デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治30年1月10日（1897年）

当社創立十周年ニ際シ、監査役佐分慎一郎外二名ハ株主一同ヲ代表シテ、感謝状及記念品ヲ栄一及取締役九鬼紋七・伊藤伝七・斎藤恒三ニ贈与シ、創立以来ノ功労ヲ謝ス。

三重紡績株式会社第拾五回通常及臨時株主総会要件録
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　明治二七年一月一〇日
明治廿七年一月十日本社第拾五回通常及臨時株主総会ヲ本社事務所ノ楼上ニ開ク、来会ノ諸氏ハ左ノ如シ
　　伊藤伝七殿　○外三十一名氏名略
監査役佐分慎一郎ハ取締役ノ業務執行ガ法律命令定款等ニ適合シ、帳簿上一点ノ瑕瑾ナク能ク整備シ、本会提出ノ事業報告書ノ精確ナルヲ認メ、純益金分配案ハ監査役ニ於テ同意ヲ表セリ、抑モ今日此好結果ヲ収メタルモノハ、現任取締役諸君カ進路ヲ誤マラス拮据勉励セラレタルニ囚ルモノニシテ、蓋シ本社カ今日全国同業中屈指ノ位置立《（ニ脱）》チ、益々有望ノ地位ヲ占メタルモノハ、伊藤取締役カ当初渋沢栄一君ニ謀リ、深ク同君ノ賛助ヲ得タル等、其間幾多ノ盤根錯節ヲ凌キ、伊藤君ノ利刀ヲ以テ百難ヲ排除シ能ク勉励セラレタルニ依ルモノニシテ、九鬼取締役ノ名望斎藤取締役ノ技術ニ熟練ナル等、相集ツテ今日ノ美果ヲ得タル次第ナレハ、探ク取締役諸君並ニ相談役渋沢君ノ労ヲ謝シ、之ニ対シ感謝状贈品等ヲ贈呈スルノ精神ナレトモ、此事ハ後日ニ譲リ篤ト審議ヲ遂ケ、其功労ニ酬ヒ度旨ヲ述ブ

三重紡績株式会社第弐拾壱回通常株主総会要件録
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　明治三〇年一月一〇日
明治三十年一月十日第弐拾壱回通常株主総会ヲ本社楼上ニ開ク、来会ノ諸氏ハ左ノ如シ
　　伊藤伝七殿　○外四十四名氏名略
右通常総会畢テ、監査役佐分慎一郎氏ハ前季総会ニ於テ株主一同諸氏ヨリ委任セラレタル現任相談役及ヒ取締役諸氏ガ、本社創業以来ノ功労ニ酬ユル感謝状及ビ贈品漸ク出来セシヲ以テ、本会ニ於テ其贈与式ヲ挙クベキ旨ヲ述べ、各感謝状ヲ朗読シ、添ユルニ金屏風一双ツヽヲ贈致シ、尋テ三重紡績株式会社及ヒ相談役渋沢栄一君・取締役九鬼紋七・伊藤伝七・斎藤恒三ノ三君万歳ヲ祝シ、一同拍手喝采セリ

