デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治29年3月12日（1896年）

是ヨリ先当会議所、第四回商業会議所聯合会ニ提案シテ議決セラレタル戦後経済実況調査ノ件ニ就キ其後委員ヲ選ビテ調査中ナリシガ、三月九日ノ会議ニ於テ其ノ報告ヲ可決シ、是日栄一当会議所会頭トシテ、戦後ノ経営ニハ勉メテ急激ナル手段ヲ避クルヲ希望スル旨ヲ、内閣総理大臣侯爵伊藤博文ニ建議ス。

第五回東京商業会議所事務報告　　第六五頁　明治二九年四月刊
一戦後経済ノ実況調査ノ件
　本件ハ本会議所委員ヨリ第四回商業会議所聯合会ヘ提案シ同会ノ可決ヲ経タルモノニ係リ、其要旨ハ、戦後ノ経済ヲ調理シ益々国家ノ福利ヲ増進スル為メ、各商業会議所ハ相当ノ方法ヲ以テ戦後経済ノ実況ヲ審査シ、将来ニ執ルベキ方針ヲ議定シ、此方針ニ従ヒ施設上ノ意見ヲ其筋ニ建議・請願シ、若クハ世間ニ発表スベシト云フニ在リ、依テ之ヲ明治廿八年十月十四日第四十八回ノ臨時会議ニ附シタルニ、右ハ償金処分方法調査ノ件ト共ニ委員九名ヲ選挙シテ其調査ヲ附託スルコトニ決シ、乃チ議長ノ指名ヲ以テ左ノ諸君ヲ委員ニ選挙シタリ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　荘田平五郎君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　園田孝吉君
　　　　　　　　　　　　　（委員長）　奥三郎兵衛君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　佐久間貞一君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中野武営君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　大江卓君
 - 第21巻 p.14 -ページ画像 
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　豊川良平君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　伊藤幹一君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　加藤正義君
　其後委員ハ調査中ニ付追テ其報告ヲ得タル上更ニ会議ニ附スル見込ナリ

東京商業会議所月報　　第三九号・第三頁　明治二八年一一月
○同月　○十月二十三日午後四時、本会議所事務所ニ於テ委員会議ヲ開キ戦後経済ノ実況調査ノ件及ヒ償金処分方法ノ件調査委員長ヲ選挙シ、且ツ該件ヲ審議シ、午後六時三十分閉会ス、其選挙ノ結果ハ左ノ如シ
　　　　　　　　　　　　　　　　　委員長　奥三郎兵衛君

東京商業会議所月報　　第四一号・第二頁　明治二九年一月
○同月　○明治二八年一二月十四日午後八時、本会議所事務所ニ於テ委員会議ヲ開キ、戦後経済調査ノ件ヲ審議シ、午後九時十分閉会ス

東京商業会議所月報　　第四二号・第一頁　明治二九年二月
○一月七日午後五時、本会議所事務所ニ於テ委員会議ヲ開キ、戦後経済調査ノ件ヲ審議シ、午後十時閉会ス
○同月十一日午前九時、本会議所事務所ニ於テ委員会議ヲ開キ、戦後経済調査ノ件ヲ審議シ、午後一時閉会ス
○中略
○同月　○一月二十四日午前十時、本会議所事務所ニ於テ委員会議ヲ開キ戦後経済調査ノ件ヲ審議シ、午後二時閉会ス
○同月二十九日午後五時、本会議所事務所ニ於テ委員会議ヲ開キ、戦後経済調査ノ件ヲ審議シ、午後七時閉会ス

東京商業会議所月報　　第四三号・第一頁　明治二九年三月
○同月　○二月十五日午前九時、本会議所事務所ニ於テ委員会議ヲ開キ、戦後経済調査ノ件ヲ審議シ、午後二時閉会ス

東京商業会議所月報　　第四四号・第二九頁　明治二九年四月
○同月　○三月二日午後六時、本会議所事務所ニ於テ委員会議ヲ開キ、戦後経済調査ノ件ヲ審議シ、午後七時三十分閉会ス

