デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治33年10月13日（1900年）

是日栄一、当会社発起人総会ニ臨ミ仮定款ヲ議決シ引受株数ヲ定ム。爾来株式募集ノタメ前島密ト共ニ東京及ビ其近傍ノ地区ヲ分担シ勧説ニ努メ、翌三十四年三月ニ及ブ。

東京経済雑誌　　第四二巻第一〇五三号・第九三六頁明治三三年一〇月二七日
○京釜鉄道発起人会　去る十三日午後一時より東京商業会議所内に開会、渋沢創立委員長先づ廿七年以来の経過を述べ、次に竹内綱氏の渡韓実測報告、日下義雄氏の会計報告、尾崎三郎氏《（尾崎三良）》の演説等あり、それより仮定款を議定し、株式募集・線路選定・設計予算等諸般の処置を創立委員に一任する事を議決し、最後に朝比奈知泉氏より創立委員に対する謝辞を述べ渋沢委員長より答辞を述べて五時半頃閉会したり、其跡にて発起人の主なる者は各持株の協議を為したるが総株数十万に対し渋沢・馬越・益田・田代・中野（武営）・井上の諸氏は各千株内外を引受くる事として直ちに一万百株の申込額に達したり、扨此鉄道は来年六月迄に布設に着手すべき約定なれば此際取急ぎて株式募集をなし、本年中に創立総会を開かん筈なり、猶聞く所によれば韓国帝室も二三千株の引受を為すべき内約なりといふ
　　○右ノ京釜鉄道株式会社発起人総会開催ノ月日「朝鮮鉄道史」第八八頁及ビ「朝鮮鉄道史」第一巻第八〇頁ハ十月三日トシ「京釜鉄道経営回顧録」ハ九月十三日トナス、共ニ誤ナリ、「築京釜鉄道記」ニハ十月十三日トアリ。

築京釜鉄道記　竹内綱手記　　　　　　　　　（竹内広氏所蔵）
（同○明治三十三年十月十三日発起人総会ヲ開キ会社仮定款・興業費費予算株式募集《（衍）》・創立総会招集ノ件ヲ議決ス）
此議決ニ因リ第一回株式募集ニ着手セリ、然ルニ経済界ハ頗ル悲況ニ沈淪スルノミナラス補助命令ハ交付セラレタルモ、補給利子ハ帝国議会ノ協賛ヲ経テ始メテ確定スルモノナレハ、議会ノ形勢判然セサルニ
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先タチ東京・大阪等経済上敏捷ノ感触ヲ有スル都市ニ於テハ別シテ之ヲ危フム等ノ事情アリ、株式ノ募集頗ル困難ナリ、是ニ於テ委員等ハ都鄙ノ別ナク大ニ国民ノ国家観ニ訴エ、広ク全国ニ巡回勧誘ノ決心ヲ以テ先ツ各府県商業会議所・各地銀行・地方ノ有力者ニ京釜鉄道株式会社ノ趣意書及依頼状ヲ贈リ、募集員十余名ヲ雇用シ尾崎ハ中国・四国、日下ハ東北及京阪、竹内ハ九州、渋沢・前嶋ハ東京及東京近傍ヲ受ケ持チ各到処ニ府県庁・郡役所・商業会議所等官民ノ別ナク個人ニ会衆ニ到処ニ遊説ヲナセリ

渋沢栄一書翰　　萩原源太郎宛（明治三三年）一〇月一二日　　　（萩原英一氏所蔵）
○上略
京釜鉄道株式募集之事ニ付市内資産家之人名取調方御依頼申上候筈ニ御坐候、可然御考定被下御示相成度候、右等当用申上度　匆々不一
　　十月十二日
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　萩原源太郎様

