利益を得て十年の星霜を経て十万円の身代と成る、此十年の勤労ハ如何なるものぞ、苟くも親しく商業に従事せしものハ我身に当て考察するも其容易ならざるを知らん、実に造次顛沛も忘する能ハざるなり、然るに此人にして確乎たる目的あつて一の大商事を行ひ、十万の身代を抛て隔地に就て巨多の物産を買収し、之を市場に運漕するに当り、万一非常の災害に遭遇し、其荷物をして海底の藻屑となさバ一敗地に塗れ復た起つべからざるに至るや必せり、是れ不開化国に豪商なき由縁にして我が国の従前豪商乏しきも亦職として之に由る、若し夫れ数十年の労苦を以て蓄積せし身代を一朝遭災の為め無何有に属するもの之を往時に徴するに決して少小にあらざるなり、今や此会社の創立に遇ハんとす、人々予め保険会社をして保険を為さしめバ其利ハ果して如何ぞや、吾輩の弁明を得て後ちに知らざるなり
畢竟従前の所為ハ僥倖を頼みしものにして決して確実なる商売と云ふ
- 第7巻 p.623 -ページ画像
べきものに非らざるなり、若し此僥倖に依頼するの念慮をして将来益益繁劇に向ふ商売に置くハ、寧ろ座して空相場に輸贏を決するの労なきに如かざるなり、且保険料の如きハ事なきときを以て考ふれバ余分の費用に似たりと雖も商人たるもの物産を運搬するに其価に幾許の差あるやを算せざるものハあらざるなり、当初より保険料を運賃諸掛りと共に計算し、物品の買収を為さバ決して格外に費用を増すと云ふべからず、保険会社なきハ実に不得止と雖も今や創立の時運に会し、旧来の陋習を脱却し、毫も僥倖の念慮を起さず確実の途を践んて一敗塗地の惨境に陥るなからんことを冀望す
又銀行者ハ今より安全に物産の資本を流通し得るを以て、嘗て我輩が屡々過言を呈せし公債証書を買収し、袖手して二重の利子を羅みし、一割四五分の利益配当ありと揚々然たる陋風を抛ち、荷為換及割引手形等を主業として専ら其資本を物産と相待て流通活動せざるべからず、而して従前之条例中にハ荷為換貸金ハ保険を付けざる物に対し為すべからずとの禁なきハ保険社の未だ立ざる故なりと信ず、今若し此会社の設立あらバ必ず我大蔵卿ハ其条例を改正し、荷為換抵当の物品ハ必ず保険を発せざるべからずとせん、如何となれバ銀行者ハ最も確実なる業務に従事し、保険もなき物産に資本を使用する等の危険なることに従事すべきに非れバなり
今や保険会社の創立近きにあるを聞き歓んで措く能ハず、聊か世人を喚起せんと欲し、僣越を顧みず玆に卑言を陳述して以て読者の一粲を博すと云爾
〔参考〕横浜毎日新聞 第二四九九号 〔明治一二年四月四日〕 海上保険会社の創立（DK070078k-0014）
第7巻 p.623 ページ画像
横浜毎日新聞 第二四九九号〔明治一二年四月四日〕
海上保険会社の創立
九条道孝君外二十四名より差出したる海上保険会社設立の願書は、余儕之を前号の紙上に掲載したれは読者は定めし一読せらるへしと信するなり、抑々も海上保険の社会に大功益あるは今更論する迄もなしと雖も、我国に於ては実に創始の新事業なれは余儕左に該会社創立の趣意書を掲載し、読者に向て其果して社会に大効益ある可きを示さんと欲す
○以下創立趣意書ノ掲載アレドモ之ハ創立要旨ト同文ナルヲ以テ省略ス。
右の趣旨書に因りて海上保難の社会に大効益あるを知るへしと雖も、論者或は之を非難して曰く、海上の危険は古今一なり、縦令保険会社あるも其危難は免る可からすと、勿論保険会社あるも海上の危難は免る可からさる者なり、然れとも其危難を単負すると其危難を共負すると孰れか人民に利あるや、世に保険会社の設けあるは其危難を共負せんか為めなり、論者又曰く、保険会社の設けあるは自然物価を騰貴するの道なり、何となれは舶載の物品皆な保険料を負へはなりと、固より然り、然とも保険会社の設立なき前日も亦舶載の物品上自ら非常損害の弁償を負へるを知らさるか、且つ縦令保険料の為め多少物価を騰貴するも亦之か為めに海路の運輸を盛にし、一般の商業を励まさは則ち其得失果して如何そや、故に余儕は該会社の創立に先て其社会に大効益あるを保証し、併せて発起者諸君か能く社会の公利を謀るに鋭勇なるを称賛せすんはあらさるなり
- 第7巻 p.624 -ページ画像
〔参考〕郵便報知新聞 第一八五二号 〔明治一二年四月五日〕 海上保険（DK070078k-0015）
第7巻 p.624-625 ページ画像
郵便報知新聞 第一八五二号〔明治一二年四月五日〕
海上保険
保険事業ノ今日ニ必要ニシテ且便益アルハ余輩ノ疑ヲ容レサル所ナリ、然レトモ保険ノ事業ハ先ツ統計精表ニ基テ其考案ヲ定メ、以テ実際施行ヲ計ラサル可カラス、而ルニ我国ノ如キハ統計ノ学僅カニ今日ニ萌芽シタルノミニシテ未タ以テ事業ノ定規ヲ立ルノ標準トスルヲ得サルナリ、故ニ火災及ヒ人命ノ保険ノ如キハ、其事業ヲ興スノ甚タ困難ナルヲ信スルナリ、然レトモ海上保険ノ如キハ之ヲ彼ノ二者ニ較スレハ決シテ難シトセサルナリ、且夫レ方今海運ノ業大ニ進ミ、全国ヲ挙ケテ保険ヲ要スルノ船舶幾百艘ナルヲ知ル可ラサルナリ、加之我国ノ地勢タル固ヨリ海運ヲ以テ利ヲ営マサルヲ得サレハ、海上ニ関スルノ事業ハ早晩隆盛ニ赴カサル可カラス、是レ余輩カ今日ニ当リ海上保険ノ会社ヲ我国ニ創起センコトヲ跋望スル所以ナリ
然リ而シテ方今日本ノ財産家ヲ以テ称セラレタル華族諸君ハ、向キニ鉄道御払下ノ儀ヲ政府ニ願請シテ許可ヲ受ケ、条約已ニ成リテ之ヲ履行スルノ不便ヲ生シ、更ラニ解約スルヲ得タルヲ以テ、従来上納セル金額ヲ以テ海上保険ノ事業ヲ起サンコトヲ企テ、昨年十二月官許ヲ得テヨリ漸ク将サニ開業ノ緒ニ就カントセルニ至レリト聞ク、余輩ハ今コノ貴重ナル事業ヲ興起セントスルニ際シ、聊カ聞知スル所ノモノヲ記シテ以テ創立者ノ便益ヲ謀ル篤志ヲ示シ、併セテ海外諸邦ニ於テ海上保険ノ形勢如何ナルカヲ開陳シ、以テ我国今日此業ニ従事セントスルモノ之ヲシテ盛大ノ域ニ至ラシメンコトヲ今ヨリ企図セント欲スルモノナリ
余輩ノ聞ク所ニ拠レハ明治十年西南戦争ノ役ニ際シ、三菱会社ニ於テハ従来所有ノ船舶ニ加ヘテ数艘ノ汽船ヲ購求シ、益々海運ノ事業ヲ盛大ナラシメンコトヲ企図シ、爾来海上保険ノ極メテ切要ナルヲ以テ同会社自ラ奮ツテ此業ヲ創起センコトヲ企テ、其考案略定マリシ時ニ当リ、有名ナル渋沢栄一君ノ周旋ニヨツテ華族諸君カ鉄道購求ノ為メニ上納セル金額ヲ以テ此業ニ転用シテ之ヲ興起セント企テタリキ、於是渋沢氏ハ三菱会社ニ謀リ、同業ノ会社並立シテ各其事ニ従ハヾ今将サニ興起セントスル草創事業ノ盛大ヲ期シ難シ、必スヤ両社共ニ損害ヲ担フニ止ラント、因テ華族諸君ト協合シテ共ニ一社ヲ創立スルヲ商議シ熟談ノ上共同事ニ従フニ決シ、資本金六十万円トシ一株ヲ百円ト定メ、三菱会社ヨリ十五万円、華族諸君ヨリ四十二万円余ヲ出タシ、残リ二万円余ヲ募集スルニ付キ、其株主ハ内国諸港ニテ海上ノ事ニ関係アル諸豪商ノ中ニ求ムル方案ナリト
余輩ノ聞ク所ニシテ甚タシキ誤謬ナクンハ此事業ハ海上保険条例ノ実行ト共ニ直チニ世ノ便益ヲナスニ至ルヘキヲ信スルナリ、抑モ官有ノ鉄道ヲシテ私人所有ニ帰セシムルハ余輩ノ希図スル所ナリト雖モ其資本ノ巨大ナル華族諸君カ之レヲ買収スルノ不便ヲ感スルニ至リテハ亦已ムヲ得サルコトナリ、然ルニ已ニ上納セル金額ヲ取リテ再ヒ之ヲ庫中ニ納ルコトヲセス世益ヲ進ムルノ一事業ニ寄附スルハ其起業ノ志ニ篤キヲ覩ルニ足レリ、蓋シ保険ノ一事業ハ華族諸君ヲシテ其創立ヲ謀
- 第7巻 p.625 -ページ画像
ラサラシメサルモ業既ニ三菱商社ノ之レガ起業ヲ企ルアレハ孰レニシテモ其創立ヲ見ルヲ誤ラザリシニ、今ヤ三菱商社及ビ海上ニ関係アル諸豪商ト共ニ華族諸君ヲ合シテ以テ一事業ヲ創立スルニ逢フ、其世人ノ信憑ヲ欠カズシテ隆盛ノ域ニ進ムヤ期シテ俟ツベキナリ、然レドモ此事業ヨリシテ巨利ヲ占メント欲スルノ念ヲ今日ニ生スルアラバ恐ラクハ過誤ナランガ三菱商社ノ如キハ其ノ商業ノ性質ヨリ特ニ巨利ヲ占メント欲スルノ思念ナカル可シト雖モ、他ノ株主ニアリテハ或ハ外ニ巨利ヲ占ムベキノ業アリテ而シテ事ニコヽニ従ヒシ後、其所得ノ少ナキヲ恨ミ他ノ巨益アル事業ニ比例シテ一時ニ利ヲ此ニ占メント欲スルガ如キアラバ決シテ得策ニアラザルベシ
〔参考〕中外物価新報 第二一九号〔明治一二年八月六日〕 海上保険会社の開設（DK070078k-0016）
