デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治39年6月8日（1906年）

韓国ニ於ケル第一銀行ハ勅令第七十三号ニヨリ外務・大蔵両大臣ノ監督下ニアリ且ツ韓国総支店ヲ設置スベカリシモ実施ニ至ラズ、是年五月ニ至リ始メテ京城支店ヲ陞セテ韓国総支店トナス。仍テ栄一、是日東京ヲ発シテ渡韓シ、総支店開設ニツキ尽瘁頗ル努ム。八月当行取締役市原盛宏総支店支配人トシテ赴任ス。

韓国ニ於ケル第一銀行　第一銀行編　第三六五―三七〇頁明治四一年八月刊
　○第九章　韓国中央銀行トシテノ第一銀行
　　　　第四節　総支店ノ制度
本行ハ前掲ノ勅令○明治三八年勅令第七三号及命令ヲ遵守シテ定款及行則ヲ改正シ、京城ニ総支店ヲ置キ、取締役一名ヲ在勤セシメテ韓国支店出張所ヲ統括シ、全ク従来ノ組織ヲ一変セリ、今行則ノ内総支店制度ニ関スルモノヲ掲グレバ左ノ如シ
　申合規則　第五条　京城支店ヲ韓国総支店ト称シ、前条ノ外ニ左ノ職員ヲ置ク
　　　　国庫部長
　　　　営業部長
　　　　発行部長
　　　　調査部長
　　　但各部長ハ韓国総支店正副支配人ヲ以テ之ニ充ツ
　同第十八条　韓国総支店支配人ハ韓国ノ営業事務・韓国国庫金取扱事務・韓国貨幣整理事務及銀行券発行事務ニ関シテ韓国各支店出張所ヲ統轄ス
　同第十九条　韓国総支店各部長ハ総支店支配人ノ指示ヲ受ケ其部ノ
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事務ヲ処理ス
右ノ申合規則第五条ノ分課ハ、明治四十一年三月韓国総支店事務規程ヲ定ムルニ際シ、営業部ヲ廃シテ営業・文書ノ二課ヲ置クコトニ変更セリ、而シテ其規程ハ左ノ如シ
　　　　韓国総支店事務規程
　　　　　　第一章　総則
　第一条　韓国京城ニ総支店ヲ置キ、韓国各支店出張所及安東県出張所ノ事務ヲ統轄セシム
　第二条　韓国総支店ニ左ノ部課ヲ置ク
　　　　国庫部
　　　　発行部
　　　　調査部
　　　　営業課
　　　　文書課
　第三条　韓国総支店ノ職員ハ左ノ如シ
　　　　支配人
　　　　国庫部長
　　　　発行部長
　　　　調査部長
　　　　営業課長
　　　　文書課長
　　　　掛長
　　　　書記
　　　　見習
　　　　　　第二章　職制
　第四条　韓国総支店支配人ハ申合規則第十八条ニ依リ韓国各支店出張所（安東県出張所ヲ含ム）ノ事務ヲ統轄ス
　第五条　支配人不在ノトキハ、上席ノ部長ヲシテ其事務ヲ代理セシメ、又部長不在ノ時ハ支配人其代理者ヲ任命ス
　第六条　各部長ハ総支店支配人ノ指示ヲ受ケ其部ニ属スル事務ニ付各支店出張所ヲ監督ス
　第七条　営業課長ハ申合規則ニ定ムル支店支配人ノ例ニ依リ京城支店ノ営業事務ヲ処理ス
　第八条　国庫部ニ左ノ諸掛ヲ置キ各掛長ヲシテ其事務ヲ分掌セシム
　　　　一韓国国庫掛
　　　　一日本金庫掛
　　　　一貨幣整理掛
　第九条　発行部ニ左ノ諸掛ヲ置キ各掛長ヲシテ其事務ヲ分掌セシム
　　　　一発行掛
　　　　一消却掛
　第十条　調査部ニ左ノ諸掛ヲ置キ各掛長ヲシテ其事務ヲ分掌セシム
　　　　一調査掛
　　　　一検査掛
　第十一条　営業課ノ事務分掌ハ申合規則ニ定ムル支店一般ノ例ニ依
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ル、但シ其計算掛ハ総支店ノ計算ヲ兼掌ス
　第十二条　文書課ニ左ノ諸掛ヲ置キ其事務ヲ分掌セシム
　　　　一文書掛
