デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治33年3月（1900年）

是ヨリ先一月、当会社創立委員等、其社債ヲ外国ニ募集センガ為ニ、韓国ニ対シ条約ノ一部改訂ヲ竹内綱・大江卓ニ交捗セシムルコトトシ、是月韓国駐剳林公使、竹内等ト協議シ改メテ我政府ノ決意ヲ伺フ等、爾後種々交渉スル所アリシガ、韓国之ニ応ゼズ。十月ニ至リ内閣更迭ニヨリ交渉ヲ停ム。

京釜鉄道経営回顧録　竹内綱著　　第二八―三一頁
京釜鉄道合同条約締結当時ヨリ政府並ニ会社ニ於テ第二条・第三条・第六条・第十五条ノ規定ヲ改正セザル可ラズト云論議アリ、其理由ハ第二条江橋ハ開閉ノ出来得ル橋ヲ作リ云々ノ規定ハ巨額ノ建設費ヲ要ス故ニ之ヲ廃セザル可ラズ、第条三韓国ノ軍用品・兵丁・郵便物及ビ逓送人ハ無賃タルベシ云々ノ規定ハ之ヲ改正シテ相当ノ賃銭ヲ支払ハシメザル可ラズ、第六条ノ土役ノ雇人ハ十分ノ九ノ割合ヲ以テ韓人ヲ使用スベシトノ規定ハ之ヲ改正シテ其割合ヲ削減セサル可ラズ、第十五条如何ナル場合ト雖モ日韓両国ノ政府及ビ臣民ニ非ザル外ハ該株券ヲ他国人ニ譲与スルヲ許サズト云フ規定ハ、外国ヨリ社債ヲ募ル場合ニ必ラズ故障アラン、是非廃止セザル可ラズト云フニ在リ
余ノ此般渡韓出発前○明治三三年一月十六日総理・大蔵・陸軍三大臣列席、渋沢・余ト面会ノ節ニ於テ前記ノ如キ合同条約改正ノ協議アリ、又青木外務大臣ハ特ニ余ヲ招キ謂ツテ曰ク、京釜鉄道ノ社債ハ外資ニ依ラザル可ラズ、宜シク十五条ヲ改正シテ外国人ニ株式ヲ所有セシムル様韓廷ニ交渉スベシト、余ハ固ヨリ同意見ナレバ京城着以来林公使ト韓廷交渉ノ協議中ナリシガ、大江ハ初メヨリ反対ニテ三月二十四日創立委員ニ反対意見書ヲ提出セリ、其概要ハ左ノ如シ○意見書ノ全文後掲（第四〇八頁）ニツキ略ス
林公使ト数回協議ノ上第二・第三・第六条ノ規定ハ不利ナル条項ナルモ、京仁鉄道ノ実歴モ之レ有リ追ツテ時機ヲ見テ改正スベク、第十五条ハ青木外務大臣ノ意見ノ如ク社債ノ利用ニ必要ニ付キ、会社ノ都合ニ依リ株式ヲ便宜外国人ニ所有セシムベシ、ト云フ韓廷ヨリ公文ノ証明書ヲ請取リ置クベシト決シ、外部大臣朴斉純ニ数回交渉セシモ朴大
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臣ハ之ニ反対シテ荏苒決セズ、同年十月ニ至リ山県内閣総辞職、伊藤内閣トナリ加藤高明外務大臣タルニ及ンテ閣議一変シ、政府ノ特別保護ヲ受クル会社ノ株式ヲ外国人ニ所有セシムベカラズト決定シ、加藤外務ヨリ林公使ニ訓令アリ、爰ニ於テ十五条改正ノ韓廷トノ交渉ハ停止サレタリ
　　○合同条約条文ハ本款明治三十一年九月八日条（第三七三頁）参照。

（竹内綱）渡韓日誌　第一　　　　　　　　　　　（竹内広氏所蔵）
三月二十日○明治三十三年
○上略　林公使手柬ニ依リ同氏ヲ訪フ、談京釜鉄道約条ノ事ニ及フ、余東京ヲ発スルニ当リ会社資金募集ノ困難ナルヲ慮リ約条中ニ左ノ一条ヲ加エント欲シ