渋沢栄一　日記　明治三三年　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
十二月十二日《（衍）》　曇
○上略　午後五時帝国ホテルニ抵リ、京釜鉄道会社発起人中重立タル人々ヲ会合ス、馬越・田中・根津・岩出・園田等ノ数名来会ス、依テ他ノ創立委員ト共ニ、爾来ノ沿革ヲ話ス、会社成立ニ助力セラレン事ヲ乞フ、一同賛成ノ意ヲ述ヘラル、畢テ午後七時韓国公使趙秉式ノ招宴ニ列ス、各国公使及我軍人外務官等十数人来会ス、夜十時兜町ニ帰宿ス
十月十三日　曇
午前数多ノ来人ニ接ス、午前十一時第一銀行ニ出勤ス、十二時商業会議所ニ抵リ、京釜鉄道会社発起人会ニ列ス、午後二時後開会、先ツ二十九年来ノ経歴ヲ叙シ更ニ日下義雄氏ヨリ会計ノ事ヲ略叙シ、竹内綱氏ヨリ韓国滞在中ノ景況其他ノ要務ヲ述ヘ、笠井愛次郎氏ヨリ線路実測ノ概況ヲ報告シ、畢テ議事ニ入リ尾崎三良氏ヨリ定款ノ事ヲ略陳シ議事ハ総テ原案ニ可決シ、畢テ発起人ハ各其引受株高ヲ定メテ午後五時散会ス○下略
　　○中略。
十月廿八日　曇
○上略　午後一時白耳義人ウーターヲ帝国ホテルニ訪ヒ京釜鉄道ノ件ヲ談話ス、日下義雄氏来会ス、畢テ京釜鉄道委員会ヲ開キ要件ヲ協議ス、前島・日下及書記来会ス、五時岡部子爵・近衛公爵来会ス、華族諸公ニ京釜鉄道株式勧募ノ事ヲ協議ス、夜九時過兜町ニ帰宿ス
十月廿九日　晴
午前数多ノ来人ニ接ス、十時日本銀行ニ抵リ山本総裁ニ面会シテ韓国渡航ノ事及其他ノ要話ヲ為ス、岩崎弥之助ヲ訪ヒ京釜鉄道株式引受ノ事ヲ依頼ス、十一時赤坂御所ニ抵リ片山博士ニ面会シテ美術館建築ノ事ヲ依頼ス、去ツテ官内省ニ抵リ田中大臣ニ面会シテ同シク美術館建築地決定ノ事及京釜鉄道株式帝室御所有ノ事ヲ依頼ス○下略
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　　○中略。
十二月廿八日　晴
午前八時渡辺大蔵大臣ヲ永田町官邸ニ訪ヒ、韓国滞在中ノ要務ヲ詳話ス、京仁鉄道ノ事ヲモ談話ス、十一時逓信省ニ抵リ田総務長官ニ面会シテ韓国ノ事ヲ談ス、宮内省ニ抵リ大臣及渡辺内蔵頭ニ面会シテ京釜鉄道株式ヲ帝室ニ於テ御所有アラン事ヲ懇請ス○下略

朝鮮鉄道史　朝鮮総督府鉄道局編　　第八八―九〇頁大正四年一〇月刊
　○第一期　第二章　京釜鉄道
　　　　第二節　京釜鉄道株式会社
○上略　仍テ十月三日発起人総会《（十三）》ヲ開キ曩ニ締結セル京釜鉄道会社発起人契約書第三項ニ基キテ仮定款ヲ決定シタル後、左ノ諸件ヲ創立委員ニ委任セリ
　一株式募集ニ関スル一切ノ件
　一線路選定及ヒ設計予算ヲ定ムル件
　一創立総会招集ノ件
　一右ノ外創立ニ必要ナル凡テノ事件ヲ処理スルコト
而シテ当日決定セラレタル会社計画ニ依レハ（一）資本金ハ二千五百万円トシ、最初五百万円ニ当ル株式ヲ募集シ漸次必要ニ応シテ増募スヘク（二）株式ハ一株五十円トシ最初ノ総株数ハ十万株ニシテ漸次増加シ五十万株ト為スヘク（三）株金ノ払込ハ一株ニ付キ五円トシ第二回以下ハ事業ノ必要ニ応シ重役会議ニ於テ其ノ払込金額及ヒ期限ヲ定メ、少クトモ六十日前ニ各株主ニ通知スルモノトシ、一株ノ払込金ハ毎回五円ヲ超エサルモノトセリ、仍テ創立委員ハ此ノ計画ニ基キテ株式募集ニ著手セントシ十一月十九日先ツ発起人ノ引受株ヲ定メタルニ、其ノ数三万三千三十五株其ノ人員百九十名ナリシヲ以テ株式申込証ヲ調製シテ一般株主ノ募集ニ著手セリ、然モ経済界ノ沈滞依然タルモノアリ、依テ委員ハ国民ノ国家的観念ニ訴ヘ都鄙ノ別ナク広ク全国ヨリ株主ヲ募集セントシ、翌三十四年一月常務委員日下義雄ハ東海道諸県並ニ畿内地方ヘ出張シ、翌月更ニ常務委員尾崎三良ハ中国諸県ヘ、同竹内綱ハ九州地方ヘ、事務員馬渡新五郎ハ東北及ヒ北海道地方ヘ何レモ出張シ遊説スル所アリ、渋沢・前嶋両委員亦東京及ヒ東京附近ヲ担任シ、其ノ他全国各新聞社又ハ商業会議所ニ対シ株式応募ノ勧誘ヲ依頼シ、或ハ重ナル華族諸家ニ其ノ賛同ヲ求ムル等種々ノ方法ヲ尽シテ株式募集ニ努メタルヲ以テ、三月ニ至リ第一回株式（十万株）募集ノ締切ヲ為シタル結果、下ノ如キ好成績ヲ示スヲ得タリ
　応募総数二十万九千二百五十一株
　　　　内訳
　　　一千株　　　　　　　　　　　帝室御持株
　　　三千五百株　　　　　　　　　韓室御持株
　　　　三万三千三十五株　　　　　　発起人引受株
　　　　十七万千七百十六株　　　　　普通申込株
　　　　　内
　　　　六万二千四百六十五株　　　　普通申込人引受株
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　　　　十万九千二百五十一株　　　　普通申込株超過ニ付キ按分此例ヲ以テ逓減控除シタル分
○下略

