デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治22年3月27日（1889年）

栄一、発起人総代ト為リ浅野惣一郎・大倉喜八郎・大川平三郎等ト共ニ門司セメント会社ヲ設立セントシ、是日創立願書ヲ東京府知事男爵高崎五六ニ提出ス。当会社ハ資本金二十万円ニシテ、本店ヲ東京市深川区清住町一番地ニ置キ、製造所ヲ福岡県豊前国企救郡柳浦村ニ設置セントス。四月一日設立認許ヲ得タレドモ、金融逼迫ノ時勢ニ遭ヒ、未ダ工場建設ニ至ラズシテ解散ス。

願伺届録　会社明治二二年ノ一　　　（東京府庁所蔵）
　　　　門司セメント会社設立願
近来内国ニ於テセメントノ需用者増加之為、多数之輸入モ有之候間、私共申合仮本社ヲ府下深川区清住町一番地ニ置キ、製造所ヲ福岡県下企救郡柳浦村ニ設置シ右輸入品ヲ防遏シ、国家経財之一助トモ仕度存候ニ付該会社設立仕度、依テ別冊会社定款相添ヘ差出候条御認可被成下度、此段奉願候也
　　明治二十二年三月二十七日
　　　　　　　　　　　　　　東京府深川区清住町一番地
　　　　　　　　　　　　　　　株主惣代　浅野惣一郎印
　　　　　　　　　　　　　　同区深川福住町四番地
　　　　　　　　　　　　　　　同上　渋沢栄一印
　　東京府知事　男爵高崎五六殿
前書出願ニ付、奥印候也　東京府深川区長　林厚徳印
（別冊）
　　　　門司セメント会社定款
門司セメント会社ヲ創設スルニ付、其株主ノ衆議ヲ以テ決定スル処ノ定款左ノ如シ
　　　第一章　総則
第一条　当会社ノ営業ハポートラントセメントヲ製造シ、広ク之ヲ販売スルヲ以テ目的トス
第二条　当会社ノ名号ハ門司セメント会社ト称ス
第三条　当会社ハ本社ヲ仮ニ東京深川区清住町一番地ニ置キ、其製造所ヲ福岡県豊前国企救郡柳浦村ニ設クルモノトス
第四条　当会社ノ営業ハ満三十ケ年トス
　　但株主惣会ノ決議ニヨリ延期スルヲ得ヘシ
第五条　当会社ハ有限責任トシ、負債弁償ノ義務ハ株金ニ止マルモノトス
第六条　当会社ノ営業ハ第一条ニ定メタル目的ノ他ノ業務ニ干預スヘカラス
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第七条　当会社ノ事業ハスヘテ委員ニ委任シ、管轄官庁ノ命令ト此定款ニ依リ処弁スヘシ
　　　第二章　資本金
第八条　当会社ノ資本金ハ弐拾万円ト定メ、一株ヲ百円トシ総計弐千株ヲ内国人ヨリ募集スヘシ
　　但シ営業ノ都合ニ依リ株主ノ決議ヲ以テ此株高ヲ増減スルコトヲ得ヘシ
第九条　当会社ノ株金ハ各其引受高ヲ委員会ニ於テ定メタル期限内ニ於テ入金スヘシ、而シテ其時日ハ必ス三十日前ニ通知スヘシ
第十条　株主第一回ノ払込ヲ為シタルトキハ当会社ヨリ仮株券ヲ交付シ、第二回以后ハ其金類ヲ右仮株券ニ記入シ、主任者之ニ鈐印スヘシ
　　但最終ノ入金ヲ為シタルトキハ本券ト交換スヘシ
