デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治38年1月31日（1905年）

韓国近代ノ幣制ハ紊乱ヲ重ネ居リシガ、明治三十七年以来大蔵省主税局長目賀田種太郎、韓国政府財政顧問トシテ財政整理ノ局ニ当レリ。韓国政府同氏ノ案ヲ容レ、一月十八日、是年六月ヲ以テ貨幣条例ヲ実施スベキ事ヲ公布シ、是日第一銀行ト貨幣整理ニ関スル契約ヲ結ビ、更ニ国庫金取扱ニ関スル契約ヲ締結ス。

第一銀行五十年史稿　巻五・第九〇―九二頁　大正一二年刊
　○第二編　第五章　日清戦後の発達
　　　　第三節　韓国中央金融機関
○上略
韓国は明治三十四年光武五年二月貨幣条例を定め、金貨本位制を採用したれども、未貨幣を発行するに及ばずして日露戦役に遭遇せり、目賀田顧問は此条例を実施して日本と同一の金貨本位制を確立すると共に、旧銀貨・旧白銅貨・旧銅貨を回収して市場より其跡を絶たしめ、葉銭は大部分を回収し、一部は之を存して準補助貨となし、小取引に便ならしめ、貨幣制度を同じくする日本貨幣の流通をも公認せんとて、三十八年光武九年一月十八日勅令を以て、来る六月一日より貨幣条例を実施する事、及び同条例に規定せる貨幣と品位量目形体の同一なる貨幣は並に無碍通用して公私の授受に使用するを許す事の二件を公布せり。同月三十一日本行は予定の如く韓国政府との間に貨幣整理に関する契約を締結し、度文部大臣の指揮監督に従ひて貨幣整理の事務を執行し之に要する資金として韓国政府より三百万円を本行に交付する事となりしが、なほ又同政府は此契約において本行の発行せる銀行券を公認
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し、公私の取引に差支なく無制限に通用するを許したり、而して貨幣整理資金三百万円は韓国政府の能く弁ずる所にあらざれば、本行より之を同政府に貸付くる事となし、同日其約を締結せり。此貸付は海関税を担保となし利息は年六分となせり。初め本行の貨幣整理の衝に当らんとするや、新旧貨幣の交換の際、交換額若し一時に巨額に上ることあらば三百万円の資金にては不足を生ぜんことを憂ひ、さる場合には政府又は日本銀行の援助ありたき旨を大蔵省に交渉したるに、同省は韓国政府に照会の結果直に認可せられしより、本行は心を安んじ玆に両契約の成立を見るに至れるなり。○下略

韓国貨幣整理報告書　第一銀行編　第三七―四一頁　明治四二年刊
　○第三章　貨幣整理計画ノ要領
　　　　第三節　貨幣整理事務執行ノ機関
○上略
　　　　大韓国政府ハ貨幣整理ニ関シ株式会社第一銀行ト契約スルコト左ノ如シ
　第一条　大韓国政府ハ別ニ定ムル大韓国現行貨幣整理予算ノ範囲ニ於テ、貨幣整理ニ関スル事務ヲ第一銀行ヲシテ執行セシム
　第二条　貨幣整理ニ関スル事務執行ニ就テハ、第一銀行ハ度支部大臣ノ指揮監督ヲ遵守スヘシ
　第三条　大韓国政府ハ第一銀行券ヲ公認シ、公私ノ取引ニ差支ナク無制限ニ通用セシムヘシ
　第四条　大韓国政府ハ貨幣整理ニ要スル一切ノ費用ニ充ツルカ為メ貨幣整理資金トシテ金参百万円ヲ第一銀行ニ交付スルモノトス
　第五条　第一銀行ニ於テハ貨幣整理ニ関スル一切ノ経費及収入ヲ別会計トシテ整理スヘシ
　第六条　第一銀行ニ於テハ貨幣整理事務著手後一個年半ヲ経過シタル時ハ貨幣整理ノ収支計算ヲ為スヘシ、貨幣整理事務ヲ終了セシ時亦同シ
　第七条　前条ノ計算ヲ為シタル結果、整理資金ニ不足ヲ生シタル時ハ大韓国政府ハ該不足金額ヲ直ニ第一銀行ニ支払フヘシ
　第八条　貨幣整理ニ関シ大韓国政府ニ損失ヲ蒙ラシメタル時ハ、之ニ対シ十分ナル注意ヲ用ユトモ尚ホ損失ヲ免カルヽ能ハサル事ヲ証明スルニ非ル限リハ、第一銀行ハ大韓国政府ニ対シ賠償ノ義務アルモノトス
右ノ条項ヲ確約シ、其証トシテ契約書日韓文各式通ヲ作リ、各自弐通宛ヲ領有スルモノ也
　明治三十八年一月三十一日
　　　　　　　　　　度支部庶務局長　　　　　　　　　李重玉印
　印　大韓国政府財政顧問　　　　　　　目賀田種太郎(印)
　　　　　　　　　　株式会社第一銀行京城支店支配人　清水泰吉(印)
　度支部大臣蓋印　印
本契約ノ届出ヲ受理シ之ヲ承認ス
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　　明治三十八年一月三十一日
　　　　　　　　　　　　　　特命全権公使　林権助印
○中略
　　　　大韓国政府ハ貨幣整理ノ資金ヲ株式会社第一銀行ヨリ借入ルヽニ付契約スルコト左ノ如シ
　第一条　大韓国政府ハ貨幣整理ノ費用及其資金トシテ金参百万円ヲ第一銀行ヨリ借入ルヽモノトス
　第二条　前項ノ借入金ニ対シテハ年六分ノ割ヲ以テ毎年六月及十二月ニ利子ヲ支払フ可シ
　第三条　借入金ノ弁済期間ハ左ノ如シ
　　一、借入ノ期日ヨリ六箇年間ニ金壱百五拾万円
　　二、右六箇年ヲ経過シタル後ノ四箇年間ニ残額全部
　　　但シ大韓国政府ハ右期間内ト雖モ、所定ノ金額ヲ超エ随時弁済ヲ為スコトヲ得ルモノトス
　第四条　大韓国政府ハ関税ヲ以テ右借入金ノ担保トスルニ付、第一銀行ハ之ニ対シ優先ノ担保権ヲ有スルモノトス
　右ノ条項ヲ確約シ、其証トシテ契約書日韓文各弐通ヲ作リ、各自弐通宛ヲ領有スルモノ也
　　明治三十八年一月三十一日
　　　　　　　　　　度支部庶務局長　李重玉印
　印　大韓国政府財政顧問　目賀田種太郎(印)
　　　　　　　　　　株式会社第一銀行京城支店支配人　清水泰吉(印)
　　度支部大臣蓋印　印
　本契約ノ届出ヲ受理シ之ヲ承認ス
　　明治三十八年一月三十一日
　　　　　　　　　　　　　　　特命全権公使　林権助(印)

韓国貨幣整理報告書　第一銀行編　第一三―一九頁　明治四二年刊
　　　　第二章　貨幣整理著手前ノ実況
古来韓国ノ貨幣ハ所謂葉銭ニシテ本位貨ト称スヘキモノナカリシノミナラス、粗製濫発ノ弊ニ次クニ当五銭ヲ新鋳シテ実価以上ニ流通セシメントシ、其結果ハ帝都附近ト地方トノ間ニ貨幣ノ計算法ヲ異ニスルノ奇観ヲ呈シタルニモ拘ラス、尚粗悪銭ヲ鋳造シテ其弊ヲ深カラシメ国際貿易ヲ阻害スル甚タシキモノアリシヲ以テ、外国使臣ニ促サレ貨幣整理ノ止ムナキニ至リ、前章ニ述ヘタルカ如ク先ツ銀貨本位制ヲ定メシカ、由来政府ノ当路者ヨリ一般人民ニ至ル迄貨幣ノ真理ヲ解スルモノ少ナク、貨幣ノ鋳造ヲ以テ一種ノ営利事業ノ如ク思做シ、最モ造幣利益ノ多キ白銅貨ノミヲ盛ニ鋳造シタルノミナラス、特許料ヲ納メテ私鋳ヲ許可シ、且ツ典圜局ノ不規律ナルト警察ノ不備トハ官吏ニシテ私ニ官製ノ極印ヲ貸与スルモノスラ生スルニ至リ、国ノ内外ヨリ盛ニ偽造貨ヲ流布シ、私鋳ノ白銅貨ヲ以テ葉銭ニ替ヘ其間ニ奇利ヲ博スルモノヲ生シ、其結果数年ナラスシテ其流通全国ノ半ニ及ヒ、其等ノ地方ニ於テハ本位銀貨並ニ葉銭ヲ駆逐シテ白銅貨ノ外又通貨ナキノ観
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アリ、其内最モ甚シカリシハ平壌地方ニシテ、同地ニハ嚮キニ粗悪葉銭ノ鋳銭所アリシカ、白銅貨鋳造ト同時ニ此鋳銭所ヲ廃シタリト雖モ随テ弊害ニ染ミ易キ礎因アリシト、中央政府ノ監督一層及ハサルモノアリシヲ以テ、最モ其害ヲ蒙リタリ、此間ニ少量ノ銀貨及赤銅貨モ発行セラレシト雖モ、銀貨ハ殆ント駆逐セラレ、赤銅貨ハ稍残留セリ、左図ハ白銅貨流通地方ト葉銭流通地方トヲ国庫金収納ノ当時ノ状況ニ依リテ区別シタルモノナリ
　　　○図略ス。
白銅貨ノ流通セサル他ノ半部ニ於テハ住民頑固ニシテ新令ヲ喜ハス、当五銭ヲモ実価以上ニ計算スル事ヲ好マサリシカハ、新式貨幣ノ発布ニ拘ハラス依然トシテ旧態ヲ墨守シ、当路者ニ於テ屡々強制シテ白銅貨ヲ使用セシメントシタルモ遂ニ行ハレス、同一国内ニアリナカラ貨幣ノ上ニ於テハ二国タルノ分界ヲ為シ、半島ノ西北部ニ於テハ白銅貨市場ニ横溢シテ銀貨及葉銭ヲ駆逐セシニ拘ハラス、南部及東部ニ於テハ依然旧態ヲ存セリ
葉銭モ亦適当ノ通貨ニアラサルノミナラス、其運搬不便ニシテ多額ヲ一地ニ集ムルニ困難ナリシ為メ、各地各其相場ヲ異ニシ、聊カ貿易ヲ沮害セシト雖モ、本来相当ノ実価ヲ有セシヲ以テ多大ノ弊害ヲ招クニ至ラサリシカ、白銅貨ニ至リテハ前ニ述ヘタルカ如ク濫発セラレタルノミナラス、偽造貨亦多カリシヲ以テ、其本位銀ニ対スル相場ハ日々下落シ、然モ英人ブラオン氏ノ管セル関税ハ銀貨ヲ以テ収納シ白銅貨ヲ拒絶セシヲ以テ、其貿易業者ヲ苦メタルハ言フニ及ハス、白銅貨ノ流通ヲ禁止スルニ非レハ国際ノ商業亦殆ント営ム能ハサルニ至レリ
葉銭及白銅貨ノ日本貨幣ニ対スル相場ノ詳細ハ尚ホ第十章ニ説ク如クナルカ、此間ニ於ケル外国貨幣流通ノ状況ヲ述フレハ、日本円銀ハ新式貨幣発行章程第七条ニ依リ混用スル事ヲ許サレシヲ以テ、五両銀貨発行ノ少額ナリシト日清戦争ノ当時日本軍隊ニ於テ多数ニ使用シタルトニ依リ殆ント本位貨タルノ地位ヲ生シ、日本補助貨モ亦多少流入シ日本貨幣ヲ基礎トセル第一銀行券ト相待ツテ開港場ニ於ケル幣制ノ不備ヲ補ヒタリ、其後光武五年新貨幣条例ヲ発布シ日本円銀ノ通用ヲ禁止セラレシモ、新貨幣ノ鋳造ナカリシヲ以テ其効ナク円銀ハ尚ホ開港場ニ於ケル必要ノ通貨ナリシカ、日本ニ於ケル貨幣制度ノ改正ヨリ漸次円銀ノ数ヲ減シ、第一銀行券ノ発行之ニ代リテ増加スルニ至レリ
清国ノ銅銭ハ古来久シク流通セル所ニシテ、嘗テ其通用ヲ禁止セラレシト雖モ、尚ホ多少葉銭ニ混入スルモノアリ、又国境鴨緑江ノ沿岸ニ於テハ多数ノ支那小銀貨流通セリ、露貨ハ日露戦役前ヨリ北韓ニ於ケル露国軍隊ノ多数ニ流布シタルト年々韓国民ノ露領ニ出稼スルモノヽ持帰ルモノアリテ、元山以北ニ流通セルモノ尠カラス、其他墨西哥銀モ亦北境豆満江沿岸ニ於テ多少流通セリ
葉銭及旧白銅貨ハ其価格ニ比シテ重量大ナルカ故ニ之ヲ一地方ヨリ他ノ地方ニ運搬スルニハ少カラサル費用ヲ要シ、当時交通ノ不便ナル時ニアリテ之ヲ遠隔ノ地ニ送ラントスルニハ、運搬費用ノ為ニ其主物ヲ消費シ終ル事サヘアリタリト云ヘハ、以テ其不便ヲ察スルニ余アリ、然ラハ当時此等不便ノ貨幣ヲ以テ各地ヨリ税金ヲ中央政府ニ納付シ、
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又首府ニ於テ販売セル地方物産ノ代金ヲ各地方ニ運搬スルハ如何ニシタルヤト云フニ、甚タ不完全ニシテ今日ヨリ見レハ寧ロ不当不法ト云フヘキ一種ノ便宜方法ヲ存セシナリ、当時各郡守カ徴収シタル租税ハ之ヲ商賈ニ貸与シ、商賈ハ之ニ依リテ其地方ノ物産ヲ購ヒ、之ヲ都会ニ売リ、其代金ヲ以テ郡守ニ代リテ税金トシテ中央政府ニ納付シ、或ハ郡守自ラ右ノ方法ニ依リ商業ヲ営ミ、或ハ中央政府ニ於テ外劃ト称シ商賈ヨリ税金ヲ引当ニ前借ヲナシ、商賈ヲシテ郡守ヨリ代金ヲ受取ラシメ、之ニ依リテ地方ト中央ノ貸借ヲ決済シ、現金ノ運搬ヲ避ケタリ、然レトモ此ノ如キ事ハ又之ニ伴フ弊害ノ存スルアリテ早晩改善ノ方法ヲ講セサルヘカラサルモ、貨幣ノ状態カ前述ノ如キ有様ニテハ是亦実施ニ困難ニシテ、幣制ノ改革ハ諸般整理ノ第一歩タラサルヲ得サリシナリ
之ヲ要スルニ貨幣整理前ニ於ケル通貨ノ状況ハ、各開港場其他二三ノ都会地ニ於テ日本通貨並ニ第一銀行券ノ流通スルアリテ、僅カニ国際貿易ノ媒介ヲ為シタル外殆ント無政府ノ状態ニシテ、一度右ノ小区域外ニ出ツレハ不便極マル葉銭ト旧白銅貨トヲ授受セサルヲ得ス、而モ此等ノ貨幣ニハ粗製又ハ偽造ヲ混スル事多ク、旧白銅貨ノ如キ授受ノ際ニ一々鑑定ヲ為サヽルヲ得ス、従テ此鑑定ヲ業トスル一種ノ営業ヲ生シ多額ノ取引ニハ之ヲ雇フテ鑑定計算ヲ為サシメサルヲ得スシテ、其不便殆ント名状スヘカラス、加之両貨及日本通貨トノ間相場ノ変動常ナク一高一低旦夕ヲ計ラレス、今日ノ利益ハ必スシモ明日ノ利益ニアラス、明日ノ損失必スシモ明後日ノ損失ニアラス、商賈ハ殆ント損益ノ計算ヲ立ツルヲ得ス、貿易ヲ阻害シタル事甚シク、特ニ旧白銅貨ハ年々歳々下落シテ、而シテ物価ハ年々歳々騰貴シ人民ノ惨状実ニ云フニ忍ヒサルモノアリシナリ、然モ政府人民共ニ其弊ヲ悟ラス所謂幣制ノ改革ナルモノハ偶々以テ其弊ヲ深カラシムルニ過キサリシナリ
北韓地方露清国境ニ於ケル露清貨幣ノ流通ハ是レ二国境ヲ接スル場合ニ於テ免ルヘカラサル現象ニシテ、其区域小ニシテ其額自ラ限アリ、固ヨリ大勢ニ影響ナキヲ以テ旧白銅貨並ニ葉銭ノ整理既ニ成リ幣制ノ基礎確立スルニ於テハ亦深ク憂フルニ足ルモノナキヲ以テ、之ニ対スル施設ニ就テハ初メヨリ計画スル所ナカリシナリ

