デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治39年4月21日（1906年）

是ヨリ先、日本興業銀行、韓国政府ニ金一千万円貸上ノ契約ヲ締結ス。第一銀行ハ同国ノ中央金庫タルヲ以テ之ニ異議ヲ唱ヘ、協議ノ結果両行共同ニテ之ヲ引受クルノ契約ヲ締結シ、是日栄一、第一銀行頭取トシテ日本興業銀行総裁添田寿一ト共ニ契約書ニ調印ス。

韓国ニ於ケル第一銀行　第一銀行編　第三〇三―三一〇頁明治四一年八月刊
　　　　第七章　韓国公債ノ引受
○上略
其後明治三十九年三月日本興業銀行ヨリ韓国政府ニ対シ壱千万円ノ貸上ヲ約シ、最初ニ五百万円ノ貸付約定ヲ締結スルヤ、韓国ノ公債発行ニ付テハ本行ハ同国ノ中央金庫タル立場ヨリ之レニ干与セザルベカラザルヲ以テ、日本興業銀行ハ本行ニ其承諾ヲ求メ来リシト雖モ、本行ハ韓国ノ中央金庫タル資格ヲ以テ同行ノミニ韓国ノ公債ヲ引受ケシムルコトヲ承諾セズ、依テ日本興業銀行ハ本行ト協議シテ右契約ヲ両行ノ共同ニヨリ成立シタルモノト見做シ、且ツ将来ノ五百万円ハ両行間ニ平分シテ引受クルコトニ決シ、同月十五日左ノ覚書ヲ取換ハセタリ
　　　　覚書
　一、契約ハ行掛ノ手続ニヨリ此儘調印スルコト
　一、右契約ハ日本興業銀行・第一銀行ノ共同ニヨリ成立シタルモノト見做スコト
　一、此際五百万円ヲ百万円ヅヽ五枚ノ韓国政府手形ニ作成シ、其期限一箇年・価格九拾円・年利六分五厘トスルコト
　一、右手形ハ第三条ニヨリ相当ノ時期ニ公債証書ニ改ムルコト
　一、将来ノ五百万円ニ付テハ両銀行ノ間ニ平分シテ引受クルコト
　一、第二条六号海関税ノ担保ハ既ニ設定セラレタルモノヽ次ニ位スルコト
　以上ノ主旨ニヨリ両行ガ協定シテ遂行スルコト
然ルニ右ノ貸上金ハ韓国政府ノ都合ニヨリ手形ヲ発行セズ、壱通ノ借入証書ヲ交付スルコトヽナリタルヲ以テ、両銀行ノ間ニ於テ更ニ協議ノ上、同月二十四日再ビ左ノ覚書ヲ取換ハセタリ
　　　　覚書
　一、借入証ヲ政府証券ト見做ス
　二、右証文ニ付第一銀行トノ間ニ債権譲渡ヲ内約ス
　三、公債発行ノ事ハ時機ヲ見テ日本興業銀行ヨリ請求ス
右ノ如ク両銀行ノ間ニ協議ヲ重ネタル所、其後此貸上金ノ為メニ韓国ヘ出張セシ日本興業銀行総裁添田寿一氏帰京シ、該貸上金ハ起業資金トシテ韓国政府ヘ対シ長期ノ貸上ヲ為シタルモノニシテ、其資金ハ差向日本興業銀行ノ資本ヲ以テ之レニ充テ、場合ニヨリテハ他日外国ニ於テ興業債券ヲ発行シテ之レニ充ルモノナルコト判明シタルニヨリ、
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本行ハ他日韓国政府ガ公債ヲ発行スル場合ニ於テ其半額ヲ引受ケ、募集ノ取扱ヲ為スベキコトヲ留保シテ左ノ契約ヲ訂結シ、本問題ヲ結了セリ
　　　　契約書
　明治三十九年三月十六日（光武十年三月十六日）ヲ以テ大韓国政府ト日本興業銀行トノ間ニ成立シタル起業資金借入条約ハ、別紙覚書ニ拠リ処理スベキモノナレドモ、双方ノ便宜ニヨリ長期貸付ナル間ハ悉皆日本興業銀行ニ於テ出資スルニ付、同条約第三条ニ基キ大韓国政府ガ借入証ト引換ニ無記名公債証書ヲ交付シタル場合ニ関シ、株式会社第一銀行ヲ甲トシ、株式会社日本興業銀行ヲ乙トシテ左ノ事項ヲ契約ス
　第一条　大韓国政府ガ無記名公債証書ヲ乙ニ交付スル場合ニ於テハ甲ハ其半額ヲ引受クルモノトス
　第二条　前条ニヨル無記名公債証書ヲ市場ニ発売セントスルトキハ其価格・時期・方法其他之ニ関スル事項ハ凡テ甲乙協議ノ上共同シテ之ガ取扱ヲ為スモノトス
　第三条　前条ニ依リ売出シタル無記名公債証書ノ損益及売出ノ為ニ要スル経費ハ甲乙ニ於テ均分スルモノトス
　第四条　無記名公債証書ノ元利金ノ支払事務ハ甲乙協議ノ上協同シテ取扱ヲ為スモノトス
　第五条　乙ガ公債ノ元利金ヲ大韓国政府ヨリ受取リタルトキハ遅滞ナク其半額ヲ甲ニ交付スベシ、但実際支払ノ場合ニハ互ニ其過不足ヲ授受スベシ
　第六条　無記名公債証書ノ元利金支払手数料ハ各自ノ支払高ニ応ジ分配スルモノトス、但右ニ要スル共同ノ費用ハ平分シ其他ノ費用ハ各自ノ負担トス
　第七条　本契約記載ノ事項中大韓国当該官庁ニ於テ異議アルトキハ甲乙双方ノ間ニ於テ更ニ協定スベキモノトス
　右訂約ノ証トシテ此契約書弐通ヲ作リ、双方署名捺印ノ上各壱通ヲ領有スルモノ也
　　明治三十九年四月二十一日
　　　　　　　　　　　　　　　　株式会社第一銀行
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　頭取　渋沢栄一
　　　　　　　　　　　　　　　　株式会社日本興業銀行
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　総裁　添田寿一
而シテ本問題ノ基因タル日本興業銀行ト韓国政府ノ契約ハ左ノ如クナルヲ以テ参考ノ為メ玆ニ掲載ス
　　　　起業資金借入条約
　大韓国政府ヲ甲トシ、日本興業銀行ヲ乙トシ左ノ条約ヲ締結ス
　第一条　甲ハ農商発達ノ為メ壱千万円ノ資金ヲ乙ヨリ借入ルヽモノニシテ、乙ハ甲ノ請求ニヨリ其貸附ヲ承諾スルモノトス
　第二条　右壱千万円ノ中此際先ヅ五百万円ヲ左開ノ条件ヲ以テ借入ルヽモノトス
　　一、借入期日　光武十年三月（明治三十九年三月）
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　　二、利率　壱箇年千分之六十五即六分五厘
　　三、元金償還期限　拾箇年、但シ光武十年三月（明治三十九年三月）ヨリ五箇年据置キ、其以降五箇年間ニ償還
　　四、利子仕払月　毎年五月・十一月、但シ払込以後ノ端数利子ハ其払込アリタルトキヨリ最近ノ利子支払月ニ支払ヒ、元金償還ノトキハ其償還ノ月迄月割ヲ以テ支払フモノトス
　　五、元利金ノ支払ハ大韓国国税ノ収入金ヲ以テ優先ニ担保セラル
　　六、納入金額百円ニ付九拾円トス
　　七、元利金ハ日本貨幣ヲ以テ支払フモノトス
　第三条　甲ハ乙ノ請求アルトキハ、借入証ヲ無記名公債証書ニ製作シテ乙ニ交付スルモノトス
　　前項公債証書ハ額面価格ヲ以テ大韓国政府ニ対スル各種保証金ニ代用スルコトヲ得、且何等ノ名義ヲ以テスルニ拘ラズ、租税其他ノ公課ヲ課セラルヽコトナシ
　第四条　甲ハ元利金支払ニ関スル一切ノ事項ヲ乙ニ委任スルモノトス
　第五条　甲ハ利子支払ノ資金トシテ、半年分ニ相当スル金額ヲ毎年四月・十月ノ十五日迄ニ乙ニ交付スルモノトス
　第六条　甲ノ元金償還ノ場合ニ於テハ償還期日ヨリ一箇月前ニ其元利金ヲ乙ニ交付スルモノトス
　第七条　公債ヲ公衆ニ向テ発行スル時期・方法ハ乙ノ選択ニ任ズルモノトス
　第八条　公債元利金ハ乙ノ指定スル場所ニ於テ支払フモノトス
　　甲ハ公債元利金支払ノ手数料トシテ、元金ニ付テハ其支払額ノ千分ノ三、利金ニ付テハ其支払高ノ千分ノ五ヲ乙ニ支払フ可シ
　右訂約ヲ証スル為メ、此約定書日韓文弐通ヲ作製シ、双方署名捺印ノ上各壱通ヲ所持スルモノトス
　　明治三十九年三月十六日
　　　　　　　　　　　　　　株式会社日本興業銀行
　　　　　　　　　　　　　　　　総裁添田寿一代理
　　　　　　　　　　　　　　　　　　同行助役
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　岩井重太郎
　　光武十年三月十六日
　　　　　　　　　　　　　大韓国度支部大臣　閔泳綺
　　　　　　　　　　　　　政府財政顧問　　　目賀田種太郎

