デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

  詳細検索へ

公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

3章 商工業
15節 造船・船渠業
4款 函館船渠株式会社
■綱文

第12巻 p.64-66(DK120006k) ページ画像

明治36年7月29日(1903年)

是ヨリ先三十五年七月二十八日、第十一回臨時総会及ビ同年八月五日第十二回臨時総会ニ於テ、栄一等現任役員一同ハ工事費予算不足ノ責ヲ負ヒ辞任セントセシガ、株主ノ希望ニ由リ重任ス。後、栄一取締役辞任ヲ申出デ、是日第十五回臨時総会之ヲ承認シ相談役トナリ、三十七年十月二十六日ニ至リ辞ス。


■資料

函館船渠株式会社報告 第一三回明治三六年一月(DK120006k-0001)
第12巻 p.64-65 ページ画像

函館船渠株式会社報告 第一三回明治三六年一月
一同月○明治三五年七月廿八日東京ニ於テ第十二回通常総会ヲ開キ、前半期間ニ於ケル処務及工事営業等ノ諸項並ニ決算ヲ報告シ、利益金処分ノ決議ヲ要メシニ株主中ヨリ工事費予算不足ニ付補充ニ関スル善後策ハ現任重役ニ於テ調査中ト思惟スレバ、本会ハ其成案ノ報告アルマデ継続延期センコトヲ請求アリシヲ以テ決議ヲ延期シ、続テ第十一回臨時総会ヲ開キ、取締役・監査役ノ満期改選ヲ行ヒ、園田実徳・阿部興人・渋沢栄一・大倉喜八郎ハ取締役ニ、浅田正文・田中市太郎ハ監査役ニ孰レモ再選セリ、然ルニ前任取締役ハ工事費予算不足ニ関シ引責退任ヲ申出シモ、出席株主一同ノ企望ニ依リ遂ニ重任ヲ承諾セリ
一八月十日取締役・監査役改選ニ付登記事項変更ノ申請ヲナシタリ
○中略
一同月○八月五日東京ニ於テ第十二回通常総会継続会ヲ開キ、前半期ノ諸報告及利益金処分案ノ承認決議ヲナシ、続テ第十二回臨時総会ヲ開キ、工事費不足金及敷地取拡費ノ借入、日本勧業銀行ヨリ借入金
 - 第12巻 p.65 -ページ画像 
予定高減少、附属工場移転延期、定款改正ノ件ヲ議シ総テ原案ノ通可決確定セリ、此ニ於テ現任重役ハ工事費予算不足ニ付各自ノ責任上再ヒ辞任ノ申出アリシモ、尚ホ株主ノ企望ニ依リ引続キ就任スルコトニ決セリ
   ○但シ栄一、三十五年五月十五日新橋ヨリ出発渡欧、同年十月三十一日帰京ス。


函館船渠株式会社四十年史 第八五―八七頁〔昭和一二年六月〕(DK120006k-0002)
第12巻 p.65-66 ページ画像

函館船渠株式会社四十年史 第八五―八七頁〔昭和一二年六月〕
○上略 工事の進捗に伴ひ、二十九年以来、物価及賃銀甚しく昂騰せるため工事に不足を来し、七月二十四日○明治三十四年の重役会議に於て船渠は渠口其他の要部を石造とし、渠身の深さ凡そ二分の一の上部「即ち三段層以上を当分木棚とすることに決定し」、三十五年一月の第十一回の株主総会の決議に基き重役はひたすら資金の調達に奔走し、三月日本勧業銀行よりの融資八万円を得たが、之亦やがて使ひ果し、資金欠乏の結果其の善後策を講ずることとなり、五月二十日海軍大臣に専門技術官の特派を請ひ、工務監工学博士石黒五十二を派遣せらるゝことになつた。かくて詳密に工事の経過、及び現状を調査せる結果詳細な財政整理取調顛末及之に対する意見を発表報告せられた。其の要は最初の予算に無理のあつた事、又規模の拡張の為予算の拡張を来さざるを得ざる事、又工事遷延の為費用の増加を来した事等を認むると共に此際費用の節約をはかりて、姑息なる工事をなし、以て憂を将来に胎すの不可なるを論じ、親切なる整理案を提出せられたのであつた。
 石黒博士の意見に従つて予算を編制し、七月二十八日第十一回臨時総会で金六十万円の資金調達を決議し、其の方法は借入か又は増資の何れかによることゝした。其際役員の改選を行ひ、岡田実徳・阿部興人・渋沢栄一・大倉喜八郎は取締役に、浅田正文・田中市太郎は監査役に孰れも再選した。取締役は工事費予算不足の責を負ひ、退任を申出でたが一同の冀望により遂に重任を承諾した。
 資金の調達は意外に困難であつて、重役は鋭意善後策を講じ、十月十二日取締役会で次の六方策を挙げ、その何れかの一途に出づべき事を議した。(第一案乃至第四案ニ言フ完成トハ現状ノマヽニ工事ヲ止ムル意味デアル)

