デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治19年7月24日（1886年）

是日栄一当会会頭トシテ英国公使サー・フランシス・ブランケツトノ諮問ニ対ヘ条約改正会議ニ於ケル税目調査委員ノ立案セル海関税課税方法ニ就キ、同公使ニ答申ス。

東京商工会議事要件録　　第二一号・第三―四頁　明治一九年一〇月二〇日刊
　　第十定式会
　　　　　　　　　　（明治十九年十月二日午後五時三十分開会）
　　第廿一臨時会
 - 第18巻 p.533 -ページ画像 
会長（渋沢栄一）ハ開会ノ趣旨ヲ報ジ先ヅ定式会ヲ開クベキ旨ヲ告ゲ左ノ諸件ヲ報告ス
○中略
一海関税ノ義ニ付英国公使ヨリ諮問ノ件
　　去ル六月廿五日附ヲ以テ英国公使ブランケツト閣下ヨリ海関税ノ標準等ニ就キ二個ノ問題ヲ諮問セラレタルニ付、本会ニ於テハ条約改正建議案調査委員ノ審議ヲ遂ゲ去ル七月廿四日附ヲ以テ之ニ答申シタリ（諮問書並ニ答申書ハ参考部第一・第二号ニ附ス）
　　○条約改正建議案調査委員ニツキテハ明治十九年十月七日ノ条（第五三五頁）参照。

東京商工会議事要件録　　第二一号・第五三―六〇頁　明治一九年一〇月二〇日刊
　○参考部
（第一号）
　　　　○（海関税ノ儀ニ付英国公使ノ諮問書）
謹啓陳ハ別紙ノ問題ハ目下開設中ニ係ル条約改正会議ニテ税目調査委員ノ立案シタル処ニシテ、即チ其写ヲ一葉差出候間若シ貴会ニ於テ実験上ノ御高説御示シ被下候ハヾ委員ノ幸慶ト奉存候、尤右ハ差向別紙問題中貴会ニテ特ニ御注意ノ部分丈ニ就テ貴答ヲ得度心得ニテ敢テ必スシモ毎項ニ就キ尽ク貴答ヲ煩ハスノ主意ニハ無之候得共、可相成ハ別紙列記ノ問題ニ関シ参考トモ可相成事項ハ多少ニ限ラズ御示諭被下候ハヾ最モ以テ難有存候、且ツ貴会ノ御高説ニハ何卒其理由ヲ御詳記被下候様仕度候、先ハ此段及御依頼候也
　　千八百八十六年六月廿五日　　　フランシス　ブランケツト
　　　　東京商工会々長貴下
　　　　　　別紙
第一問　従価税ハ甲乙ノ中何レヲ標準トシテ之ヲ筭スベキヤ
　　甲　買入地・生産地又ハ製造地ニ於ケル商品ノ実価ニ保険料・手数料及買入地・生産地又ハ製造地ヨリ仕向地ノ運賃ヲ加筭シタルモノ
　　乙　商品ノ市価（但シ輸入税ヲ課シタルモノハ其金高丈ヲ引去ル）即チ税関吏ノ総代人及京浜商法会議所ノ総代人ヲ以テ組織スル委員ニ於テ月々定メ得ベキモノ
第二問
　　甲　織物ニ課スヘキ関税ハ重量ニ従テ之ヲ筭スベキヤ、又ハ尺度ニ従テ之ヲ筭スベキヤ
　　乙　若シ尺度ニ従テ筭スベキモノトスル時ハ長サニ拠ルヲ可トスベキヤ、将タ面積ニ拠ルヲ可トスルヤ
　　　　　　　　以上
　　　○明治十九年四月二十日外務大臣井上馨、外務次官青木周蔵ト共ニ政府ヨリ条約改正ノ締結及ビ調印ノ全権ヲ委任サレ、五月一日、第一回条約改正会議ヲ各国公使ト共ニ東京外務省ニ開会ス。爾来、該会議ハ翌二十年七月十八日第二十七回マデ継続ス。税目案ノ審議サレシハ十九年五月二十八日ノ第三回会議並ニ五月三十一日ノ第四回会議ノ両回ナリキ。（「世外井上公伝」第三巻第八四八―八五四頁）
 - 第18巻 p.534 -ページ画像 
（第二号）
　　　　○（同英国公使ヘ答申書）
去月廿五日附ヲ以テ今般条約改正会議ノ税目調査委員ニ於テ御立案相成候関税ニ関スル問題ニ就キ閣下ヨリ御下問ヲ蒙リ候儀ハ本会ノ最モ光栄トスル処ニ御座候、右ハ其後本会委員ニ於テ篤ト遂審議候処其意見別紙ノ通リ協和仕候間復申仕候也
　　明治十九年七月廿四日　　　　　　東京商工会々頭
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一
　　　　サー、フランシス、ブランケツト
　　　　　　　　　　　　　　　ケー、シー、ビー閣下
第一問ノ答
　従価税ハ商品ノ市価ヲ標準トシテ筭スル方適当ナリト思考仕候
　　蓋シ従価税ハ商品買附書《インボイス》ニ記スル処ヲ標準トシテ筭スル事徴税上最モ便利ト奉存候得共、抑モ商品買附書《インボイス》ナルモノハ各輸入者ノ代理人ニ於テ随意ニ製シ得ベキモノニシテ其記スル処ノ原価等ハ別段ニ公証ヲ得ザルモノニ付、若シ之ヲ標準トシテ筭スルトキハ往往詐偽ヲ誘起シ易ク勢公正ヲ得難キノ憾アリ、是本会ノ委員ニ於テ従価税ハ商品ノ市価ヲ標準トシテ筭スルヲ適当ナリト思考スル所以ニ御座候、或ハ此方法ニ拠ル時ハ其市価ヲ定ムルニ於テ頗ル不便アルヘシトノ説モ可有之候得共、問題中御指示相成候通リ例ヘバ税関吏ノ総代人及京浜商法会議所ノ総代人ヲ以テ委員ヲ組織シ之ヲシテ毎十二ケ月ノ平均ニ拠リテ其標準ヲ定メシムルガ如キ方法ニ拠ルトキハ実際左迄ノ不便有之間敷奉存候、尤前記ノ意見ハ従価税ヲ徴収スルニ適当ノ方法ナリト思考シテ陳述シタルモノニシテ、モシ従量税ノ標準ヲ定ムルニ当リ其計筭ノ根拠ヲ得ル為メノ御趣旨ニ御座候ハヾ本会ノ委員ハ前記ノ分ト全ク其意見ヲ異ニ致シ候、乍併是ハ御諮問外ノ事項ニ付敢テ玆ニ詳陳不仕候
第二問ノ答
　織物ニ課スベキ関税ハ重量並ニ尺度ノ双方ニ従テ算スルモノトシ、而シテ其尺度ハ只長短ノミニ拠ラスシテ必ス面積ノ大小ニ拠ルヲ適当ナリト思考仕候
　　蓋シ織物ニ課スベキ関税ヲ只重量又ハ尺度ノ一方ニ従テ算スルトキハ、例ヘバ厚地ニシテ寸尺ノ短キ物及薄地ニシテ寸尺ノ長キ物ノ如キ彼此仮令其価直ハ全ク同等ナリトスルモ其税額ニ差違ヲ生ジ、殊ニ価ノ貴キ絹毛織物等ニ至リテハ此差違最モ甚シク決シテ公正ナル税法ト云フベカラズ、是本会ノ委員ニ於テ織物ニ課スベキ関税ハ重量並ニ尺度ノ双方ニ従テ算スルヲ適当ナリト思考スル処ニ御坐候、又織物ノ中ニハ其幅三十六「インチ」ノモノアリ、或ハ四十九「インチ」乃至五十二「インチ」ノモノアリ、此等ノモノハ元来其幅ノ広狭ニヨリテ大ニ其価額ヲ異ニスルモノナレバ今若シ単ニ長短ノミヲ以テ課税ノ標準トスル時ハ決シテ公正ヲ得ル能ハズ、是本会ノ委員ニ於テ其尺度ハ只長短ノミニ拠ラズシテ必ズ面積ノ大小ニ拠ルヲ適当ナリト思考スル所以ニ御坐候、或ハ此方法ニ拠ル時ハ徴税ノ際煩労ニ堪ヘズト云フノ説モ可有之候得
 - 第18巻 p.535 -ページ画像 
共、予メ各種織物ノ寸尺並ニ重量ヲ細査シ其標準ヲ定メテ之ヲ一表ニ製シ置キ、徴税ノ際常ニ此標準ニヨリテ課税スルトキハ実際決シテ煩労ナカルベシト思考仕候

