デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

3章 商工業
29節 其他
17款 全国米業者大会
■綱文

第15巻 p.353-359(DK150034k) ページ画像

明治40年4月10日(1907年)

是日栄一、東京赤坂溜池三会堂ニ開催セル全国米業者大会ニ出席シ、一場ノ演説ヲナス。後チ大日本米穀会会頭ニ推サル。


■資料

渋沢栄一 日記 明治四〇年(DK150034k-0001)
第15巻 p.353 ページ画像

渋沢栄一 日記 明治四〇年         (渋沢子爵家所蔵)
四月十日 雨暖                 起床七時就蓐十一時三十分
○上略 正午銀行倶楽部ニ抵リテ午飧シ、要務ヲ談シ、畢テ三会堂ニ抵リ米商大会ニ出席シ、一場ノ演説ヲ為ス ○下略
   ○中略。
四月十四日 曇暖                起床七時就蓐二時
○上略 午後一時紅葉館ニ抵リ、米穀商大会ニ於テ催シタル園遊会ニ出席シ、一場ノ演述ヲ為ス ○下略


東京経済雑誌 第五五巻第一三八四号・第六八〇―六八一頁明治四〇年四月二〇日 ○全国米業者大会(DK150034k-0002)
第15巻 p.353-354 ページ画像

東京経済雑誌 第五五巻第一三八四号・第六八〇―六八一頁明治四〇年四月二〇日
    ○全国米業者大会
全国重要地の米商並に産米改良家の代表者が、懇親を厚くし米穀売買上の進歩を計り、且つ産米俵造の改良等に対し相互の意見を交換する目的を以て設立せる全国米業者大会は、去十日より十二日に至る三日間、赤阪溜池三会堂に開催、来会者二百数十名、中村清蔵氏会長に推選せられ、初日には松岡農商務大臣・渋沢男爵・森田商工局長の演説あり、次で報告協議に移り、翌十一日は左の件を決議する所ありたり
 一米の俵装を改良する事
 一産地と需用地間に於る米穀輸送上の設備を完成する事
 一米俵の容量を四斗に一定して米産の年度を記入する事
 一運輸の速達を計る為め産米主要地へ貨車の供給を円満ならしむる様主務省へ請願する事
次に東京高等商業学校長松崎蔵之助氏及農商務省参事官山脇春樹氏の演説あり、最終日たる十三日は左の各項を可決したり
    第一 主務省に建議すべき案
 一米穀検査法の制定施行を其筋へ建議する件
 一米穀の運賃を一定し且米産地に向ひ貨車の供給を充分ならしむる様其筋へ建議する件
    第二 当業者が向後励行すべき案
 一産米の検査及輸出検査は法律の制定を待たず各自励行する件
 一米俵には米の生産年度生産者及輸出者を記したる標札を容るゝ件
 一米の運送に際し荷出入の住所氏名をも明記する件
 一産米改良の普及を謀る為め主要なる産米地に輸出米の県設検査所を置かるゝ様其県庁へ請願する件
 - 第15巻 p.354 -ページ画像 
    第三 米商の向後励行すべき案
 一米桝にして一斗以上のものは漸次角桝を廃し丸桝を用ふる件
第四部の討議を要する案は、左の二題に就き議論百出せしが、結局宿題とすることとなれり
 一米の桝量を衡量取引の方法とする件
 一乗直段の責任を明にする件
尚ほ此度の大会を永久的会合の基礎とする為、大日本米穀会なるものを設立することとなり、規則を議定したるが其要領左の如し
 一事務所は当分深川東京廻米問屋市場事務所内に置くこと
 一目的は普く米穀の生産(乾燥、調製及包装)運輸取引に関する事柄を攻究し以て斯業の改善発達を計るに在ること
 一会員は全国各地の米業者及産米改良事業の関係者並に本会の趣旨に賛成のものたること
 一大会は毎年便宜の地に開くこと
 一入会者は来五月末日迄に一ケ年分の会費金二円を添附し事務所へ申込むべきこと
斯くて役員の選挙に移りしが、渋沢男を会頭に推選し、幹事長には深川廻米問屋組合の会長を推し、幹事は会長の推選に一任することゝなれる後、紀念品として代表者一同に、稲禾交叉の彫刻ある銀盃一個宛を配布し、閉会を告げたり、尚翌十四日紅葉館にて園遊会を開き、中村清蔵氏開会の辞を述べ、渋沢男の演説あり、数番の余興あり散会したり



