デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治37年12月31日（1904年）

栄一、大患後事務減省ノタメ、是日当会社取締役ヲ辞ス。当会社ヨリ其創業以来ノ功労ヲ謝シテ記念金品ヲ贈ラル。翌年一月二十四日当会社株主総会ニテ、栄一ノ相談役トシテ会社ニ関係サレンコトヲ懇請スル旨決議シ、栄一ソノ請ヲ容レテ相談役ト為リ、明治四十二年六月ニ及ブ。

京都織物株式会社所蔵文書
　　　　辞任書
拙者儀過般来ノ大患幸ヒ快癒ニ赴キ候ヘトモ、尚従前ノ健康ニ復セサルニ付、事務減省致度存候間、貴社取締役辞任仕候、此段申上候也
　　明治卅七年十二月卅一日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　京都織物株式会社
　　　　取締役会長　田中源太郎殿
　　　　　　○
閣下夙ニ吾カ京都ニ大規模ノ織物製造場ヲ設クルノ適切ナルヲ認メ、京都ノ同志者ト共ニ其創立ヲ企画セラレ、明治二十年本社ノ組織成ルヤ相談役トナリ、続テ委員長トナリ、取締役会長トナリ、又取締役トナリ、本社ノ事業ヲ統理督励セラルヽコト十又八年、其間経済界ノ波欄ト時世ノ変動トニ因テ、時ニ苦境ニ瀕シ、難関ニ遭遇シタルコトアリシモ、能ク之ヲ排除シ、日就月将、遂ニ今日ノ隆運ヲ見ルニ至レルハ、実ニ　閣下ノ重望ト達識トノ致ス所ナリ、今ヤ　閣下ハ健康ヲ養ハレンカ為メ取締役ヲ辞セラル、本社ニ在テハ実ニ一大痛事ニシテ遺憾限リナシト雖モ、翻テ考フレバ　閣下ハ実業界ノ泰斗ニシテ、経済社会ノ重鎮タリ、其自愛セラレンコトハ国民ノ具ニ望ム所、本社ニ於テ特ニ切ナリ、曷ソ区々一会社ノ為メニ、留任ヲ強願スルコトヲ得ンヤ、乃チ　閣下ノ意ニ従ヒ辞任ヲ承諾スルト共ニ、本社株主ヲ代表シテ聊カ微忱ヲ布キ、閣下積年ノ功労ヲ感謝シ、併セテ別紙目録ノ本社特製品ヲ贈呈シ、其万一ニ報イント欲ス、冀クハ　閣下物ノ菲薄ニ拘ハラス、幸ニ本社ノ紀念トシテ受納セラレンコトヲ、玆ニ謹テ敬意ヲ表シ　閣下ノ健康ヲ祈ル
　　明治三十八年
　　　　　　　　　　　　　　京都織物株式会社
　　　　　　　　　　　　　　　　専務取締役　　渡辺伊之助
　　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　　西村治兵衛
　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　　　　中井三郎兵衛
　　　　　　　　　　　　　　　　同　　　　　　内貴甚三郎
　　　　　　　　　　　　　　　　取締役会長　　田中源太郎
　　男爵　渋沢栄一殿
　　　　目録
 - 第10巻 p.625 -ページ画像 
一、天華絨座蒲団　　　　　　弐拾帳
　　　　　　　以上
　　明治三十八年

（京都織物株式会社）営業報告　第三四回　明治三八年一月
（附箋）
　　　　臨時株主総会議案
一取締役並ニ監査役任期満了ニ付改撰ノ件
一取締役渋沢栄一君辞任ニ付、慰労金品贈与ノ件
　理由同君ハ本社創立以来、創立発起人相談役取締役会長又ハ取締役トシテ終始其社務ニ尽力セラレタルコト前後十有七年余ノ久シキニ及ベリ、由テ其功労ニ対シ、慰労金品ヲ贈リ、以テ謝意ヲ表セントス、其金品及ヒ方法ノ如キ総会ニ於テ出席株主諸君ノ衆議ニヨリ決スルコト

