デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治35年12月30日（1902年）

是ヨリ先、当会社ヲ京釜鉄道株式会社ニ合併セントスル議起リ、栄一両社ノ間ニ斡旋ス。是日合併仮契約締結成ル。

朝鮮鉄道史　朝鮮総督府鉄道局編　　第一一二―一一四頁　大正四年一〇月刊
　○第一期　第二章　京釜鉄道
　　　　第四節　京仁鉄道ノ買収
　京仁鉄道引受組合ハ、既ニ述ヘタル如ク、京釜鉄道計画ノ副産物トシテ発生シタルモノニシテ、京釜・京仁二鉄道ハ其ノ性質ヨリ見ルモ主従ノ関係ヲ有シ、結局ニ於テ同一経営ニ移ルヘキ運命ヲ有スルモノナリキ、是ヲ以テ京釜鉄道ノ工事ニ著手スルニ至ルマテハ、両者ノ間何等具体的交渉ヲ生セサリシモ、工事ノ進捗ニ伴ヒ、或ハ材料ノ輸送ニ、或ハ永登浦停車場ノ共用ニ、漸ク其ノ関係密接ノ度ヲ加ヘタルヲ以テ、両社幹部ノ間ニ於テモ、統一経営ヲ実現スヘキ時機熟セリトナシ、合併ニ関スル協議ヲ進メタリシカ、遂ニ三十五年十二月三十日合併仮契約ヲ締結スルニ至レリ、合併条件ハ左ノ如シ
　一京仁鉄道合資会社ハ明治三十五年十二月三十一日現在一切ノ資産（現金ヲ除ク）及ヒ営業権ヲ、同社ノ原簿ニ登録セル前記資産ノ原価、即チ慣例ニ依リ明治三十五年下半季事業報告書中貸借対照表借方ノ部ニ記載スヘキ一切ノ資金（現金ヲ除ク）ノ価格ニ、七万八千七百五十円ヲ加ヘタル金額ヲ以テ、京釜鉄道株式会社ニ譲渡スコト
　二京釜鉄道株式会社ハ上記譲受代金中、百八十万円ハ京仁鉄道合資会社ノ国庫ヨリ借用セル、百八十万円ニ対スル一切ノ義務ヲ継承シ、残額ハ現金ヲ以テ京仁鉄道合資会社ニ払渡スコト
　三現金ノ支払ハ明治三十六年三月十五日トシ、京釜鉄道株式会社ハ明治三十六年一月一日ヨリ支払期日マテ、上記金額ニ対シ年一割ノ利息ヲ加ヘテ、之ヲ京仁鉄道合資会社ニ支払フコト
　四明治三十六年一月一日以降京仁鉄道ノ営業及ヒ資産ノ管理ハ京仁鉄道合資会社自己ノ名ニ於テ之ヲ行フヘク、而シテ損益其ノ他財産上ノ異動ハ、凡テ京釜鉄道株式会社ニ帰属スヘキモノトス、仍テ京仁鉄道合資会社ハ追テ本契約ノ有効トナリタル場合上記代金支払ノ日ニ於テ之カ計算書ヲ作製シ、当時ノ財産悉皆ヲ京釜鉄道株式会社ニ引渡スコト
　五本契約ハ各当事者ニ於テ帝国政府並ニ韓国政府ノ認可及ヒ株主総会又ハ社員総会ノ決議ヲ経テ効力ヲ生スルコト
 - 第16巻 p.571 -ページ画像 
○下略

東京経済雑誌　　第一一五四号・第七七五頁　明治三五年一〇月一八日
○京釜・京仁両鉄道の合併談　京仁鉄道は夫の起業者たる米人の手より、我三菱・三井両家及び渋沢・大倉・安田等其の他諸氏の引受くることゝなりし当時、是等の人々の出資額四十七万円にして、政府より百八十万円の資金を借入れ居れるが、今回政府より之を株式組織として、他の韓国に於ける我鉄道会社と合併すべしとの命ありしを以て玆に京釜・京仁両鉄道合併談は起りたるなり、然るに京仁にては合併条件として（一）右の出資額四十七万円は八十万円に換算する事（二）右の八十万円に対し一箇年一割の利息を附し、京仁側の出資者に支払ふ事といへるを以て、即ち京仁側にては差引三十三万円を殆んど訳もなく儲けんとするものなれば、京釜の方にては之を承諾すべき理あらず、結局四十七万円に対し一割の利息を附することゝせは、之に応ずるに迄運びたれども、猶交渉纏らず、渋沢男の帰朝を待ちて之を解決せん筈なりといふ、一人にして両鉄道に関係を有するもの多きが故、同男の帰朝と共に円満なる結果を見るに至るべきか
　　○栄一是年十月三十日外遊ヨリ帰国ス。

渋沢栄一日記　明治三五年　　　　　　　　　（渋沢子爵家所蔵）
十二月十五日　晴
午前十時桂総理官舎ニ抵リ、竹内・尾崎・瓜生ノ三氏ト共ニ京釜・京仁両会社合併ニ関スル要務ヲ協議ス○下略
　　○中略。
十二月十七日　晴
午前八時朝飧ヲ畢リ、十時京釜鉄道会社ニ抵リ、重役会ヲ開キ、京仁鉄道会社合併ノ事ヲ協議ス○下略
　　○中略。
十二月廿七日　晴
午前十時京仁・京釜両鉄道会社合併ノ事ニ関シ、京釜鉄道会社ニ抵リ重役ノ協議会ヲ開ク、大倉・室田・竹内・日下・尾崎・小野ノ諸氏来会ス○下略

渋沢栄一書翰　八十島親徳宛（明治三五年）三月二五日　　（八十島親義氏所蔵）
一書申進候然者ステツトとモールスとへ回答すへき書状之草案ハ別紙ニ相認候間、明日貴兄快方ニ候ハヽ早々訳書御作成之上相添逓送候様御取計可被下候、外ニ封中之書類ハ多くハ用済之ものニ付事務所へ存録候様御取計可被下候
○中略
　　三月廿五日　　　　　　　　　　　　　　　　　栄一
　　　　八十島親徳殿