デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

6章 対外事業
1節 韓国
2款 京釜鉄道株式会社
■綱文

第16巻 p.426-431(DK160062k) ページ画像

明治33年9月21日(1900年)

是日当会社創立委員等、株式払込金並ニ社債ニ対シ政府ヨリ補給利子ヲ下附セラレンコトヲ逓信大臣子爵芳川顕正ニ請願ス。二十七日許可セラレ補助特別命令書下ル。


■資料

京釜鉄道経営回顧録 竹内綱著 第四二―四四頁(DK160062k-0001)
第16巻 p.426-429 ページ画像

京釜鉄道経営回顧録 竹内綱著  第四二―四四頁
    京釜鉄道株式会社創立ニ付株式払込金並ニ社債ニ対スル利子補給ノ儀ニ付請願
京釜鉄道敷設ノ儀ニ付曩ニ私共ヨリ請願仕候次第モ御座候処、今般勅令第三百六十六号ヲ以テ特別ノ規程御制定相成候ニ付テハ右勅令ノ条項ニ準拠シ更ニ会社設立ノ申請可仕筈ニ有之候処、本鉄道ハ後来頗ル有望ナルニモ拘ラズ経済界不振ノ今日ニ在ツテハ政府ノ特別ノ御保護ヲ受クルニ非ザレバ株式募集ノ困難ナルハ必然ノコトヽ奉存候、依ツテ発起人等ハ政費御多端ノ場合ヲ顧ミズ本会社設立ニ必要ナル特別ノ御保護ヲ仰度候間、何卒株式払込金並ニ社債ニ対シ左ノ通利子御補給
 - 第16巻 p.427 -ページ画像 
被成下度奉願候
 第一 本会社資本金弐千五百万円ニ対シ政府ヨリ年六分ノ補給利子ヲ御下附被成下度候事
 第二 補給利子ハ株主ノ払込ミタル資本金額並ニ会社ノ募集シタル社債金額ニ対シ払込ノ翌月ヨリ満拾五年間御下附被成下度候事
 第三 補給利子ハ会社営業開始ノ日ヨリ株主ノ純益ガ年六分ニ満タサルトキニ限リ其不足額ノミヲ補給被成下度候事
右請願ノ通御聴許被成下候上ハ委員等尽瘁勉励本会社ヲ成立シ鉄道ノ速カニ成功致候様可仕候間、何卒至急御詮議被下度別紙韓国政府トノ合同契約謄本相添此段奉請願候也
  明治三十三年九月廿一日   京釜鉄道株式会社創立委員
                      中野武営
                      日下義雄
                      竹内綱
                      佐々友房
                      前島密
                      尾崎三良
                      渋沢栄一
    逓信大臣子爵芳川顕正殿
秘発第二七八二号
                京釜鉄道株式会社発起人
                   男爵 渋沢栄一
                       外六名
明治三十三年九月出願京釜鉄道株式補助ノ件ハ左ノ通心得ヘシ
第一条 其社ハ明治三十一年九月八日附ヲ以テ韓国政府ヨリ得タル京釜鉄道敷設条件ニ基キ韓国京城・釜山間ニ鉄道ヲ敷設シ運輸ノ業ヲ営ムヲ以テ目的トスヘシ
 其社ノ線路ハ京城若クハ其附近ニ於テ京仁鉄道ノ線路ニ接続シ釜山ニ於テ海岸ニ達シ海陸運輸ノ連絡ニ必要ナル設備ヲ為スヘシ
 旅客ノ宿泊食事及貨物貯蔵ノ用ニ供スル設備ヲ必要トスル停車場ニ於テハ之ガ設備ヲ為スヘシ
第二条 其社ノ資本総額ハ弐千五百万円トス
第三条 発起人総員ハ少クトモ第一回募集額ニ対スル株金ノ十分ノ二ヲ引受クヘシ
第四条 其社設立登記ノ日ヨリ起算シ十五箇年間ハ、運輸開始前ニ在リテハ払込株金(額面ヲ越ユル払込金額ヲ除ク)ニ対シ一箇年六分ノ利子ヲ下付シ、運輸開始(一部ノ開始亦同シ)ノ後其社ノ利益一箇年六分ニ達セサルトキハ政府ハ其ノ六分ニ達スル迄其不足ヲ補給スヘシ、利子補給額ハ如何ナル場合ト雖株金払込総額(額面ヲ超ユル払込金額ヲ除ク)ノ年六分ニ相当スル金額ヲ限度トス
