デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

3章 商工業
29節 其他
6款 東京水道会社
■綱文

第15巻 p.246-254(DK150020k) ページ画像

明治20年7月22日(1887年)

是日栄一、大倉喜八郎・安田善次郎等十数名ト坂本町ノ銀行集会所ニ会シ、東京市内ノ水道改修ニツキ水道会社設立ノ方針ヲ定ム。栄一、他二名ト共ニ調査ヲ委任サル。


■資料

中外物価新報 第一五八九号 明治二〇年七月二〇日 ○水道工事の相談会(DK150020k-0001)
第15巻 p.246 ページ画像

中外物価新報 第一五八九号 明治二〇年七月二〇日
    ○水道工事の相談会
東京市中の家々にて飲用水に供する水道の構造不完全にして、少しく水樋の古くなるに随ひ往々汚水を混入し、衛生上実に忽かにすべからざる事ながら、其事柄の甚だ大業にして軽々に手を下し難きの故を以て今日迄旧の儘にて打過き来りたれど、啻に年々修繕に夥多の地方税を要するのみならず、荏苒何時迄も此儘にては打捨置難きに付、近日其事柄を取調べて其筋へ徐々に改造の事を上願せんか、又は人民にて引受け私立会社を起し其株金を以て堅牢なる鉄管に改造せんかとの両議あり、右に付明後廿二日午後六時より渋沢栄一・福地源一郎・大倉喜八郎・安田善次郎・川崎八右衛門・沼間守一・須藤時一郎・田口卯吉・西村虎四郎・荘田平五郎・梅浦精一・川村伝□《(川村伝衛)》・渡辺治左衛門《(渡辺治右衛門)》・角田真平・山中隣之助・芳野世経・藤田茂吉の諸氏が来る廿二日銀行集会所へ参集して相談会を開く筈なる由


東京経済雑誌 第一六巻第三七七号・第一一五頁 明治二〇年七月二三日 ○水道改修に関する集会(DK150020k-0002)
第15巻 p.246 ページ画像

東京経済雑誌 第一六巻第三七七号・第一一五頁 明治二〇年七月二三日
    ○水道改修に関する集会
久しく府下の一問題と為り居れる水道の改修に関し渋沢栄一・大倉喜八郎・福地源一郎・安田善次郎・川崎八右衛門・沼間守一・須藤時一郎・田口卯吉・西村虎四郎・荘田平五郎・梅浦精一・川村伝衛・渡辺治右衛門・角田真平・山中隣之助・芳野世経・藤田茂吉等の諸氏は昨日坂本町の銀行集会所に於て相談会を開かれたり、尚ほ委細の報道は之を次号に譲るへし


中外物価新報 第一五九三号 明治二〇年七月二四日 ○水道改良の相談会(DK150020k-0003)
第15巻 p.246-247 ページ画像

中外物価新報 第一五九三号 明治二〇年七月二四日
    ○水道改良の相談会
前号の紙上に記載したる如く一昨廿二日午後六時頃より渋沢栄一・福地源一郎・須藤時一郎・田口卯吉・荘田平五郎・山中隣之助・安田善次郎・大倉喜八郎・渡辺治左衛門《(渡辺治右衛門)》・西村虎四郎・梅浦精一・芳野世経・藤田茂吉・角田真平の諸氏は坂本町なる銀行集会所に相会し(沼間守一・川崎八右衛門・川村伝平《(川村伝衛)》の三氏は差支ありて不参なりしと聞く)て東京府下水道改良の相談を開かれたり、今其模様を記さんに渋沢氏は先つ府下水道の改良すべき理由と其事を行ふ方法に就きて種々意見を述へられ、且つ欧米各国の水道に傚ひ鉄管を以てする事は政府
 - 第15巻 p.247 -ページ画像 
の費用にて為さるべしとも思れず、去りとて区部地方税若くは区部共有金にて此大事業を起すことは行はるべきや、若し難しとせば有志の輩をして水道会社を創立せしめ、相応の約速《(束カ)》を以て其事業を行はしめて不都合なかるべきや如何との問題を発せられたり、聞く所に拠れば此の水道の議に付ては去る明治十八年区部会より府知事へ建議の次第もありて、区部会は之を今日の如く東京府庁の手に全く委任せんよりは、寧ろ区部会の与り知る所となさば幾分の運ひもつくべしとて其議に及ひたるに、今日まで府知事よりは何たる沙汰もなしと云へり、然るに此の水道改良は目下府下の急要事業なれど、地方税若くは共有金又は府債を以て数百万円の大工事を起すことは議会に於て行はさるべし、故に有志者の結合を以て水道会社を組織するは適応の方法なるべし、併しもと其会社は営利の目的を有するものにて、其事は公衆の利割《(害カ)》に係るものゆへ東京府庁若くは区部会と充分の約速を整へ、其専横に流れしめさる様検束の方法を施すこと緊要なるべし、就ては差向き現在の水道に関する状況、即ち現在水道に要する費用其他の事を取調へ、又技術家をして改良の方法を立案せしめ、然る後に水道会社設立の見込を確立すべしとて、渋沢・芳野・梅浦の三氏に其取調の事を委任して散会したりといふ