韓国貨幣整理報告書　第一銀行編　第二一―三六頁明治四二年刊
　　第三章　貨幣整理計画ノ要領
　　　　第一節　幣制改革ノ方針
前章ニ述ヘタルカ如ク韓国近代ノ幣制ハ紊乱ニ紊乱ヲ重ネ、各開港場並ニ重ナル都府ニ於テ第一銀行券又ハ日本貨幣ノ流通スルアリテ僅カニ国際間ニ於ケル交易ノ媒介ヲ為シ、価格ノ標準ヲ示シタル外殆ント混乱ノ状態ニシテ、積弊ノ極ル処幾度カ改善ヲ図ラントシテ空シク失敗ノ歴史ヲ止メタリ
光武八年二月、日露ノ国交断絶スルヤ、日韓両国ノ攻守同盟玆ニ成立シ、両国ノ関係極メテ密接トナリシヲ以テ、同年十月十四日大蔵省主税局長目賀田種太郎氏韓国政府財政顧問トシテ、財政整理ノ局ニ当ラレ、韓国政府ハ其議ヲ容レテ諸般ノ改革ヲ企図セラレタリ、而シテ貨
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幣制度ヲ確立シ紛乱セル通貨ヲ統一スルコトハ其最モ重要ナル事項ノ一トシテ第一ニ著手セラレタル所ナリキ、今同顧問カ計画セラレタル貨幣整理ノ方針ヲ挙クレハ左ノ如シ
　　　　韓国貨幣制度整理案
　　　　　　第一　貨幣制度整理ノ要点
　（一）韓国ニ本位貨幣ナシ、物価ノ変動激甚ニシテ商工業ノ発達財政ノ確立得テ望ムヘカラス、宜シク価格ノ標準ヲ定ムヘシ
　（二）白銅貨幣ハ製造粗悪ニシテ私鋳偽造シ易シ、殊ニ数年来ノ濫造ニ加ヘテ私鋳偽造ノ行ハルルコト久シク、殆ント其真偽ヲ分別シ難キニ至レリ、故ニ之ニ代ヘテ適当ノ補助貨ヲ発行スル事、又葉銭ハ其流通額夥多ニシテ且ツ粗悪貨ノ流通尠カラス、故ニ之ヲ引上ケ、適当ノ分量ニ収縮シ、其粗悪ナルモノハ之ヲ廃止スヘシ
　　　　　　第二　整理ノ方法
　韓国貨幣ノ整理ハ之ヲ整理ト称センヨリハ寧ロ貨幣制度ノ新設ト云フヘク、之ニ対シテ諸種ノ方策ナキニ非ルヘシト雖モ、韓国現在ノ資力及国際貿易ノ関係ニ鑑ミ左ノ方策ヲ可ナリトス
　（一）韓国ノ通商上及交通上最モ近接スルハ日本国ナリ、故ニ韓国貨幣本位ハ之ヲ日本ト同一ニナス事
　（二）韓国貨幣制度ノ成否ニ最モ利害ノ関係ヲ有スルモノハ亦日本国ナリトス、故ニ韓国政府ハ日本政府若クハ日本政府ノ保証ヲ以テ資金ヲ借入ルヽ事
　　此二点ヨリ左ノ方策ヲ以テ最モ適当ナリトス
　　一、韓国貨幣ノ基礎及発行貨幣ヲ全然日本ト同一ニスル事
　　二、韓国貨幣制度ト同一ナル日本貨幣ノ流通ヲ認ムル事
　　三、本位貨幣並ニ兌換券ハ日本ノモノヲ以テスル事、若クハ日本兌換券ヲ準備トシテ日本政府ノ監督及保証ヲ以テスル銀行券トスル事
　　四、補助貨幣ハ凡テ韓国政府ニ於テ発行スル事
　　　　　　第三　整理実行ノ順序
　（一）明治三十四年二月（韓国光武五年）発布勅令第四号貨幣条例ノ実施ヲ宣言スル事、以テ貨幣ノ基礎ヲ法定スル事
　（二）日本貨幣ノ流通ヲ認メ、政府ノ収支ニ使用スル事ヲ得セシム
　（三）貨幣条例中ノ青銅貨（一銭）白銅貨銀貨（二十銭五十銭）ノ様式ヲ改定シ之ヲ公布ス
　　但シ白銅貨及銀貨ノ様式ハ可成精密ニシ、偽造贋造ヲ防遏シ得ヘキモノタルヲ要ス、警察制度ノ不備ナルト経済思想ニ欠乏スル韓国民ニ対シテハ大ニ此点ニ注意セサルヘカラス、白銅貨幣ノ如キハ可成丈ケ縁取ヲ施スコト得策ナリ、十銭銀貨ノ発行ヲ為サヽルニヨリ彼是紛ハシキ憂ナク、又新白銅貨幣ニシテ一見余程優等ニ見ヘサル限リハ之ト稍同形式ナル旧白銅貨ニ対シ二倍ノ交換力ヲ保タシムルコト困難ナルヘケレハナリ
　（四）旧白銅貨ノ通用期限並ニ引換期限ヲ定メ、引換及引上ヲナスコト赤銅貨及葉銭ハ一定ノ期限後ハ其通用制限額ヲ限定シ、其引上ヲ為ス事
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　　　　　　第四　旧貨ノ引上及交換法
　（一）白銅貨
　　一、可成丈ケ短期日ヲ以テ其通用及引換期限ヲ定ム
　　二、新貨幣トノ比価ヲ定メ、漸次金庫ニ於テ引換ルモノトス
　　三、政府ノ収納及新貨交換ニハ白銅貨ノ真偽ヲ検定シ、不正貨ト認ムルモノハ其通用ヲ禁止スルカ、又ハ之ニ切目ヲ為シ若クハ実価ヲ以テ買上ルカ所持人ヲシテ撰択セシム
　（二）赤銅及葉銭
　　一、一旦政府ニ収納セシモノハ再ヒ発行スルコトナク、漸次ニ引上ノ方針ヲ採ル事
　　二、葉銭中良好ニシテ流通ヲ認メ得ヘキモノハ検定ノ上再ヒ之ヲ発行シ小取引ニ便セシム
要スルニ光武五年勅令第四号貨幣条例ヲ実施シテ日本ト同一ノ金貨本位制度トナシ、旧銀貨・旧白銅貨及旧銅貨ハ全部還収シテ市場ニ其跡ヲ絶タシメ、葉銭ハ大部分ヲ還収スルモ一部ハ之ヲ存シ、準補助貨トシテ小取引ニ便シ、以テ韓国貨幣制度ノ基礎ヲ定メントスルモノナリ而シテ当時旧貨幣ノ価格ハ日本貨幣ニ対シ何レモ約半減シ、旧白銅貨ノ如キ往々弐銭五厘以下ニ下リタルコトサヘアリタルヲ以テ、其還収価格ヲ定ムルニ当リ法定価格ノ半額トシ、旧貨銀十両ハ新貨金一円ト定メラレタルハ至当ニシテ、何人モ之カ為ニ損害ヲ蒙ルコトナク、又何人モ之ニ対シテ異議ヲ有スルモノアラサリシナリ
以上ノ計画ハ韓国政府ノ採用スル所トナリ、光武九年一月ヲ以テ光武五年勅令第四号貨幣条例ヲ実施スヘキ事ヲ定メ、同時ニ第一銀行ト貨幣整理ニ関スル契約ヲ締結セラレ、同年七月ニ至リテ弥々旧貨ノ引上新貨ノ発行ヲ実施シ、爾来約四年半整理ノ事業漸ク其緒ニ著クヲ得タリ、其詳細ハ以下章ヲ分チテ述フル所アラントス
序ニ一言スヘキハ、以上約五年ニ垂ントスル期間ニ於テ政治上行政上其他一般外囲ノ事情ハ非常ナル改善ト進歩トヲ遂ケ、光武十年一月ヲ以テ統監府ノ設置アリ、次テ財政監査庁ノ設置アリ、目賀田財政顧問ハ其長官ニ任セラレ、隆熙元年十二月顧問及財政監査庁ハ廃止セラレ荒井賢太郎氏度支部次官ニ任セラレタリ、此ノ如ク直接監督ノ機関ニ異動アリタルノミナラス、徴税制度ノ改善ノ如キ、各種金融機関ノ設置ノ如キ、直接間接貨幣整理事業ニ影響スヘキ事項ノ変動亦少ナカラサリシト雖モ、貨幣整理ニ関スル方針及施設ハ之カ為ニ何等ノ変動ヲ受ケタル事ナク、荒井次官就任以来目賀田顧問ノ政策ヲ踏襲セラレ、外囲事物ノ進捗ト相待テ益々事務ノ進捗ヲ見タリ
　　　　第二節　貨幣整理ニ関スル重要諸法令
貨幣整理ニ関スル諸法令中一部局ニ関スルモノハ、各其関係章節ニ於テ説明スルヲ便トスルモ、其根本ノ法令ニシテ全体ニ関スルモノハ之ヲ一章ニ纏メテ掲載スル方貨幣整理ニ関スル大要ヲ知ルニ便ナルヲ思ヒ、玆ニ之ヲ集メテ掲クル事トセリ
貨幣整理ニ関スル法令ニシテ初メテ発表セラレタルハ光武九年一月十八日ニシテ、其第一ハ勅令第二号貨幣条例実施ノ件是ナリ、其全文左ノ如シ
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　　　　　　貨幣条例実施ニ関スル件（光武九年一月十八日勅令第二号）
　第一条　本国貨幣ノ価格ハ金ヲ以テ基礎ヲ作リテ本位貨ノ根拠ヲ鞏固ニスル事
　第二条　上条ニ依リ光武五年勅令第四号貨幣条例ハ本年六月一日ヨリ実施スル事
右勅令ニ依リ光武五年ノ貨幣条例ハ同九年六月一日ヨリ実施サルヽ事トナレリ、右貨幣条例ハ第一章ニ記載セル処ナルモ、光武九年十月勅令第四十二号貨幣条例中改正ノ件ニ依リ、十銭及半銭ノ二種補助貨ヲ加ヘ、隆熙元年八月勅令第四号ニ依リ各補助貨ノ量目ヲ軽減セラレタルヲ以テ、左ニ現行法ノ全文ヲ掲ク
　　　　　　貨幣条例（光武五年二月十二日勅令第四号同九年十月二十日勅令第四十二号及隆熙元年八月十四日勅令第四号ニテ一部改正）
　第一条　貨幣ノ製造及発行ノ権ハ政府ニ属スル事
　第二条　金貨幣ノ純金量目ハ二分ヲ以テ価格ノ単位ト定メ此ヲ圜ト称スル事
　　但貨幣算則ハ五十銭ヲ半圜ト称シ、百銭ヲ一圜ト称スル事
　第三条　貨幣ノ種類ハ左ノ如ク定ムル事
　　　金貨幣　　　　　　　　二十圜
　　　　　　　　　　　　　　十圜
　　　　　　　　　　　　　　五圜
　　　銀貨幣　　　　　　　　半圜
　　　　　　　　　　　　　　二十銭
　　　　　　　　　　　　　　十銭
　　　白銅貨幣　　　　　　　五銭
　　　青銅貨幣　　　　　　　一銭
　　　　　　　　　　　　　　半銭
　第四条　貨幣ノ式様品位及量目ハ左ノ如クスル事

