デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治26年12月（1893年）

明治二十年十一月以来栄一相談役トシテ会社創業ニ与リシガ、是月商法実施ニ付キ定款ヲ改正シ、渋沢喜作社長トナルニ及ビ、山中利右衛門・本野小平ト共ニ監査役ニ当選シ、以後重任シテ明治四十年五月帝国製麻株式会社創立ニ及ブ。

帝国製麻株式会社三十年史資料　第壱輯・第九四頁　〔昭和一二年一〇月〕
　　北海道製麻株式会社沿革誌　（元常務取締役　宇野保太郎氏記述）
○上略
　廿四年一月七日職工同盟休業し、東京通信社に打電通報し会社に対し、就業時間の短縮賃銭値増を強求せり、此時吉田委員長病褥にあり横田・宮村等協議の上、遂に職工の請求を納れ二日間にして就業出勤せしめたり、此際経済界は変調を来し、営業開始に際し主要の委員長病気に罹り転地療養の必要よりして一月十九日家族を挙げて東京に出張したるを以て同年二月互選の上吉田氏を委員長とし、別に常任委員を設くることゝなり、渋沢喜作氏を商務担当常任とし専ら其衝に当らしむることにせり。依て東京出張所を改め分社とせり、而して渋沢栄一・浜岡光哲・本野小平三氏に相談役を嘱託す、此年四月製糖株式会社の破綻よりして北海道庁補給下附の会社に対し、会計検査を励行す
 - 第10巻 p.699 -ページ画像 
ることゝなり、創業以来の支払全部を逐一検査する為め北海道庁財務部吏員屡々出社領収証に就き帳簿に照し支出当否を審査し、厳重に五ケ年以前創業当時よりの計算を訊問せり。六月会計検査院官来札臨撿の上、一通り調査せり。同年七月渋沢喜作氏来札、操業実況を視察し併せて各原料耕作地部落を巡回せり。同年十月吉田委員長病を冒して来札し、執務組織を改革し常務課長岡往来、工務課長宮村朔三以下十数名の社員を陶汰解雇《（淘）》し、更に拙者を事務長に任じ技術長と両人にて凡てを掌理せしむることゝし、続て委員長委員を辞職せり、依て渋沢喜作氏委員長となり、浜岡光哲氏補欠委員となり、吉田氏には社業監督を嘱託せり、翌年三月遂に病死せり
○中略
　廿六年十二月商法実施に就き定款を改正し、取締役を改選し渋沢喜作・小室信夫・田中源太郎・浜岡光哲・永山盛繁当選し、監査役渋沢栄一・山中利右衛門・本野小平当選し、渋沢喜作を社長に選挙したり
○下略

渋沢栄一　書翰　井上馨宛　（明治三〇年）一〇月一六日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（井上侯爵家所蔵）
○上略
製麻会社借入金之事ニ付、松方伯へ御伝言被下候由、昨日小生も同伯ニ御面会之際拝承、御言配之段忝奉存候、早々同姓○当時北海道製麻社長渋沢喜作へも申示候都合ニ御坐候
右再応申上度書余両三日中ニ参上万可申上候　不宣
　　十月十六日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　世外老閣
　　　　　　　侍史

（井上馨）　書翰　松方正義宛　明治三〇年一〇月一三日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（松方巌氏所蔵）
前略、御多忙と相考近来打絶御無沙汰に打過キ申候、陳者北海道制麻会社《（製）》を両月前同道巡回之節、現物一覧仕候処、過る廿六年之時とは多分改良を加へ、且制撰場等《（製線）》も五六ケ所を構へ其効も相顕れ候事歟と奉存候、従来困難之末最早充分有望之制造所《（製）》と推察被仕候、然るに元料買入之期節《（原）》に際し元資融通上之困難に付、渋沢・田中両氏より内願候而勧業銀行より拾弐万五千円を借用歎願中之由、今朝渋沢喜作来訪候而陳述之次第に有之候、現場之義も野生近来一見仕居候に付、閣下江事実等陳情仕呉候而右借用金至急相運ひ候尽力仕呉候様《（マヽ）》との依頼ニ候得共、殊更拝謁を煩し候程之義にも無之、定て右両氏よりもい細御聴聞之義に付、乍略義書中を以小生よりも閣下御助勢偏に奉懇願候、其内御閑暇も有之候節譲面語候　匆々拝白
　　十月十三日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　馨
　　　　東海老台下
 - 第10巻 p.700 -ページ画像 
　　　伯松方正義殿　親展至急　馨

渋沢栄一　日記
　○明治三二年
二月二十六日　晴
○上略　午後五時帰宅、田中源太郎・渋沢喜作・宇野保太郎来ル、製麻会社ノ要務ヲ協議ス　○下略
二月二十七日　晴
○上略　午後二時日本橋倶楽部ニ於テ開設スル製麻会社株主総会ニ列ス、重役改撰ノコトニ及ヒ監査役ノ再撰ヲ受ク　○下略
三月四日　雨
○上略　午後五時浜町常盤屋ニ抵リ製麻会社ノ重役数氏ト会シテ同会社ノ将来ヲ協議ス、渋沢喜作・田中源太郎・宇野保太郎・本野小平・長尾三十郎・浜田善吉等来会ス　○下略
八月三十日　雨
○上略　午後日本橋倶楽部ニ於テ開ク処ノ製麻会社株主総会ニ列ス　○下略
九月二日　曇
○上略　此夕北海道製麻会社重役会ヲ浜町弥生ニ開ク

　○明治三三年
二月二十六日　晴
○上略　午後北海道製麻会社支店ニ抵リ、帳簿ヲ撿査ス　○下略
七月三十一日　曇
○上略　此日同姓喜作来ル、製麻会社ノコトヲ話ス
八月二十二日　晴
○上略　午後日本橋倶楽部ニ抵リ、北海道製麻会社株主総会ニ出席ス　○下略

　○明治三四年
二月廿三日　晴
○上略　午後第一銀行ニ出勤シ、更ニ北海道製麻会社分社ニ抵リ半季ノ計算ヲ監査ス、同姓喜作・田中源太郎・浜岡光哲・長尾三十郎・宇野保太郎ト会話ス　○下略
二月廿五日　雪
○上略　午餐後二時頃日本橋倶楽部ニ抵リ、北海道製麻会社総会ニ出席ス　○下略
三月三十日　雨
○上略　午後　○中略　六時築地瓢屋ニ抵リ、北海道製麻会社重役ノ会合ニ列ス　○下略
八月廿六日　晴
○上略　同姓喜作・宇野保太郎二氏来ル、製麻会社ノ諸計算書ヲ査閲ス　○下略

　○明治三五年
二月六日　曇
○上略　午後、渋沢喜作氏来リ製麻会社取締役ノコトヲ談ス　○下略
 - 第10巻 p.701 -ページ画像 
二月二十三日　晴
○上略　午後四時築地瓢屋ニ抵リ、北海道製麻会社ノ諸帳簿ヲ撿閲ス、畢テ同会社総会ニ関スル協議アリ　○下略
二月廿四日　晴
○上略　午後二時製麻会社株主総会ニ出席　○下略