デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治30年3月5日（1897年）

栄一、当会社株主ヨリ創業以来ノ功労ヲ謝シ金壱千五百円ヲ贈ラル。

（東京帽子株式会社）報告　第四季明治三〇年二月
　　東京帽子株式会社第四季報告
○上略
明治三十年二月十三日第四回通常総会ヲ開キ、前記ノ事業報告・財産目録・貸借対照表・計算書・利益金処分案及左ノ事項ヲ議決ス○中略
右議決ノ後、馬越恭平氏ノ発議ニ依リ、全会一致ヲ以テ左ノ件ヲ議決ス
　一取締役渋沢栄一・益田克徳ノ両氏ハ、創業以来会社ノ為メニ尽力セラレ、以テ今日ノ好果ヲ見ルニ至リタルハ、株主一同ノ感謝スル処ナリ、依テ其感謝ノ意ヲ表スル為メ、後季繰越金ノ内ヨリ若干ノ金員若シクハ物品ノ贈呈ヲナス事
　　右感謝状ノ起草及贈呈額等ニ付テハ、馬越恭平・喜谷市郎右衛門ノ両氏ニ委託スル事

（東京帽子株式会社）報告　第五季明治三一年二月
　　東京帽子株式会社第五季報告　明治卅年二月一日ヨリ同卅一年一月卅一日ニ至ル
　　　　事業報告
一前季ノ臨時株主総会ニ於テ馬越恭平氏ノ発議ニ依リ、創業以来会社ノ為ニ尽力セラレタル渋沢栄一・益田克徳ノ両氏ヘ謝意ヲ表スルコトノ議決ニ基キ、前期繰越金ノ内ヨリ左ノ通リ支出シ、株主総代馬越恭平・喜谷市郎右衛門ノ両氏ヨリ、感謝状ニ添テ贈呈ヲ了セリ
　　　金壱千五百円　　渋沢栄一氏
　　　金壱千円　　　　益田克徳氏

青淵先生六十年史（再版）第二巻・第一八二―一八四頁〔明治三三年六月〕
　○第三十八章　帽子製造業
　　　第二節　東京帽子会社
 - 第10巻 p.793 -ページ画像 
○上略
同社ハ創立以来孜々事業ニ精励シタルヲ以テ、頓ニ工場ノ英気ヲ引立社業日ヲ追テ隆盛ニ趣キ、忽チ資本ノ不足ヲ感スルニ至レリ、依テ明治二十六年十二月臨時株主総会ヲ開キ、更ニ参万六千円ノ新株ヲ募集スルコトニ議決シ、爾来専ラ製造ノ改良ト販路ノ拡張トヲ務メ漸次製品ノ声価ヲ高メ、今ヤ内地製ノ帽子中品質、信用両ツナカラ其主位ヲ占ムルノ好況ニ達シタリ、故ヲ以テ同社ハ創立以来年々相当ノ利益ヲ収メ、毎季ノ積立金ハ積テ数万ノ多キニ及ヒ、会社ノ基礎益々鞏固ナルニ至レリ、之レ全ク先生ノ経営其宜シキヲ得タルノ結果ナルヲ以テ同社ハ其ノ功労ヲ表彰センカ為メ、明治三十年二月ノ株主総会ニ於テ全会一致ヲ以テ先生ニ感謝状ヲ贈ルノ件ヲ議決シ、株主総代ヨリ先生ニ左ノ感謝状ヲ贈レリ
　東京帽子株式会社取締役会長渋沢栄一君、貴下当社創立ノ初メニ当リ、盤根錯節百事多難、而シテ其間ニ処シテ僅カニ一縷ノ命脈ヲ維持シ、辛ク創始ノ基ヲ定メ、社業漸ヲ追フテ隆昌ニ向ヒ、遂ニ今日ノ盛運ヲ見ルニ至リタルモノ、実ニ貴下カ規画経営其宜シキヲ得タルノ功労ニ因ラスンハアラス、株主等既往ノ事績ヲ顧ミテ感謝ノ情甚タ切ナリ、玆ニ一同ニ代リ、謹ンテ別紙目録ノ金員ヲ贈呈シ、以テ慰労ノ意ヲ表ス、儀ハ菲簿ナリト雖モ、実ニ株主等誠意ノ存スル所ナリ、幸ニ受納アランコトヲ冀フ
　　明治三十年三月五日　　東京帽子株式会社株主総代
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　馬越恭平
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　喜谷市郎右衛門
　　　　右答書
　東京帽子株式会社株主総代馬越恭平君・喜谷市郎右衛門君、貴下玆ニ手簡ヲ恵マレ、本社創立ノ初営業ノ至難ナルニ当リ、能ク之ヲ保持シテ今日ノ隆昌ヲ致シタルモノ、之ヲ栄一ノ功績ニ帰シ、慰労トシテ別紙目録ノ如ク贈与セラル、栄一敢テ当ラスト雖モ、株主諸君カ本社ノ事業ヲ愛重シ、其奏功ヲ賛奨スルニ至テハ、栄一固ヨリ以テ其感ヲ同フシ、諸君ノ誠意ヲ領セサル可ラス、乃チ謹テ貺儀ヲ納メ、此ニ蕪札ヲ呈シ之ヲ謝ス
　　明治三十年三月　　　東京帽子株式会社取締役
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　（本章記事ハ土肥修策氏ノ報告ニ拠ル）
　　○東京帽子株式会社ハ開業後数年ナラズシテ日清戦勝後ノ一般経済界好況時代ニ遭ヒ、商況著シク好転シ明治二十九年ニハ開業当初第一銀行、並三井物産合名会社ヨリ借入タル各四千円モ一時ニ還償シ、積立金三万五千円ノ外、配当準備・職工満年資金・家屋機械器具消却費等ニ対スル諸積金ヲ増額シ、且株主ニハ二割配当ヲ現出スル等頗ル好調ヲ示セリ。（同会社報告〔第四季、明治三〇年二月〕ニ拠ル）
　　○ナホ栄一取締役在任中ニ於ケル同会社営業成績統計表（本款明治二十五年十二月十二日ノ項ニ掲グ）ヲ参照。

