デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治33年2月21日（1900年）

是ヨリ先、二月六日韓国京釜鉄道速成ニ関スル建議案衆議院ニ提出サレ可決、尋イデ八日貴族院ニ於テモ可決サレシガ、更ニ京釜鉄道成立ヲ促進スルタメノ「帝国臣民ノ外国ニ於ケル鉄道敷設ニ関スル法律案」是日衆議院ニ提出サレ可決、尋イデ二十三日貴族院ニ於テ同様可決セラル。該法律並ニ勅令、九月十四日ニ至リ公布サル。

官報　　号外　明治三三年二日七日
　　　　○第十四回帝国議会衆議院議事速記録第二十号
　　　　　　明治三十三年二月六日（火曜日）午後一時十六分開議
　　第二十　韓国京釜鉄道速成ニ関スル建議案（星亨君外七名提出）
　　　　韓国京釜鉄道ニ関スル建議案
韓国ニ於ケル京釜鉄道ハ、明治二十七年我カ政府ト韓国政府トノ暫定条約ニ基ツキ、明治二十九年以来我カ国人渋沢栄一外百四十余名ノ発企ニ係リ我カ駐韓公使ノ手ヲ経テ数回交渉ノ末明治三十一年九月ニ至リ始メテ合同条約ヲ結締スルノ運ニ至リ敷設起工ノ許可ヲ得タリ、而シテ該合同条約ニハ起工ハ三年ヲ限リ竣工ハ十五年《（衍）》ヲ限ルノ条件ヲ定メタリ、爾来既ニ一年有余、即チ殆ド起工期限ノ半ヲ経過スルモ京釜鉄道会社ハ未其ノ成立ヲ見ルニ至ラス、起工ノ計画未其ノ緒ニタモ就カサルハ甚遺憾トスル所ナリ、是必竟我カ民間経済界資本闕乏ノ致ス所ニシテ発企人ニ於テモ亦已ムヲ得サルノ事情アルニ因ルヘシト雖、熟ラ按スルニ該鉄道ノ発企ハ唯リ私人営利ノ目的ノミニ出テタルニ非スシテ、該鉄道線ハ実ニ韓国ニ於ケル大幹線ノ過半ヲ占メ、他日東清鉄道乃至西比利亜鉄道ト連絡シテ、世界ノ郵便線路ノ要部トモナルヘク、殊ニ該鉄道ハ即チ韓国ニ於テ物産最モ富饒ナル三南地方ヲ貫キ其ノ首都タル京城ト其ノ最大貿易港タル釜山港トヲ接続セシムルモノナルカ故ニ、其ノ韓国ノ利源ヲ開拓シ風気ヲ啓発シ彼我両国貿易上ノ利益ヲ増進スルニ於テ一日モ忽ニスヘカラサルノ経営タリ、故ニ我ガ経済界ノ事情ニ因リ発企人等カ独力其ノ経営ノ責ヲ尽ス能ハサルノ今日政府ハ宜ク暫定条約当時ノ精神ニ顧ミ特別ノ保護ヲ与ヘ速ニ会社ノ成立ヲ助ケ、線路ノ起工及竣工ヲ督励スヘキハ急要怠ルヘカラサルノ責
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務ナルコトヲ信ス、若京釜鉄道ハ海外ノ事業ニシテ会社ノ組織成立営業ニ付我カ商法及私設鉄道条例ノ規定ニ悉ク準拠セシムルコト能ハサルノ事情アリ、且国庫ノ補助ヲ与フルニ就キ其ノ監督亦尋常ノ規定ニ依ルヘカラストセハ、政府ハ特別ノ条例ヲ設ケ此ニ準拠シテ会社ヲ成立セシメラレンコトヲ望ム
右建議ス
　　佐々友房君演壇ニ登ル
○佐々友房君（百四十二番）○提案理由演説略ス
○恒松隆慶君（百四十三番）○賛成演説略ス
○議長（片岡健吉君）本案ニ附キマシテハ満場御異議ガナイト認メマシテ宜シウゴザイマスカ
　（「異議ナシ」ト呼フ者アリ）
○議長（片岡健吉君）御異議ガアリマセヌカラ原案通決シマス○下略
　　○衆議院ニ於ケル右建議案ノ提出者ハ（憲政党）星亨・松田正久（帝国党）佐々友房・元田肇（憲政本党）犬養毅・河野広中（中立派）長谷場純孝・田口卯吉ノ八氏ニシテ賛成者百二十九名ニ達セリ。