第7巻 p.625-626 ページ画像
中外物価新報 第二一九号〔明治一二年八月六日〕
海上保険会社の開設
東京海上保険会社ハ実に明治十二年八月一日に於て開業せり、吾輩ハ嘗て屡々此保険会社の吾輩商賈社会になかる可からざることを論弁せしが、今や果して時運に際会し此開業を目前に見るの幸福を得、吾輩の冀望も或ハ社会気運の肯綮に中りしかを喜ひ、該社保険取扱の大要を報道し、再たび保険の忽かせにすべからざるを縷陳して未だ保険の何ものたるを知らざる商賈に示し、併て該会社の広く世人の便利に注目し、公衆の信憑を厚ふし、漸次本業の盛昌を冀望し聊か婆心を呈せんと欲す
本社ハ東京日本橋区南茅場町廿三番地にして横浜・四日市・神戸・大坂・高知・下の関・長崎・大島（薩州）境（伯耆）敦賀・伏木・新潟・舟川・青森・箱館・八戸・宮古・石の巻・朝鮮・上海に代理店を置くと云ふ
此会社ハ船舶及ひ航海の大小風帆船及ひ諸滊船に積載する貨物・商品貨幣・地金・等の損害を担保するものにして船舶の保権《（険）》を為すものにあらず、而して其保険を為す可き海上ハ日本海の各埠頭及清国上海釜山浦に止り、□としてハ欧米に送附する貨物又ハ欧米より運輸する貨物の保険を為すことあるべし
保険貨物を積載する船舶の航海に適するや否の不明なるときハ会社ハ検査方を出し、之れを検査して其適否を定む、尤敵船賊船襲撃捕獲強留抑止に係る危険ハ担保せず、又泥土或ハ沙を以て軽荷となす船舶ハ保険せず
保険に二種あり、一ハ普通分損保険にして貨物の全部を損害せざれバ会社其責に任せざるもの一ハ特担分損保険にして貨物の一部分を損害するも会社其損害を弁償するもの是れなり、故に此会社ハ総て市場に売買せさる貨物、及ひ奢侈物の類ハ決して分損を担保せすと云ふ
大阪或ハ新潟の如き不安全なる諸港より運輸し、或ハ送附するときハ端舟（艀下）の危険ハ除く又保険を為すべき貨物ハ内国人の所有に限り外国人の貨物ハ当分引受けずと云ふ
今保険料を記載せんと欲すれども其ケ所数十に渉り、時節によりて高低あり、滊船・風帆の別あり、重量・貨物・商品等の区別ありて一々掲げんにハ本紙全幅を塡塞するも尚ほ足らざるを以て玆に之れを略す
- 第7巻 p.626 -ページ画像
前条に陳述したる東京海上保険会社の規矩を観て世人ハ如何なる感覚を起す歟知らざれども、吾輩よりして之を論すれバ斯る会社の創立ありて始めて吾が国の商業ハ少しく安全の地に進みたりと云ふべきのみ、蓋し海の東西を問ハず何れの国何れの処たりとも商業に関し貨物を東西に運搬するに方りてハ時として海上危険の免る能ハざるハ吾輩の喋々を待ずして世人の明知する所ならん、然して商業の贏利たるや甚だ僅少なるものにして仮令投機冒険の業たるも相ひ倍蓰するが如きことなし、況んや普通正実なる営業に於てをや、故に若し三五十回の航海中一たび此危険の厄に罹りたらんにハ、是れ非常の災運にして翅に数回の利益を水沫に帰するのみならず、或ハ分離散落の惨状をも演出し来ることあれバなり
斯の如くなれバ則ち苟くも商賈の正業を営むものハ必ず此会社に依托して不時の災害を予防せざるべからず、特に共同会社の如き他人の資本を蒐集して之を左右するものに至てハ別けて此保険会社に依托せざるなきを得ず、独り商賈社会のみに止らず政府諸官署の貨物を東西に運搬する地方官庁の収税を中央政府に送致する等も又必ず之れに依らざるべからず、何んなれバ政府の如きハ人民の貢税を扱ふ者なれバ一朝海上の厄災に罹れバ人民の膏血を烏有に帰するのみならず、吾が大蔵卿か算定したる夫の予算上にも変化を起し、或ハ諸官省及び諸府県の定額費にも及ぼす可く、従前此会社なき間ハ不得已と雖ども今此開設を公許する以上ハ政府が其国費の予算をなすに方りてハ此海上保険の費用をも加算して、貢租を始め其他の諸物を運搬するに際せバ常に此保険会社に依托するに至るや吾輩の窃かに信する所なり、若し然らずして従前の如く海上の災害を以て一時の損失と為すに止らしめバ予算の変化ハ姑らく措き政府が人民の膏血を扱ふに粗なりと云ふものあらバ其弁解ハ如何せんや
又共同会社の如きも之れに同じ、然れども人或ハ云ハん、我に数百の船舶ありて今日に至るまで自在に商業を営み、貨物を運搬し、多少の損害ハ蒙りたれども夫ハ只一部分にして全局の損失と云ふにあらず、故に若し事毎に此保険会社に依托する金額を手元に蓄蔵したらんにハ一朝一部分の損失に罹るとも之れを以失敗を補ふに足れバ何ぞ故らに此の保険会社に依托するを要せんやと、是れ或ハ然らん、然れども到底一人一個の論にして、決して共同会社の如き者に相応せざるものなり、蓋し共同会社の如きハ亦政府と同様にして其資本ハ株主なるものありて一も主宰者の私有に非ず、故に其貨物ハ株主の貨物にして其商品ハ株主の商品なり、之れを左右運搬するに方り得失利害を負担する主宰者が十分安全の道に由らずして万一海上の危際に陥らバ能く之をして其任に堪へたるものと云ふべけんや、是れ政府と共同会社の如きハ別けて此保険会社に依托せざるなきを得すと吾輩が断言したる所以なり（以下次号）
〔参考〕東京経済雑誌 第八号〔明治一二年八月一二日〕 海上保険会社の創立（DK070078k-0017）
第7巻 p.626-628 ページ画像
東京経済雑誌 第八号〔明治一二年八月一二日〕
海上保険会社の創立
此度東京海上保険会社と申す一商社創立になりたり、其株高は六拾万
- 第7巻 p.627 -ページ画像
円其責任は有限にして（即ち資本並に非常予備金のみを以て其負担を償却し、其余に負債あるも株主に課せざるもの）蜂須賀茂韶君之が頭取たり、二橋、柏村、勝部、寺西の四君之が取締役たり、益田克徳君之が支配人たり、社則既に立ち順序全く整ひて本月一日を以て開業の式を東京茅場町に行ひ、将に大に我商業に為す所あらんとす、是則ち我東京経済雑誌第二号に於て略ほ其端緒を説きし所の海上の危険を担保するの主意に基くものなり
かゝる商社の今日に創立するは我商家の為に便益を増し、且つ進取の気を鼓舞するの効験なくんばあるべからず、蓋し商賈の利益は航海貿易の業より多きはなく、而して其危険も亦之より大なるはなし、されば我国の如き狭き海上にありながら、其貨物を船積するものは予め其沈没するを期すると聞けり、かゝる決心を為さゞれば此狭き海上の航海貿易を営み難しとせば誠に歎はしき事にあらすや、抑も斯の如き事情あるは一は風波の順ならざると船舶の構造其宜しきを得ざるとに由ると雖も、人智を以て之を救護するの術まだ尽さゞる所なくんばあらず、然るに今や海上保険会社成り其危険を請負ふに至れり、以後海上の商賈を事とするもの復た前日の如き決心を為すを要せざるべし
海上の商業已に危険を減する以上は、商人たるもの其全産を挙げて此等に従事するも決して掛念あることなし、然るときは此商業愈々繁栄して日本の国勢までも大に面目を改むるものあらん、現に欧洲諸国の旺盛なる所以のものは実に航海貿易を勉むるに基くものにして、而して其人民航海貿易に勇敢なる所以のものは保険の事あるが為め万一船舶難破の事あるも自己に関係なしとの安心あればなり、されば日本の人民航海に鋭意にして通商に勇敢なるに赴けば此事業は勉めずして盛昌に至らんこと鏡に掛けて見る如し、又之に反し日本の人民常に外国に依頼して自分航海に従事せざる時は仮令何程勉めたればとて盛昌に至るべからず、然らば則ち此事業の盛衰こそ実に我商家の勇敢怯臆を明示するの指鍼にして、而して亦国家の隆替を徴証するの尺度と称すべきなり、余輩は今より刮目して其景況の如何を見るに勉むべきのみ余輩は現今商業の為す処を目撃するに、此会社の営業未だ我商間の風習に染ますして其隆盛に至る迄には取締役支配人諸君の非常の勉励と耐忍とを要することを思ふなり、何となれば我国従来此事業の行はれさりしが為に、我商家は敢て万一を僥倖して危険を恐れずと云ふにはあらねども、是迄其荷物を廻送する時に於て保険料を払ひし覚もなき処よりして「つい忘れる」と云ふことあらん歟、又「つい忘れ」ずとも深く考へずして余計の散財と思ひ、保険を托せざることあらん歟、呉々も此風習を導くには主宰者は勿論のこと、志しある商賈・銀行等も大に之を補翼せざるべからず、中外物価新報記者の之を論ずる密なり、今其要を挙げんに、曰く、政府並に会社の如きは一は国の公財を司るもの、一は株主の共有金を托さるゝものなれば、義として之に依らざるべからず、何んとなれば政府の如きは人民の貢税を扱ふ者なれば一朝海上に災厄に罹れば人民の膏血を烏有に帰するのみならず吾が大蔵卿が算定したる予算上にも変化を起し、或は官省院使府県の定額にも差響を起すべし、故に其貨物を東西に運搬し地事官庁《（方）》の収税を中