東京経済雑誌 第一六巻第三七八号・第一四九―一五〇頁 明治二〇年七月三〇日 ○水道改良の相談(DK150020k-0004)
第15巻 p.247 ページ画像

東京経済雑誌 第一六巻第三七八号・第一四九―一五〇頁 明治二〇年七月三〇日
    ○水道改良の相談
前号に記載し置きたる水道改良相談の趣意を聞くに水道改良は府下一般の希望する処なれ共、欧米各邦に倣ひ鉄管に改良する事は政府の費用にて為さるゝ可きにあらず、去とて地方税にて行わる可きにもあらされは、相当の規約を定めて之を私立の水道会社に行はしめたらは如何との一条なり、元来水道の一事は全く府庁に委任し置きたるを一昨年区部会より建議して区部会も之を与り知らんと欲せしも、未た府知事よりは何たる沙汰もなき事なるが、仮令区部会の之を扱ふ事となるも鉄管改良といふが如き大事業を興し得可きにあらされば、約束だに充分に調ひ、水道会社が専権を弄して壟断を私する等の不都合さへなきに於ては会社の業たらしむるも不都合なしといへり、就ては現在の水道に関する実際の状況を知悉し、夫れ夫れ技術家の手を以て改良の法案をも立つるか為め差向き必要の取調をなすに決し、渋沢・芳野・梅浦の三氏に之を依頼し他の人々は請求に応して何時にても集会し、何事に依らず其補助をなすと定めて其相談を終へたりと聞けり


中外物価新報 第一六〇二号 明治二〇年八月四日 ○給水条例の取調(DK150020k-0005)
第15巻 p.247 ページ画像

中外物価新報 第一六〇二号 明治二〇年八月四日
    ○給水条例の取調
府下水道工事改造の事は近頃世上の一問題なるが、過日府下の重立たる人々が銀行集会所に於て此事に付て相談会を開かれ、其中にて委員を選ひて目下専ら工事上に関する事柄の取調中なるが、今度更に帝国大学教授なる穂積陳重氏に右に関する法律上の顧問を嘱托し、又内務省衛生局にても英国倫敦にて施行し居る給水条例を参考として頻りに取調中なりといふ
 - 第15巻 p.248 -ページ画像 


中外物価新報 第一六三五号 明治二〇年九月一一日 ○飲料水の水源(DK150020k-0006)
第15巻 p.248 ページ画像

中外物価新報 第一六三五号 明治二〇年九月一一日
    ○飲料水の水源
目下府下の一問題とも云ふべき水道改造大工事の件に既に此程発起人たる渋沢栄一・大倉喜八郎・梅浦精一の三氏には横浜水道の本源神奈川県下三井(八王子を距る凡四里余なる相模川の水源)へ赴き、又横浜の排水先をも巨細に実験されたるが、聞く処に拠れば今度東京市中の水道を改造すると共に従前の水源をも取換へさる可らざる由にて、神田上水玉川上水は啻に水質の充分ならざるのみならず、其水源より経過し来れる途中にて往々汚物の混ずる等の憂へあれば、改造水道の水源は之を上州の榛名山の湖水又は箱根山中の湖水より引き来たらんとの計画あり、勿論里程は少しく遠けれど鉄管を布談《(説カ)》するには勾配の工合は寔に好都合なれば工事上に於ては甚だ容易なりと云へり、併し榛名・箱根の両所中孰れを取るかは未定なれど、兎に角神田玉川の水流は用ひざる見込なりとか云へり


