デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治33年5月8日（1900年）

第一銀行、韓国産地金購入規模拡張ノタメ、去ル明治三十二年約定ニヨリ下附セラレタル購入資金二十万円ヲ五十万円ニ増加セン事ヲ、是日日本銀行総裁山本達雄ニ申請シテ九日許可セラル。尋イデ京城ニ金銀分析所ヲ設置ス。栄一頭取トシテ之ニ与ル。

渋沢栄一　日記　明治三二年　（渋沢子爵家所蔵）
二月十二日　晴
○上略午後四時坂谷芳郎ヲ訪フテ○中略韓国金地金ノ件ヲ談ス○下略
　　　○中略。
二月十七日　晴
○上略午後一時日本鉄道会社重役会ニ列ス、午後五時日本銀行総裁山本達雄・同理事三野村利助・営業局長鶴原定吉・秘書記木村清四郎・大蔵省理財局長松尾臣善・主計局長阪谷芳郎氏等来会ス、韓国銀行設立ニ関スル意見、金地金輸入ノ方法等ヲ談話ス、夜十一時散会ス
　　　○中略。
二月七日《（三）》　晴
○上略午後二時青木外務ヲ官邸ニ訪フテ韓国銀行設立ノ事、及義和宮ノ事、金地買入等ノ事ヲ談話ス○下略
　　　○中略。
四月十三日　曇
○上略外務省ニ抵リ、林通商局長ニ面会シテ韓国銀行ノ事、京仁鉄道ノ事、加鹿木ヨリ依頼ノ事、清国銀行ノ事、韓国金地金ノ事及テオシー接待ノ事ヲ談話ス○下略
　　　○中略。
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四月二十二日　曇小雨
○上略午後一時岩崎弥之助氏ヲ駒込別邸ニ訪ヒ、清国ニ銀行創立ノ件及汽車製造合資会社ノ件ヲ話ス、午後三時日本銀行ニ抵リ、山本総裁ニ面会シテ、韓国ヨリ金地金輸入ニ関スル事ヲ談シ、及ヒ払込未済株式ニ対シ貸付金ヲ為スノ得失ヲ談話ス○下略

渋沢栄一　日記　明治三三年　（渋沢子爵家所蔵）
三月十四日　曇
午前十時松方伯ヲ三田本邸ニ訪ヒ、要件ヲ談話ス（京釜鉄道ノ事及韓国金地金取入ノ事等）○下略
　　　○中略。
四月七日　晴
○上略四時三田松方伯ヲ訪ヒ、韓国金地金取入ノ事、及京釜鉄道ノ事ヲ談話ス○下略

韓国ニ於ケル第一銀行　第一銀行編　第三七六―三八二頁明治四一年八月刊
　○第十章　韓国産出地金銀ノ輸納
　　　　第二節　分析所ノ設置
韓国産金額年ヲ追フテ著シク増加セルヨリ、本行ハ地金購入ノ規模ヲ拡張スルノ必要ヲ感ジ、先ヅ金銀分析所ノ設置ヲ計画シ、明治三十三年五月左ノ覚書ヲ作リテ之ヲ大蔵省ニ呈出セリ
　　　　朝鮮国京城金銀分析所設置ニ関スル覚書
一朝鮮国京城ニ分析所設置ノ件ハ造幣御支局ニ於テ御取調被下候設計ニ依リ総煉瓦造リニテ建築可致候事
一同分析所ニ相用ヒ候器械器具等ハ総テ造幣御支局ニ於テ御取調被下候通リ相整可申候事
一右分析所設置ニ付テハ熟練ナル技手職工等ヲ造幣局ヨリ御派遣被下度候事
一分析所設置ノ費用技手以下ノ給料及ビ分析所ニ関スル経費等ハ一切当銀行ニ於テ負担可仕候事