　第五条　金貨幣鋳造ニ公差アリテ通用中最軽量目ハ二十圜金貨幣ハ四銭四分二厘マテ、十圜金貨幣ハ二銭二分一厘マテ、五圜金貨幣ハ一銭一分五毛マテナル事
　第六条　金貨幣ハ其額ニ制限ナク法貨トナシ、銀貨幣十圜マテト白銅貨及青銅貨一圜マテヲ限リ法貨トシテ通用ス、但与受者カ互相
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肯諾スル場合ニハ此限ニアラサル事
　第七条　金貨幣磨損カ通用最軽量目ニ下リタルモノト、銀貨幣・白銅及青銅貨幣ノ甚シク磨損セルモノト、其他流通ニ不便ナル貨幣ハ、其額面価格ニ従ヒテ引換ユ、引換規則ハ度支部大臣部令ヲ以テ定ムル事
　第八条　貨幣ノ形式分明ナラス、若クハ私造シタル貨幣ハ通用スヘカラサル事
　第九条　金ヲ輸納シテ金貨幣製造ヲ請求スルモノアル時ハ政府ニ於テ其請求ヲ応許スル事
　第十条　従来発行シタル一両半圜二十銭十銭銀貨幣ト二銭五分白銅貨幣、一銭半銭青銅貨幣ト五分赤銅貨幣及一分黄銅貨幣ハ旧ニ仍リ通用スル事
　第十一条　右新式金銀銅貨幣発行ト従来発行セル銀銅貨幣ノ引換ト金ヲ輸納シテ金貨幣製造ヲ請求スルコトニ関スル規則ハ度支部大臣部令ヲ以テ定ムル事
同月勅令第三号ヲ以テ形体量目同一ナル貨幣ハ無碍通用ノ件ヲ定メラレタリ、之ニ依リ日本通貨モ亦韓国内ニ於テ法貨トシテ通用スルニ至レリ、右勅令ノ全文左ノ如シ
　　　　形体量目カ同一ナル貨幣ハ無碍通用件（光武九年一月十八日勅令第三号）
　第一条　光武五年二月十二日、勅令第四号貨幣条例ヲ実施スル時ニハ、同条例ニ規定セル貨幣ト品位量目及形体カ同一ナル貨幣ハ並ニ無碍通用シテ公私ノ与受ニ使用スルコトヲ許ス事
　第二条　本令ハ貨幣条例実施ノ日ヨリ一体施行スル事
同月勅令第四号ヲ以テ旧貨幣訂期交換ニ関スル件ヲ定メラレタリ、是レ即チ旧貨幣ノ処分ヲ定メタル根本法ニシテ最モ重要ナルモノナルカ詳細ノ事項ハ後章ニ譲リ、左ニ其全文ヲ掲ク
　　　　旧貨幣訂期交換ニ関スル件（光武九年一月十八日勅令第四号）
　第一条　光武五年二月十二日勅令第四号貨幣条例ヲ遵拠シテ本位貨幣ヲ金ヲ以テシタルニヨリ、既往発行シタル通貨ハ左開条規ニ依リテ新貨ト交換或ハ還収スル事
　第二条　旧貨銀十両（銀二元モ亦同）ハ新貨金壱圜ニ相当スル比額ヲ以テ政府ノ便宜ニ依リテ漸次ニ交換或ハ還収スル事
　第三条　旧白銅貨幣ノ交換及還収ハ光武九年七月一日ヨリ開始スル事
　第四条　旧白銅貨幣ノ交換畢了ノ期限ハ満一箇年以上トシ、度支部大臣カ便宜ニ依リテ定ムル事
　第五条　旧白銅貨幣交換期限終了セル後ニハ其通用ヲ禁止スル事、但通用禁止セル後六箇月間ハ公納ニ用ユルヲ得ル事
　第六条　上開諸条ニ依リテ還収及交換スル方法及其交換場所ハ度支部大臣之ヲ定ムル事
以上三種ノ勅令ハ貨幣整理ノ根本法ニシテ事理明晢疑義ヲ挿ムノ要ナキカ如シト雖モ、当時韓国内地ハ交通不便ニシテ人智未タ開ケス、一片ノ法令ヲ発布シタルノミニテハ殆ント何等ノ反応ナク、無用ノ反古紙トナリ了ルモノ其例少カラス、是レ即チ貨幣整理事業ノ難事業トシ
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テ当時大多数ノ人士カ其成効ヲ疑ヒタル所以ナリ、事情右ノ如クナルヲ以テ当局大ニ苦心セラレ、種々ノ諭達訓令ヲ発シテ、一面人民ニ貨幣ニ関スル思想ヲ注入シ、一面地方官ニ対シテ実施方ニ付キ示達セラレタリ、今其主ナルモノヲ掲クレハ左ノ如シ
　　　　貨幣条例実施ニ関スル件（光武九年四月三日訓令）
　勅令第二号貨幣条例ハ業ニ頒布セラレタルヲ以テ大小ノ民人カ想宜知悉シタルヘシ、六月一日ヨリ行々将ニ実施シテ既往行用ノ旧貨ハ并当還収或交換スヘシ、先ツ旧貨中ノ白銅貨ヲ七月一日ヨリ旧貨二元ニ新貨一圜ヲ以テ交換スヘシ、此交換比価ハ已ニ本年一月十八日勅令第四号第二条ニ掲頒シタレトモ、尚ホ未解ヲ慮リ玆ニ発訓スルニヨリ、即時諺文ニ翻謄シ、各坊面ニ告示シテ大小人民ヲシテ咸ナ須ク知悉セシムル事
　一、還収ハ民人ニ所納公銭ヲ旧貨ヲ以テ収納セシムル事
　一、交換ハ民人ニ所有旧貨ヲ京城或ハ地方交換所便近ニ従ヒテ交換ヲ請ヘハ無碍換給スル事
　一、旧貨二元ニ新貨壱圜ヲ以テ換給スル旧貨ハ銀貨本位ナリ、旧白銅貨ハ旧銀貨補助ナリ、新貨ハ金貨本位ニシテ価格カ日貨ト相適ノ位置ナリ、是ヲ以テ定ムル事
　　　　旧貨交換ニ関スル件（光武九年五月十六日電訓）
　政府ヨリ発行セサル貨幣ハ交換及諸般ノ受授ニ使用スルヲ得サルハ勿論ナルカ、近来麁造貨ノ流通夥シクシテ人民中蔵シ置キタルモノ少カラサルニヨリ、政府ハ時ニ民情ヲ察シテ該麁造貨中其性形カ正貨ニ準スヘキモノハ務メテ交換シテ人民ニ損害ノ多カラサル様勉ムル故ニ、人民等ハ政府ヲ信シ毫モ疑惑スルコト無カルヘシ、此段訓令スルニ付、即時管下各郡各面里ニ此旨ヲ以テ屡々告示シテ人民ヲシテ安心セシムヘシ
　　　　新貨幣条例ノ実施ト旧白銅貨還収ニ関スル件（光武九年六月八日訓令）
　本年四月三日ニ新貨幣条例ノ実施ト旧白銅貨ノ還収及交換ニ関シテ民人ヲシテ預メ知悉セシムル事ヲ已ニ発訓シタルモ、或ハ未タ周知ニ及ハサルモノアルヲ慮リ、此通貨ヲ一大改革セシムルヲ以テ一般人民ノ疑惑ヲ全ク渙釈セサルトキハ経済上ニ不好ノ結果ヲ招致シ、或ハ奸商輩ヲシテ民人ノ無知ヲ利用セシメ、其弊ノ滋蔓ニ堪エサルヘシ、故ニ貨幣ニ関スル勅令ト已発ノ訓令ヲ玆ニ添付シテ更ニ訓令スルニ付、訓到即日ニ国文ヲ以テ翻謄シ、各坊谷ト民人群集スル処ニ掲布シテ、僻遠ノ人民ト雖モ貨幣交換ト改革ノ要旨ヲ咸ナ須ク知悉セシメ、政府ノ眷々有意ノ所ヲ到底徹貫セシムルヲ為宜事
　　　　左開
　一、旧白銅貨ト交換スル新貨ハ即チ新白銅貨（五銭）新銀貨（二十銭及五十銭）及日本第一銀行券及日本銀行兌換券ナリ、兌換券ハ即チ金貨紙幣ニシテ我国元位金貨ト質様同一ナルカ故ニ通用無碍ナル事
　二、白銅及銀貨ハ補助貨ニシテ小数取引ニ便ナルタメ発行スルモノナルカ故ニ、従来ノ如ク多数ニ発行スルモノニアラス、且新貨ハ凡テ日本貨幣ト同一標準ニシテ同一価格ナル事
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　三、新旧貨交換期限ハ勅令第四号第四条ニ依リテ満一年以上トシ、其間旧白銅貨ハ従前ノ通リ無碍通用シ、右交換期限畢了シタル後モ尚六箇月間ハ公納ニ用ユルカ故ニ来ル七月一日ヨリ新旧貨ノ交換ヲ始ムルモ民人等ハ目下急ニ換去スル必要ナク、徐々ニ其便宜ニ従ヒテ換去スルヲ為宜事
　四、新発行金銀白銅貨ノ式様ト勅令第四号第六条ニヨリテ旧白銅貨ノ交換方法ト交換所ハ官報ヲ以テ頒布スル事