東京経済雑誌　　第四二巻第一〇六一号・第一三八七頁明治三三年一二月二二日
○京釜鉄道株式募集景況　京釜鉄道会社は会長渋沢栄一男の韓国より帰京ありしを以て、去十五日帝国ホテルに発起人委員会を開会し、渋沢男より韓国に於ける同鉄道に対する種々の報告あり、今後に於ける運動方法等を協議したるが、同会社内地発起人の確定株数は三万二千株にして、既に去十日一株に付一円宛の証拠金を領収せし由にて、韓国に於ける韓国皇室の御所有株、発起人持株を合せ合計約四万株に達す可き見込なれば、公衆より募集す可きは約六万株となる可く、既に公衆にして応募申込を為したるもの四五千株ありと云へば其満株に達せしむるは左程難事にあらざらん

渋沢栄一　日記　明治三四年　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
一月廿四日　曇
○上略　午後四時帝国ホテルニ抵リ、京釜鉄道株式募集ノ為各地商業会議所出京員ヲ招キ会社成立ニ至ルノ経過ヲ述ヘ株式引受ノ事ヲ勧募ス、畢テ共ニ晩餐ヲ供シ食卓上商業会議所ニ関スル演説ヲ為ス○下略
　　○中略。
一月三十一日　曇
○上略　午後一時滊車製造合資会社々員会ニ出席ス、更ニ帝国ホテルニ抵リ京釜鉄道株式募集ノ事ニ付華族ノ人々ヲ会シテ勧募ノ演説ヲ為ス、近衛公爵・岡部子爵其他十数名来会ス、尾崎・竹内・大江・大三輪ノ諸氏来会ス○下略
　　○中略。
二月十六日　晴
午前京釜鉄道会社ノ事ニ関シ東北又ハ北越地方有力者ニ書状ヲ発セシメ、株式加入ノ事ヲ勧募ス○下略
　　○中略。
二月廿三日　晴
○上略　加藤外務大臣ニ面会シテ京釜鉄道ノ事ヲ談ス、帰途宮内省ニ抵リ渡辺内蔵頭ニ面会シテ京釜鉄道株式帝室ニテ御引受ノ事ヲ依頼ス○下略
　　○中略。
二月廿五日　雪
○上略　午後五時華族会館ニ抵リ京釜鉄道株式勧募ノ事ニ関シ貴族院議員中多額納税者ヲ会シ、勧誘ノ演説ヲ為ス、夜九時兜町ニ帰宿ス○下略
　　○中略。
三月二日　晴
○上略　午後五時有楽会ニ出席ス、梅田横浜市長来リ京釜鉄道株式募集ノ事ヲ談ス○下略
　　○中略。
三月九日　晴
午前八時半山県侯爵ヲ目白邸ニ訪ヒ、京釜鉄道株帝室御持ノ事ヲ依頼
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ス○下略
　　○中略。
三月十四日　晴
午前数多ノ来人ニ接ス、午後原逓信大臣ヲ官舎ニ訪ヒ京釜鉄道ノ事ヲ談ス、宮内省ニ抵リ田中大臣ニ面会シテ京釜鉄道株ノ事ヲ談ス○中略此夜尾崎・竹内・日下・井上・佐々・一森ノ諸氏来会シ、京釜鉄道会社事業進行ノ順序及役員組織ノ事ヲ熟議ス

