デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

2章 交通
2節 鉄道
19款 台湾鉄道株式会社
■綱文

第9巻 p.210-218(DK090023k) ページ画像

明治32年3月25日(1899年)

是ヨリ先、当会社国内及ビ外国ニ於ケル募債皆敗レ、其成立ノ望ミ絶エ、政府亦之ヲ官設ニ改メントス。仍テ会社ハ其費消セシ創業費並ニ起業費ノ下付ヲ請ヒ、之ヲ譲渡セントシ、是日栄一創立委員総代トナリ、総督府ニ出願ス。六月二十三日ニ至リ、起業費ノ下付ノミ認メラレ、八月二十一日総督府トノ間ニ代金二十九万四千余円ヲ以テ機関車其他物件授受契約ヲ結ブ。


■資料

東京経済雑誌 第三六巻第八八五号・第一六二―一六三頁〔明治三〇年七月一七日〕 ○台湾鉄道の沿革(DK090023k-0001)
第9巻 p.210-211 ページ画像

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東京経済雑誌 第三六巻第八八八号・第三〇一―三〇二頁〔明治三〇年八月七日〕 ○台湾鉄道の私設保護を廃して官設と為すべし(DK090023k-0002)
第9巻 p.211-213 ページ画像

東京経済雑誌  第三六巻第八八八号・第三〇一―三〇二頁〔明治三〇年八月七日〕
    ○台湾鉄道の私設保護を廃して官設と為すべし
政府は第十議会の協賛を経て、男爵安場保和氏等の発起に係る台湾鉄道株式会社の資本金一千五百万円に対し、其の払込の翌月より運転営業開始後十二ケ年間、年六分の割合を以て補助金を下付することを契約し、且本年勅令第百七十四号を以て更に保護を増加したるにも拘らず、発起人諸氏は一千五百万円の資本を以て会社を組織すること能はず、遂に資本金五百万円を減じて一千万円と為すの議乃木総督の耳に達するや、総督は、目下焦眉の急とも云ふべき此鉄道が斯く躊躇逡巡して其完成の期をして一日を遅延せしむれば一日の害ありと認め、国家の大経綸に属する台湾鉄道は一己の営利的私立会社に於て為さしむべき事業にあらず、寧ろ国家自ら責任を負て之を速成するの勝れるに若かずとの念慮を起したる由なるが、総督の副官山本大尉は、去月三十日当市柳橋亀清楼に於て台湾鉄道の発起人等が開きたる宴会に臨み台湾鉄道の私設に関し発起人諸氏に処決を促せり、其の演説の要旨左の如し
 台湾鉄道敷設に付ては、発起者諸君に於ては昨年来計画せられ居る次第なれば、其後着々歩武を進めつゝあることならんと思はるゝも、外形上より観察を下すときは、遺憾ながら今日まで未だ其工事の着手は素より、会社創立の運にも至らざるが如し、是には定めて種々の原因あることならんも、此台湾鉄道敷設に対しては、既に第
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十議会に於て国庫より年々六朱宛の補助金を支出することに決定し又政府に於ても引続き之に関する命令書を発布せられたるは、是全く台湾鉄道は、我新版図たる台湾の経綸上最大必要なる機関たることは、四千万同胞の認むる所となりし故なりと信ず
 然らば則ち、発起者諸君の責任が其国家に対するや頗る重且大なりと云はざる可らず、諸君は此重大なる責任をば如何にして全ふせんとするの覚悟なるか、現今我国経済社会の実況と、諸君の台湾鉄道敷設に関する計画及び創立以来今日までの実蹟に付て観察を下すときは、諸君は台湾経綸の大機関たる此鉄道を完成し、四千万同胞に対し其重責を尽すことは頗る至難なるべしと思考す、譬喩の少しく当らざるかは知らざれど、余の観察を以てすれば、台湾鉄道の現況は恰も肺疾ある患者の如し、即ち諸君は此肺病患者の一分子なりと云はざるべからず、故に諸君は速に其病根を排斥して、以前の如き健康躰に復することを務めらるゝならんも、一旦此不治の大患に罹りし以上は、扁鵲の治術を施すと雖も容易に健全なる身躰に復することを望むべからず、去りながら、如何に不治の大患なればとて治療も為さずして其儘に放擲し置くときは、小は其患者たる台湾鉄道其物のために不利益たるは勿論、之を大にしては台湾経綸上国家の不利益たる之に若くものあらざれば、発起人諸君は此際一大決心を為し、宜しく速に自ら処決する処あらんことを敢て勧告す
 幸に発起人諸君にして、台湾鉄道が不治の大患に罹りたるを自覚し自ら処決する所あらば、他に完全なる方法を設け、以て此鉄道を完成するの望みなきにあらず、否台湾の経綸上最も必要なる大機関を完成するの方法は必ず他にありと信じて疑はず、而して其方法の一として、拙者の考ふる所は、本年の議会に台湾鉄道公債法案を提出し、議会の協賛を経て、以て国家の力を借り、台湾鉄道を敷設せんとするに在り、左れば、若し諸君にして此病根を排除し、健全なる身躰に回復せしむるの名案妙法の存するあらば兎も角も、然らざれば速に自裁処決せられんことを勧告す、若し今日の儘にして今後猶一日を緩ふせば、夫れ丈台湾の不利益となるべし、台湾の不利益は即ち我大日本帝国の不利益なれば、発起者諸君は速に相当の処決あらんことを希望す
 以上は言語少しく急激に失するの嫌なきにあらざれども、拙者が国家を思ひ台湾を思ふの切なるが為め、不知不識斯る急激の言語を発するに至りたるものに外ならざれば、望むらくは、諸君は其言葉を棄て、其意の在る処に就て深く採択あらんことを希望す
抑々利益の有無多少を論せずして、其の払込資本金に対し払込の翌月より年六分の補助金を与ふるが如きは未曾有の特典にして、発起人諸氏か斯る保護を請願し、議会が之に協賛を与へ、政府が之を許可したるは、仮令其の事の不条理にして一大失策なるにもせよ、要するに台湾鉄道事業の困難を予想したるものにして、今日の困難は固より発起人諸氏の覚悟せざるべからざる所なり、然るに資本金を減少して鉄道の完成を遅延するにあらざれば会社を組織すること能はずと云ふが如きは、発起人諸氏の不名誉なるのみならず須らく攻撃せざるべからざ
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る所なりと雖も、元来独占の性質を有する鉄道事業を保護を加へて私設会社に許可するが如きは、全く両立すべからざる社会主義と独占主義とを両立せしめんとするものにして、天下豈之より不条理なるものあらんや、而して今日の困難を救済し且つ此の不条理を矯正すべき一挙両得の策は、台湾鉄道の私設保護を廃して官設と為すに在り、故に余輩は山本副官の勧告に同意を表し、其の決行を希望するものなり