第十一条　株主若シ此払込金ヲ怠ルトキハ其金高ニ対シ一日百円ニ付金四銭ノ延滞日歩利息ヲ徴収スヘシ、而シテ日数六十日ヲ過キ尚ホ入金ヲ為サヽルトキハ当会社ニ於テ此株式ヲ売却シ、其買受者ヲシテ補欠員タラシムベシ
　　但此場合ニ於テハ売買ニ係ル諸費及ヒ延滞日歩利息ヲ計算シ、不足アレハ原株主ヨリ徴収シ余金アラハ之ヲ還付スヘシ
　　　第三章　役員
第十二条　当会社株主ノ投票ヲ以テ三拾株以上ヲ所有スル株主中ヨリ人員三名ヲ選挙シ、之ヲ当会社ノ委員トナスヘシ
第十三条　委員ハ互選ヲ以テ委員長壱名ヲ選定スヘシ
第十四条　委員ハ其会議ノ決議ヲ以テ当会社全体ノ事ヲ総理スルノ権アルヘシ、故ニ会社ノ業務ヲ整理スルニ於テハ株主ニ対シテ其責ニ任スヘシ
第十五条　委員ハ会社営業ノ都合ニヨリテハ他ニ向テ有債ヲ起スコトヲ得ヘシト雖トモ、其証書ハ必ス委員一同之ニ連署スルモノトス
第十六条　委員ハ少クトモ必ス毎月二回当会社ニ於テ会議ヲ開キ、会社一切ノ事ヲ処弁スヘシ
　　但議長ハ委員長之ニ任スヘシ
第十七条　委員ハ其会議ノ決議ヲ以テ当会社ノ社員ヲ任免黜陟シ、及ヒ其給料旅費賞与金ノ配付等ヲ定ムルノ権アルヘシ
第十八条　委員ハ其会議ノ議決ヲ以テ当会社ノ営業ニ関スル諸規則ヲ制定施行スルヲ得ヘシ
第十九条　委員ハ上任ノ日ニ当リ所持ノ株式三拾個ノ券状ヲ当会社ヘ預ケ置クヘシ、当会社ハ之ヲ格護シ其券状ノ保護預リ証書ニ禁授ノ印ヲ押シ之レヲ渡スヘシ
第二十条　委員ノ任期ハ満弐ケ年トシ、株主総会ノ投票ヲ以テ一期二名ヲ改選スルモノトス
　　但再撰挙ヲ得タル者ハ重任スルヲ得ベシ
第二十一条　委員中若シ不時ノ欠員アルトキハ株主臨時総会ヲ催シ、其代任ヲ撰挙セシムヘシ
　　但時宜ニ依リテハ委員中ノ衆議ヲ以テ之カ補欠員ヲ撰ミ、委員ノ
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年限丈ケヲ補塡セシムルヲ得ヘシ
第二十二条　委員ハ其長又ハ同員中ニ職任不適当ノ所為アリト認ムルトキハ、株主臨時総会ヲ催フシ三分ノ二以上ノ多数説ニ従ヒ、之ヲ退職セシムルヲ得ヘシ
　　但此場合ニ於テハ其行為不適当ノ理由ヲ株主ニ証明スヘシ
第二十三条　委員ノ勤務ニ対スル報酬ハ第五拾二条ノ賞与金ノ内ヲ以テ之ヲ仕払フヘシ
第二十四条　委員長ノ俸給ハ特ニ株主総会ニ於テ之ヲ定ムルモノトス
　　　第四章　社員
第二十五条　当会社員ノ職名ハ左ノ如シ
　　支配人
　　副支配人
　　技術長
　　文書掛
　　工務掛
　　会計掛
　　倉庫掛
　　　但各掛ハ便宜他ノ掛ヲ兼務代任セシムルコトアルヘシ
第二十六条　支配人ハ委員長ノ命ヲ請ケテ、当会社ノ庶務一切ヲ担当シ、各社員ヲ督励シテ業務ヲ暢達整頓スルノ責ニ任スヘシ
第二十七条　支配人ハ当会社ノ会計ニ注意シ、簿記計算及物品出納等ニ於テハ殊ニ之ヲ調理スルコトヲ勉ムベシ
第二十八条　支配人ハ会社営業ノ為タリト雖トモ他ヨリ借用金ヲ為スコトヲ得ス
第二十九条　技術長ハ当会社ノ工務一切ヲ担当シ、工業ヲ練熟進歩スルノ責ニ任スヘシ