土肥脩策氏所蔵文書
本社の事業ハ邦内率先の新技なるを以て去る明治二十二年創立以来成
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効の難き世間多く其比を見す、而して稍瑞緒に就くに及ひ不幸にして火災に罹り工場一空事殆と将に敗れむとす、其困頓の甚しき実に名状すへからす、然るに貴下能く支配人を補助し、諸員と共に工務に精励すること十年一日の如く、遂に能く本社の目的を達し今日の昌盛を得るに至る、其功支配人に亜く、因て別紙目録の如く贈与して之を賞す
　　明治三十年三月
　　　　　　　　　　　　　　　　　　東京帽子株式会社
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　取締役会長
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一印
　　　　土肥脩策殿

渋沢栄一　日記
　○明治三二年
二月九日　晴　烈風
○上略　十時兜町ニ於テ帽子会社重役会ヲ開ク、益田克徳・堀江助保・速水・土肥諸氏来会ス、明十日株主総会ノコトヲ協議ス○下略
二月十日　晴
○上略　十二時偕楽園ニ於テ帽子会社株主総会ニ列ス○下略
三月廿七日　曇
午前十時帽子会社重役会ヲ兜町邸ニ開ク、堀江助保・益田克徳・早速鎮三・土肥ノ諸氏来会ス○下略
七月十四日　曇
午前人造肥料会社及帽子会社等ノ役員会ヲ兜町邸ニ開ク○下略
七月廿九日　晴
○上略　十二時偕楽園ニ於テ、帽子会社ノ総会ヲ開ク、益田克徳・馬越恭平・堀江助保・早速鎮蔵・土肥脩策ノ諸氏ト会ス○下略
十一月廿七日　曇
午前○中略　帽子会社重役会ヲ兜町ニ開ク、益田・早速・土肥来会ス○下略