東京経済雑誌 第三六巻第八九六号・第八〇三―八〇四頁〔明治三〇年一〇月二日〕 ○台湾鉄道の計画(DK090023k-0003)
第9巻 p.213 ページ画像

東京経済雑誌  第三六巻第八九六号・第八〇三―八〇四頁〔明治三〇年一〇月二日〕
    ○台湾鉄道の計画
台湾鉄道会社に於ては、去月廿二日開会せる創立委員会の決議に基き愈々既設鉄道を引受け営業する事に協議纏り、且つ民政局技師鉄道課長小山保政氏が是迄運輸営業の実際に基き調査したる結果、充分会社営業として収支相償ふの見込確立したるに付、此際朝野の有力家を招き、同鉄道の国家経済上必要なる所以並同鉄道将来の方針を知しめんが為めに、本月六日午後三時より帝国ホテルに集会する事に決し、岩崎三井を始め従来同鉄道に関係なき有力家百五十有余名へ宛て、別紙の如き案内状を同鉄道創立委員長岡部長職子外十五名の委員より発したりと云ふ、同日は松方大隈両伯及び高島子も臨席する筈なりと
 拝啓、逐日秋冷相加候折柄益御清福奉恐賀候、陳ば台湾鉄道会社の儀、先般政府より払込資本金額に対し年六朱の補助を下付する旨命令有之、又会社成立の上直に無代価下付せらるべき六十二哩の既設鉄道は、其付属物件を合せて財産価格五百万円乃至六百万円に達し、猶該鉄道引受後営業上の予算を調査するに、相当の利益あるの見込確実なるにも拘らず、昨秋以来経済上の大勢兎角萎靡不振の傾きある為、今日の処未だ株式申込の完了に至らざるは小生共一同甚だ遺憾に堪へざる次第に御座候、右は畢竟実況の未だ世上に熟知せられざるの致す所と被存候、就ては斯の如き将来に望みあり且国家一日も忽にすべからざる鉄道事業に有之候得ば、此際特に諸君の御賛同を仰ぎ度候に付、台湾に於ける実際の摸様委細御報道旁、篤と御相談申上度候間、御多忙中甚恐入候得共、来る十月六日午後三時内山下町帝国ホテルへ御賁臨被下度、此段得貴意候也


