デジタル版『渋沢栄一伝記資料』

明治29年3月17日（1896年）

是ヨリ先東京製絨株式会社社長宮部久等、当会議所ニ対シ羊毛輸入税免除ノ儀ニ就キ照会スルトコロアリシガ、是日栄一、当会議所会頭トシテ、同
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輸入税ヲ免除センコトヲ、大蔵大臣子爵渡辺国武農商務大臣子爵榎本武揚ヘ建議シ、且ツ貴族院議長侯爵蜂須賀茂韶・衆議院議長楠本正隆ヘ請願ス。同月三十日羊毛輸入税免除令公布セラル。

東京商業会議所月報　　第四四号・第二九頁　明治二九年四月
○同月　○三月一日、羊毛海関税免除ノ儀ニ付、東京製絨株式会社々長宮部久氏外十名ヨリ照会書ヲ接受ス

東京商業会議所月報　　第四四号・第二六―二七頁　明治二九年四月
○三月九日、本会議所事務所ニ於テ第五十回臨時会議ヲ開ク、当日ノ出席者ハ左ノ如シ
　加東徳三君　○外二十四名氏名略
午後五時四十分開議、副会頭大江卓君議長席ニ着キ、左ノ件々ヲ議事ニ附シ、午後八時二十分閉会ス
○中略
　一、羊毛海関税免除ノ儀ニ付、東京製絨株式会社々長宮部久氏外十名ヨリ照会ノ件（役員会議提出）
本件ハ全会一致ヲ以テ原案ノ趣旨ヲ可認シ、猶ホ議長ノ指名ニヨリ委員七名ヲ選挙シ、之ニ建議及請願書案起草ノ全権ヲ附託スルコトニ決シ、乃チ議長ハ左ノ諸君ヲ委員ニ指名ス
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　加東徳三君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　野本伝七君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　若林七五郎君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　野中万助君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　佐久間貞一君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　八尾新助君

東京商業会議所月報　　第四四号・第二九頁　明治二九年四月
○同月　○三月十六日午後五時二十分、本会議所事務所ニ於テ委員会議ヲ開キ、羊毛海関税免除ノ儀ニ付委員長ノ選挙ヲ施行シ、且ツ該件ヲ審議シ、午後六時閉会ス、其選挙ノ結果ハ左ノ如シ
　　　　　　　　　　　　　　　　　委員長　加東徳三君

東京商業会議所月報　　第四四号・第二九頁　明治二九年四月
○同月　○三月十七日、羊毛海関税免除ノ儀ニ付、大蔵・農商務両大臣ヘ建議書、及ヒ貴族・衆議両院ヘ請願書ヲ進達ス（建議書及請願書ノ全文ハ参照ノ部第十号ニ掲載ス）

