デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

2章 交通
2節 鉄道
19款 台湾鉄道株式会社
■綱文

第9巻 p.204-210(DK090022k) ページ画像

明治30年2月25日(1897年)


 - 第9巻 p.205 -ページ画像 

前年秋起レル恐慌以来金融逼迫シ株金募集意ノ如クナラズ、是日当会社総督府ニ対シ、台湾鉄道利子補給及ビ基隆台北間鉄道並ニ附属物ノ無償払下ニツキ請願ス。栄一創立委員トシテ之ニ与ル。利子補給ハ是年五月十五日下附ノ命令書中ニオイテ、無償払下ハ同ジク六月八日公布ノ台湾鉄道保護ニ関スル勅令ニオイテ認メラル。


■資料

台湾鉄道史 上巻・第四四六―四五〇頁(DK090022k-0001)
第9巻 p.205-206 ページ画像

台湾鉄道史  上巻・第四四六―四五〇頁
○上略 是ヨリ台湾鉄道会社ハ技師長ヲ選擬シ、拓殖務大臣・逓信大臣ノ協商ヲ経、工学博士原口要ヲ以テ之ニ充ツルヲ決シ、鉄道局ハ之ニ相当ノ利便ヲ与フルコトヲ承諾スルニ至ル、三十年二月二十二日台湾鉄道会社其ノ仮事務所ヲ台北ニ置キ南洋商会内社員二名ヲシテ其ノ事務ヲ取扱ハシメ、後仮事務所ヲ大稲埕六館街一丁目一番戸ニ移シ委員川村惇ヲ常設委員ト為ス、其ノ本社事務所ハ之ヲ東京麹町有楽町一丁目五番地ニ設ケタリ同日又鉄道会社ハ総督府陸軍局陸軍部長ノ許可ヲ得、鉄道隊ニ就キテ基隆・新竹間鉄道運輸営業ノ実況ヲ調査ス、二十五日台湾鉄道会社創立委員ヨリ台湾鉄道利子補給及基隆・台北間鉄道並所属車輛土地建物其ノ他一切無代価下付ノ事ヲ総督府ニ請願ス、尋テ利子補給ノ案ハ拓殖務省ヲ経帝国議会ニ提出シ、議会ハ其ノ原案ヲ可決シタリ、利子補給ノ理由ハ、台湾ハ種々ノ関係上ヨリシテ物価不廉、瘴疫流行、従テ興業諸費ニ鉅多ヲ要シ、且鉄道営業ノ収入ニ於ケル諸営業其ノ他交通上ノ慣習ハ縦貫ニアラスシテ横貫ナルヲ以テ、勢縦貫鉄道ノ利益ハ数年ノ後ヲ待タサルヘカラサルヲ以テナリト、又保護ニ関スル諸案モ逐次提出シタリ、同年五月十五日、昨年十月総督ヨリ台湾鉄道会社ニ指令セシ第二条ノ主旨ニ基キ、更ニ命令書ヲ会社ニ下付ス、其ノ要旨ハ総則・線路・停車場・車輛・工事・運輸・補助ノ七章六十二条ニ成リ此ノ命令書交付ノ日ヨリ六箇月以内ニ会社ヲ組織シ、定款ヲ調製シテ総督ノ許可ヲ受ケ、其ノ許可ヲ受ケタル翌月一日ヨリ起算シ六箇月以内ニ鉄道工事ニ着手シ、満五箇年以内ニ竣功ヲ告ケ、会社ノ純益(補助金ヲ除ク)年六朱以上ニ至リタル場合ハ支線ノ建設ヲ命スルコトアルヘク、及鉄道敷設ニ関シ補助金ヲ給ス、其ノ金額ハ一工区毎ニ興業資本金ニ対シ之ヲ下付ス、工区ハ第一工区ヲ基隆・台中間、第二工区ヲ台中・嘉義間、第三工区ヲ嘉義・打狗間及安平支線(自楊