　　　　一用度掛
　第十三条　各掛ノ事務分掌ハ総支店ニ於テ別ニ之ヲ定ムルモノトス
　　　　附則
　第十四条　本規程ハ明治四十一年四月一日ヨリ之レヲ施行ス
　第十五条　本規程ニ抵触スル申合規則ノ各条ハ実施ノ日ヨリ之レヲ廃止ス

第一銀行五十年史稿　巻六・第一―三頁　大正一二年刊
　○第二編　第六章　日露戦後の発達
　　　　第一節　韓国中央金融機関の譲渡
本行は日露戦後に於て著しき発達を遂げたるが、韓国中央金融機関としての業務も亦著大の功を収めたり、初め本行の韓国中央機関の任務に就くや、其業務は我が外務・大蔵両大臣の監督を受くると共に、韓国の国庫金取扱及び貨幣整理に関しては、同国度支部大臣の指揮監督を受くるの定めなりしが、明治三十八年十一月日韓新協約成りて、韓国は我保護国となり、帝国政府は新に統監府を京城に置き、伊藤博文統監に任じたれば、爾来韓国の営業は統監府の監督を受くることゝなれり、然れども韓国中央金融機関として、度支部大臣の指揮監督を受くることは仍旧の如くなりき、三十八年三月に公布せられし我勅令には、京城支店を以て韓国総支店となし、且本行取締役の中尠くとも一名を在勤せしむべき規定なりしが、此時までいまだ総支店制を実施するに至らず、京城支店支配人清水泰吉をして各支店を統轄せしめたりき、然るに三十九年五月清水歿して市原盛宏の之に代りし時、始めて京城支店を陞せて韓国総支店と為し、且「韓国貨幣整理事務、韓国国庫金取扱事務、銀行券に関する事務、及び京城本金庫に属する本邦国庫金取扱事務に付ては、総て該支店の指揮監督を受くべし」との旨を韓国各支店及出張所に通達せしが、八月市原取締役に当選し、直に京城に赴任せり、是より先六七月の交、本行頭取渋沢栄一は市原を帯同して韓国に赴き、韓国皇帝に謁し、或は度支部大臣閔泳綺等を歴訪し或は同国の実業家とも会見し、統監伊藤博文・韓国財政顧問目賀田種太郎と協議を重ね、又支店長会議を催して種々訓示する所あり、かくて韓国総支店の制度完備したれば、普通銀行事務は言ふに及ばず、韓国国庫金の出納、貨幣の整理等、著々績を挙げ、銀行券の流通も円満に行はれて、韓国の財政金融に資する所極めて多かりき。
○下略

渋沢栄一　日記　明治三九年　（渋沢子爵家所蔵）
六月六日　雨　軽暑　起床七時就蓐十一時三十分
○上略　伊藤統監ヲ訪ヒ韓国行ノ事ヲ談話シ、古谷・児玉二氏ト談話ス、林外務大臣ヲ訪問シ、西園寺総理大臣ヲ訪問シ各少時間ノ談話ヲ為ス○下略
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　　　○中略。
六月八日　半晴　暑　起床五時三十分就蓐十二時
○上略　午前八時発車ス○中略九時四十分神戸着ス○下略
　　　○中略。
六月十一日　晴夕方雨　暑　起床七時就蓐一時三分
○上略　午後十時南山《（大）》門停馬《（車）》場ニ抵リ、多人数ノ歓迎ヲ受ケ、直ニ人車ニテ京城支店ノ役宅ニ投宿ス○下略
六月十二日　半晴　軽暑　起床七時就蓐十一時三十分
○上略　八時朝飧ヲ畢リ、数多ノ来人ニ接ス、十時過キ第一銀行支店ニ抵リ竹山・三島二氏ト事務ヲ処理ス、市原・八十島同行ス、十二時旅宿ニ抵リ午飧シ、食後統監府ニ抵リ鶴原総務長官ニ面話ス○中略二時過度支部ニ抵リ目賀田顧問ヲ訪フ、不在面話ヲ得ス、鈴木氏ニ伝言シテ去ル、長谷川大将ヲ訪問シ、更ニ指令部ニ抵リテ参謀長・旅団長等ヲ訪問ス、四時再ヒ第一銀行支店ニ抵リ店員一同ニ訓誡ノ辞ヲ為ス、平壌行ニ関シ、尾高次郎・野口弥三二氏ト談話ス、畢テ社員ノ住スル社宅ヲ一覧シ、六時帰宿ス○下略
