デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治38年5月20日（1905年）

第一銀行、勅令第七十三号ノ趣旨ニ基キ、是日定款ヲ改正シテ韓国ニ於ケル営業ニ備フ。六月二日
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同国ニ於ケル支店・出張所ノ営業ノ種類及ビ方法ヲ定メテ、大蔵大臣男爵曾禰荒助・外務大臣男爵小村寿太郎ニ認可ヲ請フ。

東京経済雑誌　第五一巻第二一八七号・第九四八頁　明治三八年五月二七日
○第一銀行券規定　第一銀行は韓国に於て発行する銀行券に付き、左の如く定款を改定せり
　一当銀行は韓国に於て銀行券を発行す
　一銀行券は韓国支店出張所に於て、日本通貨を以て引換ふるものとす
　一当銀行券発行総高に対し同額の金貨・地金銀又は日本銀行兌換券を京城支店に置き其引換準備に充つべし、但銀地金は引換準備総額の四分の一を超過することを得ず
　一前条準備に依れる外、一千万円を限り国債・証券・手形其他確実なる証券を保証として銀行券を発行することを得
　一韓国市場の状況に依り主務大臣の認可を受けたるときは、前条の制限外に銀行券を発行することあるべし
　一引換準備に充つる地金銀は造幣相当以上の品位を有するものに限り、商業手形は二人以上の裏書あるものに限る
　一当銀行は韓国支店出張所の財産に限り、銀行券の所有者に対し、債権者に先ちて支払を為す義務あるものとす

銀行通信録　第三九巻第二三六号・第八〇三―八〇四頁　明治三八年六月
　　　　○第一銀行の韓国に於ける業務
株式会社第一銀行にては去る明治三十五年五月より韓国に於て一覧払手形を発行し来りしが、爾来其発行高は次第に増加して昨年末の流通高は三百三十七万千八百十八円の巨額に達せり
斯の如く銀行券の流通額増加せるのみならず韓国に於ける業務は愈々進歩し、特に日露事件開始以後に於て著しきものあり、本年一月に至りて該行は遂に韓国々庫金取扱の契約を為したるのみならず貨幣整理に関する事務を取扱ふことゝなり、其結果該行の銀行券は韓国に於て無制限法貨となれり、されば該行は本年一月二十八日の臨時総会に於て資本金を倍加して一千万円とし、又元山・平壌及大邱に出張所を設くることを議決し、愈々韓国に於ける業務を拡張することゝなれり
第二十一議会に於て外国に於ける銀行業に関する法律の協賛を得、同法律は三月十日法律第四十七号を以て公布せられ、尋で同月二十四日該法律に基きて勅令第七十三号を公布せられ、該勅令を以て従来の銀行券を認められたるのみならず、第一銀行の韓国に於ける業務に関し詳細の規程を設けられたり
以上は既に其時々記載する所ありしが、其結果第一銀行に於ては玆に再び定款改正の必要を生じ、五月二十日臨時株主総会を開き其決議に依り大に定款の改正を行ひたり
新定款に依れば第一銀行の韓国に於ける業務は普通銀行業務の外、従
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来の銀行券発行は勿論、韓国政府の委託に依り主務大臣の認可を受けて（一）韓国国庫金の事務（二）貨幣整理の事務及（三）公債の事務を取扱ひ、猶韓国政府の委託に依り主務大臣の認可を受けたるときは他の事務を取扱ふものとし、資本金の内三百万円を分ちて特に其資本金として、従来の京城・仁川・釜山三支店、元山・平壌・大邱・鎮南浦・木浦・群山六出張所の外更に開城・城津及清国安東県の三箇所に出張所を設置して都合三支店、九出張所とし、京城支店を以て総支店と為し以上各支店出張所及代理店を指揮監督せしむることゝし、毎営業年度、以上各支店出張所の損益勘定を集計し、其総益金より総損金を引去りたるものを利益金とし、其百分の五以上を特別積立金とし、少なくとも韓国支店資本金の半額に達するまで之を京城支店に積立つるの規程を設けたり
又銀行券発行の規程は勅令第七十三号に基きて定めたるものにして其条項左の如し
　　　○前掲（第二六一頁）ニツキ略ス。
因に記す、同行に於ては右定款改正と同時に新潟支店・長岡出張所を廃止し、新に下の関支店を設置することゝせり

