デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

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公開日: 2016.11.11 / 最終更新日: 2022.3.15

2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代

1部 実業・経済

7章 経済団体及ビ民間諸会
1節 商業会議所
3款 東京商業会議所
■綱文

第19巻 p.636-639(DK190066k) ページ画像

明治24年5月28日(1891年)

是日当会議所初集会開催サレ仮役員ヲ定メ、栄一仮会頭ニ選挙セラル。仍テ同月三十日設立発起人解任ノ儀ヲ東京府知事侯爵蜂須賀茂韶ニ願出デ、許サル。


■資料

東京商業会議所設立事務報告書 第四一頁 (明治二四年刊)(DK190066k-0001)
第19巻 p.636 ページ画像

東京商業会議所設立事務報告書  第四一頁 (明治二四年刊)
一明治二十四年五月二十八日、本会議所最初ノ集会ニ於テ設立発起人渋沢栄一氏ヨリ設立事務ノ報告ヲ為シ、且ツ諸書類物件ヲ引継グ
一明治二十四年五月卅日、東京府知事ヲ経由シテ設立発起人解任ノ旨ヲ農商務大臣ヘ届出ツ
一明治二十四年六月一日ヨリ三日迄三日間設立発起人解任ノ旨ヲ官報ニ公告ス


庶政要録 農商 明治廿四年(DK190066k-0002)
第19巻 p.636 ページ画像

庶政要録  農商 明治廿四年       (東京府文庫所蔵)
    東京商業会議所設立事務引継届書進達案
 
  農商務大臣殿               知事
東京商業会議所設立発起人総代渋沢栄一外一名ヨリ該会議所設立事務引継並発起人辞任届書進達ノ儀願出候ニ付別紙及進達候也
(別紙)
別紙ノ書面何卒農商務大臣ヘ御進達被下度此段相願候也
            東京商業会議所設立発起人総代
  明治二十四年五月三十日       奈良原繁
                    渋沢栄一
    東京府知事 侯爵 蜂須賀茂韶殿
   ○別紙欠除ス。


庶政要録 農商 明治廿四年(DK190066k-0003)
第19巻 p.636-637 ページ画像

庶政要録  農商 明治廿四年       (東京府文庫所蔵)
    東京商業会議所ニ係ル報告按
  農商務大臣殿               知事

東京商業会議所設立発起人総代渋沢栄一外六名ヨリ去四月廿二日付ヲ以、会員選挙ノ義請求ニ付五月十三日ヲ以右選挙ヲ施行シ、同十五日ヲ以結了セリ、即チ別紙人名ノ者会員ニ当選相成候ニ付、同廿八日該当選者ヲ日本橋区坂本町銀行集会所ニ召集シ、先仮会頭ノ選挙ヲ行ヒシ処、渋沢栄一当選相成候ニ付、直ニ初回ノ会議ヲ開キ仮幹事及定款起草委員ヲ選挙セシニ、仮幹事ニ山中隣之助・大倉喜八郎・佐久間貞一、定款起草委員ニ益田孝・小林義則・藤田藤一郎・益田克徳・伊井吉之助・中野武営・太田実当選セリ、依テ会員選挙ニ関スル書類並物件ヲ引継諸事全ク結了致候、依テ此段及報告候也
 - 第19巻 p.637 -ページ画像 
   ○別紙会員名ハ前掲ト同一故之ヲ省略セリ。


庶政要録 農商 明治廿四年(DK190066k-0004)
第19巻 p.637 ページ画像

庶政要録  農商 明治廿四年       (東京府文庫所蔵)
今般本会議所会員ノ投票ヲ以テ左記ノ通リ仮役員撰挙相成候間此段御届申上候也
                東京商業会議所仮会頭
  明治二十四年六月二日
                     渋沢栄一
    東京府知事 侯爵 蜂須賀茂韶殿
   ○左記欠除ス。


庶政要録 農商 明治廿四年(DK190066k-0005)
第19巻 p.637 ページ画像

庶政要録  農商 明治廿四年       (東京府文庫所蔵)
今般本会議所仮書記長トシテ左記ノ者ヲ任用仕候間此段御届申上候也
                東京商業会議所仮会頭
  明治二十四年六月二日
                     渋沢栄一
    東京府知事 侯爵 蜂須賀茂韶殿
                 東京商業会議所仮書記長
                     萩原源太郎