官報　　号外　明治三三年二月八日
　　　　○第十四回帝国議会貴族院議事速記録第十八号
　　　　　　明治三十三年二月七日（水曜日）午前十時十八分開議
　　　　韓国京釜鉄道速成ニ関スル建議案
　　明治三十三年二月三日
　　　　　　　　　　発議者　子爵岡部長職　松平正直
　　　　　　　　　　　　　　　　水野遵
　　　　　　　　　　賛成者　侯爵徳川義礼
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　外百二十九名
　　　貴族院議長公爵近衛篤麿殿
　　　　韓国京釜鉄道速成ニ関スル建議
韓国京釜鉄道ハ日韓通商相互ノ利益上最モ緊要ニシテ速成ヲ必要トスルモノナレハ、政府ハ京釜鉄道会社ニ相当ノ保護ヲ与ヘ速カニ其ノ成功ヲ奨励セラレムコトヲ望ム
右建議ス
○水野遵君　○提案理由説明略ス

官報　　号外　明治三三年二月九日
　　　　○第十四回帝国議会貴族院議事速記録第十九号
　　　　　　明治三十三年二月八日（木曜日）午前十時十九分開議
　　　　　　〔子爵谷干城君演壇ニ登ル〕
○子爵谷干城君　○反対演説略ス
○金子堅太郎君　○上略相当ノ保護ト云フノハ発起人ノ意見ハドウ云フモノデゴザイマスカ、ソレヲ伺ヒタイ
○男爵尾崎三良君　相当ノ保護ト云フコトハ是ハ程度ガ色々アリマセウケレドモ○中略何レ先ヅ一ツ利子ノ補給ヲ願ハネバナラヌト思フノ
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デス、ソウシテ其程度ト申セバ段々是マデ前例モアルコトデアリマスカラ少クモ六分位ノ補給ヲ願ハニヤナルマイト思ヒマス
○中略
○議長（公爵近衛篤麿君）大抵議論モ尽キタヤウデアリマスカラ決ヲ採リマス、本建議案ニ賛成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
　　起立者多数
○議長（公爵近衛篤麿君）過半数ト認メマス○下略