第三十条　文書掛以下ノ社員分掌ノ事務及ヒ其規程ハ委員会ノ課決ニ拠リ、当会社ノ営業規則ヲ以テ之ヲ定メ置クヘシ
第三十一条　当会社ノ社員ハ諸有金及ヒ物品等ヲ規程外ニ出入使用スヘカラス
第三十二条　当会社ノ社員万一勤務上不都合ノ行為アレハ之ヲ放免スルハ勿論、若シ其行為ヨリ損耗ヲ生スルトキハ其者ニ賠償セシムヘシ、本人其義務ヲ果ササレハ引受人ヲシテ之ヲ弁償セシムヘシ
第三十三条　当会社社員ニ採用スル者ハ、一ケ月見習トシテ勤務セシメ、然ル后慥ナル身元引受人ヲ立テ引受証書ヲ出シメテ其等役ヲ定ムヘシ
　　但委員会ノ議決ニ拠リ特ニ採用スル者及ヒ職工ノ雇入レハ此限ニアラス
　　　第五章　株主ノ権利責任
第三十四条　当会社ノ株主ハ即チ当会社ノ本主ナルヲ以テ株数相当ノ権利ヲ有シ、且当会社ノ営業ニ差支ナキニ於テハ何時ニテモ金銭出納諸帳簿諸計算ヲ検査スルヲ得ヘシ
第三十五条　当会社ノ株主ハ委員会ノ議決ニ不適当ノ事アルヲ認ムルトキハ、第四十三条ノ順序ニ照シ臨時総会ヲ催シ三分ノ二以上ノ多
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数説ヲ以テ、委員ノ全数又ハ幾分解任スルノ権アルヘシ
第三十六条　当会社ノ株主ハ其所有株拾個マテハ壱株毎ニ壱個ツヽノ発言投票ヲナスノ権アリ、而シテ拾壱株以上百株マテ五株毎ニ壱個ツヽヲ増加シ、百株以上ハ拾株毎ニ壱個ツヽヲ増加スヘシ
第三十七条　当会社ノ株主タル者ハ其引受ケタル株式壱個ニ付株券状壱通ヲ受領スルヲ得ヘシ、其券状ノ書式ハ左ノ如シ

第三十八条　右株式券状磨滅敗裂等ノコトアルトキハ其趣ヲ書面ニ認メ之レカ書替ヲ乞フヘシ、若シ又焼亡紛失スルコトアレハ其事実ヲ明瞭ニ認メ、弐人以上ノ証人ヲ立テ各之レニ記名調印シ、更ニ新株券状ノ交付ヲ乞フヘシ
　　但株券状ヲ書替ルトキハ当会社ニ於テ定メタル手数料ヲ払フヘシ
第三十九条　前条株式券状焼亡又ハ紛失等ノ場合ニ於テハ、会社ハ之ヲ新聞紙ニ広告シ三十日ヲ経タル后、新株式券状ノ交付ヲナスヘシ
　　但広告料ハ其株主ヨリ之ヲ会社ニ支払フヘシ
第四十条　株主ハ何等ノ事故アルモ当会社営業年限ノ間ハ其株金ヲ取戻スコトヲ得サルヘシ
第四十一条　株主ハ委員ノ許諾ヲ得テ第六十条ノ手続ヲナサハ、其所有株式ヲ売却譲与スルヲ得ヘシ
　　　第六章　株主総会
第四十二条　株主総会ハ定式・臨時ノ二類トナシ、定式総会ハ毎年両度四月十月委員会ノ議決ヲ以テ指定シタル時日ニ之ヲ開キ、臨時総会ハ委員会ノ議決ニ拠リ適当ナリト認ル場合ニ於テハ何時ヲ論セス、之レヲ開設スルヲ得ヘシ
第四十三条　株主人員五名ニ下ラス、其株数当会社総株高ノ五分ノ二ニ下ラサル者ニシテ臨時総会ヲ要スル時ハ、之ヲ委員会ニ通牒シテ開会スルヲ得ヘシ
第四十四条　右ノ通牒ニハ其総会ヲ要スル事件ノ目的ヲ詳明ニ記載スヘシ、而シテ委員会ニ於テ理由ナク開会ノ手続ヲ怠ルコト二週間以
