デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

2章 交通
2節 鉄道
27款 東京市ノ市街鉄道
■綱文

第9巻 p.419-445(DK090049k) ページ画像

明治32年10月14日(1899年)

是ヨリ先、東京市内ニ電気鉄道ヲ敷設セントスル東京市街鉄道株式会社計画セラレ、其許可ヲ内務大臣、東京市長ニ出願ス。市長之ヲ市会参事会ニ諮リシニ、市営民営ノ紛議アリシガ民営ニ決シ、是日其敷設条件ヲ定メテ之ヲ市会ニ提案ス。栄一名誉市参事会員トシテ之ガ斡旋ニ努ム。


■資料

東京市公文 市会明治三二年(DK090049k-0001)
第9巻 p.419-421 ページ画像

東京市公文 市会明治三二年        (東京市役所所蔵)
   東京市街鉄道布設特許請願書
今般私共義東京市街鉄道株式会社ヲ発企ノ上、東京市内ニ電気鉄道ヲ布設シ、一般交通運輸便益ヲ謀リ度候間、御認許被成下度、別冊工事設計予算書並ニ線路図面相添、此段奉請願候也 ○別冊略ス
  明治三十二年八月十四日
                   藤田重道
                   雨宮敬二郎 ○外一三名略ス
    内務大臣 侯爵 西郷従道殿
    請願書
私共本年八月十四日附ヲ以テ内務大臣へ出願仕候東京市内交通機関設
 - 第9巻 p.420 -ページ画像 
備ノ件ハ、東京市ニ於ケル重要ノ事業ニ御座候間、種々取調ノ上、東京市ト会社トノ関係別紙条件ノ如クセハ双方ノ為メ将来ノ便利ト存候ニ付、何卒別紙条件ニ依リ速ニ私共ヘ特許相成候様、主務大臣ヘ御上申被下度、出願書類写図面等相添、此段奉請願候也
  明治三十二年八月二十二日
                   藤田重道
                   雨宮敬二郎○外一三名略ス
    東京市長 松田秀雄殿
(別紙)
    特許条件
第一市ニ対スル納金ノ件
 会社ハ六ケ月間ヲ通算シテ平均一日一哩五十円以上収入ノ場合ニ至リ、惣収入金ノ多少ノ割合ニヨリ、惣収入金ノ百分ノ二以上百分ノ八以内ノ納金ヲナスコト
    一日一哩平均収入     営業総収入ニ対スル割合
 一金五十円以上七十五円未満     一百分ノ二
 一                     三
 一金百円以上百廿五円未満          四
 一                     五
 一金百五十円以上百七十五円未満   一百分ノ六
 一                     七
 一金二百円以上二百廿五円未満    一百分ノ八
  総収入及納金予算概表(一ケ年二百哩ニ対スル積算)
 一日一哩平均収入   総収入金額    市納金率   市納金額
                     割         円
五十円以上ノ時    三、六五〇、〇〇〇 、〇二    七三、〇〇〇
七十五円以上ノ時   五、四七五、〇〇〇 、〇三   一六四、〇〇〇
百円以上ノ時     七、三〇〇、〇〇〇 、〇四   二九二、〇〇〇
百二十五円以上ノ時  九、一二五、〇〇〇 、〇五   四五六、二五〇
百五十円以上ノ時  一〇、九五〇、〇〇〇 、〇六   六五七、〇〇〇
百七十五円以上ノ時 一二、七七五、〇〇〇 、〇七   八九四、二五〇
二百円以上ノ時   一四、六〇〇、〇〇〇 、〇八 一、一六八、〇〇〇
第二道路修繕義務ノ件
 会社ハ軌道内及軌道外両側一尺五寸ツヽノ道路ノ修繕及掃除ヲナスヘシ
第三市ノ監督権ノ方法
 東京市ハ何時ニテモ特定監督市吏員ヲ派シ会社営業ノ実況ヲ監査スルヲ得、又会社ヘ対シ営業ノ実況ヲ報告セシムコトヲ得○下略
第四原動力ノ件
 会社ハ架空単線電気式ヲ以テ原動力トナス、但必要ナル場合ニ於テハ取調ノ上区劃ヲ定メ圧搾空気、蓄電池式其他ノ原動力ヲ用ユル事アルヘシ
第五乗車賃銭ノ件
 乗車賃銭ハ市外ニ限リ距離ノ長短ニ拘ラス金五銭ト定ム
第六免許年限ノ件
 - 第9巻 p.421 -ページ画像 
 会社営業年限ハ特許ノ日ヨリ向七十五年ト定ム
第七特許線路ノ件○略ス
第八布設道路幅員ノ件○略ス
第九工事着手及竣工期限ノ件○略ス
第十年限後処分ノ件
 免許年期満了ノ後ハ会社ニ於テ継続スルヲ得ルモノトス、若シ東京市ニテ必要ノ場合ニハ相当市価ヲ以テ市ニ売上クル事アルヘシ


東京経済雑誌 第四〇巻第九九二号・第四一一―四一二頁〔明治三二年八月一九日〕 ○東京市街鉄道の出願(DK090049k-0002)
第9巻 p.421-422 ページ画像

東京経済雑誌  第四〇巻第九九二号・第四一一―四一二頁〔明治三二年八月一九日〕
    ○東京市街鉄道の出願
東京電気電車自動三派の合同に成れる東京市街鉄道の布設特許請願書は、愈去十四日を以て東京府庁を経て内務省へ提出したり、其請願書左の如し
    東京市街鉄道布設特許請願書○前掲ニ付略ス
    上申書
今回私共東京市街鉄道敷設特許出願致候に付ては、右御許可相成候上は、明治二十六年を以て出願致候東京電気鉄道敷設特許願、明治二十八年六月十九日を以て出願致候東京電車鉄道敷設特許願及び明治二十九年三月二日を以て出顧致候東京自動鉄道敷設特許願《(願)》は、速に願下可致、此段連署を以て上申候也
 明治三十二年八月
          東京電気鉄道敷設特許願出願人惣代
                    藤岡市助
          東京電車鉄道敷設特許願出願人惣代
                    藤山雷太
          東京自動鉄道敷設特許願出願人惣代
                    田中万助
    上申書
今般私共義東京市街鉄道敷設特許を出願致候に付ては、左の三項義務を負担可致候
 一東京市に対し会社利益金より相当の特別納金をなすこと
 一東京市より相当の監督を受くる事
 一鉄道内及軌道外両側一尺五寸づゝ道路の修繕及掃除を会社に負担すること
右上申仕候也
                    東京市街鉄道発起人

   東京市街鉄道起業予算書
金一千五百万円    (市街鉄道延長二百哩起業費)
   内訳
  金二百二十万円      軌道費
  金百三十二万円      枕木ポイント等及鉄軌布設土木費
  金二百四十万円      電動機客車六百輛
  金百五十万円       発電所建設費 (但六十馬力)
  金百万円         高圧蓄電所八ケ所建築費
 - 第9巻 p.422 -ページ画像 
  金百万円         梁橋費
  金百万円         用地費
  金二十五万円       修繕工場
  金十万円         運送費
  金四十万円        測量設計及工事監督費
  金四十万円        総係費
  金百十二万円       予備費
  ○当時東京市内ノ主要交通機関トシテハ東京馬車鉄道唯一ノモノタリシガ、電気鉄道其他ノ鉄道ヲ敷設セントセル者頗ル多ク、明治二十五年ヨリ是歳マデ内務省ニ出願セル者三十二ヲ算セリ。内務省亦此等請願ノ取捨ニ苦シミ、東京自働鉄道・東京電気鉄道・東京電車鉄道等就中有力ナリシ三社ニ合同ヲ勧メタル結果、東京市街鉄道株式会社ノ設立ヲ見、同社ハ三十二年八月十四日敷設特許ヲ内務省ニ出願シ、同二十二日東京市役所ニ其特許条件ニ付キ請願書ヲ提出セリ。市会ハ之ニ対シ九月十八日協議シ、市営トナスベキカ民営トナスベキカニ付市参事会ニ其調査及ビ原案提出ヲ求メタリ


渋沢栄一 日記 明治三二年(DK090049k-0003)
第9巻 p.422 ページ画像

渋沢栄一 日記  明治三二年
十月六日 晴
○上略 午後一時東京市役所ニ於テ市街鉄道許否ニ関スル参事会員会ヲ開ク○下略
十月十三日 曇
○上略 午後一時東京市役所ニ抵リ、市街鉄道ノ為ニ開キタル市参事会員会ニ列ス○下略


東京市参事会議事録 明治三二年(DK090049k-0004)
第9巻 p.422 ページ画像

東京市参事会議事録  明治三二年
十月六日(金曜日)雨
 本日開会
 出席 芳野世経・立田彰信・星亨・稲田政吉・石垣元七・安川繁成・高山権九郎・渋沢栄一・鈴木信仁・田口卯吉・鳩山和夫・長谷川深造
    市長・助役
 第一一六三二号 一覧―市街鉄道資本供給方書面
十月十三日(金曜日)晴
 本日開会 欠席 立田・鈴木
 第一一七〇四号 市街電気鉄道ニ関スル追申
  ○当時ノ市参事会議事録ハ上掲ノ如ク記事簡略ニシテ議事内容ヲ詳知スルヲ得ズ、外ニ速記録アリシカ、今東京市役所文書課ニ所蔵セズ。
  ○今次ニ掲グル東京経済雑誌記事ニヨリソノ議事ヲウカガフベシ。
  ○東京市参事会議事録ヲ通覧スルニ、栄一通常市参事会ニ出席スルコト殆ドナシ。コノ件ニ関シテ特ニ出席シタルモノノ如シ。


東京経済雑誌 第四〇巻第一〇〇〇号・第八四五―八四六頁〔明治三二年一〇月一四日〕 ○東京市街鉄道の特許条件(DK090049k-0005)
第9巻 p.422-424 ページ画像