東京商業会議所月報　　第四四号・第二六―二七頁　明治二九年四月
○三月九日、本会議所事務所ニ於テ第五十回臨時会議ヲ開ク、当日ノ出席者ハ左ノ如シ
　加東徳三君　○外二十四名氏名略
午後五時四十分開議、副会頭大江卓君議長席ニ着キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ、午後八時二十分閉会ス
○中略
　一、戦後経済ノ実況調査報告ノ件（委員提出）
本件ハ全会一致ヲ以テ原案ニ可決ス（報告書ノ全文ハ参照ノ部第六号
 - 第21巻 p.15 -ページ画像 
ニ掲載ス）

東京商業会議所月報　　第四四号・第三四―三五頁　明治二九年四月
○参照第六号
　三月九日臨時会議ニ於テ可決シタル戦後経済ノ実況調査ノ件調査報告ハ左ノ如シ
　　　　戦後経済ノ実況調査ノ件調査報告
第四十八回臨時会議ニ於テ附託セラレタル戦後経済ノ実況調査ノ件並ニ償金処分ノ件、其後取調中ノ処、今回政府ノ帝国議会ヘ附議セラレタル予算案及ヒ同案附属ノ参考書類ニ拠リテ今後歳計ノ方針ヲ審案スルニ、明治二十九年度以降ハ其歳入ニ急激ノ増加ヲ来シ、若シ此方針ノ如ク実施セラルヽニ於テハ国家財政ノ前途測ル可ラサルノ困難ヲ生センコトヲ恐ルヽカ故ニ、本委員ハ此際先ツ本会議所ヨリ戦後経済ニ関スル大体ノ方針ヲ公表シテ当局ノ注意ヲ喚起スルノ必要ヲ認メ、取敢ヘス別紙ノ如ク内閣総理大臣ヘ建議スル方然ルヘシト決セリ、尚今回政府ヨリ議会ヘ附議セラレタル新税法案ノ得失ハ勿論、償金ノ使途其他将来ニ施設スヘキ方案等本会議所カ本問題ノ範囲内ニ於テ研究ヲ要スヘキ事項一ニシテ足ラスト雖モ、此等ハ必スシモ一時ニ包括シテ調査スルコトヲ為サス、今後其緩急ニ応シ別ニ本会議所ノ題案トシテ個々ニ研究スルモノトシ、其時々更ニ委員ヲ設ケテ之ヲ附託スル方調査ノ周到ヲ期スルニ於テ便宜アルヘシト信ス、此段別紙ヲ添ヘ及報告候也
　　明治二十九年三月二日
　　　　　　　　　　　　　　戦後経済ノ実況調査委員長
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　奥三郎兵衛
　　　　東京商業会議所会頭　渋沢栄一殿
　　（別紙ハ参照ノ部第八号ニ掲載スルモノト同文ニ付之ヲ略ス）

東京商業会議所月報　　第四四号・第二九頁　明治二九年四月
○同月　○三月十二日、戦後経済ノ儀ニ付内閣総理大臣ヘ建議書ヲ進達ス（建議書全文ハ参照ノ部第八号ニ掲載ス）