一右分析所ハ造幣御局ノ監督ヲ受ケ、輸納ノ地金銀ハ総テ造幣規則及金銀地金精製及品位証明規則ニ依リ余分ノ手数料等ハ一切徴収セズ、金塊ノ取入ヲ相勉メ可申候事、但シ朝鮮ヨリ大阪迄ノ運賃及保険料ハ金塊輸納人ヨリ徴収可致候事
一右分析所設置ノ上ハ、金塊ノ売リ主ニ非常ノ便利ヲ与ヘ可申義ニ付、一箇年大凡ソ五百貫目ノ金地金ヲ取入可申見込ニ候事
一右ノ如ク金塊ヲ取入可申見込ニ付、分析所設置ノ上ハ右金塊買入資金トシテ金五拾万円ヲ無担保無利足ニテ日本銀行ヨリ御下附被下度候事
一右買入資金ハ毎月分析所ニ於テ取入レタル金塊ヲ大阪造幣局ヘ輸送シ、其代リ金ヲ以テ返納ニ相立テ可申ニ付、其代リ金丈ハ再ビ御下附被下度候事、但右分析所ヨリ輸送シタル金塊ニ限リ造幣局ニ於テハ右ノ分析表ニ依リ直ニ成貨払渡証書ヲ御下附被下度候事
一右ノ如ク御許可被下候上ハ分析所ハ早速建築ニ着手致シ、遅クモ
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本年八九月頃迄ニハ開場候様可仕見込ニ候事
次デ同月八日日本銀行ニ左ノ書面ヲ提出セリ
　朝鮮国産出ノ金地金購入方ノ義ニ付テハ、明治三十二年八月中御約定致シ、購入資金トシテ金弐拾万円御貸与被下候処、近来同国産出ノ金地金ハ追々其額ヲ増加致シ候ニ付、右資金ヲ五拾万円ニ御増加被成下度候、然ル上ハ同国京城当銀行出張所構内ニ分析所ヲ設置致シ、取入方尽力可仕ニ付、左候ハヾ一箇年五百貫目以上ノ金塊ヲ輸入致シ候義、出来可申ト奉存候、何卒御承諾被成下度、尤モ右資金ハ三箇月前ニ御通告被下候ハヾ返納可仕候、此段及御依頼候也
　　明治三十三年五月八日
　　　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　頭取　渋沢栄一
　　　　日本銀行総裁　山本達雄殿
右ノ申出ハ直ニ承諾ヲ得、日本銀行ヨリ左ノ通リ回答セラレタリ
　文秘第五四〇号
　韓国産出金地金購入資金トシテ弐拾万円御用立申居候処、今般右資金ヲ五拾万円ニ増加ノ義、去ル七日付御申出ノ趣承知致候、就テハ該金弐拾万円ハ一旦御返金ヲ受ケ、更ニ五拾万円壱箇年間御用立可申ニ付、別紙案文ニヨリ依頼書御差出相成度、御答旁此段申進候也
　　明治三十三年五月九日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日本銀行副総裁
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　高橋是清
　　　　株式会社第一銀行　頭取　渋沢栄一殿
次デ同月十四日本行ハ更ニ日本銀行ヘ左ノ書面ヲ提出セリ
　今般韓国産出ノ金地金購入方御引受申候ニ付テハ、当行ノ費用ヲ以テ同国京城当行出張所内ニ地金分析所ヲ設置シ、左ノ各項ニ準ジ取扱可申候
　一、韓国産出金地金購入資金トシテ金五拾万円無利息御貸付相成度候
　一、前項貸付金ハ普通借用金ノ御規定ニ準拠致シ、相当ノ抵当品差出可申候