東京経済雑誌  第四〇巻第一〇〇〇号・第八四五―八四六頁〔明治三二年一〇月一四日〕
    ○東京市街鉄道の特許条件
東京市街鉄道の敷設を三派合同の出願者へ特許するに関し、市参事会が議定せし条件は左の如し
    第一 布設線路及び軌道の件
 - 第9巻 p.423 -ページ画像 
一布設線路は延長二百哩とす
一軌道布設の順序区域並に着手竣工の期間は其時々東京市の承認を受くべし
一東京市に於て必要と認むる場合は予定線路又は布設順序を変更し若くは設計外と雖も布設せしむることあるべし
一鉄軌の形式及び重量等は東京市の承認を受くべし
一鉄軌は路面と高低なく之を布設すべし
一軌道内には雨水等の瀦溜せざる様東京市に於て相当と認むる設備をなすべし
一東京市に於て道路橋梁溝渠水道及び市区改正其他公共事業の為めに必要なりと認むる時は無償を以て軌道の変更又は鉄軌の撤去を為さしむることを得
一単軌道及複軌道を布設すべき場所は東京市の指示する所に従ふべし
    第二 原働力の件
原働力は架空(単複)電気式、蓄電池式、空気圧搾式の三種中の一を択び東京市の承認を経べし、但架空単線式は漏電問題決定の上再議に附す、若し漏電予防の道なき時は之を削除す
    第三 市に対する公納金
資本金に対し六分以上の利益あるときは、積立金準備金を控除したる純利益を折半し一部を市への公納金とす
    第四 布設道路幅員の件
道路の幅員は単軌道の場合に於ては六間以上複軌道の場合に於ては八間以上とし、専用軌道数《(敷)》は単軌道十二尺複軌道二十尺以上とす、但し甲乙線路連絡上止むを得ざる場合に於ては短距離間当分の内本項の幅員に達せざるも東京市の認許を受け布設することを得
前項の制限に満ざる道路は会社に於て之を拡築するに非ざれば軌道を敷設するを得す、但東京市が市区改正着手の線路に当る者は此限りに非らず
    第五 道路橋梁等に関する義務の件
一会社は東京市に於て行ふ軌道内及び軌道外両側一尺五寸づゝの道路修繕の費用を負担し、及撒水除雪等を行ふべし
一会社は前項に準拠し橋梁の撒水除雪掃除等を為し、及ひ東京市の定むる所の割合に従ひ橋梁溝渠の修繕改築費を負担すべし
一軌道に当る橋梁溝渠脆弱又は狭隘なりと認むるときは会社の貿用《(費)》を以て東京市之が改築修理を行ふ者とす、但し本項の橋梁溝渠等は東京市の公有に帰する者とす
    第六 乗車賃銭の件
一乗車賃銭の律《(率)》を定め又は之を変更する時は、東京市の承認を受くべし
    第七 発車度数及営業時間の件
一発車度数及ひ営業時間は東京市の承認を受くべし
    第八 営業期限の件
一会社営業期限は営業開始の日より向ふ三十ケ年と定む
 - 第9巻 p.424 -ページ画像 
    第九 工事着手及び竣工期限の件
一工事施行認可の後六ケ月内に起工し向ふ五ケ年間に竣工をなすべし、但市区改正の都合により延期を与ふることあるべし
    第十 年限後処分の件
一営業年期限満了の後は時価を以て東京市に買上ることを得
    第十一 資本額に関する件
一会社に於て既定資本額千五百万円を増加し若くば社債を起さんとする場合は、予め東京市の承認を受く可し
    第十二 市の監督に関する件
一東京市は何時にても特定監督市吏員を派し会社営業の実況を監査することを得、又会社へ対し営業の実況を報告せしむることを得
一東京市は会社に対し営業収支に関する帳簿書類の検査を為すことを得、特に総収入金の監督取調を為すことを得
一本条件の外、設計、工場、業務等の事項に付き東京市が新に設定する条件及び既定条件の変更等は凡て之を遵守すべし
一本条件を会社に於て履行せざる時は、会社の費用を以て東京市之を行ひ、其必要処分を行ふことを得
    ○市街鉄道条件に対する会社の申出
市街鉄道に対する条件は別項の如く決定し、市役所は直に発起人を召喚して之を示したるに、発起人は略左の如き申出をなしたりと云ふ
 該条件中道路橋梁等間接の負担、敷設道路の幅員、免許年限、乗車賃銭、会社収入撿査、市区改正負担の条々に就ては敢て異論なきも納附金額に就ては株主配当割六朱とあるを八朱以上に引上げられたし、然らずんば会社は到底命令に堪ゆる能はず、云々
右の理由は現今銀行若くは会社の配当利子の比例を見るに、概ね八朱又は一割以上に上り居るに、若し参事会の決議に従ふ時は、進んで株主となるもの少く、到底一千五百万円の資本を集むる能はざるに至るべしといふに在りと、果して然る乎、何ぞ夫れ然らんや、若し東京馬車鉄道会社の如く三割以上の利益ありとせば、之より六分を差引き、残金の二割四分の一半を市に納むるも、株主の配当は優に一割八歩以上となるに非ずや、此の如き有利の事業に向つて資金を集むる能はずとは、予輩その何の謂たるを知らざるなり
    ○東京市街鉄道市有同盟会の決議
当市に於る市街鉄道市有論者は、去日日本橋倶楽部に会して、左の如き決議を為せり
    決議
 東京市街鉄道は明治三十一年第四十四号第四十四号第九十二号議案にて市会が決議を為したる通り施行すべきものとす、但し動力の事は今敢て之を決議せず
 一現任市会議員にして前項の決議を無視し市街鉄道市有説に反対する者は市民の希望に副はざるを以て極力其反省を求む
 一本会は東京市市街鉄道市有同盟会と本日より名称す


東京経済雑誌 第四〇巻第一〇〇〇号・第八一〇―八一一頁〔明治三二年一〇月一四日〕 ○東京市街鉄道の特許条件(DK090049k-0006)
第9巻 p.424-426 ページ画像

東京経済雑誌  第四〇巻第一〇〇〇号・第八一〇―八一一頁〔明治三二年一〇月一四日〕
 - 第9巻 p.425 -ページ画像 
    ○東京市街鉄道の特許条件
予てより東京市吏員に於て調査中なりし東京市街鉄道の特許条件は、去六日の市参事会に提出せられたり、此の条件を審議するに先ちて決せざるべからさるは、市街鉄道は市の経営と為す乎、将た私設会社に経営せしむる乎是なり、此の問題に対して討議したるに、採択の結果は左の如し
    市有説を賛成主張せし者
鈴木信任・長谷川深造・高山権次郎・立田彰信・芳野世経・安川繁成(以上名誉市参事会員)佐藤正興(市助役)
    民有説を賛成主張せし者
星亨・渋沢栄一・田口卯吉・鳩山和夫・稲田政吉・石垣元七(以上名誉市参事会員)朝倉外茂鉄・浦田治平(以上市助役)
夫より特許条件に就て審議を尽し、之を修正可決せり、今其の修正の重もなるものを左に掲ぐ
    第一 布設線路及ひ軌道の条中
 修正 鉄軌の形式及び重量等は東京市の承認を受くべし
 原案 鉄軌は凹字形と丁字形のものを使用せんとする時は東京市の承認を受くへし
    第二 原働力の件
 修正 原働力は架空(単複)電気式、蓄電池式、空気圧搾式の三種中の一を択ひ、東京市の承認を受くべし、但架空単線式は漏電問題決定の上再議に附す、若し漏電予防の道なき時は之を削除す
 原案 本項は未定とす
    第三 市に対する公納金
 修正 資本金に対し六分以上の利益ある時は、積立金準備金を扣除したる純利益を折半し、一部を市への公納金とす
 原案 会社は六ケ月間を通算して、平均一日一哩四十円以上の収入の場合に至り、総収入金の割合により其収入金百分の一以上百分の八以内の納金をなすこと、其の割合左の如し
    一日一哩平均収入 (営業総収入に対する割合)
  一金四十円以上五十円未満 百分の一
  一金五十円以上七十五円未満 百分の二
  一金七十五円以上百円未満 百分の三
  一金百円以上百二十五円未満 百分の四
  一金百二十五円以上百五十円未満 百分の五
  一金百五十円以上百七十五円未満 百分の六
  一金百七十五円以上二百円未満 百分の七
  一金二百円以上 百分の八
  一日一哩の収入四十円未満の場合と雖、一ケ年純益金一割以上の割合なるときは、尚ほ四十円以上五十円未満の率により納金を為すべし、又純益金の多額なる場合は本項の公納金率を変更することあるべし
    第六 乗車賃銭の件
 修正 乗車賃銭の率を定め又は之を変更する時は、東京市の承認を
 - 第9巻 p.426 -ページ画像 
受くべし
 原案 乗車賃は距離の長短に拘らず、布設哩数三十哩に達せざる間は金三銭、三十哩以上百哩に達せざる間は金四銭、百哩以上は金五銭とす
  学生職工及び往復乗客等の為め特に割引切符を発行すべし、其割引方法は東京市の承認を受くべし
○下略
  ○右十月六日ノ参事会ニ於テ議決セシ特許条件中、公納金ノ件ニツキ会社発起人ハ之ヲ過重ナリシトシテ市参事会ニ条件ノ緩和ヲ申入ル。依テ市参事会ハ十月十三日再ヒ協議ノ結果次ニ掲グル如ク修正セリ。
  ○市街鉄道ノ民営意見ニツイテハ栄一商業会議所会頭トシテ建議セルコトアリ。(本巻第四一二頁参照)