第五条 補給利子ハ其社設立登記前ノ株金払込額ニ対シテハ設立登記ノ日ヨリ、其登記後ノ払込額ニ対シテハ其払込登記ノ翌月ヨリ之ヲ下付ス
第六条 第四条ニ於ケル其社ノ利益ヲ計算スル場合ニハ法定ノ準備積
 - 第16巻 p.428 -ページ画像 
立金ヲ控除シテ之ヲ計算ス、社債ノ利子ハ営業費中ニ之ヲ算入セス
第七条 其社ガ社債ヲ発行シタルトキハ、其払込登記ノ翌月ヨリ其社カ社債ニ附シタル利子ト同一ノ割合ヲ以テ政府ヨリ利子ヲ補給ス、但シ其補給額ハ現在社債ノ額面ニ対シ、年六分ニ相当スル金額ヲ限度トス
 利子ヲ補給スヘキ社債ハ鉄道竣工期限迄ニ発行シタルモノニ限ル、但シ低利借替ノ場合ハ此限リニ在ラス
 利子補給期限ハ社債払込登記ノ日ヨリ起算シ十五箇年トス、但シ前項但書ノ場合ニ於ケル借替社債ニ対スル利子補給期限ハ元社債利子補給ノ年月ヲ通算シテ十五年トス
第八条 政府ガ利子ヲ補給スヘキ株金及社債ハ合シテ弐千五百万円ヲ限度トス
第九条 其社ノ払込株金(額面ヲ超ユル払込金額ヲ除ク)ニ対スル利益一箇年六分ヲ超過スルトキハ其超過ノ金額ハ社債ノ利子ニ之ヲ充当スヘシ、此場合ニ於テハ第七条ニ依リ政府ヨリ補給スヘキ金額ハ該充当額ヲ控除シテ之ヲ下付ス
第十条 其社ハ毎年度払込ムヘキ株金及募集スヘキ社債金ノ予算、社債発行ノ価額又ハ其最低価額及社債ノ利率ヲ定メ予メ政府ノ認可ヲ受クヘシ
第十一条 第九条ニ依リ利益ヲ社債ノ利子ニ充当シ因リテ第七条ノ補給ヲ要セサルニ至リタルトキ尚利益ノ過剰アルトキハ払込株式(額面ヲ超ユル払込金額ヲ除ク)ニ対スル二分ヲ控除シ、其残額ノ一半ハ既ニ政府ヨリ受ケタル補給金ノ償還ヲ終ル迄政府ニ納付スヘシ、社債ヲ発行セサル場合ニ於テ政府ノ利子ヲ補給スル株金資本ニ対スル利益一箇年八分ヲ超過スルトキ亦同シ
第十二条 其社ハ予算、決算及会計並ニ営業ニ関スル規程ヲ定メ政府ノ認可ヲ受クヘシ、之ヲ変更スルトキ亦同シ
第十三条 其社毎事業年度ノ工費予算及営業収支ノ予算ハ予メ政府ノ認可ヲ受クヘシ、之ヲ変更スルトキ亦同シ
第十四条 其社ハ毎月前月中ノ工事費及営業収支ノ現況、及事業年度毎ニ其年度ノ工事費及営業収支ノ決算並ニ一般事業ノ実況ヲ政府ニ報告スヘシ
第十五条 其社重役ノ任命ハ政府ノ認可ヲ受クヘシ
第十六条 其社ハ政府ノ許可ヲ受クルニ非サレハ鉄道敷設権若クハ営業権ヲ他ニ移転シ、営業ノ管理委託ヲ為シ鉄道及附属物件ヲ譲渡シ貸付シ、若クハ之ヲ質抵当トシテ負債ヲ為スコトヲ得ス
第十七条 其社ハ兵乱一揆ノ避難者及其救護ニ要スル人員・物件又ハ凶年ニ於ケル食料品ハ必要ノ時期ニ他ノ輸送ニ先チ之ヲ輸送スヘシ前項ノ運賃・移住民出稼人夫ノ運賃ハ特別ニ割引ヲ命スルコトアルヘシ
第十八条 政府ハ必要ト認ムルトキハ帝国ノ鉄道及私設鉄道株式会社ニ実施スル法令ノ規程ヲ其社ニ適用ス
 前項ノ場合ニ於テハ政府ハ予メ適用スヘキ法令ノ条項ヲ其社ニ示達ス
 - 第16巻 p.429 -ページ画像 
第十九条 其社ニ於テ本命令書ニ違反スルトキハ政府ハ利子ノ補給ヲ停止シ又ハ廃止スルコトアルヘシ
第二十条 本命令書中利子補給ニ関スル条項ハ帝国議会ノ協賛ヲ経テ確定スルモノトス
 本命令書承諾ノ上ハ請書提出スヘシ
  明治三十三年九月二十七日
             逓信大臣子爵 芳川顕正
             大蔵大臣伯爵 松方正義
             外務大臣子爵 青木周蔵


