デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治20年2月4日（1887年）

是日栄一当会会頭トシテ農商務省商務局長高橋新吉ノ諮問セル湯澄シ水油ノ弊害ニ就キ同局長ニ答申ス。

東京商工会議事要件録　　第二三号・第四―五頁　明治二〇年三月二二日刊
　　第十二定式会　　（明治二十年二月廿六日午後四時三十分開会）
　　　　会員出席スル者　○五十六名
会長（渋沢栄一）先ヅ開会ノ趣旨ヲ告ゲ左ノ件々ヲ報告ス
○中略
一本年一月七日附ヲ以テ高橋商務局長閣下ヨリ湯澄シ水油ノ弊害ニ就
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キ諮問セラレタルニ付、理事本員ニ於テ調査ヲ遂ゲ、同二月四日附ヲ以テ之ガ復申書ヲ上呈シタリ（諮問書並ニ復申書ノ写ハ共ニ参考部第四第五両号ニ掲グ）

東京商工会議事要件録　　第二三号参考部・第七―一三頁　明治二〇年三月二二日刊
〔第四号〕
客年十二月十三日発兌ノ時事新報雑報欄内ニ湯澄シ油ト題シ、水油弊害ノ模様及該問屋取引ノ困難等記載有之、右ハ商業上不容易義ニ付該事実ノ有無至急調査ノ上御回答有之度此段及依頼候也
　　明治二十年一月七日
　　　　　　　　　　　　　農商務省商務局長　高橋新吉
　　　　東京商工会々頭　渋沢栄一殿
〔第五号〕
去月七日御諮問有之候湯澄シ水油弊害ノ事実実業者ニ就キ遂調査候処別紙ノ通リニ有之候間此段答申仕候也
　　二十年二月四日　　　　　東京商工会々頭　渋沢栄一
　　農商務省
　　　　商務局長　高橋新吉殿
　　　　別紙ノ写
一湯澄シ水油ノ弊害ハ要スルニ明治十九年十二月十三日時事新報ニ記載スル処ノ如ク全ク事実ナリ
一此湯澄シ水油ハ常ニ黄色ヲ帯ビテ透明ナラズ、冬期ニ至リテハ特ニ疑滞ノ状ヲ呈ス、蓋シ時事新報ノ報スル処ニ拠レハ一樽ノ搾油ニ熱湯一二升内外ヲ投入シ云々トアレトモ、思フニ熱湯一二升ヲ投入スル丈ニテハ未ダ必ズシモ斯カル変状ヲ呈スルニ至ザルベシ、是必ズ熱湯ノ外更ニ或ル薬物ヲ混和シ、其性効ニヨリテ之ヲ致スモノナランカ、但シ其製法ニ至リテハ未タ之ヲ確知シ難シト雖トモ、聞ク処ニ拠レハ近年鉄道ノ便開ケシヨリ勢州地方ノ油商人ハ江州地方ヨリヘベ油。ムラダチ油。（共ニ或ル木実ヨリ搾取スルモノ）桐油等ヲ買入レ、之ヲ多少正種油中ニ混和シテ販売スルノ弊起レリト云ヘバ、現ニ伊勢水油ニ此弊害アルハ蓋シ此製法ニヨリテ致ス処ナラン
一摂泉ノ油ニモ時トシテ此弊害ナキニアラズ、然レトモ是ハ常ニ湯澄シ法ヲ用ユル事ナクシテ、只注文多分ニ入嵩ミ物品間ニ合ハザルガ如キ時ニ限リテ之ヲ用ユルノミ、要スルニ其弊害ノ最モ多キモノハ独リ伊勢・美濃油ノ両種ナリトス、而シテ美濃油ハ従来東京府下ニ於テ取扱フ処甚タ少キカ故ニ現時当業者ノ取引上最モ困難ヲ感ズルモノハ特ニ伊勢油ノ一種ナリトス
一目下東京府下ニテ売買スルニハ一々樽口ヲ開キ撿査セザレバ取引難相成程ニハアラズ、然レトモ仮令其樽口ハ封印ノ儘取引スルモ若シ其品質粗悪ナル時ハ売主（即チ問屋）其責ニ任スベキノ申合ナルガ故ニ此弊害ノ為メ現時商売上ニ与フル処ノ妨害実ニ少シトセズ
一此弊害ノ起因スル処詳ナラズト雖トモ、従来水油ヲ製造スルニハ搾リ屋ナル者アリテ先ツ問屋ヨリ原質物ヲ借受ケテ水油ヲ搾取シ、其搾取シタル水油並ニ粕ヲ問屋ニ送リ、問屋ヨリ製造賃ヲ得、問屋ハ之ヲ受取リタル後凡四周間之ヲ貯蔵シ置キ、其汚濁物沈澱シ其色透
 - 第18巻 p.584 -ページ画像 
明ナルヲ待チテ始テ之ヲ販売スルノ慣習ナリシガ、此慣習ハ明治十年頃ヨリ漸ク廃弛シテ同十五六年頃ニ至リ全ク廃絶シ、爾後搾リ屋ハ問屋ヨリ原質物ヲ借受クル事ナク自ラ適宜ニ之ヲ買入レテ製造スル事トナリタリ、然ルニ此等ノ搾リ屋ハ元来薄資ノ者多ク、斯ノ如ク其搾取シタル水油ヲ数日間貯蔵スルノ余力ナキヨリ爰ニ一夜湯澄シノ法ヲ発明シ遂ニ今日ノ弊害ヲ馴致シタルモノナラン
一此弊害ハ従来ヨリ其形跡ナキニアラザリシト雖トモ明治十九年ニ至リテ特ニ甚シクナレリ、依テ東京府下ノ問屋ハ屡々之カ矯正法ヲ議シ、嘗テ産地問屋ニ照会シタル事アリタレトモ其弊害ハ素々搾屋ノ為ス処ナルヲ以テ未ダ其目的ヲ遂グルヲ得ズ、依テ近頃更ニ産地問屋ニ向テ濫悪ノ水油ハ爾来決シテ取引セザル旨ヲ照会シ、同年十二月廿日ヨリ之ヲ実行セリト雖トモ未ダ充分其改良ノ実効ヲ奏スルヲ得ス、現今猶当業者ニ於テハ取引上大ニ困難ヲ感ゼリト云フ

