デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
2款 東京商工会
■綱文

第19巻 p.413-424(DK190052k) ページ画像

明治23年8月28日(1890年)

政府草案ノ商業会議所条例元老院ニテ否決サレシヲ以テ、是日栄一当会会頭トシテ同条例ノ発布ヲ希望スル旨農商務大臣陸奥宗光ニ建議ス。九月十一日商業会議所条例公布サル。


■資料

東京経済雑誌 第二一巻第五二七号・第八五一頁 明治二三年六月二八日 ○商法会議所条例(DK190052k-0001)
第19巻 p.413 ページ画像

東京経済雑誌  第二一巻第五二七号・第八五一頁 明治二三年六月二八日
    ○商法会議所条例
商法会議所条例は先に岩村通俊氏か農商務大臣たりし時草案を起して内閣に提出せしが法制局に於て反対説起り廃案にもならんとするの折抦、大臣に更迭あり其の儘になり居りし所、陸奥大臣は直ちに之を引戻し近日来大に修正を加へ脱稿の上は再び内閣に提出せらるゝ由なり


東京経済雑誌 第二二巻第五三三号・第一八五―一八六頁 明治二三年八月九日 ○商業会議所条例制定の理由(DK190052k-0002)
第19巻 p.413-415 ページ画像

東京経済雑誌  第二二巻第五三三号・第一八五―一八六頁 明治二三年八月九日
    ○商業会議所条例制定の理由
目下元老院に於て商議中なりと称する商業会議所条例は、斎藤商工局長が昨年中各地方の商法会議所会頭を召集して其の意見を諮問し、且つ広く泰西諸国の実例を参酌し、彼是折衷して制定したるものゝ由なるが、今ま同条例制定の理由を聞くに左の如し
 商業会議所は一地域内の商業者が商業上利益の増進を図るを以て目的となし商業全般の利益及需用を代表して資本使用の利害を議し、或は商略の方針を定め或は其の意見及び情況の報告等を政府に提出し、或は政府に諮問し応答し又時ありては商業者間の紛争を仲裁する所の自治機関となり、而して資本使用の利害は国家経済の消長となす者なるが故に此自治躰の行政は公法支配の範囲に属し、従ひて其秩序権限等は法律にて定むべき者なること夙に商業及び行政事務
 - 第19巻 p.414 -ページ画像 
の発達したる独・墺・仏等各国の法律上に認められたる商法会議所の行政及び沿革を以て証するに足れり、今地方の商業上に商業会議所の行政機能を要する所以の者は元来地方の公益と個々商業者の私利とは屡々衝突する所あるにも拘はらず地方の公益は個々商業者の私利に原成し、又個々商業上の信用は地方共同の担保の下に生長する者なる事、独・墺・仏等各国の商業都市には到る所商業会議所の設あるのみならず現に本邦各地の商業者も亦実際自然の必要に促されて商工会又は商法会議所と称して屡々設立せし者全国を通じて五十二所の多きに至りたるを見ても明白なりと云はざるべからず、是れ地方の商業上に商業会議所の設立を要する所以にして而して会議所は其の公務を執行するが為に商業者に対し裁判を以て議員の撰挙及び経費の徴収を行ふが故に其条例は必ず法律を以て之を認めざるべからざるなり、又商業会議所は国家の経済の上に於て官庁に対するの必要は恰も戸籍警察等の内政部類か市町村の自治庁に於けるが如く、商工制度に関する政府の意思は幾んど全く此会議の補助あるを竢つて始めて行はるゝ者なりと謂はざるべからず、即ち政府は第一会議所の老練なる報告に依り地方商業の情況を知り、第二商業信用及び商業教育に関する政府の意思を行ふこと産物試験所・商品撿査所及び商業学校・工業学校を会議所に管理せしめ之を監督せしむるが如し、第四法律規則《(マヽ)》の施行を賛助せしむ取引所の庶務を管理せしめ又仲立人を試験して任命せしむるが如し、其他立法の討議に又行政の処分に凡そ商工政務の要件を諮問するは欧洲諸国の政府と其商業会議所との関係に於て皆然らざるは莫きなり
 抑も商業の本性たる一に生産若くは支払能力を目的として世界の市場に独立し前進直行して曾つて邦国郷土の存在すら顧みるべき者にあらざれども此会議所の支配あるに及んで始めて郷土の利益を体し同時に又国家経済の主義に服するに至る者なり、是に於てか地方の商業と国家商工経済の関係を生ず、是れ一国の経済施政に商業会議所を要する所以なり、而して所謂国の経済と地方の商業は屡々其目的を異にするにも拘はらず国の経済は常に地方の商業と其盛衰を共にし、又地方商業の利害は国の経済政務の挙否に随伴するの関係を有す、此関係を調和せんが為に政府の行政に対し会議所の秩序権限を定めん事を要するなり、之を商業会議所条例となす、此条例は政府と自治府の権限に属するが故に必ず法律を以て制定せざるべからざるなり、現に全国五十有二ケ所の設置あり、然るに今又条例を以て新会議所を組織せんことを要する所以の者は既設会所は元来有志随意の会合する所の協会の組織に係るを以て皆地方一般の利益及要用を代表する機能を有する能はず、即ち地方の商業は依て以て会所の保護を受くるを得ず、又行政官庁は依て以て其意見及び状況の報告を採用することを得ざるに因る、而して如此会所を改設するの方法は即ち此条例の発布を以て最も適当に且つ有効なりと信ずればなり、且つ今日此条例の発布を要する所以のものは第一各地の商業は近来漸く独立の活動を呈し進で外国貿易を計画するに至り、随て地方商業の信用並に商界を議定し及商況の調査商品の検査若は商業者
 - 第19巻 p.415 -ページ画像 
資産の保証等に関し実際商業会議所の公けの行政を要求するもの少なからざると、第二我政府が目下恰も内政各部の整頓を期し地方自治の制を布き地方庁各級の行政権限を定めたるに就きては必ず商工政務の自治行政の機関として商業会議所を法律上に認めて以て其国及地方の事務に対する関係秩序を定めざるを得ざると、又商法の発布ありたるに就ては其施行上に商業会議所の参政あるを要する等数多の実際問題か之を要求するのみならず、本来商工政務の重要なる目的に属する商業信用の増進及商業教育の発達の企図が愈愈其急を告ぐるの時に当り、果して此機関の設立あれば以て之が一部の施政を託することを得るの便あるに由ればなり、以上の事由に基き農商務大臣は本省官制中商工局の事務を挙行するに必要欠くべからざるの機関として以て地方の利益及需用を代表するに足る所の商業会議所を組織せんが為めに、玆に至急此法律を発布せられんことを請求するものなり