○明治三三年
二月九日　晴
午前○中略　帽子会社重役会ヲ開キ、昨年ノ営業ニ関スル諸件ヲ調査シ、利益分配案及賞与金支給案ヲ協議ス○下略

　○明治三五年
二月十四日　曇
○上略　午前帽子会社株主総会ヲ偕楽園ニ開ク○下略
四月十七日　晴
○上略　午後　○中略　七時過、偕楽園ニ抵リ、帽子会社ノコトニ関シ、益田・遠藤・大野ノ諸氏ト会話ス○下略

　○明治三六年
二月十四日　晴
○上略　午後偕楽園ニ抵リ、帽子会社株主総会ニ出席ス○下略
二月廿二日　晴
午前○中略　十一時小石川帽子会社ニ抵リ、創業以後十年ヲ経過セシヲ以テ社員職工等ニ特別賞与ヲ行ヒ一場ノ演説ヲ為ス、取締役監査役一同
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来会ス、畢テ食事ヲ為シ午後三時王子別荘ニ帰宿ス
四月十日　晴
○上略　十二時上野精養軒ニ於テ東京帽子会社ノ重役会ヲ開ク、馬越・堀江・早速・土肥ノ諸氏来会ス○下略
五月十五日　午前雨午後晴
○上略　早速・土肥二氏来リ帽子会社ノコトヲ談ス○下略
五月廿九日　曇
午前　○中略　十一時偕楽園ニ抵リ帽子会社ノ総会ニ出席シ○下略
六月廿七日　雨
○上略　十二時兜町事務所ニ抵リ、早速・土肥二氏ノ来訪ニ接シ、帽子会社ノ要務ヲ談ス○下略

　○明治三八年
一月二十一日　曇　風ナシ
○上略　午前十一時兜町事務所ニ抵リ、帽子会社重役会ヲ開ク、堀江・早速・土肥ノ諸氏来会ス○下略
二月八日　晴　風ナシ
○上略　午前十時兜町事務所ニ抵リ帽子会社重役会ヲ開ク、堀江・早速・土肥諸氏来会ス○下略
二月十四日　曇　風ナシ
○上略　午前十時偕楽園ニ抵リ帽子会社株主総会ニ出席ス○下略
三月十八日　曇　風寒シ
○上略　此日兜町事務所ニ於テ帽子会社重役会ヲ開ク
六月六日　雨　風ナシ
○上略　此日ハ帽子会社ノ重役会定日ナリシモ、雨天ナルヲ以テ出席ヲ謝絶シ、終日家ニ在テ書類ヲ整理ス

　○明治三九年
二月二十日　雪　寒　起床八時就蓐十一時二十分
○上略　此日ハ帽子会社総会ヲ偕楽園ニ開クモ、不快ノ為メ出席スルヲ得ス、電話ニテ断リ遣ス○下略
三月三十一日　晴　軽寒　起床六時三十分就蓐十一時三十分
○上略　八時半○午前　小石川帽子会社ニ抵リ要務ヲ談ス○下略
四月十三日　晴　軽暖　起床七時就蓐十一時三十分
○上略　早速・土肥両氏来リ帽子会社ノコトヲ談ス○下略
五月十四日　晴　暖　起床六時三十分就蓐一時
○上略　事務所ニ抵リテ帽子会社早速・土肥・川田・岡本・浅田正文・皆川四郎・滝兵右衛門等ノ諸氏会話ス○下略

　明治四〇年
三月七日　晴　暖　起床七時三十分就蓐十二時
○上略　午前十一時東京帽子会社ニ抵リ、重役会ヲ開キ要務ヲ議決ス○下略
十一月三十日　晴　寒　起床七時就蓐十二時
○上略　食後○朝食後　帽子会社早速氏ノ来訪ニ接ス○下略