　一、前項購入資金ヲ以テ一箇年五百貫匁以上ノ金塊ヲ買入輸入可致候
　一、買入レタル金塊ハ総テ造幣局ヘ輸納シ、成貨払渡証書面金額ヲ以テ貴行ヘ御売渡可申候
　　但金塊輸入ニ関スル総テノ費用ハ当行ニ於テ負担可致候
　一、本文金塊購入ハ明治三十四年五月十四日ヲ以テ期限トス、満期ニ至リ、猶購入継続ヲ要スルトキハ、更ニ貴行ノ御承諾ヲ得ベキ事
　　　但期限中ト雖モ貴行ノ御都合ニ依リ買入ヲ停止セラレタル場合ニハ、三箇月前ニ御通告相成候ハヾ資金返納可致ニ付、抵当品御返付相成度候
右御承諾相成度此段及御依頼候也
　　明治三十三年五月十四日
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　　　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　頭取　渋沢栄一
　　　　日本銀行総裁　山本達雄殿
同年十一月ニ至リ本行ノ京城分析所ハ地金取扱規則ヲ発布シテ地金取入ノ便ヲ計リ、爾後輸納高著シク増進セリ
　　　　地金取扱規則
　当分析所ハ左ノ規則ニヨリテ金地金ノ買入及地金ノ品位験定ヲ為ス
　第一条　金又ハ銀ノ地金ヲ持参シ買入方ヲ申込ム者アルトキハ、地金ハ立会ノ上之ヲ秤量シテ当所ニ受付ケ置キ、其預リ証ヲ交付ス
　第二条　地金ノ品位及価格ハ試験ノ上之ヲ定ムルト雖モ、持込ノ量百匁以下ハ試験ヲ為サズシテ其価格ヲ定ムルモノトス
　第三条　地金ノ受付ハ正午時ヲ限リトシ、若シ午後ニ亘ルトキハ其翌日ヲ以テ受付ノ日ト見做スベシ
　第四条　地金ハ当所ニ於テ受付タル翌日ヨリ一週間以内ニ分析ヲ為シ、品位試験表及地金勘定書ヲ製シ之ヲ持込人ニ交付スベシ
　第五条　地金持込人ハ当所ヨリ交付シタル地金勘定書ニ異議ナキトキハ、曩キニ渡シアル金塊代価領収証書用紙ヘ記入捺印ノ上代金払渡ヲ請求スベシ
　　　但シ異議アルモノハ三日以内ニ其旨ヲ申出ベシ、若シ其期間内ニ異議ノ申出ヲ為サヾルトキハ承諾シタルモノト見做ス
　第六条　前条ニヨリ持込人異議ノ申立ヲ為シタルトキ又ハ当所ニ於テ買入ヲ望マザルトキハ品位試験表ノミヲ交付シ、左ノ割合ニヨリテ手数料ヲ徴収シ地金ハ之ヲ返付スベシ
　　　金地金中ノ金銀　　金参円
　　　銀地金中ノ金銀　　金弐円七拾銭
　第七条　当所ハ地金持込人ノ都合ニヨリ地金ヲ受付タル即日中ニ価格ヲ定メテ代金ノ支払ヲ為スコトアルベシ
　第八条　当所ニ於テ受付ケタル地金ハ試験熔解ノ後分析ニ処スルヲ以テ、熔解ノ為メ減ズル量ハ売込人ノ負担トス
　　明治三十三年十一月
　　　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行京城分析所
降テ明治三十七年十月ニ於テ平壌分析所ヲ、同三十九年十月元山分析所ヲ開設シ、地金取入ノ規模益々拡張セラレタリ、今分析所設置以来毎年ノ地金塊買入高ヲ掲グレバ左ノ如シ