東京市公文 市会明治三二年(DK090049k-0007)
第9巻 p.426-427 ページ画像

東京市公文 市会明治三二年         (東京市役所所蔵)
   明治三十二年十月十四日提出
                  東京市参事会
                  東京市長 松田秀雄
    市街鉄道ニ関スル特別条件
第一 布設線路及軌道ノ件
 一布設線路ハ別冊○略ス ノ通リ延長二百哩トス
 一軌道布設ノ順序区域並ニ着手竣工ノ期間ハ其時々東京市ノ承認ヲ受クヘシ○外六項略ス
第二 原働力ノ件
 原働力ハ圧搾空気式蓄電池式架空単複線電気式トス
 前項何レノ方式ヲ使用スル場合ト雖モ東京市ノ承認ヲ受クヘシ
第三 市ニ対スル公納金ノ件
 会社ハ其払込株金ニ対シ年七分《(六)》ノ配当ヲ為シ尚ホ剰余ノ純益アルトキハ、其剰余純益ノ内ヨリ法定積立金準備金及後半期繰込金ヲ控除シタル残額ノ三分ノ一《(十分ノ三)》ヲ道路使用料トシテ上納スヘシ
第四 布設道路幅員ノ件○略ス
第五 道路橋梁等ニ関スル義務ノ件○略ス
第六 乗車賃銭ノ件
 乗車賃銭ノ率ヲ定メ又ハ之ヲ変更スルトキハ、東京市ノ承認ヲ受クヘシ
第七 発車度数及営業時間ノ件○略ス
第八 営業期限ノ件
 会社営業期限ハ営業期限ハ営業開始ノ日ヨリ向フ参拾ケ年ト定ム
第九 工事着手及竣工期限ノ件
 工事施工認可ノ後六ケ月内ニ起工シ向フ五ケ年間ニ竣工ヲ為スヘシ但市区改正ノ都合ニ依リ延期ヲ与フ事アルヘシ
第十 年限後処分ノ件
 営業期限満了ノ後ハ時価ヲ以テ東京市之ヲ買上ルコトヲ得
第十一 資本額ニ関スル件
 会社ニ於テ既定資本額ヲ増加シ若クハ社債ヲ起サントスルトキハ、予メ東京市ノ承認ヲ承クヘシ
 - 第9巻 p.427 -ページ画像 
第十二 市ノ監督ニ関スル件
 東京市ハ何時ニテモ特定監督市吏員ヲ派シ、会社営業ノ実況ヲ監督スルコトヲ得
 東京市ハ会社ニ対シ営業収支ニ関スル帳簿書類等ノ検査ヲ為スコトヲ得、特ニ総収入金ノ監督取調ヲ為スコトヲ得
 本条件ノ外設計工場業務等ノ事項ニ付キ東京市カ新ニ設定スル条件及ヒ既定条件ノ変更等ハ凡テ之ヲ遵守スヘシ
 本条件ヲ会社ニ於テ履行セサルトキハ、会社ノ費用ヲ以テ東京市之ヲ行ヒ、其必要処分ヲ行フコトヲ得
  ○右ハ十月十四日付ヲ以テ市参事会ヨリ市会ニ提出ニ及ベル原案草稿ナリ。第三項市ニ対スル公納金ノ件中、年六分ノ配当ノ六ヲ七ニ改メ、残額ノ十分ノ五ヲ三分ノ一ニ改メタル痕アリ。蓋シ十月六日ノ決議ヲ十三日修正シタルモノナルベシ。
  ○右原案ハ十月十九日東京市会ニ於テ更ニ重大ナル修正ヲ加ヘラル。


東京市会史 第二巻・第二四七―二八一頁〔昭和八年三月〕(DK090049k-0008)
第9巻 p.427-430 ページ画像

東京市会史  第二巻・第二四七―二八一頁〔昭和八年三月〕
▽市街鉄道布設条件ニ関スル件 十月十四日附ヲ以テ、市参事会ヨリ左ノ議案提出アリタリ。
 第九十三号
   市街鉄道布設条件ニ関スル件
 東京市街鉄道布設出願人藤田重道外十四名ヨリ本市ニ対シ、別紙ノ通リ請願書ヲ提出セリ。依テ本市ハ左ノ特別条件ヲ付シ、申出ノ趣旨ヲ認許スルモノトス。
   市街鉄道ニ関スル特別条件(右側ノ○印ハ市会ニテ修正左側ノ―印ハ市会ニテ削除)
第一 布設線路及軌道ノ件
 一布設線路ハ別冊ノ通リ延長二百哩トス
 一軌道布設ノ順序区域並ニ着手竣工ノ期間ハ其時々東京市ノ承認ヲ受クヘシ
 一東京市ニ於テ必要ト認ムル場合ハ予定線路又ハ布設順序ヲ変更シ、若クハ設計外ト雖モ布設セシムルコトアルヘシ
 一鉄軌ノ形式重量等ハ東京市ノ承認ヲ受クヘシ
 一鉄軌ハ路面ト高低ナク之ヲ布設スヘシ
 一軌道内ニハ雨水等ノ瀦溜セサル様東京市ニ於テ相当ト認ムル設備ヲ為スヘシ
 一東京市ニ於テ道路、橋梁、溝渠、水道及市区改正其他公共事業ノ為メニ必要ナリト認ムルトキハ、無償ヲ以テ軌道ノ変更又ハ鉄軌ノ撤去ヲ為サシムルコトヲ得
 一単軌道及複軌道ヲ布設スヘキ場所ハ東京市ノ指示スル処ニ従フヘシ
第二 原動力ノ件
 原動力ハ圧搾空気式、蓄電池式、架空単線電気式トス
 前項何レノ方式ヲ使用スル場合ト雖モ東京市ノ承認ヲ受クヘシ
  但シ架空単線電気式ハ流電漏洩ノ予防ノ設備充分ナル場合ニ限ル
第三 市ニ対スル公納金ノ件
 - 第9巻 p.428 -ページ画像 
 会社ハ其払込株金ニ対シ年七分ノ配当ヲ為シ尚ホ剰余ノ純益アルトキハ、其剰余純益ノ内ヨリ法定積立金準備金及後半季繰越金ヲ控除シタル残額ノ三分ノ一ヲ道路使用料トシテ納附スベシ
 会社ハ六ケ月間ヲ通算シ平均一日一哩四拾円以上収入ノ場合ニ至リ左ノ割合ニ依リ市ニ納金ヲ為スベシ
   一日一哩平均収入        営業総収入ニ対スル割合
   一金四拾円以上五拾円未満        壱百分壱
   一金五拾円以上七拾五円未満       壱百分弐
   一金七拾五円以上百円未満        壱百分参
   一金百円以上百弐拾五円未満       壱百分四
   一金百弐拾五円以上百五拾円未満     壱百分五
   一金百五拾円以上百七拾五円未満     壱百分六
   一金百七拾五円以上弐百円未満      壱百分七
   一金弐百円以上弐百二拾五円未満     壱百分八
   一金弐百弐拾五円以上弐百五拾円未満   壱百分九
   一金弐百五拾円以上           壱百分拾
第四 布設道路幅員ノ件
 道路ノ幅員ハ単軌道ノ場合ニ於テハ六間以上、複軌道ノ場合ニ於テハ八間以上トシ、専用軌道敷ハ単軌道十二尺、複軌道二十尺以上トス
  但甲乙線路連絡上止ムヲ得サル場合ニ於テハ短距離間当分ノ内本項ノ幅員ニ達セサルモ、東京市ノ認許ヲ受ケ布設スルコトヲ得
 前項ノ制限ニ充タサル道路ハ会社ニ於テ之ヲ拡築スルニアラサレハ軌道ヲ布設スルヲ得ス、但東京市カ市区改正着手ノ線路ニ当ルモノハ此限リニアラス
第五 道路橋梁等ニ関スル義務ノ件
 一会社ハ東京市ニ於テ行フ軌道内及ヒ軌道外両側壱尺五寸ツヽノ道路修繕ノ費用ヲ負担シ及撤水除雪等《(撒)》ヲ行フヘシ
 一会社ハ前項ニ準拠シ橋梁ノ撤水除雪掃除等ヲ為シ及ヒ東京市ノ定ムル処ノ割合ニ従ヒ橋梁溝渠ノ修繕改築費ヲ負担スヘシ
 一軌道ニ該ル橋梁溝渠脆弱ハ又狭隘ナリト認ムルトキハ会社ノ費用ヲ以テ東京市之カ改築修理ヲ行フモノトス、但本項ノ橋梁溝渠等ハ東京市ノ公有ニ帰スルモノトス
第六 乗車賃銭ノ件
 乗車賃銭ノ率ヲ定メ又ハ之レヲ変更スルトキハ東京市ノ承認ヲ受クヘシ
第七 発車度数及営業時間ノ件
 発車度数及営業時間ハ東京市ノ承認ヲ受クヘシ
第八 営業期限ノ件
 会社営業期限ハ営業開始ノ日ヨリ向フ参拾ケ年ト定ム
第九 工事着手及竣工期限ノ件
 工事施行認可ノ後六ケ月内ニ起工シ向フ五ケ年間ニ竣工ヲ為ス可シ、但市区改正ノ都合ニ依リ延期ヲ与フル事アルヘシ
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第十 年限後処分ノ件
 営業期限満了ノ後ハ時価相当価額ヲ以テ東京市之ヲ買上ルコトヲ得
第十一 資本額ニ関スル件
 会社ニ於テ既定資本額ヲ増加シ若クハ社債ヲ起サントスルトキハ予メ東京市ノ承認ヲ受クヘシ
第十一二 市ノ監督ニ関スル件
 一 東京市ハ何時ニテモ特定監督市吏員ヲ派シ、会社営業ノ実況ヲ監査シ、又会社ヘ対シ営業ノ実況ヲ報告セシムルコトヲ得
  東京市ハ会社ヘ対シ営業収入ニ関スル帳簿書類等ヲ監査スルコトヲ得
 一 本条件ノ外、設計、工事、業務等ノ事項ニ付キ、東京市カ新ニ設定スル条件及ヒ既定条件ノ変更等ハ凡テ之ヲ遵守スヘシ
 一 本条件ヲ会社ニ於テ履行セサルトキハ、会社ノ費用ヲ以テ東京市之ヲ行ヒ、其他必要処分ヲ行フコトヲ得
(別紙)
    請願書
 私共本年八月十四日附ヲ以テ内務大臣ヘ出願仕候東京市内交通機関設備ノ件ハ、東京市ニ於ケル重要ノ事業ニ御座候、種々取調ノ上、東京市ト会社トノ関係別紙条件ノ如クセハ、双方ノ為メ将来之便利ト存候ニ付キ、何卒別紙条件ニヨリ速ニ私共ヘ特許相成候様、主務大臣ヘ御上申被成下度、出願書類図面等相添此段奉請願候也
  明治三十二年八月二十二日
              東京市街鉄道敷設特許出願人連名
   東京市参事官
    東京市長 松田秀雄殿
(別紙)
      特許条件
 第一 市ヘ対スル納金ノ件
  会社ハ六ケ月間ヲ通算シテ、平均一日一哩五拾円以上収入ノ場合ニ至リ、総収入金多少ノ割合ニヨリ総収入金ノ百分ノ弐以上、百分ノ八以内ノ納金ヲナス事、其割合左ノ如シ
      一日一哩平均収入    営業総収入ニ対スル割合
  一金五拾円以上七拾五円未満      壱百分弐