東京商工会議事要件録 第四六号・第二一―二五頁 (明治二三年九月)刊(DK190052k-0003)
第19巻 p.415-416 ページ画像

東京商工会議事要件録  第四六号・第二一―二五頁 (明治二三年九月)刊
  第二十五定式会
           (明治二十三年八月二十六日開)
  第四十二臨時会
    会員出席スル者 ○二十八名
○上略
次ニ会長(渋沢栄一)ハ是ヨリ第一号議案ヲ議スベキ旨ヲ告ゲ書記ヲシテ之ヲ朗読セシム
 第一号議案
 一商業会議所条例ノ制定ヲ要スル義ニ付農商務大臣ヘ建議スル事
  商業会議所条例制定ノ義ハ昨年九月中農商務省ニ於テ各地商業会議所ノ委員ヲ招集シテ其意見ヲ諮問セラレタル事アリシガ、聞ク処ニ拠レバ其後同省ニ於テハ此等ノ意見ヲ参酌シテ条例案ヲ草定セラレ今般内閣ヨリ之ヲ元老院ノ会議ニ附セラレタルニ、同院ニ於テハ遂ニ之ヲ否決セリト云フ、然ルニ元来法律ヲ以テ商業会議所ノ設立ヲ公認シ之ヲシテ商業ノ自治機関タラシムル事ハ商業上ニ利益アリト認ムルニ付、本会ハ大躰ニ於テ該条例ノ制定ヲ望ム旨ヲ以テ其意見ヲ農商務大臣ヘ建議セントス
次ニ会長(渋沢栄一)ハ商業会議所条例ノ制定ヲ要スル義ニ就テハ兼テ大阪商法会議所及京都商工会議所ニ於テモ同見ヲ持スル趣ヲ以テ過日右両会議所ヨリ照会ノ次第モアリ、依テ其後幹事会ニ於テ之ヲ協議シタルニ本会ニ於テモ其筋ヘ意見書ヲ呈スベシト云フニ決セリ、是玆ニ本案ヲ提出シタル所以ナリ、且ツ本件ニ就テハ兼テ理事本員ニ於テ建議案ヲ起草シ置キタル旨ヲ述ベ書記ヲシテ更ニ其草案ヲ朗読セシム(此建議案ハ衆議ノ上全ク原案ニ可決シタルニ付八月二十八日附ヲ以テ之ヲ農商務大臣ヘ進達シ即チ其全文ハ参考部第七号ニ記載スルヲ以テ重複ヲ厭ヒ玆ニ之ヲ略ス)
四十七番(串田孫三郎)ハ本案ノ趣旨ヲ賛成シ、且ツ原案ノ儘ニテ別段修正ヲ要セザル旨ヲ述ブ
六十一番(酒井泰)曰ク、昨年九月中農商務省ニ於テ各地商業会議所
 - 第19巻 p.416 -ページ画像 
ノ委員ヲ招集シテ諮問会ヲ開カレタル時、各委員ハ商業会議所条例ノ制定ヲ必要ト認メタルカ、果シテ然ラバ余ハ固ヨリ本案ヲ賛成ス
会長(渋沢栄一)曰ク、昨年ノ諮問会ニハ全国各地ノ商工会議所十ケ所ヨリ委員二名ヅヽヲ招集シ前農商務大臣ヨリ商業会議所条例ノ草案ヲ提出シ之ヲ各委員ノ討議ニ附セラレタルガ其細目ニ就テハ各委員ノ意見区々ニシテ全ク協和セザリシモ其大躰ノ意見ハヤヽ一致シタルガ如シ、而シテ其後新大臣ガ内閣ノ同意ヲ得テ今回元老院ニ下附セラレタル草案ハ昨年諮問会ニ附セラレタルモノニ比スレバ大ニ簡略トナリ、各地ノ情況ニ応ジテ融通ノ附キ得ル様ニナリ居レドモ其大躰ノ精神ニ至リテハ要スルニ昨年諮問会ニ於テ議シタル所ト同様ナリト聞ケリ
六十一番(酒井泰)曰ク、唯今会長ノ詳述セラレタルガ如クンバ余ハ本会ヨリ直チニ此建議案ヲ上呈シ其急施ヲ促カサン事ヲ望ム
十四番(永井松右衛門)問フテ曰ク、余ハ本案ノ大体ヲ賛成ス、但ダ商業会議所ノ経費徴収法ニ就テハ世論頗ル喧シキモノアリ、此事タル昨年諮問会ノ議決ニヨルモノナルヤ
会長(渋沢栄一)答テ曰ク、昨年ノ諮問会ニ於テ経費徴収法ニ就テハ各委員ノ議論区々ニシテ遂ニ協和セズシテ終リタリト覚フ
十四番(永井松右衛門)問フテ曰ク、商業会議所条例ノ草案ハ発布前今一応本会ニ諮問セラレン事ヲ望ミ得ベキヤ
会長(渋沢栄一)答テ曰ク、今回元老院ニ下附セラレタル条例案ハ要スルニ昨年諮問会ノ議決ニヨリテ起草セラレタル趣ナレバ今改メテ之ヲ本会ニ諮問セラレン事ヲ望ムハ左迄必要ナラズト思フ、若シ発布後条例中ニ不都合ノ点ヲ発見スル事アラバ修正ノ建議ヲ為ス事敢テ難キニアラザルナリ
会長(渋沢栄一)ハ議論全ク尽キタルヲ以テ本案ノ可否ヲ起立ニ問フタルニ満場総起立ニテ之ヲ可決シ、猶其建議案ハ理事本員ノ起草シタル儘ヲ以テ直チニ農商務大臣ヘ上呈スベシト云フニ決ス
次ニ会長(渋沢栄一)ハ前会ニ於テ商法施行延期ノ建議書ヲ其筋ヘ上呈スベシト云フニ決シタルガ、其建議案ハ種々穿鑿ヲ要スル廉アリテ今般漸ク調成シタル旨ヲ報告シ、為念書記ヲシテ其全文ヲ朗読セシム(此建議書ハ八月二十七日附ヲ以テ司法大臣ヘ進達シ其全文ハ各地商業会議所ヘノ照会文ト共ニ参考部第八号ニ掲グルヲ以テ重複ヲ厭ヒ玆ニ之ヲ略ス)