　　　年次　　　　　　　　　　　　　　　　　地金塊量目　　　　　　　　　　代金
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　匁　　　　　　　　　　　　　円
　　明治三十三年（十一月以後二箇月間）　二、四五〇・六〇　　　　　　九、三七八・六二
　　同　三十四年　　　　　　　　　　六四〇、九九八・四五　　二、七六四、〇三三・五一
　　同　三十五年　　　　　　　　　　八二四、八五九・一〇　　三、五一九、二六七・七〇
　　同　三十六年　　　　　　　　　　八五五、九九五・四一　　三、七九一、八六七・六七
　　同　三十七年　　　　　　　　　　八二一、一七一・二一　　三、六六四、五八一・二五
　　同　三十八年　　　　　　　　　　九五四、〇七二・一二　　四、二三一、六九四・九六
　　同　三十九年　　　　　　　　　　八〇〇、三五〇・二九　　三、五五五、七〇七・四二
　　同　四十年　　　　　　　　　　　八六〇、六〇一・九四　　三、七八四、七六七・五四

　　　○五月十四日付申請書ハ「大蔵省保管松方家文書」中ニモ写アリ。
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日本銀行沿革史　第二巻・第七八八―七九七頁　大正二年一一月刊
朝鮮ハ金鉱及砂金ニ富ムヲ以テ、第一国立銀行ハ明治十一年朝鮮釜山ニ支店ヲ設置シタル以来同国地金銀ノ買入ニ着目シ、明治十七年二月十三日大蔵省ノ指令ヲ得、同省国債局ヨリ下渡セラレタル三十万円ノ前渡金ヲ以テ爾来支那規銀及朝鮮砂金ノ買入ヲ実行シタリシカ、更ニ同行ノ出願ニ対スル明治十九年五月三日付同省指令ニ依リ、朝鮮砂金及支那規銀買入元金ハ利息年二分（従前ハ年六分）ノ割ヲ以テ本行ヨリ同行ヘ交付シ、同行ハ之ニ対スル抵当品ヲ本行ヘ差入レ、買入元金ノ決算及地金上納方ハ去十七年十二月十八日ヲ以テ同行ニ達セラレタル手続ニヨリ本行ニ対シ決算スルコトヽナリ、同日大蔵大臣ヨリ本行ニ対シ、第一国立銀行ヘ基金下渡方並地金買上決算方左ノ通心得ヘク右基金ハ地金納方ノ多少ニ依リ十五万円以内相当ノ額ヲ交付スヘキ旨達セラレタリ
　一　砂金銀両其他内地産出地金買上基金トシテ其銀行ヘ下渡シタル金銀地金正貨買上基金ノ内ヨリ下渡スヘシ
　　　但基金ニ対スル利子ハ（現金下渡当日ヨリ地金上納決算当日迄ノ分）毎六ケ月其銀行ヘ取立出納局ヘ上納スヘシ
　二　買上タル砂金銀両其他金銀地金ハ、政府地金トシテ造幣局ヘ輸入シ、同局ニテ試験済勘定書面ノ成貨高ノ内試験済当日ヨリ成貨払渡期日（期日休暇ナレハ翌日）迄利子（金壱万円ニ付一日金壱円ノ割）ヲ引去、残高ヲ紙幣（金貨ハ時価銀貨ハ成貨高）ニ通算シ、地金代金トシテ前項ノ基金ヘ対シ決算スヘシ
　　　但本文地金精製ヲ要スル地金ナレハ精製分析料及本店ニテ受取タル地金ニ対シテハ造幣規則第十三条ニ依リ運賃保険料ヲモ代金ノ内ニテ引去ルモノトス