東京商工会議事要件録　　第二五号・第七―一一頁　明治二〇年九月二〇日刊
　　第十三定式会　　（明治二十年八月廿九日午後七時十五分開会）
　　　　会員出席スル者　○二十五名
○上略
次ニ会長（渋沢栄一）ハ規程第五章第二十二条ニヨリ明治二十年上半季間定式事務ノ成跡ヲ報告ス
　　自昭和二十年一月至同同六月　半季間事務ノ報告
○中略
　　　　政府ヨリ諮問　　　四件
○湯澄シ水油ノ弊害ニ付キ商務局長ヨリノ下問
　　本件ハ明治二十年一月七日附ヲ以テ高橋商務局長ヨリノ諮問ニ係リ、其要旨ハ客年十二月十三日発兌ノ時事新報雑報欄内ニ湯澄シ油ト題シ水油弊害ノ模様及該問屋取引ノ困難等ヲ記載セリ、右ハ商業上不容易義ニ付該事実ノ有無ヲ調査シ回答スベシト云フニ在リ、依テ其後理事本員ハ当業者ニ就キ篤ト其弊害ノ実況ヲ詳査シ同二月四日附ヲ以テ之ヲ同局長ニ答申シタリ

東京商工会議事要件録　　第二五号・第四―五頁　明治二〇年九月二〇日刊
　　第十三定式会　　（明治二十年八月廿九日午後七時十五分開会）
　　　　会員出席スル者　○二十五名
○上略
会長（渋沢栄一）ハ開会ノ趣旨ヲ告ゲ先ヅ右ノ件々ヲ報告ス
○中略
一湯澄シ水油試験ノ成跡ニ付工務局ヨリ報告ノ件
　　嘗テ工務局ノ依頼ニ応ジ本会ヨリ試験用ノ為メ湯澄シ水油ノ見本ヲ同局ヘ送附セシニ、去ル七月四日附ヲ以テ同局ヨリ其試験ノ成跡ヲ報告セラレタリ（其報告書ハ参考部第四号ニ掲グ）