官報　　号外　明治三三年二月二二日
　　　　○第十四回帝国議会衆議院議事速記録第三十二号
　　　　　　明治三十三年二月二十一日（水曜日）午後一時十一分開議
　　　　帝国臣民ノ外国ニ於ケル鉄道敷設ニ関スル法律案
　　　　　　井上角五郎君演壇ニ上ル
○井上角五郎君（百八十四番）諸君、唯今法律案ノ文章ハ朗読シマシテゴザイマスガ、極簡単ナモノデ文章ヲ朗読スレバ意味自ラ瞭然タリト云フガ如キ法律デゴザイマスカラモウ一度文章ヲ朗読致シマス「帝国臣民ノ外国ニ於ケル鉄道敷設ニ関スル法律案、帝国臣民ニシテ外国ニ於テ鉄道ヲ敷設シ運輸ノ業ヲ営マンガタメニ帝国内ニ於テ設立スル会社ニ付イテハ勅令ヲ以テ特別ノ規定ヲ設ケ之ニ準拠セシムルコトヲ得」是ガ法律案デゴサイマス、サウシテ其ノ理由ハ矢張リ此書イテアルノヲ朗読シマス
　「理由、帝国臣民ガ外国ニ於テ鉄道ヲ敷設シ運輸ノ業ヲ営マンガタメニ会社ヲ設立スル場合ニ於テ、私設鉄道条例及商法ノ規定ヲ厳守スルトキハ到底事業ニ著手スル能ハサルノ事情アリ、此等ノモノニ対シ特ニ除外例ヲ設ケルハ蓋シ已ムヲ得ザル所ニシテ、特別ノ法律ヲ制定スルノ必要アリト雖モ、事緊急ニ属スルヲ以テ之ヲ行政命令ニ一任セントス、是本案ヲ提出スル所以ナリ」要スルニ京釜鉄道ヲ早ク成立サセタイト云フダケノ法律案、ドウカ諸君ハ読会省略ヲ以テ直チニ可決セラレンコトヲ希望致シマス
○議長（片岡健吉君）本案ハ読会省略ニ御異議ハアリマセヌカ
　　「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ
○議長（片岡健吉君）御異議ガナケレバ其通ニ致シマス、本案ニ就イテ御異議ハアリマセヌカ
　　帝国臣民ノ外国ニ於ケル鉄道敷設ニ関スル法律案確定議
　　「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ
○議長（片岡健吉君）御異議ガナケレバ原案通決シマス○下略

官報　　号外　明治三三年二月二四日
　　　　○第十四回帝国議会貴族院議事速記録第三十二号
　　　　　　明治三十三年二月二十三日（金曜日）午前十時十一分開議
○議長（公爵近衛篤麿君）帝国臣民ノ外国ニ於ケル鉄道敷設ニ関スル法律案、衆議院提出、第一読会ノ続、特別委員長報告
　　　　　　〔子爵曾我祐準君演壇ニ登ル〕
 - 第16巻 p.399 -ページ画像 
○子爵曾我祐準君　帝国臣民ノ外国ニ於ケル鉄道敷設ニ関スル法律案右ノ審査委員会ハ今朝開キマシテ、委員ニ於キマシテハ可決スベキモノト一人ノ不同意者モナク議決致シマシタ、是ハ皆サン御承知ノ通デ先達本院ヨリ大多数ヲ以テ建議ニナリマシタ所ノ釜山京城間ノ鉄道敷設、此建議ガ容レラレテ政府ガソレヲ実行サレル日ニナリマスルト、ソレニ伴フテ此法律ハ必要ナコトトナルノデアリマス、ソレハドウゾト申シマスルニ唯今日本帝国内ニ制定サレタル所ノ商法ニ致シマシテモ私設鉄道条例ニ致シマシテモ、我内地即チ日本帝国内ニ於テ敷設シ若クハ営業スルコトヲ目的トシテ立テタ法律デアリマス、今日本ニ本社ヲ置イテ外国ニ鉄道ヲ敷設スルト云フ日ニ当リマシテ、商法カラ見マシテモ又私設鉄道条例カラ見マシテモ若シヤ今度私設鉄道条例ガ変リマシテ鉄道敷設法ニナリマシタニ致シマシテモ、甚ダ適当セヌ箇条ガ多々アリマス、ソレ故ニ別ニ勅令ヲ以テ特別ノ規定ヲ定メタイト云フ即チ本案ノ趣旨デアリマス○中略何分時日モ迫ツテ居リマスニ依ツテ幸ニ修正ノ御動議モゴザイマセネバ読会省略ヲ以テ此案ヲ可決セラレンコトヲ希望スルノデアリマス
○南郷茂光君　読会省略ニ賛成
○子爵谷干城君　一言シテ置キマス、私ハ是ハ急グコトハナイ、ソレデ曾我君ノ御報告ニハ反対致シマス
○子爵岡部長職君　読会省略ニ賛成
○中略
○議長（公爵近衛篤麿君）御異議ガナクバ本案可決ト認メマス
　〔「異議ナシ」ト呼フ者多シ〕
　　○第十四回帝国議会貴族院ニ於ケル帝国臣民ノ外国ニ於ケル鉄道敷設ニ関スル法律案ノ特別委員ハ左記ノ如シ。
　　　　子爵曾我祐準　子爵岡部長職　子爵堀田正養
　　　　男爵尾崎三良　男爵本田親雄　　　松平正直
　　　　男爵小沢武雄　　　南郷茂光　　　滝兵右衛門
　　　（「官報」号外明治三三年二月二三日、「第十四回帝国議会貴族院議事速記録」第三十一号ニ拠ル）
　　○右法律並ニ勅令ハ是年九月十四日公布セラル、ナホ本款明治三十三年六月九日ノ条（第四一七頁）参照。