- 第7巻 p.628 -ページ画像
央政府に送致する等にも之を保険すべし、又共同会社の如きも政府と同様にして其資本は株式なるものありて一も主宰者の私有にあらず、故に之を運搬左右するに当り、其利害得失を負担する主宰者が十分安全の道に由らずして万一海上の危険に陥入は能く其任に堪へたるものと云ふべけんや」と、余等此論の今日に至当なるを思ひ政府並に商家の之に注意して、自ら□《（マヽ）》大の利益を計り、直接の損益に迷はさらんことを望まざるを得ず
余等は駅逓局の年報を棒読する毎に海上保険の速かに創立せんことを希望すること久しかりき、該年報によるに
明治九年一月より同十二月まて
蒸気船の難破 弐艘
風帆船の難破 三艘
明治十年一日より同十二月まで
蒸汽船皆破並に破損 六艘
風帆船皆破並に破損 十一艘
此より以後蒸汽船風帆諸船の航海愈々繁きに至れは其破損も従つて多かるへし、其れ此の如く年々破損を免れさる以上は政府並に会社は勿論一個人と雖も自己の安全を計る以上は貨物を海送するに当りて保険を委托せさるべからざるべし、故に余輩は玆に海上保険会社の創立を記し、且つ其利益を述へて世人の注意を促すと云ふ
○東京海上保険会社ハ右ノ如クシテ創立ヲ見タルモ、後、幾クモナク船舶保険ノ緊要ナルヲ認メテ十三年十一月、政府ノ保護ノ下ニ之レガ設立ヲ上申シ、併セテ官ニ於テ舶舶検査所ヲ設置セラレンコトヲ述ベ、共ニ政府ノ容ルル所トナル。次ギニソノ資料ヲ掲グ。
〔参考〕東京海上保険会社ニ於テ船舶保険ノ業ヲ経始スヘキ議（DK070078k-0018）
第7巻 p.628-631 ページ画像
東京海上保険会社ニ於テ船舶保険ノ業ヲ経始スヘキ議
（東京海上火災保険株式会社所蔵）
海上ノ危険ヲ担保シ、其載舶ノ貨物ヲシテ損耗ノ虞ナカラシムルハ現時緊要ノ事業ナルヲ以テ、我儕カ爰ニ東京海上保険会社ヲ創立シ、始メテ其実業ヲ開キシハ実ニ明治十二年八月一日ナリキ
爾来今日ニ至ル迄テ僅々数閲月ニ過キスト云トモ、既ニ其業務ノ繁盛ヲ致シ貨物ノ保険ヲ依頼スル者続々踵ヲ接シ大ニ当初ノ予算ニ超過スルヲ得タリ、是我国ノ商業者ハ其載舶ノ貨物ヲシテ常ニ安全ナラシメントスルノ念慮ニ乏シカラサルヲ徴スルニ足レリ
然リ而シテ其貨物ヲ運搬スルノ船舶ニ於テハ未タ此安全ヲ求ムルノ方法ナク、動モスレハ颶風激浪ノ為メニ一朝巨多ノ資本ヲ蕩尽スルヲ以テ老実ノ商估ハ概ネ其貲財ヲ船舶ニ費スヲ好マス、或ハ之レヲ為スアルモ勉テ其費用ヲ節減スルヲ以テ固ヨリ堅牢ノ船舶ヲ構造スル能ハス、其贏利ハ唯海上ノ虞無キニ僥倖スルニ過キス
前陳スル如ク目今我国ノ船舶ヲ所有スルモノハ多ク其利益ヲ永遠ニ期スルノ鋭志ニ乏シク、唯低廉ノ費途ヲ以テ僅ニ脆弱ノ船舶ヲ構造シ、数回ノ航海ニシテ早ク原費ヲ回収スルヲ勉ムルヲ以テ、仮令其船舶ノ数ハ昔日ニ増加スルモ其堅牢ナルモノニ至テハ決テ増加スルヲ得サルヘシ、且其造船ノ業ニ於ルモ漸ク其精確巧緻ヲ失シテ只目前ノ修飾ニ
- 第7巻 p.629 -ページ画像
止リ、甚シキニ至テハ海運ノ業ヲシテ為メニ其衰頽ヲ来サンモ亦知ル可ラス、豈慨嘆ノ至リニアラスヤ
凡ソ貨物ノ運搬繁盛ニ至ラサレハ物産蕃殖ヲ期スヘカラスシテ、而シテ其運搬ノ繁盛ハ職トシテ船舶ノ堅牢ナルニ由ルモノトセハ、今日ニシテ堅牢船舶ノ増加ヲ謀ルハ実ニ至緊ノ業務ト云ハサルヲ得ス、而シテ此増加ヲ為サシムル業務トハ何ソヤ、海上船舶保険ノ業ヲ起シ、常ニ船舶ヲシテ危険ノ虞ナカラシムルニアルナリ、曾テ聞知スル所ニヨレハ英国ノ海運今日ノ昌盛ニ至リシモ其原因固ヨリ多緒アルヘシト云トモ、多クハ船舶保険ノ業ヲ創起セシニ因ルト、以テ其関係ノ緊切ナルヲ知ルニ足レリ
是ヲ以テ我儕ハ我東京海上保険会社ニ於テ船舶保険ノ業ヲ起シ、貨物ノ保険ト並ヒ行フ事ヲ企望ス、是実ニ海運ノ昌盛ヲ企図スルノミナラスシテ当社ノ規模ヲ宏廓シ、永遠ノ実益ヲ占ムルノ基礎ナリト信スルナリ、然リト云トモ、船舶保険ノ業タル貨物ノ保険ト大ニ其趣ヲ異ニシ、其難易一様ナル能ハス、其保険ヲ為スニ当リテハ為メニ船体撿査ノ方法ヲ整備セサルヘカラス、又其危険ニ遭遇シテ損失ヲ生スル時ハ其金額ヲ査定スルノ適任者ナカルヘカラス、是等要用ノ事項ヲ弁スルノ費途決シテ僅少ナラサルヲ以テ我儕ハ今日此業ノ創起ヲ熱望スルモ其費途ヲシテ自ラ支弁セサル可ラサルモノトセハ、得失ノ相償フ能ハサルヲ知ルヲ以テ其企望ヲ達スルニ躊躇セサルヲ得ス、然ラハ則其企図ヲ廃停センカ、何ヲ以テ海運ヲ昌盛ニシ物産蕃殖ノ源ヲ勉メンヤ、是実ニ此企図ヲ廃停シ能ハサル所以ナリ、是ニ於テ我儕ハ翻案再思シテ此業ヲ創起スルニ必要ノ方法ヲ按シ、之ヲ左項ニ列記シテ以テ株主各位ノ議決ヲ乞フ
第一項 資本金ノ事
一貨物保険ヲ以テ目的トシタル東京海上保険会社ノ資本金六拾万円ハ併セテ小価額ノ船舶ヲ保険スルニ充分ナルヲ以テ現時ハ資本ノ増額ヲ為サス
第二項 保険船舶ノ事
一六拾万円ノ資本ヲ以テ貨物船舶ノ保険ヲ並ヒ行ハントスルニハ、当分其保険船舶一艘ノ価額ハ三万五千円以下ニ限ルヘシ
第三項 船舶撿査ノ事
一船舶ノ撿査ハ海上保険ノ為メニ最大緊要ノ一事ニシテ撿査ノ方法充分ナルニアラサレハ船舶堅牢ノ度ヲ測ル能ハス、船舶堅牢ノ度ヲ測ル能ハサレハ危険ノ度ヲ知ルヲ得ス、保険ノ度ヲ知ラスシテ行フノ保険ハ睹博ノ保険ニシテ世ニ益ヲ為サスシテ却テ害ヲ為スモノナリ船舶構造ノ改良ヲ助ケスシテ却テ之ヲ妨ルモノナリ、故ニ実着ナル保険ノ業ヲ起シ堅牢ナル船舶ヲ増加シ海運ノ隆盛ヲ致スモノハ実ニ船舶撿査ニアリト謂フヘシ、然レトモ船舶撿査ノ事タル一私立会社ノ能ク起スヘキ業ニ非レハ、政府ニ於テ造船所ノ在ル場所毎トニ公正ナル撿査官ヲ置カレ、保険会社ノ請願ニ応シ船舶構造ノ撿査ハ勿論破損ノ模様修繕ノ仕様等ニ至ルマテ無税ニテ撿査スルノ法ヲ設ケラルヽニ非レハ船舶保険ノ業ヲ起スコト決テ能ハサルヘシ、今ヤ政府ハ海運ノ業ニ深ク注目セラルヽノ時ナレハ、人民ノ請願ニ応シテ
- 第7巻 p.630 -ページ画像
必ス船舶撿査ノ業ヲ施行セラレンコトハ我輩ノ深ク信スル処ナリ
第一款 東京及其他政府ノ撿査官出張ノ場所ニ於テ保険ヲ申込船舶アレハ、直チニ之ヲ政府ノ撿査官ニ請願シテ撿査ヲ受ケ其証書ニ従テ保険スヘシ
第二款 保険シタル船舶危険ノ為メ破損スルトキハ直チニ其破損ノ撿査ヲ受ケ、其証書ニ従テ相当ノ修復ヲ加ヘシメ、其修復落成ノ上ハ再ヒ其修復ノ撿査ヲ受ケ並ニ其入費ノ査定ヲ受クヘシ
第四項 保険料ノ事
一我国現今ノ実況ヲ見ルニ保険スヘキ船舶ハ僅カニ二三艘ニ過キス、而シテ年々増加スルモノトスルモ四五年間ニシテ保険船舶百ヲ以テ数フルコトハ決テ望ム能ハサルナリ、保険船舶ノ艘数僅少ナレハ、危険ノ平均ヲ得ル能ハス、危険ノ平均ヲ得ル能ハサレハ徒ラニ僥倖ニ依頼セザルヲ得ズ、徒ラニ僥倖ニ依頼スルノ保険ハ決テ確実ナル営業ニハ非ルナリ、然レトモ今日我邦ニ於テ始メテ船舶保険ノ業ヲ起スニ当テハ其業ノ損益ニ拘ハラス可成丈保険料ノ割合ヲ低減スルニ非レハ我邦ノ商估ヲシテ保険ノ利ヲ悟ラシメ、保険ノ効能ヲ世ニ顕ハスコトヲ得サルヘシ、故ニ其保険料ノ割合ハ西洋保険会社中ニ行ルヽ処ノモノニ則リ、弱ニ付テ之ヲ定ムルヲ必要トス、即チ数千艘ノ船舶中ニ生スル危険ノ平均ニ由テ定メタル保険料ノ割合ヲ以テ僅々タル船舶ノ予定シカタキ危険ヲ担保セサルヲ得サルナリ、故ニ確実ヲ重ンスルノ人ハ保険スヘキ船舶数十艘在ルニ至ラサレハ決テ此業ヲ起スコトヲ好マサルヘシ、然ラハ堅牢ナル船舶増加スルノ時ヲ待テ之ヲ経始センカ船舶ノ保険ナクシテ貴重ナル財産ヲ此危険ナル船舶ニ費ス者多カラサルヲ如何セン、此業ニシテ起ラサレハ決テ我邦ニ堅牢ナル船舶ノ増加ハ望ムヘカラサルナリ、故ニ保険スヘキ船舶ノ僅少ナルニ関ラス今日ニ当テ此業ヲ開キ、船舶ノ構造ヲ改良シ堅牢ナル船舶ヲ増加スルニ非レハ何レノ日ヲ待テ之ヲ創起スルヲ得ンヤ、而シテ今此業ヲ確実ニ経始セントスルニハ政府ノ特別保護ヲ仰キ、東京海上保険会社ニ於テ一ケ年ニ領収スル保険料ノ総額ハ必ス三万五千円ニ至ルヘキコトヲ政府ニ於テ保証セラレ、年々収入ノ保険料総額三万五千円ニ満タサル間ハ政府ニ於テ此不足ヲ補助セラルヽヲ必要トスルナリ、今会社ハ一ケ年ニ必ス三万五千円ノ収入アリトセハ仮令壱次ニ幾許ノ損失ヲ蒙ルトモ此三万五千円ヲ以テ補充スルカ故ニ始メテ確実ナル保険ノ業ヲ営ムコトヲ得ヘキナリ
