デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治30年6月（1897年）

是月関直之、当会社ヲ設立ス。栄一ノ賛助スルトコロナリ。

青淵先生六十年史（竜門社編）　第二巻・第二一八―二一九頁明治三三年二月刊
　○第四十一章　水産業
　　　　第三節　洲崎養魚会社
洲崎養魚株式会社ノ養魚池築造ノコトハ最初渋沢家洲崎養魚場ノ管理人関直之ノ考按ニ出タリ、直之養魚ニ熱心ニシテ頗ル其術ニ精ハシ、常ニ洲崎海岸ニ沿フタル広キ浅洲ノ甚タ養魚ニ適スルニ拘ハラス徒ニ富源ヲ委棄シアルヲ慨ス、切ニ青淵先生ニ請フテ資金集募ノ方法ヲ求ム、先生則チ株式会社組織ノ方法ヲ授ク、直之宿年ノ志達シタリト大ニ喜ヒ、明治二十九年八月頃ヨリ東京深川地方養魚業者服部・吉野・堀口・榊原等ト協議ヲ創メ、其末一面ニハ地所借受及資金支出ノ義ニ付華族前田侯爵家ニ賛成ヲ求メ、一面ニハ又渋沢家ニ向テ此ノ業ニ協賛センコトヲ乞ヒ終ニ双方ノ承諾ヲ得、二十九年十二月ニ至リ前田・渋沢両家及深川地方発起者中ヨリ創立委員ヲ定メ、諸般ノ協議ヲナシ会社創立ノ準備ニ着手シ、数回交渉ヲ重サネ三十年六月ニ至リ愈々一ノ株式会社ヲ設立スルコトヽナレリ
同社ノ資本金ハ六万円ニシテ其三分ノ一ツヽヲ前田・渋沢両家ニテ負担シ、残余ノ三分ノ一ハ深川発起人中ニテ引受ルモノトス
養魚池敷地ハ約六万坪ニシテ該敷地ハ之ヲ前田家ヨリ向フ五十箇年借受ノコトヽ定メリ、又前面護岸堤塘三百五十間ノ築造工事ハ之ヲ人造石業服部長七ニ命シ三十年三月工事ヲ了リ、尋テ内部池ノ掘立整理工事ニ従事シ、明治三十一年九月落成ヲ告ケタリ
養魚池ノ面積ハ凡ソ四万八千坪余ニシテ、一箇年鰻一万匁・鯔六七万尾・鯉五六千貫匁ヲ養生シ得ヘシト云フ

青淵先生公私履歴台帳　　　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
　　　　民間略歴（明治二十五年以後）
明治二十九年
○上略
一洲崎養魚株式会社ノ創立ヲ賛助ス
　　本会社ハ近来深川区地方ニ養魚ノ業ヲ営ムモノ十余ヲ以テ数フト雖トモ、未タ世ノ需要ニ応スルニ足ラサルヲ以テ、七万坪余ノ海面ヲ埋立テ以テ一大養魚業ヲ起サントスルモノナリ、即発起人ノ請ニ依リ之ニ加入シテ其創立ヲ賛助セリ、後チ卅一年ニ至リ工事完成シ漸次業務ノ盛況ヲ致セリ
○中略
　　以上明治卅三年五月十日調