官報　　第五一六三号　明治三三年九月一五日
　　　　○法律
　朕帝国議会ノ協賛ヲ得タル外国ニ於テ鉄道ヲ敷設スル帝国会社ニ関スル法律ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
　御名御璽
　　明治三十三年九月十四日
　　　　　　　　　　　　内閣総理大臣　侯爵　山県有朋
　　　　　　　　　　　　逓信大臣　　　子爵　芳川顕正
　法律第八十七号
　帝国臣民ニシテ外国ニ於テ鉄道ヲ敷設シ運輸業ヲ営ム為ニ帝国内ニ於テ設立スル会社ニ付テハ、勅令ヲ以テ特別ノ規定ヲ設ケ之ニ準拠セシムルコトヲ得
 - 第16巻 p.400 -ページ画像 
　　　　○勅令
　朕外国ニ於テ鉄道ヲ敷設スル帝国会社ニ関スル件ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
　御名御璽
　　明治三十三年九月十四日
　　　　　　　　　　　　逓信大臣　　　子爵　芳川顕正
勅令第三百六十六号
第一条　外国ニ於テ鉄道ヲ敷設シ運輸業ヲ営ム為、帝国ニ於テ帝国臣民ノ設立スル株式会社ニ関シテハ本令ニ別段ノ定アルモノヲ除ク外、商法及附属法令ノ規定ヲ適用ス
第二条　会社ノ発起人ハ株金第一回払込前定款・工事方法書・線路実測図及工費予算書ヲ具シ、逓信大臣ニ会社設立ノ免許ヲ申請スベシ
　　　前項免許ノ申請ニハ株式申込証ノ謄本及必要ナル書類・図面ヲ添付スルコトヲ要ス
第三条　会社ハ資本総額ヲ数回ニ分ツテ募集スルコトヲ得、但シ第一回払込金額ハ資本総額ノ五分ノ一ヲ下ルコトヲ得ズ
第四条　株金ノ第一回募集ノ資本ニ対スル第一回ノ株金払込アリタルトキハ発起人ハ創立総会ヲ招集スルコトヲ得
第五条　定款変更ノ決議ハ逓信大臣ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其効ヲ生ゼス
第六条　会社ハ逓信大臣ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ社債ヲ発行スルヲ得ズ、社債総額ハ払込金額ノ十倍ニ至ルコトヲ得、但シ其額ハ資本総額ノ五分ノ四ヲ超過スルコトヲ得ズ
第七条　会社ハ逓信大臣ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ工費予算及工事方法ヲ変更スルコトヲ得ズ
第八条　会社ハ逓信大臣ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ合併又ハ任意ノ解散ヲナスコトヲ得ズ
第九条　会社ガ本令ノ規定又ハ免許若クハ認可ニ附シタル条件ニ違反シタルトキハ逓信大臣ハ役員ノ改選ヲ命ジ、又ハ免許若シクハ認可ヲ取消スコトヲ得
　　　会社ハ前項免許ノ取消ニ依リテ解散ス
第十条　第五条・第七条乃至第九条ノ規定ハ、外国ニ於テ鉄道ヲ敷設シ、運輸業ヲ営ム為メ帝国内ニ於テ旧商法ノ規定ニ依リテ設立シタル合資会社ニ之ヲ準用ス