    総収入及納金予算概表(壱箇年弐百哩ニ対スル積算)

図表を画像で表示総収入及納金予算概表(壱箇年弐百哩ニ対スル積算)

 一日一哩平均収入      総収入金額      市納金率   市納金額                      円                 円 五拾円以上ノトキ     三、六五〇、〇〇〇   、〇二      七三、〇〇〇 七拾五円以上ノトキ    五、四七五、〇〇〇   、〇三     一六四、二五〇 百円以上ノトキ      七、三〇〇、〇〇〇   、〇四     二九二、〇〇〇 百弐拾五円以上ノトキ   九、一二五、〇〇〇   、〇五     四五六、二五〇 百五拾円以上ノトキ   一〇、九五〇、〇〇〇   、〇六     六五七、〇〇〇 百七拾五円以上ノトキ  一二、七七五、〇〇〇   、〇七     八九四、二五〇 弐百円以上ノトキ    一四、六〇〇、〇〇〇   、〇八   一、一六八、〇〇〇 



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  一金七拾五円以上百円未満      壱百分参
  一金百円以上百弐拾五円未満     壱百分四
  一金百弐拾五円以上百五拾円未満   壱百分五
  一金百五拾円以上百七拾五円未満   壱百分六
  一金百七拾五円以上弐百円未満    壱百分七
  一金弐百円以上           (金率脱)

東京経済雑誌 第四〇巻第一〇〇五号・第一〇七五―一〇七六頁〔明治三二年一一月一八日〕 〇錦輝館に於ける東京市街鉄道 市有期成同盟会大会に於て(田口卯吉演説)(DK090049k-0009)
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東京経済雑誌  第四〇巻第一〇〇五号・第一〇七五―一〇七六頁〔明治三二年一一月一八日〕
    〇錦輝館に於ける東京市街鉄道
     市有期成同盟会大会に於て(田口卯吉演説)
〇上略
本年十月六日の東京市参事会は初めて東京市街鉄道の事に関して、民有の事を一名の多数にて決したるものにてありき、余も亦民有を主張したる者の一人なり、時に余は云へり、余は条件あり、此条件は第二読会に於て主張すべし、若し此条件にして行はれざれば第三読会に至りて市有説を主張するものなり」と、然るに余が主張したる条件は全会一致にて異論なく行な《(は脱)》れたり、其条件とは他にあらず、会社の利益は六朱までは無税とし、其以上の純益を折半して市に納むること是れなり
此条件を立つるの理由は一応弁せざるべからざるなり、抑も何故に六朱までは無税となすやと云ふに、東京市が自ら此鉄道を建設する場合に於いても、必ず六朱以上の市公債を発行して其資金を得ざるべからず、故に自ら之を運転するも損失せざるべからざるなり、是れ六朱までは無税となす所以なり、而して何故其以上を折半するやと云ふに、実際今日の場合に於ては六朱にては市公債は募集し難き事なり、此程募集したる市公債も九十八円なりしが、実は真正に募集せられたるにあらずと云へり、去れば市自ら一千五百万円を募集する場合に於ては九十円位までは下落することを覚悟せざるべからず、是れ会社に六朱を与ヘたる後、尚二分の一を与ふるを至当とする所以なり、斯く市参事会は此点に於て既に会社をして利益を壟断せしめざりし為めに他の点には大に之に便利を与へたり、譬へば鉄軌の如きも原案は凹字形を必要としたるを工字形にて可なりとし、賃銭に於て原案は非常の制限ありしを市参事会は大に之を緩にせり、是れ大綱を押へたるを以て細目に於て会社の便利を計りたる也、然るに会社は六朱二分一の制限を以て厳酷なりとして歎願し来れり、星亨氏は七朱と三分一説を主張したり、余は既に七朱を与ふる以上更に三分の二を与ふるの理由なきことを論し前説を主張したり、何となれは東京市は自ら七朱にて市公債を募集し得るを以て更に三分の二を与ふるは会社に非常の利を特恵するものなれば也、然るに此日は渋沢・鈴木等の諸氏の出席なく且市長助役は此七朱三分一説を原案としたりし為めに終に多数にて此説に決したり、是れ十月十三日の事なり〇以下十一月十六日ニツヅクノ項所引
  〇右演説中、十月十三日市参事会ニ栄一ノ出席ナシトアレド、日記及市参事会議事録ニヨレバ出席シ居レリ。

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東京経済雑誌 第三六巻・第九〇五号〔明治三〇年一二月四日〕 〇第一二八四―一二八六頁 〇東京市街鉄道に対する市会の意見(DK090049k-0010)
第9巻 p.431-432 ページ画像

東京経済雑誌  第三六巻・第九〇五号〔明治三〇年一二月四日〕
 〇第一二八四―一二八六頁
    〇東京市街鉄道に対する市会の意見
東京市街電気鉄道の敷設を政府に出願せるもの二派あり、一を福沢派と云ひ一を雨宮派と云ふ、政府は此の二派に斉しく許可を与ふることに閣議を決定したる由にて、内務省に於ては目下東京府庁に向ひて、許可すべき線路に付、水道鉄管其の他の関係上差支なきや否やを照会中にて、東京府庁の答申を待ちて許可の指令を下し、其の願書を東京府庁に回附し、同府庁より出願者に交付することとなり居れりと云ふ是に於て余輩は、東京市街の交通をして便利ならしむるは方今の急務なりと雖も、市街電気鉄道の敷設を私設会社に許可するが如きは、其の前途の利害得失に関して深く思慮する所なかるべからざる旨を論じて、東京市民の注意を喚起する所ありしが、果然東京市会の問題となれり、余輩は先づ市会議員諸氏か市の利害得失を等閑に付せさることを賞せさるへからさる也、去月廿九日夕の東京市会に於て議員利光鶴松氏は東京市街電気鉄道敷設の許可を市会に諮問すべしとの建議案を提出し、其の理由を説明して曰く、本件は市の重大問題にして、実に其安危に係るものなり、然るに市民全般の意向をも確めず、一に政府の意思に任せば、将来の為め一大災害を来すことなしとせず、殊に其仕様方法として伝はる所の蓄電池式の如きは、欧洲諸国に於ても経済上得失償はず、実施の望なきものとの説あるに、単に株屋連の魂胆に任せば、其事業は実に誠意なきものにして、軽々しく許可すべきものにあらず、故に充分取調の必要ありと思量す云々と、番外鈴木書記官は弁明して曰く、目下府庁に於ては市会に諮問すべき手続を為しつゝありと、議員長谷川泰氏は建議案を賛成して曰く、政府は之を市会に諮問するもせざるも一に其適宜にあるが如くなれども、斯は実に危険千万にして、聞く所に依れば政府は或る目的の為に電気鉄道を許可し之を以て政党操縦の策に当て居るが故に、若し市会に諮問して否決せば取返しつかずとの理由を以て無断専行せんとするものなり、而して久我前知事を放逐して岡部新知事を入れたるも亦此辺の魂胆なりとの説あり、果して然らば是れ実に当局者弾劾の価値あるものにして、驚き入りたる事と云はざるべからず、故に余は飽まで之を市会に諮問すべしとの議を賛するものなりと、斯くて二三質問の後討論終結し、全会一致を以て之を内務大臣に建議することに決し、左の意見書を呈出せり
    市内鉄道許否に関する意見書
 市内に於て一日も速に交通機関の完備を要するは今更喋々を要せざる所なり、然れども其速成を望む為に交通機関其物の撰択を誤るが如きことありては実に一大事と謂はざるべからず、頃日来の風説に依れば我東京市内交通機関としては蓄電池式電気鉄道を許可せらるることに内定せられたるやに伝ふ、果して然るに於ては之を許可するの前に当て一応当市会に諮問せられんことを望む
 右市会全会一致の決議に依り市制第三十二条市の公益の事業に関す
 - 第9巻 p.432 -ページ画像 
る儀に付意見書呈出仕候也
  十一月二十九日
               東京市会議長 須藤時一郎
    内務大臣 伯爵 樺山資紀殿
蓋し市街電気鉄道許否の権は政府に在りと雖も、之を決するには予め市会の意見を徴せざるべからず、然らば市会は如何なる意見を以て政府の諮問に答へんとするか、議員佐久間貞一氏は発議して曰く、市街電気鉄道の敷設は本市交通機関として必要なる問題にして、一私立会社に許可するの如何を気遣ふものなれば、本市の営造物とし本市自ら之を布設し、一方には本市の収入財源ともなし、自治の基礎をして益益鞏固果ならしめんと欲す、故に此際市参事会に於て布設の方法其他に就き充分なる調査を為し本会へ提出せられん事を望むと、此の発議は多数にて可決せられたり、余輩か市会に望む所実に玆に在り、市会は東京馬車鉄道の弊に鑑みて、電気鉄道をば自から経営せさるべからざることなり
現内閣は輿論を無視するものなり、況や東京市街電気鉄道の敷設は政党操縦の具となれるに於てをや、若し東京市会に諮問せずして之を私設会社に許可せば如何、佐久間氏は之か予防として委員五名を撰挙し以て運動せしめんことを発議し、多数にて可決せられたり

東京経済雑誌 第三六巻・第九〇五号〔明治三〇年一二月四日〕 ○第一三一五頁 ○市内電気鉄道に関する東京市会の決議(DK090049k-0011)
第9巻 p.432-433 ページ画像