東京商工会議事要件録 第四六号・第五三―五五頁 (明治二三年九月)刊(DK190052k-0004)
第19巻 p.416-417 ページ画像

東京商工会議事要件録  第四六号・第五三―五五頁 (明治二三年九月)刊
 ○参考部
(第七号)
    ○(商業会議所条例ノ制定ヲ要スル義ニ付建議)
商業会議所条例ノ義ニ就テハ昨年九月中農商務省ニ於テ全国各主要地ノ商業会議所ヨリ委員ヲ招集シテ其意見ヲ諮問セラレタル事アリシガ聞ク所ニ拠レバ其後同省ニ於テハ此等ノ意見ヲ参酌シテ条例案ヲ草定セラレ、今般内閣ヨリ之ヲ元老院ノ会議ニ附セラレタルニ同院ニ於テ
 - 第19巻 p.417 -ページ画像 
ハ遂ニ之ヲ否決セリト云フ、同院議事ノ摸様ハ之ヲ知ルニ途ナキガ故ニ其否決ノ理由ニ至リテハ之ヲ詳ニスルヲ得ズト雖トモ本会ハ大躰ニ於テ該条例ノ発布ヲ必要ト認ムルニ付左ニ其意見ノ大要ヲ開陳スベシ蓋シ商業会議所条例ノ草案ハ本会ニ於テ未ダ一読ノ機会ヲ得ザルニ付如何ナル箇条ヲ規定シアルヤハ固ヨリ之ヲ知ルヲ得ズ、随テ其細目ニ関スル意見ハ玆ニ之ヲ詳陳シ難シト雖トモ今熟々近時該条例制定ヲ要スルノ理由ナリトシテ民間ニ流伝スル所ヲ案ズルニ、其精神ハ蓋シ法律ヲ以テ商業会議所ノ設立ヲ公認シ之ヲシテ充分地方ノ商業ヲ代表スルノ機能ヲ得セシムルニ在リ、要スルニ商業会議所ヲシテ商業ノ自治機関タラシムルニ在ルガ如シ、其精神果シテ斯ノ如シトセバ該条例ノ発布ハ本会ノ大ニ希望スル所ナリ
現今我国ノ各商業主要地ニハ夫々商業会議所ノ設アリト雖トモ其組織ハ多クハ有志者随意ノ団結ニ成ルガ故ニ随テ地方ノ商業ヲ代表スルノ機能ニ於テ大ニ欠クル所アリ、未ダ充分其利用ヲ達セシムルヲ得ズ、然ルニ今若シ条例ヲ制定セラレ会議所ヲシテ真ニ商業ノ自治機関タラシムルニ於テハ地方ノ商業者ハ之ニ依リテ大ニ其利益ヲ進ムルヲ得、政府モ亦之ガ為メ其施政ノ便利ヲ達スルヲ得、結局全般商業ノ発達上ニ少カラザル効果ヲ及ボスベキハ本会ノ疑ハザル所ナリ、且ツヤ政府ハ曩ニ明治二十一年中市町村制ヲ発布セラレ本年又府県制及郡制ヲ発布セラレテ今ヤ地方ノ自治制度ハ漸ク将ニ整頓セントス、此際ニ当リ斯ノ如キ条例ヲ設ケテ商業自治ノ精神ヲ涵養セントスルハ豈相当ノ挙措ナルニアラズヤ、是本会ガ大躰ニ於テ商業会議所条例ノ発布ヲ必要ト認ル所以ナリ
聞ク所ニ拠レバ全国各地商業会議所ノ中ニモ本会ト同見ヲ持スル者多ク、現ニ最モ主要ノ商業地タル京都及大坂ノ商業会議所ノ如キハ既ニ其意見書ヲ当局ヘ上呈シタリト云ヘバ、以上陳述スル時ハ敢テ本会一個ノ私見ニアラズシテ蓋シ全国商業者ノ輿論ナリト信ズ、故ニ商業会議所条例ノ義ハ何卒此際断然発布セラレ、要スルニ前陳ノ趣旨ハ一日モ早ク実施セラレン事希望ノ至ニ堪ヘズ、依テ此段建議仕候也
                 東京商工会々頭
  明治二十三年八月二十八日
                      渋沢栄一
    農商務大臣 陸奥宗光殿