中外商業新報 第四七一九号〔明治三〇年一一月五日〕 台湾鉄道委員会(DK090023k-0004)
第9巻 p.213 ページ画像

中外商業新報  第四七一九号〔明治三〇年一一月五日〕
    台湾鉄道委員会
台湾鉄道委員会にては昨四日集会を開き、諸般の協議を為し、且渋沢委員長多忙の故を以て、辞任の申出ありたるを以て後任者を決定したる由なり


中外商業新報 第四八七二号〔明治三一年五月八日〕 台湾鉄道会社とピーコツク会社との関係(DK090023k-0005)
第9巻 p.213-214 ページ画像

中外商業新報  第四八七二号〔明治三一年五月八日〕
    台湾鉄道会社とピーコツク会社との関係
台湾鉄道会社にては、到底内地にて其資金を募集すべからざるを看破し、曩に米国ピーコツク会社に照会して、外資借入のことを計画せしより、ピ会社にては種々協議を凝らしたる末、遂に英人フエツチン氏を代理人となし、本月三日来朝せしめたれば、台湾鉄道会社にては右
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のフエツチンと熟議を遂げ、ピーコツク会社の手許より千五百万円の資金を一時に借入ることに内談纏まり、目下其手続に関して双方の間に交渉中にて、一昨六日台湾鉄道会社の事務所にて創立委員会を開きたるは本件を議するが為めなりしとのことなり、而して右資金借入の至要条件なりといふを聞くに、利子は年五朱にして百円の額面に対して九十七円を得る事、借入より満十五箇年は之を据置き十六箇年目より漸次三箇年間に返済する事、鉄道要具の重なるものはピーコツク会社より専買する事等にて、政府の保証等は要せざる筈なりといへり


中外商業新報 第四九〇五号〔明治三一年六月一六日〕 台湾鉄道会社とピーコツク会社との交渉(DK090023k-0006)
第9巻 p.214 ページ画像

中外商業新報  第四九〇五号〔明治三一年六月一六日〕
    台湾鉄道会社とピーコツク会社との交渉
昨日府下の某新聞は台湾鉄道とピーコツク会社との契約書なるものを掲載したるが、右は二三箇月以前に台湾鉄道会社の委員連が試に起草せるものに係り、其後数回の交渉を重ね、殊に補給利子の件に就て政府とも数回往復し、契約条項には幾多の変更を来したる由にて、ピーコツク会社は、債券に対し政府の保証を得る能はすとせば債務の弁償に対し政府は何等かの責任を分担せられたしと要求したるも、政府は是等の需に応すること能はざるより、台湾鉄道会社は更に或る条件を提出して、ピーコツク会社の承諾を求めんと交渉中なる由なるが、ピーコツク会社が果して此提供条件に充分なる信用を措き、債券を引受くるに至るべきか頗る疑はしきことにて、創立委員は鶴首して倫敦の返電を待つゝある由なり