 ○第一三一五頁
    ○市内電気鉄道に関する東京市会の決議
東京市内電鉄道敷設《(気)》の件は曩に内務省に於て敷設条件を定め、東京馬車鉄道会社以下三派の出願者に許可の内訓を示したるに、該出願人中電気電車両派は電気鉄道敷設権を得るに就て何か当局者との間に事情の蟠るものゝ如き風聞ある上に、内務省は遂に市会に諮問せずして許可を与ふべしとの報さへ頻りなしが、去月廿九日午後四時半より開きたる東京市会に於て利光鶴松氏は、
 電気鉄道敷設の許否を市会に諮問すべし
との建議案を提出したり、同氏は同案提出の理由を説明せしが、其主意は市内鉄道は市の利害に取て重大問題なるに、若し其許否を挙て政府の意志に一任せば、或は一大災害を市に及ほさんも知るべからず、故に彼の許否は充分調査の必要ありと云ふに在りき、然るに長谷川泰氏は大賛成を表し、政府は或る目的のために電気鉄道を許可し、以て政党操縦の策に充て、市会への諮問を廃して無断専行せんとするは頗る弾劾の価あるものなりとて、熱心に該建議案に賛成せり、之に次で朝倉外茂鉄、峯尾勝春、町田朝太郎の諸氏と番外鈴木書記官との間に質問応答ありたる末、討論終結し、全会一致利光氏の建議を可決せり
右可決佐久間貞一氏より
 市の営造物の権利を保護する為め別に取調委員を設けて此電気鉄道敷設の件の如きは必ず十分に審議せしむるの件
 市内の交通機関は本市の事業として本市自ら之に当るべき必要あり故に他の築港、水道の如く市税のみに仰がずして別に他の方法を設くる事、並に之を布設するの利害を調査する事
の二個建議案を提出せしが、前案は五名の委員を設置して調査せしめ
 - 第9巻 p.433 -ページ画像 
後案は全会一致可決せり


東京経済雑誌 第四〇巻第一〇〇三号・第一〇〇三頁〔明治三二年一一月四日〕 ○街鉄問題に対する小松原次官の答言(DK090049k-0012)
第9巻 p.433 ページ画像

東京経済雑誌  第四〇巻第一〇〇三号・第一〇〇三頁〔明治三二年一一月四日〕
    ○街鉄問題に対する小松原次官の答言
代議士島田三郎氏は街鉄道問題に付小松原内務次官を訪問して其の意見を叩きたるに、次官は左の如く答へたりと云ふ
 従来市が自ら経営するの方針を責任を執りて申請せず、故に此事実地の問題とならず
 如何なる事情が許可を得るに便ならんとの松田市長の問に対し、三派の請願と市の意思と協調せば、内務が許可を与ふるに便なる者あらんと答へたり、然れ共此協調さへあらば、其れに許可すと答へたること無し、現時内務省に於ては諸外国の例を調査し、市と会社の関係及び年期尽くるの後処分の方法等を案じつゝあり、一方には動力問題すら、容易に決すべくもあらず、且つ市区改正調査会に曾て交通機関と道幅の関係を諮問したるに、其答案は今回市が決議せし者と齟齬するを以て、此一点よりするも、此案を基礎とする請願を許可する能はず、会社は交通頻繁の大道に布設して巨利を得んとするも、政府は山の手迄の要道を布設するの義務を厳課せざれば交通の便利を開くの方法に非ずと思考す、市区改正と市街鉄道の関係定まらざる者に許可すること能はず



〔参考〕東京経済雑誌 第四〇巻第九九七号・第六五〇頁―六五四頁〔明治三二年九月二三日〕 ○東京市街鉄道と内務省(DK090049k-0013)
第9巻 p.433-437 ページ画像

