デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治24年4月23日（1891年）

是ヨリ先、海軍省ノ所管ニ属セシ当造船所ノ地所宮内省ニ移管セラレシヲ以テ宮内省ヨリ之ヲ拝借センコトヲ願出デシガ、同省御料局ガ許可セントスル拝借年限短キタメ、栄一御料局長子爵品川弥二郎ニ斡旋シテ是日三十ケ年間拝借ヲ許可セラル。

有限責任石川島造船所報告　第二次明治二四年二月
　　　　　　　　　　　　　　（株式会社東京石川島造船所所蔵）
地所拝借ノ件　当造船所地所拝借ノ儀ハ第一次報告ニ於テ報告セシ如ク、海軍省ノ所轄ニ復シタル後、二月七日ヲ以テ海軍省ヨリ宮内省ヘ地所引続キ其所轄ヲ転換セラレタルニ付、更ニ宮内大臣ヘ願書ヲ奉呈シタルニ、爾後御料局ヨリ向フ拾五ケ年貸渡シ、拝借料トシテ一ケ年金五百円ヲ上納スヘキ旨ノ請書案ヲ下付セラレタリ、然レトモ其年限極メテ短少ナル故ヲ以テ、更ニ五拾ケ年拝借ノ義ヲ歎願シ、其間委員渋沢栄一君ハ口頭又ハ書面ヲ以テ屡々品川御料局長ニ向テ照会ノ労ヲ取ラレタルニ、遂ニ十二月下旬ニ至リ御料局ヨリ拝借年間ヲ三拾ケ年トシ、請書案ヲ下付セラレタリ、然レトモ其案文中ニ「東京湾築港其他公共便益ノ為メ地所入用アルトキハ自費ヲ以テ引払フヘシ」トノ条件アルヲ以テ、此条件刪除ノ義ニ付重テ歎願中ナリ