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上ニ及フトキハ、通牒者自ラ招集開会スルヲ得ヘシ
第四十五条　第四十三条・第四十四条ノ手続ヲ以テ開会シタル総会ニ於テ、株主出席ノ数第五十一条ノ限員ニ満タサルトキハ此議案ハ全ク之ヲ棄却スヘシ
第四十六条　株主総会ノ議案ハ定式臨時共予テ委員会ノ議決ヲ以テ之ヲ定メ、書面又ハ口頭ヲ以テ之ヲ提出スヘシ（第四十三条・第四十四条ノ場合ヲ除クノ外）故ニ其総会ニ於テハ委員ノ許可ヲ得ルニ非レハ議題外ノ事ヲ討議スルヲ得ス
第四十七条　総会ノ決議ハ過半数ヲ以テスヘシ（第二十二条・第三十五条及ヒ第六十五条ヲ除クノ外）故ニ病気其他事故アリテ会同セサル株主ハ、必ス当会社ノ株式ヲ有スルモノヲ以テ（委員並ニ社員ヲ除ク）代人ニ立テ之ニ其委任状ヲ授クヘシ、此規定ヲ履マサルモノハ決議ノ后チ異議ヲ発スルモ決シテ採用スヘカラス
第四十八条　右代人ニ付与スヘキ委任状ノ書式ハ左ノ如シ
　　　　　代理委任之事
　　門司セメント会社株主何某儀何某ヲ以テ代人トナシ、左ノ権限ノ事ヲ委任致候
　　一何年何月何日何ニ総会ヘ出席投票発言ノ事
　　　年月日　　　　　　　　　　　　　　　　　何某印
　　　　門司セメント会社御中
第四十九条　株主遠隔ノ地ニ住シ又ハ旅行ヲ以テ会同シ難キモノハ、定式臨時総会ノ為メ代人ヲ立テ其姓名ヲ当会社ニ通知シ置クコトヲ得ヘシ
第五十条　総会ノ議長ハ委員長之ニ当ルヘシ、若シ委員長差支アレハ他ノ委員中ヨリ之ヲ務ムヘシ
第五十一条　総会ニ当リ其会員株主総数ノ三分ノ二（委任状ヲ有スル代人モ亦之ニ算ス）ニ満タサルトキハ延会シ、必ス五日以内ニ更ニ招集開会スルヲ得ヘシ
　　　第七章　純益金配当
第五十二条　当会社ノ総勘定ハ毎年両度四月十月ノ末ニ於テ決算シ、総収益金ノ内ヨリ一切諸経費ヲ引去リ其残額ヲ純益トナシ、之ヲ配当スルコト左ノ如シ
一当会社起業資本高四十分ノ一
　　是ハ純益金ノ多少ニ拘ラス、毎年半季ノ決算ニ於テ必ス之ヲ引去リ、当会社ノ家屋諸器械類ノ原資償却トシテ、之ヲ積立テ臨時消費スルヲ得ス
　　　但本項積立金ハ起業資本金類ニ充ツルヲ以テ其ノ度トス
一純益金百分ノ十　準備金
　　是ハ当会社所有ノ地所家屋諸器械等臨時大修繕ノ費用ニ充ツヘキモノナルニ付、起業資本ノ半額迄ヲ目的トシテ之ヲ積立ルモノトス、故ニ非常ノ変災ニシテ家屋器械等ニ大破損ヲ生シテ、之ヲ修繕スル等ノ費用ハ此金額ヲ以テ仕払フヘシ、但右ノ仕払ニヨリテ其額ニ不足ヲ生スルトキハ、更ニ后期ノ純益金中ヨリ之レヲ補塡スヘシ
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　　右ノ積立金ハ之ヲ銀行ニ委存シ又ハ公債証書ヲ買ヒ入レテ之ヲ保存スヘシ、若シ又物品買入ノ為メ営業資本金不足スルトキハ之レヲ流用スルヲ得ヘシ
一純益金百分ノ十五　賞与金