（京都織物株式会社）営業報告　第三五回　明治三八年七月
　　　　株主総会
明治三十八年一月二十四日京都市下京区河原町通四条上ル備前島町共楽館支店ニ於テ定時株主総会ヲ開キ、第三十四回営業報告ヲ為シ利益金分配案ヲ決議シ、次ニ引続キ臨時株主総会ヲ開キ、取締役及監査役満期ニ付改撰ヲ行ヒ、次ニ取締役男爵渋沢栄一君辞任ニ付慰労金品贈与ノ件、並ニ同君ニ向後相談役トシテ社務ヲ補佐セラレンコトヲ乞フノ件ヲ決議シ、了テ出席株主ヘ配当金払渡シヲナセリ
明治三十八年六月二十八日京都市下京区河原町通四条上ル備前島町共楽館支店ニ於テ臨時株主総会ヲ開キ、九重織物株式会社ト合併ニ関スル契約ノ件、及資本金増加定款中数ケ条項改正増補之件ヲ決議セリ
　　　　処務ノ要項　○略ス
　　　　営業ノ景況
前期末ニ至リ多年世上ニ噂サアリシ織物課税法案発布ノ声ヲ耳ニシ、且課税範囲ノ既製品ニマデ及バントスルニ至ルヤ、同業者間ニ於ケル恐慌ハ一時ニ勃発シ、何レモ其前途ニ於ケル営業ニ対シ悲観スルモノ多カリシガ、終ニ是等善後策ノ為ニ同業団体ノ成立トナリ、其代表者ト政府当局者ト交渉ノ結果、漸ク一月末現在既製品ノ数量ト課税金額トヲ予定シ、其納税ヲ織物販売業者ノ請負負担ニ一任シ、新税案ハ二月一日ヨリ実施セラルヽコトニ決定スルヤ、玆ニ積年製造元ニ存留セシ既製品ハ一月末日マデニ悉皆販売業者ノ手許ニ引取ラルヽコトヽナリ、尚機敏ナル製造者ニ在リテハ応急的増製造ヲサヘナシ、以テ一時ノ需ニ応ジタルモノアリテ一般製造元ニ在リテハ所謂全然倉掃除ヲナシタルノ異観ヲ呈シタリ、当時製造者ニ在リテハ此一時的製品ノ大取引ハ其数量少クトモ上半期取引高ノ七八歩ヲ充シタルモノナレハ、当上半期間ニ於ケル取引ハ必ズ寂寞ノ観アルベシトナシ、前途潜カニ警戒ヲ加フルモノアラシメタリシガ、元来開戦以来ニ於ケル製造品ノ手控ハ著ルシク市場有品ノ払底ヲ来シ居リタルト、前記絹織物販売業者間ニ於ケル無税品ニ対スル思惑的ノ取引ハ端ナク商機ノ活動ヲ来シ、特ニ旅順ノ陥落ヲ始メトシ海陸ニ於ケル空前無比ナル連戦連捷ト相待
 - 第10巻 p.626 -ページ画像 
テ人気昂進、実ニ絹業界ニ在リテ近年希有ノ好商況ヲ見ルニ至ラシメタリ、清韓両国ヲ始メ海外ニ輸販スル物品ニ至リテモ、亦為替相場ノ順調ナルト戦捷ノ余光トニヨリ常ニ巨多ノ注文ニ接シタル処ニシテ、本社ノ設備ヲ以テシテ尚此間ニ処スルニ、或ハ其不充分ナルノ感アラシメタリ、其他撚糸染物再整等ニ於ケル副業ニ於テモ亦是等ト同一比例的好況ナリシヲ報告スルヲ得ル処ニシテ、株主諾君《（諸）》ト共ニ同慶ニ堪ヘサル也
　　　　役員及職工
一月二十四日取締役及監査役満期ニ付改撰ノ結果左ノ如シ
　取締役（再撰）田中源太郎　　　取締役（新任）内貴甚三郎
　取締役（再撰）中井三郎兵衛　　取締役（新任）西村治兵衛
　取締役（再撰）渡辺伊之助
　監査役（再撰）船橋繁之助　　　監査役（再撰）辻川新三郎
一取締役会ノ互撰ヲ以テ左ノ通リ就任セリ
　取締役会長　　　田中源太郎
　専務取締役　　　渡辺伊之助
一男爵渋沢栄一君ハ相談役タルコトヲ承諾セラレタリ
○下略

京都織物株式会社五十年史　第一六五―一七〇頁　〔昭和一二年一一月〕
　○第一部第三章　業績
　　　　第二節　第二期　（明治三十一年より同四十年に至る）
　　　　　八、明治三十八年
○上略
　渋沢男取締役を辞任　男爵渋沢栄一氏は、第一銀行の外、すべての関係会社と、関係を断たれることゝなり、当社取締役も、辞任を申出でられた。当社創業以来、発起者として、重役として、将た会長として、多大の尽力を致された特別の関係あり、極力留任を懇請したが、遂に及ばす、こゝにやむなく、三十七年十二月三十一日を以て、辞任せられたことゝし、三十八年一月二十四日株主総会にこの旨報告するところあり、株主総会は、満場一致の決議を以て、特に顧問又は、相談役の名儀において、関係せらるゝよう、重役に懇請方を一任した。
　渋沢男相談役を承諾　株主総会の決議により、前取締役渋沢男に相談役たることを懇請せしにこれを承諾せられた。