　会社ノ都合ニ依リ便宜外国人ニ会社ノ株式ヲ所有セシムルコトヲ得内閣ノ内意ヲ聞キタルニ敢テ異議ナシトノ事ナリシニ依リ、右ノ趣旨ニテ韓廷ニ交渉センコトヲ告ケシニ林氏モ同意ヲ表セリ
大江ハ本日田中商店ニ移レリ、夜同氏ヲ訪フ、大江ハ外国人ニ会社ノ株式ヲ所有セシムルコトニ付異議アリ、因テ東京委員ニ今一応照会ノ上決スヘキコトニ談シテ別ル
廿三日公使ヲ訪フ、公使曰ク条約追加ノ件ハ本使ヨリモ我政府ノ議ヲ伺ヒ定メタル上ニテ韓廷ニ交渉スヘシト、余之ヲ諾ス

渋沢栄一書翰　　竹内綱宛（明治三三年）五月三日　　　（竹内広氏所蔵）
貴方四月十九日附第八号御状以下同拾号及別封とも夫々落手拝見いたし、今日委員会相開き来示ニ関する要旨充分討議之上表状より《（に脱カ）》概略御回答申上候得共、尚小生心附之件々及右表状ニて其意を尽さゝる事共左ニ申上候
先頃御申越相成候合同条約第拾五条中、日韓人ニ限る之文字修正之義者過日も申上候通り政府ニ於てハ切ニ改正を企望せられ、可成此度其制限を解き申度と申事ニ付林公使とも御相談被下修正相成候様御尽力可被下候
線路実測ニ付南大門外停車場敷地ニ関する電気鉄道との交渉事件ハ頗る注意を要する義ニて、来示之如く電気鉄道ニ先占権有之候為停車場内ニ其軌道相通し候様相成候ハヽ、京釜鉄道之為ニハ無此上不便と被存候、去り迚権利上撤去せしむる都合ニ相成兼候ハヽ寧ロ停車場之位地を他ニ妨害なき地ニ撰定候方歟と被存候、もし又電気鉄道之軌条我停車場内通過候とも、当方ニ辛抱出来得る義ニて先方ニ於て却而其営業上不利益と相成、終ニ他ニ転換候様可相成との御見込確乎相立候義ニ候ハヽ、或ハ八号状来示之如く御取計被成候も可然と存候、其辺ハ余程御熟考を要し候事と存候間、林公使又ハ足立抔とも能々御審議被成下度と存奉候
○中略
農商務省より派出相成候調査員之事ハ、特ニ小生より木内局長へも申立、漸く出張之事も取極候様被存候義ニて、殊ニ此調査ハ当方ニ取扱候而ハ自然自画自賛之嫌も有之候間、却而同省之派出を相望候義ニ付
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来示之通ニてハ当方之不利益と存候ニ付、電報書状等ニて再応申上候次第ニ御坐候、大江君ニも御同意被下候様御申通し可被下候
○中略
　　五月三日夜　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　竹内綱様
○中略
　　小生も六月中ニ京仁鉄道落成候様なれハ七月初旬貴方へ罷出申度と相考居候、尚足立と往復中ニ御坐候也

（京釜鉄道株式会社）在韓委員来翰綴　　明治三三年
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（竹内広氏所蔵）
謹啓陳者去ル一月十六日総理・大蔵・陸軍三大臣列席ニテ渋沢君・竹内面会之節、京釜鉄道合同条約中改正ヲ要スル条項、就中第拾五条之自非日韓両国之政府曁臣則不得将該分股譲他政府曁臣民《（民脱カ）》ノ条項ハ改正シテ、外国人ニ株式ヲ所有セシムル様致度之事ニ有之、其後外務大臣ヨリモ竹内ニ内諭有之候ニ付、過日ヨリ林公使ニ熟議致候処