厝至安平)トシ、補助金ハ一箇年六分ノ割合ヲ以テ、興業資本払込ニ対シ、其ノ払込ノ翌月ヨリ一工区毎ニ其ノ工区全部ノ運輸営業後満十二箇年ニ至ルマテノ間支給ス、興業資本トハ軌道・車輛・器械・停車場・土地・建物等新ニ収益ヲ生スヘキ物件ノ建設ニ対シ支出スルモノトシ、其ノ支出ヲ興業費トス、此外毎章各条ニ於テ種々制限指定スルトコロアリ同年六月八日、勅令第百七十四号ヲ以テ、台湾鉄道会社保護ニ関スル件ヲ発布セラル、凡テ六条ヨリ成ル、総督ハ必要ト認ムルトキ、鉄道用地ニ供スル官有地、汽車並工場ニ使用スル石炭・鉄道材料運搬ノ為敷設スル鉄道敷地、其ノ他必要ノ土地ニシテ官有ニ係ルモノ、及既設
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官有鉄道並之ニ附属スル建物・器具等、無代価ニテ台湾鉄道会社ニ下付スルヲ得ル件ヲ定メラル、十九日、台湾鉄道会社創立委員長安場保和代理川村惇ヨリ、総督府ニ出願ス、本会社鉄道敷設目論見書ハ曾テ総督府嘱託技師工学博士増田礼作ノ取調ニ基キ調製シタルモ、右ハ全ク予測ニ過キサルヲ以テ、工事着手以前精密実測ヲ為サヽルヲ得ス、急速実測ニ著手セムトスレハ、本会社株式ノ整理尚一二箇月後ニアラサレハ緒ニ就カス、工事ニ遅延ヲ来スハ遺憾此ノ上ナシ、因リテ株式整理創業総会開会マテニ実測ヲ了リ、総会終レハ直ニ工事着手ノ準備ヲ為サムト欲スルヲ以テ、特ニ民政局ノ技師技手ヲ暫ク本社ノ嘱託ト為シ、実測ヲ担任スルノ許可ヲ与ヘラレムコトヲト、往年逓信省カ日本鉄道会社ノ出願ニ対シ其ノ線路ノ実測及工事一切ヲ引受ケラレシ例ヲ援テ請願ス、拓殖務次官ヨリモ安場保和ノ請ニ対スル大臣ノ意ヲ総督ニ伝フ、是日、総督会社ノ請願ニ対シ、技師ハ公務ノ傍其ノ監督ヲ為サシメ、測量技術員ハ請願ノ通許可ス、但実測ニ関スル費用ハ其ノ社ニ於テ負担スヘシト指令セリ、測量従事員ハ、臨時鉄道掛技術員雇板倉鋭丸・楠目成長・福山道雄以下二十三名、同上事務員雇津田鎌三郎以下二名ヲ以テ之ニ充ツ、是ニ於テ会社ハ測量区ヲ台北・中壢間、中壢・新竹間、打狗・嘉義間ノ三区トシ、測量組ヲ三組ニ分チ、一組ノ員数ハ工夫ヲ合セテ四十人許トシ、七月初中旬ヲ以テ実測ニ著手シタリ、民政局技師小山保政・新元鹿之助之ヲ監督シ、会社委員川村惇南部ニ出張シ、地方官ト交渉斡旋ス、同年七月二日、律令第七号ヲ以テ台湾私設鉄道用地地租免除規則、律令第八号ヲ以テ台湾鉄道会社鉄道敷設用材料輸入税免除規則ヲ発布ス、尋テ輸入税免除規則第四条ノ出納簿様式ヲ定メ、之ヲ会社ニ令達ス


東京経済雑誌 第三五巻第八八一号・第一一八五―一一八六頁〔明治三〇年六月一九日〕 ○台湾株式鉄道会社《(マヽ)》へ下付せる命令書(DK090022k-0002)
第9巻 p.206-208 ページ画像