中外商業新報 第四九二三号〔明治三一年七月七日〕 台湾鉄道の延期々限と其理由(DK090023k-0007)
第9巻 p.214 ページ画像

中外商業新報  第四九二三号〔明治三一年七月七日〕
    台湾鉄道の延期々限と其理由
台湾鉄道会社が還た延期出願のため、創立委員を台湾に派出せし由は一昨五日の紙上に記せしが、更に聞く所に拠れば、延期の期限は九十日にして即ち本月十六日より十月十五日までなりと云へり、而して彼ピーコツク会社より借入れんとする資金に就ては、数回の交渉を重ねたる末、償還準備のため年々積立金を置くことゝなり、既に其方法に関しピーコツク会社の代表者との打合結了し、本社に向て最後の同意を求めつゝありと云ふ、而して台湾総督府に於ても、再び延期を許可することゝなるへしと云ふ


中外商業新報 第四九八〇号〔明治三一年九月一一日〕 台湾鉄道会社の昨今(DK090023k-0008)
第9巻 p.214-215 ページ画像

中外商業新報  第四九八〇号〔明治三一年九月一一日〕
    台湾鉄道会社の昨今
台湾鉄道会社の成立難は今更のことにあらざるも、創立委員中ピーコツク会社に深く属望せしものありし結果、台湾総督府に対し成立延期を請願せること前後六回に及び、最後の期日は来十五日に迫りたるに拘らず、ピーコツク会社との媒介者たるフヒンチ氏よりは、本社より未だ回答に接せずとのみにて依然取止めたることなきより、今更又総督府に延期の請願も為し難かるべく、今回こそは断然解散すべしとの覚悟は極めたる摸様なれど、兎に角今一回ピーコツク会社と交渉して成敗を決することゝなり、目下照回中の由、而して同社証拠金約四十
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万円の内、測量費及創業費に十万円を費し、汽鑵車四台・上等客車四台、通常客車十六台・有蓋貨車卅台の注文品到着せし為め、昨年中十五万円を支払ひたるを以て結局十五万円を残留する由なれば、愈々解散に決するも株主には相当の割戻を為し得る筈なりと云ふ、猶右に就き一昨九日午後より有楽町の事務所に渋沢栄一・小野金六・松木直巳三氏会合し、善後処分に就て、臨議したる由なるが、近日中更に委員会を開き、大躰の方針を決定する筈なりと云ふ


中外商業新報 第五〇〇九号〔明治三一年一〇月一六日〕 台湾鉄道会社の成立猶予決定(DK090023k-0009)
第9巻 p.215 ページ画像

中外商業新報  第五〇〇九号〔明治三一年一〇月一六日〕
    台湾鉄道会社の成立猶予決定
台湾鉄道会社の成立は更に猶予せらるべしとは去る十四日の本紙に詳報したるが、愈々昨十五日を以て、台湾総督より向ふ十五日間成立延期を許可する旨の指令ありたる由にて、同会社にては外資輸入に関する交渉を継続し居る由なりと云ふ


渋沢栄一 日記 明治三二年(DK090023k-0010)
第9巻 p.215 ページ画像

渋沢栄一 日記 明治三二年
五月十日 曇
午前十時台湾鉄道会社事務所ニ於テ創立委員会ヲ開キ、総督府民政長官後藤氏ヘ書状ヲ裁ス、祝事務官ヨリ照会シ来リタル公文ニ対スル回答書ヲ発ス ○下略