東京経済雑誌  第四〇巻第九九七号・第六五〇頁―六五四頁〔明治三二年九月二三日〕
    ○東京市街鉄道と内務省
東京市街に電気鉄道の敷設を出願したるは、去明治二十六年十一月東京馬車鉄道会社が其の動力を変更して単線式電気鉄道と為さんことを出願したるを以て始とし、翌廿七年三月には藤岡市助氏外五名より単線式電気鉄道の敷設を出願し、同年十月には雨宮敬次郎氏外四十名より同一の出願あり、翌十一月には立川勇次郎氏外数名より蓄電池式電気鉄道敷設の出願あり、而して此の三者は翌廿八年四月を以て合併せりと雖も、同月中更に中央電気鉄道(単線式)浅草電気鉄道(単線式)の出願あり、越えて同年六月には福沢捨次郎氏外三名より東京電車鉄道(複線式)の出願あり、都合五件となれり
斯くて同年七月八日内務省にて開きたる電気鉄道調査会は、審議を尽したる上にて市内電気鉄道の敷設は、単線複線両式共に許可せさることに決したりしが、其の理由は左の如くなりき
 単線式は水道鉄管其の他に有害なれば固より許可すべからず、複線式は市区改正の設計上其の他に障害あるを以て、是亦許可すべからず、尤も蓄電池式にて敷設せんとするものには相当の条件を附して許可するも可なり
此の時の内閣は伊藤内閣にして、内務大臣は野村子爵なりき、野村大臣は更に東京市区改正委員会の意見を徴したるに、同年八月廿四日を以て開きたる同委員会は、電気鉄道に関し左の如き決議を為せり
 一、架空式単線法は地下に埋没せる各種の金属管(水道鉄管、瓦斯鉄管等)に電気分解作用を起し、腐敗せしむるの虞あるを以て、此
 - 第9巻 p.434 -ページ画像 
の法式は本市に於て採用すべからず
 一、架空式複線法は市区改正条例により街路改正したる場所に限り適切の区間を定め、左の制限に照し、敷設するも妨げなし
  一、麹町区・日本橋区・京橋区及び神田区内に於ては宮城附近若くは交通上支障ありと認むる道路を除き二等以上の道路、及び連接上已むを得ざる場合に於ては少距離に限り三等道路
  二、他の各区に於ては三等以上の道路、郡区連接上已むを得ざる場合に限り四等道路
  三、電気鉄道線路は総て複軌道に敷設するを要す
 一、蓄電池式は建柱架線を要せさるを以て、右二式中に於ては蓄電池式を採用せらるゝを可とす
 一、暗渠式諸法は本市街路の実況に於て実際施行に適せざるものとす
 一、電気鉄道免許の線路及び其の区間並に其の他建設上遵守せしむべき必要の条件を定めらるゝ場合に於ては、更に本会に諮問せられんことを要す
故に電気鉄道調査会にては、蓄電池式を除く外は単線式複線式共に許可すべからずと決し、市区改正委員会にては単線式及び暗渠式諸法を除きては許可すべしと云ふものなりき、然るに蓄電池式と為すに於ては巨額の興業費を要し到底収支相償はざるを以て、野中万助氏等は電気以外の動力を以て市街鉄道を敷設せんと欲し、工学士藤田重道氏は最新の動力たる圧搾空気を採用せんとて之に関する調査を為し、終に明治廿九年三月東京自動鉄道の敷設を出願するに及べり、野村内務大臣は前記の決議を採用して電気鉄道を処分するに至らずして辞職し、之に代りたる板垣内務大臣は市内電気鉄道に対する内務省の方針を左の如く内定したる由にて、之を新聞紙に掲げて世に公にせられたり
 一、東京市内電気鉄道は有利なる事業なるを以て、私設会社の独占に委すべきものならず
 二、東京市内電気鉄道は之を市の事業と為し、以て其の収利を市の経費に充るを至当なりとす
 三、若し市の事業と為す時は、一方には市の収益を得るの利あるのみならず、私設会社の如く漫に私利独占の弊を舒長するの憂なく、又公衆の便利を図りて可成的賃銭を低下せしむるの利ありとす
 四、東京馬車鉄道会社は許可の年限内は無論自由に営業を為し得べきも、若し之を電気鉄道に改設するが如きことあるに於ては、之が許可を与ふべきものにあらず
板垣伯が東京市内電気鉄道に対する内務省の方針を右の如く内定したるは去る明治二十九年五六月の交にして、其後に至り東京市会に市街鉄道市有論の起りたるは一は伯の意見に基きたるものなるべし、板垣伯は此の意見を実行するに至らずして辞職したりと雖も、伯は今日も依然として市有説を主持せらるゝものと見え、自由党が所謂三派の合同を周旋し彼が如く私設に熱中せるにも拘らず、伯は市街鉄道の市有ならざるべからざる旨を新聞記者に語りて紙上に掲載せしめたり
板垣伯に代りて内務大臣となりしは樺山伯にして、其の内閣は松隈内
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閣なりき、此の内閣は福沢氏等の出願に係る東京電車鉄道と、藤岡市助氏等の出願に係る東京電気鉄道とに区を分ちて許可を与ふることに閣議を決定したる由にて、内務省は許可の手続に着手し、先づ東京府庁を経て東京馬車鉄道会社には其の既設線内に、東京電気には神田・日本橋・京橋・本郷・下谷・浅草・本所・深川の八区に、東京電車には麹町・芝・麻布・四谷・牛込・小石川の七区に線路変更したる上にて電気鉄道の敷設を特許すへき内命を伝へたり、是れ所謂内務大臣の指示条項たるものにて、之を以て一種の行政命令と為し、此の命令を受けたる二派は、爾後実際敷設の特許を得るに至らざりしにも拘らず東京市街に電気鉄道を敷設することは、此の二派の既得権と称するに至れり
    ○東京市街鉄道と市会
去明治三十年中松隈内閣が東京市街電気鉄道に関する閣議を決定し、東京馬車鉄道会社以下三派の出願者に区を分ちて許可すべき内意を伝ふるや、内務省は東京市会に諮問せずして許可を与ふべしとの風評盛なりしかば、同年十一月廿九日の市会に於て利光鶴松氏は
 電気鉄道敷設の許可を市会に諮問すべし
との建議案を提出し、長谷川泰氏は政府が或る目的の為に電気鉄道を許可して政党操縦の策に充て、市会への諮問を廃して専決せんとするは弾劾の価あるものなりとて之に大賛成を表し、而して市会は全会一致を以て本案を可決せり、右可決後佐久間貞一氏は更に
 市の営造物の権利を保護する為め別に取調委員を設けて、此の電気鉄道敷設の如きは必ず十分に審議せしむるの件
 市内の交通機関は本市の事業として本市自ら之に当るべき必要あり故に他の築港水道の如く市税のみに仰がずして別に他の方法を設くる事、並に之を布設するの利害を調査する事
の二建議案を提出したるに、前案は委員付托となり、後案は直に可決せられたり、斯くて翌三十一年六月六日に至り、市街鉄道市有説は左の議案となりて市会に現はれたり
 (第四十四号)市内鉄道敷設の件
 東京市交通機関たる市内鉄道は本市に於て敷設するを便利と認むるに付、之が敷設権許可を其筋に請願するものとす、但該鉄道線路は別紙図面の如く仮定し、其の敷設方法及び採用すべき方式等は、目下調査中に属するを以て、追て之を議決し、其の筋に追申すべきものとす(別紙は略す)
本案は市の大問題にして、其の敷設費の如きも八百七十余万円を要し之が財源及び其の市有とする利害等に付ても、充分に調査を要すべしとて、十五名の委員に審査を付托せり、同年八月廿四日の市会に於て委員会は意見を報告せり、其の要旨を挙れば、市街鉄道は市自ら敷設するを以て、便利と認む、故に敷設権の許可を政府へ請願するの原案を可決したりと云ふに在り、而して市会は全会一致を以て之を可決せり
是に於て市参事会は市内鉄道敷設権の特許を内務大臣に出願したるに内務省にては其の願意の漠然たるが為め処分に苦む由にて、結局敷設
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方法及び採用すべき方式等を完備せる正式の出願にあらざれば審議なり難しとの意味にて請願書を却下せられたりしかば、市参事会は逓信省技師工学士高井助次郎氏に嘱托して市内鉄道敷設の設計を立てしめ同年十一月廿一日の市会に其の議案を提出せり、即ち左の如し
  市街鉄道方式其の他に関する件
 本市営造物として敷設すべき市街鉄道の方式、実施方法及び収支予算、費用の財源等は左の如く概定するものとす
 一、方式は空気圧搾鉄道とす
 一、実施方法は予定線を凡そ十年間に布設し、漸次他の線路に拡張布設するものとす、但し市内交通上必要と認むるときは市外と雖も其の線路を延長することあるべし
 一、収支予算は予定線全部完成の上凡そ左の収入支出あるものとす
                    円
  一 収入     一、七七八、七九〇・六九七
  一 支出       八二八、二七五・六六二
 一、費用の財源は市公債を募集して之に充つ
  予定線路は之を略す
町田朝太郎氏は圧搾空気鉄道の果して実地に応用し得べきや否やは一疑問なるを以て、委員を設けて充分に審査せしむべしと発議したれども成立せず、後藤亮之助氏は圧搾空気鉄道は野中万助氏等の先願あり市は恰も他人の経営を横奪するの結果に陥るべし、就ては報酬其の他相当の処分を為さゞるべからず、之に対する市長の考案如何と質問したるに、松田市長は市が公益と私人の経営に放任するの不可なるとを認めて出願するまでなれば、報酬云々に対しては明言するを得ずと答弁し、高橋庄之助氏は市が敷設権を取得する暁には、実際事業の経営に任ずる決心なりやと質問し、市長は無論経営の任に当る決心なりと答弁し、終りて読会を省略し、大多数にて本案を可決し、市参事会は其の筋に向ひて出願の手続を為せり
当時若し憲政党内閣にして存立せば、其の首相は嘗て松隈内閣の時私設会社に市街鉄道の敷設を許可することに決したる大隈伯なるにもせよ、内務大臣は市街鉄道市有説に熱心なる板垣伯たるを以て、前記東京市会の出願は許可せられたるべしと雖も、出願の前月即ち昨年十月廿九日板垣伯は辞表を捧呈し、尋て内閣瓦解し、現内閣とはなれり、而して現内閣には東京電車・東京電気及東京馬車鉄道会社へ電気鉄道特許の内命を伝へしめたる樺山伯も在るが為にや、現内閣は東京市の出願を許可せざるのみならず、却て私設会社へ特許を与へんとするものゝ如し
    ○市街鉄道に関する協議会
東京市参事会員及び市会議員は、去十八日市会議事堂に集会して、市街鉄道に関する協議会を開けり、協議会の議題として見るべきものは左の如し
 一、三派合同の市街鉄道布設特許出願人雨宮敬次郎氏外十四名より市参事会へ呈出したる請願書、即ち右の出願人へ市街鉄道を特許せられんことを市参事会より主務大臣へ上申せられたしとの請願書に対する処分法を議する事
 - 第9巻 p.437 -ページ画像 
 二、内務省より三派合同の市街鉄道布設特許出願に対する東京市会の意向を徴せられたるに付之に対する答申を議する事
抑々東京市会は自ら市街鉄道の敷設を内務省へ出願したれば内務省は市会の市街鉄道に対する意見は夙に之を知らざるべからず、然るに内命を市参事会に下して市会の意向を窺知せんとするものは何ぞや、又市街鉄道市有説の原案者にして、出願者たる市参事会が市街鉄道の私設出願に対する処分に苦むものは何ぞや、松田市長及び三派の合同を周旋せし星亨氏の説明に拠れば、内務省は嘗て松隈内閣の時樺山内務大臣より東京電車・東京電気及び東京馬車鉄道会社へ電気鉄道の敷設を特許すべき内命を伝へ、特許に付て必要なる条項までも指示したるを以て、東京市の出願に対しては容易に特許を与ふること能はず、若し東京市の出願をして一会社の出願ならしむれば、之を顧みずして前記私設の出願者へ特許を与へて可なりと雖も、自治体たる東京市の出願なるを以て、特に政府の内命を伝へて市街鉄道の私設に対する市の意見を徴するものゝ如し、又政府は東京市に於て軌道を敷設し、運輸の営業をば更に市より私設会社へ特許するの方法なれば、特許すること能はずと断言せり、其の理由は軌道条例第一条に「一般運輸交通の便に供する馬車鉄道及其他之に準すべき鉄道は起業者に於て内務大臣の特許を受け公共道路上に布設することを得」とあり、其の起業者とは鉄道を敷設して運輸の業を営むものゝ謂なるを以て、市に於て軌道のみを敷設し、営業をは私設会社に請負はしむるが如き方法にては、軌道条例に反するを以て許可するを得ずと云ふに在り、蓋し内務省の述ぶる所一応の理なきにあらずと雖も、結局不理窟たるを免かるべからず、故に東京市会に於て飽までも市有説を主張して屈せざるの決心ある以上は、内務省の述ぶる所の如きは之を打破すること敢て難からざるべし、畢竟内務省の述ぶる所は情実と口実とに過ぎざるものなればなり
然りと雖も東京市参事会をして市街鉄道を営業せしむるの利害損失は篤と講究を費さゞるべからず、単に軌道のみを敷設して、営業をば私設会社に請負はしむるに於ては、何等の差支もなかるべしと雖も、市自ら煩雑なる運輸業を営むが如きは、市参事会今日の現状に於て果して円滑に完全に行はるべきや否や、好し行はれたりとするも果して市の為に得策なるや否や、畢竟市は其の道路上に軌道を敷設せしむるを以て、相当の利益を市街鉄道より市へ獲得すれば可なることなり、而して当日種々の議論なりしが、結局市参事会をして市街鉄道を私設会社に特許するに付命令すべき条件、即ち市に利益を獲得する方法及び市街鉄道を監督する方法を私設出願者と会して折衝せしめ、其の結果を原案として市会若くは協議会に提出せしむることゝなれり、蓋し市会の大勢を観察するに、苟も其の条件にして相当なるに於ては、市会は前議を翻して私設会社に許可するを拒まざるものゝ如し、然りと雖も市街鉄道を私設会社に許可するが如きは小事のみ、余輩が市民の為に最も講究せざるべからずと信するは動力問題なりとす、何となれば是れ実に市の営造物に向ひて直接の損害を与ふべきものなればなり

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〔参考〕東京経済雑誌 第四一巻第一〇二四号・第六八九―六九〇頁〔明治三三年四月七日〕 ○市街鉄道許可に関する意見書(DK090049k-0014)
第9巻 p.438 ページ画像

東京経済雑誌  第四一巻第一〇二四号・第六八九―六九〇頁〔明治三三年四月七日〕
    ○市街鉄道許可に関する意見書
客月二十八日の東京市会に於て決定したる市街鉄道許可に関する意見書は左の如し
 東京市会は明治三十一年八月二十四日を以て、本市交通機関は本市自ら其敷設権を得る事を決議し直ちに之を政府に出願したりき、蓋し本市交通機関の問題は十年以来の宿題にして民設出願の数已に六十余種に達し互に許可を相競ひたる結果、当時の政府に於て或は其の中一二者に許可せられんとするが如き形勢ありたるを以てなり、現在の馬車鉄道株式会社に準じたる独占放任の方針にて許可さるゝまでは本市は只々之れを傍観し去るの外なきが故に、寧ろ自ら進んで敷設権を得然る後相当の条件を以て其業を民間に委任せんと欲したるが故なり、爾来此主義を以て連りに特許を請ふと雖も敷設権丈けを得んとするは軌道条例に収触《(牴)》するの嫌ひあり、然らば更に其営業迄をも自ら経営せんか、第一錙銖の賃金を集めて一日幾十万の乗客を上下せしめ能く遺憾なきを得せしむるは公共団体として事業其ものゝ困難なるのみならず、之れが経済に於ても収支或は相償はさるの虞なき能はず、尚ほ其上市区改正・東京湾築港・下水改良等本市の必ず経営せざるべからざるものにして絶体に民間に委任しがたき幾多の大事業ありて非常の財源を要し、此上市街鉄道の財源迄をも求むるは殆ど不可能の難事に属す、交通機関の設備は市民多年の渇望にして其施設一日も猶予し難き急務も民間出願中最も信用ある市民の結合に依り全市に渉れる大設計にて出願せる東京電気・東京馬車・東京自動三鉄道の者等は各々其確執を一洗し合併して東京市街鉄道を出願し、尚十ケ条の特別条例を具へて本市に同意を求め来れり、之れに拠らば市は凡ての監督権を有し、会社に不利益なる線路をも強て敷設せしめ、会社収益中より特別公納金を為さしめ、道路の修繕除雪と撒水をも為さしめ、若干の狭隘なる道は会社の費用を以て拡築せしめ、且三十ケ年後は相当時価を以て買上げ得べく何時にても此条件が市に不益なりと覚りし時は会社をして之を変更せしめ得べく、是れを現在馬車鉄道株式会社の例に比せば本市の利益本市の権能実に非常の差なるのみならず之れに同意を与へば交通機関の速成は直ちに望み得べきを以て、本会は審議の末明治三十二年十月十九日を以て遂に前出願を撤回し、爾来市参事会若くは本会委員をして此決議を遂行せしむるに頗る力めたりと雖も未だ何等の決定を得るに至らず、夫れ本問題に関する本市の意見如斯なるを以て政府は急速の詮議を以て一日も速かに本市交通機関の設備を見るに至らしめられんことを望む
 右市制第三十三条に依り意見書提出に及び候也
  明治三十三年三月 日   東京市会議長 中島又五郎
    内務大臣  侯爵 西郷従道殿
    東京府知事 男爵 千家尊福殿