　○明治四一年
一月十五日　雪　寒甚シ
○上略　十二時偕楽園ニ抵リ東京帽子会社株主総会ニ出席ス○下略
 - 第10巻 p.796 -ページ画像 
二月二十日　晴　寒
○上略　午前十一時偕楽園ニ抵リ、東京帽子会社株主総会ヲ開キ要件ヲ議決ス○下略
三月四日　雪又ハ雨　寒甚シ
○上略　今日ハ日本郵船会社・東京帽子会社等ニ会合ノ約アリシモ、病ヲ以テ之ヲ謝絶シテ出席セス○下略
三月五日　晴　寒
午前八時起床　○中略　十一時早速・土肥二氏来リ、東京帽子会社ノコトヲ談ス○下略
五月十六日　晴　軽暖
○上略　午前十時柳島ニ抵リ東京帽子会社分工場ヲ一覧シ、事務員職工一同へ訓諭演説ヲ為シ工場ヲ一覧ス○下略
九月十四日　半晴　冷
午前七時起床入浴ヲ廃シ直ニ朝飧ヲ食ス、食後早速・土肥二氏ノ来訪ニ接シ帽子会社ノコトヲ談ス○下略

　○明治四二年
三月六日　曇　軽暖
午前○中略　十一時偕楽園ニ抵リ、東京帽子会社株主総会ニ出席ス○下略

（東京帽子株式会社）毎月報告表　明治四一年五月
五月十六日　分工場ニ於テ重役会開会、閉会後渋沢会長ヨリ事務員及職工一同ヘ訓話アリ

竜門雑誌　第二五〇号・第六四頁〔明治四二年三月二五日〕
　　　　東京製帽会社株主総会
青淵先生が取締役会長たる東京製帽会社にては、本月六日亀島町偕楽園に於て株主総会を開き、青淵先生会長席に着き昨年下半季決算を報告し、年五分の配当を為すことに決し、右終りて現在資本金十五万円を二十二万五千円に増加し、現在株主二株に付き一株を割当つることに決せり。

（八十島親徳）日録　　　　　　　　　　（八十島親義氏所蔵）
　○明治三三年
　　　　一月卅日
青淵先生ハ繁務ニ付可成関係ノ薄キ会社ノ重役ハ辞退ノ方針ヲ取リ、先ニ東洋汽船ヲ辞セラレシカ今回函館船渠辞任セラルヘキ旨、及向後可成少クスルノ決心ナル旨ヲ述ヘラレ、阪谷氏ヨリ関係厚キモノニテモ人造肥料ノ如キ、帽子ノ如キ、煉瓦ノ如キ、製綱ノ如キ敢テ大人ノ御力ヲ労スル程デナキ事業ノ会社ニ対シテハ、篤二殿及八十島ニ其任ヲ譲リテ可ナルヘキ旨ヲ被述、先生モ差当リ帽子会社ノ如キハ八十島ニ譲ルモ立派ナ取締役タリ得ベシナド被話、之ハ確定ノ話ナラネドモ将来ノ思入談ナリ

　○明治三四年
 - 第10巻 p.797 -ページ画像 
　　　　二月十五日
正午主人代理トシテ偕楽園ニ至リ帽子会社総会ニ臨席ス、当期配当年二割、益田・馬越・堀江・早速・土肥等ノ役員外ニ松林老人等集会セリ

　○明治四〇年
　　　　十一月廿六日
昼頃出勤更ニ男爵ノ代トシテ偕楽園ニ東京帽子会社増資総会ニ臨ム

　○明治四二年
　　　　八月十四日
十時過、兜町ニ至ル、帽子会社早速・土肥ノ二氏ト会シ、同社製品本年度売上方針ノ協議ニ預カル

竜門雑誌　第一八一号〔明治三六年六月二五日〕
○早速鎮蔵氏の栄任　兼て東京帽子会社支配人たりし本社特別社員早速鎮蔵氏には、去月廿九日開会の同社臨時株主総会に於て取締役に選挙せられ、故益田取締役の跡を襲ひ就任せられたり
○土肥修策氏の昇任　東京帽子株式会社副支配人たりし本社特別社員土肥氏は、今般同社支配人に昇任せられたり

竜門雑誌　第二二六号・第四三頁〔明治四〇年三月二五日〕
○東京帽子株式会社の重役改選　東京帽子株式会社にては去る二月二十日重役の改選を行ひ、取締役堀江助保氏は退任、同青淵先生及早速鎮蔵氏は重任、萩原弘氏は新任、監査役馬越恭平・喜谷市郎右衛門両氏は重任せり