〔参考〕竜門雑誌 第二二七号・第三五―三六頁 明治四〇年四月 ○全国米業者大会(DK150034k-0003)
第15巻 p.354-355 ページ画像

竜門雑誌 第二二七号・第三五―三六頁 明治四〇年四月
○全国米業者大会 全国米業者は四月十日より三日間赤坂溜池三会堂に於て大会を開きしが、青淵先生には其初日招に応じて臨場の上、米に関する一席の講話あり、其大要左の如し
 米は他の事物に比して其進歩頗る遅々たるが如し、維新以来諸般の事業が非常なる進歩発達を為したるに比し、独り米が其産額に於て著しき増加を見ざるのみならず、耕作方法若くは販売の上に於て左程驚くべき進歩拡張を見る能はざるは、或は当業者の熱心足らざるか智識の乏しきに因るにはあらざる乎、若し然らば諸君焉ぞ奮励一番せざる、然れども凡そ事物の進歩には自ら一定の限度ありて、其程度に達したる以上は容易に著しき進歩の見ゆるものにあらず、我国に於ける米の進歩の遅々たるは既に維新前に於て一定の程度迄発達し居りたるものにして、所謂名人の碁は半石の上達も尚多くの時間を要するものと同一理にして、必ずしも当業者の責のみにあらざるやも知れざれども、それにしても発達改良の余地は尠からず
 愚見によれば第一は人造肥料の使用を奨励することなり、生産の豊饒なるは取りも直さず売買上の利便なれば売買業者も亦た此点に注意するを要す、第二は耕作物の運搬なり、各地に散在する零砕なる産出物を人の力馬の力のみによりて市場に運搬するは不便不経済なれば、土地の状況の許す限り農場鉄道を布設する等の方法を講ずるを要す、第三は俵装の改良なり、海外に於ては米を俵に入て運搬す
 - 第15巻 p.355 -ページ画像 
るは或る少数の場合に限られ多くの場合に於てはバラ運送にして頗る便利なり、曾ては鑵に入れて売買したりし石油も今や大なるタンクに入れて商ふに至りたるを見れば、米のバラ運送の時機も必ず到来すべく、其到来の速かならん事を希望するなり、第四は当業者が申合せて営業の信用を厚するの方法を講ずるを要す、斯くの如く耕作・肥料・運送・俵装に注意し更らに売買方法に付て一層の注意を払はゞ、其結果は海外に向て善良なる輸出品となるに至るべし云々
猶先生は右大会終了後四月十四日芝紅葉館に開かれたる当業者懇親会にも招に応じて臨場せられ、一席の演説ありたり



〔参考〕竜門雑誌 第二二九号・第一一―一六頁 明治四〇年六月 ○全国米業者大会に於ける演説(青淵先生)(DK150034k-0004)
第15巻 p.355-359 ページ画像

竜門雑誌 第二二九号・第一一―一六頁 明治四〇年六月
    ○全国米業者大会に於ける演説 (青淵先生)
                       (四月十日)
斯る御会合に参上致しまして、全国の当業諸君と一堂の下に御会見を致しますのは私の最も欣喜に堪へぬ所でごいます、今日此大会に参上致して諸君に対して一言申上げるやうにと此程中村恒川の両君から御委託を蒙りましてございます、喜ぶことでございますから御請けを致して参上は仕りましたけれども、元来私は米商売と云ふことには直接関係がございませぬ、諸君を益することを申上げるに殆ど困難を致すのでございます、此米と云ふものは日本の総ての人に関係の大なるものと云ふことは是は申すまでもございませぬ、私も米に依つて生活を致して居る人間であれば其恩や蓋し大なり、故に米と云ふものに対しての観念は甚だ厚いけれども、さて此米を如何に耕作するか、如何に商売するか、それに付て斯くするが利益である等のことに付ては意見もございませぬ、実験も乏しいと云ふ次第でございます、強て昔からの私の関係経歴を玆に繰返しますならば、根が埼玉の百姓の生れでございますから、十七八歳、二十歳頃までは炎天に出て田の草を採つたとか、水を引く為に番をして大変腹を減らしたことを記憶して居ります、併ながら是は余程昔の話で其以来東京で実業界に関係致して居りますに付て平生経営致して居ります所の人造肥料、是等も尚米と縁故が近いもので米を耕作するに付て欠くべからざるものと申して宜い、併しさう云ふことは総て間接である、又更に己れの本領から申すと、米其物は農業に依つて製造され、諸君の御手に依つて売買されますが其米が土地を変へて運搬さるゝと云ふには金融の便利に依らなければならぬ、即ち銀行が此の米に対して荷為替等の取引を致しますのも大いに米に便利を与へると申しても宜い、私の銀行は一番古く成立ちましたので、近頃は色々商品の数も多くなりましたけれども、其の昔の銀行は先づ農産に多く依らなければならぬ、此の農産の重なるものは米と生糸である、今も尚私の管理して居る第一銀行は米に対しての取引、生糸に対しての取引を本業中の重なるものと致して居ります、斯様に申すと肥料の広告やら銀行事業の広告でも申上げるやうに聞えて斯る御席を利用するやに相成つては済みませぬが、強ゐて関係を玆に論じて参りますれば其の辺のことになります、仮令諸君を益することは何等申上げ得られぬでも第一に日本人として米に依つて生活する者
 - 第15巻 p.356 -ページ画像 
である、又今申す如く幼年の頃からして総て関係を有つて居りましたそれで是非参上して諸君に御目に懸つて見やうと思つて出て来た次第でございます。
御集まりの皆様は多くは此米の売買運搬等に直接御経営をなさる諸君と考へます、各地より御参会になつて必ず此米に対し或は農業上に付て種々なる御考案もあらつしやることでございませう、商売に熟練せぬ私は米に対して斯る取引をしたしとか云ふことの愚見は玆に提出しませぬが私は一つ米と云ふものに対して玆に腹蔵なく愚見を申上げますると、他の事物の進歩に対して米其物の拡張も少なし、商売の便利の進みも余り著しくないと申上げる外無いと考へます、斯う申すと折角尊来の諸君に対して苦情若くは攻撃の言葉に聞えて其実況も知らぬ私は甚だ過言に当るかも知れませぬ、さりながら維新以来四十年間に事物の発達と云ふものは或る種類に付ては何十層倍も拡張致したことが頻々数へられます、然るに米と云ふものに対しては全国の生産高を調べて見ましても……私は米と云ふものゝ統計は記憶しませぬ、玆に農商務省の御役人が御出でになつて居らるゝが、或る年は大に進んで来たが又或る年は大に減じたことがある、十年前二十年前に比較すれば多少増して居りますが、さう何倍にも進んだとは申上げられませぬ又其耕作法も商売の手続等に至つてもさまで目を驚かす程の改良拡張の見られないのは、他の事物に比較して之に従事する諸君の御丹精が足らぬのか、知識がそこまで進まぬのかと云ふ疑問を起さねばならぬと思ふ、併し再び之を考へて見ますると、私が前に申述べた希望は頗る考への違つたことで、凡て物事は既に進んで来れば更にさう大に進むものでない、之を或る技芸に譬へて見ませう、例へば碁を打ち将棋を差す、四ツ目