台湾鉄道史 上巻・第四六七―四七二頁(DK090023k-0011)
第9巻 p.215-217 ページ画像

台湾鉄道史  上巻・第四六七―四七二頁
三十一年十月八日、台湾鉄道会社内外国ノ募債皆敗レ、其ノ成立ヲ告クルノ望絶ユ、政府ハ会社ノ情勢此ノ如クナルヲ以テ縦貫鉄道敷設ヲ官営ト為サムコトヲ計画ス、是日台湾鉄道会社ヨリ総督府ニ成立延期ヲ出願シ、且云フ、当会社成立延期期限内ニ於テ、政府事業トシテ鉄道敷設ノ計画確定セシ上ハ、本社ノ成立ヲ止メサルヘカラス、此ノ場合ハ従来費消セシモノヽ弁償ノ道ナキヲ以テ、本社ノ成立ヲ企図スル為ニ要シタル総費用及機関車・客車・貨車等購入費用ハ挙テ政府ヨリ下付ヲ仰キ、車輛・実測図・設計書等ハ現存ノ儘政府ニ引受ラレムコトヲ請フト、十四日、総督府之ニ対シ、其ノ解散ノ場合ニ関スルモノハ追テ詮議スヘキ旨ヲ指令セラル、三十二年三月二十五日、台湾鉄道会社創立委員総代渋沢栄一ヨリ総督府ニ出願ス、客年十月八日延期請願具申書ニ対シ指令ヲ受クル所アリ、今ヤ台湾事業公債法案モ已ニ帝国議会ヲ通過シ、台湾鉄道ハ無論政府事業トシテ敷設セラルヘキヲ以テ、当会社解散ニ先チ前請ノ費用ヲ下付セラレムコトヲ請フト、因テ創業費及起業費取調書ヲ副申ス、創業費ハ金二万三千四百五十二円余起業費ハ金二十八万三千七百五十ニ円余ナリ、但起業費取調書ハ四月末日マテノ支払高ヲ表記ス、若シ処分遷延シ四月ヲ過クルトキハ、機関車製作書中ニ於テ毎月五十五円ノ倉敷料ヲ要シ、又貨物・客車保管費ニ増額ヲ要スト、六月二十三日、是ヨリ先台湾鉄道会社ノ請願書出ルヤ総督府事務官祝辰巳ヲシテ会社ニ臨検シ調査セシムル所アリ、是ニ至リ総督府会社創立委員総代渋沢栄一ニ対シ、其ノ社創業費・起業費下付出願ノ件ハ左ノ通心得ヘシ、一、機関車・貨車・客車ハ主任技
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師点検ノ上製造諸費ニ運搬実費ヲ加ヘテ算定シタル価格ニテ買上クヘシ、二、線路測量諸費ハ実測図面及附属器具・機械買上ノ代価トシテ下付スヘシ、三、創業費ハ下付ノ限リニアラス、四、機関車・貨車・客車・実測図面及附属器具、機械並起業費ニ関係アル一切ノ帳簿及証憑書類ハ台湾基隆及打狗ニ於テ総督ノ指定シタル官吏ニ引渡ヲ為スヘシ、トノ旨ヲ指令セリ、本指令書ハ七月七日ヲ以テ東京出張官ヨリ之ヲ会社ニ送付ス、会社善後処分已ニ定ル、総督乃チ之ヲ内務大臣ニ上申ス、其ノ要旨ヲ摘記スレハ、台湾事業公債法ニ拠リ政府事業トシテ本島縦貫鉄道敷設ノ計画確定ニ付、台湾鉄道会社善後処分ニ就キ、会社ヨリ創業費・起業費下付ノ請願アリ、調査ヲ遂クルニ、元来同会社ハ単ニ営利ノ目的ヲ以テ起リタルモノニモ無之、台湾ノ経営上鉄道敷設ノ極メテ急務タルニ拘ラス、当時政府ノ財形余地ナキニ因リ民業トシテ一日モ速ニ開通セシメントスル旨趣ヨリ認可セラレ、政府ハ出来得ヘキ限リ諸般ノ保護ヲ与ヘ、其ノ成立ヲ幇助セラレタルモ、経済社会ノ変動ハ予測外ノ障害ヲ来シ、終ニ当初ノ目的ヲ達セスシテ止ムニ至リシモノニシテ、事情大ニ酌量ヲ加フルノ必要ヲ認ムルノミナラス会社カ成立以前ニ於テ機関車・貨車等ヲ購入シタルハ、早計ニ失シタル嫌ナキニアラサルモ、是亦鉄道ノ開通ヲ急務トシテ、当時当局者ヨリ準備ノ為購入ヲ促シタル形迹アリ、政府モ亦幾分其ノ責ヲ免レサルモノト思慮ス、因リテ官業トシテ敷設ヲ為スニ当リテモ、購入ヲ要スヘキ機関車・貨車等ハ会社カ購入シタル価格ト今日ニ至ルマテノ保管費用トニ由リ算定シタル価格ヲ以テ、打狗・嘉義間ノ実測図面及附属品具等ハ当時ノ実費ヲ以テ、之ヲ買上ケ、会社ノ処分ヲ完結セシメントシ、本日指令ヲ発付セリ、因リテ之ヲ上申スト、是ニ於テ会社所有物品ノ買上方ニ関シ、現ニ要務ヲ以テ滞京中ナル臨時台湾鉄道敷設部技師長長谷川謹介、事務官遠藤剛太郎ヲシテ之ヲ掌ラシム、而シテ会社ニ下シタル指令ニ、物品ハ基隆及打狗ニ於テ引渡ヲ為スノ明文アルハ、三十二年六月勅令第三百三号総督府管内ニ限リ随意契約ヲ結フヲ得ルノ規定ニ依リタルモ、会社ニ於テハ諸種ノ状況ニ迫ラレ、殊ニ解散ヲ急キ、夏期海上ノ険悪ヲ避ケ秋季ヲ待テ物品ヲ台湾ニ回漕授受スルハ頗ル困難ノ事情アリ、敷設部ニ於テモ、会社ヲシテ海波ノ険悪ヲ冒シテ運搬セシムルトキハ、其ノ運搬費高上ノ為本部ノ経費ヲ損減スルノ虞アルノミナラス、今日海上ノ模様ニヨレハ打狗ニ於テ車輛ヲ陸揚スルハ実際為シ能ハサルヲ以テ、物品現在地ニ於テ随意契約ヲ為スヲ得ルノ必要ヲ生シ、勅令案提出ノ手続ヲナシタリシカ七月四日勅令第三百二十三号ヲ発布セラレ、総督府ニ於テ鉄道事業ニ要スル車輛・器具・機械其ノ他鉄道用品ヲ官庁若ハ私設鉄道会社ヨリ買入・借入、又ハ官庁若ハ私設鉄道会社ニ売渡・貸渡ストキハ随意契約ニ依ルコトヲ得、ト定メラレタルヲ以テ鉄道敷設部長ヨリ会社代表者一名ヲ台北ニ招致シテ物件授受ノ交渉ヲ遂ケ、又会社創立委員総代渋沢栄一ヨリハ、勅令第三百二十三号発布ニ因リ本社物件授受ノ場所ヲ東京及神戸ニ更変セラレムコトヲ出願シ、八月十六日、総督之ヲ聞届ラル、二十一日、鉄道敷設部長後藤新平ト渋沢栄一外二名ト契約ヲ結ヒ、買上物件ハ東京及神戸ニ於テ検査受領ノ上、其ノ代価合計金二十九万四千四
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十四円六十七銭三厘ヲ渋沢栄一ニ一時ニ仕払フコトヲ約ス、其ノ品目代価ハ機関車四輛八万三千九百四円六十三銭、上等客車四輛一万六千二百五十円二十八銭、下等客車十四輛四万二千七百二十五円十三銭、有蓋貨車二十七輛五万三千三十八円四十七銭六厘、緩急機附下等客車二輛六千四百二十一円九十三銭四厘、緩急機附有蓋貨車三輛六千五百八円六十銭五厘、線路実測図一通八万千百三円五十六銭八厘、器具・機械・図書二百六十七点三千八百九十五円八十五銭、紙表類七百四十一点百九十六円二十銭ニシテ、合計二十九万四千四十四円六十七銭三厘ナリ、以上ノ物品ハ東京ニ於テ大倉組ヲシテ運搬ノ事ヲ取扱ハシメ汽船三隻ニ他ノ購人品ト共ニ之ヲ搭載シテ打狗及基隆二港ニ回漕セリ会社善後ノ処分已ニ了ル