図表を画像で表示--

      調査案             今後支出スヘキ経費不足額  営業資金ニ対スル利益割合 第一案  船渠ヲ完成スルモ之ヲ使用セ      ス、又附属工場ヲ移転セ      ス、今日ノ儘営業スルモノ    約金拾四万五千円      年九分(資本金 参拾万円) 第二案  船渠ヲ完成スルモ之ヲ使用セ      ス、又、附属工場ヲ移サス、      「スリツプ」用機械ノ一部ヲ      増設営業スルモノ        約金弐拾五万円       年八分六八(資本金 四拾万円) 第三案  船渠及ヒ護岸ヲ完成スルモ、      特ニ航路ヲ浚渫セス、附属工      場ヲ移転シ「スリツプ」用ノ      機械一部ヲ増設営業スルモノ   約金参拾壱万円       年九分六八(資本金 四拾五万円) 第四案  船渠及護岸ヲ完成スルモ之ヲ      使用セス、附属工場ヲ移転シ      「スリツプ」用機械一部ヲ増      設営業スルモノ         約金参拾弐万円       年一割一分四(資本金 四拾七万円) 第五案  船渠及ヒ護岸ヲ完成シ、附属      工場ヲ移転シ、五千噸以下ノ      船艦ヲ修理ニ必要ナル諸機械      ノ設備ヲナシ営業スルモノ      (石黒博士ノ査定ヲ得タル案)  約金四拾五万円       年五分(資本金 百八拾万円) 第六案  一万噸ノ船渠ニ伴フヘキ完全      ナル諸設備ヲナシ営業スルモノ  約金百七拾万円       未詳 



 - 第12巻 p.66 -ページ画像 
熟議の結果第五案即ち金六十万円の資金を優先株又は社債によつて調達する方針を定めた。仍て一万噸の船艦を容るゝ設計変更を三十五年一月六日に提出したのを下戻される様、十月二十七日に願出で、六千噸船を入れる船渠をつくることになつた。○下略


函館船渠株式会社報告 第一五回明治三七年一月(DK120006k-0003)
第12巻 p.66 ページ画像

函館船渠株式会社報告 第一五回明治三七年一月
一七月弐拾九日○明治三六年本社ニ於テ第拾四回通常総会ヲ開キ、前期ノ事業報告書・財産目録・貸借対照表、並ニ利益金処分案ノ承認ヲ経タリ
一同日第拾四回臨時総会ヲ開キ、取締役及監査役ノ補欠選挙ヲ行フ
 取締役辞任者渋沢栄一氏、補欠員壱名及取締役増員壱名ニ対シ、当選上任者左ノ如シ
   浅田正文氏 岡本忠蔵氏
 監査役弐名満期退任ニ対シ、当選上任者左ノ如シ
   田中太七郎氏 松下熊槌氏
 次ニ渋沢栄一氏ヲ相談役ニ推挙スル事ヲ議決ス(閉会後同氏ノ承諾ヲ得タリ)
 尚退任者渋沢栄一氏・田中市太郎氏ハ創立以来役員ニ就任シ勤労不尠ヲ以テ紀念ノ金品ヲ贈与スル事、及其処置ヲ専務取締役ニ一任スル事ヲ議決ス


(八十島親徳)日録 明治三三年(DK120006k-0004)
第12巻 p.66 ページ画像

(八十島親徳)日録 明治三三年 (八十島親義氏所蔵)
一月卅日 晴
○本夕同族会於深川邸又青淵先生ハ繁務ニ付キ可成関係ノ薄キ会社ノ重役ハ辞退ノ方針ヲ取リ、先ニ東洋滊船ヲ辞セラレシカ今回函館船渠辞任セラルヘキ旨、及向後可成少クスルノ決心ナル旨ヲ述ヘラレ○下略


(八十島親徳)日録 明治三六年(DK120006k-0005)
第12巻 p.66 ページ画像

(八十島親徳)日録 明治三六年 (八十島親義氏所蔵)
七月廿一日 晴夕驟雨
夕刻帰路函館ドツク相談役承諾ノ内意ヲ伝フベク、芝巴町ナル園田実徳氏ヲ訪ヒ七時帰