韓国ニ於ケル第一銀行　第一銀行編　第六一―七〇頁明治四一年八月刊
　　　　第六節　貨幣整理事務取扱ノ受托
貨幣整理ノ事決行セラルヽヤ本行ハ其実行ノ任ニ当リ、明治三十八年一月ニ於テ韓国政府ト貨幣整理及之ニ要スル資金貸与ニ関スル契約ヲ締結セリ、其条文左ノ如シ
　　　○前掲（第一八四頁）ニツキ略ス。
是ヨリ先キ本行ハ右契約ヲ締結スルニ当リ若シ一時引替高巨額ニ上ルトキハ三百万円ノ資金ニテハ不足ヲ生ズベキヲ憂ヒ、左ノ如ク大蔵省ニ交渉セリ
　一、万一貨幣交換一時ニ輻輳シテ、交換基金ニ不足ヲ生ズル場合ニハ、政府又ハ日本銀行ヨリ援助ヲ与ヘラルヽモノト了解シテ差支ナキヤ
　二、貨幣整理契約第七条ハ参百万円ヲ超過シタル立替金ノ利子其他一切ノ諸費用ヲ包含シテ差引計算スルモノト了解ス
而シテ右申出ハ大蔵省ヨリ韓国政府ニ照会ノ結果直ニ認可セラレテ整理ノ契約玆ニ成立スルニ至レリ
玆ニ於テ本行ハ貨幣整理ノ準備全ク成レルヲ以テ、貨幣整理事務処理法ヲ定メ、韓国内ノ各支金庫ニ対シテ左ノ如ク通達セリ
　本年七月一日ヨリ実施スベキ貨幣整理事務ハ従来補助貨ノ流通過多ニシテ之ニ因リテ本位制度ヲ紊乱セシメタルヲ以テ之ヲ整理シテ金貨本位制ヲ確立セントス、其方法ハ流通額過多ニシテ価格ノ下落尤モ甚シキ旧白銅貨ハ全然之ヲ還収シ、銀行券及新貨ヲ以テ之レニ代ヘ、葉銭ハ其一部ヲ還収シテ一定ノ価格ヲ保持セシメ、銀貨及赤銅貨ハ其流通甚タ少キヲ以テ当分放置シ、弐元ニ対シテ新貨幣壱圜ノ比例ヲ以テ流通ヲ認メ尚且新貨ヲ発行シテ其不足ヲ補ヒ、本位貨ハ漸次鋳造スベシト雖モ当分ノ内ハ銀行券ヲ以テ之レニ充ツル方針ナリ、銀行券及新補助貨ノ発行ニハ十分注意ヲ要シ、不及ノ弊ヲ生セザルヤウ勉励スルハ勿論ニシテ相互間ニ加計ノ生ズル弊ヲ避ケ、或ハ地方需要貨幣ノ種類ニ注意シテ、劃一均等ノ方針ヲ取ルコト肝要ナリ
　右事務処理ノ件ハ左ノ如ク定メタルニヨリ此ヲ以テ照亮セラレンコトヲ望ム
　　明治三十八年六月五日
　　　　　　　　　　　　金庫出納役
　　　　　　　　　　　　　　京城支店支配人　清水泰吉
　　　　貨幣整理事務処理法（訳文）
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　　　　　　一　資金
　第一条　政府交付金・新貨幣・旧貨幣売上代金及雑収入ヲ以テ貨幣整理費用支撥ノ資金ト作スモノナルヲ以テ、中央金庫整理部ニテハ右収入ヲ畢リタル時ハ此ヲ資金ニ編入スル事
　第二条　前項資金ハ第一銀行京城支店ニ当座預金トナス可シ、但新貨幣ハ新貨計算ヲ以テ受入レ直接中央金庫整理部ニ於テ保管シ、発行ノ必要ヲ生ジタル時ハ銀行預金ニ任置シタル後支出スル事
　　支金庫ニテ新貨幣ヲ発行スル必要ヲ生ジタル時ハ其保管セル新貨幣ヲ第一銀行ニ納入シタル後即時中央金庫ニ報告スル事
　第三条　新貨幣ハ中央金庫ノ保管トス、但中央金庫ニテ必要ト認ムル時ハ此ヲ各支金庫ニ保管任置スルヲ得ベキ事
　　各支金庫ニテ中央金庫ノ指定スル所ニ依リ、直接大阪支店ヨリ新貨幣ノ輸送ヲ受ケタル時ハ即時其種類金額ヲ中央金庫ニ報告スベキ事
　　中央金庫ニテ新貨幣ヲ受取タル時ハ其ノ日ヲ以テ、又前項ニ依リ支金庫ヨリ報告有リタル時ハ其報告到着ノ日ヲ以テ、新貨計算ニ記帳スベキ事
　第四条　各支金庫ニ整理費用ノ支撥元金ヲ置ク、其額ハ中央金庫ニテ時々状況ヲ斟酌シテ此ヲ定ム、但支撥元金ハ之ヲ第一銀行ニ任置シ、支撥ヲ要スル時毎ニ支出セズ、支撥ハ総テ第一銀行ノ代撥金トナシ置キ第十条ニ依リテ処置スル事
　第五条　資金ニ不足ヲ生ジタル時ハ第一銀行ヨリ代撥シ、第一銀行計算ノ科目ニ当座加貸トシテ記帳整理スベキ事
　　　　　　二　支撥
　第六条　旧白銅貨ノ鑑定ヲ畢了シ相換ヲ行フ場合ニハ支撥票ヲ作成スベシ、其支撥票ヲ以テ現金ノ支撥ヲ請求スル者アル時ハ此ニ依リテ支撥フ可キ事
　第七条　納税等ニ因リテ還収セル旧貨幣ハ交換ニ換算記帳ス可キ事
　第八条　大阪造幣局ヨリ新鋳貨幣ノ原価ノ送付ヲ請ヒタル時ハ大阪支店ヨリ此ヲ代納シ京城支店ニ移計セシム、京城支店ハ中央金庫ニ移牒シテ貨幣整理資金計算ヨリ支撥ヲ受ク可シ、韓国外ニテ整理ニ関スル費用ヲ支撥フ場合ニハ総テ右ニ準シテ処理スル事
　第九条　前二条ノ外諸般費用ノ支撥ハ総テ整理部ノ通告ニ依リテ第一銀行京城支店ヨリ支撥フ事
　第十条　支金庫ニ於テ前条ノ支撥ヲ必要トスル時ハ、第一銀行ヨリ代撥シ、毎月六回規定日（五日・十日・十五日・二十日・二十五日・末日、但当日休日ナル時ハ其翌日「以下倣此」）ニ計算報告書ヲ作リ証憑ヲ添付シテ京城支店ニ報告シ、京城支店ハ中央金庫ニ移牒シテ貨幣整理資金ヨリ支撥ヲ受ク可キ事
　　支撥ニ関スル証憑書類ハ総テ中央金庫整理部ニテ保管スベキ事
　　　　　　三　旧貨処置
　第十一条　各支金庫ニテ保管スル旧白銅貨ハ便宜上此ヲ中央金庫ニ輸送スベキ事
　第十二条　中央金庫ニテハ其保管スル旧白銅貨ヲ便宜上旧典圜局ニ
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送附シテ鋳潰シタル後売下其他ノ処分ヲ行フ事
　第十三条　葉銭ハ此ヲ釜山支金庫ニ輸送シテ同支金庫ニテ保管シ、中央金庫ノ指揮ヲ待チテ処置スベシ、但他支金庫ニ輸送保管セシムル必要アル時ハ中央金庫ハ其旨ヲ予メ通知スベキ事
　第十四条　前二条ノ売下代金其他雑収入ヲ支金庫ニテ受領シタル時ハ即時中央金庫ニ報告スル事
　　　　　　四　帳簿及報告
　第十五条　貨幣整理計算ノ収支ハ左記ノ科目ニ分チ中央金庫ニテ証憑通リ分弁シ記帳整理スベキ事
　　　資金計算　旧貨相換計算　旧貨買上計算　新貨製造代金計算
　　　諸経費　第一銀行計算　新貨計算
　第十六条　中央金庫整理部ニハ左開帳簿ヲ備ヘ毎日其出入ヲ記帳ス可キ事
　　一、貨幣整理計算元帳　　　　　（書式第一号）
　　一、旧貨相換元帳　　　　　　　（同　第二号）
　　一、旧貨買上元帳　　　　　　　（同　第三号）
　　一、旧貨処置元帳　　　　　　　（同　第四号）
　　一、旧貨現在帳　　　　　　　　（同　第五号）
　　一、旧貨買上帳　　　　　　　　（同　第六号）
　　一、新貨現在帳　　　　　　　　（同　第七号）
　　一、貨幣整理計算計減余額帳　　（同　第八号）
　第十七条　各支金庫整理部ニ左開帳簿ヲ備置キ毎日其出入ヲ記帳ス可キ事
　　一、貨幣買上記入帳　　　　　　（書式第九号）
　　一、旧貨相換記入帳　　　　　　（同　第十号）
　　一、旧貨現在帳　　　　　　　　（同　第十一号）
　　一、新貨現在額帳　　　　　　　（同　第十二号）
　第十八条　各支金庫整理部ハ毎月六回規定ノ日ニ第十三号書式ニ拠リテ旧貨交換ニ関スル一切ノ事項ヲ中央金庫ニ報告スベキ事
　第十九条　中央金庫ハ諸般ノ報告ヲ綜合シテ毎月一回貨幣整理ニ関スル必要事項ヲ度支部大臣ニ報告スベキ事

第一銀行五十年史稿　巻五・第八八―九〇頁　大正一二年刊
　○第二編　第五章　日清戦後の発達
　　　　第三節　韓国中央金融機関
○上略
韓国政府においては曩に会計法を公布したることあれども国庫金の取扱に関しては未施設する所なく、其財政の紊乱は主として国庫収支の不正確なるに基けるが故に目賀田顧問は国庫金出納の整理を図り、明治卅七年光武八年十二月三十日度支部令を以て金庫出納役設置の件を公布し、今後金庫出納役は度支部大臣の命令を承けて一切の職務を執行する事、国庫金の収納儲蔵の為に本支金庫等を設置する事等の規定を設けたれども、未金庫出納役の任命なくたゞ纔に同部出納局に置かれたる金庫課をして其職務を執行せしむるのみ、三十八年光武九年一月廿七日
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度支部大臣閔泳綺・林公使・目賀田顧問等日本公使館に会して金庫開設の件を協議し本行を以て之に宛つることを定めたる結果、卅一日に至り本行と度支部との間に国庫金の取扱に関する契約書を締結せり。かくて本行は度支部大臣の指揮監督に従ひ国庫金出納の事務を取扱ふ事、歳入は国庫預金として総て本行に預け入るゝ事、国庫預金に対しては利子を付せざると共に是が出納に関する経費は総て本行の負担とする事等国庫金取扱の事務を委託せられしが、幾もなく度支部令を以て金庫事務処理順序の公布あり、金庫は当分の内歳入歳出に限りて之を処理する事、本行は京城支店を以て中央金庫とし其他の支店・出張所を支金庫とする事、京城支店支配人を以て金庫出納役となし、其他の支店支配人若しくは出張所主任を以て金庫出納役の代理人とする事中央金庫は所属支金庫を統轄して之を監督する事等を規定せり。
○下略