渋沢栄一書翰　亀島豊治宛　明治三八年五月二二日　（亀島豊治氏所蔵）
「六月五日入」
貴方五月十日発御状十五日落手拝見仕候、養蚕方法調査之為農商務省より派遣技師ニ付而ハ夫々御心添可被下旨御回示承知仕候
銀行業務ニ付縷々御申越之御意見拝承仕候、可成丈持久之御意念ニて決而功を一時ニ競ふ之行為無之様呉々頼上候
興業会社之事務ニ付而も其中貴地ニ必要相生し候ハヽ、尾高等罷出可申、併目下ハ北部之経営ニ尽力致居候間、当分余り各地へ手を出し候事ハ有之間敷と存候
貴兄諸方御巡回之由拝承其御模様ハ其中報告書御送付被下度候
出張所改築之義ニ付御申越之趣承知仕候、右等ハ夫々役場状ニて御申出被下候ハヽ可成速ニ決定候様相運可申と存候
京釜鉄道会社開業式ニハ可成出張之心得ニ候処、御聞及之通り本行臨時株主総会を本月廿日ニ開会候都合ニ相成、其際ニハ是非老生出席之方可然と申事ニて終ニ京釜之方ニハ見合と申都合ニ相成候、併十月頃ニハ一遊相試度と今日より相考居候
貴地之前任者西川氏も此程出京、再三面会いたし、模様承及申候、同人も今日出立元山へ帰任之筈ニ御坐候
前陳臨時株主総会ニて定款も改正いたし、本行之韓国ニ関する経営ニ付而ハ種々決定いたし候、此上とも各支店及出張所之主任諸君ニハ飽迄御注意御精励相願候次第ニ御坐候、乍序此段申添候
右御答旁一書如此御坐候　匆々敬具
　　五月廿二日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　亀島豊治様
　　　　　　　　　拝答
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株式会社　第一銀行営業報告書　第一八期　明治三八年八月刊
　　　　株主総会
一、一月○明治三八年二十八日定時総会ニ於テ明治三十七年下半期営業報告書・貸借対照表・損益計算書及財産目録ヲ承認シ、同季利益金分配ヲ決議セリ
一、同日臨時総会ニ於テ資本金五百万円ヲ増加シテ総資本金ヲ壱千万円トシ、新株式ハ一月三十一日現在株主ニ対シ其所有株壱株ニ付新株壱株ヲ割リ当テ二月二十日限リニ申込ヲ為サシメ、四月十五日限リニ第一回払込金トシテ壱株ニ付拾弐円五拾銭宛ヲ払込マシムルノ件及元山・平壌・大邱ノ三地ニ出張所ヲ設置スルニ付之ニ伴フ定款改正ノ件ヲ決議シ、且取締役・監査役各一名ノ補欠選挙ヲ行ヒ取締役ニ土岐僙、監査役ニ尾高次郎就任シ、尚取締役・監査役ノ報酬改正及取締役佐々木勇之助ノ株式会社東京貯蓄銀行取締役兼任ヲ承認スルノ件ヲ決議セリ
一、五月二十日臨時総会ニ於テ増資株式第一回払込金トシテ壱株ニ付拾弐円五拾銭宛合計百弐拾五万円領収済ノ報告ヲ承認シ、更ニ新潟支店・長岡出張所ヲ廃止シ下関ニ支店ヲ、開城・城津及安東県ニ出張所ヲ設置スルノ件、並ニ三月二十四日発布セラレタル当銀行ノ韓国ニ於ケル業務ニ関スル勅令第七十三号ニ基ク定款改正ノ件ヲ決議セリ
○中略
　　　　営業景況
○上略　当季ニ於ケル当銀行ノ営業ヲ見ルニ戦局ノ発展ニ伴ヒ我国ノ韓国ニ対スル地歩ハ益々鞏固ヲ加ヘタルト同時ニ当銀行ノ韓国ニ於ケル業務モ大ニ拡張シ、一月廿四日ニハ韓国政府ヨリ同国貨幣整理事務及国庫金取扱ニ関スル一切ノ事務ヲ依托セラレ、同時ニ銀行券ハ韓国ニ於テ公私一切ノ取引ニ無制限ニ通用スルコトヲ公認セラレ、次デ三月二十四日ニハ当銀行ノ韓国ニ於ケル業務ニ関シ勅令ノ発布セラルヽアリ爾後当銀行ハ外務・大蔵両大臣監督ノ下ニ韓国ノ金融機関タルコトヽナリ、更ニ韓国財政上ノ必要ヨリ公債弐百万円発行ノ必要アルヤ六月二十四日ヲ以テ之カ募集ヲ引受ケ、東京ニ於テ之ヲ発売シタルニ七月ニ入リ募集ノ結果ハ応募額四倍以上ニ達シ非常ノ好況ヲ以テ迎ヘラレタルハ、独リ其取扱ヲ引受タル当銀行ノ栄トスル所ナルノミナラズ、我国民ガ刻下ノ戦局ニ処シテ尚綽々余裕アルヲ中外ニ表示セルモノト云フベシ、而シテ七月一日ヨリ実施セラレタル韓国貨幣整理ノ実蹟及国庫金取扱事務ニ関スル景況等ニ付テハ後半期ニ於テ更ラニ各位ニ報告スルノ機アルベシト信ズ
○下略

