デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

6章 対外事業
1節 韓国
9款 日韓瓦斯株式会社
■綱文

第16巻 p.622-625(DK160103k) ページ画像

明治40年3月5日(1907年)

是ヨリ先、曾禰寛治、韓国ニ瓦斯事業ヲ創設スベキ事ヲ栄一ニ諮ル。是日栄一外十一名、京城ニ於ケル瓦斯営業認可申請書ヲ韓国統監府ニ提出ス。六月二十七日其認可及ビ命令書下附セラル。


■資料

京城電気株式会社二十年沿革史 第一―六頁 昭和四年四月刊(DK160103k-0001)
第16巻 p.622-624 ページ画像

京城電気株式会社二十年沿革史 第一―六頁 昭和四年四月刊
    第一章 日韓瓦斯株式会社創立の動機
 東洋の平和に大波紋を描ける日露戦争も、明治三十八年三月十日の奉天大会戦に依つて勝敗の数既に決したれば、米国大統領ルーズベルト氏は両国に仲裁を提議し、両国全権委員はポーツマウスに会議を開き、日本国民の高調せる戦争気分は更に転じて此の会議の結果如何に集注し、殆ど他を顧るもの無かりしが、此の時に当りて曾禰寛治氏は速くも韓国の前途に着目し、明治三十八年七月、単身韓国京城に到り混沌たる韓国の実情を視察中、図らずも同氏の眼に映じたるは京城に於ける瓦斯事業の経営なりき、蓋し京城は冬季間永くして気温は零下二十度を降り、且つ薪炭に乏しきを以て若し此処に瓦斯事業を興さば前途最も有望なるべきを想ひ直ちに調査に着手せしに、同事業は既に韓人権東寿氏其の他数名が許可権を獲得し居たるを以て、更に権氏等と会見し権利の買収を交渉し、折衝数次漸く議纏まり、曾禰氏は権氏等より権利一切を買収し、滞京約一ケ月にして帰京したり、斯くて氏は東京瓦斯株式会社々長男爵渋沢栄一氏を訪ふて、韓国の現状及将来を説き、京城に於ける瓦斯事業経営の最も有望なるを告げて斯れが起業を謀ると共に、又同社の関係者たる高松豊吉・久米良作・大橋新太郎・伊藤幹一・平沢道次氏其の他の人々とも協議せるに、孰れも其の計劃に賛意を表しければ、曾禰氏は爾来是等の諸氏と共に鋭意計劃の歩を進めしか、氏は同年末一年志願兵として入営することゝなりたる為め此の計劃も暫く延期の已むなきに至りたり。
 然れども熱心なる曾禰氏は軍務の余暇引続き諸氏と協議を重ね、諸氏も亦計劃を進め、明治三十九年三月東京瓦斯株式会社技師内藤游氏に委嘱して同氏を実地調査の為め京城に派遣したるに、調査の結果起業有望なりとの報告ありしと、又同年中大橋新太郎氏が韓満漫遊の途次、久しく京城に淹留して各種の事情を調査し、斯業経営の最も有望なることを確めたる等に依り、是れより起業計劃は一層進捗せるに、又もや玆に図らざる一大障碍発生したり、則ち韓国は我が統監府開設と共に保護政治実施せられ、伊藤統監・曾禰副統監の着任と同時に、宮中府中の各機関に多数の日本人顧問を傭聘し、秕政の改革を断行せる結果、宮内府も内部の大改革を決行し、明治三十九年十月府令を以て、従前宮内府より許可せるものゝ中其一部を無効とすることを告示
 - 第16巻 p.623 -ページ画像 
せり、而して其無効となりしものゝ中には前記権東寿氏其他に許可せる瓦斯事業をも包含せるを以て、曾禰氏が折角権氏等より買収せし権利も玆に至つて全く失権するの止むなきに至りたること是れなり。
 此障碍は本事業の計劃上頗る重大なる出来事なりしと雖も、諸氏の熱誠は容易に挫折せず、更に活路の開拓に苦心中、曾禰氏は同年十一月満期除隊後、再び素志の貫徹に努力し、又厳父曾禰子爵の斡旋に依りて日本銀行調査役岡崎遠光氏の参劃となり、岡崎氏は四十年一月親ら京城に到りて経済界の実情と瓦斯事業との関係を調査する所あり、其結果一同協議の上愈よ其筋の諒解の下に統監府に対して新たに瓦斯事業を出願するに決し、願書・事業目論見書・定款等を作成し、同年二月曾禰氏は之れを携へて再び京城に赴きぬ。
 然るに当時の京城は戦後の好況に依りて黄金時代を現出し、企業熱盛んにして、瓦斯事業の如きも、斉しく世人の着目する所となりゐたり、蓋し統監府設置以来諸政頓に革り、保護政治実施後は生命財産の安全を保障せられて起業に危険無く、併も韓国の前途は頗る有望視せられて絶好の投資場と認められしに依るものなり。
 曾禰氏は着京後、先づ渋沢男の紹介に依りて第一銀行韓国総支配人市原盛宏氏を往訪して、韓国に於ける株式募集の件を協議し、次で実業家山口太兵衛氏と会見協議せるに、両氏共大いに其起業に賛成し、韓国に於ける株式募集は両氏が担任するに決定しければ、曾禰氏は伊藤統監其他要部の人々の諒解を得て、明治四十年三月五日附を以て、左記の氏名に依り、京城府理事庁を経由して統監府に瓦斯営業許可申請書を提出せり。
    瓦斯営業認可申請者氏名
                 男爵   渋沢栄一
                 工学博士 高松豊吉
                      久米良作
                      大橋新太郎
                      大倉喜八郎
                      渡辺福三郎
                      平沢道次
                      伊藤斡一
                      市原盛宏
                      山口太兵衛
                      岡崎遠光
                      曾禰寛治
    第二章 日韓瓦斯株式会社営業許可
 渋沢男爵一派の出願は漸く一段落を告げしが、当時一般財界の好況は有望事業の投資に汲々たる折柄とて、京城に於ける瓦斯事業の経営は図らずも一部事業家注目の焦点となり、計劃者相踵で起り、日本人側には大阪瓦斯会社系の一派あり、韓人側には、白完赫・白寅基・金時鉉氏等の一派ありて孰れも相前後して競願せしかば、統監府は其の処置に困惑し、詮議の結果、競願者の妥協を慫慂する処ありたり、依つて競願者は爾後京城・東京の両地に於て屡次折衝を行ひしに、韓人
 - 第16巻 p.624 -ページ画像 
側は無条件にて渋沢男派に加盟することを承諾せしも其の他は遂に協定不調なりしかば、統監府は渋沢男派の先願権を認め、光武十一年六月二十七日附(明治四十年)を以て渋沢男他十一名に対して許可の指令を交附せり。
   ○曾禰寛治ハ朝鮮副統監子爵曾禰荒助ノ子息ナリ。(曾禰荒助ハ明治四十二年六月朝鮮統監トナル)