韓国ニ於ケル第一銀行　第一銀行編　第三二二―三三一頁明治四一年八月刊
　○第八章　韓国国庫金ノ取扱
　　　　第二節　国庫金取扱ニ関スル韓国政府トノ契約
明治三十八年（光武九年）一月三十一日本行ハ韓国度支部ト国庫金ノ取扱ニ関スル契約ヲ締結シ、其結果光武八年十二月三十日発布ノ度支部令ニヨリ金庫出納役ノ地位ニ立チ、度支部大臣ノ指揮監督ニ従ヒ国庫金出納ノ事務ヲ取扱フコトヽナリ、且ツ我国ノ勅令第七十三号発布セラレタルヲ以テ、京城支店ノ組織ヲ改テ之ヲ韓国総支店トシ、営業部・発行部ノ外ニ国庫部ヲ設ケ、総支店支配人ヲシテ金庫出納役ノ事務ヲ執行セシムルコトトセリ、即チ国庫金取扱ニ関スル契約書ノ全文ハ左ノ如シ
　　　　国庫金取扱ニ関スル契約書
第一条　大韓国政府ハ国庫金ノ取扱ヲ第一銀行ニ委托スルニ付、第一銀行ハ光武八年十二月三十日度支部令ニ依リ、金庫出納役ノ地位ニ立チ、度支部大臣ノ指揮監督ニ従ヒ、誠実ニ国庫金出納ノ事務ヲ取扱フベシ
第二条　大韓国政府ノ歳入ハ国庫預金トシテ総テ第一銀行ニ預ケ入ルベシ
第三条　国庫預金ニハ利子ヲ付セズ
第四条　国庫預金ノ出納ニ関スル経費ハ総テ第一銀行ノ負担トス
第五条　第一銀行ハ大韓国々庫預金出納ノ為メ、枢要ノ個所ニ事務所ヲ設置スベシ
第六条　大韓国政府歳入ハ総テ徴収官ノ署名捺印アル納付書ニ金額ヲ記載シ、指定ノ事務所ニ納人ヲシテ納付セシムベキニ付、第一銀行ハ直チニ之ヲ大韓国々庫預金ニ組入レ、同時ニ領収証ヲ納人ニ交付シ、且ツ徴収官ニ対シテハ領収通知書ヲ以テ領収済ノ旨ヲ通知スベシ
第七条　国庫預金ノ引出ハ総テ出給官ノ署名捺印アル引出切符ヲ以テス
　出給官ハ引出切符ヲ発行スルト同時ニ、該切符ニ指定スル事務所ニ
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対シ引出通知書ヲ以テ国庫預金引出ノ予告ヲナスベシ、第一銀行ハ国庫預金ノ払出ヲ為シタルトキハ其旨ヲ出給官ニ通知スベシ
第八条　納付書・領収書・領収通知書・引出切符及引出通知書ノ書式ハ度支部大臣之ヲ定ム
第九条　出給官ノ署名及印鑑ハ度支部大臣ヨリ予メ第一銀行ニ通牒スベシ
第十条　第一銀行ハ所定ノ引出通知及引出切符ノ符合ヲ認メ、且ツ第九条ノ署名捺印アルニアラザレハ、国庫預金ノ払出ヲナスコトヲ得ズ
第十一条　度支部大臣ハ第一銀行ノ各事務所ニ付、出給官毎ニ科目別ニシタル国庫預金引出金額ヲ予定シ、之ヲ第一銀行ニ通知シ置クモノトス、其変更アルトキ亦同ジ
第十二条　第一銀行ハ前条ニ定メタル金額ヲ超過シテ国庫ノ預金ヲ払出スコトヲ得ズ
第十三条　国庫預金ノ出納ハ第一銀行営業時間内ニ限ルモノトス
第十四条　第一銀行ハ国庫預金ノ出納ニ付テハ、事由ノ如何ニ拘ハラズ、大韓国政府ニ対シ一切ノ責ニ任ズ、但シ大韓国政府ノ過失アル場合ハ此限ニアラズ
第十五条　第一銀行ハ引出通知書ヲ受領セシ後ニ於テハ、正当ニ発行セラレシ引出切符ニ対シ払出ヲ拒ムコトヲ得ズ、但第十条ノ場合ハ此限ニアラズ
第十六条　大韓国政府ハ通貨・金銀地金及有価証券ノ保護預リヲ第一銀行ニ委托スルコトヲ得ベシ、此場合ニハ第一銀行ハ最善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ、無償ニテ其保管ノ責ニ任ズベシ
第十七条　前条保護預リ物ノ出納手続ハ度支部大臣之ヲ定ム
第十八条　大韓国政府ハ金参拾万円迄ヲ限リ、無利息ニテ預金ノ過引出ヲナスコトヲ得
第十九条　前条ノ制限ヲ超過シタル過引出金額ニ対シテハ、大韓国政府ハ年六分ノ利子ヲ仕払フベシ、但シ本条ノ過引出金額ハ壱百万円ヲ超過スルコトヲ得ズ
第二十条　国庫預金取扱ノ為メ必要ト認メタル官有不動産ハ、度支部大臣ノ承認ヲ得テ第一銀行ニ於テ無償ニテ之ヲ使用スルコトヲ得
右ノ条項ヲ確約シ、其証トシテ契約書日韓文各弐通ヲ作リ、各自弐通宛ヲ領有スルモノ也
　　明治三十八年一月三十一日
　　　　　　　　　　　　　　度支部庶務局長　李重玉
　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行京城支店
　　　　　　　　　　　　　　　　　　支配人　清水泰吉
右契約ノ諦結後国庫金《（締）》ノ取扱ニ関シテハ部令第四号ヲ以テ金庫ハ当分ノ内歳入歳出ニ限リ之ヲ処理スルコト、第一銀行ハ京城支店ヲ以テ中央金庫トシ其他ノ支店若クハ出張所ヲ以テ支金庫トスルコト、京城支店支配人ヲ以テ金庫出納役トシ、其他支店支配人若クハ出張所主任ヲ以テ金庫出納役ノ代理人トスルコト等ヲ規定セラレタリ、即左ノ如シ
　　部令　第四号（光武九年六月二十四日）
 - 第16巻 p.198 -ページ画像 
　　　　金庫事務処理順序（訳文）
第一条　金庫ハ現今間歳入歳出ニ限リ此ヲ処理セシム
第二条　第一銀行京城支店ヲ以テ中央金庫トシ、其他ノ支店若クハ出張所ヲ以テ支金庫トス
第三条　京城支店支配人ヲ以テ金庫出納役トシ、其他ノ支店支配人若クハ出張所主任ヲ以テ金庫出納役ノ代理人トス
第四条　中央金庫ハ所属各支金庫ヲ統轄シテ此ヲ監督ス
第五条　中央金庫ハ所属書式第一号甲見様ニ其他ノ支金庫ハ同乙見様ノ印章ヲ設ク可シ
第六条　金庫ノ出納ハ休日ヲ除クノ外ハ、上午九時ヨリ下午三時内トス、但土曜日ハ正午ヲ限リ閉鎖ス
　各庁ノ要求ニ依リ臨時急速ノ支撥ヲ要スル時、又納期ニ際シ領収金輻湊スル時ニハ前項開庫時間外ト雖モ之ヲ処理スルヲ得
第七条　金庫ニ於テ支撥上照較ニ供スル印鑑ハ各庁ヨリ立即関係金庫ヘ送交ヲ受クル者トス
第八条　金庫ニ於テハ納人ヨリ納入告知書ヲ添付シ現金ノ納付ヲ受ケタル時ハ、此ニ接続セル領収証書等ニ畢捧シタル旨及金庫名ヲ記入シ執務者ノ印ヲ捺シ此ヲ納人ニ交付シ、畢収通知書ヲ歳入徴収官ニ送交ス可シ
　収入官吏ヨリ現金給付書ヲ添付シ現金ノ給付有リタル時モ亦同シ
第九条　中央金庫ニ於テハ度支部大臣ヨリ支撥予算若クハ其更定計算書又ハ年度開始前支撥ノ令達ヲ受タル時ハ、其金額ヲ支出簿ニ登記シタル後此ヲ所属各支金庫ニ配付シ、所属各支金庫ハ之ニ依リ其金額ヲ支出簿中予算額欄内ニ登記スベシ
第十条　金庫ニ於テハ出給命令官ヨリ通知出給命令書若クハ集合出給命令書ノ送付ヲ受ケタル時ハ、左開事項ヲ調査ス可シ
　一、該命令書ノ式様ニ相左与否
　二、該命令書ノ金額ヲ支撥予算ノ残額ト照合シ支撥予算各項ノ金額ニ超過与否
　三、集合出給命令ノ金額ハ該命令書ニ添付シタル各債主ニ金額姓名表ノ金額ト相左与否
第十一条　出給命令書ヲ持来シ現金ノ支撥ヲ請求スル者有ル時ハ、金庫ハ其通知出給命令書ニ対査シタル後現金ヲ交付ス可シ
　集合出給命令書ニ対スル出給命令官ノ通知書ヲ持来シ現金ノ支撥ヲ請求スル者有ル時ハ、金額姓名表ニ対査シタル後現金ヲ交付ス可シ
第十二条　金庫ニ於テ定額還入ノ為メ返納人ヨリ返納告知書ヲ添付シ現金ノ納付有リタル時ハ、該返納告知書ニ接続セル領収証書ニ畢収シタル者ト及金庫名ヲ記入シ処理者ノ印ヲ捺シ此ヲ返納人ニ交付シ通知書ハ出納命令官ニ送交ス可シ
第十三条　金庫ハ毎年度ノ通知出給命令書若クハ集合出給命令書ニシテ翌年度八月三十日内ニ歳出金トシテ支撥ノ計算ヲナシ得サル者ハ当該年度ノ支撥未勘金トシテ推移整理ス可シ
第十四条　金庫ハ左開帳簿ヲ設ク可シ
　一、現金受撥簿
 - 第16巻 p.199 -ページ画像 
　二、歳入内訳簿
　三、歳出内訳簿
　四、支出簿
　五、歳出支撥未勘推移金内訳簿
　中央金庫ニ於テハ所属各支金庫ヨリ毎月提出スル報告ニ依リテ支金庫ノ処理スル収支額ヲ直接処理ノ条ト区分シテ同一帳簿若クハ同一式様ノ他帳簿中ニ登記スルノ外、特ニ左開帳簿ヲ備フ可シ
　六、歳入科目別整理簿
第十五条　現金受撥簿ハ各証憑（中央金庫ニ在テハ計算報告ヲ含ム）ニ依リ収支金額及ビ事由ヲ登記ス可シ
第十六条　歳入内訳簿ハ各年度毎ニ此ヲ備ヘ、各主管庁毎ニ歳入徴収官ヲ区分シ、更ニ各科目ヲ細別シテ其収入額ヲ登記ス可シ
第十七条　歳出内訳簿ハ各年度毎ニ此ヲ備ヘ、各主管庁及各出給命令官毎ニ細別シテ支撥額ヲ登記ス可シ
第十八条　歳出支撥未勘推移金内訳簿ハ毎年度毎ニ区分シ、尚且各主管庁及出給命令官毎ニ細別シテ各証憑ニ依リテ支撥額ヲ登記ス可シ定額還入アル時ハ返納告知書ニ依リ其金額ヲ朱書ニテ現金支撥ヲ控除ス可シ
第十九条　支出簿ハ各年度経常部・臨時部毎ニ此ヲ備ヘ、各主管庁及各出給命令官毎ニ各款項ヲ区分シテ支撥予算若ハ其更定計算書ト又ハ年度開始前支撥ノ令達ヲ受ケタル時ハ其金額ヲ記シ置キ、出給命令官ヨリ通知出給命令書集合書ヲ受領セル時毎ニ出給命令書受領畢額ヲ登記ス可シ、定額還入アリタル時ハ返納告知書ニ依リ其金額ヲ朱記シテ出給命令書受領畢額ヲ控除ス可シ
第二十条　歳入科目別整理簿ハ中央金庫ニ於テ其直接処理ニ係ル歳入金ト並其所属各支金庫ノ処理ニ係ル歳入金ヲ各科目毎ニ毎月集計シテ登記ス可シ
第二十一条　中央金庫ニ於テハ其直接処理並所属各支金庫ノ処理シタル収支ノ報告表ヲ翌月ニ調製シテ此ヲ度支部大臣ニ提出ス可シ
第二十二条　支金庫ハ毎月其処理ニ関スル収支金ノ報告表ヲ翌月三日内ニ調製シテ此ヲ中央金庫ニ送付スベシ
第二十三条　金庫ニ在ル冊簿ノ式様其他文書ノ整理方法等ハ金庫出納役此ヲ定ムベシ

韓国ニ於ケル第一銀行　第一銀行編　第三二〇―三二一頁明治四一年八月刊
　○第八章　韓国国庫金ノ取扱
　　　　第一節　会計制度ノ改正
○上略
　　部令第二号（光武八年十二月三十日）
　　　　金庫出納役設置ノ件（訳文）
第一条　度支部ニ金庫出納役ヲ特置シ、国庫金ノ出納ヲ管掌セシムル事
第二条　金庫出納役ハ本大臣ノ命令ヲ承ケ、一切職務ヲ執行スル事
第三条　国庫金ノ収納儲蔵ノ為メ金庫ヲ設置シ、本部或中央地ニ置ク
 - 第16巻 p.200 -ページ画像 
モノハ、本金庫或ハ中央金庫ト称シ、行政ノ便宜ノ為メ各地方ニ置クモノハ支金庫ト称スル事
第四条　本令ヲ実施スル以前ハ、本部出納局ニ置カレタル金庫課ヲ以テ此ノ職務ヲ執行セシムル事
○中略
　　　　度支部大臣ト公使及顧問トノ協議案
一、本金庫ハ元本国中央銀行建設予定ノ場所ニ開設スル事
一、金庫ハ度支部ニテ営造スル事
一、金庫設置以前ハ度支部出納局ヲ以テ之ニ充ツル事
一、金庫管理者ハ勅任一人・奏任五人ヲ以テ定ムル事
一、金庫出納役ハ第一銀行幹事人ニ委任シ、収入支出ヲ管掌セシムルト雖モ、金庫官吏監督スル事
一、支金庫モ第一銀行幹事若干人ニ委任スルモ、金庫官吏監督スル事
一、本国銀行ガ漸次拡張スレバ、金庫事務モ亦宜シク協議シテ処理スル事
　　　○第一銀行ハ韓国総支店ヲ中央金庫トシ各地支店・出張所ニ支金庫ヲ設置シタリシガ、明治四十一年一月度支部ト協議ノ上、代理契約ヲ訂結シ、農工銀行其他ノ銀行ニモ支金庫ノ事務ヲ取扱ハシムルコトトシ、明治四十二年十一月韓国銀行ニ譲渡シタリ、各地金庫中第一銀行支店・出張所ノ分ヲ左ニ表示ス。