（京都織物株式会社）営業報告　第三七回　明治三九年七月
　　　　資本金
常会社資本金壱百五万円《（当）》、此株数二万一千個内一万二千個ハ額面五拾円払込済ニシテ之ヲ旧株トシ、又九千個ハ金参拾五円払込済ニシテ之ヲ新株トス、本期間当会社ノ、帳簿ヘ登記シタル株式売買譲与ノ総数ハ、旧株式一千九百三十八個新株式一千五百二十個ナリ、現在株主二百八十名ニシテ其氏名及各自所有ノ新旧株数ハ冊尾ニ附載セリ

 - 第10巻 p.627 -ページ画像 

（京都織物株式会社）営業報告　第三八回　明治四〇年一月
　　　　株主総会
明治三十九年十一月十七日京都市下京区河原通四条上ル備前島町共楽館支店ニ於テ臨時株主総会ヲ開キ、当会社資本金増資ノ件、及定款中数ケ条項改正ノ件ヲ決議セリ

東京経済雑誌　第五四巻第一三六六号・第一〇五三頁　〔明治三九年一二月〕
△京都織物会社の拡張　会社は曩に紫野織物会社を合併して紫野分工場と為し、同町に織機九十六台を増加することとし海外に注文したるが、右は来年四月迄に全部到着の予定なりと云ふ、同社の製品は現下清韓輸出及宮内省の御用命其他の需要大に増加し来りたれば、過般重役会に於て工場拡張の決議を為したるが、其結果構内西北隅に煉瓦造四百五十坪の工場を新築することとなり、既に工事に着手したり、竣工後は手織機百台を此処に移し、其跡を第四織機工場とし、最新式織機百六台を据付けん設計にて、其内三十六台は紋織機械としオネゲル式を採用すべく、猶時期を見て更に二百台を増設せん予定にして、現在の資本金一百万円《（五脱）》にては不足を告ぐべきにより十二月中旬臨時総会を開き、一百四十五万円の増資案を附議し総資本金を二百五十万円となすことに内定したり

（京都織物株式会社）営業報告　第三九回　明治四〇年七月
　　　　資本金
当会社ハ資本金弐百五拾万円此株数五万個、内二万一千個ハ額面五拾円払込済ニシテ、之レヲ旧株トシ、又二万九千個ハ拾弐円五拾銭払込済ニシテ之レヲ新株トス、本期間当会社ノ帳簿ヘ登記シタル株式売買譲与ノ総数ハ旧株式三千〇六十六個、新株式六千百九十ニ個ナリ
現在株主三百五十三名ニシテ、其氏名及各自所有ノ新旧株数ハ冊尾ニ附載セリ

渋沢栄一　日記　明治三九年
七月十四日　雨涼　　　　　　　　　　　　　　　起床七時　就蓐十二字
起床後来書ヲ閲シ、七時半朝飧ヲ畢リ、田中源太郎氏ノ来訪ニ接シ、織物会社・製麻会社ノコトヲ協議ス　○中略　午後二時織物会社ニ抵リ、業務ノ景況ヲ視ル、兼子及家券《（脊）》ト共ニ工場ヲ一覧ス　○中略　七時中村楼ニ抵リ織物会社ノ招宴ニ応ス、酒間種々ノ余興アリ、夜十一時過散会　○下略
　　○此日韓国旅行ヨリノ帰途京都ニ立寄リタルナリ。

渋沢栄一　書翰　八十島親徳宛　（明治四〇年）一月一五日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（八十島親義氏所蔵）
益御清適慶賀候、京都織物会社之報告書一覧、小印返却いたし候、同会社昨季之営業ハ好都合之事ニ候、株主より提出之臨時会議案ハ祝賀之至ニ候得共、当局者としてハ却而迷惑之感も可有之哉と存候、舟阪氏ヘハ其中一書差出シ爾来精励之謝詞可申入とハ存候得共、先以て貴
 - 第10巻 p.628 -ページ画像 
兄より可然御書通可被下候　○下略
　　一月十五日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　八十島親徳殿
　　　　　　　　　貴答