デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治26年12月13日（1893年）

是ヨリ先、第一国立銀行京城出張所ヲ廃止セントスルノ説アリ。是日、外務大臣陸奥宗光書ヲ栄一ニ贈リテ両国ノ便宜ノ為メ之ヲ存続センコトヲ懇請ス。十五日大蔵大臣渡辺国武モ亦書ヲ贈リテ之ヲ懇嘱ス。

陸奥宗光書翰　渋沢栄一宛（明治二六年）一二月一三日　（渋沢子爵家所蔵）
拝啓陳ハ承はるところによれば朝鮮国京城ニ在る第一国立銀行支店閉鎖可相成御都合之よしニ候処、在京城大鳥公使より、右閉店之義ハ内外人ニ取り非常なる不便有之候のミならず、同地ニ於ける日本貿易ニも一大障害を可与と被存候ニ付、不相変継続相成候様致度旨、電報を以而申出有之、如何ニも尤之義と被存候ニ付而、右閉店中止之義更ニ御勘考被下候様致切望候、右迄　草々頓首
　　十二月十三日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　陸奥宗光
　　　　渋沢栄一殿

陸奥宗光書翰　渋沢栄一宛（明治二六年）一二月一五日　（渋沢子爵家所蔵）
昨夕御来訪被下難有、其節御相談申上候朝鮮国貴銀行出張之件《（所脱カ）》ニ付、本日大蔵大臣へ一書相遣し候処、唯今別紙之通り回答有之、右回答の如キ運ニ相成候ヘハ、貴銀行出張所其儘御据置被下候哉、在韓日本人惣体之為大鳥公使より両回電報請求之次第も有之候間、老兄にも何卒在韓我が公使の希望を達し候様御取斗奉願候
　　十二月十五
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　宗光
　　　　渋沢君
　　　○別紙欠。

渡辺国武書翰　渋沢栄一宛（明治二六年）一二月一五日　（渋沢子爵家所蔵）
御清健奉賀候、さて在京城第一国立銀行出張所可被相廃之件ニ付、右は我国人将来之利益ニ関係可有之、ナルヘク廃止不相成様いたし度旨大鳥公使より申来候由ニ而、外務大臣より照会も有之候、就而ハ右廃止候儀は大蔵省千八百八十九号達支店之手続いたし候煩労ノ為メ事玆ニ至り候哉ニ承及候処、韓地ノ如キは其範囲外ニ置候儀、敢而さし支も有之間敷、随分御迷惑とは存候得共、内外之事情御勘考、在韓国民之利益ノ為メナルヘク存置候様御尽力所祈ニ候、右如何之御都合可有
 - 第16巻 p.47 -ページ画像 
之歟、御一報ヲ累し度、私ニ御内談いたし候　早々謹白
　　十二月十五日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　国武
　　　　渋沢老台
　　　　　　　侍史
　　　○是ヨリ先同年五月、大蔵省ハ省令第七号ヲ以テ銀行条例施行細則ヲ定メ、ソノ末尾ニ営業報告書雛形ヲ掲ゲ、現金ノ出納・預金高・貸附額・所有手形・公債及ビ不動産ハ、本店並ニ各支店別ニ表示スベキコトヲ規定シ、次イデ訓令第三十五号ヲ以テ、之ヲ出張所及ビ代理店ニ及ボセリ、京城出張所廃止ノ説コレニ由ツテ起ルカ。然シテソノ議果シテ銀行当事者ノ胸裏ニ存セルカ、風説ニ止マルカ未タ詳カナラズ、事実ニ於テ京城出張所ハ廃止セラレズ、明治三十六年二月支店ニ昇格シ、三十九年五月韓国総支店トナレリ。
　　　○渡辺国武ノ書翰中ニアル大蔵省達一八八九号ハソノ本文ヲ見ル能ハザレドモ、文面ヨリ察スルニ、同省訓令第三十五号ノ趣旨ヲ銀行ニ達セシナルベシ。

官報　第二九四八号　明治二六年五月一日
　　　　○省令
大蔵省令第七号
明治二十三年法律第七十二号銀行条例施行細則左ノ如ク相定ム
　　明治二十六年五月一日　　　　　大蔵大臣　渡辺国武
銀行条例施行細則
○上略
第二十四条　銀行条例第三条ノ営業報告書ハ、附属雛形ニ準シテ調製シ、毎営業年度経過後一箇月以内ニ之ヲ発送スヘシ、但シ遠隔ノ地ニ支店ヲ有シ、本条ノ期日内ニ報告書ヲ発送スル能ハサルモノハ、地方長官ヲ経由シ、予メ大蔵大臣ノ認可ヲ受ケ、其期日ヲ定ムルコトヲ得

法令全書　明治二六年一一月
○大蔵省　訓令　第三十五号　　　　　　　　　　庁府県
銀行並ニ貯蓄銀行出張所代理店ニ関スル取扱手続左ノ通心得ヘシ
　　明治二十六年十一月七日　　　　大蔵大臣　渡辺国武
一銀行又ハ貯蓄銀行ニ於テ、出張所其他何等ノ名義ヲ用フルニ拘ハラス、一定ノ場所ヲ設ケ、銀行又ハ貯蓄銀行事業ノ全部若クハ其一部ヲ営ムトキハ、其場所ヲ支店ト見做シ、銀行条例施行細則ニ依リ其手続ヲ為サシムヘシ
一貯蓄銀行ニ於テ代理店ヲ置クトキハ契約書ヲ添ヘ届出ノ手続ヲ為サシムヘシ