　三　前項地金代金確定シタル砂金銀両其他金銀地金普通買上地金ノ例ニ傚ヒ報告スヘシ
依テ同月十三日、政府地金銀旧貨幣正貨買上成貨払渡仮処務順序（欠亡）ニ六条ヲ追加シテ其旨大蔵省ヘ届出テ、又第一国立銀行トノ約条ヲ草シ大蔵省ノ認可ヲ得、同行ト向一箇年ノ期限ヲ以テ約条ヲ締結セリ、追加条項及該約条書ノ全文左ノ如シ
　　　　政府地金銀旧貨幣正貨買上成貨払渡仮処務順序追加
　第十六条　第一国立銀行（若クハ其他ノ者）ヘ元金ヲ分領シ地金銀ヲ買上ルハ大蔵省別段ノ御達ニ拠テ之ヲ処分スルモノトシ、本店ニ於テハ別ニ地金銀買上元預ケ金元帳ヲ置テ勘定スヘシ（帳式ハ第九号代理店元帳ニ傚フ）
　第十七条　預ケ金ハ本店ト第一国立銀行（若クハ其他ノ者）ノ間ニ甲乙通帳（第十八号）ヲ設ケ置、其預ケ金ヲ為セシトキ預入ノ部ヘ記載シ、買上地金銀納付ノトキ（造幣局出張所輸入勘定書ヲ得タルトキヲ謂フ）若クハ現金返却ノトキ返済ノ部ヘ記載差引ヲ為シテ受授ノ証トシ、双方ヘ一帳ヲ格護為シ置モノトス
　第十八条　預ケ金ヲ以テ買入タル地金銀ヲ差出セシトキ輸入地金勘定書ヲ得テ代金額ヲ計算スルノ順序ハ第七条ニ異ナラス
　　　但其代金ハ前ノ預ケ元金ニ対シ返入決算ニ立ルモノトスト雖モ
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便宜ニ依リ地金銀ハ普通買上ノ順序ヲ為シテ代金ヲ交付シ、預ケ金ハ其儘据置ク事アルヘシ
　第十九条　預ケ金ヲ以テ買上タル地金銀ヲ大阪ヘ納付スル分ハ、支店ニ於テ直ニ政府地金トシテ造幣局ヘ輸入セシムルノ順序ヲ為シ

　　爾後地金勘定書ヲ得タルトキニ於テ支店ヨリ領収証書ヲ差出シ、而シテ其勘定書写ヲ作リ尚利引代リ紙幣仕払額計算書ヲ添テ即日本店ヘ発送シ、而シテ其本勘定書ハ毎週決算ノトキ之ヲ支店普通買上ノ分ト区別シテ（其代金本店払ノ分ナル事ヲ明記スヘシ）金庫局出張所ヘ納付別ニ領収証書ヲ得置ヘシ、本店ニ於テハ地金勘定書写及利引計算書ヲ支店ヨリ得タルトキ元帳甲乙帳ヘ記載決算ノ順序ヲ為スモノトス
　　　但支店ニ於テ其地金銀出入ヲ第十四条中ノ預ケ高差引帳ヘ記載スルハ勿論タルヘシ
　第二十条　支店ヘ輸入セシ地金銀ハ予メ本店ヨリ通達為シ置クニ於テハ、前条ノ手続ヲ為サス其地金ヲ普通買上ノ順序ヲ為シテ代金ヲ交付スル事アルヘシ
　第二十一条　預ケ金ニ利子ヲ付スルモノハ九月三月ヲ期トシ、第十七条ノ甲乙帳連々ノ預残高ニ拠リ勘定ヲ為シテ之ヲ取立、出納局ヘ納付ノ手続ヲ為スヘシ
　　　　約条書
　　　第一国立銀行ニ於テ大蔵省ノ為メニ砂金銀両其他内地産ノ地金銀ヲ買入ヘキ元金ヲ大蔵省ノ御指揮ニ随ヒ日本銀行ヨリ預ケ置ニ付、両銀行ノ間ニ約条ヲ締結スル事左ノ如シ
　第一条　第一国立銀行ニ於テ砂金銀両地金銀等ヲ買入ヘキ元金ハ拾五万円ヲ極度トシ日本銀行ヨリ預ケ置ヘクニ付、第一国立銀行ハ之ニ対スル抵当品ヲ日本銀行ヘ差入置ヘシ
　　　但本文預ケ置ヘキ元金ハ第一国立銀行ニ於テ地金買入ノ景況ニ