中外物価新報 第一六六二号 明治二〇年一〇月一四日 ○水道工事の相談(DK150020k-0007)
第15巻 p.248 ページ画像

中外物価新報 第一六六二号 明治二〇年一〇月一四日
○水道工事の相談 水道調査委員諸氏ハ府下の水道に改良を加へんとて過日来夫々取調べに着手し、此程も横浜水道の水源並に其工事等を熟覧されたるが、水道改良の方法及び現在の水道に関する諸項等ハ粗ほ調査を了へたるに付、昨日渋沢栄一氏ハ横浜へ赴き同地水道の工師なる英人パーマー氏に面会し、工事の方法並に工費等に付き相談ありしと云ふ


中外物価新報 第一六七三号 明治二〇年一〇月二八日 ○現在水道の経費(DK150020k-0008)
第15巻 p.248 ページ画像

中外物価新報 第一六七三号 明治二〇年一〇月二八日
    ○現在水道の経費
府下水道改築の計画に付き其取調委員には去十三日を以て横浜水道工事の担任者なるパアマー氏を招きて、工事の趣向並に経費予算等の調製法を依頼したる事は其節の紙上に記せし所なるが、今聞く処に拠れば当府下現在の井戸数は水道六千個、吹出し三百個、此外堀抜井戸幾許ありや未た詳らかならされど、其費用は年々増加して現に全府下の水道修繕改築等に要する一ケ年の費額は七万円以上に達し、之か為め府民か支払ふ所の金高は水道井戸一個に付六円二十銭、吹出井戸は之に倍し金十二円四十銭宛なる由、又此の水道普請受負工事に就ては古来一の悪習慣ありて動もすれば破落子様のものゝ為めに其入札若しくは受負工事を妨けらるゝ事あるゆへ、正業者も止むなく此輩に向て若干の贈遺を為すの風をなし、之か為めに徒衣徒食するもの十七八名もありと云へり、果して左る事ありや否や、吾々が未だ実証を認めさる処なれとも随分苦々しき話なり


東京経済雑誌 第一七巻第四二〇号・第六七四―六七七頁 明治二一年五月二六日 ○水道の改良は私立会社の事業たるベし(DK150020k-0009)
第15巻 p.248-251 ページ画像