第二条架橋之件
第三条韓国兵丁・郵逓人員之往来不償車費之件
第六条雇人十分之九用韓人之件
以上三件ハ固リ不利ナル条項ニ候得共、京仁鉄道ノ実歴ニ徴スルニ更ニ故障無之ニ付、追而時機ヲ見改正候事ニ致可然、第拾五条ハ外資利用致候ニ必然故障之生スヘキ条項ニ付改正之必用ナル所以之外務大臣等懇諭之次第ヲ相陳候処、右ハ当初共同条約締結之際京仁鉄道之条約ニ該規程ナキガ為メ米国人ヨリ買請クル《（ヲ脱カ）》得タルモノナルニ依リ、我外務大臣之内訓ニ依リ特ニ設ケタル条項ニ有之、最講究ヲ要ストノ事ニテ種々評議ノ上、第十五条ニ対シテハ、会社ノ都合ニ依リ会社ノ株式ヲ便宜外国人ニ所有セシムルヲ得ルト云趣旨ニテ韓廷ノ証言ヲ公文ヲ以テ得置ク事然ル可シ、左スル寸《（時カ）》ハ取捨ノ権ハ依然会社ニ存シ後患ノ虞ナカルヘシ、然レトモ甚重要ノ件ニ付公使モ我政府之決意ヲ伺、然ル後韓廷ニ交渉可致と申事ニ相成申候、今便公使ヨリ伺出ニ相成候筈ニ付委員諸君ニ於而篤と御評議、政府之決意モ御伺定メ、至急何分之御報被下度存候、猶十五条改正ニ付而竹内・大三輪両人ハ更ニ異議無之候得共、大江ニ於而ハ外国人ニ株式ヲ所有セシムルニハ反対之意見有之候間、重要之件ニ付委細ハ同氏ヨリ申進候筈ニ申合候間、左様御承知被下度存候○下略
　　三月廿四日　　　　　　　　　　　　　大三輪長兵衛(印)
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大江卓（花押）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　竹内綱(印)
　　　　創立委員御中
　　○大江卓ノ反対意見ハ参考ニ掲グ。（第四〇八頁）

第拾号　明治三十三年四月廿七日木曾川丸便
　　　　　　　　　　　　　韓国　京城　竹内綱（花押）
　　　　創立委員御中
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謹啓貴信第三号併セテ新加入発起人名簿拝受□読仕候
一合同条約十五条改正ノ件ニ就キ、貴書中ニハ未タ如何トモ決定致シ不居様有之候ヘ共、本月二十一日発電文左ノ通解シ候テ了承仕候事ニ御座候
　　○上略　合同定約（十五条ノ件改正スル事）竹内案ノ通リ内閣ニ於テモ同意ナレハ其運動ヲ頼ム○下略

第拾参号　明治三十三年五月十七日
　　　　　　　　　　　　　　　　韓国　京城
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大江卓
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　代中島久万吉(印)
　　　　創立委員御中
謹啓前便第拾弐号御落手被下候御事ト奉拝察候
一合同条約第十五条改正ノ件