　　是ハ委員ノ報酬及社員賞与トシテ毎半季純益金ノ内ヨリ引去リ、其十五分ノ五ヲ委員ノ慰労金トシ、十五分ノ二ヲ以テ臨時慰労積立金トナシ、其残余ヲ支配人以下ノ賞与ニ充ツヘシ、而シテ社員ハ各等級ニ従ヒ其割合ニ等差ヲ立テ、一般ノ勤惰ヲ鑑別シテ委員会ノ考案ヲ以テ毎半季之ヲ給与スヘシ、臨時慰労金ハ委員会ノ考案ヲ以テ社員中、万一災厄ニ罹リ又ハ特別功労アル者ニ対シ臨時相当ニ支給スヘシ
　　　第八章　簿記計算報告
第五十三条　当会社ノ簿記計算書類ハ簡明ナル表式ヲ設ケ、其主任者ヲシテ之ヲ遵拠セシムヘシ
第五十四条　凡計算ハ日表月表季表ヲ以テ整頓シ日表ハ毎日支配人之ヲ点撿シ、月表季表ハ委員之ヲ撿閲シ均シク之ニ撿印スヘシ
第五十五条　支配人ハ毎季一切ノ事務及ヒ営業ノ事情ヲ編述シタル考課状ヲ作リ、委員会ニ提出シテ其議決ヲ経、株主総会ニ於テ報告ノ后、季表ト共ニ印刷シテ各株主ニ配付スヘシ
　　　第九章　印章並ニ記録
第五十六条　当会社ニ於テ使用スル印章ハ左ノ如シ
　　　○印章略ス。
第五十七条　当会社ノ印章及ヒ委員長支配人ノ印章ハ、其印鑑帳ヲ作リ、之ヲ官轄庁ニ具申シ改刻スルトキハ速ニ之ヲ再具スヘシ
第五十八条　営業規則及委員会録事、株主総会ノ録事、官庁ニ具申スル書牒等ハ皆委員長及支配人ノ鈐印ヲ以テ証トナシ之ヲ存録スヘシ
第五十九条　官庁ニ具申スル諸牒及重要ナル文書等当会社ノ名ヲ以テスルモノハ皆社印ヲ押捺スヘシ、而シテ其金銭出納ニ係ル重要ノ書類又ハ約定書等ニハ委員長支配人之ニ署名鈐印シ、其他通常ノ文書ニハ支配人之ニ鈐印スヘシ
　　　第十章　株式売買授受
第六十条　当会社ノ株式ヲ売買授受スルニハ必ス当会社ノ准認ヲ受クヘシ、故ニ其売買授受スル者ハ券状裡面ニ主任者ノ証印ヲ受ケサル間ハ売買授受ノ約アル者ト雖モ、当会社ノ損益ハ必ス株券状ノ名前人ヲシテ負担セシムヘシ
第六十一条　株式ヲ売買授受スルニハ左ニ掲クル文例ニ照ラシテ証書ヲ作リ、之ヲ当会社ニ差出シテ書替ヲ求ムヘシ
　　　（株式売買授受証書文例）
　門司セメント会社株式ノ内、第何号株券何枚何某所有ノ分何某ヘ売渡（又ハ譲渡）候処実正也、然ル上ハ向後各買受人（又ハ譲受人）者従前所有人遵守スル所ノ諸規則及約定等堅ク相守ルヘク候、仍テ証書如件
　　　　　　　　　　　　　　住所族籍
　　　　　　　　　　　　　売渡（譲渡）人　姓名印
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　　　　　　　　　　　　　　同
　　　年月日　　　　　　　買受（譲受）人　姓名印
　　　　　　　　　　　　　　同
　　　　　　　　　　　　　証人　　　　　　姓名印
　　門司セメント会社御中
第六十二条　定式総会前十日間ハ株式記名替ヲ停止シ、株式帳ノ書替ヲ為サヽルヘシ
第六十三条　株式所有主死亡ノ后、其嗣子又ハ遺族ノ名前ニ書換ヘシトキハ、其親族弐名連署ノ証書ヲ以テ書換ヲ要求スルヲ得ヘシ
第六十四条　総テ株券書換ニ於テハ其買受人又ハ譲受人ヨリ、当会社ニ於テ定メタル所ノ書替手数料ヲ差出スヘシ