六月十三日　曇　冷　起床六時三十分就蓐十一時
○上略　十二時半目賀顧問ノ官舎ニ抵リ、午飧会ニ列席ス、畢テ韓国諸官衙ニ抵リ、大官連ニ面晤ス、最終ニ景福宮ナル講政府ニ抵リ、朴参政始閔度支権農商工部李内部等ノ諸大臣ニ面会ス○下略
六月十四日　晴　暑　起床五時就蓐十二時
○上略　午後四時四十分平壌ニ抵リ臨江ホテルニ投宿ス○下略
　　　○中略。
六月十六日　晴　暑　起床七時就蓐十一時三十分
○上略　九時頃ヨリ旅宿ヲ出テ第一銀行支店ニ抵リ、事務ヲ処理シ更ニ各官衙ヲ訪問シ、畢テ大同門前ヨリ小舟ニ掉シ、大同江ヲ遡ル○中略食後又小舟ニテ流ヲ下リ大同門前ニテ上陸シ人車ニテ原因支配人ノ社宅ニ抵ル、此日ハ午後三時ヨリ地方ノ人々二百余名ヲ招シテ園遊会ノ催シアルニヨリ、同時刻ヨリ続々来会セラル○中略午後四時半立食場ヲ開キ食卓上一場ノ謝辞述ヘ○中略午後七時過散会、別ニ行員ヲ集メテ一場ノ訓戒演説ヲ為シ、夜八時旅宿ニ抵ル○下略
六月十七日　晴　清暑　起床五時就蓐十二時
○上略　午前六時半臨江ホテルヲ発シ、庭前ナル大同江ニ浮ヘル小舟ニテ平安丸ト命名セル小蒸汽船ニ搭ス、菊地理事官・山田財務・馬場民長其他軍人・商業者共三四十人来リテ行ヲ送ル○中略午後二時鎮南浦ニ抵ル○下略
六月十八日　晴　清暑　起床七時就蓐十一時
○上略　九時第一銀行出張所ニ抵リ事務ヲ視察ス、畢テ新購入地ヲ一覧シ更ニ諸官衙ヲ訪問シ○中略午後四時ヨリ来賓続々集会ス○中略四時過キヨリ園遊会ヲ開ク○中略午後八時散会、夫ヨリ出張所員ヲ集メテ行務取扱上ニ関スル訓戒演説ヲ為シ、夜十一時就寝
六月十九日　晴　暑　起床五時就蓐十二時三十分
○上略　六時鎮南浦ヲ発ス○中略九時過兼二浦ニ至リテ上陸シ○中略午前十一時過兼二浦発ノ汽車ニテ黄州ニ抵リ京城行ノ汽車ニ搭シ、夜九時四十
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分京城ニ着ス○下略
六月二十日　晴　暑　起床七時就蓐十一時三十分
○上略　七時半朝食畢テ応接所ニテ数多ノ来人ニ接ス、長谷川大将・目賀田顧問・鶴原長官・加藤顧問等モ来訪セラル、目賀田・鶴原氏トハ種種ノ要務ヲ談ス、午後一時支店員一同ト共ニ午飧シ、廿三日ヲ以テ支店会開催ノ事及其他ノ要務ヲ談話ス○下略
六月二十一日　晴　暑　起床七時三十分就蓐十二時
○上略　午前十時半市原氏ヲ伴ヒ鶴原総務長官ヲ訪ヒ第一銀行ニ関スル詳細ノ談話ヲ為ス、○中略午後三時ヨリ昌徳宮ヲ一覧ス、市原氏以下各支店員随行ス○中略七時日本人倶楽部ニ抵リ、今夕開催スル京城諸官憲韓国大官其他貴紳ノ招宴ニ出席シ、一場ノ謝辞通説ヲ為ス○下略
六月二十二日　曇　冷　起床七時就蓐十二時三十分
○上略　食後竹山氏ト共ニ南大門内ノ支店候補地ヲ一覧ス、帰寓後市原・竹山氏ト其土地ニ関スル処置法ヲ協議ス、午前十時半市原氏同伴目賀田顧問ヲ訪ヒ第一銀行事務及貨幣整理其他ノ要務ヲ談話ス○下略
六月二十三日　曇　冷　起床七時就蓐十二時
○上略　九時目賀田顧問・鈴木書記来ル、支店会ヲ開キ、一場ノ演達ヲ為ス、畢テ目賀田氏ヨリ本行各支店ノ執務心得ニ関シ詳細ノ諭達アリ、十一時頃ヨリ談話会ヲ開キ畢リテ共ニ午飧シ、且写真シテ目賀田氏去リテ後更ニ支店会ヲ開キテ各項ヲ審議ス、午後六時過会議畢リテ一同花月楼ニ抵リ慰労会ヲ開キ歓ヲ尽シテ夜十一時散会帰寓ス
此日午後六時過伊藤統監帰着ニ付、南大門停車場ニ抵リテ之ヲ迎フ