第一款 保険料ノ割合ハ西洋海上保険会社ノ割合ニ基キ、船体航路時候等ニ依テ定ムヘシ
第二款 壱航海ノ保険ハ貨物同様其時々割合ヲ定メ、壱期限ノ保険ハ其船ノ種類ニヨリテ期限並ニ保険料ノ割合ヲ定ムヘシ
第五項 役員ノ事
一会社ノ役員ハ従前定員ノ外ニ弐名或ハ三名ノ補助役員ヲ増加シ、又撿査官出張ノ場所毎トニ壱名或ハ弐名ノ役員ヲ置キ撿査ノ諸願並ニ報告等ノ事ヲ取扱ハシムヘシ
第六項 積立金ノ事
一会社ノ諸入費損失役員賞与金ヲ引去リタル残額ヲ尽ク積立金トナス
- 第7巻 p.631 -ページ画像
ヘシ
〔参考〕法規分類大全 第一編 運輸門十一 船舶 検査 第二二四―二二九頁（DK070078k-0019）
第7巻 p.631-635 ページ画像
法規分類大全 第一編 運輸門十一 船舶 検査 第二二四―二二九頁
船舶保険之儀ニ付御願
当社儀昨年御許可ヲ蒙リ貨物海上保険ノ業務相営候処爾来各地ニ於テ保険ノ依頼者陸続接踵大ニ当初ノ予算ニ超過致候、是レ我国ノ商估ト雖トモ海上ノ災難ヲ危懼シ商業ノ確実ヲ企図スル明証ニシテ即チ本業ノ如キモ漸ク商業上ノ便益ト相成従テ一般貿易ノ進歩ヲ相助候儀ト奉存候、然ト雖今日我国ニ在テハ堅牢ナル船舶尚尠キカ為ニ海上保険会社ノ設アルモ其便利ヲ蒙ル者ハ僅ニ十ノ一ニモ及ヒ不申候、輓今我国ノ船主等従来ノ日本形ヲ嫌ヒ一般ニ西洋形ヲ好ムニ因リ外面ヨリ之ヲ看レハ大ニ船舶ノ改良ヲ得タル如シト雖、詳カニ其実況ヲ観察セハ我国ノ構造ニ係ルモノニテ能ク貨物ノ運送ヲ安全ニ保チ得ルモノ僅々一二艘ニ過キスト云フヘシ、惟ルニ我国造船ノ業未タ開ケサルニ非ス又必スシモ利ナキニ非スト雖之ヲ製造セシムル者巨資ヲ投シテ良船ヲ造ルトモ一朝不虞ノ災ニ罹フバ資産ヲ挙テ之ヲ蕩尽センコトヲ恐レ、寧ロ脆弱ナリトモ低価ノ船舶ヲ購ヒ僅カニ数回ノ航海ニテ早ク其原資ヲ回収センコトヲ企望スル者多キ故ト奉存候、是其西洋形ノ船舶ハ昔日ニ数倍セリト雖堅牢ナルモノニ至テハ寔ニ寥々タル所以ニ御座候、斯ノ如クンハ造船ノ業モ日ニ精巧堅緻ノ美ヲ失ヒ遂ニ粗糙ニ流レ為ニ海運ノ業ヲシテ衰頽ニ趣カシメンモ亦知ルヘカラス、今ニシテ尚ホ之ヲ救フノ術ヲ施サヽレハ我国ノ貿易何ノ日ニ至リテ隆盛ヲ致サンヤト痛歎仕候、故ニ今日ニ当テ船体保険ノ業ヲ超創シ以テ海運ノ業ヲ確実ナラシメ商估ヲシテ安全ニ其資本ヲ船舶構造ニ投スルコトヲ得セシメ堅牢ナル船舶ヲ我国ニ増加シ貿易隆盛ノ基ヲ開クハ実ニ至緊ノ業務ト奉存候、是ヲ以テ当社今般船舶保険ノ業ヲ起シ従来営ミ居候貨物ノ保険ト並ヒ行ヒ度企望仕候、然リト雖船舶保険ノ業タル貨物ノ保険ト大ニ其趣ヲ異ニシ其難易固ヨリ同日ノ論ニアラス、其之ヲ為スニ当テハ船体検査ノ方法整備セサルヘカラス、又其危険ニ遭遇シテ損失ヲ生スルトキハ其金額ヲ査定スルノ適任者ナカルヘカラス、是等要用ノ事項ヲ弁スルノ費途決テ僅少ナラサルヲ以テ当社今日此業ノ創起ヲ熱望スルモ其費用ヲ自カラ支弁セサルヘカラサルモノトセハ得失ノ相償フ能ハサルヲ以テ又其企望ヲ達スルコト能ハサル儀ト苦心仕候、然ト雖モ今ニシテ其企図ヲ廃スルトキハ何レノ日ヲ待テ此業ヲ起シ海運昌盛ノ源ヲ開クノ期アランヤト是又痛歎ニ堪ヘサル所ニ御座候、依テ玆ニ懇願奉リ候儀ハ全国中造船所ノアル所及ヒ其他緊要ノ場所毎ニ適任ノ検査官ヲ置カレ船舶構造中ノ検査修繕ノ査定等願出候節ハ無税ニテ速カニ御検査被成下度、且又当社利益ノ儀モ別冊予算ノ通リ数年ノ後ニ至ラサレハ得失相償フ能ハスシテ僅々ノ船舶ニテハ危険ノ平均ヲ保ツ能ハサルヲ以テ、何卒特別ノ訳ヲ以テ当社ニテ船舶ノ保険ヨリ得ル所ノ利益ハ年々必ス三万五千円ニ達スル様御保護成シ下サレ度候、此業タル我国ニ在テハ素トヨリ新創ノ儀ニ付当初ハ損益ニ拘ラス勉メテ保険料ノ割合ヲ低減シ商估ヲシテ先ツ其利ヲ悟ラシムルヲ緊要ト奉存候、而シテ又他ノ一方ヲ顧レハ海岸港口ノ測量近年大ニ相開ケ候ト雖モ然レ
- 第7巻 p.632 -ページ画像
トモ尚ホ灯台霧鐘浮標其他危険予防ノ方法未タ充分ニ備リ不申、就中北海道ノ如キハ航海者未タ航路ニ熟セサルヲ以テ海上ノ危険ハ殊ニ多キニ在之候、故ニ少クトモ年々ノ収益前陳ノ金額ニ至ラサレハ此業ヲ維持スルコト到底覚束ナク奉存候ニ付、何卒特別ノ訳ヲ以テ船舶検査利益保護ノ両条御聞届下サレ度依テ別冊予算書相添此段奉懇願候也
明治十三年十一月 東京海上保険会社
頭取 伊達宗城
東京府知事 松田道之殿
船舶保険営業ノ予算
船舶
一保険スヘキ船舶ハ我邦或ハ外国製造ノ堅牢ナル西洋形風帆船ニ限ルモノト予定ス
同艘数
一保険開業ノ一季間（六ケ月間）ハ保険スヘキ船舶僅カニ三艘ナリト見積リ第二季ヨリ一季毎トニ三艘ヲ増加スルモノト予定ス
価格
一右保険船舶ノ価格ハ一艘平均二万円ト予定ス
保険料
一右保険料ハ全損担保分損担保航路時候船舶ノ種類等ニ因テ各差異アルヘシト雖モ之ヲ平均シテ六箇月間其価格ノ百分五ト予定ス、此割合ハ西洋保険会社ニ於テ定ムル風帆船ノ正味保険料平均割合ヨリ弱キニ在リトス
今我邦ニ於テ新タニ船舶保険ノ業ヲ開クニ当テハ保険料ノ割合ヲ可成丈低減スルニアラサレハ我邦ノ商工ヲ奨励シ保険ノ利ヲ広ク知ラシムルコトヲ得ス、故ニ会社ハ西洋保険会社ノ割合ヨリ其保険料ヲ低キニ定ルヲ得策トス、而シテ危険ノ度ニ至テハ其航路単ニ我邦ノ海岸ニ止ルヲ以テ西洋一般風帆船ノ危険ヨリハ軽キニ在ルト云ハンカ決テ然ラス、凡ソ風帆船ノ危険ハ洋中ニ少クシテ却テ地方港口ニ多シトス、又我邦諸港中未タ充分ニ測量ノ成ラサル所少ラス、就中北海道ノ如キハ航海者未タ其航路ノ案内ヲ熟知セス、加之灯台霧鐘等ノ備モ未タ充分ナラサルヲ以テ危険ノ度ハ最高点ト云フヘシ、其他長崎・新潟・伏木等ノ諸港ニ至テモ皆一日モ安全ノ碇泊ヲ得ヘキ場所ニアラサルナリ
我国海岸諸港ノ実況斯ノ如シ、何ヲ以テ危険ノ防禦充備シタル西洋諸港ト危険ノ度ヲ比較スヘケンヤ、又我国ノ航海者ヲ見ルニ学術ニ乏キ者少カラス、漸ク学術ニ明カナル者アルモ実地経験ニ乏キヲ以テ能一船ノ運転ヲ信任スルニ足ル者多シトスルヲ得ス、西洋ノ航海術我国ニ開テヨリ年未ダ深ラサルヲ以テ学術実験兼備ノ航海者ニ乏キモ宜ナリト雖モ、今我国ニ於テ保険ノ業ヲ開ントスル者ノ為メニハ実ニ憂フヘキノ大ナルモノト云フヘシ、故ニ数年ノ後我邦諸港モ西洋諸港ト同様ノ便利ヲ備ヘ、海岸ノ測量充分ニ成功シ、安全ニ船舶ノ運転ヲ信任スヘキ適当ナル航海者続々出ルノ時ニ非レハ、西洋保険会社ト同様ノ保険料ヲ以テ我邦ノ危険ヲ平均スルコト能ハサル
- 第7巻 p.633 -ページ画像
ヘシ、然リト雖モ前陳スルカ如ク保険料ヲ低廉ニスルニアラサレハ保険ノ便利ヲ知ラシムルコト能ハサルヲ以テ保険会社ハ、不得止保険料ヲ西洋保険会社ノ割合ヨリ弱ニ予定シタルナリ
危険ノ度
一危険ハ六箇月平均百分ノ四ト予定ス
右ノ割合ハ百分ノ二ヲ全損トシ百分ノ二ヲ分損トス、即チ六箇月間百艘ノ船舶中亡失或ハ皆滅スル船舶二艘、其他ノ船舶衝突乗揚火災風波等ノ為メニ破損スル損失ノ金額ヲ保険シタル価格ノ百分ノ二ト予定ス
営業入費
一会社ノ諸入費ハ一箇月四百円ト予定ス
右ノ予定ニ依テ計算スルトキハ保険開業ノ月ヨリ三箇年半ノ損益予算左ノ如シ
第一季（開業ノ月ヨリ六箇月間）
保険船舶 三艘
保険価格 金六万円也
益ノ部
保険料 金三千円也
損ノ部
会社営業入費 金二千四百円也
危険損失 金二千四百円也
合計金四千八百円也
差引損失金千八百円也
第二季
保険船舶 六艘
保険価格 金十二万円也
益ノ部
保険料 金六千円
損ノ部
営業入費 金二千四百円也
危険損失 金四千八百円也
前季損失金繰越 金千八百円也
合計金九千円也
差引損失金三千円也
第三季
保険船舶 九艘
保険価格 金十八万円也
益ノ部
保険料 金九千円也
損ノ部
営業入費 金二千四百円也
危険損失 金七千二百円也
前季損失金繰越 金三千円也