東京経済雑誌 第一七巻第四二〇号・第六七四―六七七頁 明治二一年五月二六日
    ○水道の改良は私立会社の事業たるベし
水道改良の議あること既に久し、今日に至り漸く実際の問題となりて之が実施法を議するまでに着々其歩を進めたるは東京全府のために祝
 - 第15巻 p.249 -ページ画像 
すべきなり、蓋し今日の水道は固より完全のものにあらず、其導水管の木管たるが為め阻水の力弱くして木質速に腐朽し、多く年所を経るに従ひ管外の汚水管内に混入して飲用水を汚穢ならしむるの患あり、而して水道を管理するものは木管を修繕するが為め年々多額の費用を要するに至る、此の如き水道は府民の健康を保つに適せざるのみならず、全府経済上の損失亦決して少きに非ざるなり、故に今ま府下の水道を改良し木管に代ふるに鉄管を以てし以て純良潔白なる水を十五区に供給するは、東京全府の福利を増進するに於て其効豈に少しとせんや、左れバ此事に就ては世間また異論なきなり、唯だ此改良事業を挙行するに当り東京区部会に於て之を経営すると、民間の私立会社に之を全任すると何れか府民に利益多きやに至りては世間尚ほ区々の議論あるが如し、凡そ此種の大事業を挙行するに当りては此の如き議論を生ずること往々其先例なきにあらず、瓦斯事業に於て曾て之ありしなり、洲先埋立事業に於て曾て之ありしなり、然らば則ち水道改良事業に於て何ぞ独り此議論あるを恠まん
蓋し今日此大事業を実行するに当て区部会自ら之を経営すると、私立会社に之を全任すると何れか府民の利益なるや、吾輩の信ずる所を以てすれバ之を何れにするも固より多少の利害なきに非ずと雖も、若し公平に之を判断すれバ前者の利は後者の利益多きに若かざるなり、共有論を可とする論者は、此の如く一会社に此大事業の経営を全任するは恰も一会社に専商権を特与するものなり」と論ずれども、凡そ専商権なる者は政府が某会社又は某商に限り特別に一種の事業を営むことを許し、他に之と同一の営業を為すことを許さゞるを云ふものにして今ま水道改良事業を私立会社に全任するが如き場合とは其事情を異にするものなり、此場合に於ては某会社又は某商に限り専売権を特与すと云ふにあらず、数多の会社ありて同時に此事業に当らんことを望まば其中身元確かなるものに之を全任することなり、事業竣功の後ち有利の事業たるを知りて之と競争を試みんと欲し、更に又水道会社の設立を出願するものあらば公益に害なき限りは何人にても之を許可することなり、此の如きもの豈に専商権を与ふと云ふを得ん、若し之をしも専商権を与ふるものとせば瓦斯会社の如き、馬車鉄道の如き、桟橋会社の如き、諸会社の創立を許可するも亦専商権を与ふるものと云はざるべからず、天下豈に此の如き理あらんや」論者は又此の如き事業を私立会社に全任する時は、例へば濫りに用水料を上下するが如き、若くは水管の修理を怠るが如き弊害を生ずるに至るべしと論ずと雖も会社創設の際十分厳重なる約束を結び置かば此の如き弊害は万々生ずることなかるべし、従来我国に於ては会社創設の際諸官庁に対し厳重なる約束を結びながら、動もすれば其の約束を履行せざるもの儘々其例なきにあらず、是れ諸官庁が会社に特別の利益を得せしめんが為め厳重に約束の履行を責めざるが如き事情あるに因ることなり、今夫れ水道会社に対する約束の如きは決して此の如きものにあらず、苟も公益を害し怠慢に流るゝが如き形跡あるに於ては東京府これを責め、区部会これを責め、遂に府民の輿論を以て之を責むるを得べし、何ぞ当初の約束を履行せしむるの難きを憂へん」且つ我国従来の実験に由り
 - 第15巻 p.250 -ページ画像 
て考ふるに、共有の制は事務に渋滞を来し費用に増加を見ること其の通患たるが如し、而して東京区部会が水道改良事業を経営するに当りては独り此通患なきを得る乎、区部会に於ては固より敏捷に且経済に其事務を経営すべしと雖も、利害の直接せる私立会社が之を経営するに比すれば、猶或は事務渋滞費用増加の結果なき能はざるべし、是れ亦深く察すべきなり