東京商工会議事要件録 第四六号・第六四―六九頁 (明治二三年九月)刊(DK190052k-0005)
第19巻 p.417-418 ページ画像

東京商工会議事要件録  第四六号・第六四―六九頁 (明治二三年九月)刊
 ○参考部
(第十号)
    ○(商業会議所条例ノ件ニ付大阪商法会議所ヨリ照会書)
拝啓仕候陳者商工会議所条例之義ニ付テハ昨秋農商務省ニ於テ特ニ各地会議所委員ヲ招集シ諮問会開設相成数月内ニ御発布可相成様承知罷在候処、其後半歳余日ヲ経過スルモ未タ御発布無之当会議所ノ如キハ一日モ早ク御発布アラン事ヲ希望スルノ余リ今回総会之議決ニヨリ右御発布ヲ促サンカ為メ其筋ヘ建議書捧呈仕候、右御賛成被下候得ハ貴所ヨリモ建議書御提出相成候様致度此段御照会申上候也
  明治廿三年八月七日         大阪商法会議所
 - 第19巻 p.418 -ページ画像 
    東京商会工
           御中
(第十一号) ○略ス
(第十二号)
    ○(以上二件ニ対スル回答書)
去ル七日附両通ノ御書面相達シ拝見仕候、陳ハ今般貴会ニ於テハ商業会議所条例ノ発布ヲ促サン為メ其筋ヘ意見書御差出相成候ニ付本会ニ於テモ同様尽力候様御照会ノ趣承知仕候、右条例発布ノ事ハ本会ニ於テモ兼テ御同意ニ付頃日更ニ臨時会ノ決議ヲ経、昨廿七日附ヲ以テ農商務大臣ヘ建議仕候間左様御承知相成度候 ○下略
                 東京商工会々頭
  明治廿三年八月二十八日
                      渋沢栄一
  大阪商法会議所会頭
    田中市兵衛殿


東京商工会残務整理報告 第二―三頁 (明治二五年)刊(DK190052k-0006)
第19巻 p.418 ページ画像

東京商工会残務整理報告  第二―三頁 (明治二五年)刊
○明治二十四年八月二十五日日本橋区坂本町東京銀行集会所ニ於テ東京商工会最終ノ臨時会ヲ開ク当日出席シタル会員左ノ如シ ○二十名氏名略当日午後四時開議、会頭渋沢栄一君ハ開会ノ趣旨ヲ告ゲ先ヅ明治二十三年七月ヨリ同二十四年七月ニ至ル定式事務ノ成蹟及明治二十三年二月ヨリ同二十四年七月ニ至ル会計収支ノ決算ヲ報告ス
  自明治二十三年七月至同二十四年七月 東京商工会事務報告
○中略
    其筋ヘ建議   三件
○中略
○商業会議所条例ノ制定ヲ要スル義ニ付農商務大臣ヘ建議
  本件ハ理事本員ノ発案ニ係リ其要旨ハ元来法律ヲ以テ商業会議所ノ設立ヲ公認スル事ハ商業上ノ利益少カラザルベキニ付、本会ハ大躰ニ於テ該条例ノ制定ヲ望ム旨ヲ其筋ヘ建議スベシト云フニ在リ、即チ明治二十三年八月二十六日第四十二臨時会ニ於テ之ヲ審議シタルニ全会異議ナク之ヲ可決シタルニ付、其後理事本員ニ於テ文案ヲ調成シ八月二十八日附ヲ以テ之ヲ陸奥農商務大臣閣下ニ進達シタリ
○下略


東京商工会々外諸向往復文書 第四号(DK190052k-0007)
第19巻 p.418 ページ画像

東京商工会々外諸向往復文書 第四号
                  (東京商工会議所所蔵)
商業会議所条例発布ノ儀ニ付過般建議ノ趣モ有之候処、愈々一昨十一日ヲ以テ発布相成候条此段為念及通知候也
  明治廿三年九月十三日
         農商務省商工局長 斎藤修一郎農商務省商工局之印
    東京商工会々頭 渋沢栄一殿