庶政要録 農商 明治廿四年(DK190066k-0006)
第19巻 p.637 ページ画像

庶政要録  農商 明治廿四年       (東京府文庫所蔵)
本会議所仮会頭ノ役印別記印鑑ノ通リ相定候間此段御届申上候也
                東京商業会議所仮会頭
  明治二十四年六月五日
                     渋沢栄一
    東京府知事 侯爵 蜂須賀茂韶殿
      印鑑 東京商業会議所仮会頭之印



〔参考〕東京経済雑誌 第二三巻第五七二号・第六六七―六六八頁 明治二四年五月一六日 ○新商業会議所の権限(DK190066k-0007)
第19巻 p.637-639 ページ画像

東京経済雑誌  第二三巻第五七二号・第六六七―六六八頁 明治二四年五月一六日
    ○新商業会議所の権限
従来我か邦各地に成立せし商業会議所若くは商工会は、去る明治十六年太政官第十三号布達第六条及び第七条に拠り、府県知事の誘導に依りて設立せしものにして、其の会員は設立地方に於て重立ちたる各会社及び組合同盟し、之より選出せし代表人を以て組織し、其の経費は選出会員の人頭に応して、各会社及び組合に於て分担するの制なりしが、昨年九月に至り我か政府は、法律第八十一号を以て商業会議所条例を発布し、此の随意的の団躰を改めて、強制的の団躰と為さんとせり、即ち商業会議所を設立するには地方長官を経由して農商務大臣の認可を受くるを要し、会員は会議所設立地に於て所得税を納むる商業者にして、年齢三十以上の男子及び商事会社々員にして法律上其会社の代理権を有する者の、会議所設立地に於て所得税を納むる商業者より選挙せられたる者を以て組織し、且つ会員は疾病老衰又は常に会議所設立地に住居すること能はさるの事故あるにあるされば、其の職を辞するを得ず、若し此等の事故なくして其の職を辞する者には、会議所の議決を以て二百円以下の過怠金を課することを得べしと定め、会議所の経費は会員の選挙権を有する者より徴収し、納期に之を納めさ
 - 第19巻 p.638 -ページ画像 
るものあるときは、其の地の地方税収入役に嘱托して之を徴収し、収入役の督促を受くるも之を納めさる者は会員の選挙権及び被選挙権を四ケ年以上八ケ年以下停止し、尚ほ二百円以下の過料に処すと為せり勿論商業会議所を設立すると、設立せざるとは随意にして、法律は之を命令せずと雖も、当局有司の勧誘と有志者の尽力とに依りて、今や既に大坂・京都・神戸等の各商業会議所は成立し、東京商業会議所も亦た去る十三日を以て選挙会を開き、会員五十名を選出せり、即ち本誌雑録欄内に掲ぐるが如し、抑も此の条例の発布せらるゝや、世上商業会議所を束縛するの厳に過くるを非難するもの多く、余輩の如きも亦た聊か不同意を唱へたりしが、斯く成立せる以上は余輩復た何をか言はん、然りと雖も此の新商業会議所に対しては余輩大に希望せざるべからず、蓋し商業会議所条例は其の第四条を以て各商業会議所の事務権限を左の如く定めたり
 一商業の発達を図り、若くは其の衰退を防くに必要の方案を議定すること
 二商業に関する法律規則の制定改正廃止及び施行方法、其の他商業上の利害に関する意見を官庁に開申すること
 三実業の実況及び其の統計を官庁に報告すること
 四商業に関する事項に付き、官庁の諮問に応答すること
 五法律命令若くは官の委任に依り、其の地の公設営業所仲立人組合及び商業に関する諸営造物を管理すること
 六仲立人の資格員数及び手数料を審査すること
 七関係人の請求に依り、其の地の商業に関する紛議を仲裁すること
斯の如く其の権限を臚列するときは、新商業会議所は実に立派なるものゝ如しと雖とも、其の実際に於ては敢て従前と異なることなかるべし、唯た経費支出の一事は大に異なる所あるべし、即ち従前の制度に在りては既に述べたるが如く会社及び組合に於て其の出せる会員の頭数に応して分担し、而して其の会員を出たすと否とは、会社及び組合の随意たりしを以て、其経費は各会社及び各組合の甘諾せる所なりと雖も、今回の制度に於ては一種の租税として徴収することなれば、恐くは不平を唱ふるものあるべし、是れ其の異なる所以なり、然り而して其の経費の高は商業会議所に拠りて固より異なるべしと雖も、今ま特に東京商業会議所に就いて之を算するに、少なくとも一ケ年に付き五千円は要すべし、之を会員の撰挙権を有する商業者千二百人を以て除すれば、平均一人の負担額は四円余となるべし、而して是れ専ら所得税を標準として賦課するものなれば、巨額の所得税を納むるものに至りては頗る多額となるべし、故に此の経費は成るべく多数の商業者をして分担せしめざるべからず、然るに政府は東京市に限り、此の商業者を四等以上の所得税を納むるものと為せり、余輩甚だ之を惜まざるべからず
然りと雖も其の会員にして真に学識と経験とに富み、而して熱心を以て事に従はゞ大に其の権限を拡張し得て、我が商業社会の福祉を増進すること敢て望むべからざるにあらず、思ふに政府に於ても特に法律を制定して、商業会議所を監督する以上は、其の議決には重きを措く
 - 第19巻 p.639 -ページ画像 
ことなるべし、故に第一の要務は会員に其の人を得ると否とに在りと雖も、抑も又た会員諸氏か大に注意する所ありて、従来各商業会議所に成立せしが如き悪弊に感染せられずして、実効を挙ぐることを勉めざるべからず、是れ余輩の切に希望する所なり