然れども此等の事に就ては世間既に定論あり吾輩は亦深く之を論究せざるべし、唯だ吾輩が猶ほ一言せんとするものは区部会に於て水道改良に要する工事費五百六十万円を支出するの困難なること是なり、蓋し現今十五区人民が負担する地方費は毎年大約八十余万円にして、其負担既に軽しとなさゞるなり、然るに今又之に加ふるに五百六十万円の臨時費を以てし、毎年少くも百万円の地方費を負担せざるべからずとする時は、十五区人民の困難実に名状すべからざるものあらん、故に地方費を以て此工事費を支弁せんとするは固より為し得べきことにあらず、然らバ則ち区部会は如何にして此工事費を支弁せんとする乎と云ふに、或論者は府債を募集して此費用に充つべし」とサモ造作なげに弁ずと雖も、是亦十五区人民の為め好ましきことにあらず、十五区人民今日の信用を以てせバ五百六十万円の府債を募集すること固より反掌の労たるに過ぎざるべしと雖も、今後十五区人民が経営すべき事業一にして足らず、下水改良・市区改正・品川湾浚渫の如きは其事業の重なるものにして、此の如き事業は之を私立会社に委任すべきものにあらざれバ十五区人民は是非とも自ら之を経営せざるべからず、而して之を経営するに当りては多額の資金を要するなり、左れバ私立会社に委任して不都合なき事業ハ仮令ひ少々は公共の利害に関係を有するものなるにもせよ、区部会は決して自ら之を経営すべからず、若し自ら此の如き事業に当るときは他日自ら担任せざるべからざる事業を遂行するに当り、忽ち費用の支弁に差支を生ずるに至るべし、是れ今日区部会が工事費五百六十万円を支出するに困難なる事情ありといふ所以なり
是故に吾輩は水道改良事業は私立会社に之を全任するの利益多きことを思惟せずんばあらず、然らバ即ち私立会社は能く此事業を担任し、パーマル氏が予算したるが如く五百六十万円の資本金に対し年七分以上の利益を期するを得べき乎、此事に就ては水道改良委員中にも尚多少の議論あるが如し、云く今日十五区内に於ては水道の外に堀井戸を用ふる者多し、若し此堀井戸の使用を禁するに非ずんば水道会社の事業は到底成立能つはざるなり、云く若し堀井戸の使用を禁ずる能はずとせばセメテハ会社の利益を保証するに非ずんば到底其利益を期する能はざるなり」と、夫れ或は然らん、然れども水道会社の為め堀井戸の使用を禁ずべからざるは固より言を待たず、利益保証の如きも亦決して為すべきことにあらず、何となれば今日会社が玉川上水の水を専用するだけにても既に非常の利益を得たるものにして、此上利益の保証を望むが如きは実に望外の希望たるべければなり、思ふに水道会社の事業は此の如く堀井戸の使用を禁じ、若くは利益保証を待たずして相当の利益を期し得べきの方法あるべしと信ず、吾輩の見る所を以て
 - 第15巻 p.251 -ページ画像 
すれば水道会社が人口稠密にして多く上水を用ふる地区を撰み、先づ此地区よりして工事を始め漸次其事業を拡張するの方法を実行せば必ず利益あるべしと信ずるなり
今夫れ水道会社が十五区内に鉄管を布設し、手広く其事業を経営せんとするに当りては、会社の利益は蓋し期し難かるべし、何となれバ十五区中には人口稀少なる地区あり多く堀井戸を用ふる地区あるべけれバなり、然れとも若し人口稠密にして堀井戸を用ふる者少き地区を撰み、先つ此地区よりして工事を始むるときは、必ず相当の利益を期するを得ん、現今十五区中人口十二万以上を有し、且堀井戸を用ふる者少くして神田・玉川・千川の上水を使用すること多きものは、即ち京橋・日本橋及神田の三区なりとす、東京府統計全書の記する処によれば明治十九年末の実況は左の如くなりき