東京商工会議事要件録　　第二三号・第一〇―二五頁　明治二〇年三月二二日刊
　　第十二定式会　　（明治二十年二月廿六日午後四時三十分開会）
　　　　会員出席スル者　○五十六名
○上略
次ニ会長（渋沢栄一）ハ規程第五章第二十二条ニヨリ明治十九年下半季間定式事務ノ成跡ヲ報告ス
　　自明治十九年七月至同年十二月　半季間事務報告
○中略
　　　　雑事　　　　五件
○海関税ノ義ニ付英国公使ノ諮問
　　本件ハ明治十九年六月廿五日附ヲ以テ英国公使ブランケツト閣下ヨリノ諮問ニ係リ、其要旨ハ従価税ハ商品買附書《インウオイス》ニ記スル品ヲ標準トスベキヤ、又ハ商品ノ市価ヲ標準トスベキヤ（第一問）織物ニ課スベキ関税ハ重量ニ従フベキヤ尺度ニ従フベキヤ、若シ尺度ニ従フベシトスル時ハ長サニヨルベキヤ、将タ面積ニヨルベキヤ（第二問）ト云フニ在リ、即チ条約改正建議案調査委員ノ審議ニ附シタルニ、遂ニ従価税ハ商品ノ市価ヲ標準トスベシ（第一問ノ答）織物ニ課スベキ関税ハ重量並ニ尺度ノ双方ニ従ヒ而シテ其ノ尺度ハ面積ニヨルベシ（第二問ノ答）ト決シタルニ付、其後此趣旨ニヨリ草案ヲ作リ七月廿四日附ヲ以テ之ヲ英国公使ブランケツト閣下ヘ復申シタリ
○下略