殺しを覚えたゞけの碁であれば稽古がずんずん進んで行つて聖目置かねばならぬ相手に僅かの間に三目か四目と云ふぐらいに上達することは容易である、併し最早段入りでもすると云ふ場合になると半目進むにも数年掛ると云ふことになつて来る、将棋の技芸に於ても尚然り、其他の事物も総て左様である、して見れば既に進歩したものに対しては其上の進歩は乏しいものである、まだ進歩の遅々たるものが何倍と云ふことに進んで行くのが物の常である、物の条理である、さうなると私が今申す米も維新後四十年間の進みの左まで著しくないのは蓋し米の事業が甚だ進歩して居つたと云ふことを証明するに足る、斯う申すやうに相成らうと思ひます、故に是は決して何も諸君の御丹精が足らないのでもなく、又其局に当る御方の奨励が乏しいのでもない、既に日本の米事業は或は耕作に或は収穫に或は運送に或は売買に総て大に進歩して其宜しきを得て居るものである、故に今日に於て斯の如く先きに進んで行く世の中にそれと同じやうに進む訳にはいかぬ、即ち名人の碁は半石進むに大層暇が取れると云ふ時機であると解釈し得らるゝと思ふのである、故に此の進みの乏しいのは今の如く解釈しましたならば寧ろ喜ぶべくとも憂ふべきでない、併し此場合生産上若くは運搬上に若くは売買上に改良すべき余地が無いかと云ふ論に至つたならば是は大いにありと申さなければならぬと私は考へるのでございます(ひやひや)既に諸君に於ても此事は充分に御注意
 - 第15巻 p.357 -ページ画像 
になつて力を尽されて居られませうが、例へば此農事の耕地整理、是は単に米ばかりでございませぬが、最も米の出来る田に関係が一番多いやうに私は考へて居ります、又種子を取替へ、其種子を選ぶと申すやうなことも業に既に私が申すのは素人説でございますけれども、充分に其筋にても之を改良し之を奨励して居りますが、蓋しまだ其妙処に達したとは申されないのであります、又最も注意すべきものは此耕作に与へる肥料でございます、肥料の選択は必ずや其費す価より得る所の利益は甚だ大と云ふことは決して疑ふべきことでない、故に諸君は売買に従事する方々と考へるが生産の豊かなることゝ売買の便利なることゝは相俟つて進むべきものとするならば、各地方地方に於て相成るべく、生産を豊かならしむることを御努めが願はしう考へるのでございます。
続いて私は更に此運搬売買に付て最も経験の無い愚説を玆に申上げやうならば、どうも日本の耕作物に対する運搬の聯絡が甚だ乏しいやうに思ふのでございます、蓋し其地方の産出物が一つに纏つて甚だ巨大でない、切れ切れになつて居ると云ふ風が然らしむるでもありませう悉く之を大なる運送場へ持運ぶには甚しきは人の力、一歩進んで馬の背、或は荷車と云ふ位しか依れない、運送場まで鉄道を利用することは亜米利加に於ては多く見られますが、日本では何処へ行つても見ることが出来ない、元と此運送をして果して私の希望する如くに行くか行かぬか分りませぬけれども、鉄道を農業に利用することが出来たならば必ず運送費を省いてつまり其生産費を廉くするのである、斯う申上げて宜いと考へるのでございます、御集りの諸君の各地には皆此事が行はれ居るとは私は申上げられませぬが、或る地方に依つては今数哩の鉄道を延したならば、馬が運び車が運び人が運ぶよりも大に廉くすることが必ず出来ると私は信じて疑はないのでございます、若し此意念が強かつたならば業に既に農業鉄道と云ふ形のものが日本の各所に現はれなければならぬのに、まだ現はれませぬのは或は利害関係からして望んで行はれないことがあつたかも知れない、幸に今日は其鉄道は国家の所有となつた、国家が此鉄道を所有すると云ふのは成るべくだけ生産力を進めたいのが趣意であると云ふことは鉄道国有に付ての論旨に屡々拝聴したのである、果して然らば今米産の多い地方には僅の費用を以て支線が出来るに違ひない、此支線を以て米を運搬する方法を是非是から先きに各所に講ずるやうに致したいと私は思ふのであります