　　　第十一章　定款改正
第六十五条　此定款ハ株主ノ衆議ニ依リテハ増減更正スルコトアルヘシ、尤其総会ノ議決ハ三分ノ二以上ノ多数説ニ従フヘシ
　　但其改正ノ項目ハ速ニ管轄庁ノ認可ヲ請フヘシ
右拾壱章六十五条ハ当会社株主ノ衆議ヲ以テ相定メタルニ付、一同記名鈐印シテ以テ之ヲ証明致候也
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　株主連署
　　　　株主人名及持株高
　一七百六拾七株　　　浅野惣一郎
　一弐百五拾株　　　　渋沢栄一
　一弐百五拾株　　　　大倉喜八郎
　一弐百弐拾弐株　　　大川平三郎
　一百株　　　　　　　久原庄三郎
　一百五拾株　　　　　松田源五郎
　一百拾壱株　　　　　尾高幸五郎
　一百株　　　　　　　斎藤美知彦
　一五拾株　　　　　　熊谷辰太郎
　　合計弐千株
　　　　　此金額弐拾万円

　　明治二二年三月月廿九日受日出
　知事　印　農商課長(印)

　　　　門司セメント会社設立願
　　　　　　　　　　　　　　　　惣代　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　外一名
　　　　　指令按
書面会社設立ノ義、追テ一般ノ会社条例制定相成候迄人民ノ相対ニ任候条、其旨可相心得事
（理由）願人ハ有名之資産家ニ有之、且株主モ既ニ満員相成居候ニ付別ニ身元取調ヲ要セス、又定款逐条審査セシニ不都合ノ廉相見ヘス
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因テ本按ノ指令ヲ付ス

青淵先生六十年史（再版）　第二巻・第一六八―一六九頁〔明治三三年六月〕
　○第三十六章　セメント業
　　　　第三節　門司セメント会社
門司セメント会社ハ青淵先生及浅野総一郎・大川平三郎等相謀リ、門司ノ地「セメント」製造ニ適スル所アルヲ相シ、明治二十一年同所ノ地所一万八千坪ヲ購入シ資本金弐拾万円ヲ以テ工場ヲ起サンコトヲ経画セリ、然レトモ久シカラスシテ金融逼迫ノ時勢ニ遭遇シ、未タ建築ニ着手スルニ至ラスシテ会社ヲ解散セリ
　　　○解散年月未詳

中外商業新報　第二一〇六号〔明治二二年四月六日〕
　　　　門司セメント会社設立の許可
渋沢栄一・浅野惣一郎の両氏より門司セメント会社を府下深川区清住町二番地へ設置し、ポードラントセメントを製造販売せんため、其製造所を福岡県下企救柳原二十番戸（有限責任三十年間）設立せんと、予て府庁へ出願せし処、右は昨日同庁より会社条例制定相成る迄、人民相互に任せる旨指令されたり

中外商業新報　第二三九一号〔明治二三年三月一四日〕
　　　　門司セメント会社の計画
浅野総一郎氏等の発起に係る同会社は、今度更に資本金を増加して最初の計画を三倍にし、工場の敷地は一万二千坪なりしを、更に三万六千坪を要するに立至れりと云ふ