 - 第15巻 p.676 -ページ画像 

竜門雑誌　第一五五号・広告　明治三四年四月
　　洲崎養魚株式会社
　　第四回年度決算公告
　　　貸借対照表

　　　　　負債ノ部
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　円
株金　　　　　　　　　　　　七〇、〇〇〇・〇〇〇
諸積立金　　　　　　　　　　　二、二〇六・三二〇
養魚地築造勘定消却金　　　　　一、五一六・九〇〇
借入金　　　　　　　　　　　　七、四九六・二六八
預リ金　　　　　　　　　　　　　　　二五・〇〇〇
前年度繰越金　　　　　　　　　　　七一六・〇八六
本年度純益金　　　　　　　　一一、九六九・二三〇
未払金　　　　　　　　　　　　一、三二九・〇〇〇
　合計金　　　　　　　　　　九五、二五八・八〇四
　　　　　　資産ノ部
護岸堤防勘定　　　　　　　　三一、七七八・一三七
養魚池築造勘定　　　　　　　二七、二一四・〇六九
諸建物及諸器具　　　　　　　　七、二一九・七二〇
約定保証金　　　　　　　　　　　　一〇〇・〇〇〇
魚鼈現在高　　　　　　　　　一〇、八一三・六六一
銀行ヘ預ケ金　　　　　　　　一六、七一八・四六〇
貨幣現在高　　　　　　　　　　一、四一四・七五七
　合計金　　　　　　　　　　九五、二五八・八〇四
　　　　　　利益金分配
本年度純益金　　　　　　　　一一、九六九・二三〇
前年度繰越金　　　　　　　　　　　七一六・〇八六
　合計利益金　　　　　　　　一二、六八五・三一六
　　　　　　内訳
準備積立金　　　　　　　　　　一、二〇〇・〇〇〇
別途積立金　　　　　　　　　　　　六〇〇・〇〇〇
株主配当金（年一割五分）　　一〇、四六八・〇〇〇
次年度ヘ繰越金　　　　　　　　　　四一七・三一六

前書之通相違無之候也
　　明治卅四年四月
　　　　　　　　　　　深川区西平井町百九十九番地
　　　　　　　　　　　　　　洲崎養魚株式会社
　　　　　　　　　　　　　　　取締役　　　　　　　　　　関直之
　　　　　　　　　　　　　　　同　　　　　　　　　　　　服部倉次郎
　　　　　　　　　　　　　　　臨時取締役事務取扱監査役　小木貞正
前記ノ各項調査ヲ遂ケ其正確ナルヲ保証候也
　　　　　　　　　　　　　　　監査役　　　　　　　　　　八十嶋親徳
追テ取締役一名欠員ニ付本月十五日於定時総会補欠選挙候処男爵前田直行当選就任候也

 - 第15巻 p.677 -ページ画像 

（八十島親徳）　日録　明治三三年　　　（八十島親義氏所蔵）
五月十九日　晴　急ニ暖ク八十一度
○上略　午後洲崎養魚会社重役会ニ臨ム○下略
　　○中略。
八月三日　晴
九時出勤
今日午後ヨリ徳川慶喜公及一橋元民部公子等洲崎養魚場ヘ魚釣ニ参ラルヽニ付、接待方ニ青淵先生ヲ始メ元方ヨリモ尾高・松平等至ル、夕ヨリ深川邸ニテ饗応ヲナス筈○下略

（八十島親徳）　日録　明治三四年　　　（八十島親義氏所蔵）
二月廿六日　晴
○上略　今日ハ午後五時ヨリ兜町邸ニテ同族会開会○中略関直之新ニ養魚場ヲ開クノ義ニ付テモ相談アリ○下略
　　○中略。
四月十五日　晴
九時出勤、此日午後一時ヨリ洲崎養魚株式会社定時総会ニ監査役トシテ出席、関直之議長トナリ三十三年度営業及計算報告ヲナシ年一割五分ノ配当ヲ決議ス、次ニ久徳取締役死亡ニ付一名補欠選挙ハ満場一致ヲ以テ男爵前田直行氏ヲ選ブ、次ニ監査役満期改選ハ小木及予再選、久徳氏生前ノ功労ニ報フル弔慰金弐百円ヲ贈ル事ヲ決議ス、尚又常務取締役ヲ置ク事ニ付テ定款改正ノ件及重役報酬増加等ノ件ニ付逐テ臨時総会開会ノ事ニ内議アリタリ、終テ弁当出テ且一酌ヲ催フス、六時兜町ニ帰リ、青淵先生ニ此事ヲ報告ス○下略
　　○中略。
八月廿日　晴　八十八度
○上略　九時出勤、今日午後三時ヨリ白耳義国オリエンタルコムパニー東洋支配人フランキー氏及同国公使ダヌタン等ヲ被招、内田・阪谷阪谷瓜生其他相伴《（衍）》トシテ被招、兜町ヨリ舟ニテ洲崎養魚場ニ至リ垂釣、次ニ養魚会社散策、七時ヨリ深川ニテ日本風夕食、余興ハ三曲也、予等モ舟ニ従行、次テ深川ニモ至リ世話ヲナシ十時帰ル○下略

（八十島親徳）　日録　明治三五年　　　（八十島親義氏所蔵）
一月廿日　晴
例刻出勤、午後二時ヨリ養魚会社ノ重役会ニ臨ミ、再兜町ニ帰リ青淵先生ニ面会、執務ノ上七時帰宅○下略