　　　　　　金庫名　　　　　　　　開始年月日
　　　　　京城中央金庫　　　　　明治三十八年七月一日
　　　　　仁川支金庫　　　　　　明治三十八年八月十五日
　　　　　開城支金庫　　　　　　同右
　　　　　木浦支金庫　　　　　　同右
　　　　　群山支金庫　　　　　　同右
　　　　　釜山支金庫　　　　　　同右
　　　　　大邱支金庫　　　　　　同右
　　　　　平壌支金庫　　　　　　同右
　　　　　鎮南浦支金庫　　　　　同右
　　　　　元山支金庫　　　　　　同右
　　　　　城津支金庫　　　　　　同右
　　　　　馬山支金庫　　　　　　明治三十九年十月一日
　　　　　咸興支金庫　　　　　　同右
　　　　　鏡城支金庫　　　　　　明治四十年七月一日

東京経済雑誌　第四〇巻第一〇〇二号・第九四九―九五〇頁明治三二年一〇月二八日
　　　　○韓国貨幣制度整理に関する建議
仁川港日本人商業会議所にては、去五日臨時会を開き、左の建議を其の筋へ提出することに決したりと云ふ
　　　　韓国貨幣制度整理に関する再建議
　韓国政府が補助貨を濫発したる結果、著しく内外の通商を阻碍し、為めに各商人の困難甚しく、之が救済の急要なることは、嚮きに本会議所の建議する所にして、貴官の疾く了知せらるゝ事実なりと信す、然るに爾後の情況に徴するに、韓国政府に於ては補助貨濫発の悪結果に顧慮するの形迹なく、其通用価格の日々に低落するに拘は
 - 第16巻 p.201 -ページ画像 
らず、典圜局に於ては新に百万元以上の補助貨を発行し得べき原料の購入を英商に特約し、該原料は便船毎に輸入されつゝあり、想ふに今日迄に於てすら已に其影響尠しとせざるに、今後尚ほ補助貨を濫発するに於ては、其通用価格は愈々低落し、各商人の困難は益々増加すべきこと必至の事実にして、寔に痛心に堪へざる所なり、況んや新に英商と特約したる原料は悉く白銅にして、続々之を濫発するに於ては其通用価格の低落と物価の騰貴とは今日に幾倍するを測る可からざるをや、蓋し頃日来米穀取引の好況なりしと其他一二の原因とにより銅貨の需要を増加し、其需供の関係は銅貨の通用価格をして予想外の好価に恢復せしめたりと雖も、是れ一時的変象にして、之を授受するの危険は却て此際に多きを思考せしに、果せる哉数日ならざるに再び低落に向ひたり、左れば今後に於ても或る事情の下に多少其通用価格を恢復する場合なきを必す可からずと雖も、斯の如くして其通用価格の一昂一低頻々なるに於ては、該貨の授受は毫刻も安心を得ず、随て根本的整理の法にして立ざる以上は、一時的恢復の如きは偶々経済界の秩序を擾乱し其危険を増しこそすれ決して市場を利すること非るは知者を俟て後之を知らざるなり、熟熟案ずるに韓国の貨幣制度を整理するは素と其道なきにあらざる可しと雖も、仮令如何なる整理法を採用するに於ても、一方に於て悪貨幣を濫発するに於ては其整理の道は到底立つ可らず、之を以て本会議所は嚮きに根本的貨制整理の一方法として、葉銭鋳潰の議を案出せりと雖も、韓政府に於て整理の意なく、唯銅貨のみを濫発するに於ては、更に応急の策を求めざる可からず、依て念ふに此際韓政府をして銅貨の発行を中止せしむるは其急に応するの一策にして、亦他に良策なきを信ず、是れ本会議所か重ねて貴官に建議する所以なり、仰き願くは貴官能く方今の情況を深察せられ、速かに韓政府に勧告して先づ補助貨幣の発行を中止せしめられんことを、玆に本会議所の決議を以て謹で及建議候也

東京経済雑誌　第五一巻第一二七三号・第二四三―二四四頁明治三八年二月一八日
　　　　韓国の貨制整理
韓国には貨幣条例ありと雖、其の規定に基きて製造せられたる貨幣の流通するものなし、即ち法律上に於ては韓国は金貨本位国なりと雖、実際取引に使用せらるゝ貨幣は白銅貨なり、是に於てか白銅貨の下落甚しくして、人民は之に苦めり、故に韓国に於ける貨制整理は、恰も下落せる兌換紙幣を銷却交換して、本位貨幣を製造し、之に対して兌換紙幣を発行するが如し、随ひて整理の目的を達せんと欲せば、先づ資金を調達せざるべからず、然るに従来の改革を見れば、資金を投ぜずして却て利益せんことを目的とせり、是に於てか白銅貨の如き定位貨幣の発行益々増加して、貨制は愈々紊乱せしなり、先に目賀田顧問の韓国に赴任するや、氏は鋭意韓国の財政を整理することに就て画策する所あり、其の結果として来る六月一日より貨幣改革条例を実施することとなり、現在の貨幣条例に準拠し、本位貨幣を金とし、従前発行の貨幣は新貨幣に交換又は回収することとなれり、其の手続左の如
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し
　旧貨銀一両（銀二元亦同じ）は金貨一貫に相当の比価とし、政府の便宜により漸次交換又は回収すること
　旧白銅貨幣の交換及び回収は、光武九年七月一日より開始すること旧白銅貨幣の交換終了期限を満一ケ年以上とし、度支部大臣の便宜によりて定むること
　旧白銅貨幣交換期限後は、其の通用を禁止すること、但し通用禁止後六ケ月間は公納金に使用するを得ること
之が交換資金は我が第一銀行京城支店より、一ケ年六朱の利子にて三百万円を借入れて之に充つることと為し、更に其の三百万円を第一銀行京城支店に交付して、貨幣整理に関する事務を執行せしむるの仕組なり、韓国政府と第一銀行京城支店長との間に締結せられたる契約は左の如し
　　　○契約、前掲（第一八四頁）ニツキ略ス。
又第一銀行は韓国に於ける中央銀行として、韓国の国庫金を取扱ふこととなれり、而して第一銀行は此の業務拡張に応ずる為めに従来の資本金五百万円に更に五百万円を増加し、一千万円と為すことに決し、既に株主総会の議決を経たり
斯の如くにして韓国の貨制整理は其緒に就くべし、今や之に反対して第一銀行との契約を取消さしめんとするの運動韓国に起れるが如しと雖、是れ固より意に介するに足らざるべし、蓋し此の貨制整理の如きは韓国として一日も速に遂行せざるべからざる重要の国務にして、而して其の韓国政府を利益すること決して遠きにあらざるべし、夫れ韓国は貨幣整理の為に三百万円の負債を起し、十八万円の利子を負担すと雖、第一銀行か発行せる紙幣にして広く通用せらるゝに至れば、其の利益は韓国政府に分取すへきものなるを以て、右三百万円の負債は永久無利子たらしむることを得べきのみならず、更に発行税を課することを得べし、是れ韓国の為に大利益ならずや、而して韓国々庫を我か銀行に掌握するは、日韓の関係を親密ならしめ、適切ならしむるに於て大功あるや固より論を俟たず、余輩は目賀田顧問計画の其の当を得たることを認め、日韓両国の為に之を祝せずんばあらざるなり

東京経済雑誌　第五一巻第一二七九号・第五三〇―五三一頁明治三八年四月一日
　　　　第一銀行の韓国に於ける紙幣発行法
第一銀行の京城支店は、韓国の中央銀行として韓廷と契約を締結し、韓国貨幣整理事務、韓国官金取扱事務及び銀行券発行に関する業務を執行せることなるが、我が政府は去月廿四日勅令第七十三号を以て、第一銀行の韓国に於ける業務は、我が外務大臣及び大蔵大臣の監督に属せしむることと為し、紙幣発行法を規定せられたり
其の規定に拠れば、第一銀行は韓国に於て公私一切の取引に無制限に通用すべき銀行券を発行することを得べく、従来発行せる銀行券は此の勅令に依りて発行したるものと看做さるべし、抑々第一銀行の銀行券は、韓国に於て法貨たるべきことは、韓廷の認許せる所なりしにも拘らず、往々其の受授を拒否する者ありしが、斯く我が政府の勅令を
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以て規定せる以上は、何人と雖復た之を拒否することを得ざるべし
第一銀行が韓国に於て発行したる銀行券は、韓国各支店及び出張所に於て、営業時間中何時にても通貨を以て引換へざるべからず、而して其の準備の割合は左の如し
　保証準備（国債証券・商業手形其他確実なる証券）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　円
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　一〇、〇〇〇、〇〇〇
　正貨準備（金貨・金銀地金及び日本銀行兌換券）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　前項一千万円以上全額
　銀地金の割合　　　　　　　　　引換準備総額の四分の一まで
即ち第一銀行は一千万円までは保証準備を置きて銀行券を発行し、其の以上は発行高と同額の正貨準備を置かざるべからず、而して正貨準備中に日本銀行の兌換券を加へたるは奇異の感ありと雖、第一銀行の銀行券は、必ずしも金貨と引換ふるを要せず、通貨と引換ふれば可なるものにして、其の通貨中には韓国の貨幣のみならず、我が金貨及び兌換券をも包含すべきことを思へば毫も怪むに足るべからざるなり
経済上の景況に拠り、銀行券の発行を必要とする場合、即ち恐慌の襲来せんとする場合には、主務大臣の指定せる条件に依り、前記規定の外更に銀行券を発行することを得べし、而して此の場合に於ても、将た保証準備に対しても、其の利益を分取せらるゝこととなし、故に第一銀行は鋭意銀行券の流通を務むべく、而して其の広く通用せらるゝに至らば、独り第一銀行の利益たるべきのみならず、玆に韓国の幣制確立して官民其の恵に浴すべきなり