築京釜鉄道記 竹内綱手記(DK160062k-0002)
第16巻 p.429 ページ画像

築京釜鉄道記 竹内綱手記          (竹内広氏所蔵)
同○明治三十三年七月三十一日京釜鉄道株式会社特別保護ニ付請願書芳川逓信大臣ニ提出ス
  ○請願書略ス。
特別保護ノ条件ニ対シ政府ノ議一定セルニ依リ此請願書提出セリ、是ヨリ先キニ政府本件商議ノ為メ、大蔵次官阪谷芳郎・陸軍次官中村雄次郎・逓信次官古市公威ヲ委員トシ発起委員渋沢ト数次会同シ、補助命令案ヲ議定セリ、特別保護ノ条件ハ商議ヲ終リシモ松方大蔵大臣補給利子ヲ年五分トスヘシトノ意見ナリシカ為メ補助命令書之閣議決定ニ至ラス、委員等ハ現時経済界之情況ハ迚モ年五分利之補給ヲ以テ株式募集ノ見込ミナキヲ以テ総理大臣ノ邸ニ外務・大蔵・逓信三大臣ノ会同ヲ請ヒ懇請(スル《セリ》所アリ而ル後本請願書ヲ提出セリ)
同九月二十九日政府《(マヽ)》ヨリ京釜鉄道株式会社補助命令ヲ交付セラル
十八日利子補給請願書提出前後ニ於テ、委員等ハ頻々切迫ノ懇請ヲナシ漸ク閣議ノ決定ニ至リシモ、山県総理ハ辞表ヲ捧呈シ(伊藤侯ニ内閣組織ヲ命セラルルニ《内閣交替セラレントスルニ》)際シ補助命令ハ未交付セラレハ《(ス)》委員等ノ痛心措ク所ヲ知ラサリシカ、山県総理ノ深慮ニ因リ漸ク命令書ヲ交付セラルヽニ至レリ
  ○右命令書中利子補給ニ関スル条項ハ翌明治三十四年三月ソノ予算案可決セラレテ確定ス。本款明治三十四年三月二十一日ノ条(第四三八頁)参照。


東京経済雑誌 第四二巻第一〇五〇号・第七五六頁明治三三年一〇月六日 ○京釜鉄道に対する国庫補助(DK160062k-0003)
第16巻 p.429 ページ画像

東京経済雑誌  第四二巻第一〇五〇号・第七五六頁明治三三年一〇月六日
    ○京釜鉄道に対する国庫補助
京釜鉄道に対する国庫補助額に付ては、政府当局者と同会社創立委員との間に於ける交渉円熟せず、為めに久しく未定の有様なりしが、此頃に至り漸く双方の下相談も相纏り、近日の閣議にて之に対する命令条件等を決定したる次第なるが、同係件《(条)》には京釜鉄道の起工期及び進行期・軌道の制限等に付ても規定する処あり、或る区域間の竣工を待ち始めて国庫より補助を交付し、其後は漸次竣工に従て補助金も増加するの方法なる由にて、工事完成の暁に至らば一ケ年約百五十万円の補助額となる計算なりと云ふ


東京経済雑誌 第四二巻第一〇五〇号・第七三三―七三四頁明治三三年一〇月六日 ○京釜鉄道の命令条件(DK160062k-0004)
第16巻 p.429-431 ページ画像

