デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治25年11月2日（1892年）

当会議所、来遊中ノ紐育商業会議所会頭チヤールス・エス・スミスCharles S.Smithヲ栄一ノ飛鳥山ノ別邸ニ招待シテ園遊会ヲ開ク。栄一歓迎ノ演説
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ヲナス。

東京商業会議所月報　　第三号・第二頁　明治二五年一一月
○同月　○十月二十六日午後五時、本会議所仮事務所ニ於テ役員会議ヲ開キ、去十九日会員協議会ノ決議ニ基キ今般本邦ヘ来遊セラレタル紐育府商業会議所会頭チヤーレス、エス、スミス君招待ノ件ヲ審議シ、午後八時二十分散会ス
○中略
○同月　○十月三十日午前九時、本会議所仮事務所ニ於テ役員会議ヲ開キ来ル十一月二日紐育府商業会議所会頭チヤーレス、エス、スミス君ヲ招待ノ件ニ付、其準備ノ方法ヲ審議シ正午十二時散会ス

東京商業会議所月報　　第四号・第二〇―二二頁　明治二五年一二月
○十一月二日午後二時、去ル十月十九日協議会ノ決議ニ基キ本会議所会員主人トナリ当時本邦ヘ来遊中ナリシ紐育商業会議所会頭チヤーレス、エス、スミス君ヲ府下王子村渋沢栄一君ノ別荘ニ招待シテ園遊会ヲ開ク、当日スミス君ノ外ニ尚ホ招待ニ応シテ来園セラレタル内外ノ来賓ハ後藤農商務大臣・陸奥外務大臣・富田東京府知事・両省高等官在野ノ紳士其他スミス君ノ知友タル米国紳士等合セテ数十名ニシテ午後三時賓主園内ノ広場ニ会シ、先ツ会頭渋沢栄一君会員ニ代リテ左ノ演説ヲナス
　臨場貴賓諸君、今日ハ我東京商業会議所会員一同ガ今般来遊セラレシ我邦ノ嘉賓北米合衆国紐育府商業会議所会頭チヤーレス、エス、スミス君ヲ招待シ、将来ノ懇親ヲ厚フスルタメニ此会ヲ開キマシタノデアリマス、依テ小生ハ会員一同ニ代リテチヤーレス、エス、スミス君ヘ一言ノ蕪詞ヲ呈シテ諸君ノ清聴ヲ煩ハシマス
　チヤーレス、エス、スミス君ガ我邦ニ来遊サレシハ今回ガ初度ナリトノ事ナレドモ、北米合衆国ト我日本トノ交際ハ嘉永癸丑ノ年水師提督ペルリ氏ノ渡来ヨリ起算スレハ実ニ四十年ノ星霜ヲ経過シマシテ、我日本ヲ当世紀ノ文明ニ誘導サレタル先輩ノ国デアリマス、爾来両国間ノ交情ハ最モ親密ニシテ北米合衆国ガ我日本ニ対シテ常ニ優遇ノ意ヲ有セラルヽハ我々日本人民ノ厚ク之ヲ感謝スル所デアリマス、且其国際ノ盟約訂交ノ事モ両国ノ当路者措置其宜ヲ得テ円満ナルモノト我々ハ喜悦ニ堪ヘマセヌ、去リナガラ凡ソ国際ノ交誼ヲ厚フシテ其友情ヲ親密ナラシムルハ独リ政事上ノ関係ノミヲ以テ足ルヘキ者デハアリマセヌ、必ス商業上ノ取引ヲ厚フセザレハ真成ノ満足ヲ得ルモノデハナイト信ジマス、而シテ現今北米合衆国ト我日本トノ貿易ノ実況ハ年一年ニ進歩シテ、現ニ昨明治二十四年ノ如キハ我日本ト通商各国トノ貿易統計表中北米合衆国ニ対スル輸出入ヲ以テ最高地位ニ置ク者トナリマシタノハ我々ノ慶賀スル所デアリマス、只此貿易ガ日本ヨリ北米合衆国ヘ輸出スル物品ノ高ヨリハ米国ヨリ日本ヘ輸入スル物品ノ高ガ大ニ減少シテ其間ニ少シク権衡ヲ得マセヌノハ我々ガ遺憾ヲ感ズル所デアリマスガ、幸ニ今回チヤーレス、エス、スミス君ノ来遊ニヨリテ我々ノ感情ヲ親シク君ニ陳述ス
 - 第20巻 p.163 -ページ画像 