東京経済雑誌　第五二巻第一三一二号・第九八八―九九二頁明治三八年一一月一八日
　　　　韓国財政整理（上）
　我大蔵省の公示せる現況報告左の如し
　　　　概説
韓国財政の整理は今や僅に着手せられたるに過ぎざるを以て未だ其成果の如何を知ること稍や難きの感なき能はずと雖も、輓近日韓両国の関係益々緊切を加へ、其交通及び貿易は愈々密接し韓国に於ける経済及び財政上の変革は直に其影響を彼我貿易上に及ぼすを以て、玆に昨三十七年十月以来財政及経済上着手せられたる事項を摘録し以て韓国の現状を知らんとするの資に供せんとす、由来韓国財政の如く紊乱を極めたるもの其例少なく、唯だ収歛に亜ぐに収斂を以てし、産業衰頽し民力疲弊し終に国力の振はざる今日の如きに至れり、而して其原因たるや上下官民を通じ国家に対する誠意の欠乏に在るは言を俟たずと雖も、是等社会的原因を除き専ら財政制度上不備なりし主要たる原因を数ふれば、（一）宮中及び府中の混同（二）貨幣の紊乱（三）歳出の濫発及び歳入機関の不整頓なり、而して積弊は一朝にして抜く可からず、殊に理財の観念全く欠乏し只管旧慣を墨守し外形の精美を重んずるの国情なるを以て此感情を害せず、然かも緩急を計り漸を以て其整理を期せざるを得ず
　　　第一　貨幣に関する事項
　　　　（一）貨幣整理
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韓国は其名に於て銀本位制なりしも其実に於ては本位を有せずして葉銭及白銅の二種専ら流通し、慶尚・全羅両道、江原道の一部及咸鏡道には葉銭流通し其他の地方は白銅貨の流通区域なり、而して葉銭の通用価格は需要供給の関係によりて多少の高低をなすと雖も固と其実価を標準となすが故に貨幣として不便なるものなりとは称すべきも、未だ必しも悪貨となす可らず（葉銭は諸種ありと雖も大小精粗を問はず同一価格なり）反之白銅貨は、銀本位貨の補助貨として発行せられしも、偶々其実価の差額大にして鋳造の利益あるを見るや、政府は其性質の如何を弁ぜず、濫りに鋳造益金を利せんとして盛に之が発行を為し、従て漸次其声価低落し殆ど二分の一以下に至れり、而して斯く濫発の為め鋳貨の精巧を欠くに至るや私鋳偽造滔然として起り、貨幣の信用は殆ど地に落ち物価の変動極まり無く、之れが為め財政及経済上に及ぼしたる影響は甚だ深酷を極む、固と財政の整理は経済を律正し其健全を図るより急なるは無し、即ち貨幣の整理及び金融機関の設備は一日も忽諸に付す可からず、玆に於てか客年十二月に於て先づ貨幣の整理及び中央金融機関の設定並に金庫の設立に着手せり
是より先き白銅貨濫鋳の泉源たる典圜局を閉鎖して貨幣濫発の根元を絶ち、且つ貨幣整理の先づ着手せらる可きを中外に表彰し、新たなる計画に対して新たなる信用を求むるを期せり、恰も宜し光武五年発布の貨幣条例は金貨本位制にして、且つ国際貿易上最も密接の関係ある我国貨幣条例と殆ど同一にして之を施行するを以て至当なりとし、本年一月勅令を以て本年六月より之を実施する旨を公布せり
之と同時に第一銀行を以て中央金融機関として其従来発行せし銀行券を以て公私の取引に用ふることを公認し、一面に於て之を以て本位貨幣に代はる可き兌換券の効力を有せしむると同時に日本貨幣の流通を公認したるが故に、該銀行券を以て支払はる可き日本銀行兌換券は自然韓国本位貨と同様の地位に於て流通を為すこととなれり、是に於てか韓国貨幣は全く日本貨幣と同一の性質を有することとなり、一方に於て貨幣本位の確立と共に他方に於て貿易及び交通上全く墻壁を存ぜざるに至り、内外経済上至大の便益を得るに至れり
該計画を実行するが為めに従来価格低落し、殆んど其底止する所を知らざりし旧白銅貨を存するの将来徒に混雑を招き、且つ警察権の普及せざる国情に於ては貨幣の鋳造は一層精密になすに非らざれば偽造変造の弊相亜で起るを慮り、終に一定の期限を定め其流通を杜絶することゝし、本年七月一日より其交換を開始すると共に政府に収納せし旧白銅貨は凡て之を潰鋳することとし、全く其跡影を止めざらしむるを期せり（白銅貨交換に付ては次項に記す）葉銭は必ずしも悪貨幣とは称す可からず、況や韓国現在の経済程度に於ては寧ろ準補助貨として其流通を認るを以て適当なりとす、唯現在の流通額夥多なるを以て其減少を図るを要す、故に政府に収納したるものと雖も粗悪なるものは全然潰鋳し其然らざるものは再び流通をなさしむるの計画なり、殊に所謂白銅貨地なれば白銅貨以下の通貨なきが為めに日常の小取引上不便尠からざるにより、葉銭中性質良好なるものを該地方に散布するを要す
 - 第16巻 p.205 -ページ画像 
赤銅貨は其鋳造粗悪なりと雖も其発行極めて少し、僅に京城及び其附近に流通するを見るのみ、故に新青銅貨幣の発行を俟て其還収を図るものとす
其他旧銀貨の発行せられたるものありと雖も其額極めて少なり、而して新条例の規定によりて旧銀貨の表価は実価以下なるを以て、潰鋳又は蔵匿せられ自から整理せらるゝものに属す
貨幣整理の計画の大要は右の如し、而して旧白銅貨の交換は良好なる経過を以て多額の引上を為すを得て京城・仁川・平壌の如き市場に於ては唯韓人の日常の用に供するものを剰すに過ぎず、尤も地方に於ては未だ不尠の額を存す可しと雖も之等は来年五月を以て終了する収税より殆ど其大部分を還収するを得可し、此故に今後交換及還収の進捗を図らんとせば勢ひ小補助貨の発行を必要と為すに付き、貨幣法を追加し本年十月を以て銀貨十銭・青銅貨一銭及び半銭の鋳造に着手せり案ずるに小補助貨幣の発行あるに至らば旧白銅貨は市場に於ては殆ど之れを見る可からざるに至る可し
　　　　（二）白銅貨の交換
白銅貨交換の為め本年七月一日先づ京城交換所を開始し、一口千元以上一万元以下のものに限り交換請求を収受せり、然るに請求者甚だ多く開始後僅かに六日にして已に要求額七百三十五万元に達せり、当時の事業施設にて一日鑑定額四万元の予定なりしを以て此請求額のみにして優に本年中の鑑定資料に充当して猶余ありとす、故に一時交換請求の収受を停止せり、之れと同時に他方に於ては専ら事業設備の拡張を企劃し、一日十万元内外の鑑定を了すべき施設を為し、七月中旬より之を実行し兼て従事者を督励し専ら事業の進歩を期せり、是に於て最初本年中の鑑定に充当すべき資料も八月二十八日に於て総て之れが鑑定を了せり、当時の成績左の如し

是時に際し既収受の交換要求額は八月末に於て鑑定を了すべき見込ありしを以て、更に告示を発し九月一日より進んで十六日の収受を開始せり
十月一日より一口の交換請求金額の制限を撤去し、小口の請求に応ぜり、蓋し京城に於ては当時已に大数の交換を了し、其請求の甚だ微少なりしを以て業務も漸次閑散の傾向ありし、依て一方には機関の縮少を図り一方にて旧白銅貨の蒐集を期し以て現今に至れり
是より先き漸次地方交換所の開始を必要とせしを以て更に左の四ケ所に之を開始せり
　仁川　開始期　七月廿二日　　鎮南浦　同　　九月一日
　平壌　開始期　七月廿五日　　群山　　同　　九月一日
今各交換所に於ける十月十六日現在の事業成績を掲ぐれば左の如し
 - 第16巻 p.206 -ページ画像 
　　　　自七月一日至十月十五日旧白銅貨交換成績表

　　　第二　金融に関する事項
　　　　（三）金融機関の整備
国民経済の発展上整備せる金融機関の必要なるは言を俟たず、而して当国従来之が設備を欠けり、偶第一銀行が曩に支店を開設し銀行券を発行せしものありて当時尚其業域と設備微小なりしと雖然れども当国の経済上今後の要求に応ずるもの之を措て他に求むべからず、即ち同銀行を以て中央金融機関と為し、政府監督の下に兌換券の発行を公認し、同時に日本政府も特に勅令を以て韓国に於ける銀行券の発行を認め、之が監督を厳正にし、以て韓国経済上其中枢機関たる実を挙ぐることを努めたり
右の如く第一銀行を中央金融機関と為すと同時に韓国金庫事務を執行せしむ、随て当時同行の業域に於ては開港場以外にては猶普及せざるの憾あるにより更に左の出張所を増設せしめたり
　元山　大邱　開城　城津
蓋政府の金庫事務の執行を円満ならしむると共に金融の便を開き国民経済上の発展を助長するに於て尚其業務の拡張上幾多設備すべきもの少なからず、故に同時に他の銀行に於ても亦其業務を更張し、有無相補し気脈相通じ以て能く其金融機関たるの職責を全ふせしむることを要す、之より先韓人にて組織する天一銀行及漢城銀行ありと雖も資本寡少にして且其整理を欠き、理事者も亦其業務に暗く銀行の名ありて
 - 第16巻 p.207 -ページ画像 
其実なく従て信用なし、若し現況を以て推移せば蓋破錠《（綻カ）》の不幸に陥るやも保し難し、依て第一銀行をして之が扶掖に努めしめ、漢城銀行の如き已に其整理の大略を結了し、今将に天一銀行の整理に着手せり、蓋此二銀行の整理にして完了せば、第一銀行監督の下に於て該二銀行を通じて韓国小商人に資本融通の路を開くを得て其発達上裨益すること尠なからざるべし
　　　　（四）共同倉庫会社の創設
商民を救済するに方り、自から其方法を選択する必要あるは論を俟たず、濫りに資金を商民の集団に交付するが如きは散漫に分配を為し商業資金に使用せず、徒らに争論を開き争擾を醸すに過ぎず、啻に救済の効なきのみならず寧ろ其困厄を甚うするに止まるべきのみ、若し如斯くんば這般皇室が特に内帑を貸下して救済を企劃せられたる本旨ならんや
共同倉庫の用たるや商品其他の物件を保管し之に対して預証券を発行し、之を以て売買を為し又は担保に供して金融の便を得せしむるに在り、商業及び金融の機関として共同倉庫の必要なることは今玆に呶々するを須たずと雖も、従来京城内には此必要の設備を欠き商民間其不便を感ずること久しかりき、今回布木廛・米廛等有力なる商民を集め倉庫会社を設立せしめ、下賜金の一部を割いて之れが補助に充てんとす、庶幾くば商業及金融の発達に一生面を開き、商民永く之に依りて其恩沢に浴することを得べし、下賜金使用の方策として蓋し最も恰当のものたることを信ぜんと欲す
会社は普通倉庫業の外輸入手数未済の貨物を保管する為め保税倉庫に関する業務を営むことを得せしめたり、是亦当国に在りて必要の設備に属し、会社をして之を兼営せしむるを便とすべし、其他会社は其保管する物件に対し貸出を為し、倉庫業の外金融の便を図るものとす、蓋し当国の如き経済に関する法制備はらずして対人的信用制度全く缼欠し、且つ金融機関の整備せざる国に於ては宜敷物上担保の方法に拠り自から金融を計らざる可らず
此等の業務を営むに方り政府は一方会社に対して諸種の保護を与ふると同時に他方周密の監督を加へ、又営業に関し指揮を与ふるの権を留保せり、是れ商民未だ其業務に慣れず政府の保護監督に依るにあらざれば到底其好果を挙くること困難なるべければなり
　　　　（五）約束手形条例及び手形組合条例の発布
従来商人間に於て音票なるものを発行し金融の便に供せりと雖も、其形式極めて簡易にして単に巾一寸長五六寸乃至七八寸の唐紙に金額と払渡月日発給人の姓或は姓名のみを記載し、図章を押捺したるものを縦に半切し、之を払受人及発給人相互に納め置くものにして、此手形を持参する者には何人たるを問はず其の切れ目を合せて支払ふことゝなり居れり、而して信用ある人の発せる手形は恰も紙幣の如く輾転流通し其金額の如きも多きは手形一枚にして、其額数万元のものさへあり、其形式の不完全なるにも拘はらず比較的其授受の容易にして流通の円滑なること殆んど驚くに堪へたり、然るに因襲の久しき漸次種々の弊害を醸し、無制限に之を濫発して融通の具となすに至れり、此を
 - 第16巻 p.208 -ページ画像 
以て一朝今回の如き経済界の変動に因り現金の取立に遭うや、内に引換の準備なく外に商品の担保とすべきなく店舗を鎖し支払を停め曳ひて一般の恐慌を惹起すに至るは固より当然の結果と云ふべきのみ、手形の濫発及不整理は実に今回商民困厄の一大遠因を為せりと云はざるべからず、玆に約束手形条例及手形組合条例を発布し、一方手形に関する規律を設くると同時に手形に関する争訟は手形組合に於て之を審判せしむるの制を創めんとする所以にして、尚手形条例が其手形組合員に限り新法に依る手形を発行することを許し、而して組合員相互の制裁と監督と相待つて厳に手形の信用を維持せしめんとするもの、是れ手形の如きは其性質拘束に失するも、寧ろ信用と確実とを旨とし初めて其本然の効用を発揮することを得べきものなればなり
今左に項を分ち新制の要領を説明せん
一、手形の金額は圜又は円を以て示し、光武五年勅令第四号貨幣条例に定めたる貨幣又は之れと同一の品位・量目・形躰を有する日本通貨若くは兌換券及銀行券を以て支払ふべく、旧貨幣及葉銭を以て支払ふことを得ず、而して本令施行前に発行せらるゝ旧貨幣及葉銭を以て計算する手形は当事者の合意に因り実物を以て其債務を完済するか、又は本令に依る約束手形を以て之を更改することを得せしめたり、従来貨幣価格の変動に因り手形債務に其影響を与へたること尠少ならず、手形流通の上に大なる障礙を為したりしが、新令に依る手形は此障礙を除去せんとしたるものなり

東京経済雑誌　第五二巻第一三一三号・第一〇三七―一〇四〇頁明治三八年一一月二五日
　　　　韓国財政整理（下）
　　　第二　金融に関する事項
　　　　（五）約束手形条例及手形組合条例の発布（承前）
二、本令に依る手形を発行するものは手形組合条例に依り組織したる手形組合の組合員に限るものとせり、是れ組合員相互の制裁と監督とに依り厳に新令に依れる手形の信用と確実とを保維せしめんとする趣旨に基づきたるものにして、手形条例と手形組合条例とは相依頼して其目的を達することを得べき所以なり
三、従来発行したる手形は無記名式にして其権利の譲渡は単に手形の授受のみを以て之を行ひ、所謂裏書に依りて之を譲渡することを認めず、従つて手形不渡の場合に於て譲渡人は之れが償還の義務を負担することなかりき、而るに新令は此等の諸点に改正を加へ必ず記名式たることを要すとなし、裏書に依りて譲渡し得るの制を定め、一朝手形不渡の場合は裏書譲渡人をして償還請求に応ずべきの義務を負担せしめたり、手形の振出人以外に手形上の債務者あることを認め、以て流通の円滑と支払の確実とを庶幾したるものなり
四、手形組合は手形の信用を維持し、且約束手形条例に遵由するを以て目的とし、組合員は厳に該目的に背反するが如き所為を為さゞるべきことを約せしめんとす、万一組合員にして組合の目的に副はざる場合は直ちに之を除名し、之を新聞紙に広告せしむるが如き組合員相互
 - 第16巻 p.209 -ページ画像 
の制裁と監督とは、手形の濫発を戒しめ其信用を維持するにも適当の組織たることを失はざるべし、其他組合は手形の取立を為し、手形の交換相殺を為し、若し又手形に関する争議ある場合は当事者の依頼に依り和解又は審決を為し得るの権限を認めたり、手形組合の活動し得る余地は決して狭少ならざることを知るべきなり
　　第三　行政整理に関する事項
　　　　（六）官制改正
韓国行政は其機関の組織に於て其行為の形式に於て稍具躰的なるが如きは蓋其外形のみ、内容を審査すれば徒らに複雑に過ぎ官吏の冗員多くして国勢の現状と一致せざるなり、故に財政を整理せんとせば勢ほひ行政を整理し官制を釐革するは亦た一の緊要事項なりとす、是れ財政整理に伴ひて官制改正の企劃を為せし所以なり、偶政府も此潮勢に駆られ官制釐正所を制置し、玆年三月漸く中央各部の改正官制の頒布を覩るに至れり、固より此改正たるや重に人員の減縮を為せしのみにして、機関の廃合、事務の整理の如き専ら行政改善を目的とする積極の施設は主として将来に譲り、唯歳計上の正鵠と会計の整理を為すに資するに止まれり、故に之れが為め歳計上剰余に属す可きもの僅に四万円内外に過ぎざるなり、今其廃局減員の状況を掲記すれば左の如し