渋沢栄一 日記 明治四〇年(DK160103k-0002)
第16巻 p.624 ページ画像

渋沢栄一日記 明治四〇年        (渋沢子爵家所蔵)
二月二十四日 晴暖             起床七時三十分就蓐十二時
起床後入浴シ了テ朝飧ヲ喫ス、岡崎・村田・大川・大沢ノ諸氏来訪、韓国瓦斯事業ノ事木曾森林ノ事等ヲ談話ス○中略
午後五六時頃ヨリ招客来会ス、伊藤統監・鶴原総務長官・古市・池田其他十数名、酒間余興雑談等ニテ各十分ノ歓ヲ尽サレ夜十一時散会ス鶴原氏ト韓国瓦斯事業及電気鉄道ニ関シ種々ノ談話ヲ為ス、夜新聞紙ヲ一覧ス
   ○中略。
二月二十六日 曇寒              起床七時三十分就蓐十二時
○上略 正午兜町事務所ニ抵リ曾禰寛治ニ面会シ、韓国瓦斯事業ニ関シ談話ス○下略


竜門雑誌 第二三〇号・第五五―五六頁 明治四〇年七月 ○日韓瓦斯株式会社設立認許(DK160103k-0003)
第16巻 p.624-625 ページ画像

竜門雑誌 第二三〇号・第五五―五六頁 明治四〇年七月
○日韓瓦斯株式会社設立認許 青淵先生が高松豊吉・岡崎遠光・藤田平太郎・市原盛宏・中村再造・山口太兵衛・和田常市・白寅基・白完赫・金時鉉・宋鎮憲十一氏と共に発起せられ、資本金を三百万円とし京城市中に於て灯火、熱及動力用として石炭瓦斯供給販売を目的とせる日韓瓦斯株式会社は、六月二十七日を以て韓国政府の設立認許を得左の命令書を下付せられたり、命令書第五条に依れば同社は六箇月以内に工事に着手し、二箇年以内に事業を開始する筈なれば灯火、熱及動力用として京城市民が低廉なる瓦斯を使用することを得るも久しきを出でざるべきなり
 第一条 日韓瓦斯株式会社発起人男爵渋沢栄一外十一名に対して許可したる瓦斯の供給区域は漢城五署内とす
 第二条 会社は第一条の区域に対し許可の日より起算して満二十五箇年間瓦斯供給の営業独占権を有す
 第三条 許可の日より起算して満五十箇年間を経過したる後政府に於て必要と認むるときは、時価を以て工作物を買収する事を得
 第四条 許可の日より起算して満十五箇年間は瓦斯管敷設及び瓦斯供給に要する機械器具の輸入に限り之が関税を免除す
  但会社に於て販売若くは使用料を徴して、貸与する商品に付ては此限りにあらず
 第五条 会社は許可の日より起算して、満六箇月以内に工事に着手し満二箇年以内に営業を開始すべし
 第六条 事業の為め要する土地にして、民有に属するものは所有者と協議の上使用権を得るにあらざれば之を使用すべからず、官有
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地に属するものは其土地の管理者に出願し、更に使用の許可を受くべし
 第七条 瓦斯管敷設の為め道路を使用するの必要あるときは其道路の管理者の許可を受くべし
 第八条 会社は毎年純益金の百分の五を瓦斯管敷設のため使用したる道路の延長の割合に従ひ、其道路の管理者に対し指定の期日までに之を納付すべし
  会社の純益金が払込金額に対し年一割五分を超ゆるときは之を控除したる残額の五分の一を政府に納付すべし
  第二項に規定する納付金の外、政府は特に瓦斯供給事業に対し一切の公課を徴収せず
 第九条 瓦斯供給事業取締の為め発布する司法令又は当該官庁の命令は之を遵守すべし
 第十条 此命令書の条項又は之に基きて為したる処分に違反したるときは許可を取消すことあるべし、此場合に於て工作物を政府に買収するの必要あるときは其価格は時価に依る