合計金一万二千六百円也
- 第7巻 p.634 -ページ画像
差引損失金三千六百円也
第四季
保険船舶 十二艘
保険価格 金二十四万円也
益ノ部
保険料 金一万二千円也
損ノ部
営業入費 金二千四百円也
危険損失 金九千六百円也
前季損失繰越 金三千六百円也
合計金一万五千六百円也
差引損失金三千六百円也
第五季
保険船舶 十五艘
保険価格 金三十万円也
益ノ部
保険料 金一万五千円也
損ノ部
営業入費 金二千四百円也
危険損失 金一万二千円也
前季損失金繰越金 金三千六百円也
合計金一万八千円也
差引損失金三千円也
第六季
保険船舶 十八艘
保険価格 金三十六万円也
益ノ部
保険料 金一万八千円也
損ノ部
営業入費 金二千四百円也
危険損失 金一万四千四百円也
前季損失金繰越金 三千円也
合計金一万九千八百円也
差引損失金千八百円也
第七季
保険船舶 二十一艘
保険価格 金四十二万円也
益ノ部
保険料 金二万千円也
損ノ部
営業入費 金二千四百円也
危険損失 金一万六千八百円也
前季損失金繰越 金千八百円也
合計金二万千円也
- 第7巻 p.635 -ページ画像
差引損益ナシ
右ノ予算ニヨレハ会社ハ保護ヲ仰カスシテ安全ニ船舶保険ノ業ヲ経営シ得ルカ如シト雖も凡ソ危険ハ数百艘ノ船舶在ルニ非レハ平均ノ割合ヲ定メ難キモノナレハ数千艘ノ船舶ニ対スル平均ヲ以テ僅々タル船舶ノ危険ヲ定ムルハ甚タ恐ルヘキ事ニシテ尚ホ十万人中一箇年千人ノ死アルヲ見テ百人中一箇年一人ノ死アリト予定スルカ如シ、十万人中千人ノ死ハ相当ノ平均ニシテ予定スヘシト雖モ百人中一人ノ死ハ決テ頼ム可ラサルナリ、故ニ船舶保険ノ業ヲシテ確実安全ノ営業タラシムルニハ一箇年領収スル保険料ノ総額少クトモ必ス三万五千円ナカルヘカラス、即チ右予算ニ従テ計算スレハ第六季ニ至ル迄（即二箇年半）ハ年々必ス三万五千円ニ充ル迄ノ補助ヲ仰カサルヘカラサルナリ
今年々三万五千円ノ収入アリトシテ之ヲ右予算ニ参照スルトキハ、会社ハ猶ホ開業ノ日ヨリ十七艘半ノ保険船舶ヲ有スルト同様ナレハ稍々危険ノ平均ヲ保ツニ邇ランカ
○第二二四頁
東京府ヨリ内務省ヘ上申 十三年十一月二十七日
東京海上保険会社頭取伊達宗城儀我国目今堅牢ナル船舶ニ乏ク海運ノ業衰頽ニ赴カンヲ憂、船舶保険ノ法ヲ設ケ之ヲ救フノ堅要ナルヲ察シ該社ニ於テ船舶保険ノ業ヲ創起シ従来ノ貨物保険ト併セ営ミ度、然ルニ該業ノ主眼ナル船体検査等ノ事ニ至テハ夥多ノ費途ヲ要シ猶且起業ノ初ニハ保険船舶僅少ニシテ危険ノ平均ヲ得サル等、旁損益相償フ可ラサルヲ以テ進テ其事ニ下手スル能ハス、然レトモ此時ニシテ此企図ヲ廃スレハ又何レノ日ヲ竣テ興起スヘキ目途モ無之、甚痛歎ニ堪ヘサル次第ニ付、願クハ官ニ於テ全国中造船所其他緊要ノ場所々々ヘ適任ノ検在官ヲ被置船舶ノ該検査願出候節ハ無税ニテ被差許、且開業三箇年半ノ間ハ毎歳該社ノ利益三万五千円ニ達スル様蒙保護タル上該業起立致シ度旨委曲別紙ノ通願出、篤ト思考候処方今我国ノ商権ヲ挽回シ輸出入ノ不平均ヲ治癒スルノ策ハ専ラ海運ノ業ヲ振興スルニ在テ而シテ人民ヲ此ニ奨導セントスレハ所謂船舶保険ノ法ニ如クモノ無之、今此法ヲ起サントスレハ世上信用ノ厚キ一大会社ヲ保護シテ先ツ其端緒ヲ開カシムルヨリ外無之、然レハ右海上保険会社ノ企図スル所最モ時勢ニ適応シ、其請願亦渠一社ノ都合而已ニ止ラサル儀ニ有之候間、当今歳計節約之御場合ハ万々恐察仕候ヘトモ永遠ノ得失深ク御計較ノ上可相成ハ特別ノ御詮議ヲ以該社頭取請願ノ両条予メ御允許相成候様仕度然ル上ハ営業規則等詳細為取調猶仰可否候様可仕先ツ以此段及上申候也
○右東京府ヨリノ上申書ニ対シ左ノ如キ指令アリ。
上申之趣難及命議事
但当省主管ノ件ニ付及指令候事
明治十五年十一月九日 農商務卿 西郷従道代理
大蔵卿 松方正義印
○東京府ヨリ当会社ニ対シ左ノ如キ下達アリ。
書面願之趣難及詮議候事
- 第7巻 p.636 -ページ画像
〔参考〕法規分類大全 第一編 運輸門十一 船舶 検査 第二二一―二二三頁（DK070078k-0020）
第7巻 p.636-637 ページ画像
法規分類大全 第一編 運輸門十一 船舶 検査 第二二一―二二三頁
農商務省伺 十五年一月二十四日
東京海上保険会社ニ於テ船体保険ノ事業相営度趣ヲ以テ別紙ノ通東京府ヲ経テ出願致候ニ付審案候処該社業補助金ノ儀ハ到底御詮議難相成筋ト被存候ヘトモ、船舶検査所ノ一段ハ該社ノ出願無之モ政府ニ於テ到底著手セサルヘカラサルノ事業ニシテ、尚且等閑ニ付スヘカラサルノ情況ヲ呈候間、何分ノ方案ヲ具シ上奏可仕ト思考候際ニ付、左ニ其事由ヲ開陳シ併セテ検査所ノ設置ヲ希望仕候
目今稍ク各地ニ造船所ヲ興シ、造出ノ船隻モ随テ其数ヲ加ヘ、概視スレハ船制改良ノ結果ハ甚タ遠キニアラサル如クニ候ヘトモ、其実際ニ於テハ経庭啻ナラサル儀ニ有之、曩ニ該保険会社ノ請願ニ依リ其筋吏員ヲ時々東京湾ニ派シ多数ノ船ヲ検査為致候ニ、其積載ノ貨物スラ保険スヘキ目的ニ適スルモノハ寥々百中ノ一二ニ過キス、他ハ皆脆弱ノ構造ニシテ決シテ航海ニ堪フヘキモノニ無之候、是ヲ以テ其難破ニ罹リ惨状ヲ報告スルモノ亦甚タ少ナカラス、実ニ浩歎ノ至ニ有之候
畢竟西洋形船ノ利アルヲ知リ西洋形船ハ従来ノ本邦船ノ如ク逆風若クハ小シク風波ノ虞アルトキハ安全ノ地ニ碇泊シ順風好晴ヲ待テ出航スルノ比ニ非サルヲ以テナリ猶右ノ如ク脆弱ノ構造ニ甘ンスルハ民俗ノ習慣ト資力ノ乏シキヨリ唯一両年ノ運賃ヲ以テ船資ヲ復スルノ僥倖ヲ希ヒ纔ニ薄資ヲ投シテ之ヲ構造スルニ是レ因リ候儀ト被相考候
今此弊ヲ救ハンニ英国政府カ実施スル如ク英政府ハ脆弱船ノ運航ヲ禁止スル為メ厳粛ナル船舶検査規則ヲ施設シ且他ノ海国ニ慫慂シテ之レヲ採用セシメタルニ付本邦ニ於テモ之ヲ採用シ彼禁止シタル脆弱船ヲ我市場ニ鬻カシメサル様致シ度旨当時倫敦駐剳我公使ヨリ其筋ヘ上申候儀有之候法令ヲ布キテ之レニ遵ハシメン乎、方今各地ニ造船所ノ設アリ、造出ノ船隻亦少ナキニアラスト雖モ、抑造船ノ事業タル僅カニ軟芽ヲ吐クノ今日ニ於テハ其成育ヲ破傷スルノ恐ナキニアラサルヲ以テ未タ決シテ其時ニ達セリト謂フヘカラサルヤニ存候
脆弱船ノ改造ヲ謀ルニ於テ如斯困難ノ事情有之候ヘトモ、要スルニ船体保険ノ事業ヲ起シ海上ノ危険ヲ担保セシムルノ道ヲ開カハ船主ハ寝《（寖）》ク其意向ヲ転シ、巨資ヲ投シテ堅牢保久ノ船ヲ構造スルニ可至ハ其理ノ甚タ見易キノミナラス実際ニ徴スルモ決シテ玆ニ外ナラサル儀ニ有之候
該保険会社ノ願意ヲ推候ヘハ畢竟船舶検査所ノ設置ヲ切望候モノニ付検査所ハ政府ノ費用ヲ以テ之レヲ設備シ、該社又ハ人民ノ請願ニ応シ暫ク手数料ヲ徴収セスシテ広ク船舶ノ良否ヲ検シ、其等級ヲ区分（船舶構造及ヒ其等級区分ノ規程ハ即今当省ニ於テ脱稿ノ運ヒニ有之候）シテ其保険ヲ保スルノ便ヲ得セシメハ該社ヲシテ船体保険ノ業ヲ開カシムルヲ得ヘク、然ルニ於テハ船制ノ改良始メテ其実歩ヲ占ムルニ可到ト存候
然レトモ右検査所ハ該社出願ノ如ク各造船所々在地及ヒ各枢要ノ地ニ於テ設置スルハ其費用ノ巨額ナル実際ニ於テモ決シテ右ノ如ク各所ニ於テ設置スルニモ及フ間敷、東京湾摂津湾及ヒ長崎若クハ函館ノ三地ニ於テ設置候ハヽ前途ノ目的ヲ達スルニ於テ稍足レリト被存候、但シ右三地検査所ニ属スル費用ハ別紙ノ通少クトモ三万円余可要見込ニ有之候
前陳ノ次第ニ付本議ノ趣厚ク御評議ヲ尽サレ御裁可ノ上ハ検査所ニ属
- 第7巻 p.637 -ページ画像
スル費用別途御支出相成度此段仰上裁候也
追テ香港政府ハ左記ノ如ク法令ヲ頒布シ、現ニ該地ニ航行スル我郵船ノ如キハ同政府ノ検査ヲ受クルヲ常例ト致シ候ヘトモ、本議御裁可ノ上ハ外国航旅客船ニ限リ令シテ定期検査ヲ為シ、外国政府ニ於テ再ヒ検査ヲ要セサル様致シ度、此件ニ就テハ尚相伺可申ト被存候ヘトモ予メ添テ陳言候也
千八百七十九年香港政府船舶検査ニ係ル法令抜萃
第五条 外国滊船五拾噸以上ニシテ旅客十二人以上ヲ搭載シ本管内ノ水上ヲ往来スルモノハ其本国政府ヨリ発スル検査証書ヲ所持スルニアラサレハ本港ニ於テ其船ノ検査ヲ為スヘシ
但シ其本国政府ノ検査証書ヲ承認スルト否トニ就キ異議ヲ生シタルトキハ香港太守之レヲ断決スヘシ
指令 十五年六月十六日
上申ノ趣聞届候条其省定額内ヲ以テ支弁スヘシ
○別紙略