法令全書 明治二三年上巻 内閣官報局編 刊 【朕商業会議所条例ヲ…】(DK190052k-0008)
第19巻 p.418-420 ページ画像

法令全書 明治二三年上巻  内閣官報局編 刊
 - 第19巻 p.419 -ページ画像 
朕商業会議所条例ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
 御名 御璽
  明治二十三年九月十一日 内閣総理大臣 伯爵 山県有朋
              農商務大臣     陸奥宗光
法律第八十一号(官報九月十二日)
    商業会議所条例
第一条 此条例ニ商業者ト称スルハ商法第四条ニ掲ケタル商取引ノ各部類ニ属スル商人及作業人ヲ謂フ
第二条 商業会議所ヲ設立セントスルトキハ其地ノ商業者中此条例ニ依リ会員タルヲ得ヘキ者発起人ト為リ、地方長官ヲ経由シ農商務大臣ノ認可ヲ請フヘシ、但発起人ノ数ハ定款ヲ以テ定ムヘキ会員ノ半数以上ナルコトヲ要ス
 地方長官ハ前項ノ申請ヲ受ケタルトキハ郡若クハ市参事会ニ諮問シ其意見ヲ徴シ、尚ホ自己ノ意見ヲ添ヘ農商務大臣ニ進達スヘシ
第三条 会議所設立地ノ境界ハ市町村ノ区域ニ依ルヘシ、但土地商業ノ情況ニ由リ数市町村ノ区域ヲ互ニ聯合シテ其地ニ一会議所ヲ設立スルコトヲ得
第四条 会議所ノ事務権限左ノ如シ
 一 商業ノ発達ヲ図リ若クハ其衰退ヲ防クニ必要ノ方案ヲ議定スルコト
 二 商業ニ関スル法律規則ノ制定改正廃止及施行方法其他商業上ノ利害ニ関スル意見ヲ官庁ニ開申スルコト
 三 商業ノ実況及其統計ヲ官庁ニ報告スルコト
 四 商業ニ関スル事項ニ付官庁ノ諮問ニ応答スルコト
 五 法律命令若クハ官ノ委任ニ依リ其地ノ公設営業所仲立人組合及商業ニ関スル諸営造物ヲ管理スルコト
 六 仲立人ノ資格・員数及手数料ヲ審査スルコト
 七 関係人ノ請求ニ依リ其地ノ商業ニ関スル紛議ヲ仲裁スルコト
第五条 会議所設立地ノ商業者ニシテ所得税ヲ納ムル者ハ会員ノ選挙権ヲ有ス
第六条 会議所設立地ニ於テ所得税ヲ納ムル商業者ニシテ年齢三十歳以上ノ男子及商事会社ハ会員ノ被選挙権ヲ有ス
第七条 第五条及第六条ノ規定中会員ノ選挙権ニ関スル財産上ノ資格ニ付テハ農商務大臣ハ地方ノ情況ニ依リ、省令ヲ以テ特ニ其所得税ノ等級ヲ定メ又ハ他ノ国税ヲ加フルコトヲ得
第八条 左ニ掲クル者ハ会員ノ選挙権及被選挙権ヲ有セス
 一 瘋癲白痴ノ者
 二 重禁錮一年以上ノ刑ニ処セラレ又ハ商業及農工ノ業ヲ防害スル罪、財産ニ対スル罪、風俗ヲ害スル罪及信用ヲ害スル罪ヲ犯シ刑ニ処セラレ満期後又ハ赦免後三箇年ヲ経サル者
 三 公権剥奪若クハ停止中
第九条 会員ノ数ハ十五名以上五十名以下各会議所ノ定款ヲ以テ定ムヘシ
第十条 会員ハ無給トス、其任期ハ四箇年トシ毎二年其半数ヲ改選ス
 - 第19巻 p.420 -ページ画像 
初回ノ解任者ハ抽籤ヲ以テ定ムヘシ
第十一条 会員当選者ハ左ニ掲クル者ヲ除クノ外、会議所ノ議決ヲ経スシテ其就職ヲ辞シ又ハ任期中辞職スルコトヲ得ス
 一 疾病若クハ老衰ニ依リ職務ニ堪ヘサルコトヲ証明スル者
 二 営業ノ為メ常ニ会議所設立地ニ住居スル能ハサルコトヲ証明スル者
第十二条 前条ノ規定ニ依ルニ非ズシテ会員ノ職ヲ辞スル者ハ会議所ノ議決ヲ以テ二百円以下ノ過怠金ヲ課スルコトヲ得
第十三条 会員ノ選挙ハ郡長若クハ市長委員ヲ命シ日時及場所ヲ定メテ施行セシム、其費用ハ会議所ノ負担トス
第十四条 会議所ノ会議ハ第四条第二項・第四項及第七項ノ事件ニ係ル会議ハ公開スルコトヲ得ス
 前項ノ外農商務大臣ノ命令又ハ会議所ノ議決ヲ以テ公開ヲ禁スルコトヲ得
第十五条 会議所ハ第四条第七項ノ場合ニ於テ其関係人ヨリ相当ノ手数料ヲ徴収スルコトヲ得
第十六条 会議所ハ法人トシテ財産ヲ所有スルモノトス
第十七条 会議所ハ其議決ニ依リ会員定数ノ五分一ヨリ多カラサル特別会員ヲ置キ会議ニ参列セシムルコトヲ得、但特別会員ハ其議決ニ加フルコトヲ得ス
 特別会員ノ資格ハ学術技芸若クハ商業上ノ経験アル者タルヘシ
第十八条 会議所経費ノ予算ハ地方長官ヲ経由シ農商務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第十九条 会議所ノ経費ハ会員ノ選挙権ヲ有スル者ヨリ徴収ス、其徴収方法ハ会議所ノ議決ヲ以テ地方長官ヲ経由シ農商務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
 経費ヲ納期ニ納メサル者アルトキハ其地ノ地方税収入役ニ嘱託シテ之ヲ徴収スルコトヲ得
 収入役ノ督促ヲ受クルモ経費ヲ納メサル者ハ会員ノ選挙権及被選挙権ヲ四箇年以上八箇年以下停止シ、尚ホ二百円以下ノ過料ニ処ス
第二十条 会議所ノ定款ハ会議所ノ議決ヲ以テ左ノ事項ヲ規定シ地方長官ヲ経由シ農商務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
 一 会員選挙規則
 二 議事規則
 三 庶務規程
 四 役員職務権限
 五 仲裁規則
 六 会計規則
 七 公認ノ営造物若クハ其営業所ノ管理規則
第二十一条 農商務大臣ハ会議所其権限ヲ犯シ又ハ商業上有害ノ行為アリト認メタルトキハ会議ヲ停止シ、尚ホ其情況ニ依リ役員若クハ会員ノ幾部又ハ全部ノ改選ヲ命スルコトアルベシ
第二十二条 農商務大臣ハ此条例施行ノ責ニ任シ之ガ為メ必要ナル命令ヲ発スベシ
 - 第19巻 p.421 -ページ画像 


