デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

3章 商工業
25節 取引所
1款 東京株式取引所
■綱文

第13巻 p.525-529(DK130046k) ページ画像

明治20年7月18日(1887年)

是日栄一他十三名発起人トナリ、府下ノ商賈等凡ソ百名、東京取引所創立ニ関シ坂本町銀行集会所ニ会ス。栄一発起人総代兼議長タリ。本会合ニ於テ、創立願書草案並ニ創立委員ノ人選等ヲ附議決定ス。


■資料

中外物価新報 第一五八六号〔明治二〇年七月一六日〕 ○取引所創立に関する集会(DK130046k-0001)
第13巻 p.525-526 ページ画像

中外物価新報 第一五八六号〔明治二〇年七月一六日〕
    ○取引所創立に関する集会
曾ても記せし通り東京取引所創立発起人諸氏は来る十八日午後三時より取引所の会員及仲買人となるべき見込及び資格のある人々凡百十余名を坂本町銀行集会所へ招き、発起人に於て起草したる創立願書を示し同意者の調印を取り、創立委員を選んで創立の儀を其筋へ出願するの運びなる由、右草案に拠れば位置は坂本町とし該取引所創立及び建築費は凡そ三十万円とするものにて、仲買人営業保証金は一部二部は
 - 第13巻 p.526 -ページ画像 
七千円、三部四部五部は三千円と定め、一部に於ては諸公債・株券及び諸証券、二部に於ては米穀・肥料、三部に於ては油、四部に於ては麻・太物、五部に於ては砂糖・食塩・紙等を取引するものなりと云ふ