　合同条約第十五号改正《（マヽ）》ノ件ニ就テハ段々御内諭ノ次第モ有之、当方ニ於テモ彼是林公使ト協議ノ上、別紙第一号書ノ通リ同公使ヨリ公文ヲ以テ韓国外部ヘ申入候処、朴外部大臣ヨリ、右十五条ハ当初韓廷ノ熟議ヲ尽シテ制定シタルモノニテ充分慎密ノ考慮ヲ費シタル上ノ事ニシアレハ、今更余独自ノ裁断ニ任シ難ク、更ニ韓廷内部ノ熟議ヲ尽シタル以上ニ非レハ御答仕兼候旨の内談アリシノミニテ、未タ公然ノ答酬ニ不接罷在候、逐而何等カ先方ヨリ沙汰モ可有之、其上更ニ申上候事ニ可仕候○下略
（別紙）
　　　　　　（朱書）
公文第四六号　第一号書
以書柬致啓上候、陳者京釜鉄道創立委員竹内綱等ヨリ該鉄道合同第十五条中「如何ナル場合ト雖トモ」（不拘如何之境）ノ一句ヲ刪除シ同条ニ左ノ但書ヲ追加致度旨願出候
　但会社ハ其都合ニ依リ便宜外人ニ株券ヲ所有セシムル事ヲ得（但該公司遇有為便特得将別国人作為該股主）
右追加案ハ京釜鉄道会社ノ如キ巨資ヲ投シ大事業ヲ経営スル会社ニ在テハ欠クヘカラサルノ権能ニシテ、会社ハ是カ為メニ其株券ノ価格ヲ維持スルニ於テ行動ノ自在ヲ得、随テ該社株主即チ貴我両株主ノ利益ヲ維持シ及拡張スルヲ得ヘキ適当ノ願出ト認メ候、右ハ親シク閣下ニ御面陳致置候間勿論御同感ト存候ニ付、玆ニ閣下ヲ煩ハシ貴政府ノ賛同ヲ得候様致度、此段御照会得貴意候　敬具
　　五月八日　　　　　　　　　特命全権公使
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　林権助
　　　　外務大臣　朴斉純閣下
　　○第二号書以下略ス。

第拾八号　明治三十三年六月十三日
　　　　　　　　　　　　　　　　韓国　京城
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大江卓
　　　　創立委員御中
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○上略
一合同条約第十五条脩正ノ件
　ニ付テハ日記写ニ記載致候通リ、鉄道院トノ打合ハ相付キ申候間、外部ヲ経由セスシテ意外ニ早ク相運ヒ可申ト奉存候、近来鉄道院ニ交陟スル事ハ思ノ外円滑ニ相運ヒ同院設置ノ効能不尠ト存候○下略
（別紙大江卓日記写）
○上略　合同条約第十五条脩正ノ事ハ去七日ヲ以テ鉄道院ニ当方草案ノ脩正文ヲ送リ、且ツ右脩正文ノ字句ニ就キ商議ヲ要スル場合ニ於テハ当方ヨリ何時ニテモ登院スヘキ旨申送リ置キタル所、本日ヲ以テ同院ヨリ右ニ対シ左ノ回答アリ
　敬覆者玆准六月七日来函謹悉一切京釜鉄道合同条約第十五条脩正案中既承商議便宜之教故玆将愚見另附二十六字改恐未知貴意如何也照亮見復為荷耑此書復順頌日祉
　　　　　　　　　　　　　　　鉄道院総裁　閔丙奭
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　六月十一日
　　　　京釜鉄道創立委員大江卓貴下
　トアリテ左ノ別紙ヲ封中セリ
　　但該公司因為其将来有特別境遇得其使他国臣民有該分股事