東京商業会議所月報　　第四四号・第四二―四三頁　明治二九年四月
○参照第十号
　三月十七日羊毛海関税免除ノ儀ニ付大蔵・農商務両大臣ヘ進達シタル建議書及ヒ貴族・衆議両院議長ヘ進達シタル請願書ハ左ノ如シ
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　　　　輸入羊毛ノ関税免除ヲ要スル義ニ付建議（請願）
謹テ惟ミルニ、今日我国ヘ輸入スル羊毛ニ関税ヲ課スルハ国家経済上ノ得策ニアラスト信スルニ付、本会議所ハ玆ニ右関税免除ノ意見ヲ具シ、敢テ閣下（貴院）ニ建議（請願）スル所アラントス
近時我国人ノ生活益々高度ニ達シ、衣類ノ嗜好漸ク一変スルニ従ヒ、毛織物ノ需用大ニ増加シタルハ著明ノ事実ニシテ、現ニ之カ為メ外国ヨリ輸入スル高、年々殆ント一千万円ニ垂ントス、此際ニ当リ毛織工業ヲ奨励シテ外国ノ輸入ヲ防遏スルノ道ヲ講スルハ国家経済上ノ一大要策ナリト謂ハサルヘカラズ、而シテ之ヲ奨励スルノ途ハ固ヨリ一ニシテ足ラスト雖トモ、今本会議所カ最モ急施ノ必要ヲ感スルモノハ之カ原料タル羊毛ノ輸入税ヲ免除スルコト是ナリ
蓋シ毛織物ハ独リ内国ニ於テ多数ノ需用アルノミナラス、東南洋諸州ニ於テモ亦無限ノ需用アルヲ以テ、今若シ我国ニ於テ断然羊毛ノ輸入税ヲ免除シ以テ毛織工業ノ発達ヲ助長スルトキハ、早晩外国ノ輸入ヲ防遏シ得ルハ勿論、遂ニ欧洲ヲ凌駕シ、東南洋諸州ヲ挙ケテ我カ製品ノ需用地タラシムルコト決シテ其望ナキニアラサルナリ、夫レ濠洲ハ世界ニ有名ナル羊毛ノ産出地ニシテ、従来欧洲ニ於テ需用スル羊毛ハ多クハ其供給ニ係ルノミナラス、現ニ濠洲ニ於テハ益々羊牧ノ拡張ヲ企図シテ一層其輸出ヲ奨励スルノ国是ヲ執ルト云ヘハ、今後世界中何レノ地ヲ問ハス、苟モ宏大ノ規模ヲ以テ毛織工業ヲ経営スルニハ濠洲ニ向テ其原料ノ供給ヲ仰カサルヲ得ス、然リ而シテ今我国ト欧洲ト共ニ濠洲ヨリ原料ヲ輸入シテ毛織工業ヲ経営スルモノトシ、天然ノ地勢上ヨリ彼我ノ優劣ヲ対比スルニ、彼ニ在リテハ原料供給地ト相距ルコト一万二千海里（シドニーヨリ倫敦迄）ノ上ニ出ツルト雖トモ、我ニ在リテハ其距離僅ニ七千海里（シドニーヨリ神戸迄）ニ過キス、其他製品ヲ東南洋諸州ヘ輸送スル上ニ於テモ、亦彼我ノ得失便否固ヨリ同日ノ論ニアラス、果シテ然ラハ此等ノ諸点ニ於テハ我ハ彼ニ対シテ一籌ヲ贏スモノト謂ハサルベカラズ、況ンヤ我ハ彼ニ比シテ石炭ノ供給概シテ饒多ナルノミナラス、労働ノ工銀亦遥ニ低度ニ在ルニ於テオヤ由是観之、今後我国ニ於テ毛織工業ノ奨励ヲ怠ラサルニ於テハ、欧洲ト対抗シテ遂ニ勝算ヲ必シ得ベキコト本会議所ノ確信スル所ナリ
或ハ曰ク、我国ノ技術ハ欧洲ノ技術ニ及ハサルコト遠シ、仮令奨励ノ方法ヲ尽スモ充分彼ト競争スルヲ得ヘカラスト、蓋シ化学応用・羊毛配合等ノ事ハ数年ノ経験煉磨ニヨリ彼或ハ我ニ勝ルコトアラン、然レトモ今熟々既往ノ実験ニ徴スルニ、我国ニ於テ毛織工業ノ創起以来日尚浅キニ拘ハラス其技術ヤヽ精熟シ、現ニフランネル・旅氈毛布類《（マヽ）》ノ如キハ今日我国ニ於テ容易ニ之ヲ製造シ得ルノミナラス、縮緬呉呂ノ如キモ試織上頗ル良好ノ成績アリ、特ニ此等製品ノ中ニハ第四回内国勧業博覧会ニ於テ有効一等若クハ進歩一等ノ賞牌ヲ受ケタルモノ少カラサルノ事実アルヲ見レハ、今後其素養ヲ怠ラスシテ益々其励精ヲ尽スニ於テハ、数年ヲ待タスシテ彼ト同一ノ地位ニ進ムコト決シテ難事ニアラスト信ス、況ンヤ美術的意匠、手工的妙技ニ至リテハ我カ特得ノ長所ニシテ、彼ノ遥ニ我ニ劣ル所ナルニ於テオヤ
之ヲ要スルニ現時我国ヘ輸入スル羊毛ニ関税ヲ課スルハ決シテ我製産
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ヲ振作シ国富ヲ増進スル所以ニアラサルニ付、仰キ願クハ閣下（貴院）本会議所ノ意見ヲ採納シ、羊毛ノ輸入税ハ速ニ之ヲ免除セラレンコト切望ノ至ニ堪ヘス、此段本会議所ノ決議ニ依リ建議（請願）仕候也
　　明治廿九年三月十七日
　　　　　　　　　　　　　東京商業会議所会頭　渋沢栄一
　　　　大蔵大臣　　子爵　渡辺国武殿
　　　　農商務大臣　子爵　榎本武揚殿
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（各通）
　　　　貴族院議長　侯爵　蜂須賀茂韶殿
　　　　衆議院議長　　　　楠本正隆殿

第六回東京商業会議所事務報告　　第三―五頁　明治二九年四月刊
一輸入羊毛関税免除ノ義ニ付大蔵・農商務両大臣ヘ建議、及ヒ貴族・衆議両院ヘ請願ノ件
　本件ハ東京製絨株式会社々長宮部久氏外十名ヨリノ照会ニ係リ、其要旨ハ、近時我国毛織物ノ需用大ニ増加シ、外国ヨリノ輸入高年々殆ント一千万円ニ垂ントスル実況アリ、是時ニ当リ毛織工業ヲ奨励シテ輸入ヲ防遏スルハ一大急務ナルカ故ニ、之ガ原料タル羊毛ノ輸入税ヲ免除サレンコトヲ当局大臣及ヒ貴族・衆議両院ヘ請願スヘシト云フニ在リ、仍テ之ヲ明治二十九年三月九日第五十回ノ臨時会議ニ附シタルニ大体ニ於テ原案ノ旨趣ヲ可認シ、議長ノ指名ヲ以テ左ノ諸君ヲ委員ニ選挙シ（但渋沢栄一君ハ全会ノ推薦ニ依ル）之ニ建議書及ヒ請願書起草ノ全権ヲ託スルニ決セリ
　　　　　　　　　　　　　　委員長　加東徳三君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　渋沢栄一君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　野本伝七君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　若林七五郎君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　野中万助君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　佐久間貞一君
　　　　　　　　　　　　　　　　　　八尾新助君
　其後委員ヨリ報告アリタルニ付、明治二十九年三月十七日附ヲ以テ左ノ如ク大蔵・農商務両大臣及ヒ貴族・衆議両院ヘ請願セリ
　　　○建議（請願）書ハ月報所載ノモノト同一ニツキ略ス。

法令全書　明治二九年下巻　内閣官報局編　刊
法律第五十八号（官報三月三十日）
外国ヨリ輸入スル羊毛ハ明治二十九年四月一日ヨリ海関税ヲ免除ス