中外物価新報 第一五八八号〔明治二〇年七月一九日〕 ○東京取引所創立相談会(DK130046k-0002)
第13巻 p.526-528 ページ画像

中外物価新報 第一五八八号〔明治二〇年七月一九日〕
    ○東京取引所創立相談会
東京取引所創立の事は去る五月十七日夜を以て渋沢其他の諸氏が銀行集会所へ集会し協議を為したる以来は、東京株式取引所並に米商会所当任の人々と内輪の相談ありしのみにて公けの集会を催ほす程に至らざりしより、是迄創立発起人諸氏が色々と苦心ありしにも拘はらず世間にては小田原評議ならん抔と評する者さへありしが、過般其筋の説明を得て条例細則の趣旨も充分明瞭になりしより創立発起人河野・渋沢・安田・三野村・西村・大倉・川崎・渋沢(喜作)・早川・小川・谷元・中村・中野・朝吹の諸氏には再び招状を府下の重立たる商業者へ発し、昨十八日午後三時より銀行集会所へ集会あり度旨を通知されしに依り、案内を受けたる人々は昨日定刻より追々と銀行集会所へ繰り込み四時十分頃に至り不参を届け出てたる人々の外は大概出席ありし以て同刻より該行の楼上に於て相談会を開き渋沢栄一氏には発起人総代兼議長と云ふ席を占めて当日相談会を開きたる趣意を述べ、了りて小川為次郎氏には左の創立願書草案を朗読されたり
  取引所創立願旨
本年勅令第十一号取引所条例の御趣旨を遵奉し私共創立員となり東京府下に取引所を創立仕度、依て取引所条例第一条に則り左の事項を具申仕候
第一項 取引所は東京取引所と公称し、其位置は東京府武蔵国日本橋区坂本町に設立可致見込に有之候
第二項 東京は輦轂の下にして諸物貨輻輳の地なり、因て今般取引所を設立して各種商人の利便に供せんとす、之れ取引所を要する事由に有之候事
第三項 取引の種類を分つて五部となし、左の物件を取引致候事
 第一部 一諸公債証書 一諸銀行株式(日本銀行・横浜正金銀行其他各国立銀行株式) 一諸会社株式(日本鉄道会社・日本郵船会社・東京海上保険会社・東京瓦斯会社・東京馬車鉄道会社・両毛鉄道会社・水戸鉄道会社、其他制法又は特許に依り成立したる諸会社の株式) 一諸証券(大蔵省証券・約束手形の類)
 第二部 一米・雑穀 一肥料(鯡鰮搾粕・乾鰮の類)
 第三部 一灯油(種油・石炭・油の類)
 第四部 一綿 一綿糸 一太物 一麻
 第五部 一砂糖 一食塩 一紙
以上 一部中に数種の物件を合併せしものは其種類の商品取引上自ら相関繋を有するもの(第一部・第二部・第四部の類)又左程に関繋を有せざるも各種を独立せしめて特に部を設くる程の必要なきもの(第三部・第五部の類)を合併したる次第に御座候
第四項 当取引所の会員たるを得べき商人の概数は凡そ二千人の見込
 - 第13巻 p.527 -ページ画像 
にして其身元保証金額は一名に付相定可申候事
第五項 各部仲買人の差入るべき営業保証金額は左の割合に相定め可申候事
 第一部第二部 仲買人一名に付金七千円
 第三部第四部第五部 同金三千円
第六項 売買取引すべき物件集散の実況及び将来売買取引高の目算は別に調書を以て具申可仕候
第七項 取引所設立に関する費用の予算及び徴収の方法は左の見込に有之候事
一金三十万円 家屋建築其他創立費
右金員は会員の連帯責任を以て一時負債を起し年賦返済の約をなし其返済の方法は市場の売買取引に対し相当の手数料を徴収し弁償の資に供し可申歟、又は便宜に依り家屋の建築は別に方法を設けて資金を募集し取引所は之に対し年々相当の家税を支払候事に為す歟、其孰れにするも実際着手の場合に至り詳細法案を具し御認許を経て施行可致見込に有之候事
  説明
右の通に候間願の通取引所創立の御許可被成下度、此段創立員一同連署を以て上願仕候也
右はほんの創立願書の草案にて東京取引所規約の事は追て議する筈なりしかば右草案に付処々質問ありし位にて左迄喧しき議論もなかりしが、其中一番喧しかりし動議は田口卯吉氏が営業保証金身元金の割合減額説にて当日出席されし株式仲買人の連中は頗る賛成を表し其他にも大分減額然るべしと主唱する者ありしが、仲買人諸氏が唱ふる所は仲買人営業保証金は七千円と云ふを減して六千円乃至五千円となすべしと云ふにありて原案とは大したる相違もなきに由り成るべく折合相談として極めたき旨渋沢氏よりの勧告もありしに由り、田口氏にも僅か一二千円位ならば彼此云ふにも及ばざるべし、拙者は尚幾層も減額せざれば仲買人となる人なかるべしと杞憂したる故かくは申したれど当業者が僅か一二千円の減額にて事足ると云はるゝ位なれば其患もなかるべしと思ふに依り拙者は前説を引くべしと云はれしより玆に折合が付き遂に原案に決したり、斯くしてみな原案に決したるに付き当日来会者の調印を要する筈なりしが時刻も後れしかば是は明二十日午前十時より午後四時迄に銀行集会所に於て記名調印することになれり、次にかく決定したる上は事の順序として創立委員十五名を選挙されたしとの旨を渋沢氏より述べられ此儀に就ても色々と説出て其人員は二十名又十四名にすべしとの説ありしが、是も大同小異なりしかば遂に委員は十五名と定めて十四人の発起人(当日主人となり相談会を開きたる人々)に依頼し一名丈けは便宜に依り発起人にて指名することに決し一同五時半頃に退散されたり、斯く創立の事も運ひたれば連署の上創立を願出て其筋の特許を得るも近々の中なるべし
又当日出席したる人々は左の如し
河野敏鎌・小林猶右衛門・渋沢栄一△中島孝行・安田善次郎・松隈鎌吾・三野村利助・宮部久・西村虎四郎・長井松左衛門・大倉喜八
 - 第13巻 p.528 -ページ画像 
郎・生島一徳・川崎八右衛門△笠野吉次郎・渋沢喜作△森村市太郎・早川男《(早川勇)》・北村英一郎・小川為次郎△間島冬道・谷元道之・島田慶助・中村道太△青地斉・中野武営△石丸安世・朝吹英二△牟田口元学・半田治兵衛△藤田茂吉・堀越角次郎△岡本貞烋・鳥海清左衛門・平松甚四郎・岡本弥兵衛△籾山半三部・奥三郎兵衛・鈴木周四郎△大村五左衛門△杉村甚兵衛・渡辺治右衛門・浜口吉右衛門△川村伝衛・長谷部喜右衛門・柿沼谷蔵△奈良原繁・米倉一平△森岡昌純△田村利七・田口卯吉△中井新右衛門・高田小次郎・高津伊兵衛△種田誠一・塚本定次郎・森時之助△中村清蔵△肥田昭作△中沢彦吉・富田恒一・百足屋弥兵衛・原亮三郎・馬越恭平・小野金六・梅浦精一・吉川泰次郎△久住五左衛門・林賢徳△山口喜三郎△吉田幸作△山本三四郎・阿部泰造・山中隣之助・小津与右衛門・益田克徳△小原勝五郎△前川太郎兵衛・千葉勝五郎・松尾儀助・矢島作郎・万代徳蔵・林徳右衛門・小林吟次郎・今村清之助・子安峻△平岡準蔵・小室信夫・石崎政蔵△小西九郎兵衛・岩出惣兵衛・荒尾亀次郎・今木東兵衛・小松彰・諸葛小弥太△浅野総一郎・小布施新三郎・薩摩治兵衛・井上兵蔵・木村正幹・須藤吉右衛門・喜谷市郎右衛門・加藤忠蔵・絹川茂兵衛・山口雄蔵・菊地長四郎・高野藤吉・三越得右衛門△鶴岡長次郎・小倉久兵衛・岡本善七・杉本正徳・村上太三郎・川崎東作△浜野茂・谷崎久兵衛・横井孝助・原兵吉・好川保兵衛・渡辺勘三郎・岩田定吉・桑原米吉・坂口福次郎・吉野甚三郎・増田太七△色川誠一△町野五八の諸氏なり但右の中△印は当日不参なりし