東京商業会議所月報　　第四四号・第三七―三八頁　明治二九年四月
○参照第八号
　三月十二日戦後経済ノ儀ニ付内閣総理大臣ヘ進達シタル建議書ハ左ノ如シ
　　　　戦後経済ニ関スル建議
謹テ惟ミルニ、一国ノ経済ヲ燮理スルニ当リテハ勉メテ急激ノ変動ヲ避クルヲ以テ主眼トセサル可カラス、画策縦令宜キヲ得ルモノアルモ之ヲ施ス急激ニ失スルトキハ或ハ其利ヲ見スシテ其害ヲ蒙ルニ至ランモ亦知ル可ラサルナリ、今ヤ本邦ノ気運ハ正ニ戦後多故ノ日ニ際会セリ、其施設不幸一籌ヲ誤ルトキハ国家経済ノ前途大ニ恐ルヘキモノナキヲ必セス、是レ本会議所カ区々ノ微衷ヲ直攄シテ閣下ノ垂鑑ヲ乞ハントスル所以ナリ
 - 第21巻 p.16 -ページ画像 
明治二十九年度以後ノ歳計ハ戦後ノ経営ニ応スル各般ノ費途ヲ予算セサル可ラサルカ故ニ、従前ノ歳計ニ比シテ多少ノ増加ヲ見ルハ免レサル数ナルヘシト雖トモ、今政府ヨリ提出セラレタル同年度歳計予算ヲ以テ二十八年度歳計ニ較スレハ、歳入ニ於テ四千七百八拾七万六千拾九円ヲ増加シ、歳出ニ於テ六千弐百七拾九万五千五百八拾九円ヲ増加セリ、而シテ更ニ政府ニ於テ調査セラレタル二十九年度ヨリ三十八年度ニ至ル十ケ年度間歳入・歳出概算ヲ視ルニ、三十年度ニ至リテハ其歳計更ニ一層ノ増加ヲ呈シ、即チ歳入ニ於テハ壱億七千九百余万円、歳出ニ於テハ壱億八千余万円ニ達スルヲ見ル、爾後三十八年度ニ至ル迄ハ其歳計較ヤ減少ノ傾キアリト雖トモ、尚之ヲ二十八年度ノ予算ニ比スレハ歳入ノ増差常ニ五千万円ヲ下ラス、歳出ノ増差亦常ニ四千万円ノ上ニ在リ、其増加ノ急激ナル是ノ如シ、一国ノ経済ニ至大ノ変動ヲ与ヘサラントスルモ豈得ヘケンヤ
今熟々明治二十四年度ヨリ二十八年度ニ至ル最近五年間ノ歳入ヲ案スルニ其少キハ七千八百余万円、多キハ九千弐百余万円ニ過キス、仮リニ年額九千万円トシテ之ヲ最近人口四千百参拾八万八千三百拾八人ニ配算スルトキハ、平均一人ニ付約弐円拾七銭ノ負担ナリ、然ルニ今若シ五千万円ノ増負担ヲ為スモノトスレハ、平均一人ニ付約参円四拾銭ノ負担トナリ、即チ僅々一、二年間ニ五割以上ノ増負担ヲ為スヘキ割合トナル、是豈驚クヘキ急激ノ変動ニ非スヤ、縦令現時ノ民力能ク此増負担ニ耐フルトスルモ、是ノ如キ急激ノ変動ハ一国ノ経済ヲ燮理スルニ於テ其宜ヲ得タルモノト云フヘカラサルナリ、況ンヤ本会議所ノ見ル所ヲ以テスレハ本邦ノ民力ハ容易ニ五割以上ノ増負担ニ堪フヘシト信スル能ハサルニ於テオヤ
抑々国力ノ発達ニハ自然ノ程度アリ、此程度ヲ超ヘテ俄ニ国民ノ負担ヲ増加スルトキハ遂ニ国力ノ衰頽ヲ免ルヘカラサルナリ、今試ニ明治二十四年ヨリ二十八年ニ至ル最近五年間我貿易ノ趨勢ヲ案スルニ、二十四年ニハ輸出入全額壱億四千弐百四拾五万余円ナリシニ、爾後逐年増加シテ二十七年ニハ弐億参千七拾弐万余円トナリ、二十八年ニハ更ニ増加シテ弐億六千五百参拾七万円ニ達シ、其増加ノ勢意想ノ外ニ出ツルモノアリ、然レトモ翻テ毎年ニ於ケル増加ノ割合ヲ見ルニ、少キハ僅々三分ニ満タス、二十七年ノ如キ更ニ急進シタルトキト雖トモ猶三割以下ニ在リ、一般生産発達ノ程度ハ一々之ヲ査覈スル能ハサルモ海外貿易ニ比シテ其進度ノ遅緩ナルヘキハ本会議所ノ敢テ断言ヲ憚ラサル所ナリ、然ルニ今明治二十九年度以後俄然我国民ニ課スルニ五割以上ノ増負担ヲ以テスルハ、豈国力発達ノ程度ニ応スルモノト謂フヲ得ンヤ