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随ヒ極度以内ニ於テ其預ケ額ヲ増減スル事ヲ得ヘキモノトス
　第二条　前条預ケ金ハ日本銀行ト第一国立銀行トノ間ニ甲乙通帳ヲ設ケ置、預ケ入ルヽトキ預入ノ部ニ記載シ買入地金銀ヲ納付造幣局輸入地金勘定書ヲ得タル上若クハ現金返入ノトキニ於テ返済ノ部ヘ記載シ、双方ヘ一帳ヲ格護シテ以テ受授ノ証トス、就テハ其甲乙帳ノ差引残高ハ則第一国立銀行ヨリ日本銀行ヘ対シタル負債ノ員額タルヘシ
　第三条　第一国立銀行ニ於テ買入タル地金銀ヲ造幣局出張所若クハ本局ヘ輸入、地金勘定書ヲ得、其代金利引決算スルノ順序ハ、日本銀行本支店ニ於テ政府地金普通買入ノ例ニ因ルヘシ其順序ハ明治十七年十二月大蔵省ヨリ第一国立銀行ヘ指令セラレタル手続ニ異ナラス
　　　但其代金ハ前第一条ノ預ケ金ニ対シ返入決算ニ立ルモノトスト雖モ、便宜ニ依リ地金銀ハ普通買入ノ順序ヲ為シテ代金ヲ交付シ、預ケ金ハ其儘据置クコトアルヘシ
　第四条　預ケ金利子ハ甲乙帳連々ノ残高ニ対シ年弐部ノ割合ヲ以テ九月・三月ヲ期限ニ勘定相立、第一国立銀行ヨリ之ヲ日本銀行ヘ払入ヘシ、日本銀行ニ於テ之ヲ受取タル上ハ大蔵省ヘ納付スヘシ
　第五条　本約条ハ明治二十年六月三十日ヲ以テ限リトスト雖モ、大蔵省ノ御都合ニ依テハ期限前ニ解約スル事アルヘシ、就テハ前第一条ノ預ケ金ハ其期限若クハ解約ノトキヲ以テ悉皆返了スヘシ、万一第一国立銀行ニ於テ其返済義務ヲ果サヽルニ於テハ、日本銀行ハ預リ在ル抵当品ヲ売却シ其代金ヲ以テ元利悉皆決算スヘシ
右締約シタル証トシテ双方役員記名調印シ、壱通ハ日本銀行ニ保存シ壱通ハ第一国立銀行ニ保存スルモノ也
然ルニ明治十九年九月十六日大蔵大臣ヨリ第一国立銀行ノ出願ニ対シ右ノ外ニ更ニ金十万円砂金買上代前渡トシテ、年二分利付ヲ以テ本行ヨリ同行ヘ交付スヘキニ付抵当品ハ本行ヘ差出シ、尚砂金上納方ハ同年五月三日指令ノ通心得、前渡金返納方ハ向三ケ年ヲ期シ返納スヘキ旨指令ヲ与ヘタルニ依リ、基金下渡方並砂金受取方ハ同年五月三日ヲ以テ達シタル手続ニ拠リ取扱フヘキ旨達セラレタリ
右第一国立銀行ヘ預ケ金ノ中明治十九年五月ヲ以テ預入レタル十五万円ハ二十年六月三十日ヲ以テ満期トナリタルニ依リ、大蔵省ヘ伺済ノ上同年七月一日ヨリ満一ケ年ノ期限ヲ以テ約条ヲ継続シ、尋テ二十一年六月満期ノ際同銀行ヨリノ申出モアリシヲ以テ大蔵省ヘ伺済ノ上其内先ツ五万円ヲ返納セシメ、残額十万円ハ二十二年六月ニ於テ五万円二十三年六月ニ於テ五万円ヲ返納セシムルコトヽシ、尚別ニ十九年九月ヲ以テ同行ヘ預入レタル十万円ハ予定ノ如ク二十二年九月限リ返納セシムルコトヽシ、二十一年八月其趣意ヲ以テ従来ノ約条書ヲ修正シ二十万円預入ノコトヽナシタルカ、其後二十二年六月限リ返納セシムヘキ五万円ハ期日ニ入金アリ、残額十五万円ハ数次延期ヲ承諾シ、二十四年十一月四日ニ至リ悉皆返納済トナレリ