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〔参考〕東京経済雑誌 第四一巻第一〇三四号・第一二四一―一二四二頁〔明治三三年六月一六日〕 ○東京市街鉄道命令書(DK090049k-0015)
第9巻 p.439-442 ページ画像

東京経済雑誌  第四一巻第一〇三四号・第一二四一―一二四二頁〔明治三三年六月一六日〕
    ○東京市街鉄道命令書
去る九日雨宮敬次郎氏外十二名の発起人に対し、内務大臣より指令あたりる市街鉄道特許命令書左の如し
 第一条 今般東京市街鉄道株式会社発起人雨宮敬次郎外十二名に対し特許したる電気鉄道営業は左に掲げたる道路に鉄軌を布設し一般運輸の業を営むものとす
 (道路表は之を略す)
 第二条 営業年限は明治八十五年六月卅日迄とす
 第三条 原動力の方式は複線架空式とす、但内務大臣の許可を得て特定の箇所に限り単線架空式を除く外他の方式又は他の原動力を用ゐることを得
 第四条 特許を受けたる者は本書下付の日より六ケ月内に明治三十年逓信省令第十四号電気事業取締規則第七条に依り同省に願出て許可を受くべし、電気に関する事項に付ては明治三十年逓信省令第十四号電気事業取締規則の規定に依るべし
 第五条 特許を受けたる者は前条の許可を得たる日より六ケ月内に軌道を布設すべし、線路の順序及複線軌道を布設すべき箇所を定めて左の各号に準拠し、線路実測図・工事設計書・図面及工費予算書を調製し、警視総監及東京府知事の認可を受くべし、其変更を要するとき亦同じ
  一 軌道の幅員は内注四呎六吋《(法)》とす
  二 鉄軌は凹字形のもの又は「ガーダーレール」を用ゆへし
  三 軌道内の全部及軌道外左右各二尺通は木、石又は「アスフワルト」を布設し、鉄軌面と道路面と高低なからしむべし
  四 鉄軌を布設する道路は左の幅員を有することを要す、但井戸・並木・電柱・街灯・郵便函其他道路上の建設物より其側の路端迄の距離、溝渠敷地及人道、車馬道を区別せる道路に在ては其人道は道路の幅員に算入せず
     単線軌道の場合に於ては六間以上
     複線軌道の場合に於ては八間以上
    人道・車馬道を区別せる道路に在ては一間以内に限り前項の幅員を減ずることを得
  五 軌鉄は道路の中央に之を布設すべし、但地形又は交通の状況に依り道路の一側に偏して布設することを得
    車体の両側には各二間以上の幅員を存せしむべし、但屈曲の場所に限り一間半迄に減ずることを得
  六 橋梁の幅員及耐力は警視総監及東京府知事の指示する所に依るべし
  七 軌道布設の為に生ずる道路面及軌道内に於ける雨水の瀦留に付ては完全なる排除の方法を設くべし
  八 勾配は十五分の一を超ゆべからず、但し土地の状況及工事の方法に依り十分の一迄に変更することを得
 - 第9巻 p.440 -ページ画像 
   (馬車鉄道の命令書案には此項なく以下順次繰上り居れり)
  九 電線の高さは十八尺以上とし電柱の距離は百二十尺以下とす但特別の場所に限り此制限に依らざることを得
  十 電柱は鉄製のものを用ゐ之に電灯の装置を為すべし
    複線軌道を道路の中央に布設する場合に於ては電柱は其中央に建設すべし
  十一 車輛には相当の避難器・制動器・験速器及信号器を装置すべし
  十二 軌道の屈曲部又は交叉部に於ては相当の方法に依り架空線が街路の美観を損ぜざる装置を為すべし
  十三 会社の電線が他の電線と交叉する場合に於ては其両線の接触に因りて生ずべき害を予防する為め必要なる装置を為すべし
  十四 東京帝国大学運動場東北隅(即ち目下計画中の理科大学物理教室の位置)又は中央気象台磁力計室を中心とし、千三百メートル以内を通過する電流の強さは千アンベーアを超過せしむべからず
  十五 前記の起点より千メートル以内には幹線を架設すべからず但共心導線を用ゆるときは五百メートル迄接近することを得
  十六 地下に埋設したる公衆通信用の電信又は電話線路、水管、瓦斯管其他公共用の地下工作物と交叉して軌道を布設するときは、其線路又は工作物を毀損せざる為め適当の予防装置を為すべし
  十七 各種の人孔、制水弁蓋等に接近して軌道を布設するときは操業上障害を与へざる為め適当の距離を保たしむべし
 第六条 会社は前条の認可を得たる日より六ケ月内に工事に着手し着手の日より五ケ年内に竣工すべし
  天災其他不可抗力に因りし《(て)》期限内に着手又は竣工すること能はざるときは相当の延期を与ふることあるべし、但竣工期限の延期は通じて二ケ年を超ゆることを得ず
 第七条 第五条第五号の制限に充たざる道路は其制限以上に之を拡築するに非ざれば鉄軌を布設することを得ず
  道路の幅員にして其制限に充たざること三尺以内なるとき又は第五条第四号但書に該当する場合に於て一間以内なるときは、警視総監及東京府知事に於て五ケ年以内に限り其拡築を猶予することあるべし、但人道・車馬道を区別せる道路に関しては此限りにあらず
  橋梁は第五条第六号に依り警視総監及東京府知事の指示する所に従ひ改築するに非ざれば鉄軌を布設することを得ず
  本条に依り拡築したる道路及改築したる橋梁は竣工と同時に無償にて国又は公共団体の有に帰す
 第八条 東京市に於て市区改正事業として前条の拡築を為すときは、会社は第五条第四号の制限を充すまでの拡築に要したる費用の半額を東京市に納付すへし
 - 第9巻 p.441 -ページ画像 
  前項の納付金額に付東京市及会社の間に於て意見を異にしたるときは内務大臣之を定む
  橋梁の改築に関しては本条の規定を準用す
 第九条 車輛及電柱の構造並電灯の装置は警視総監及東京府知事の認可を受くべし、其変更を要するとき亦同じ
 第十条 会社の工事の為め道路の地表又は地下に於ける建設物の移転其他の工事を要するときは、会社に於て之を施行し又は其費用を負担すべし
 第十一条 工事の全部又は一部竣功し運輸を開始せんとするときは会社は警視総監及東京府知事の許可を受くべし
  工事が工事設計書に違反する者と認むるときは警視総監及東京府知事は其改築又は停止を命ずべし
 第十二条 乗客の定員、乗車賃及発車並営業時間は警視総監及東京府知事の認可を受くべし、其変更を要するとき亦同じ
 第十三条 電気に関する技術員、車掌及運転手の資格及採用の方法は会社に於て之を定め警視総監の認可を受くべし、其変更を要するとき亦同じ
 第十四条 車輛は一輛毎に警視総監の検査を受くるに非ざれば之を使用することを得ず
 第十五条 進行の速度は一時間に八哩を超過せしむることを得ず
 第十六条 車輛は二車又は二車以上を連結して進行せしむることを得す
  進行中は各車の間に相当の距離を保たしむべし
  日出前日没後は五町以上の距離に於て容易に認め得べき灯火を車輛の前後に点すべし
 第十七条 乗客の昇降の為めにするの外故なく道路上に停車することを得す、但乗客昇降の場合と雖も道路の交叉部に停車することを得ず
 第十八条 警視総監の指定したる場所には特に信号人を置き、其場所に於ては進行の速度は一時間五哩を超過せしむることを得ず
 第十九条 会社の軌道と他の鉄道又は軌道と水平横断を為す場所に於ては、警視総監及東京府知事の命ずる所に従ひ相当の設備を為すべし
 第二十条 電線路には三町毎に断線器を備へ、其管理の為め毎三断線区域に営業時間内二人以上の番人を付すへし、但警視総監の許可を得て特定の個所に限り断線器及番人の数を減ずることを得
 第二十一条 出火其他非常の際には会社は直に断線器の番人をして其場所の前後二断線区域外に於て断線せしむへし
  前項の場合に於て警察官吏は適宜の場所に於て断線することあるべし
 第二十二条 防火機械が会社の車輛に近つきたるときは其機械が通過し又は停止するまで其車輛の進行を止むべし
 第二十三条 会社は路傍に建設する電柱には日出前日没後営業時間内其他の電柱には終夜点灯すべし、但警視総監の許可を得て点灯
 - 第9巻 p.442 -ページ画像 
の数を減ずることを得
 第二十四条 左に掲けたる箇所は東京府知事の指定する所に従ひ会社に於て其修繕、掃除、撒水及除雪を為し又は其費用を負担すべし
  一 道路横切下水は軌道内の全部及軌道外左右各二尺通
  二 橋梁の修繕は第一号に定めたる幅員と橋梁の幅員との比例を以て標準とし、其橋梁修繕費の全部に対し会社に於て負担すべき費用の歩合を定む、橋梁の掃除、撒水及除雪は第一号に依るものとす
  会社の軌道と他の軌道と交叉する場合に於ては其交叉面に係る前項の義務は関係者の分担とす (未完)



〔参考〕東京経済雑誌 第四一巻第一〇三四号・第一二一五―一二一八頁〔明治三三年六月一六日〕 ○街鉄問題の決定(DK090049k-0016)
第9巻 p.442-445 ページ画像