韓国ニ於ケル第一銀行　第一銀行編　第三五七―三六〇頁　明治四一年八月刊
　○第九章　韓国中央銀行トシテノ第一銀行
　　　　第二節　営業ノ種類及方法
明治三十八年三月二十四日ニ於テ本行ハ右勅令第七十三号ノ規定ニ拠
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リ韓国ニ於テ営ム業務ノ為メ資本総額ノ内特ニ金参百万円ヲ以テ其資本金ト定ムル件ヲ申請シ、同月三十日外務・大蔵両大臣ノ認可ヲ得、次デ韓国支店出張所ニ於ケル営業ノ種類及方法ヲ定メ、同年六月二日付ヲ以テ右両大臣ニ提出シ、同月二十七日之ガ認可ヲ得タリ
　　　　認可願
　当銀行定款第十五条及第十六条ニヨリ当銀行ノ韓国支店出張所ニ於ケル営業ノ種類及方法左ノ通相定メ施行致度ト存候間御認可相成度此段奉願候也
　一、諸預リ金
　　定期預金・当座預金・特別当座預金・別段預金・通知預金・公金預金ノ六種トス
　　但定期預金ハ三ケ月以上ノモノニアラザレバ取扱ハザルモノトス
　一、貸付金及当座貸越
　　貸付金ハ商品・有価証券其他確実ナル担保ヲ提供セルモノニシテ期限壱箇年以内ノモノタルヲ要ス
　　但韓国政府・居留民団ニ対スル貸付ハ此限ニアラズ
　　身元確実ニシテ特ニ信用アル者ニ対シテハ、取締役会ノ承認ヲ得テ無担保ノ貸出ヲ為スコトヲ得
　　商品又ハ有価証券ヲ担保トスルトキハ、別冊担保品取扱内規ニ拠ルモノトス
　　不動産ヲ担保トスルトキハ取締役会ノ承認ヲ受クルコトヲ要ス
　　但其不動産ハ居留地並ニ其周囲一里内及支店・出張所々在ノ市街地ニ於ケル土地及建物ニ限リ、担保価格ハ時価七掛以下ニシテ建物ハ火災保険ヲ附シタルヲ要ス
　　当座貸越ノ根抵当ニ対シテモ亦前諸項ヲ準用ス
　一、手形ノ割引及売買
　　割引手形ハ商業手形ニシテ振出人及裏書人トモ確実ノモノニアラザレバ之ヲ取扱ハザルモノトス
　一、為替・荷為替及代金取立
　一、有価証券・地金銀ノ売買及両替
　　但有価証券ノ売買ハ、取締役会ノ承認ヲ受クルニアラザレバ取扱フコトヲ得ズ
　一、金銀貨・貴金属・諸証券ノ保護預リ
　一、公債・社債ノ応募又ハ引受
　　前二項ハ取締役会ノ承認ヲ受ルヲ要ス
　一、社債及株金ノ払込又ハ利子及配当金ノ支払
　　但此契約ヲ為サントスルトキハ取締役会ノ承認ヲ受ルコトヲ要ス
　一、前各号ノ外運送保険及火災保険ノ代理取扱ヲ為スハ、韓国現下ノ状態ニ於テハ銀行業務ニ附帯スル事業トシテ之ヲ取扱フニアラズンバ韓国商業ノ発展及貿易ノ進歩ヲ阻害スベキヲ以テ、当分ノ間此二業務ノ代理取扱ヲ為スコトヲ得、其代理契約ヲ為サントスルトキハ取締役会ノ承認ヲ受クルコトヲ要ス
　　　　以上
　　明治三十八年六月二日
 - 第16巻 p.265 -ページ画像 
　　　　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　頭取　渋沢栄一
　　　　大蔵大臣　男爵　曾禰荒助殿
　　　　外務大臣　男爵　小村寿太郎殿