        人口       戸数     上水井戸
 京橋区   一七〇、八一六  二七、八二三  一、二九五
 日本橋区  一五三、九九六  二五、五五七  一、二三三
 神田区   一二三、二四一  二七、二四八  一、二六二

右三区の堀井戸は統計全書これを記せざるに就き今詳かに之を知る能ハず、然れ共上水井戸の数前記の如く多きを以て見れば此三区に於てハ堀井戸を使用する者極めて少かるべしと思ハるゝなり、去れば水道会社が先づ此三区に鉄管を布設して其事業を開始せバ殊に堀井戸の使用を禁することなく、又利益の保証を要することなくして必ず相当の利益を期するを得べし、是よりして漸次人口稠密なる地区を撰定して次第に其事業を拡張せば、数十年の後には必ず巨大なる水道会社を見るに至らん、凡此種の事業を計画するに当りてハ一朝にして功を期すべきものにあらず、必ず十年若くは数十年を通じて其事業の損益を計算すべきのみ、故に水道改良委員たる者少しく玆に反省して敢て此大任に当らんことを希望せざるべからざるなり、吾輩は此事業に於て必ず相当の利益あることを信ずれバなり


東京経済雑誌 第一八巻第四三九号・第四五三頁 明治二一年一〇月六日 ○東京水道会社設立協議会(DK150020k-0010)
第15巻 p.251 ページ画像

東京経済雑誌 第一八巻第四三九号・第四五三頁 明治二一年一〇月六日
    ○東京水道会社設立協議会
東京水道の工事は府民の一般に関することにて通常の会社の如く利益を専一とするものにあらず、左りとて又た五六百万円を要する工事なれバ利益なきに於ては着手すべからず、彼是れの都合にて先般来頗ふる綿密なる取調を為し、傍ら英国陸軍工兵少将パーマル氏の調査等を参照して漸く府下十五区水道布設の調査略ぼ整理せし為め、近日右に関する協議会を開くよしなるか、又たかくの如くは該工事は一切市会に於て担当するになるべしと云ふ


中外物価新報 第一九六〇号 明治二一年一〇月九日 東京水道会社設立の相談(DK150020k-0011)
第15巻 p.251-252 ページ画像

中外物価新報 第一九六〇号 明治二一年一〇月九日
    東京水道会社設立の相談
府下の紳商渋沢・大倉・福地・梅浦・沼間・芳野其他の諸氏が発起に係る東京水道会社設立の計画ハ、総て内務省雇英国工兵少将パーマー氏の設計方法に基くと雖ども、東京府下十五区内の人口ハ警視庁の調
 - 第15巻 p.252 -ページ画像 
査に係る現在戸口調の数に就て給水及其給水料収入割合の予算を立つることとし、頃日来担当者を置きて頻りに取調を為さしめ居りし処、一両日以前一通り調済となりしかば右発起人中の委員渋沢・梅浦・大倉の三氏及パーマー氏ハ昨日午後より某所に会合して、工費予算節減の事に付て色々協議を遂げたる由、今同会社設立の計画に係る組織方法の概要を聞くに、全体の工費最初の予算にてハ金五百六十万円余なりしを減じて丁度五百万円とし、之を五十万株に分ちて一株を金百円と定め、東京市会と訂約して資金総額に対し年六分の利子保証を受け其代りに工事落成の翌年より資本金の内毎年金六万円宛抽籤を以て収益金中より償還し、此方法に由るときハ向三十ケ年にて資本金総額五百万円を償却し畢り、右悉皆株金を払戻したる上は水道会社の資産全体を挙て無代償にて東京市会へ交附すべし、又一ケ年の収支予算ハ給水料収入金六十三万余円(但一戸専用・共同用・消防用・泉水用等の給水料とも、横浜水道の現時給水料よりハ二割乃至三割方低価に積算す)支出金三十万円年六分の割合にて総株配当金、六万円元資償却金二十五万円経費、差引金二万余円の剰余あり、此内より相当の配当平均準備積立金を為す筈なるが、実際経費に二十五万円の巨額ハ要せざる見込なれば、仮令東京市会より年六分の利子保証を受け置くも、其実会社の収入金丈にて充分にて市会より利子の補給を受るが如きことハ恐らくなかるべしと云ふ、斯る組織方法にして三十ケ年の後は無代償にて東京市会へ引渡すものにて、其目的ハ全く東京府民総体の福利公益を謀るにありて素より営利事業にあらざるを以て又政府に向ても特別の保護を請ハざるべからず、今其中二三の要点を挙れば、玉川上水ハ沿川人民の必要とする水量を除くの外ハ会社にて自由に同河流を引くことを得る事、神田上水ハ東京水道会社の工事竣工の上ハ筧を撤去する事、玉川上水支流・戸田上水支流の閘扉ハ会社にて自由に開閉すること得る事、府下十五区内の堀井にして其水質玉川上水より劣等なるものハ飲料水と為すことを禁ずる事、鉄管布設又ハ蓄水池其他会社にて必要なる土地にして民有地に係る分ハ公用土地買上規則に由り又官有地なるときハ無代価を以て会社へ下付し且地税を免除する事、給水料ハ区役所にて取纏めて会社へ交附する事、其他の数項なりと聞く、右に付発起人諸氏ハ近々総会を開きて熟議を遂る筈なりと云ふ