〔参考〕東京経済雑誌 第二三巻第五七三号・第七〇九―第七一〇頁 明治二四年五月二三日 ○新商業会議所の困難(DK190066k-0008)
第19巻 p.639 ページ画像

東京経済雑誌  第二三巻第五七三号・第七〇九―第七一〇頁 明治二四年五月二三日
    ○新商業会議所の困難
余輩は商業会議所の権限並に選挙の方法に関して前号に於て略ほ述ぶる所ありしか、余輩の予想する所を以てするに、新立の商業会議所は必ず一時商人社会の怨府たるを免かれざるべし、何となれは新商業会議所の商人社会に及ほす所の利益は決して多分なるを得ずして、而して各人負担する所の経費は甚た多額なればなり
蓋し現今東京府下に於て選挙権を有するもの一千二百人ありと云へり而して新商業会議所の経費は少くとも五千円を要するなるべし、然らば則ち選挙人一人に付き平均四円余に当ることなり、平均五円余の経費を払ひて、而して其議する所従前の商業会議所に大差なきに於ては選挙人たるもの必ず不平を鳴らし、之を責むるに至らんこと知るべきなり、論者曰く新商業会議所の権限は、旧商工会に異なりと、余輩未た俄に之を信するを得す、夫れ新商業会議所の権限旧商工会に比して大なりと思はるゝ所は
 一 商業の発達を図り若くは其衰頽を防くに必要の方案を議定すること、是なり
此一条は文字の上に於ては至極立派なりと雖も、事実に於ては決して有効なる議決を為す能はざることなり、夫れ商業の発達を図り、若くは其衰頽を防くに関して有効なるものは、租税を免するなり、港湾を修するなり、紙幣を増減するなり、航海業を改良するなり、然るに是等の事は決して商業会議所の議決権内に属するものにあらず、去れは斯く有効なる部分を除きて、而して商業の発達を図り、若くは其衰頽を防くと云はゝ、余輩は其文字の立派なるを賛美するも、其権限の小なるを憫まざるべからず
且つ夫れ新商業会議所に於て、其経費を選挙人に賦課するに当りて、第一に起るべき問題は商人の区別是なり、勿論新商業会議所は其選挙権を有するものより経費を徴収するの権ありと雖も、選挙権を有するものと有せさるものとの判定は如何にして之を定むるや、今回の選挙人中には会社の取締役を含めり、此取締役中には一ケ月に一度位より外会社に出席せざる所の華族もあり、士族もあるなり、此等の人は商人と称すべきものなるや否や、彼等自ら商人にあらず故に経費を負担せずと云は、必ず裁判上の問題とならざるべからず、思ふに是等の取締役中にも自ら選挙を行ひたるものは必ず経費を負担することを承諾すべしと雖も、是等の中其選挙権を棄捐したるものありと云へば、余輩の見る所を以てするに此紛紜は免るべからざるが如し
故に新商業会議所は其本分の事務を行ふに至るまでには、尚ほ幾多の困難に遭遇するなるべし、余輩は議員諸氏が十分に之に任せんことを望まざるべからず