東京経済雑誌  第三五巻第八八一号・第一一八五―一一八六頁〔明治三〇年六月一九日〕
    ○台湾株式鉄道会社《(マヽ)》へ下付せる命令書
曩頃 ○五月一五日台湾総督府より同鉄道会社へ下付せる命令書は全文七十余ケ条に渉る浩瀚のものなるが、今ま其要領を聞くに左の如し
 一、命令書交付の日より六ケ月以内に会社を組織し、及び会社の定款を調製し、台湾総督の許可を受くべし
 一、許可を受けたる翌月一日より起算し六ケ月以内に鉄道敷設工事に着手し、満五ケ年以内に竣工すべし、若し其着手期限内に着手せざる時は許可の効力を失ふべく、又其期限内に竣工し難き時は三ケ月以前に台湾総督に其事由を具し延期の許可を受くべし、其延期は予定期限の半を超ゆるを得ず、予定期限及延期内に竣工せざる時は亦許可の効力を失ふべし、此場合に於て事宜により已設の鉄道及び附属物件を公売に付し、其買受者をして之を竣工せしむることあるべし、但竣工期限延期後と雖、不測の事変に遭遇し、台湾総督に於て已を得ざる理由ありと認むるときは、更に延期の許可を与ふることあるべし
 一、台湾総督は軍事上必要の場合に於ては、運輸に関する器具機械に改修又は新装置を施し、或は積卸用器具の製造を命ずることあるべし、此場合に於ては其実費を支弁すべし
 - 第9巻 p.207 -ページ画像 
 一、内地に於ける官設鉄道に実施せし事物にして、公衆の安全を保つに必要なりと認むる時は、台湾総督府は会社に命じて之を施設せしむることあるべし
 一、鉄道運輸開業後、其社に於て此の命令及定款に違背、又は鉄道の正当なる使用を妨害したるとき、台湾総督は役員を改撰せしめ又は民政局をして運輸の業を継続せしむべし、但民政局をして運輸の業を継続せしむる場合に於ても、其営業上の損害は仍ほ其社に属すべきものとす
 一、許可を受けたる日より満五十ケ年後に於て、総督に於て鉄道及附属物件を買上ぐることあるべし、其社は之を拒むことを得ず、鉄道及附属物件を買上ぐるときは、前五ケ年間の株券価格を平均し、之を買上価格と定むべし
 一、其社は其財産の全部若くは一部を抵当として負債を為すことを得、但其額は株主より払込みたる資本金額十分の五を超過することを得ず、毎勘定期中に支払ふべき負債の元利金を完償したる後にあらざれば、株主に純益金の配当をなすことを得ず
 一、其社の純益(補助金を除く)年六朱以上に至りたる場合、台湾総督に於て必要と認むるときは、支線の建設を命ずることもあるべし、但支線建設の為総資本金額(本支合せて)に対する純益(補助金を除く)年六朱以下に下るものと認むる場合には此限にあらず
 一、鉄道線路は総て他日複線を敷設すべき余地を存し置べし、軌道の幅員は三呎六寸《(吋)》とす、其重量は一ヤール六十一ポンド半を最下限とすべし、軌道の傾斜は四十分の一以下半位は十五鎖以上とすべし
 一、基隆・台北・台中・台南・鳳山及打狗の各地に在りては、軍用三列車に歩兵のみを乗下車せしむるに差支なき停車場、又新竹・苗栗・嘉義の各地に在ては、軍用二列車を同時に乗下車せしむるに差支なき停車場を設くべし
 一、基隆・台北・台中・台南・鳳山及打狗の各停車場には約一千二百坪、新竹・苗栗・嘉義の各停車には約百十坪の軍用倉庫設置に要する空地を備ふへし
 一、基隆・台北・台中・台南・凰山及打狗《(鳳)》の各停車場には約四千坪、新竹・苗栗・嘉義の各停車場には約一千三百坪の軍集合地を備ふべし
 一、上中等車は二輛車一輛に付二十四人、又下等車は一輛に付武装したる兵員四十名を載せ得るものとすべし
 一、郵便物及小包郵便物並其逓送に関する人員の運賃は、左に記載する割合を以て、台湾総督府民政局長と其社と予め之を約定すべし
   第一 下等旅客二十人の座位に当る積量一哩に付金二銭以内
   第二 一車(四噸積)貸切 一哩に付六銭以内
 一、移住民並移住民の携帯貨物及凶荒の際に於て難民救済に係る貨物は補助金下付期限中総て無料にて輸送すべし
 一、公務を以て往復する陸海軍人・軍属及警察官吏又は軍用に関す
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る器具・物品・材料等は総て半価を以て輸送すべし
 一、囚徒及護送官吏は半価を以て乗車せしむべし
 一、苗木・種物の類は補助金下付期限中運賃を半価とすべし
 一、鉄道敷設に関し補助金支給金額は左の二区《(マヽ)》に限る、一工区毎に興業資本金に対し之を下付す
   第一工区 基隆・台中間 第二工区 台中・嘉義間
   第三工区 嘉義・打狗間及安平支線(自揚厝至安平《(楊厝)》)
 一、右工区の総資本額は金一千五百万円とし、補助金は一箇年六分の割合を以て、興業資本払込額に対し、其払込の翌月より一工区毎に、其工区全部の運輸営業開始後満十二箇年に至るまでの間支給す
 一、軍事上若くは拓殖上必要と認むるときは、毎工区の補助年限中何時にても時期を限り、複線の布設、車輛の増加、停車場の増置其他既設物件の改造を命ずることあるべし