是レ当方草案文中ノ但該公司因其境遇特得使他国臣民有該分股事トアルヲ変更シタルモノニシテ、詮スル所僅ニ文句ノ脩正ニ止マリ本文ノ大意ニ於テ聊モ異ナル所アルヲ見ス、当方ハ無論此ニ対シ異議ナキモノト做シ直ニ左ノ照覆ヲ認メテ鉄道院ニ送レリ
　敬覆本日付貴柬接受、陳者京釜鉄道合同条約第十五条修正案ノ儀ハ御指示被成下候左ノ文案ヲ以テ当方更ニ異議無之候間、何卒該文案ノ通リ脩正相成候様御取計被成下度、此段御回答旁右奉願候也
　　但該公司因為其将来有特別境遇得其使他国臣民有該分股事

第三十一号　明治三十三年八月二十四日
　　　　　　　　　　　　　　　　京城履洞　大江卓
　　　　創立委員御中
謹啓陳者合同第十五条ニ係ハル交渉ニ付、林公使ノ語ル処ヲ以テスレバ、過般此件ニ付公林《（使カ）》ヨリ外部ニ引合候処、朴外部ハ此儀ハ一昨年殊ニ注意シテ差加ヘタルモノニシテ到底交渉中絶テ希フ旨之挨拶ニ有之依テ公使ヨリハ右条約条項ノ修正ハ韓国ニ取リ至大ノ利益アリト云フヘシ、仮令ヘハ他日他国ヨリ鉄道ノ布設権ヲ要求セラルヽノ場合ニ際シテ、既ニ京釜鉄道合同ニ於テ外国人ハ同鉄道ノ株式ヲ所有シ得ルノ権ヲ有シ居ルモノナレバ、他ニ鉄道ノ布設ヲ要求セストモ該鉄道ニ投資セハ可ナラントテ、其要求ヲ拒否スルノ口実ヲ作リ得ヘク、然レトモ実際ニ於テハ広ク株式ノ取得権ヲ外人ニ許シタリトテ、之カ為メニ彼等ニ蹂躙セラルヽノ虞ナキハ会社ノ便宜ニヨリ云々ノ文字アレハ決シテ其心配ヲ要セサルナレバ今一度議政府ノ議ニ上スヘシトノ事ニテ引キ分カレト相成居候由、此件ニ就テハ裡面ヨリ菊地謙譲氏ノ斡旋ニ任スル事ニ致候儀ハ前便申上候通リニ御座候、菊地氏ハ今廿四日朴外部ニ面晤スル都合ニ相成居候由、兎角ノ事ハ其上更ニ御報可致候○下略

 - 第16巻 p.408 -ページ画像 
第三三号　明治三十三年八月廿九日
　　　　　　　　　　　　　　　韓国　京城　大江卓
　　　　創立委員御中
謹啓去廿五日付弊方第三二号書御落手相成候事ニ奉察上候
一今朝不取敢電報ヲ以テ御高見之程徴候合同第十五条ニ係ル事ハ、昨日林公使ヨリ聞得候所ニ有之、固ヨリ朴外部ヨリ公使ヘノ直話ニハ無之候得共、夫ノ制限付修正ナレハ朴外部之決意ヲ翻ヘサシムルニ足ル多少之根拠ハアルラシク、或ル信スヘキ筋ヨリ内告有之候モノ存候、即チ表面ハ予テノ案通リ修正シテ内密ニ韓廷トノ往復公文書ヲ以テ仮令外国人ニ株式之取得権ヲ許与スルモ決シテ総株式之三分ノ一以上ヲ附与セサル事ヲ約定シ置ク事ニ御座候、林公使ハ会社ノ都合聞合セ候上返答可致ト先方ヘ相答置候由ニテ此儀如何ト相談ニ御座候、此辺ノ所ニテ韓廷ヨリ修正ノ同意ヲ得ルモノナレハ別段東京ニ於テモ異議可被無之ト返答致候モノヽ、何様重大之事故御協議奉願候次第ニ御座候、折リ返ヘシ何分之御回答奉待上候
　　○合同条約第十五条改正ノ当会社側希望ハ翌三十四年ニモナホ絶タザリシモ遂ニ果サス止ミタリ。本款明治三十四年八月七日ノ条（第四四三頁）参照。

渋沢栄一　日記　明治三三年　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
四月廿日　晴