東京商業会議所月報　　第九九号　明治三三年一二月刊
拝啓陳ハ京釜鉄道会社設立ノ儀追々進行致シ、已ニ発起人持株モ法定ノ員数ニ相達候ニ付、近日一般株主募集ニ着手可致筈ニ有之候処、元来本鉄道ハ啻ニ営利上ノ目的ノミニテ発起セシモノニ無之、日韓貿易上是非我国民ニシテ経営セサルヘカラサル事業タルノ観念ヲ以テ創立セシモノニシテ、帝国議会ニ於テハ此義ヲ賛同シ、速成ヲ期スルノ建議ヲ決議シ、政府ニ於テモ此趣旨ヲ賛助セラレ特別保護ノ勅令及命令ヲ発セラレタル次第ニ有之候、就テハ小数ノ大株主ヨリハ多数ノ株主ヲ広ク全国ヨリ募集致度精神ニ有之候間、何卒貴会議所ニ於テモ我々ノ微衷帝国議会及政府ノ主意ヲ賛同セラレ、当地商工業者ニ於テモ此主意ヲ賛同シ、速ニ本事業ヲ成功セシムル為メ可成御協力株式募集ニ応セラレ候様御勧誘被成下度御依頼仕候、猶本鉄道線路実測ノ情況及将来営利ノ見込等御聞糺ノ必要アラハ御照会次第実地心得候委員又ハ技師等差出シ説明可為致申候、依テ本鉄道創立ニ関スル説明書・合同条約・法令及定款各五部相添此段御依頼仕候也　敬具
　　明治三十三年十一月九日
　　　　　　　　　　　　　　　　京釜鉄道株式会社創立委員
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　佐々友房
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　前島密
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　日下義雄
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　男爵　尾崎三良
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大江卓
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大倉喜八郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　井上角五郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中野武営
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　竹内綱
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　男爵　渋沢栄一
　　東京商業会議所
　　　　会頭　男爵　渋沢栄一殿

東京商業会議所報告　　第一〇〇号　明治三四年二月
○第三号
　明治三十三年十二月二十六日附ヲ以テ京釜鉄道株式会社ヨリ照会ノ件ニ付大阪外五十五会議所ヘ発送セル照会書全文ハ左ノ如シ
今般京釜鉄道株式会社創立委員ヨリ別紙ノ通リ本会議所ヘ請求有之候ニ付、本会議所ニ於テ審議ヲ遂候処元来右会社ノ義ハ普通ノ営利会社
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ト異リ、国家経済上最モ必要ナル機関ニシテ我カ商工業者ノ忽視スヘカラサルコトヽ存候ニ付、本会議所ニ於テハ其請求ヲ容レ当市内商工業者ニ向テ其注意ヲ喚起候筈ニ有之候間、此段別紙ヲ添ヘ為念及通知候也
　　明治三十三年十二月二十六日
　　　　　　　　　　　東京商業会議所　会頭　渋沢栄一
　　　　各地商業会議所宛（各通）
　　　　　（別紙ハ前号議案第三号ト同一ニ付略ス）

株式会社第一銀行京城支店所蔵文書
拝啓益御清栄奉賀候、陳者本会社株式募集ニ付テハ前日来不容易御配慮被成下候処御蔭ヲ以テ意外ノ好結果ヲ得テ其総額並ニ申込種類ハ左記ノ通ニ有之候
一弐拾万九千弐百五拾壱株　　　　　株式申込総額
　　　内
　　壱千株　　　　　　　　　　　　　帝室御持株
　　参千五百株　　　　　　　　　　　韓国帝室御持株
　　参万参千〇参拾五株　　　　　　　発起人引受株
　　小計参万七千五百参拾五株
　差引拾七万壱千七百拾六株　　　　　普通申込額
右普通申込額ヲ以テ募集額六万弐千四百六拾五株（前記参万七千五百参拾五株ヲ加フレバ拾万株トナル）ニ比スレハ二倍七分四厘九毛トナリ、按分比例ヲ以テ逓減スレハ即チ壱千株ノ申込ニ対シ三百六拾四株ノ割合ニシテ四捨五入ノ算法ヲ用ヰ結局別紙ノ通確定致候間左様御承知相成度候、就テハ第一回払込金五円ノ内已ニ証拠金トシテ受取済ノ分ヲ控除シ、不足分ハ本月三十日迄ニ払込ノ事ニ通知致置候間、右払込金ハ別紙手続ニヨリ御取扱被下候様致度、領収証用紙ハ別便ヲ以テ送付シ御依頼旁此段御通知申上候也
　　明治三十四年四月十日
　　　　　　　　　　　　　　　　京釜鉄道株式会社創立事務所
　　　　第一銀行京城出張所　御中
　　○別紙京釜鉄道株式会社株式申込株及ビ逓減確定株対照表・京釜鉄道株式会社株金第壱回払込金銀行取扱手続略ス。