官報 第四一七八号〔明治三〇年六月八日〕 勅令(DK090022k-0003)
第9巻 p.208-209 ページ画像

官報  第四一七八号〔明治三〇年六月八日〕
    ○勅令
朕台湾鉄道会社保護ニ関スル件ヲ裁可シ、玆ニ之ヲ交付セシム
  御名御璽
    明治三十年六月四日
             拓殖務大臣 子爵高島鞆之助
勅令第百七十四号
第一条 台湾総督ハ必要ト認ムルトキハ、台湾鉄道会社鉄道用地ニ供セントスル官有地ヲ、無代価ニテ下付スルコトヲ得
第二条 左ニ記載スルモノヲ以テ鉄道用地トス
 第一 線路ニ当ル敷地、但シ其ノ幅員ハ築堤・切取・架橋等工事ノ必要ニ応シテ定ムルモノトス
 第二 停車場及之ニ附属スル車庫・貨物庫等ノ建築用ニ供スル土地
 第三 前項ノ構内ニ常住ヲ要スル駅長・車長及機関方等ノ家宅、番人小屋等ノ建築用ニ供スル土地
 第四 鉄道敷設又ハ運輸ニ要スル車輛・器具ヲ製作・修繕スル器械場及同上ノ資材・器具ヲ貯蔵スル倉庫ノ建築用ニ供スル線路ニ沿ヒタル土地
第三条 鉄道用地ニアラスト雖、汽車用・工場用ニ要スル石炭又ハ鉄道敷設ニ要スル材料運搬ノ為敷設スル鉄道敷地其ノ他必要ノ土地ニシテ官有ニ係ルモノハ、台湾総督ニ於テ必要ト認ムルトキハ、無代価ニテ之ヲ下付シ、又ハ台湾鉄道会社鉄道敷設竣工マテ無料ニテ之ヲ貸付スルコトヲ得
第四条 鉄道用地又ハ前条ニ掲ケタル目的ニ供セントスル土地、民有ニ係ル場合ニ於テ、之ト交換センカ為ニ台湾鉄道会社ヨリ官有地ノ下付ヲ請求スルトキハ、台湾総督ハ無代価ニテ之ヲ下付スルコトヲ得、但シ其ノ官有地ハ交換セントスル民有地ト評定価格相均シキモノニ限ル
第五条 台湾総督ハ公益ノ為メ必要ト認ムルトキハ、既設官有鉄道並
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ニ之ニ附属スル建物・器具ヲ無代価ニテ台湾鉄道会社ニ下付スルコトヲ得
第六条 無代価ニテ下付スル官有地ニ附属スル建物・植物ハ、等シク併テ無代価ニテ之ヲ下付スルモノトス


東京経済雑誌 第三五巻第八七〇号・第五五五頁〔明治三〇年四月三日〕 ○台湾鉄道委員会(DK090022k-0004)
第9巻 p.209 ページ画像

東京経済雑誌  第三五巻第八七〇号・第五五五頁〔明治三〇年四月三日〕
    ○台湾鉄道委員会
去月廿六日午前十時より常設委員会を事務所に開き、補助問題議会通過に付、今後の方針に付協議する所あり、株式募集は曩に一旦結了せしも、証拠金を払込まずして放棄せし分を委員に於て夫々引受人を定め、本月廿日迄に払込ましめ、五月中旬創業総会を開くこに決したり