法令全書 明治二三年下巻 内閣官報局編 刊 ○農商務省令第十二号(DK190052k-0009)
第19巻 p.421 ページ画像

法令全書 明治二三年下巻  内閣官報局編 刊
  ○農商務省令第十二号
商業会議所条例施行規則左ノ通相定ム
  明治二十三年九月十八日    農商務大臣 陸奥宗光
    商業会議所条例施行規則
第一条 商業会議所設立ノ申請書ニハ左ノ事項ヲ記載シ、会員選挙規則及ヒ設立費用ノ予算ヲ添ヘ認可ヲ請クヘシ
 一 会議所ノ名称
 二 設立地ノ区域
 三 設立地ノ商業者中会員ノ選挙権ヲ有スル者及被選挙権ヲ有スル者ノ概数
 四 会員ノ定数
第二条 設立認可ヲ得タルトキハ発起人ニ於テ其旨公告シ、商業会議所条例第五条及ヒ第六条ニ依リ会員選挙人及被選挙人ノ名簿ヲ六十日以内ニ調製シ、認可ニ係ル書類ヲ添ヘ其地ノ郡長若クハ市長ニ会員選挙ノ施行ヲ求ムベシ
  但設立地ノ区域数市町村ニ亘ルトキハ会議所ヲ建設スベキ地ノ郡長若クハ市長ニ請求スヘシ
第三条 会議所設立発起人又ハ会議所ヨリ会員選挙施行ノ請求ヲナシタルトキハ郡長若クハ市長ハ十五日以内ニ選挙委員五名ヲ命シ、少クトモ十五日以上ノ予告ヲナシ其選挙ヲ施行セシムヘシ
第四条 第一条ノ申請書ニ依リ認可ヲ得タル会員ノ定数・会員選挙規則及第二条ニ依リ調製シタル会員選挙人及被選挙人名簿ハ会議所定款認可ノ日マテ効力ヲ有スルモノトス
第五条 会議所又ハ其ノ設立発起人ニ於テ会員選挙人及被選挙人名簿ヲ調製スルトキ其ノ納税額並年齢ノ調査ニ付テハ地方長官ノ証明ヲ受クヘシ
第六条 会議所ノ定款ハ会員選挙ノ後六十日以内ニ議定シテ認可ヲ請クヘシ
   ○明治二十八年三月法律第二十三号ヲ以テ本条例ハ改正セラレタリ。第三款東京商業会議所明治二十五年九月十九日、同二十五年十二月十五日、同二十六年九月二十二日、同二十六年十一月十八日、同二十七年五月二十七日同二十七年六月二十七日、同二十七年九月二十六日ノ各条並ニ本編第八章政府諸会ノ中「商業会議所条例改正案諮問会」ヲ参照。