世上或ハ説ヲ為ス者アリ、曰ク、近時内地諸般ノ事業大ニ勃興スルノ状アルニ加ヘテ、戦時我商工業ノ衰頽セサリシハ我国力ノ増進シタルノ一証ナリ、此際国民ニ課スルニ是ノ如キ増負担ヲ以テスルモ前途決シテ憂慮スルニ足ラスト、然レトモ本会議所ノ見ル所ニ拠レハ、近時内地諸般ノ事業大ニ勃興シタルモノハ、比年金銀比価変動シテ、銀貨ノ下落シタル結果其多ニ居ルト謂ハサルヘカラス、蓋シ近時ニ於ケル銀貨下落ノ影響ハ恰モ往時ニ於ケル紙幣下落ノ影響ノ如キモノアリ、
 - 第21巻 p.17 -ページ画像 
其下落スルヤ物価騰貴シテ一時事業ノ振起勃興ヲ促カスト雖トモ、其復価スルヤ物価下落シテ遂ニ事業ノ萎靡退縮ヲ来タサヽルヲ得ス、明治十三・四年ノ交紙幣ノ暴落スルヤ物価著シク騰貴シテ一時非常ノ盛況ヲ呈シタルモ、十七・八年ノ交紙幣ノ漸ク復価セントスルニ及ンテヤ物価下落シテ遂ニ不景気ノ嘆声ハ海内ニ響応スルニ至リタルニアラスヤ、故ニ他日若シ銀貨復価スルカ如キコトアラハ今日ノ盛況ハ一変シテ再ヒ不景気ノ惨況ヲ呈スルコトナキヲ必スヘカラサルナリ、又戦時我商工業ノ衰頽ヲ免カレシ所以ハ一旦支出シタル軍費ノ大部分再ヒ国内ニ回収セラレ、通貨ニ膨脹ヲ来シ一時市場ニ活気ヲ添ヘタルニ因ルモノト謂ハサルヘカラス、果シテ然ラハ此等ハ寧ロ一時ノ現象ニシ国力増進ノ反応ト認ムヘカラサルナリ、然ルニ是ノ如キ一時ノ現象ヲ以テ前途財政規画ノ根拠ト為スハ、本会議所ノ私ニ危懼ニ堪ヘサル所ナリ
以上陳述スルカ如キ理由ナルヲ以テ、今日政府カ戦後ノ経済ヲ燮理セラルヽニ当リテハ、勉メテ急激ノ施設ヲ避ケ、能ク国力ヲ量リ民度ヲ察シ、以テ徐歩漸進スルノ方針ヲ執ラレンコト、本会議所ノ深ク希望シテ措ク能ハサル所ナリ、仰キ願ハクハ閣下本会議所ノ微衷ヲ採納セラレンコト、切望ノ至ニ禁ヘス、此段本会議所ノ決議ニ依リ建議仕候也
　　明治二十九年三月十二日
　　　　　　　　　　　　東京商業会議所会頭　渋沢栄一
　　　　内閣総理大臣　侯爵　伊藤博文殿

第六回東京商業会議所事務報告　　第二―三頁　明治三〇年四月刊
一戦後経済ノ義ニ付内閣総理大臣ヘ建議ノ件
　本件ハ前回ニ報告シタル如ク本会議所ヨリ第四回商業会議所聯合会ヘ提出シタル問題ニ係リ、其後第四十八回臨時会議ノ決議ニ依リ委員ニ於テ調査中ノ処、其後委員ハ調査ノ末明治二十九年三月二日報告書ヲ提出シタルニ付、之ヲ同年三月九日第五十四回ノ臨時会議ニ附シ其可決ヲ得、同年三月十二日附ヲ以テ左ノ如ク内閣総理大臣ヘ建議セリ
　　　○建議文ハ月報所載ノモノト同一ニツキ略ス。
　　　○本巻明治三十年十二月二十八日ノ条、並ニ本資料第二十二巻所収「商業会議所聯合会」明治二十八年九月二十六日、同三十年十二月七日ノ条参照。
　　　○政府ノ行ヒタル戦後経営ニ就イテハ「明治三十三年松方大蔵大臣ノ提出セル戦後財政始末報告」（「明治財政史」第一巻所収）ニ詳細ナリ。