渋沢栄一　日記　明治三九年　（渋沢子爵家所蔵）
三月十五日　曇　軽暖　起床七時就蓐十一時三十分
○上略　午後四時阪谷大蔵大臣官舎ニ抵リ、韓国政府貸上金ノ事ニ関シ添田寿一氏ト談話ス○下略
三月十六日　晴　風　起床六時三十分就蓐十一時三十分
○上略　午前九時佐々木勇之助氏ヲ訪ヒ、韓国政府貸上金ノ事ヲ談シ、九時半理財局ニ抵リ、水町局長・添田寿一氏ト韓国政府貸金ノ事ヲ談シ電信発送ノ事ヲ協議ス○下略
 - 第16巻 p.310 -ページ画像 
　　　○中略。
四月十八日　晴　風　起床六時就蓐十一時三十分
起床後大蔵大臣及目賀田氏等ヘ電話ニテ公務ヲ照会ス○中略九時頃目賀田氏ヲ訪ヒ、韓国ニ関スル銀行要務ヲ協議ス、午前十時過大蔵大臣ヲ訪ヒ、韓国支店主任ノ事ヲ内話シ○下略
四月十九日　半晴　軽暖　起床六時三十分就蓐十二時三十分
○上略　午前十一時第一銀行ニ抵リ、要務ヲ処理ス、目賀田顧問来訪セラレテ韓国ニ関スル要件ヲ協議ス○下略