更に一歩を進めて尚希望を申上げやうならば日本米の運搬は俵装せねば運ぶことが出来ない、是は俵装した方が便利であるかも知れませぬが、併し海外の有様を見ますると、穀物を俵に入れると云ふことは或る場合に於ける運搬法であつて重なる運送は多くはばら運送に依つて居るやうに思はれます、是等はどうしても俵装せねば運送が出来ぬ、俵装した方が運送に利益であるか、若くはばら運送が遂に行はれる時代が生ずるか、今斯う申上げても其様なことは出来るものかと云ふ御攻撃がありませう、併し亜米利加でも昔は種々な農産物を各地に運ぶ時はあのやうなばら方法はやらぬに違ひない、試みに他の例で論じて
 - 第15巻 p.358 -ページ画像 
見ませう、日本に来る油ですが、是は大抵鑵に入れて函に入れて商つて居つたが、近頃では米で言ふとばらと云ふ工合に大きなたんくに入れて馬で引張つて、一舛幾らとか二舛幾らとか言つて商つて居る、鑵に入れ函に入れるよりは必ずあの方が大いに其労費を減ずる、目的は其油を使ふに帰する、米は炊いで食ふに帰する、炊いで食ふに必要な方法だけに止まれば宜いのである、肥後米の俵は立派で見栄が宜いが果して肥後俵を見れば米を食つた気がしませうか、是は米が良く奇麗であつたならば仮令ばらで持て来ても家で炊いで食つてうまければ宜い、俵から釜に入れる訳にいかぬのである、故に私は此運送に於ても遂には今申上げたるばら運送と云ふことは一の攻究問題に上るものではないかと斯う考へるのでございます
続いて此商売の方法でございますが、私は最も此事に付ては経験が乏しい、又考へも無いことでございます、併し是も能く攻究熟慮して見ましたならば今日はもう既に米に対しての御取扱ひは完備致したものであるとは申し得られぬかも知れぬのでございます、地方地方の模様に依つて当業者の御申合せで今少し其商売の信念を厚からしむる方法又其商売の人手を減ずる手段等は御考へなさつたら私は必ずあらうと思ふのでございます、果して前の通り耕作上に注意し、又肥料に心を用ひ此運送に若くは俵装に愚説が其宜きを得ぬか知れませぬが、或は他の方法などに加へて而して此売買方法に付て今一層の御手段がそこへ生ずるやうに相成つたならば、詰り其生産の費用も廉く出来ることになる、費用が廉いことになつたならば単り日本の人間が一年に五十万殖えるから其殖える人が米を食へると云ふばかりを目的にせずに、若し此割合が廉く出来ることになつたならば海外に向つて善良なる輸出商品たることを得るでありませう、是迄も日本米の外国輸出は或る場合には相当にあつたけれども、価の関係からさまで拡張をせぬと云ふことが商売上の事実と私は承つて居る、いかさまさうであらうと思ひます、単に食料にのみするでなく、米の需要の広いことは宇宙甚だ広大なものである、故に今陳述する如く若し各種の改良進歩が行はれて行きましたならば、商品となつた割合が廉くなる、是は道理上廉くなるに違ひない、商品となつた割合が廉くなつたならば、必ず大いに海外に輸出することになるは期して待つべしではありませぬか、若し果してさうなつたならば、それこそ四千万石と云ふものが四千五百万石になるとか、或は五千万石になるとか、段々上つて行つて二十年前には三千万石であつたが、二十年後には四千五百万石になつて三分の一増したと云ふ数字に上ることは甚だ難い事でないと申上げ得るやうにならうと考へます
斯く論じ来ると既に進んで居ることであるから、進歩が鈍いと云ふけれども、既に進歩したものに対して更に丹精が加つたならば、又更に進歩する事が出来るのであります、如何に名人上手でも怠つては決して進むことが出来ない、例へば五段の名人碁打ちでも一目半目は勉強からして上ると申すではございませぬか、日本の米に対する事業も此道理のものと斯う考へるのでございます、単に此所に御集まりの皆様に対して実験に乏しい私の愚説、其中運送上若くは俵装上の事などは
 - 第15巻 p.359 -ページ画像 
少しく痴人の夢を語るやうな嫌ひがありませうが、私は数年前亜米利加に旅行をして見ました、亜米利加の耕地の広き、亜米利加の農産物の盛んなるを驚くよりは其農産物の運送に俵装に甚だ力が入れてある方法を見た驚きの方が強かつたのでございます、他人の宝を数へるやうでありますが、幸に此米に対して而も日本の大主要なる農産物に対して玆に全国当業者の御集りに経験の乏しい説でございますが、陳述することは少しく御参考の足しになりはせまいかと思つて愚見を申上げた次第でございます、甚だ清聴を煩はして価値の無い事を陳述致して恥入つた次第でございます(拍手)