其後明治二十七年五月更ニ朝鮮産出ノ砂金買入方ヲ第一国立銀行ニ委托シ、同年五月十六日同行ヨリ申出テタル左ノ条件ニ対シ翌十七日之ヲ承諾シ、明治三十年迄同行トノ約条ヲ継続シ、同年五月二十一日ヲ以テ買入元トシテ同行ヘ預ケ置キタル金五万円ヲ返納セシメタリ
 - 第16巻 p.93 -ページ画像 
　一　砂金買入資金トシテ金五万円ヲ無利息ニテ御預ケ置被下度候事
　一　右買入資金ハ釜山・元山・仁川・京城等ヘ適度ニ配賦致シ置、荷為替其他之方法ヲ以可成砂金取入候様可仕候事
　一　右ノ手続ニヨリ取入レタル砂金ハ大阪着之上造幣局ヘ相納メ、精製分析等相済ミ、地金勘定書相下リ候ハヽ、其勘定書ニヨリ代リ金貨ハ直ニ時価ヲ以御買入之上、其代金ハ弊行大阪支店ヘ御渡被下度候事
　一　右之御約定ハ御承諾之日ヨリ一ケ年間ト定メ、満期之節御預リ金返納候様仕度候事
尋テ明治三十年我国貨幣制度ノ改革、金貨本位制ノ実施以来、政府ハ韓国産金ニ関シ特ニ注意スル所アリ、明治三十二年三月十三日大蔵大臣ニ対シ兌換券保証発行制限額増加ニ関スル内訓ニ於テ、特ニ支那朝鮮地方産出ノ金塊ヲ本邦ニ吸収スルノ道ヲ講スヘキ旨ヲ述ヘラレタリ兌換銀行券及紙幣編兌換券一般ノ部参照依テ本行ハ韓国ノ産金ニ対シ特ニ第一銀行ニ依嘱シ同国ノ金産出高ヲ調査セシメタルニ、一ケ年約二百貫以上ノ金塊ヲ収入スルコトヲ得ヘキ見込ナリシヲ以テ、明治三十二年六月十四日右購入資金トシテ二十万円ヲ同行ヘ無利息ニテ預入シ、尋テ同年八月十日大蔵大臣ノ認可ヲ得右預入ノ形式ヲ改メテ無利息ノ貸付金トナシ、普通定期貸ノ規定ニ依リ貸付期限ヲ一ケ年ト定メ、其後引続キ韓国又ハ清国及内地ノ産金収納ノ目的ヲ以テ第一銀行及其他ノ銀行ヘモ購入資金ヲ無利息又ハ低利ヲ以テ貸付ケタリ、今明治三十二年八月以降四十二年末ニ至ル右貸付先・金額及期間等ヲ挙クレハ左ノ如シ

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而シテ右購入資金ヲ各契約先ヘ貸付クル場合ニハ必ス契約先ヨリ依頼書ヲ徴シ、之ニ対シ本行ヨリ承諾書ヲ発シ、之ヲ以テ契約ノ形式ト為シタリ、右依頼書ノ内容ハ地金銀購入ニ関スル予定額ニ関スル条項ノ外各場合其差異ナキヲ以テ、一例トシテ明治三十二年八月十日第一銀行ヨリ提出セシ依頼書ノ形式ヲ左ニ示スニ止ムヘシ、又右資金無利子貸付ノ都度大蔵大臣ニ上申シ、明治三十二年法律第五十六号第一項ノ但書兌換銀行券及紙幣編、一般ノ部参照ニ依ル発行税免除ノ認可ヲ得タリ
　今般朝鮮国産出ノ金地金購入御引受申候ニ付左ノ各項ニ準シ取扱可申候
一　朝鮮国産出金地金購入方資金トシテ金弐拾万円無利息御貸付相成度候
一　前項貸付金ハ普通借用金ノ御規定ニ準拠致相当ノ抵当品差出可申候
一　前項購入資金ヲ以テ一ケ年弐百貫以上ノ金塊ヲ買入輸入可致候
一　買入タル金塊ハ総テ造幣局ヘ輸納シ成貨払渡証書面金額ヲ以テ貴行ヘ御売渡可申候
　　但金塊輸入ニ関スル総テノ費用ハ当行ニ於テ負担可致候