〔参考〕東京経済雑誌 第二二巻第五三五号・第二三七―二三九頁 明治二三年八月二三日 商法会議所振興の策を論ず(DK190052k-0010)
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東京経済雑誌  第二二巻第五三五号・第二三七―二三九頁 明治二三年八月二三日
    商法会議所振興の策を論ず
商法会議所条例将さに制定発布せられんとす、客あり之れか理由を余輩に問ふ、答へて曰く、余輩草莽の臣焉んぞ雲壁万丈の深奥を窺ふを得んや、然りと雖も、当路有司の主意たる少なくも現時我か商法会議所の盛ならざるを歎き、新条例を設けて之れを振興せしめんとするや明かなり」と、客曰く、願くは其の方策の大躰を聞くを得ん、答へて曰く、今日は猶ほ此の般の事を秘密にせざるべからざるの時なり、然
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れとも余輩亦た新条例の精神を想像し得ざるにあらず殊に其の発布施行に付ては全国の商工業者に影響する所少なきにあらざれば、請ふ少しく之を論ぜん
人は問ふ商法会議所を振興する、夫れ策ありやと、余輩は答ふ別に奇策あるべからずと、前々号の本誌は正に之れか答を為せり、曰く今の商法会議所を発達するの方案は、各地各個の商工業者宜しく自から之に任すべし、蓋其土地により、物産により、習慣により区々別々の商法会議所の起るは是れ自然の数のみ、決して政令の左右する所にあらざるなりと、今ま之を事実に徴せんに、東京は商業全般に亘りて千差万別、商品の売買、金銀の貸借より、産物の製作、陸運海漕の業に分かれて頗ふる複雑を極むると雖も、京都に於て商業と称すべきものは僅かに西陣の織物・陶器・扇子の類に過きざるなり、大阪の商業は多くは関西・関東の物産買次にして、大津の商業は単に米穀の売買に止まり、横浜の商業は広く内外出入の貿易を総括するも、桐生・足利の商業は単に機業に過きざるなリ、左れはにや東京・大阪の商法会議所は自から全国の機軸を採りて中心となり、各地の商法会議所は異殊特別の長所を有して個々独立す、東京・大阪は恰かも大統領副統頭の如く、地方は各省の大臣若くは地方長官の位置に在るべし、是の如く大小相ひ異なり事情互に一致せざる地方に対し、劃一なる一条例を布て其下に一時に商法会議所を勃興せしめんとするは抑々何事ぞや、蓋し場合に依ては非常の苦痛を商工業者に与ふるの結果なくんはあらず、商工業者に苦痛を与ふるは即ち我か商工業に苦痛を与ふるなり、全国の商工業者諸君よ、日々の儲け月々の利益を謀るは固よリ肝要なりと雖とも、今ま諸君の本業に関する新条例の制定せられ、発布せられ、施行せられんとするに際し、何ぞ夫れ冷々然たるや
否な諸君は決して之に対して冷々然たらざるなり、何を以て之を知る乎、曩きに商法会議所条例か元老院に於て脆くも廃棄せらるゝや、東京の商工会・大阪の商法会議所・京都の商工会議所の有志は全国に率先して、先づ該条例制定の必要を認め、大に各地の同団躰に遊説し、全国五十余ケ所を連合して、一致の大運動を試みんとせられたるの一事は、即ち商工業者諸君が該条例に対して冷淡ならざるを証して余りあるなり、余輩誠とに其の美挙を賞賛す、然りと雖とも諸君は如何なる条例を設けられんことを希望するや、全国劃一の精神を有する条例の下に縛らるゝことを望まるゝ乎、将た地方独個の運動自在なる条例の下に我か商工の発達を期せらるゝ乎、之に対して諸君は嘗て其希望を述べしことありや、何時如何なる意見を表白せられしや、寂として声なし、諸君か慧敏なる眼光、流暢なる舌頭は終に此の時に用ゐられざるを歎せざるや
余輩は未た新条例を知らずと雖とも、其の精神の在る所は決して窺ひ難きにあらざるなり、曰く商法会議所を自治躰となす事、曰く法律上自治躰として権利義務を認めらるゝ事、是れなり、若し夫れ此の大主義にして察知し得べくんば仮令ひ数百ケ条ありと雖とも、敢て其の効用結果を論断し難きにもあらざるべし、余輩之に拠りて想像するに、既に自治躰とあるからには商法会議所は人民(商工業家即ち有資格者
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にして市町制の公民の如きもの也)の公選ならざるべからず、人民之を公選する以上は之れか経費を支出せざるべからず、而して其賦課は殆んと一般の租税と同一の義務たるは言ふを俟たず、殊に其の議員に当選したるもの随意に辞するを得るや否や、蓋し市制の第八条に於けるか如く当選者は故なくして拒辞することを得ず、拒辞するものは公民権の停止と同様、資格を停止せらるゝか如き罰則の之に伴ふは或は当然の結果ならん乎、将又た彼の会議所の費用を支払ふことを怠り若くは支払はざる商工業者は市制第百二条の規定と同しく国税滞納処分法に拠りて処分せらるべきものならん、余輩は旧来の沿革成行により今度新定せらるべしと云ふ条例を推測するに、必らずや商法会議所を自治躰と認めらるべき精神ならん、既に自治躰と認めらるゝ以上は右述ぶる所の義務の由りて生するは数の尤も覩易きものなりとす、此の義務たる果して軽々に看過すべきや否や
此等の義務猶ほ可なり、之に対して如何なる権利か商法会議所に附与せらるべきやと考ふるに、是の点に於て該会議所は蓋し頗ぶる困難の地位に陥ゐるべし、何となれば若し商法会議所にして或は法律の制定若くは修正の権を有する時は我か国の立法部は為めに或は転覆すべければなり、商法会議所か商業紛議の仲裁者として強行的抑圧的まで進む時は、我が商業は数多の専制の君主を戴くに異ならざればなり、商法会議所にして若し商業の利益を謀り其隆盛を進めんとて或る件を議決し自から之を実際に行ふ時は一個の商業者の利益と抵触することの起るは必然の結果なれはなり、商法会議所は決して法律上強て斯の如き権利を許さるべき理由あるべかず
然らば商法会議所は農商務省に隷属し、其の支配の下に立ちて商政の参考に供せらるゝに過ぎざるべし、其の性質は討議会なりと雖とも議決の執行を命するの権なく、実は唯相談会なるのみ、権利なき一の諮問会のみ、然れとも一の自治躰(厳正なる意味の)と認めらるゝ以上は重苛の義務を負はざるべからざるや明かなり、是れ果して我か商法会議所を盛んにすべき明案なるや、我か商業を発達すへき良法なるや「世の中は三日見ぬ間に桜かな」、コヽは我か商業者諸君の雲煙視すべき場合にあらざるなり