午前九時目白椿山荘ニ抵リ、山県総理ヲ訪フ、京釜鉄道会社ニ関スル要件及経済上ノ事ヲ談話ス○下略
四月廿一日　曇
○上略　午前十時京釜鉄道会社創立委員会ヲ兜町宅ニ開ク、尾崎三良・前島密・佐々友房・日下義雄諸氏来会ス、韓国出張委員ヨリノ来状答案ヲ協議ス、并テ社長人撰ノ事ヲ内話ス
　　○中略。
四月二十三日　雨
午前外務省官舎ニ抵リ外務大臣ニ面会シ、京釜鉄道ノ事ヲ談話ス○下略
　　○中略。
五月三日　曇
○上略　午前十時三十間堀京釜鉄道事務所ニ於テ創立委員会ヲ開キ、出張委員ヨリノ来信ニ対スル答案ニ付テ種々ノ協議ヲ為ス、午後二時松方伯ヲ訪フ、京釜鉄道其他ノ事ヲ談話ス

（京釜鉄道株式会社）在韓委員来翰綴　　明治三三年
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（竹内広氏所蔵）
　　明治三十三年三月廿四日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大江卓
　　　　創立委員御中
謹啓
爾来御健勝可被為在奉南山候、然ハ別紙三名連署ノ書ニ於テ委曲相尽候合同条約第十五条ニ対スル改正ノ儀ニ付テハ、頗ル重大ノ事柄ナル
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ヲ以テ、林公使トモ再三熟議ノ末、略々会社ノ都合ニ依リ外国人ニ便宜株式ヲ所有セシムル事ヲ得トノ韓廷ノ証言ヲ収メ置ク事ニ致候得共更ニ大ニ講究ヲ要スヘシトノ事ニテ公使ヨリモ改メテ政府ノ決意ヲ促スノ次第ト相成候ニ付テハ、委員諸君ニ於テモ定メテ篤クト御審議被為在候御事ニ可有之、御参考ノ一端ニモト存シ、愚見一通申陳致□間□□御一顧奉願上候
愚案ニ拠レハ、貴衆両院カ本鉄道速成ノ建議案ヲ議決シタル精神ト云ヒ国民ノ輿論カ本鉄道ノ布設ニ熱中スルノ意ト云ヒ、決シテ韓国ニ交通機関ヲ完備セシムルト云フ所謂世界主義ノ観念ニ出テタルニ非スシテ我国民ノ手ニ其布設ヲ完成シ、我国ニ其永遠ノ実権ヲ保有セントスル国家的観念ニ基ク所ト被存候、然ルニ今マ第十五条ヲ改正シテ外国人ニモ徧ク会社ノ株式ヲ所有スルヲ得セシムル事ト成スハ一見開放主義ノ精神ニ適候様ニハ御坐候得共、他日不幸ニシテ外国人ニ多数ノ権利ヲ占取セラレンカ、我国亦タ独力此鉄道ヲ利用スルコト能ハサルニ至ラン、果シテ然ラハ啻ニ議会ノ意向ト国民ノ希望トニ反スルノミナラス、我国将来ノ利害ヨリ打算シテ規約シタル大隈外務大臣ノ周到ナル注意ノ精神ヲモ没却シ、京仁鉄道ヲ米人ノ手ヨリ買収シタル国家的観念（若シ改正意見ヲ是認スルノ精神ヨリ云ハヽ京仁鉄道ノ資本主ノ如キ、米人ニマレ、露人ニマレ、我邦人カ交通機関ヲ使用スルノ上ニ於テハ決シテ差支ナキ筈ナレ、我々ハ何ヲ以テ其買収ヲ主張セシカ、我国民ハ如何ナル観念ヲ以テ百八拾万円ノ事後承諾ヲ遅滞ナク与ヘシカ、思ヘハ小生ノ愚見強チ所由ナキニ非ルヘシ）ヲモ忘却シタル事ト可相成、為国家鴻嘆此事ニ御坐候、殷鑑ハ遠カラス蘇西運河ノ顛末ニ在リ、仏国カ殆ント自国ノ経営ヲ以テ開