一　本文金塊購入ハ明治三十二年八月十日ヨリ満一ケ年ヲ以テ期限トス、満期ニ至リ猶購入継続ヲ要スルトキハ更ニ貴行ノ御承諾ヲ得ヘキ事
　　但期限中ト雖モ貴行ノ御都合ニヨリ買入ヲ停止セラルヽ場合ニハ直ニ資金返納可致ニ付抵当品御返付相成度候
右御承諾相成度此段及御依頼候也
　　　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　頭取　渋沢栄一
　　明治三十二年八月十日
　　　　日本銀行総裁
　　　　　　　山本達雄殿
又政府ハ日露戦役ニ際シ軍事費支弁ノ為メ巨額ノ外国債ヲ起シ之カ元利金支払上金銀ノ吸収ヲ要スルニ付、本行ニ於テ従来執リ来リシ金銀吸収ノ方法ヲ不十分ト認メラレ、鉱業抵当法ヲ実施シ、金銀鉱ノ採掘上起業資金供給ノ便利ヲ図リ、尚ホ日本興業銀行ニ内命シテ金銀鉱山ノ発達ヲ奨励スルノ方法ヲ講セシメラレタリ、其後同行ヨリ大蔵大臣ニ上申シタル結果、政府ハ四分利興業債券百万円ヲ引受ケ金銀鉱山ヘ貸付ノ資金ニ充テシメラルヽ外、更ニ明治三十八年七月二十八日ヲ以テ大蔵大臣ヨリ本行ニ対シ四百万円迄（但前記興業債券百万円ノ返償ヲ了ヘタル時ハ五百万円迄）ヲ、年利五分ニテ日本興業銀行ヘ融通セシムヘキ旨ヲ内達セラレタルニ依リ、本行ハ同年十二月六日ヲ以テ同行ト約定ヲ締結シ（略之）融通最高額当分四百万円、年利五分、資金供給期間三十八年十二月七日ヨリ四十年十二月六日迄、返済期限四十五年十月九日トセリ、其後三十九年六月末迄ニ同行カ波佐見鉱山及鷲巣鉱山ニ貸付タル金額ノ内八十二万九千五百五十円ヲ同行ニ融通シタルカ、其内一部返金アリテ明治四十二年末ノ現在高ハ六十九万千三百円トナレリ
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東京経済雑誌　第四五巻第一一三三号・第九六四頁明治三五年五月二四日
　　　　○韓国の産金
第一銀行京城出張所にて取扱ひたる、本年一月より四月まで四個月間の韓国産純金は九十四貫二百二十二匁にして、其価格四十七万千百十円に上れりといふ、主任原田氏の談によれば、一月より四月までは産金の尤も少なき季節にして、本月より九・十月迄を最多の季節とす、現に京城のみにて取扱ふ一年の産金は、概算価格二百万円に上り、殊に京城の産金は実質良好にして、大凡七掛又は八掛なるも、米人所管の雲山より出づる産金は、実質劣る所あり、大凡六掛けなるが、コハ仁川第一銀行にて取扱ひ、毎月凡そ四十貫に上り、之を一年の価格に計算すれば、二百万円を下らず、元山よりの産金また百万円を越ゆるを以て、韓国全般の産額は、概算五百万円と見積るを得べく、且年々進歩増加の傾向あれば、韓国輸出品中にあつて、米穀を除きては他に比肩するものなく、行々は米雑穀をも凌駕して、第一位の輸出品となるに至るべし、金貨準備に怠りなき日本政府も、韓国産金を以て重なる供金と見做すものの如し云々