　　　　　　局数　　勅任　　奏任　　　判任　　　計
　旧官制　　二四　　五〇　　三〇三　　三九八　　七五一
　新官制　　二〇　　四五　　一一四　　三六八　　五七一
　　減　　　　四　　　五　　一八九　　　三〇　　一八〇

　　　　（七）軍制改正
韓国軍隊の経費は経常歳出の殆んど半数を占めしも、日韓条約上国防上実力以外の負担をなすの必要なきに至り、終に一ケ年約一百万円を剰すの程度に於て軍制改正は実施せられたり、唯惜むらくは、改正の案は既に昨年末に成りて之れが実施は本年七月に至り、此間に於て歳出上無用の支撥を為せしことを恨む、今此改正上減縮したる軍隊は約左の如し

　　　　　隊数　　　将校　　　　下士卒
　減員　　六大隊　　三一一　　八、二一四
　　　　　三中隊

　　　　（八）俸給令改正
韓国財政の紊乱は主として官紀の振粛せざるに因る、官紀の振粛せざるは俸給の薄き亦其一因なり、蓋し当国官吏の俸給は輓近物価の騰貴に由りて其威信を保持し生計を維持するに足らず、俸給薄ければ廉潔を欠き廉潔を欠けば官紀を紊乱す、今漸く会計上の監督普及し、従来の不当収入の疑ひ従て杜絶せしにより終に増俸をなすの要あるに至れり、固より財政の窮乏は未だ劇かに此計画の実施を許すこと難かりしも、官吏の廉潔を促す上に於て誠に急務なりしに由る、故に歳計整理の行はれたる中央各部を先きにし地方及宮内府を後にせしも是れ整理の成否に由て遅速の差ありしに過ぎず、唯僅かに財源を探求し政費を節約して去六月官等俸給令を改定し、中央官吏・宮内官吏及武官の増俸を決行せり、今其新旧俸給の比較を掲ぐれば左表の如し、要するに判任官は概して二倍を増加し奏任以上も亦之に準ぜりと雖、多少程度
 - 第16巻 p.210 -ページ画像 
の降下する者なきにあらざる也
之れと同時に勤倹貯蓄の風を涵養するの必要を認め、議政府令を以て貯蓄規程を制定し、這般増俸に浴する官吏は一般に該規定に拠り貯蓄を励行せしめたり
　　　　勅任官（特殊の勅任官及宮内官を除く）

　　　　奏任官

　　　　判任

　　　第四　歳計整理に関する事項
　　　　（九）予算の編成
韓国政府には由来予算なし、蓋し輓近年々予算を以て歳計を公示すと雖も必竟唯形式に止まり、予算に関係せずして任意に収入し支出するの状態なり、又予算の編制上に於ても全然国費に属せざるものを編入し、款項の別亦其宜きを失し、計数の基礎たる貨幣の称呼を混合して計上し、甚きは年度開始後四五ケ月を経過して始て予算を発表するに至れり、故に本年度は大に之れが革新を図り、又年度開始前に必ず其発表を期せり、然るに各部要求書は僅に年度開始前二十日にして漸く度支部に送来し、且其要求額は誇張多大にして、一も信認す可きものなし、故に本年度の総予算は単に各部の要求額を査定するに止めず、進んで左の旨趣を以て之れが編成を為せり
　一、人員費は定員を基礎として一人当り平均額を定め
　二、物件費は各其所要定額を求めて単価に依りて算定し
　三、当然国費に属するものゝ外は全然之を排除し
　四、計数は凡て元を本位とし、金貨支出のものは一と二の比価を以て増差額を加計し
　五、不急不要の経費は一切之を削除し
　六、新事業は最も緊要なるものに限定し
　七、款項宜しきを得ざるものは之れを改訂し
以て各部の編成を了し、漸く前年十二月二十六日に至り之れが裁可公布を見るを得たり
唯歳入予算の編制に就ては毫も信憑す可き書類なきに由り不得止従来の歳入予算に由り些少の考量を加へたるに過ぎず、将来課税の基礎を確定し、且つ歳入決算の実況を知悉するを得る迄は到底正確なる予算
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を編成するや難しとなす
今之を前年度と対比し其総額を示すこと左の如し、元より前年度は元円混同せるを以て其真相にあらずと雖も、姑く本年度総額を還元して同等のものとなし之を掲示す
　　　　光武八年度

　　　　　　　　　　　　歳入　　　　　　　　歳出　　　　　　　　　　　　過不足
　　　　　　　　　　　　　　　　　元　　　　　　　　　　元
　総予算額　　　一四、二二四、五七三　一四、二一四、二九八　　　　　　過　二七五
　内金貨加計　　　　　　　　　　――　　　　　　　　　――　　　　　　　　　――
　差引　　　　　一四、二一四、五七三　一四、二一四、二九八　　　　　　過　二七五

　　　　光武九年度
　　　　　　　　　　　　歳入　　　　　　　　歳出　　　　　　　　　　　　増減
　　　　　　　　　　　　　　　　　元　　　　　　　　　　元
　総予算額　　　一四、九六〇、五七四　一九、一一三、六六五　不四、一五三、〇九一
　内金貨加計　　　　　八五五、〇〇〇　　一、七九〇、九五八
　差引　　　　　一四、一〇五、五七四　一七、三二二、七〇七　不三、二一七、一三三
　　備考　一元は金貨五十銭の割とす、故に本表総額の半数は日貨の金額に当る
　　　　（十）予算の実行
年度開始前に於て予算を発表し、収支の方針を明示すと雖も、従来予算を無視したる当国政府に在ては其実行の奈何は最も憂慮する所なり故に年度開始当時各部会計官吏を度支部に召集し、予算の方法を懇示し、予算の厳守す可く且つ予算なきの支出を禁止し、予算超過を予防して以て専ら従来の因襲を破壊し積弊を帰正せしむるを努むると同時に、一般の出給命令は凡て財政顧問部の証印あるものゝ外支払を厳禁せり、爾来不法支出は逐次其影を減退し、経費は漸を以て節約の実あるを観るに至れり、現況を以て推移すれば本年度の経常費は既定予算の範囲を超過することなきを期す可し、之を要するに各部共予算外支出の容易に認容せられざると共に濫費を節制し結局予算範囲に於て行動するの外なしとの観念は、一般に認識せられたるものゝ如し
　　　　（十一）国庫証券の発行
本年度に於て国債の償還を要するもの百四十三万七千余円にして、就中第一銀行の九十三万余円、経理院の二十五万円は其償還期限已に六月に迫れり、加之当時国葬費の残額三十万円、傭外国人の俸給・旅費其他臨時必要の経費を合して約二百万円の支出を要せり、然るに之れに応ず可き財源として歳出の節約す可きもの少なきは勿論、歳入の増加を予期すべきものなきを以て、其融通に使用する為めに本年六月国庫証券条例を発布し、国庫歳入を担保とし、年利七分、三ケ年据置後二ケ年間に随時償還の条件を以て、短期公債二百万円を第一銀行をして担当せしめ、東京に於て之を発行せり、是蓋し韓国募債の嚆矢なりとす、当時日露交戦中金融逼迫せしに拘らず募集額に対する約四倍余の盛況なりしは当国財政整理上大に多とする所なり、其概況左の如し
　　募集額　　　　応募価格　　申込額価　　　　　価格以上申込額　　価格申込額
　　　　　　　　　　　　円　　　　　　　　　円　　　　　　　円　　　　　　　　　円
　二、〇〇〇、〇〇〇　九五　八、四二九、四〇〇　四七五、四〇〇　七、九五四、〇〇〇
　　価格申込者に対する応募配当割合　申込額の二割
　　　　（十二）会計法規
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由来会計法規としては開国五百四年法律第二号の会計法、同年勅令第七十一号の収入条規、同第七十二号の支出条規ありて根本規定を為し其他各種の附属規程ありて、何れも我会計法規と殆んど其規定を同ふし、一見整備せるが如しと雖も、畢竟形を法規類編に止め常に筐底に埋没せられ更に実施の法力なく、又毫も顧みるものなく、当局者に於ても其存在さへも知る事稀にして、且法規中効力の有無疑はしきものなきに非らず、然れども尚且つ之をして円満に施行せしめらるゝときは決して現時の財政紊乱なかるべく、又当局者も従来の誄求を敢為することを得ざるべし、故に先づ其現時に於て尚ほ適用す可き条項は之れが励行を力め、且各種の補修規程を設け以て会計の例規を整へ、整理の要旨を確定し以て遵由す可き要目を明示せり、今其主要なるもの左の如し
　一、歳入歳出処理順序を定め、所属年度出納機関出納及整理の方法監督作用等を明劃にし、以て従来の不法徴求、各個意の収支を禁遏し、又従来当国にて支出上の最弊竇たる外画制度を廃止し、以て徴収の統一を期すると同時に支出の節度を図れり
　一、金庫事務処理順序を定め、歳入出の直接機関たる金庫事務を第一銀行に委托し以て中央地方の金庫事務を処理せしめ、各郡守より度支部に現金送付の煩を避けしめ
　一、駄価支給規程を定め、金庫送付の税金運搬費額を統一し、以て従来各郡守に於て実費の所要なきに拘らず予め徴税金額の幾部を控除し、私服したるの弊を防ぎ
　一、物品会計規程を制定し、政府所属の物品の範囲を明にし、其整理を期し、以て従来官私の区分を混同し私利を逞ふするの弊習を矯め
　一、政府の工事又は物品の売買貸借規定を設け、凡て政府の工事及物品の売買貸借は競争に附するを本則とし、請負人の資格を制限し、契約を厳明にし、保証金制度を設け、以て従来工事若くは物品の売買貸借上の奸曲の弊を匡し
　一、現金先授順序を規定し、庁費修繕費雑給雑費の中細微の費目に限り予算内に於て一ケ月の所要金額を予定し、現金前渡の途を拓き、以て行政現在の情況に応じ機宜に適せしむるを図り
其他各部会計官吏は節時召集訓戒して其廉潔心を涵養すると同時に、事務執行の方法を懇示し、一方観察使に対しては其歳入事務監理庁とし又出給命令官としての職務上の注意、及郡守に対しては其歳入徴収官とし又収入徴収官としての職務上の注意を訓示し、以て専ら歳入歳出処理順序の円満なる施行を期せり、地方人民に対しては納入告知書を用ゐず、又郡守府尹等の外収入官吏たる資格なき者にして納税を命ずるも決して納付するに及ばず、若又納付するも其納付は当然無効に帰すべき旨を一般に公示し、以て不法徴税の弊を予防するを期せり
以上各項に叙述する所は韓国財政整理の第一期にして、僅かに整理の形勢を定め企劃を確立したるに過ぎず、況んや収入の状態は果して予測の如くなるべきや否やは全然未確の問題なりとす、然れども苟くも財政の余裕確実なる見込あるに於ては、啻に消極的の施設に止まらず
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積極的に進んで国利民福を増進すべく百般の施為を期せり、現に農事試験場の創設、棉花の栽培、関税倉庫の設置、学政の改善、衛生事業の如き已に之が着手を為せり、然れども猶内に於ては収入の基礎を確定し、交通機関の整備、教育の施設、其他各種民業の発達を助長せしめ、外に於ては国際輸出入の発展を期し、関税を整理し以て大に当国国運の伸暢を期するは、蓋し之を整理の第二期に待たざるを得ざる所なりとす（完）

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冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。