ルヲ得タレバ君ハ帰国ノ後ニ我々ノ感情ヲ紐育府商業会議所会員ニ報告セラレ、自今以後相共ニ両国間ノ貿易ヲ増進隆盛ナラシムル事ヲ勉ムルニ於テハ其交誼友情モ益々至懇周密ニ至ル者ト信ジマス是レ実ニ君ト我々トノ商業者ノ本分ニシテ、両国ノ進運福祉ヲ謀ルノ要務ト信ジマス、想フニチヤーレス、エス、スミス君モ全ク我々ト其企望ヲ同フスベケレバ、今此小子ガ陳述スル蕪詞ヲ嘉納セラレテ向後此点ニ於テ尽力セラルヽ者ト信シマス、果シテ然ラハチヤーレス、エス、スミス君ノ我邦ヘ一遊セラレシハ両国ノ交際、貿易ニ一層ノ光輝ヲ添ヘルモノト云フモ敢テ過言デハアリマスマイ、殊ニ明年シカゴ府世界大博覧会ノ挙ノ如キハ我日本政府モ人民モ喜デ之ヲ賛成シ目下専ラ其出品ニ付テ経営中ナレバ両国ノ貿易上更ニ其進歩ヲ見ルモ蓋シ近キニアル事ト存シマス、而シテ此等ノ点ニ於テハ幸ニ今日シカゴ府世界大博覧会委員諸君モ臨場セラレシニヨリ併テ其周旋尽力ヲ企望致シ置キマス、小子ハ玆ニ謹デチヤーレス、エス、スミス君及来賓諸君ノ万福ヲ祈リ、且ツ今日ノ光臨ヲ謝シマス
紐育商業会議所会頭チヤーレス、エス、スミス君ハ之ニ対シテ左ノ演説ヲナス
　会頭閣下並ニ臨場ノ貴女紳士、余ハ貴国ヘ渡航以来コノ清麗ナル国土ニアルヲ喜ブノミナラズ貴国人ノ最モ深切丁寧ナル待遇ヲ受クルノ忝ナキハ永ク心ニ銘シ貴国ヲ去ルノ後ト雖モ決シテ忘ルヽ事能ハズ、又此感情ハ独リ余ノ心ニ記スルノミナラス我同胞人ノ斉シク感佩スル所ナルヲ謝ス
　抑モ我北米合衆国ガ貴国ヲ導キシヨリ海外各国ト通商ヲ開カルヽノ端緒トナリシハ近頃以テ著シキ外交上ノ名誉ニシテ、爾来貴国ハ想像モ尚及バザル程ナル長足ノ進歩ヲナシ、現ニ世界商業ノ上ニ於テ東洋ノ真珠トシテ世人ノ共ニ仰キ見ルニ至リシハ余ノ喜フ所ナリ
　且夫レ貴国ハ極テ短日月ノ間ニ於テ封建制度ヲ廃シ自由立憲君主国ヲ建テ、而カモ和気靄々ノ内ニ此ノ如キ大変遷ヲ遂ゲラレシハ実ニ古来万国ノ歴史上奇跡ノ一ニ数フベキ美事ニシテ亦以テ感歎ニ余リアリ、此ノ如キ誉アル国ニ来リテ今日斯クモ厚遇ヲ蒙ルハ決シテ余ガ一身上ノ関係ヨリ生スルニアラズシテ全ク紐育商業会議所ヲ代表スル余ナルニ由ルモノト信ズ、蓋シ我紐育商業会議所ハ北米合衆国中最モ古キ商業者ノ団躰ニシテ実ニ我政府創建以前早ク已ニ設立セラレタルモノニシテ、今日紐育ハ人口殆ト二百万ニ達スルモ当時ハ僅ニ二万ニ過ギザリキ、同会議所員ハ現在一千人ノ多キアリテ実ニ紐育市ハ勿論、紐育全州ノ商工芸及ヒ理財上最モ重キ関係ヲ有スルモノニシテ又之ヲ代表スルニ最良ナル機関トナリ居レリ
　サレハ今余ガ会頭閣下ニ対シテ蕪詞ヲ呈スルハ即チ右一千人会員ノ心ヲ代表シ謹デ閣下ヲ祝シ、且ツ敬意ヲ表スルモノニ他ナラズ、又貴国ト我合衆国トノ間交誼愈々厚ク、商業上ノ関係愈々密ナルノ時期ノ近キニアラン事ヲ望ムハ我同胞兄弟ノ挙テ冀フ所ナリ
　終リニ臨ミ余ハ謹デ当市商業会議所会頭閣下ノ健康ヲ祝シ、併テ同所会員諸君ノ繁栄ヲ祈ル
夫ヨリ賓主互ニ倘徉且ツ歓語スル所アリ、午後五時園内ニ於テ和洋料
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理立食ノ饗応ヲ為シ右終リテ来賓ヲ更ニ室内ニ請シ、設ケノ舞台ニ於テ手踊リ及ヒ三曲合奏等ノ余興ヲ演セシメ、賓主各々十分ノ歓ヲ尽シ午後七時過散会ス