六月二十四日　曇　冷　起床六時三十分就蓐十二時
○上略　午前八時竜山ニ抵リ養蚕試験場ヲ一覧ス○中略更ニ旧貨幣鎔解等《（所カ）》ニ抵ル、西尾氏各倉庫ヲ開キテ取扱手続ヲ示サル、旧貨幣断截機械ヲ運転シテ実際ノ景況ヲ一覧ス、十二時帰寓○中略食事畢リテ市原氏ヲ伴フテ伊藤統監官舎ヲ訪ヒ、別後ノ事ヲ話ス○中略七時帰寓、夫ヨリ花月楼ニ抵リ韓国漢城銀行・天一銀行・農工銀行及倉庫会社等ノ催ニ係ル饗宴ニ出席ス○下略
六月二十五日　晴　暑　起床六時三十分就蓐十二時三十分
○上略　十時支店ノ人々ト会シテ各地状況ヲ報告セシム、十一時京城発ノ汽車ニテ仁川ニ抵ル、八十島親徳随行ス○中略午後三時過第一銀行支店ニ抵リ行務ヲ視ル、金庫其他ヲ一覧シ行員ヲ集メテ一場ノ訓示ヲ為ス
○下略
　　　○中略。
　　　○二十七日京城帰着。
六月二十八日　雨　冷　起床七時三十分就蓐十二時三十分
○上略　午飧後理髪入浴シ午後三時韓国皇帝謁見ノ為メ宮中ニ抵ル、伊藤統監一同ヲ誘引ス○下略
六月二十九日　雨　冷　起床七時就蓐十一時三十分
○上略　午前十時ヨリ市原氏ヲ伴フテ統監官舎ニ抵リ度支部ト新契約案ノ事ヲ協議ス、鶴原・目賀田・水町諸氏来会ス○下略
六月三十日　曇　蒸暑　起床七時就蓐一時
○上略　午後五時帰寓、七時ヨリ、伊藤統監・長谷川大将・朴斎純・閔泳
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綺・権重顕其他数多来会ス、此日ヲ以テ留別ノ宴ヲ設ケタルナリ○下略
七月一日　雨　冷　起床八時就蓐十二時三十分
○上略　午飧後、市原・竹山・三島三氏ヲ会シテ向後銀行執務上ノ注意ヨリ外方接遇ノ心得方等マテ詳細ノ談話ヲ為ス○下略
　　　○中略。
七月三日　曇　涼　起床六時就蓐十二時
起床後朝飧ヲ為シ、直ニ旅装ヲ整ヘ七時過南山停車場ニ抵ル、此日京城ノ人士行ヲ送ル為メ多人数来集ス、長谷川大将・鶴原・目賀田・木内及統監府ノ諸官財務顧問部ノ人々韓国官連皆来会ス、七時四十分発車、第一銀行員モ一同来リ送ル○中略六時三十分草梁ニ着ス○下略
七月四日　曇　涼　起床五時就蓐十一時三十分
○上略　六時発ノ汽車ニ搭シテ十時過大邱ニ抵ル○中略歩シテ第一銀行出張所ニ抵リ、店員ニ面会シ行務ノ概況ヲ視ル○中略午後三時過大邱ヲ発シ三浪津ニ抵リ、馬山浦行ノ汽車ニ乗替ヘ夜八時過馬山浦ニ着ス○下略
七月五日　曇　涼　起床六時三十分就蓐十二時三十分
○上略　小蒸汽船三韓丸ニ搭シテ鎮海湾ニ抵ル○中略一覧後船ヲ還シテ帰路ヲ取リ旧馬山浦ニ近ク船ヲ馳セテ海岸ニ達シ上陸ス、直ニ第一銀行出張所及理事官庁ヲ訪ヒ午後二時再ヒ旅寓ニ小憩シ、銀行敷地・社宅建築等ヲ一覧シ○中略午後三時過馬山発ノ汽車ニテ三浪津ニ抵リ汽車ヲ乗替ヘテ六時半釜山ニ抵リ、小憩後第一銀行支店ニ於テ催シタル此地官民数十人ノ招宴席ニ抵ル○下略
七月六日　半晴　涼　起床七時就蓐十二時
○上略　七時○午後守谷楼ニ抵リ此地ノ商家七八十名ヲ第一銀行ヨリ招宴セシニヨリ出席シテ一場ノ謝辞ヲ述フ○下略
七月七日　晴　涼　起床六時三十分
○上略　午前十時旅寓ヲ発シ銀行員ノ社宅地ヲ一覧シ○中略十二時小倉楼ニ抵リ地方有志者十数名ノ催フセル午飧会ニ出席ス、食後第一銀行支店ニ抵リ店員一同ニ告別且一場ノ訓戒ヲ為ス○中略七時半山陽聯絡船対馬丸ニ搭シ、八時半釜山ヲ発ス、夜風強ク浪高シ、船動揺シテ安眠スルヲ得ス
　　　○「竜門雑誌」第二一八号（明治三九年七月）ニ「青淵先生渡韓日誌梗概」トシテ渡韓中ノ栄一ノ動静ヲ記セリ。参照スベシ。