有限責任石川島造船所報告　第三次明治二五年一月
　　　　　　　　　　　　　　　（株式会社東京石川島造船所所蔵）
　　有限責任石川島造船所第三次報告
　　　　第四　庶務総況
地所拝借ノ件　当造船所地所拝借ノ義ハ、第二次報告ニ於テ報告セシ如ク請書案文中不満足ノ廉アルヲ以テ、其条件刪除ノ義ニ付キ委員諸氏頗ル其労ヲ執ラレ、遂ニ左記ノ拝借証書ヲ差出シ其局ヲ結ヘリ
　　　　　　御料地拝借証書
　　東京市京橋区佃島五拾四番地佃島御料地
　一面積八千百六坪壱合七勺
　　　　此拝借料金壱ケ年金五百円也
　　今般前記ノ通造船事業ノ為メ御料地拝借ノ義出願仕候処、特別ヲ以テ明治二十三年三月ヨリ来五十三年二月迄向参拾ケ年拝借ノ義御允許相成候ニ就テハ、左ノ通堅ク遵守可仕候
　　一拝借料金ハ毎年六月卅日及ヒ十二月十五日限半額宛両度ニ無相違上納可仕候事
　　　　但壱ケ年ニ不充端数ハ月割ヲ以テ即時ニ上納可仕候事
　　一拝借ノ御料地内ニ於テ事業上地形ノ変換ヲ要シ候節ハ絵図面相添出願、御許可ヲ得テ着手可仕候事
　　　　但天災地変等ニ依リ御料地内ニ異状ヲ来セシトキハ、其際速ニ御届仕リ御撿査ヲ乞可申候事
　　一拝借ノ御料地ニ対シ万一諸税諸費ヲ要スル節ハ、当造船所ニ於テ負担支弁可仕候事
　　一拝借ノ御料地ハ勿論御料地周囲石垣修繕草取掃除等ハ、一切当造船所ニ於テ負担可仕候事
　　一当造船所用トシテ御料地拝借使用仕候ニ就テハ、御局ノ御許可ヲ得スシテ其権利ヲ他ヘ譲与致間敷候事
 - 第11巻 p.618 -ページ画像 
　　　　但御料地拝借出願委員及保証人ノ内、拝借年限中死亡其他ノ事故有之候節ハ更ニ相続人相定、速ニ御届可仕候事
　　一拝借ノ御料地及船渠ノ震災其他非常ノ厄難ニ罹リ大破損ヲ生シタル節ハ、実地御撿査ノ上、修繕中ニ限リ其年ノ拝借料金ハ相当ノ金額御減少被下度候事
　　一拝借満期ニ至リ、該御料地御局ニ於テ御使用ノ必用無之御見込ナルトキハ、一ケ年前ニ於テ更ニ御約定仕リ、相当ノ年期ヲ定メ拝借ノ義御允許被下度候事
　　一拝借満期ニ至リ、御料地返上ノ節ハ自費建築ノ家屋ハ向一ケ年ヲ期シ引払可申、尤モ器械其他容易ニ処分シ難キモノアルトキハ其節出願可仕ニ付、実地御撿査被下、相当ト御視認ノ上ハ猶向弐ケ年間ノ御猶予被下度候事
　　一拝借御料地内ニ居住仕候者有之候共、御料地内ヘ本籍相移申間敷候事
　　一御料地拝借中ト雖モ、東京湾築港其他公共便益ノ為メ御要用ノ節ハ御規則ニ随ヒ返地可仕候事
　　　　但本文ノ場合ニ於テ、自費建築ノ家屋ニ対シ損害ノ賠償ヲ要スル節ハ、該地使用ノ管庁若クハ管理者ニ対シ、請求可仕ニ付、御局ニ対シ別段要償等ノ義請求仕間敷候事
　右ノ条項堅ク遵守可仕、万一拝借料金怠納仕候節ハ速ニ保証人ニ於テ弁償仕リ聊御迷惑相掛申間敷候、為後日保証人連署拝借証書仍如件
　　明治廿四年四月廿三日
　　　　　　　　　　　東京石川島造船所委員
　　　　　　　　　　　　　東京市日本橋区兜町弐番地
　　　　　　　　　　　　　　　拝借願人　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　同
　　　　　　　　　　　　　東京市京橋区築地二丁目十六番地
　　　　　　　　　　　　　　　同　　　　平野富二
　　　　　　　　　　　同
　　　　　　　　　　　　　東京市京橋区木挽町九丁目十一番地
　　　　　　　　　　　　　　　同　　　　梅浦精一
　　　　　　　　　　　　　東京市麻布区新網町一丁目十二番地
　　　　　　　　　　　　　　　保証人　　進経太
　　　　　　　　　　　　　東京市京橋区築地二丁目五番地
　　　　　　　　　　　　　　　同　　　　片山新三郎
　　　　御料局長　子爵　品川弥二郎殿
　　　○明治二十二年一月十七日ノ項所引「有限責任石川島造船所報告（第一次・明治二三月一月）」参照。
　　　○右請願書提出前、明治二十二年二月十六日海軍省ヘ従来平野富二ノ借用セル当造船所敷地並船渠其他附属品ノ払下ヲ請願シタル処、四月一日船渠附属品ノミ払下ノ指令アリ、地所ハ内務省ヘ転管セラレタルニ依リ同省ヘ出願スル様内示アリタルヲ以テ、東京府庁ヲ経由シテ請願セシガ、十二月ニ至リ再ヒ海軍省ノ所轄トナリタルニ依リ更ニ又同省ニ請願ス。（本項末尾参考「三十五年間概記」参照）
　　　○当造船所敷地ノ所管省ハ転々セリ、初メ海軍省ナリシガ内務省ニ移リ、再
 - 第11巻 p.619 -ページ画像 
ビ海軍省ニ、更ニ宮内省ニ移レリ。明治二十二年一月十日ノ項、第一次会社報告及ビ本項末尾参考「三十五年間概記」参照。

東京石川島造船所
三十五年（五十八期）間概記　自明治二十二年一月至大正十二年十一月末日
　　　（営業報告書摘録）〔未定稿〕
○上略
　　○明治二十四年
二月五日麹町区内山下町帝国ホテルニ於テ第二回株主総会ヲ開キ、二十三年中ノ営業報告ノ承認及利益金処分ヲ議決ス
四月二十三日宮内省御料局ヘ当造船所地所拝借証書ヲ提出ス
其要目
　一、東京市京橋区佃島五十四番地佃島御料地面積八千百六坪一合七夕拝借料金壱ケ年五百円也、六月三十日及十二月十五日ニ半額ツツ上納、期間明治二十三年三月ヨリ同五十三年二月マテ三十ケ年
　　○明治二十五年
一月下旬（日未詳）帝国ホテルニ於テ第三回株主総会ヲ開キ、二十四年中ノ営業報告ノ承認及利益金処分ヲ議決ス
三月二十八日本社ニ於テ株主臨時総会（以下単ニ臨時総会ト記ス）ヲ開キ、記録広告部設立ノ件ヲ議決ス（記録広告部ハ新古諸機械ノ委託販売ヲ引受ケ、一定ノ雑誌又ハ新聞ニ広告シ売上代金ニ対シ歩合ヲ以テ手数料ヲ徴収スル仕組ナリシカ、成績良好ナラス、自然廃止トナレリ）
十二月三日常務委員平野富二俄然卒中症ノ為死去ス、同氏ハ当造船所創業以来功労尠ナカラサルヲ以テ、株主一同ノ決議ヲ以テ弔慰金壱千五百円ヲ贈ル
○下略