東京経済雑誌  第四一巻第一〇三四号・第一二一五―一二一八頁〔明治三三年六月一六日〕
    ○街鉄問題の決定
街鉄問題も亦東京市に於る宿題なり、而して昨年以来は所謂三派と市有派と非常なる紛争を為したりしが、終に去九日を以て三派の発起人雨宮敬次郎氏外十二名に特許せられたり、特許状に曰く、別冊命令書を遵守し、電気鉄道を布設し、一般運輸の業を営むことを特許すと、即ち命令書を遵守するに依り始めて特許の効力を発するものにして、若し命令書を遵守せさらん乎、特許は忽ち無効に帰すべきものなり、而して市民の利害及び会社の損益は専ら此の命令書の規定如何に依りて決すべきものなり
命令書第三条に曰く、原動力の方式は複線架空式とす、但内務大臣の許可を得て、特定の箇所に限り単線架空式を除く外他の方式又は他の原動力を用ふることを得と、故に従来水道鉄管瓦斯管及び電話管等の如き地中に埋設せる金属を腐蝕せしむべしとて非常に懸念せられたる単線架空式は絶対的に排斥せられたるものにして、是れ甚だ悦ぶべきなり、然るに去八日の市会に於て三派に関係の議員は、建議若くは決議として「単線架空式を除く外」の九字を削除せんと企てたり、幸にして発議に至らすして已みたりと雖も、将来何時削除を計画せらるゝや知るべからざれば、市民は市の営造物を保護する為に決して油断すべからざることなり
又街鉄営業満期後の処分及び営業年限中之を国若くは市に買収する方法に関し、命令書は営業満期即ち五十ケ年後は無償にて営業に必要なる一切の物件を国又は市に引渡さしめ、三十ケ年後に於ては最近の財産目録に記載したる物件の価格を以て市に売渡さしめ、其以前に於て買収する時は年率七分を以て前五ケ年間の純益平均年額を除し、以て補償金額を定むることと為せり、蓋し至当の規定と謂ふべきなり、而して会社は決して異議を唱ふべきの理由あるべからず、何となれば毎季純益の一割を積立つるときは、満期に至り株主に出資額を償還して尚多額の剰余金を生ずべければなり
街鉄を私設会社に特許するは独占の利益を与ふるものなり、故に其の利益は之を市に分取せざるべからず、此の点に関し命令書は会社は毎
 - 第9巻 p.443 -ページ画像 
年純益金の内より積立金として其の十分の一に相当する金額を控除し、且其払込株金に対し年率七分の配当を為すものとし、尚剰余あるときは其の剰余額の三分の一に相当する金額を東京市に納付すべし、但東京市に於る金利年率に著しき変更を来したるときは、内務大臣は本条の年率を変更することあるべし、役員賞与の性質を有する支出は前項純益金の内に算入すと定めたり、定例配当の年率を七分と定めたるは過高と謂はざるべからす、何となれば市公債の利率は六分なればなり、且剰余純益金の三分の二を会社に与ふるは過多と謂はざるべからず、併しながら他の一方を見れば命令書は軌道内の全部及び軌道外左右各二尺通は木、石又は「アスフワルト」を布設すべきこと、及び電柱は鉄製のものを用ひ、之に電灯の装置を為すべきことと云ふが如き条件を以て会社に命ぜり、畢竟命令書は完全なる施設を為さしめて市及び会社の利益を減せんとするものなり、然れども斯る施設は将来利益を見たる後に譲り、企業の当初に方りては成るべく施設を簡易にし、而して市に分取すべき利益を増加するに若かざるべきなり
馬鉄従来の実験に拠れば、内務大臣の命令条件は充分に行はれず、会社は利益を偸みたるの跡掩ふべからざるものあり、街鉄条件も亦斯の如くなるに於ては、会社の利益は益々過多とならざるべからず、故に命令条件は之を励行せざるべからず、而して会社之に堪へずして条件を変更するときは配当年率は六分と為し、剰余分配の割合は折半と為さゝるべからざるなり
    ○街鉄問題反対の結果
街鉄問題の反対者、即ち市有説を持して三派の民有説に反対せし人々は、新聞に演説に殆ど総ての手段を尽して其の目的を達せんことを勉めたれども、政府の為に省せられず、街鉄は三派の発起人に特許せられたること前項に述べたるが如し、是に於て世間往々其の失敗を冷笑するものありと雖も、余輩は寧ろ反対の功を賞せざるべからず、何となれば反対の結果は歴然として滅すべからざるものあればなり
街鉄問題反対者中には飽までも市有説を主張し、市有説を以て討死を遂げたるものあり、又吉田寅松・白杉政愛等の諸氏は昨年十一月を以て特許請願書を内務省へ提出し、第一願に於て市有布設を請願し、第二願に於て東京市内鉄道株式会社の発起人即ち諸氏に民有布設を特許せられんことを請願せり、諸氏が民有を以て三派の民有に反対せし理由は、三派よりも市の為に有利の条件にて街鉄を布設営業すべしと云ふに在り、本年四月十七日の閣議に於て民有に決するや、街鉄問題反対者中には市有説の到底其の目的を達すること能はざるを看破し、続続市内鉄道の請願に加はるものありしが、終に板垣伯、久我侯等の如きも亦之に勢援せらるゝに至れり、故に市内鉄道株式会社の発起人諸氏が政府へ提出せし特許条件と、今回内務大臣が三派へ下せし命令条件とを比較すれは、諸氏が市の利益を保護する為に主張せし所論の如何に行はれたる乎を知るに足るべきなり
街鉄の起動力に関し、市内鉄道株式会社の発起人諸氏は、会社は架空単線電気式を以て原動力を設くべし、但し市の命令に依り、又必要と認むる場合に於ては、審査の上区画を特定し、更に官許を経て圧搾空
 - 第9巻 p.444 -ページ画像 
気、蓄電池式其他の原動力を用ふることあるべしと定めたり、然るに命令書に於ては単線架空式を絶対的に排斥せり、故に単線架空式は埋設鉄管を腐蝕すべしとせば、市の利益は市内鉄道の発起人が主張せるよりも完全に保護せらるゝものなり、又市公納金の割合は市内鉄道の発起人が提供せし所と命令書と共に七朱三分の一なり、又特許満期後の処分は二者共に同一なり、故に諸氏の主張せし条件は多く採用せられたるものにして、政府が命令条件を調査するに際し、反対論者の所論に参考せしや疑ふべからざるなり、之を聞く市街鉄道市有期成同盟会は解散し、又市内鉄道株式会社の発起人諸氏は、市をして有益なる条件を得せしめたる点に於ては全然其目的を達したるものなれば、此際街鉄出願者としての団躰を解き、広く同志者と共に一の社交的倶楽部を組織し、国家社会の問題を論究すると同時に具さに三派の行動を監視し、決して条件の軽減等を望まざらしめ尚進で市制刷新のことに力を注ぐ筈なりと云ふ、余輩は諸氏既往の尽力決して空しからざりしことを認め、尚将来市の利益を保護する為に尽力せんことを希望せざるべからざるなり
    ○馬鉄の処分如何
去九日内務省にては市街鉄道の布設を特許し、之に命令書を下付すると同時に、馬鉄の重役をも召換《(喚)》し、之に動力変更を特許し、命令書を下付せんとしたるに、馬鉄の重役は此の命令条件は会社の堪へざる所なれば、株主総会を召集し、其の意見を決定したる後にあらざれば、受領して請書を差出だすこと能はずとて、数日の猶予を請ふて退出し越えて十一日株主総会に引続き株主の協議会を開き、中野武営氏命令書交付に就き内務省より申達の次第を説明し、更に重役一同の意向は動力変更に伴へる内務省の命令条件中、道路拡築の件、並に公納金の件は到底会社の負担し能はざる所なるにより、寧ろ此際動力変更願を取下げ、依然馬車鉄道にて営業せんとするに在る旨を報告し、之に対する株主一同の意見を求めたるに、満場一致にて重役の意見に賛同を表し、此先き重役に於て内務省と交渉の上何等か疏通の道ある場合には改めて臨時総会を開きて第二段の処置に就き協議すべく、若し愈々疏通の道なきに於ては直に動力変更願の取下を決行すべく、此場合には別に臨時総会を開くまでもなく、重役限りにて専行すべしと云ふに決したり、翌十二日中野氏は社長牟田口元学氏と相携へて内務省に出頭し、最後の交渉を遂げたるに、内務省にては頑として動かず、若し会社にして命令条件の下に動力の変更を為すことを欲せずは、依然従来の馬車鉄道を継続するも致方なしと断言したる由にて、二民《(氏)》は動力変更願書を下戻すべき旨を確答し、早速其の手続に及びたりと云ふ
余輩は馬鉄が命令条件を遵守せざるに至らざりしことを惜むもの也、第一公納金を以て負担に堪へずと云ふも、是れ決して負担に堪へざる所にあらず、本年上半季に於る営業成績に就て之を概算するに、三割五分の配当は九分を減じて二割六分となるに過ぎざるべし、是れ豈堪へ難きの負担ならんや、唯々電鉄布設道路の拡築を私設会社に求むるは酷なり、単線の道幅は六間、複線の道幅は八間の規定にして至当なりとするも、市区改正の事業として道幅を拡築する時は是れ宜しく市
 - 第9巻 p.445 -ページ画像 
費を以て支弁すべし、会社に制限に達せしむるに要する道幅丈けの拡築に費やしたる金額の半額を負担せしむるは不可なり、是れ宜しく公納金を市に納付して市区改正の財源を市に与へ、而して市区改正の事業として拡築せしめば、必ずしも会社の負担のみにて拡築するを要せざるべし
然れども馬鉄にして既に動力変更の願書を取下げたる以上は余輩は敢て之を論弁せざるべし、唯今後東京市は特別税を馬鉄に賦課して其の利益を分取し、又内務省は合羽橋通りの命令条件は速に之を励行し、相当の条件を欠ける大通の線路には衛生上及び市の美観を保つに必要なる条件を命令し、以て馬鉄に対する取締を厳密にし、電鉄に対して不公平な《(か脱カ)》らしむべきのみ