竜門雑誌　第二一九号・第一―五頁　明治三九年八月
　　　　○青淵先生の韓国視察談
○上略
　　　　△下関実業日報（七月九日掲載）
韓国を如何にすべきかに就ては政治家も軍人も学者も商人も等しく講究すべき問題なり、今や統監府を置かれ、韓国は純然たる我保護国となり、戦時中軍部の管轄に属したるものも統監府の所轄として京義鉄道の如きも統監府の経営することゝなりたり、併ながら余は往事を追懐して転た今者の感に堪へざるものあり○中略
第一銀行が釜山に支店を設置せるは明治十一年にして当時内地の銀行業者は競ふて内地各方面に支店設置せるも独り第一銀行は将来に期す
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る処ありて此未開国に支店を置き遂に今日の位置を造り出したるは決して偶然の結果にあらざるなり、元来韓国に在住せる本邦商人の多数は言はゞ内地の失敗者が一攫千金の事業もがなと流れ流れて同国に入込みたるものなれば以前にありては是等の者に対しては信用取引を開始する能はざるのみならず、韓国の凡ての施政方針が朝令暮改の有様なれば当時同国に於ける取引上の危険は実に名状すべからざりき、明治二十七八年の日清戦役と三十七八年の日露戦役とは同国に於ける日本国民の威信と商業上の信用を併せ得たる処尠からず、日清戦役にありては尚ほ未だ韓国に対する日本政府の決心を疑ひしも、日露戦役後の韓国国民も在韓国外人も我国民が韓国の誘掖保護の為めには如何なる犠牲を供するも辞せざるを知るや韓国に於ける商業上の信用は一層鞏固となり、従つて内地より入込来る日本商人も漸次善良なるもの多数を占むるに至り、第一銀行の取引も大いに拡張せられたるは寔に欽ぶべき現象と云はざる可らず
明治三十年京仁鉄道の布設権が米人に許可せられんとするに当り若し此交通機関を外人の手に収めらるゝと内地人の経営するとは将来韓国に於る商業上の利害休戚に多大の関係あるを知り、余等の手に之を収めたるものなるが続て余の苦心経営に成りし京釜鉄道も共に国有に帰したれば韓国を貫通せる商業上の運転機関は殆んど邦人の独占舞台となれり、かく今日の状況に至る迄の道行きに対しては諸君より多少の賞賛を受くべき価値ありと信ず、今や京釜鉄道各沿線の貨物の集散は夥しく従来仮令ば密陽釜山間の米穀一石に付二円内外の運搬費を要したるもの僅々二三十銭にて釜山に輸出さるゝ如き有様となり、釜山埋立地には倉庫の建設ありて各地より輸送さるゝ貨物を此倉庫に収むることゝなりたるは我国との取引をして益々接近せしめたるの一現象と見るを得べく、僅かに五六円を要して建築し得べき家屋の外宏壮なる建物を見たる事なき韓人の眼には、僅かに二百万円を要したる築港及び倉庫の大建築は大いに異様に映ずるなるべし、兎に角此鉄道の布設は到る所の韓人の懐を肥やし従つて購買力を増進したる事は確かなるも韓人は此資本を他に応用する事を知らず、金融豊かなれば働かずして寝て埋合せを付ける如き遣り口なれば商業上其他の発達も寔に遅々たるは免かれ難きも彼等が歩一歩進みつゝあることは確かにして、従つて本邦人の同地に於ける発展も大いに見るべきものあるべし、第一銀行の如き京城・釜山・木浦・大邱・馬山・仁川・鎮南浦・平壌・元山・群山・咸興・城津其他多少商業上の取引ある処には支店・出張所を置き、各商業家の融通を図り居れるも向後の大発展は今回総支配人に任じたる市原氏の手腕に待つの外なかるべし云々
○下略