東京商工会議事要件録　　第二五号・第五六―六〇頁　明治二〇年九月二〇日刊
 - 第18巻 p.585 -ページ画像 
　○参考部
（第四号)○（工務局ヨリ報告書）
曩ニ湯澄シ水油試験用ノ為メ三升入壱鑵購入方御依頼之末該油当省分析課ニ於テ遂試験候処、別紙回答之通リニ有之候間為御参考差進候条御落手相成度候間該油代価ハ何程ニ有之候哉、償還方可取計ニ付至急御申出相成度此段申進候也
　　明治二十年七月四日　　　　農商務省
　　　　　　　　　　　　　　　　　工務局長　富田冬三
　　　　東京商工会々頭　渋沢栄一殿
　過般工第二一二号ヲ以テ湯澄シ水油試験ノ義ニ付御照会之趣了承乃一応試験候処其成果ハ別表之通リニ有之、該表ニテハ所謂湯澄シ油ト尋常菜種油トノ間ニハ敢テ著シキ差異モ無之候間、該油中交雑物之有無モ精試候処別ニ撿出不致、尤澱垽ハ其分量微少ニシテ之ヲ精査致兼候得共、此物恐ラクハ植物蝋ニシテ脂肪酸ニ無之ト相認メ候要スルニ御送附之油ハ之ヲ尋常品ニ比スルモ敢テ劣レル事無之モノト被存候得共、凡ソ湯澄シ油ト称スルモノヽ中ニモ品質一定ナラズシテ多少優劣有之候哉ニ候間、到底精細ナル事ハ汎ク見本ヲ蒐集シテ之ヲ試験スベキハ勿論製造地ニ就テ調査不致候テハ充分撿明致シ兼候義ト被存候間此段御回答旁申進候也
　　明治二十年七月　　　　　　　　　　　　総務局分析課
　　　　工務局御中
　　　　湯澄シ油試験報文
　供試ノ油ハ透明ニシテ光沢アル黄巴《（色）》ヲ帯ヒ其色彩ハ之ヲ尋常品ニ比スレバ稍々稀薄ナルモノニ似タリ、但シ器底ニ沈降セル部分ハ稍々濃色ヲ有シ且百分ノ一乃至二分ノ澱垽ヲ混含セリ
　右清澄油ヲ測取シテ其比重・遊離酸・粘力・凝結点等ヲ実試シ、同時ニ湯澄ノ操作ヲ経ザル菜種油二種ヲ試験シテ参考ニ供セリ

　　明治二十年六月　　　　　　　　　　　　　　総務局分析課

東京商工会議事要件録　　第三〇号・第九―一六頁　明治二一年三月二〇日刊
 - 第18巻 p.586 -ページ画像 
　　第十五定式会　　（明治二十一年二月廿九日開）
　　　　会員出席スル者　○六十一名
○上略
次ニ会長（益田孝）ハ是ヨリ本議ヲ開クベキ旨ヲ告ゲ、先ヅ規程第五章第二十二条ニヨリ明治二十年下半季定式事務ノ成跡ヲ報告ス
　　自明治二十年七月至同年十二月　半季間事務報告
○中略
　　　　雑事　　　　七件
○中略
○湯澄シ水油試験ノ成跡ニ付工務局長ヨリ報告ノ件
　明治二十年二月中農商務省工務局ノ依頼ニ応ジ湯澄シ水油ノ見本ヲ同局ヘ送附セシニ、其後総務局分析課ニ於テ試験ヲ遂ゲラレタル趣ヲ以テ同年七月四日富田工務局長ヨリ其成跡ヲ報告セラレタリ
○湯澄シ水油ノ義ニ付工務局長ヨリ依頼ノ件
　明治二十年九月廿九日附ヲ以テ富田工務局長ヨリ農商務省技術官ニ於テ湯澄シ水油ヲ再応試験セラルヽニ付油問屋中油質鑑別ニ熟練ナル者ヲ出頭セシムル様依頼アリタルニ付、本会ヨリ油商組合ヘ照会ノ上二名ヲ撰定シ同年十月十九日同局ヘ出頭セシメタルガ其試験ノ成跡ハ迫テ同局ヨリ通知次第更ニ之ヲ報告スヘシ
○下略