鑿セル夫ノ蘇西ノ運河ヲ外交政略上及軍事上尤モ必要トスル場合ニ際シ端ナク英国ノ為メニ機先ヲ制セラレテ一夜ノ中ニ其株式ノ大部ヲ買収セラレ、遂ニ其自由行使権ヲ喪ヒ、最早今日ニ於テハ其船舶通過ノ上ニ於テ仏国モ土国モ日本モ差別ナキニ至リシ一史迹ハ、我々ノ深ク顧ミサルヲ得サル所ニ非スヤ且ツ夫レ外国人ハ決シテ隴ヲ得テ隴ニ安ンスヘキ者ニ非ス、彼一歩ヲ捗メハ更ニ一歩ヲ進メントシ、彼一段ヲ看スレハ更ニ一段ヲ摩セントス、固ヨリ其至情タリ、一旦之ニ株式所有ノ権ヲ許スノ端ヲ啓キタル以上ハ外人ハ更ニ進ンテ蜀ヲ得ントシ、業務担当ノ権ヲ握ルノ位地即役員中ニ一人若クハ二人ヲ列セサル以上ハ社債ニ応シ難シト要求スルニ至ルナキヤモ保スヘカラス、既ニ株式ヲ所有セシメテ其事業ノ盛衰ニ直接ノ関係ヲ有セシムル事ト相成候時ハ、外人ハ入リテ会社ノ役員ト成リ理事者ト成リ会社実際ノ業務ヲ見サルヘカラストノ口実ハ、我ニ於テ到底之ヲ拒ムニ難ク、結局外人ニ重役ノ一角ヲ占領セラレ、会社ノ機密ハ一トシテ保ツヘカラサルニ至ルヘシ、吾人ノ最モ畏ルヘキ某国政府カ其国人ノ名義ヲ以テ株式ノ分有ヲ申込ミ、甚シキニ至テハ如何ナル手段カヲ以テ社債ニ応シ株式ヲ所有シテ漸次ニ其実権ヲ掌握スル非念ヲ起スニ至ラハ、実ニ油々敷大事《（由）》タリ、斯クテ折角我国人ノ苦心経営ニ成リタル本鉄道モ其当初ノ目的ヲ遂クル能ハサルノミナラス、或ハ盗ニ鑰ヲ貸スノ場合ニ陥ラストモ限ラスシテ、前記仏国ノ覆轍ヲ踏ムカ如キ事アラハ、我々ハ世論ノ攻撃ハ差テ措キ、国家ニ対シ
 - 第16巻 p.410 -ページ画像 
其責ヲ免ル事能ハス、殊ニ恐ルヘキハ議会ノ建議ニ基キ会社ニ対スル政府諸般ノ命令ニ事後承諾ヲ得ン事蓋シ大ニ難カルヘク、若シ夫レ万一ニモ事後承諾ヲ得ル事能ハサル場合ニ於テハ政府ノ命令ハ効力ヲ失シ、単ニ第十五条ノ改正条項ノミ存シ、所謂虻蜂取ラスノ非境ヲ見ントス、彼是思ヒ来レハ、此儀ニ付テハ充分ノ省慮ヲ要スル事ト被愚考候、今日我邦新ニ条約ノ改正成リ、百事開放ノ方針ニ嚮フニ係ラス土地鉱山ノ所有権ノ如キハ尚ホ之ヲ外人ニ許サストスル世論ノ趨勢ニ非スヤ、京釜鉄道ノ如キ日韓貿易ノ関係以外ニ外交政略上及軍事上ノ意味ヲモ有セル鉄道ニ在リテハ、永ク其実権ヲ我ニ収メント欲スルハ是国民一般ノ希望ニシテ、此際若シ不幸我等創立委員ノ措置一歩ヲ誤リ百年亦タ回スヘカラサルノ大禍ヲ胎スカ如キ事アラハ、我等ハ当ニ何ノ面目ヲ以テ国家ニ対セントスルカ、小生ハ第十五条ノ改正ナクンハ絶対的ニ会社ノ成立ヲ得サルニ非ルヨリハ、自ラ進ンテ斯ノ如キ改正ヲ求メサルヲ得策ト存候、且ツ仮令此改正ヲシテ万已ムヲ得サル事ト成サシムルモ、之ヲ今日ニ決スルノ要ハ可無之、先以テ充分之ヲ避ケ得ルノ道ヲ講セラレン事祈望之至リニ不堪候
要之此際我等ハ渾テ国家永久ノ利害ヲ熟慮シテ事ヲ決スヘク、算一度失セハ邦家千年ノ大事ヲ誤ルニ至ルヘク、将来臍ヲ噬ムモ亦タ及フ莫ケン、以上申陳ノ事一見小事ニ似テ実ハ小事ニ非ス、京釜鉄道ノ前途之為メ延テハ我国永遠ノ利害ノ為メ充分御討議之程幾重ニモ奉願上候
拝具