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冊子版の『渋沢栄一伝記資料』をご参照ください。

伊藤公全集　小松緑編　　第一巻・第七九―八〇頁昭和三年八月刊
　　明治三十一年九月日韓両国の間に成立したる京釜鉄道合同条約に基づき我に於て同鉄道を敷設することゝなれるとき、皇室の株式御所有に関し田中宮相に送りし書翰
　京釜鉄道株宮内省に於ても御所有相成度との情願は既に御承知之事と存候処、昨夜岡部長職面会之節内話有之、閣下へ申入もらひ度と申事は、第一右鉄道株御所有相成事と御決定に候得ば千株弐千株位之事なれば寧ろ御止め相成度、少く共五千株可成一万株に相願度、右不被行候得は精神的之御奨励に御止め相成可然と云にあり、精神的とは其社長たる渋沢栄一御呼出之上、株券御所有之事は宮内省に於て御都合有之難相叶候得共、右事業は為国家必要之事にて精々尽力可致と申事に御申伝相成度と云にあり
　右岡部子爵の閣下へ申入呉候様との依頼に有之候
　別紙岡部之書翰併而供貴覧候、為其早々頓首
　　三月六日　　　　　　　　　　　　　　　　　　博文
　　　　宮内大臣殿

公爵山県有朋伝　徳富猪一郎編　　下巻・第三九四頁昭和八年二月刊
朶雲落掌益御清福万賀、扨東宮妃殿下御妊娠之旨被仰聞深謝、実に皇家之御繁栄御同慶之至に奉存候、曾而京釜鉄道架設に付帝室より御持株之事御談合致し置候処其後御詮議振如何相運ひ居候哉、此際多少に不拘御持株御裁決相願度候、京釜一貫之鉄路は両国商業上非常之発達を可期は必然に候、随而将来我国之利益不尠而已ならす政治軍略上に於ても国家安泰を維持する効力又不可測知、此一事件は為国家御断行所願候、鉄道之性質より論ずれは新領土とは主義を異にするも利害は
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之と同うするものと判断せさる可らす、就而は一般之奨励を要する為十分御尽力祈居候○下略
　　十二月十七日○明治三三年　　　　京都　無隣庵主　有朋
　　　　青山将軍○当時ノ宮内大臣田中光顕
　　　　　　　　幕下

中外商業新報　　第五六九九号　明治三四年一月二六日
　　　　渋沢男爵の演説
京釜株式会社が去廿四日帝国ホテルに於て全国商業会議所来会員を招待したる節、渋沢男爵か東京商業会議所会頭として演説したる大要左の如し
　○上略　経済界の困難は御互に之を知らざるにあらざりしも昨年々初まては左程とは思はざりしが、其後の景況によれは中々捨て置き難き事実ありて、今日に於ては只緩和剤のみを以て之を救済し得らるゝや甚だ気遣はしく、仮令へ劇剤とは云はさるも、外科なれは切開術内科なれは「キニー子」療法位は是非とも之を行はさるへからす、是れ東京商業会議所か審議の末今回臨時商業会議所聯合会の開設に当り内国公債を償還し鉄道を買収すると同時に幣制を改良するの案を提出したる所以なり、之を要するに小生等は今日に於て兎に角に経済界の病躰が曩に診察したるより余程重症なりしことを認むるに至れり、願はくは諸君に於ても充分に審議を遂けられ此案の趣旨に賛成せられんことを云々

渋沢栄一書翰　　萩原源太郎宛（明治三四年）一月三一日　　　（萩原英一氏所蔵）
拝啓然者本日之臨時総会ニハ是非出席仕度と存候処、曾而京釜鉄道之為帝国ホテルニ於て華族之方々来会候約束有之、小生之名を以て案内致候次第ニ付何分其方欠席仕兼候、就而ハ大倉君ヘ前以御申通し被下御繰合相成候様御取計可被下候、右之段一書申上度　匆々拝具
　　一月卅一日　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　萩原源太郎様