○右ニヨリ東京湾、摂津湾及長崎（若クハ函館）ニ船舶検査所ガ設置セラレルコトニ決定。後神戸並ニ函館ノ二ケ所ト改ム。
〔参考〕郵便報知新聞 第二七八二号 〔明治一五年五月二三日〕 【今般弊社ニ於テ貨物…】（DK070078k-0021）
第7巻 p.637 ページ画像
郵便報知新聞 第二七八二号〔明治一五年五月二三日〕
今般弊社ニ於テ貨物之保険ニ適スヘキ船舶構造ノ規則相設ケ候ニ付、爾来貨物保険ニ適スル船舶御新造ノ御方ハ弊社ヘ御沙汰次第何時ニテモ御覧ニ入レ可申候也
明治十五年五月 東京海上保険会社
〔参考〕法規分類大全 第一編 運輸門十一 船舶 検査 第二二九―二三一頁（DK070078k-0022）
第7巻 p.637-639 ページ画像
法規分類大全 第一編 運輸門十一 船舶 検査 第二二九―二三一頁
農商務省伺 十六年五月三十一日
船体保険ヲ起シ船制ヲ改良シ以テ海上貿易ヲ盛ニスルハ今日ノ急務タル論ヲ竢タスト雖モ、其本業ハ他ノ危険ヲ請負フヲ以テ自家ノ目的ト為スカ故ニ人其業名ノ最モ畏ルヘク、其業体ノ甚タ至難ナルヲ論シ未タ奮然此ニ着手スル者ナシ、是ヲ以テ船舶ノ保険ヲ希フ者ハ外人ニ属シテ其約定ヲ為スノ外別ニ手段アルコトナシ、然ルニ東京海上保険会社ハ数年間貨物保険ノ業ニ従事セシヨリ船舶ノ保険ヲ併セテ営マント欲シ、曾テ屡其計画ヲ為シタリト雖モ如何セン各要地ニ於テ船舶検査所ヲ設置スルカ如キハ該社ノ資力ヲ以テ之ヲ挙行シ得ヘキニアラス、加フルニ該社ノ資本モ未タ以テ此大業ニ当ルニ足ラサルモノヽ如シ、故ニ今此業ヲ起サントセハ該社従前ノ資金六十万円ヘ政府ヨリ更ニ四十万円ヲ加ヘ、合計百万円ノ資本金トナシ猶且政府ハ船舶検査所ヲ函館・神戸ノ両所ニ新設シ、該社ノ出願ニ応シ無手数料ニテ船舶ノ検査ヲ許スヘシ、然ルニ於テハ従来外人ニノミ托シタル船舶保険ノ事業始メテ本邦ニ成立スルニ至ルヘシ
右ノ如ク政府ニ於テ四十万円ノ株金ヲ該社ノ資本ニ加フルモ其実政府ハ其株金ヲ払込ムニ及ハス、所謂虚名株主《ノミナル》トナリテ該社ノ事業ヲ声援スルニ過キサルノミ、只該社ニ於テ一時非常ノ損金ヲ醸シ、其積立金保険収益、資本収益ヲ払尽シ尚不足ヲ生スルカ為メニ、該社ノ資本金
- 第7巻 p.638 -ページ画像
（六十万円）ヲ以テ其損失ヲ弁償スル時ニ至リ始メテ政府ハ其株高ニ割合一時若干ノ払込ヲ為サヽルヘカラス、然レトモ該社年々収入スル保険収益ヲ以テ之ヲ償却シ、随時其資金ヲ恢復シ得ルカ故ニ政府ハ又旧ニ依テ虚名株主ノ地位ヲ占ムルニ至ルヘシ、而シテ該社ノ積立金増加スルニ従ヒ虚名株主ノ地位ハ弥安全ナルノミナラス其積立金ハ株主一般ノ共有ナルヲ以テ政府モ亦其株高ニ応シ之ヲ所有スルノ権利ト利益ヲ併セテ有スル義ニ有之候、是レ他ナシ保険事業ハ危険損失ヲ平均シテ遂ニ普通ノ営利ヲ得ルモノニシテ稍他ノ業務ト異ナル所以ニ有之候
如斯ノ実況ナルヲ以テ政府ハ該社ニ許シテ四十万円ノ株金ヲ加フルモ畢竟虚名株ヲ所持スルニ過キス、然レトモ該社ニ於テハ虚名株ノ為メ大ニ世ノ信用ヲ厚クシ且業務ノ拡張ヲ計ルニ足ルヘシ、真ニ一挙両全ヲ得ルノ策ト被存候間、篤ト御廟議ヲ尽サレ度、御許可ノ上ハ別紙命令書ヲ以テ該社ヘ相達シ、社業更正為致候積此段相伺候也
追テ検査所ハ函館・神戸ニ新設シ、検査官ハ可成御国人ヲ使用スルノ見込ヲ以テ各種ノ費目中極メテ節減ヲ加ヘ計算候得ハ別紙ノ如ク年額一万三千余円ト相成候、此金額ハ着手ノ初年ニ限リ別途御支出ヲ仰キ度、次年ヨリハ過般共同運輸会社ヘ御差加相成候株金利益モ可有之ニ付、其期ニ至リ伺定ノ上該利益ヲ以テ本途ノ費用ニ相充候積、此段添テ相伺候也
指令 十六年十一月五日
伺ノ趣聞届船舶検査所創設費金一万三千円ハ別途可下渡候条爾後経費支弁方ノ見込並船舶検査条例等ハ更ニ取調早々伺出ヘシ
但別途金支出方年度区分ノ儀ハ大蔵省協議ノ上相定可届出事
○中略
農商務省上申 十六年十二月十二日
船舶保険事業興起之件ニ付過般相伺候処客月五日御許可相成候ニ付、当省ヨリ同二十九日ヲ以別紙命令書之通リ東京海上保険会社ヘ相達候間此段上申候也
（別紙） 東京海上保険会社
其社ニ於テ更ニ船舶保険ノ業ヲ創営セシムル為メ今般政府ニ於テ四十万円ヲ其社資本ヘ差加ヘ候条左ノ条款ノ通可相心得事
明治十六年十一月廿九日
農商務卿 西郷従道
第一条 其社ノ資本金ハ政府ヨリ四十万円人民ヨリ六十万円合額百万円ト定ムヘシ
第二条 其社ハ船舶貨物ノ保険ヲ以テ専業ト為スヘシ
第三条 政府ハ神戸函館ニ於テ船舶検査所ヲ置キ其社ノ出願ニ応シ船体機関ノ検査ヲ為シ証状ヲ与フヘシ
但検査料ヲ徴収セス
第四条 船舶貨物トモ検査官ノ付与セシ証状等級内ノ船舶ニアラサレバ保険ヲ為スヘカラス
第五条 船舶ノ保険ハ汽船七万円帆船二万円ヲ以テ制限トナスヘシ
第六条 政府ノ株金ハ民有資本金（六十万円）ヲ以テ損失ヲ弁償スルノ際ニ
- 第7巻 p.639 -ページ画像
当リ政府ノ監査官又ハ其社ノ申請ニ依リ株高ニ割合之ヲ払入ルヘシ
第七条 政府ニ於テ払込タル株金ハ年々ノ保険収益ヲ以テ株高ニ割合之ヲ払戻スヘシ
第八条 保険収益ハ営業諸費役員賞与及ヒ保険損失ヲ仕払タル残額ノ二割ヲ払込ノ株高ヘ配当シ余ハ都テ積立金トスヘシ
第九条 保険損失ノ仕払ヒハ左項ノ順序ニ随フヘシ
第一 積立金
第二 保険収益金
第三 資本収益金
第四 資本金
第十条 政府ハ監査官ヲシテ毎期諸帳簿ヲ検閲シ又ハ臨時検査セシムルコトアルヘシ
第十一条 会社ハ毎期精覈ナル決算報告書ヲ政府ヘ差出スヘシ
第十二条 会社ハ取締役七名ヲ置クヘシ、内二名ハ政府ニ於テ特選シ五名ハ株主ニ於テ投票公選スヘシ
第十三条 特選取締役ハ会社ノ定款ニ随ヒ総会議ニ臨ミ投票スルコトヲ得ヘシ、但特選取締役ト雖モ総会議ニ於テ三分二以上ノ決議ニ依リ其退職ヲ政府ニ上請スルコトヲ得ベシ
第十四条 会社営業ノ期限ハ船体保険開業ノ日ヨリ二十箇年ト定ムベシ
○当会社ハ一二月一七日臨時株主総会ヲ開キ、其特別決議ヲ以テ政府ノ命令書ニ遵ヒ資本金ヲ増加シ船舶保険事業ヲ開始スルニ決セリ。依テ創立証書並ニ定款ヲ変更セルガ、改正セラレタル創立証書並ニ定款左ノ如シ。
〔参考〕明治大正保険史料 第一巻第二編第一類及追補・第二五七―二六〇頁〔昭和一〇年五月〕（DK070078k-0023）
第7巻 p.639-641 ページ画像
明治大正保険史料 第一巻第二編第一類及追補・第二五七―二六〇頁〔昭和一〇年五月〕
船舶保険創営ニ付創立証書及定款ノ変更増補
今般東京海上保険会社ニ於テ更ニ船舶保険ノ業ヲ創営候ニ付テハ、別冊創立証書並定款共改正追加ノ義聞届開業允許相成候間、為御承知此段及御通牒候也
明治十七年一月廿二日 農商務書記官
芳川東京府知事殿
明治十六年十二月十七日東京海上保険会社ノ株主臨時総会ヲ開キ、其特別決議ヲ以テ玆ニ添付シタル政府ノ命令状ヲ遵奉シ、資本金ヲ増加シ船舶保険ノ業ヲ開クコトヲ決定シ、創立証書及定款ヲ変更増補スル左ノ如シ
創立証書
第一条 当会社営業ノ目的ハ碇舶及ヒ航海ノ汽船帆船並ニ諸船舶ニ積載スル貨物商品貨幣地金船貨等ノ保険其他海上保険営業者ノ経営スヘキ事業ヲ為スニアリトス
第二条 当会社ノ資本金ハ百万円トシテ之ヲ壱万株ニ分割シ一株ヲ百円ト定ムヘシ
第三条 当会社営業ノ年限ハ船舶保険開業ノ日ヨリ更ニ二十ケ年トス
定款
第一条 政府所有ノ株式ハ政府特選ノ取締役ヲ以テ其所有主名代ト認
- 第7巻 p.640 -ページ画像
ムヘシ
第二条 政府所有ノ株式ニ対シテハ株券ヲ発行セス
第三条 政府所有ノ株式ハ売却或ハ譲与スルヲ得ス
第四条 政府加入ノ株金ハ政府ニ備置キ資本金ヲ以テ損失ヲ弁償スルノ場合ニ於テ払入ルヽモノトス
第五条 会社在来ノ資本金六拾万円ヘ政府ノ加入株四拾万円ヲ合シ資本総額百万円トス而シテ之ヲ別テ二種トス
第一 既収（民有払込済ノ分）資本
第二 未収（政府ノ株ニシテ未タ払込サル分）資本
第六条 資本金総額十分ノ四（政府ノ持株）ハ政府ヘ備ヘ置拾分ノ五ハ公債証書ヲ買入レ置キ拾分ノ一ハ会社営業用ニ供ス可シ
第七条 二人以上ノ組合ニシテ一株或ハ若干株ヲ所有スルトキハ其共有者ノ中一人名代トナリ発言投票ヲナシ、又会社ノ名ヲ以テ所有スルトキハ其重立タル社員或ハ現在ノ支配人ニ於テ発言投票ヲ為シ、又政府ノ株ハ其特撰ノ取締役ニ於テ発言投票（取締役撰挙ノ外）ヲ為スヘシ