〔参考〕東京経済雑誌 第三五巻第八六八号・第四四五―四四六頁〔明治三〇年三月二〇日〕 ○台湾鉄道の補給利子(DK090022k-0005)
第9巻 p.209-210 ページ画像

東京経済雑誌  第三五巻第八六八号・第四四五―四四六頁〔明治三〇年三月二〇日〕
    ○台湾鉄道の補給利子
我か新領地なる台湾は、周囲四百五十哩の一孤嶋なりと雖、其沿海は風浪険悪にして、航行に便ならさるを以て、其の運輸交通は重に陸地に依らさるべからず、左れば之に鉄道を布設するは拓殖の為にも、将た国防の為にも焦眉の急務たるや、敢て多弁を要せさるべし、然らは其の鉄道は政府自ら布設すへき乎、人民をして布設せしむへき乎、将た人民に補助を与へて起工せしむへき乎、余輩は嘗て此の問題を講究して、政府及び台湾鉄道発起人等の一顧を促せり、其の言に曰く
 私設会社にて台湾に鉄道を布設し得へくんは、宜く大地の金穴と内地の資本家とを勧誘して起業せしむべし、而して之か為に官有の敷地を無償にて下附し、且清国より譲与せられたる既設の不完全なる鉄道を貸与し、若くは廉価にて払下ぐるか如きは已むを得さるべしと雖も、其の以上に於て補助金を下付し、若くは補給利子を与ふるか如きは断して不可なり、若し補助を与へされば布設の目的を達すること能はざらん乎、寧ろ政府に於て自ら起工するに若かさるべし何となれば官設の利益は純然たる私設には及はずと雖も、保護会社よりも優ること万々なればなり
本邦人中台湾鉄道の私設計画を為したるは前後二回にして、横山孫一郎・大倉喜八郎諸氏の計画に係る鉄道は、政府より補給利子を得て起工する筈なりしが、北海道殖民鉄道の成行より見れば、到底補給を受くること覚束なきのみならず、其鉄道は生蕃人の為に破壊せらるゝの虞あり、且収利の点も確然たる見込立ち難き由にて中止したるに、尋で安場保和氏以下二十余名の発起に係る台湾鉄道の計画あり、氏等は到底私力のみにては成立し難きを以て、政府より年七朱の利子補給を請願し、政府に於ても種々詮議の末十二ケ年間年六朱の利子を補給することに略々決定し、近日中政府より其の議案を議会に提出すべしと云ふ、此の補助に関し中央新聞は附記して曰く、兎に角安場氏は現内閣成立の際種々奔走の労を取りたる人なれば、政府も情実上何とか其報酬を為さでは済むまじと、此の批評は所謂駄評なるにもせよ、苟も
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現内閣の非立憲的動作を攻撃せんとせる中央新聞記者にして、斯る言を為したるは不心得の至りと謂はざるべからず、情実の為に台湾鉄道に補給利子を下付するは果して立憲的挙動にして、非立憲的動作にあらざる乎、余輩は先づ之を質さゞるべからざるなり、次に、政府は果して台湾鉄道に対し六朱の補給利子を契約せん乎、余輩は補助の有害なる理由は今復た反覆せざるも、日本鉄道及び炭礦鉄道の補助法改正と果して両立すべきや否やを問はざるべからず、政府は同補助法改正の理由として述て曰く
 日本鉄道株式会社の補助は、現今線路の区間に依り各区間利益の八分に達せざるとき其八分までの不足を補助するの方法なるを以て、厳密なる監督を要し、又た非常の天災等に際しては補助額巨額に上るのみならず、厳密なる監督に拘束せられ、会社は随意に運輸交通事業の改良拡張を図ること能はざるの不便あり、依て大凡将来を推測し、定額を以て逓減補給の方法に改正するが為め、年度後に渉るの契約を結ぶを要す
斯の如く一方に於て補給利子の不便を唱道せる政府にして、他方に於ては之を台湾鉄道に行はんとするものは何ぞや、自家撞着も亦甚しからずや