東京経済雑誌  第四二巻第一〇五〇号・第七三三―七三四頁明治三三年一〇月六日
    ○京釜鉄道の命令条件
 - 第16巻 p.430 -ページ画像 
京釜鉄道の特許は幾多交渉の結果終に明治三十一年九月を以て本邦資本家の手に落ちたり、然るに我が邦経済界の不況と海外に於る企業とは株金の募集をして困難ならしめしかば、第十四議会は帝国臣民にして外国に於て鉄道を敷設し、運輸業を営まむ為に、帝国内に於て設立する会社に付ては、勅令を以て特別の規定を設け之に準拠せしむることを得と云へる特別法を制定し、政府は此の法律に基きて勅令を発布し、会社は資本総額を数回に分ちて募集することを得、但し第一回募集額は資本総額の五分の一を下ることを得ず、株金の第一回の払込金額は株金の十分の一まで下ることを得、社債総額は、払込株金額の十倍に至ることを得、但し其の額は資本総額の五分の四を超過することを得ずと云ふが如き特別の規定を設け、尚発起人渋沢男爵外六名に対して国庫補助に関し命令書を交付せり、其の要額左《(項)》の如し
 其社は明治三十一年九月八日付を以て韓国政府より得たる京釜鉄道敷設条件に基き韓国京城・釜山間に鉄道を敷設し、運輸業を営むを以て目的とすべし
 其社の線路は京城若くは其附近に於て京仁鉄道の線路に接続し、釜山に於て海岸に達し、海陸運輸の連絡に必要なる設備を為すべし、旅客の宿泊食事及貨物貯蔵の用に供する設備を必要とする停車場に於ては之が設備を為すべし
 其社の資本総額は二千五百万円とす
 発起人総員は少くとも第一回募集額に対する株金の十分の二を引受くべし
 其社設立登記の日より起算し、十五箇年間は運輸開始前に在り払込株金(額面を超ゆる払込金額を除く)に対し一ケ年六分の利子を下附し、運輸開始(一部開始亦同じ)の後其社の利益一箇年六分に達せざるときは、政府は六分に達する迄其不足を補給すべし
 利子補給額は如何なる場合と雖も、株金払込総額(額面を超ゆる払込金額を除く)の年六分に相当する金額を限度とす、其社が社債を発行したるときは、其払込登記の翌月より其社が社債に附したる利子と同一の割合を以て、政府より利子を補給す、但し其補給額は現在社債の額面に対し年六分に相当する金額を限度とす
 利子を補給すべき社債は鉄道竣工期限迄に発行したるものに限る、但し低利借替の場合は此限に在らず、利子補給期限は社債払込登記の日より起算し十五箇年とす、但し前項但書の場合に於ける借替社債に対する利子補給期限は元社債利子補給の年月を概算として十五箇年とす
 政府が利子を補給すべき株金及社債は合して二千五百万円を限度とす
 其社の払込株金(額面を超ゆる払込金額を除く)に対する利益一箇年六分を超過するときは、其超過の金額は社債の利子に之を充当すべし、此場合に於ては政府より補給すべき該金額の充当額は控除して之を下附す
 利益を社債の利子に充当し、因て補給を要せざるに至りたるとき、尚利益の過剰あるときは払込株金(額面を超ゆる払込金額を除く)
 - 第16巻 p.431 -ページ画像 
に対する二分を控除し、其残額の一半は既に政府より受けたる補給の償還を終る迄政府に納付すべし、社債を発行せざる場合に於て、政府の利子を補給する株金資本に対する利益一ケ年八分を超過するとき亦同じ
六分の利子補給を株金のみならず、社債にまで及ぼしたるは特典なりと謂ふべし、而して来十三日を以て発起人総会を開き、株式募集其他事業進行に就き協議する由なるが、同社の総株数は五十万株にして第一回募集は十万株とし、之に対し一株金五円宛を払込ましむれば会社は成立し、払込金十倍の社債を起し工事に着手する手続きなり、而して第一回応募者は次の株式申込みに対し優先権を有するを以て、経済界不振の折柄なる今日と雖も応募者は多かるべし、韓国政府亦公文書にて若干の引受けを申込みたる由なり、余輩は速に起業に至らんことを希望するものなり