青淵先生六十年史（再販）第一巻・第一〇七七―一〇八八頁〔明治三三年六月〕
　○第十九章　綿糸紡績及織布業
　　　　第三節　三重紡績会社
○上略
 - 第10巻 p.161 -ページ画像 
明治三十年一月十日株主総会ノ節、監査役佐分慎一郎ハ兼テ株主一同ヨリ委任シタル、現任相談役及取締役カ同社創業以来ノ功労ニ酬ユル感謝状及贈品出来セシヲ以テ、同会ニ於テ其贈与式ヲ挙クヘキ旨ヲ述ヘ、各感謝状ヲ朗続シ添ユルニ金屏風一双ツヽヲ贈致シ、尋テ三重紡績株式会社及相談役青淵先生・取締役九鬼紋七・伊藤伝七・斎藤恒三ノ万歳ヲ祝シ一同拍手喝采セリ、左ニ感謝状ノ全文ヲ掲ク
　三重紡績株式会社相談役渋沢栄一君閣下、閣下ハ我国実業界ノ指南車ニシテ又其啓廸指導スル所甚タ大ナリトス、今ヤ閣下カ監督ノ下ニアリテ其輔翼ノ恵ニ浴スル会社銀行ハ、全国ヲ通シテ数十ノ多キニ在リテ、其関係ノ大ナル、閣下ノ一身ハ寸陰尺時モ尚千金ヲ以テ換ヘカタキモノアリ、而シテ当会社ハ事大小トナク閣下ニ稟議シテ其裁断ヲ乞ヒ、一挙一措未タ嘗テ其宜ヲ得サリシモノナキハ、閣下特ニ当会社ノ事業ヲ賛画補導セラレタルニアラサルヨリハ、焉ソ能ク今日ノ昌盛ヲ致シ、全国同業者ヲシテ称望セシムルニ至ランヤ、此ニ株主一同恭シク感謝ノ意ヲ致シ、併セテ慰労ノ微志ヲ表シ、別紙目録ノ如ク贈呈ス、閣下受納セラルレハ何ノ幸カ之ニ如カン
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　謹言
　　　　　　　　　　　　　　　　　三重紡績会社株主総代
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　佐分慎一郎
　　明治三十年一月十日　　　　　　　　　　　大塚八郎兵衛
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　西川宇吉郎
　　　　渋沢栄一殿
同年二月臨時総会ノ節ニ於テ取締役会長九鬼紋七ハ、取締役一同ヲ代表シテ同年一月株主ヨリ懇篤ナル謝詞ト結構ナル贈品ヲ受ケ一同ハ最モ重キ名誉ヲ担ヒ、殆ント感謝ヲ表スルニ辞ナキ旨ヲ述テ答謝状ヲ差出シ、又青淵先生ハ御大葬式参列ノ帰途同地ニ立寄タレハ、当日ノ総会ニ臨席シ謝意ヲ陳フヘキノ処、所用ノ為メ同日遽カニ帰東セラレ別封答謝状ヲ托サレシ旨ヲ以テ之ヲ差出セリ、監査役佐分慎一郎ハ之ヲ朗読セリ、左ニ其答詞ヲ掲ク
　三重紡績株式会社株主諸君総代佐分慎一郎君・大塚八郎兵衛君・西川宇吉郎君、貴下玆ニ手簡及金銀屏一双ヲ賜フヲ辱フス、且株主諸君ハ栄一ヲ称賛セラルヽニ、本邦商工会《（界）》ノ指南車ニシテ又能ク其発達ヲ扶掖セシモノト為シ、殊ニ貴社ノ事業ニ於ケル其創始ヨリ今日ノ盛運ニ至ルマテ、之ヲ挙ケテ栄一ノ功績ニ帰セラル、栄一敢テ当ラスト雖トモ、嘗テ本邦商工業ノ発達振興シテ、以テ維新ノ隆運ト相待テ、国力ノ権衡ヲ保持セムコトヲ企図スルノ微志ニ至テハ、敢テ譲ラサラント欲シ、就中紡績ノ如キハ国家一日モ欠クヘカラサルノ要業タルヲ以テ、貴社ノ創設ニ当テハ大ニ之ヲ賛襄シ、株主諸君ノ委托ニ膺リ、補翼スル所玆二十年、幸ニ事業宜シキヲ得テ以テ今日ノ隆昌ヲ致シ、数十ノ同業ニ凌駕シ、遂ニ株主諸君ヲシテ栄一ヲ称賛セシムルニ至リシ者ハ、独株主諸君ノ幸福ノミナラス、之ヲ国家ノ公益ト称シテ不可ナキカ如シ、果シテ然ラハ株主諸君カ栄一ヲ称賛セラルヽノ溢美ナルヤ否ヤハ姑ラク措キ、株主諸君カ斯ノ如ク栄一ヲ厚遇セラルヽ者ハ、之ヲ国家思想ノ物ニ触レ事ニ感シテ発出
 - 第10巻 p.162 -ページ画像 
セシ標章ト謂フヘシ、栄一謹テ其芳意ヲ領セサルヘカラス、乃チ恭シク其贈ヲ登拝シ、永ク伝ヘテ以テ株主諸君ノ誠義ヲ記存スヘシ、因テ敬テ謝辞ヲ呈ス
　　　明治三十年一月
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　○右株主総代ノ感謝文及栄一ノ答詞文ハ三重紡績株式会社明治三十年二月臨時株主総会要件録ニ掲載スル所ニヨリ校訂セリ。
　　○株主ヨリ栄一並ニ取締役九鬼紋七・伊藤伝七及ビ斎藤恒三ニ感謝状及ビ記念品ヲ贈呈スルノ議ハ、第十五回株主総会ニ於テ佐分慎一郎ノ提議セシヨリ、其後総会ノ度ニ一部株主ヨリ督促シタレドモ、取締役三名ハ再三固辞シタルヲ以テ、十周年迄延期シタルモノナリ。（毎回ノ株主総会要件録ニヨル）