中外物価新報 第一九六一号 明治二一年一〇月一〇日 水道会社設立続聞(DK150020k-0012)
第15巻 p.252-253 ページ画像

中外物価新報 第一九六一号 明治二一年一〇月一〇日
    水道会社設立続聞
東京水道会社設立計画の大要ハ已に前号の紙上へ記載せしが、尚聞く所に拠れば内務省雇パーマー氏の意見にてハ府下十五区全体へ給水管を布設せんよりハ寧ろ日本橋・京橋・神田・麹町・芝等人口最も稠密なる五区丈へ布設することゝせば工費ハ金二百万円なれば充分にして会社が給水料の収入高ハ金三十二三万円余ありて却て十五区全体の総収入料の過半を得らるべしと云ふにあれど、渋沢・大倉・梅浦其他の発起人諸氏ハ素より営利事業の目的にあらざるを以て、成べく十五区全体に及ぼして区内の人民ハ相倶に此水道の便に由らしめんとの意見を抱き居れど、斯く為すに就てハ東京市会と充分なる訂約を取結ばざ
 - 第15巻 p.253 -ページ画像 
るべからず、されば容易にハ孰れとも決定ハ為し難かるべしと想ハる又前号の紙上に記載せし内東京市会より年六朱の利子保証を受くる云云及玉川上水より劣等なる水質の堀井ハ飲料に供するを禁ずる云々ハ発起人中或一部分の説にして、未だ取極りたる議にハあらずと云ふ


東京経済雑誌 第一八巻第四四〇号・第四八九頁 明治二一年一〇月一三日 ○水道会社発起人の相談会(DK150020k-0013)
第15巻 p.253 ページ画像

東京経済雑誌 第一八巻第四四〇号・第四八九頁 明治二一年一〇月一三日
    ○水道会社発起人の相談会
渋沢・大倉の諸氏発起人となりて水道会社創立の計画中なることは兼て聞及びし処なるが、右諸氏は去る八日東京商工会の議事堂に集会し設計者ゼ子ラル、パーマー氏の臨席を請ひ水料収入予算の適否及び工事費節減の事等を審議したりと云ふ、聞く所によれば発起人諸氏は水道敷設に就いて二様の考案を有し、第一の考案は府下十五区内に水管を全通し純良の浄水を供給するを以て目的とするものにして、其工事費は大約五百万円を要し其水料収入高は一ケ年凡六十二三万円ありと云ふ、仮りに此収入高に大差なきものとすれば、此内より営業費・償却金等を引去るも猶一ケ年七分以上の利益を配当し得べき見込なれども、水道敷設の事は府下新創の事業にして予算の如く収入を得べきや否やに就いては容易に断言し難きに付き、即ち東京区部会と契約を結び年六分の利益を保証せしむることゝし、会社は之に対して毎年六万円づゝ株金を償還し凡そ三十年の後に至らば会社の財産を挙げて十五区人民の共有財産となすの見込なり、又第二の考案は、麹町・神田・日本橋・京橋・芝の五区内に限り水道を布設し、全く営利の目的を以て会社を組織し区部会に対しては利益の保証を要することなく、会社に於ては毎年株金を償還することなく、唯だ当局者が指示せらるべき命令の範囲内に於て随意に営業するものにして、此考案によれば工事費は凡二百万円を要し、其収入は一ケ年凡三十万円位あるべき見込なれば、独立して其業務を経営すること難からずと云ふ、偖発起人諸氏は右二様の考案に就き全く調査を了するに至らば水道会社創立の義を出願し、先づ第一方案の認可を請ひ、若し認可を得ざる場合もあらば第二方案の認可を請ふ見込なりとぞ、余輩は寧ろ第二方案の行ハれんことを望む者なり