〔参考〕東京経済雑誌 第二二巻第五三九号・第三七五―三七六頁 明治二三年九月二〇日 商業会議所条例遂に発布せられたり(DK190052k-0011)
第19巻 p.423-424 ページ画像

東京経済雑誌  第二二巻第五三九号・第三七五―三七六頁 明治二三年九月二〇日
    商業会議所条例遂に発布せられたり
我か国商法会議所の振はさるや久しと云ふ可し、故に余輩屡々卑見を述へて之れか振興の策を講せり、近頃亦た政府か商業会議所条例の発布せらるゝことを聞き、尚ほ更らに其の精神を想像して、余輩の希望する所を開陳せり(本誌第五百三拾五号)、其の言に曰く、商業会議所の自治躰と認めらるゝは則ち可なり、之れを一の地方税支弁の団躰となすは終に不可なり、曰く吾人は会議所々員の選挙被選挙に付き、又た其の経費の支弁に付きて、重大なる義務を負ふと雖とも、之れか権利は極めて軽小なり、曰く若し会議所にして其決議を施行する程の権利を許さるゝときは、国家の立法部司法部は非常なる権利の侵害を受くるに至ること明かなり、曰く会議所は進みては法律上其の権利を重
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からしむる能はず、退いて其の経費を免かるゝ能はず、一の諮問会の為めに吾人商業者は一種の租税を賦課せらるゝなり、是の故に政府か年来の意見なりと想像せらるゝ条例草案に対し商業者は甚た同意すべからざるの点あることを江湖に訴ふる所ありき
然れども我か政府は先きに元老院に於て多数を以て廃棄せられたるに拘らず、該院の意見を用ひずして、遂に去る十一日商業会議所条例を発布せられたり、(尤も多少は当初の原案に比して改正の点もありと云ふ)余輩今に於て復た何をか云はん、唯々今後成るべく該法律を活用し利用して、少したりとも我が商業者に利益して、我か商業の発達を助成せんことを希望せざる可からず
新条例によれば、商業会議所は商法第四条に指定する商業者即ち一般の商工業作業者を以て組織し、其の事務権限は即ち
(第四条)
 一 商業ノ発達ヲ図リ若クハ其衰退ヲ防クニ必要ノ方案ヲ議定スルコト
 二 商業ニ関スル法律規則ノ制定改正廃止及施行方法其他商業上ノ利害ニ関スル意見ヲ官庁ニ開申スルコト
 三 商業ノ実況及其統計ヲ官庁ニ報告スルコト
 四 商業ニ関スル事項ニ付官庁ノ諮問ニ応答スルコト
 五 法律命令若クハ官ノ委任ニ依リ其他ノ公設営業所仲立人組合及商業ニ関スル諸営造物ヲ管理スルコト
 六 仲立人ノ資格員数及手数料ヲ審査スルコト
 七 関係人ノ請求ニ依リ其地ノ商業ニ関スル紛議ヲ仲裁スルコト
なり、又会員たるの資格は其設立地に於て所得税を納むる三十歳以上の男子若くは商事会社にして、単に所得税を納むる者は選挙権を有す(第五・六条)、而して議員に当選したる者は、疾病・老衰の為めに職務に堪えざる乎、営業の為め其地に居住すべからざる者にあらざれば之を拒辞することを得ず、此場合にあらずして、辞する者は、会議所の決議により二百円以下の過怠金を徴せらるゝも遂に之を拒むを得ず(第十一・十二条)、又た其の経費は会議所の決議と農商務省の認可を経て会員選挙権を有する者より徴収せらる、若し之れを納めざるものは会員の選挙被選挙権を四ケ年乃至八ケ年間停止せられたる上尚ほ二百円以下の罰金を徴課せらる(第十九条)
是れ即ち新条例の要領なり、謹んで之を読むに、予て余輩の想像せし如く、人民は余程の義務を負ふて、而して権利は極めて小なりと思ふは非耶、将た当局者は今日の人民は或は怠惰柔弱にして鉄鞭を以て之を打つの必要ありとせらるゝ乎、余輩復た多言せず、刮目して以て将来の結果を見んと欲す、我か商業者諸士願くは此際勉力して以て我か商業世界前途の山河を切り開かれんことを