官報 明治三二年六月二二日 勅令第三百三号(DK090023k-0012)
第9巻 p.217 ページ画像

官報  明治三二年六月二二日
勅令第三百三号
台湾総督府ニ於テ施行スル鉄道敷設灯台建築及築港其ノ他直営ノ事業ニ要スル物件ノ売買貸借及労力供給ノ請負ハ同府管内ニ限リ随意契約ニ依ルコトヲ得


官報 明治三二年七月五日 勅令第三百二十三号(DK090023k-0013)
第9巻 p.217 ページ画像

官報  明治三二年七月五日
勅令第三百二十三号
台湾総督府ニ於テ鉄道事業ニ要スル車輛器具機械其ノ他鉄道用品ヲ官庁若ハ私設鉄道会社ヨリ買入借入又ハ官庁若ハ私設鉄道会社ニ売渡貸渡ストキハ随意契約ニ依ルコトヲ得



〔参考〕明治大正財政史 第一一巻・六三九―六四一頁〔昭和一一年五月〕(DK090023k-0014)
第9巻 p.217-218 ページ画像

明治大正財政史  第一一巻・六三九―六四一頁〔昭和一一年五月〕
 台湾事業公債は台湾に於ける各種事業遂行の為に起債したる公債なり。抑々台湾は明治二十七八年戦役の結果我国の版図に帰したるものなるが、政府は新領土経営上最も緊急なる事業として、鉄道敷設・土地調査・築港及び庁舎建築を計画したり。蓋し鉄道に関しては夙に台湾鉄道株式会社の設立ありて、政府亦之が幇助奨励に努めたりと雖も、未だ著しき効果を収むるに至らざりしを以て、玆に之を国家の事業として断行せんとしたるものなり。又台湾の土地制度たるや、古来数度の沿革を経たるが、普通の制度と大に其の趣を異にし、土地の所有権は大租及小租に分れ、其の使役権者たる小租戸は政府に対して地租を納むると同時に、大租戸に対しても亦大租を納入し、其の大租戸なる者は却て政府に対し毫末の負担を為さざりしものにして、斯かる制度の存続を許す可からざるは復た言を須たざる所なり。其の他基隆築港の如き、監獄新営の如き将た総督府庁舎及び各庁所属官舎新築の如き、或は運輸交通上より、或は条約施行の点より、又新領土人民を威服せしむる点よりして何れも速に之が施設を要するものなりとす。而して此等事業の遂行資金は之を国債に仰ぐの他なかりしを以て、政府は台湾総督の発案に基き台湾事業公債なる一種の新債を起すの議を決し、第十三回帝国議会の協賛を経て、明治三十二年三月二十二日左
 - 第9巻 p.218 -ページ画像 
の如く台湾事業公債法を発布したり。
    台湾事業公債法(明治三十二年三月二十二日法律第七十五号)
 第一条 台湾ニ於テ左ノ事業ニ要スル経費ニ充ツル為、政府ハ三千五百万円ヲ限リ、公債ヲ募集スルコトヲ得
  一 鉄道敷設
  二 土地調査
  三 築港
  四 庁舎建築
 第二条 此ノ公債ノ利率ハ一箇年百分ノ五以下トス
 第三条 此ノ公債ノ据置年限ハ十箇年以内トシ、発行ノ年ヨリ四十五箇年以内ニ償還ス
 第四条 政府ハ特約ニ依リ、銀行若ハ債主組合ヲシテ此ノ公債ヲ引受ケシムルコトヲ得
 第五条 政府ハ第一条ノ経費ヲ繰替支弁スル為、一箇年以内ノ期限ヲ以テ、台湾銀行ヨリ一時借入金ヲ為スコトヲ得、此ノ場合ニ於ケル利率ハ政府之ヲ定ム
  前項借入金ハ此ノ公債募集金ヲ以テ之ヲ償還スルコトヲ得、公債募集金ニ依ラスシテ之ヲ償還シタルトキハ、其ノ金額ニ相当スル公債ヲ募集セス
 第六条 此ノ公債及前条ノ借入金ハ、旧壱円銀貨幣ヲ以テ起債スルコトヲ得、此ノ場合ニ於テ公債証書ノ種類ハ政府之ヲ定ム
 第七条 此ノ法律ニ規定スルモノノ外ハ明治十九年勅令第六十六号整理公債条例ニ依ル
  ○右ト略々同一ノ記事、明治財政史第八巻第一六一―一六二頁ニアリ。