東京経済雑誌 第一六巻第三七七号・第一一一―一一三頁〔明治二〇年七月二三日〕 ○東京取引所創立出願の決議(DK130046k-0003)
第13巻 p.528-529 ページ画像

東京経済雑誌 第一六巻第三七七号・第一一一―一一三頁〔明治二〇年七月二三日〕
    ○東京取引所創立出願の決議
東京取引所の発起者たる河野敏鎌・渋沢栄一・早川勇・安田善次郎・三野村利助・西村虎四郎・大倉喜八郎・川崎八右衛門・中村道太・渋沢喜作・谷元道之・朝吹英二・小川為次郎・中野武営の十四氏は兼て起草中なりし原案の出来せしを以て去る十八日府下の重なる商人百余名を銀行集会所に招待し取引所創立の相談を為せり、当日渋沢栄一氏は発起人総代として会頭の席に就き従来の成行を各員に報道し了りて創立願書を議定すべき旨を告げ、起草委員小川為次郎氏をして原案を朗読せしめ各員の意見を問はれしに一二ケ所修正の外別に異見なく原案に可決せり、即原案には第三項第一部中諸証券の下に送金手形・荷預手形等の文字ありしが右は実際上取引なきものなれば寧ろ削除するに若かずと云ふ山中隣之助氏及び田口卯吉の説に決し、次きに第五項中第一部第二部の仲買人営業保証金七千円に関し田口卯吉氏より減額説出でしか之は原案の儘に据ゑ置くことに決せり、又今後創立事件に関し一同集会するの煩を避くる為め創立委員を置くべしとの議起り山中隣之助氏は会員を二千人と見積り其の百分の一即二十人を撰定すべしと主張せしが渋沢氏の十五名にて充分なりと云へる説に決し、其の撰挙法に就ては或は会頭の指名に委ぬべし或は一同の投票を以てすへしなど区々の説起りしが、従来創立に尽力せし人々に依頼する方諸事
 - 第13巻 p.529 -ページ画像 
便利なるべしと云へる宮部久氏の説多数の賛成を得て之に決し、即ち河野氏以下十四名の発起人と外一名は、右発起人にて撰むことに定まり、夫より創立事務所を設置すること、書記を傭ひ入ること、創立の経費を支出すること等に就きて相談あり、右了りて解散せり、今ま玆に小川氏の朗読せられたる草案を掲ぐれば左の如し
   ○草案ハ前掲「中外物価新報」記事(第五二六頁)ニ同ジナレバ略ス。
右の願書に署名捺印する人々は発起人以下百二十余名なりと聞く、而して吾儕は発起人諸氏の尽力に拠りて取引所の将さに成らんとするを賀すると同時に、聊か警語を述べて永く諸氏の記臆を請はんとす、其の事何ぞや、曰く諸氏が今日異口同音に相称して取引所を創立する精神は国の為め公衆の為なりと云へる言をして十年一日の如く他日決して此の言に背馳せる行なからんこと是なり、諸氏果して此の至誠の精神を変せさるや否や、請ふ読者と共に之を他日に験せん