第八条 会社ノ取締役ハ民有株主ニ於テ五人ヲ撰挙シ政府ニ於テ二人ヲ特撰スヘシ
第九条 取締役ハ定款中ニ掲クル処ノ権力ヲ有スルノ外定款中ニ漏レ総会議ノ決議ヲ要セサル事件ヲ適宜取扱フコトヲ得ヘシ但シ会社ノ事務ヲ取扱フ為メニ別ニ営業規則ヲ設ケ及ヒ之ヲ変更廃止スル等何レモ取締役同僚ノ衆議ヲ以テ之ヲ決定スルコトヲ得ヘシト雖トモ右営業規則ハ必ス政府ノ命令状及定款ノ旨趣ニ抵触セサルコトヲ要ス
第十条 毎年二月ノ例式総会議ニ於テ在来ノ取締役中ヨリ二名ツヽヲ退任セシメ更ニ投票ヲ以テ新ニ取締役二名ヲ撰挙スヘシ但シ政府特撰ノ取締役ハ此限ニアラス
第十一条 第一次例式総会議以後二年ノ間ハ二名ノ取締役ヲ解職スルニ必ス投票ヲ以テスヘシ爾後ハ毎年先任ノ者ヨリ次第ニ二名ツヽヲ解職スヘシ但シ政府特撰ノ取締役ハ此限ニアラス
第十二条 取締役ハ其所有ノ株式三十株ヲ会社ニ預ケ勤務中ハ之ヲ引出スコトヲ得ス但シ政府特撰ノ取締役ハ此限ニアラス
第十三条 公債証書並ニ諸預ケ金ヨリ生スル利子悉皆及保険料収入純益ノ二割ヲ以テ民有株主配当金トナスヘシ
第十四条 保険料収入総額ヨリ諸入費、役員賞与金、株主配当ニ充ツヘキ保険料収入純益ノ二割ヲ引去リタル残高ヲ以テ積立金トシ其金額資本金ノ半額ニ至ルトキハ別段総会議ニ於テ異議ヲ発スルニ非サレハ爾後積立金ヲ為サヾル可シ
役員賞与ノ事
第十五条 保険料収入総額ノ中ヨリ諸入費ヲ引去リタル残額ノ二割ヲ以テ役員賞与金トナスヘシ但シ収入金及ヒ損失ノ模様ニ因テハ此割合ヲ変更スルコトアルヘシ
損失金仕払ノ部
第十六条 損失仕払ノ順序左ノ如シ
第一 積立金
- 第7巻 p.641 -ページ画像
第二 保険純益（諸入費及役員賞与ヲ引去リタル残額）
第三 資本収益
第四 資本金
第十七条 資本金ヲ以テ損失ヲ弁償スルノ際ニ当リ、政府ハ民有株主ト共ニ其株高ニ割合ヒ其損失ヲ負担シ株金ヲ払入ルヘシ
第十八条 損失仕払ノ為メ資本金ニ欠額ヲ生スルトキハ、保険料収入ノ内ヨリ諸入費及ヒ役員賞与金ヲ引去リタル残額ヲ以テ之ヲ補充スヘシ
第十九条 政府ヨリ払入タル株金ハ資本損失補充ノ際、其株高ニ割合之ヲ払戻スヘシ
〔参考〕法規分類大全 第一編 運輸門十一 船舶 検査 第二三二―二三三頁（DK070078k-0024）
第7巻 p.641-642 ページ画像
法規分類大全 第一編 運輸門十一 船舶 検査 第二三二―二三三頁
海上保険会社ヨリ農商務省ヘ願 十六年十二月（日闕）
明治十六年十一月二十九日ヲ以テ御下附相成候御命令状ノ趣謹テ拝承即チ本月十七日ヲ以テ株主総会議ヲ開キ篤ト評議仕候処、海上保険ノ業ヲ拡張セラレ当会社ヲシテ船体保険ノ業ヲ起サシメントセラルヽノ御主意ハ一同奉感戴候、然ル処御命令状第九条損失仕払ノ順序ニ従フトキハ会社従来ノ習慣ヲ変シ損失毎ニ資本ノ収益ヲ払出シ、毎季配当ノ望ヲ失フニ至ランカノ懸念少カラス、今仮リニ会社ノ損失ヲ三四万円ニ出サルモノトシ、従来ノ平均ニ依リ会社毎季ノ資本収益二万七八千円内外トスルトキハ毎季配当ノ望ヲ失フノ懸念ヲ生シ候モ亦無拠儀ト奉存候ニ付、何卒特別ノ御詮議ヲ以テ右損失仕払ノ順序第三項ヲ刪除セラレ、之ニ易フルニ保険純益ノ二割ヲ政府民有ニ論ナク之ヲ総株高百万円ニ配当シ、政府ノ株ニ配当シタル分ヲ以テ別段積立金トシ之ヲ損失仕払順序第三項ニ置カレ候様御許可被下度、右ハ株主ヘ報道且営業開始ノ都合モ御座候間至急何分ノ御沙汰被成下度奉懇願候也
海上保険会社ヨリ農商務省ヘ願 十七年三月十七日
昨年十二月二十八日附ヲ以テ御命令状第九条第三項ヲ刪除セラレ、之ニ易ルニ保険純益ノ二割ヲ政府民有ニ論ナク之ヲ総株高百万円ニ配当シ、政府ノ株ニ配当シタル分ヲ以テ別段積立金トシ、之ヲ損失仕私順序第三項ニ置カレ候様懇願仕候処、追テ御詮議可被及旨御指令有之爾来御詮議ノ御沙汰相待居候得共今ニ御指令無之営業上甚タ掛念罷在候間、特別ヲ以テ速ニ御詮議被成降候様奉願上候、右保険純益ハ資本金百万円ヲ以テ営業シタル利益ニ御座候間、政府民有総体ノ共有タルハ論ヲ竢タサル儀ニシテ、之ヲ特別積立金トナスモ必竟共有ノ積立金ヲ増加シ、愈会社ヲシテ鞏固ナラシムルノ主意ニ御座候間、何卒至急御指令被成降候様奉懇願候也
○第二三一―二三二頁
農商務省伺 十七年三月二十七日
客歳十二月中東京海上保険会社ヨリ命令書第九条損失仕払順序ノ儀ニ付、別紙写ノ通出願候ニ付テハ追テ何分ノ差図可及積ヲ以開業為致置候処、尚又爾後追願ノ趣モ有之候就テハ篤ト其事情審案候処、別紙乙号命令書第九条ノ損失仕払順序ニ依ルトキハ其三項ニ依リ資本収益ヲ支出スルカ故ニ、毎季資本収益配当ノ望ヲ失フニ至ルノ懸命ヲ生スル
- 第7巻 p.642 -ページ画像
モ無余義次第ニ有之、抑該資本ハ平時政府ヨリ毫釐モ払入候モノニ無之ニ付、其収益ハ従前ノ如ク株主ニ配当ヲ許シ而シテ其第三項ヘハ甲号ノ通リ改正相成可然ト存候、其故ハ該社営業上ヨリ生スル純益ノ二割ハ百万円ノ株高ニ配当スルヲ以テ政府ハ払入ヲ為サヽル株金ニ対シ純益ノ配当ヲ受ルノ姿ニ有之ニ付、此配当金ヲ別種積立金ニ振向ケ危険準備ニ相充候儀ニ有之候、然ルニ於テハ損失仕払ノ場合ニ至リ政府モ容易ニ株金ノ払入ヲ為スヲ要セサルノ利益有之、旁一挙両得ト被存候ニ付願意聞届、曾テ該社ヘ交付候命令書中第九条第十条共別紙甲号ノ通リ改正相達申度候間、至急仰御裁令度書類相添此段相伺候也
指令 十七年五月一日
伺之趣聞届候事
甲号 東京海上保険会社命令書改正案
第八条 保険収益ノ営業諸費役員賞与及ヒ保険損失ヲ仕払タル残額ノ二割ヲ総株高（百万円）ニ配当シ余ハ都テ積立金トスヘシ
第九条 保険純益ノ二割ヲ総株高百万円ニ配当シ、其政府株高ニ対スル配当金ハ別紙積立金《（マヽ）》トナシ危険準備ニ充ツヘシ
第十条 保険損失ノ仕払ヒハ左項ノ順序ニ随フヘシ
第一 積立金
第二 保険収益金
第三 別種積立金
第四 資本金
乙号 東京海上保険会社命令書旧条
第八条 保険収益ハ営業諸費役員賞与及ヒ保険損失ヲ仕払タル残額ノ二割ヲ払込ノ株高ヘ配当シ余ハ積立金ニスヘシ
第九条 保険損失ノ仕払ヒハ左項ノ順序ニ随フヘシ
第一 積立金
第二 保険収益金
第三 資本収益金
第四 資本金
○上掲一六年一一月二九日附農商務省命令書ヲ以テ、政府ハ四〇万円ヲ当会社資本金ニ差加ヘ資本総額ヲ百万円トナセシガ、其四〇万円ハ実際ニ払込ヲ為サズ、会社ガ資本金ヲ以テ損失金ヲ支払フ必要ノ生ジタル場合ニ払込ムモノト定メタルニ依リ、会社ハ資本金百万円ヲ既収資本金六〇万円ト未収資本金四〇万円トニ分テリ。而シテ前記命令書中ニ保険収益ハ営業諸費役員賞与及ビ保険損失ヲ支払ヒタル残額ノ二割ヲ株主ニ配当シ余ハ積立金トナシ、又保険損失ノ支払ハ積立金、保険収益金、資本収益金、資本金ノ順序ニ随フベク定メラレタリシガ、同年一二月二八日附ヲ以テ上記支払順序中資本収益金ノ項ヲ削除シ、之ニ代ヘテ保険純益ノ二割ヲ総株高百万円ニ配当シ、政府持株四〇万円ニ配当セラレタル分ヲ別種積立金ト名付ケ資本収益金ノ位地ニ置クベク願出デ、命令書変更ノ願意許可セラレタルハ上掲資料ニ見ル如シ。然ルニ明治二三年一〇月ニ至リ、政府ハ会社ノ株主タルコトヲ取止メ、之ニ代フルニ資本金ヲ以テ損失金ヲ支払フ場合ニハ其ノ百分ノ四〇ヲ四〇万円ヲ限度トシテ保証スルニ改メタリ。其命令書ハ次ニ掲グルガ如シ。但其後屡々命令書ノ部分的改訂アリタリシガ玆ニ之ヲ略ス。
- 第7巻 p.643 -ページ画像
〔参考〕東京海上火災保険株式会社六十年史 第四二六―四二八頁〔昭和一五年一〇月〕（DK070078k-0025）
第7巻 p.643-644 ページ画像
東京海上火災保険株式会社六十年史 第四二六―四二八頁〔昭和一五年一〇月〕
管 発第一四〇号
東京海上保険会社
其社ニ於テ船舶保険ノ業ヲ創営セシムル為メ明治十六年十一月廿九日農商務卿ヨリ下付セル命令書別紙ノ通改正ス
明治廿三年十月十一日
逓信大臣 伯爵後藤象二郎
命令書
東京海上保険会社
第一条 其会社ハ船舶貨物ノ保険ヲ以テ営業ト為スヘシ
第二条 政府ハ其会社ノ出願ニ応シ司検所所在地ニ於テハ検査料ヲ徴収セス、司検官ヲシテ船体機関ノ検査ヲ為サシメ合格ト認ムルトキハ其証状ヲ附与スヘシ