中外物価新報 第一九六五号 明治二一年一〇月一四日 東京水道会社(DK150020k-0014)
第15巻 p.253-254 ページ画像

中外物価新報 第一九六五号 明治二一年一〇月一四日
    東京水道会社
同会社設立の事に関してハ是迄本紙上に屡々記載せしことありしが、尚聞く所に拠れば同会社の位置ハ最も高台の場所を択ハざるべからざるに付、霊岸島の乾潮より百四十尺を抜く所の四谷内藤新宿の戸田邸内と定め、同所に濾水機械を置き且つ数多の沈澄池・貯水池を設け、此処より鉄管を通じて東京市街へ分水し又市内に石及び煉瓦石を以て畳み上げし四台の大水塔を樹て、管中の水ハ必らず一度此水塔の頂へ掲げて圧力を附け、夫より又鉄管を通過して排水口より噴出せしむる趣巧なり、尤も排水口ハ其の用途に由りて種々の区別あれども、概ね之れを七種に区別し、第一放任供給栓(是ハ特に家中へ引きて一軒にて専用するもの)第二共同栓(是ハ市街各所に設けて数軒又ハ十数軒
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にて共同使用するもの)第三消防栓(是ハ街上五十間毎に一ケ所を設け非常消防の用に供す)第四市街撒水栓、第五特別用栓、第六泉水排水、第七馬疋厩舎用栓等なりとす、而して消防用栓ハ街路の土中に設け平常ハ鉄網の蓋を以て之れを蓋ひ置き、近傍に失火ありし節此蓋を開きて螺旋を緩め其排水口へ卿筒の筒を当て篏れば別に機械を運転するの労を取らずして、喞筒の尖頭より間断なく迸出する水ハ、浅草の人造富士又ハ駿河台に建築中なる希臘教会堂の頂上と相均しき高さに迄ハ達すべしと云へり、左れば失火消防の為めにハ其効用蒸気喞筒の如き比にあらざるが故に、英国倫敦抔にてハ銀行会社若くハ少しく資産ある人々ハ特に自家の側に非常用の消防栓を備へ置けりとぞ、又放任供給栓の給水料割合ハ家内人口の多寡に由りて第一等より第四等迄に区別し、一等ハ一ケ月金二円八十銭、二等ハ同二円二十銭、三等ハ同一円六十銭、四等ハ同一円宛を徴収し、共同栓ハ水量一千ガルロン金十五銭の割合に拠り一戸に付一ケ月凡五六銭宛を出さしむる勘定となるベし、又特に放任供給栓を家内へ設くる場合にハ以上の給水料さへ支払へば導管及排水栓の据付ハ総て会社持にて、現今東京にて瓦斯を引用する如く別段最初に器械の装置費等ハ取らざるの仕組なりと云ふ


中外物価新報 第一九七二号 明治二一年一〇月二四日 水道会社設立相談会(DK150020k-0015)
第15巻 p.254 ページ画像

中外物価新報 第一九七二号 明治二一年一〇月二四日
    水道会社設立相談会
是迄度々本紙上に記載せし東京水道会社設立の件ハ、諸搬の調査全く整頓したるに付最早今日迄にハ発起人総会を開くの手順なりし処、発起人中の重立たる方に差支ありしと且ハ支出工費予算中に尚少しく修正を要する廉ありし為め延引せしが、右修正の出来次第近日愈よ開合《(会カ)》する都合なる由


中外物価新報 第一九七四号 明治二一年一〇月二六日 東京水道会社(DK150020k-0016)
第15巻 p.254 ページ画像

中外物価新報 第一九七四号 明治二一年一〇月二六日
    東京水道会社
同会社設立の件に就てハ是迄数々本紙に記載せしが、愈よ下調ハ悉皆完了せるを以て頃日其取調主任たる福山武氏より渋沢栄一氏まで該書類一切を差廻ハされ、目下同氏に於て検閲中の由なれば多分来月二日頃発起会を開き、直に府知事へ書面を呈し会社創立のことを請願するに先ち一応東京区都会《(部)》の意見を問ハるゝよし、何分にも近来の一大事業なるをもて斯く鄭重にせらるゝも理りなりと云ふべし