第三条 船舶及貨物ノ保険ハ司検官若クハ司検官ノ承認シタル検査員ノ付与セシ証状等、級内ノ船舶ニ積載シタル貨物及船舶ニアラサレハ担保ヲ為スヘカラス
第四条 船舶ノ保険額ハ相当ノ評価格ヲ標準トシ約定スヘシト雖モ、汽船ハ壱艘ニ付七万円帆船ハ壱艘ニ付弐万円ヲ以テ最多ノ制限ト為スヘシ
第五条 保険収益ハ営業費役員賞与ヲ仕払ヒ、其残額ノ百分ノ二十ヨリ多カラサル額ヲ配当ニ充テ其余ハ都テ準備金トシテ積立置クヘシ
第六条 保険損失ノ仕払ハ左項ノ順序ニ随フヘシ
第一 準備積立金
第二 純益金
第三 資本金
第七条 前条ノ順序ニ依リ資本金ヲ以テ保険損失ノ弁償ヲ要スル場合ニ於テハ其資本金ヲ以テ弁償スヘキ損失ノ百分ノ四十ニ相当スル金額ハ政府之ヲ担保スヘシ
前項ノ担保金ハ一回若クハ数回ニ払入ルヽモ、第九条ニ依リ返納シタル額ヲ控除シ現払入合計金四拾万円ヲ以テ最多限トス、但其会社ニ於テ資本実額ヲ増加スル事アルモ担保金額ノ割合及最多限ヲ増加スル事ナシ、然レトモ資本実額六拾万円ヲ減少シタルトキハ減資実額ノ六分ノ四ヲ以テ担保金最多限トナスヘシ
第八条 政府ノ担保金ハ資本金ヲ以テ損失ヲ弁償スルノ際ニ当リ、其社ノ申請ニ依リ調査ノ上之ヲ払入ルヘシ
第九条 政府ヨリ払込タル担保金及資本金ヲ以テ仕払タル弁償金ハ、毎年第五条ノ積立金ヲ以テ其百分ノ四十ハ政府ヘ返納シ、其百分ノ六十ハ資本金ヘ補塡スヘシ
第十条 政府ハ商法第弐百弐拾七条ニ依リ臨時検査ヲ為スノ外特ニ監査官ヲ命シ、其会社ノ業務ヲ監督シ定款ノ明条ニ違背シ若クハ其業務執行ノ結果ニ依リ、政府ノ損失ヲ生スヘキ事件ハ之ヲ制止スルコトアルヘシ
第十一条 其会社ハ毎期営業上精覈ナル決算報告書ヲ逓信大臣ヘ提出
- 第7巻 p.644 -ページ画像
スヘシ
第十二条 其会社ニ於テ定款ヲ改正セントスルトキハ予メ認可ヲ請フヘシ
第十三条 其会社ニ於テ此命令書ノ条款ニ違背シタルトキハ政府ハ其事由ヲ証明シ、担保金額ノ幾部若クハ全部ヲ停止シ若クハ廃止スル事アルヘシ
第十四条 此命令書ノ有効期限ハ明治二十三年十月十一日ヨリ明治三十七年十二月三十一日マテ十四ケ年三ケ月間トス
右命令ノ条款堅ク遵守スヘシ
明治二十三年十月十一日
逓信大臣 伯爵後藤象二郎
〔参考〕郵便報知新聞 第三二六三号 〔明治一七年一月二三日〕 【一当会社儀従来六拾万円…】（DK070078k-0026）
第7巻 p.644 ページ画像
郵便報知新聞 第三二六三号〔明治一七年一月二三日〕
一当会社儀従来六拾万円ノ資本ヲ以テ各地廻漕ノ貨物保険ノミヲ営業致来候処、今般更ニ資本ヲ百万円ニ増加シ船舶ノ保険ヲモ併テ営業致候間此段広告仕候也
一頭取伊達宗城儀退職致候ニ付、右補欠トシテ池田茂政ヲ頭取ニ撰挙致候此段併テ広告仕候也
明治十七年一月 東京海上保険会社
○斯クテ実際船舶保険ヲ開始セルハ同年二月二五日ヨリナリ。
〔参考〕東京海上保険会社保険取扱例則 〔明治一九年六月〕（DK070078k-0027）
第7巻 p.644-646 ページ画像
東京海上保険会社保険取扱例則 〔明治一九年六月〕
保険取扱例則
貨物保険申込手続之事
一貨物保険ハ可成船舶ノ出帆前ニ申込ムベシ、出帆後二十四時間ヲ経過シタル申込ハ其理由ヲ証明スルニ非レバ会社ハ之ヲ保険セズ
一貨物保険ヲ申込マントスル人ハ左ノ数件ヲ会社ヘ報知スベシ
一保険貨物ノ荷印、番号、品名、個数
二保険ノ金額
三保険貨物ヲ積載スル船舶ノ種類、船号、及出帆月日
四仕出港、仕向港
五立寄ノ港、積換ノ港、及積換ノ船号
六分損担保ヲ望ムト不望ト
一当会社ハ右ノ報知ニ依リテ保険スヘキヤ否ヲ考定シ、保険スベキ者ナレハ保険料ノ割合ヲ定メ、申込人報知ノ件々ヲ尽ク申込状ニ記載シ、申込人ニ記名調印ヲナサシメ保険料ト引換ニ保険状ヲ渡スベシ
保険スヘキ貨物之事
一滊船、帆船ノ別ナク総テ管船局ノ撿査ヲ受ケ、保険合格ノ証書ヲ下附セラレタル船舶ニ積載ノ貨物ニ非レバ保険セズ
但シ外国飛脚船其他堅牢ノ確証アル船舶ニ積載ノ貨物ハ此限ニアラス
一保険合格ノ証書ヲ得タル船舶ト雖トモ、泥土又ハ砂ヲ以テ軽荷《バラス》トナスモノニ積載ノ貨物ハ保険セズ
一甲板上巨量ノ貨物ヲ積載シタル船舶ノ貨物ハ保険セズ
- 第7巻 p.645 -ページ画像
一法令ニ背キタル貨物ハ保険セス
一甲板上ノ貨物ハ甲板上ニ限リタル危険ヲ担保セズ
一積載貨物其船舶ノ分量ニ超過スルトキハ其貨物ヲ保険セズ
一会社ニ於テ適当ト認ル船長ノ乗組タル船舶ニアラザレバ其貨物ヲ保険セズ
分損担保之事
一市場ニテ売買セザル貨物及奢侈物ノ類ハ分損ヲ担ハズ
一甲板上ノ貨物ハ分損ヲ担ハズ
一機械、火薬、危険物、書籍類ハ分損ヲ担ハズ
艀積貨物保険之事
一会社ハ艀積貨物ノ危険ヲ担ハズト雖、横浜、品川、東京間ニ在ルダルマ船又ハ百石以上ノ五大力船及石ノ巻、野蒜、石浜、塩釜、荻ノ浜間ノ小蒸滊船及ダルマ船ニ積載ノ貨物ニ限リ別段ノ保険料ヲ受ケ其保険ヲ担フベシ
保険料之事
一保険料割合ハ船舶ノ種類、船長ノ良否、航路ノ難易、時候ノ善悪等ニ依テ定ムル者ナレバ預メ確定シ難シ、故ニ保険料ノ割合ハ申込ノ際ニ於テ定ムル者トス
一壱口ノ保険料拾銭ニ満タサル者ハ拾銭ニ引上ケ領収スベシ
一弾薬、火薬、諸酸類ノ如キ貨物ハ通常保険料ノ拾五割増トス
一帆船積載ノ貨物保険料ハ滊船ノ割合ニ左ノ割増ヲ為スモノトス
一夏季五割増 夏季ハ四月廿一日ヨリ十月廿日迄
一冬季六割増 冬季ハ十月廿一日ヨリ四月廿日迄
一分損担保ノ時ハ滊船、帆船ノ別ナク左ノ割増ヲ為スモノトス
一 生糸 二割増
一 茶 五割増
一 通常商品 六割増
一米、粉類、煙草、麻、苧、皮、革、穀物類、酒類、油類 拾割増
一砂糖、塩、菓物、昆布其他総テ消失及腐敗質ノ貨物 拾五割増
船舶保険之事
一船舶保険ノ取扱ハ当分本店ニ限ルモノトス
一保険ヲ為スヘキ船舶ハ滊船帆船ノ別ナク逓信省撿査官ノ保険証状ヲ有スル船舶ニ限ルベシ
一船舶ノ撿査ヲ受ント欲スル者ハ品川、横浜ハ東京本店、神戸、函館ハ該地代理店ヘ申込ムヘシ
全損分損之解
一海上ノ危険ヨリ生スル損失ニ二種類アリ、一ヲ全損ト云ヒ、一ヲ分損ト云フ
一全損トハ保険シタル船舶若クハ貨物、海上危険ノ為メ皆滅スルカ、又ハ皆滅ニ至ラサルモ殆ント其性質ヲ全廃スルカ如キ大損失ヲ云フ
一分損トハ保険シタル貨物ノ一部分ニ係ル損失ヲ云フ
一分損ニ二種類アリ、一ヲ共担分損ト云ヒ、一ヲ特担分損ト云フ
一共担分損トハ船舶及貨物ヲ救フ為ニ人力ヲ以テ生シタル損失ニシテ船主及貨主ノ共同平均ニ負担スヘキ損失ヲ云フ、譬ヘハ一ノ船舶航
- 第7巻 p.646 -ページ画像
海中火災ニ罹リ之ヲ消防スル為メ不得已荷物ノ一部ヲ海中ヘ投シタル場合ニハ其投シタル荷物ノ損失ハ総荷主並ニ船主ニ於テ平均ニ負担スベキモノニシテ、斯ノ如キ損失ヲ共担分損ト称ス
一特担分損トハ自然ノ災害特ニ其船舶若クハ貨物ニ及ヒタルモノニシテ、即チ其船主若クハ貨主各個ノ不幸ナレハ其船主若クハ貨主ハ特ニ其損失ヲ担ハサルヲ得ズ、故ニ之ヲ特担分損ト云フ通常分損ト称スルハ特担分損ヲ云フナリ 畢
〔参考〕東京海上火災保険株式会社六十年史 第二〇五頁〔昭和一五年一〇月〕（DK070078k-0028）
第7巻 p.646 ページ画像
東京海上火災保険株式会社六十年史 第二〇五頁〔昭和一五年一〇月〕
会社から宮内大臣ヘ提出した明治二十年五月四日附伺書
世襲財産ノ儀ニ付伺
幣社株式ノ儀ハ政府ヨリ四拾万円御加入相成居、且逓信省管船局ノ御監督ヲ以テ官撰取締役モ有之候儀ニ付世襲財産法第三条第二類ノ条項ニ相当候儀トハ奉存候得共、尚株主中ヨリ問合ノ向モ有之候ニ付為念伺候間何分ノ御指令被下度此段奉伺候也
宮内大臣からの五月十一日附指令
第百六十八号
伺之趣華族世襲財産法第三条第二類ノ資格ヲ有スルモノト心得ヘシ
〔参考〕東京日日新聞 第四六五四号〔明治二〇年五月一七日〕 東京海上保険会社株主諸君ヘ広告（DK070078k-0029）
第7巻 p.646 ページ画像
東京日日新聞 第四六五四号〔明治二〇年五月一七日〕
東京海上保険会社株主諸君ヘ広告
当会社株式之儀華族世襲財産ト為スヲ得ヘキ哉宮内大臣ヘ伺出候処、伺之趣華族世襲財産法第三条第二項ノ資格ヲ有スルモノト可心得旨昨十一日御指令相成候間、此段株主諸君ヘ広告候也
明治二十年五月十二日 東京海上保険会社